Volume 84,
Issue 12,
2022
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特集【手術に役立つ蛍光法のすべて】
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Ⅰ.乳腺・甲状腺
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外科 84巻12号, 1215-1221 (2022);
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乳癌の手術において,蛍光ガイド下手術はセンチネルリンパ節生検の蛍光法ですでに馴染み深いものとなっている.乳房温存術においては整容性を保ちつつ断端陰性を確保することが求められるが,乳癌腫瘍床の蛍光イメージングはいまだ一般化しておらず,体位が異なる術前の超音波,マンモグラフィ,MRI などの画像情報を術者の頭の中で再構築し,麻酔導入後の超音波で最終確認するという流れが多い.さらなる切除範囲の最適化には,リアルタイムで腫瘍範囲が描出された状態で切除をすすめられるという方法が求められよう.術中蛍光イメージングはその可能性を秘めており,適切な蛍光色素の投与タイミングや専用カメラ,解析方法などが検討されている.乳癌はheterogeneity が高く,腫瘍血管との関連を考慮した蛍光イメージングの手法や解析法を開発していくことが課題である.
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外科 84巻12号, 1222-1230 (2022);
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正常副甲状腺はサイズが小さく,術中の同定が困難であることも少なくない.インドシアニングリーン(ICG)などの蛍光標識剤を用いた蛍光イメージングが有用であるが,しばしば非特異的蛍光による干渉が問題となる. 2008 年に副甲状腺が自家蛍光を有することが発見されてから,特定の蛍光標識剤を使用しない自家蛍光イメージングの有用性が数多く報告された.副甲状腺の自家蛍光イメージングは既存の赤外観察カメラシステムを用いて簡便に施行できる有用な手技である.
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Ⅱ.上部消化管
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外科 84巻12号, 1231-1235 (2022);
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高知大学・佐藤らは近赤外線蛍光樹脂を開発し,消化管マーキングクリップへの応用を発案した.胃壁は厚く,励起光も垂直に当てにくい.このクリップは,高い蛍光強度,蛍光樹脂の先端装着,把持力の維持が要求された.胃でも,工夫すれば十分観察できるクリップが発売された.さらに,daVinci サージカルシステム(Intuitive 社)[以下,daVinci]搭載のFirefly の特性に合わせた色素濃度調節を行い,daVinci 対応ゼオクリップFS(ゼオンメディカル社)の発売にいたった.
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外科 84巻12号, 1236-1241 (2022);
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早期食道癌の検出法として,ルゴール散布や狭帯域光観察(NBI)が行われているが,刺激性の問題や,熟練を要するなどの問題がある.最近,癌細胞の表面に発現する酵素DPP-Ⅳによって切断されると蛍光を発するプローブが開発された.これによって表在型の食道癌のみならず頭頸部癌,Barrett 食道腺癌を含む食道胃接合部癌の検出が容易になると期待される.
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書評
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外科 84巻12号, 1242-1242 (2022);
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特集【手術に役立つ蛍光法のすべて】
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Ⅱ.上部消化管
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外科 84巻12号, 1243-1249 (2022);
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蛍光イメージングは主に腹腔鏡下手術において発展してきたが,ロボット支援下手術においても有用であると期待される.当院では,ロボット支援下胃切除術において,胃切離線を決める際のマーキングとしての蛍光クリップの安全性と有効性を示すための前向き観察研究を行っている.また,低侵襲ロボット支援下胃癌手術を実現する鍵となるセンチネルリンパ節生検においても,蛍光イメージングは有用であると期待される.
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Ⅲ.下部消化管
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外科 84巻12号, 1250-1257 (2022);
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インドシアニングリーン(ICG)を静脈内に投与し,組織中に分布したICG が発する蛍光を赤外観察カメラで可視化することで,生体内における血流を描出することが可能である.この特性を利用した蛍光イメージング(ICG 蛍光法)は,下部消化管手術において再建腸管の血流を術中にリアルタイムに評価する客観的手法として注目されている.このような蛍光イメージング技術は患者の臨床転帰の改善に寄与することが期待されている.
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外科 84巻12号, 1258-1262 (2022);
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近年,低侵襲な腹腔鏡下手術が普及し,頻度の高い合併症に対してはさまざまな対策が講じられ検討されてきたが,頻度が低くとも患者の生活の質(QOL)を大きく損なう可能性のある尿路損傷に対する予防策も重要である.Enhanced visualization の一つである蛍光法を用いた尿路の可視化・同定は,触覚情報の乏しい腹腔鏡下手術,さらにはロボット手術において,尿路損傷の予防を含め安全な手術を行ううえで有望な方法と期待される.
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外科 84巻12号, 1263-1269 (2022);
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大腸癌の手術においては支配血管の同定とその血管根部付近の郭清が重要であり,実際に術中に複数ある血管の中から支配血管を同定することに難渋することがある.大腸癌の術前もしくは術中に病変部付近にインドシアニングリーン(ICG)を局所注入し,リンパ流を観察しながらリンパ節郭清を行うナビゲーション手術に関する取り組みが報告され始めている.このICG ナビゲーションガイド下のリンパ節郭清の臨床的優位性を担保するにはほかのモダリティとの組み合わせが必要で,微小リンパ節転移検出感度の高いone-step nucleic acid amplification(OSNA)法をICG ガイド下のリンパ節郭清と組み合わせることにより,より感度の高いstage 診断が可能となる可能性がある.
