外科

Volume 86, Issue 2, 2024
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目次
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特集【消化管間質腫瘍(GIST)の診断と治療の最前線】
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- Ⅰ.総論
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1.GIST 診療ガイドライン2022 年第4 版のoverview
86巻2号(2024);View Description
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GIST 診療ガイドライン第4 版は,新たな知見を反映し,また前版で改善の必要性が指摘されていた箇所を変更して,2022 年に8 年ぶりに刊行された.この改訂版は「Minds 診療ガイドライン作成マニュアル」に準拠して作成され,改訂ワーキンググループの委員には統計・薬学・看護の専門家や消化管間質腫瘍(GIST)患者・家族の代表者も参加し,独立したシステマティックレビューチームも設置された.GIST が稀少腫瘍であることを鑑み,推奨決定に際しては患者の希望,医療経済的観点などの益と害のバランスも考慮しており,GIST に対する最適な医療提供に役立つものと考える. - Ⅱ.各論
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1.診断:1)GIST の画像診断
86巻2号(2024);View Description
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画像診断は消化管間質腫瘍(GIST)における治療方針の決定で重要な役割をはたし,腫瘍の検出,局在診断,病期・再病期診断,治療効果判定などに使用されている.各種画像検査の中でもっとも重要なのはCT,特に造影CT であり,MRI,FDGPET/CT などが補助的に用いられている.治療効果判定でも主に造影CT が用いられる.分子標的治療薬開始後初期における治療効果判定では,腫瘍のサイズ変化をみるresponse evaluation criteria in solid tumors(RECIST)での評価がむずかしく,腫瘍のサイズ変化に加えて造影CT でのCT 値の変化を考慮したChoi’s criteria が提唱されている.糖代謝を反映したFDG PET/CT は治療効果をより早期に予測できることが知られているが,本邦では治療効果判定におけるFDG PET/CT の保険適用は2023年現在認められていない. -
1.診断:2)GIST の病理・遺伝子診断
86巻2号(2024);View Description
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消化管間質腫瘍(GIST)の病理学的特徴は遺伝子亜型や分子標的治療の効果と密接に関係している.これらの知見はGIST 診療ガイドライン第4 版にも反映されている.GIST の典型例は紡錘形細胞型でc-kit 変異を有するが,胃に発生する類上皮細胞型ではPDGFRA 変異やコハク酸脱水素酵素(SDH)欠失を示すことが多く,中にはimatinib mesilate 抵抗性を示す例があるため注意が必要である.再発リスク分類は部位・腫瘍径・核分裂像数で定義される.核分裂像数は,単に50 視野分を合計した数値ではなく単位面積(5 mm2)あたりで計測することが推奨される. -
2.治療:1)外科治療―臓器機能温存に向けた治療戦略 ①上部消化管
86巻2号(2024);View Description
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本邦のGIST 診療ガイドライン第4 版は,大きさや悪性所見の有無などに基づいて消化管粘膜下腫瘍に対する治療方針のアルゴリズムを示している.胃粘膜下腫瘍に対する治療は,腹腔鏡下手術や腹腔鏡内視鏡合同手術による胃局所切除の適応となることが多い.一方,大型の胃消化管間質腫瘍(GIST)に対してはimatinib mesilate 投与による術前補助療法が推奨され,噴門や幽門に達するGIST など機能温存手術が困難な場合にも,術前補助療法が選択肢となる. -
2.治療:1)外科治療―臓器機能温存に向けた治療戦略 ② 十二指腸
86巻2号(2024);View Description
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十二指腸消化管間質腫瘍(GIST)に対しては局所切除が推奨され,腫瘍径が5cm 以下のものに対しては腹腔鏡下手術が積極的に適応される.腫瘍位置の正確な把握のためには,術中内視鏡や腹腔鏡内視鏡合同手術が望ましい.十二指腸への腹腔鏡アプローチは乳頭の口側では結腸間膜の頭側からのKocher 授動を,乳頭より肛門側の腫瘍に対しては結腸間膜の背側からの十二指腸壁に沿った剝離を行うことで十二指腸の不要な授動を回避できる. -
2.治療:1)外科治療―臓器機能温存に向けた治療戦略 ③直腸
86巻2号(2024);View Description
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直腸消化管間質腫瘍(GIST)はまれな疾患であるが,臨床で遭遇した際は,特有の腫瘍局在のため,治療戦略に苦慮することが少なくない.GIST に対しては外科的な完全切除が第一選択とされているが,肛門や直腸温存の可否,アプローチ,術前治療の要否など,定型化されていない.本稿では,直腸GIST に対する治療戦略の決定の一助になればと考え,われわれが行っている機能温存ための術式と治療戦略,成績について紹介する. -
2.治療:2) 術後のフォローアップ―再発高リスクと薬剤選択
86巻2号(2024);View Description
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消化管間質腫瘍(GIST)の治療において,基本的に手術が有効であり,完全切除後はリスク分類に基づき経過観察が行われる.再発リスクが高い場合,術後補助療法としてimatinib mesilate が標準的であり,最近の研究では3 年以上の長期補助療法が再発低減と生存期間の延長に寄与する可能性が示唆されているが,ほかの薬剤による臨床試験は報告されていない.医師は世界のエビデンスを追いながら,患者のフォローアップと治療をすすめる必要がある.