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連載
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外科医の私論
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外科 84巻12号, 1270-1270 (2022);
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特集【手術に役立つ蛍光法のすべて】
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Ⅳ.肝胆膵
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外科 84巻12号, 1271-1276 (2022);
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腹腔鏡下胆囊摘出術は世界でもっとも広く安全に施行されている術式であるが,術中胆管損傷の報告は少なくない.近年,術中胆道造影法の一つとしてインドシアニングリーン(ICG)蛍光法を用いたリアルタイムナビゲーションが普及している.ICG 投与法には間接法として静脈注射法が,直接法として胆囊穿刺法などがあるが,至適投与量や時期はいまだにコンセンサスが得られていない.本稿ではICG 蛍光法を用いた胆道造影の特徴と国内外での現状,今後の課題のほか,国内外で用いられているLap-C におけるICG 蛍光胆道造影法の現状と今後の展望について概説する.
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外科 84巻12号, 1277-1281 (2022);
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術前シミュレーションと術中ナビゲーションの不均衡を是正するためにインドシアニングリーン(ICG)蛍光イメージングが注目されている.系統的肝切除では肝離断のラインおよび胆管切離部位をナビゲーションすることが可能となった.さらに腹腔鏡ではオーバーレイ技術,開腹ではプロジェクションマッピング技術が導入され,肝離断の開始から終了までを継続してナビゲーションすることも可能となった.今後も,使用法や機器の進化によって系統的肝切除がより精緻となることが期待される.
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外科 84巻12号, 1282-1286 (2022);
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肝胆膵腫瘍に対する手術では腫瘍の診断,解剖の把握のために入念な術前検査を行い準備している.さらに術中にも術前検査・診断を行う必要がある.目的は大きく分けて以下の二つである.① 術前検査で描出されなかった新規腫瘍の同定,② 切除断端の評価を目的とした術中迅速診断.後者の判定方法は,病理医の判定による迅速病理診断が確立した術中診断方法となる.近年では共焦点レーザー顕微内視鏡を用いた内視鏡診断法が内科領域の新しいモダリティとして報告が増えている.しかしながら同技術の外科領域への応用に関する報告は限定的である.われわれは共焦点レーザー顕微内視鏡を肝悪性腫瘍や胆道悪性腫瘍の切除検体に応用し,その癌診断能について評価を行ったためその結果について詳述する.
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臨床経験
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外科 84巻12号, 1287-1293 (2022);
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経皮内視鏡的胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy:PEG)は低侵襲かつ簡便であり,現在では一般的な手技である.当院で2012 年6 月~2021 年12 月の間に100 例を施行したが,同時期にPEG が困難な症例に対し,単孔式での腹腔鏡補助下経皮内視鏡的胃瘻造設術(laparoscopic-assisted PEG:LAPEG)をしえた22 例を経験したので,本術式の有用性について若干の文献的考察を加え報告する.
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症例
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外科 84巻12号, 1294-1299 (2022);
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乳癌は晩期再発をきたすことがしばしばある.晩期再発では,患者が高齢であることも多く,全身治療に関しても治療方針の検討が必要となる.今回,術後23 年を経過して肺転移をきたした1 例を経験した.本例ではホルモン剤の投与で臨床的完全奏効(cCR)が得られたが,患者の強い希望で投与を中止した.しかしながら中止後1 年4 ヵ月後に肺の再々発をきたし,その後も骨転移と肝転移が新たに出現した.現在加療中であるが,病変は落ち着いており生活の質(QOL)も良好である.本症は乳癌診断時から現在まで担癌状態で39 年が経過しており,興味深い症例と思われたので報告する.
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外科 84巻12号, 1300-1305 (2022);
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以前から担癌状態は凝固能の亢進した状態にあり静脈血栓塞栓症発症のリスク因子とされている.新規抗悪性腫瘍薬,分子標的治療薬,免疫チェックポイント阻害薬の登場により癌治療成績が向上する一方で,癌治療関連心機能障害が顕著化しつつあることには注意が必要である.最近では腫瘍循環器学(onco-cardiology)として話題となっている.本稿では,乳癌薬物治療中に発症した慢性血栓 塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension:CTEPH)の2 例について報告する.
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外科 84巻12号, 1306-1312 (2022);
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胎生期に子宮円靱帯の形成に伴って鼠径管内に入り込んだ腹膜鞘状突起が,生後も開存したまま残存したものがNuck 管であり,そこに液体貯留をきたしたものがNuck 管水腫である1,2).Nuck 管水腫は女性における男性の精索水腫に相当する疾患で,成人発症はまれとされる.今回われわれは,成人女性においてNuck 管水腫内に子宮内膜症を併存した1 例を経験したので報告する.