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連載
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- 外科医の私論
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特集【消化管間質腫瘍(GIST)の診断と治療の最前線】
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- Ⅱ.各論
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2.治療:3)耐性GIST に対する薬剤選択
86巻2号(2024);View Description
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消化管間質腫瘍(GIST)は消化管に発生する間葉系腫瘍のうちもっとも多い腫瘍である.転移再発GIST に対する初回標準治療はimatinib mesilate であるが,治療を継続しているうちに多くの場合GIST はimatinib mesilate 耐性となる.Imatinib mesilate 耐性GIST に対しては,sunitinib malate,regorafenib hydrate などが使用されるが,最近本邦ではheat shock protein(HSP)90 阻害薬であるpimitespib が承認された.また海外では,ripretinib も使用される.Imatinib mesilate 耐性GISTに対する薬剤選択について概説する. -
2.治療:4)転移・再発GIST の治療 ①切除不能GIST に対する薬物療法
86巻2号(2024);View Description
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切除不能な消化管間質腫瘍(GIST)に対する現行の治療戦略では,imatinib mesilate をはじめとする複数のチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)が中心となっている.Imatinib mesilate は一次治療薬として広く使用され,特定のKIT およびPDGFRA 遺伝子変異に対する効果が確認されているが,耐性の問題も指摘されている.Imatinib mesilate 耐性や特定遺伝子変異をもつGIST に対しては,sunitinib malate やregorafenib hydrate などの後続TKI が選択され,それぞれの臨床試験結果に基づく療法が推奨されている.さらに,ripretinib やpimitespib などの新規薬剤も開発され,特定の病態に対する治療選択肢として期待されている.日本におけるこれら新薬の承認状況と導入の遅れは治療選択に影響を及ぼしており,患者の予後の向上のためには早急な薬剤導入とさらなる治療法の開発が求められる. -
2.治療:4)転移・再発GIST の治療 ② GIST 肝転移の治療
86巻2号(2024);View Description
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消化管間質腫瘍(GIST)肝転移の治療の中心はimatinib mesilate をはじめとする分子標的治療薬である.GIST 肝転移に対する手術は分子標的治療薬と組み合わせることで予後を改善する可能性があるが,根拠となっているのは後ろ向き研究が中心で,手術の有用性は不確かである.手術が予後を改善しうる患者の選択基準や手術と分子標的治療薬を組み合わせる治療戦略について引き続き検討が必要である.
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症例
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まれな肝動脈破格を伴う胃癌に対する腹腔鏡下幽門側胃切除術の1 例
86巻2号(2024);View Description
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消化器外科手術に際して肝動脈破格はしばしば経験されるが,その亜型によって,胃切除術においては特に膵上縁~小彎側リンパ節郭清の際に注意が必要となる.今回われわれは,腹膜炎で発症して腹腔鏡下穿孔部縫合閉鎖・大網被覆術を施行し,術後の内視鏡検査で胃癌と診断され二期的に腹腔鏡下幽門側胃切除術を施行した胃癌穿孔例を経験した.術前のダイナミック造影CT で,右肝動脈(right hepatic artery:RHA)が腹腔動脈(celiac artery:CA)から単独分岐し,左肝動脈(left hepatic artery:LHA=A2/3)が左胃動脈(left gastric artery:LGA)との共通幹をなし,本来の総肝動脈の位置に中肝動脈(middle hepatic artery:MHA=A4)と胃十二指腸動脈(gastro-duodenal artery:GDA)の共通幹が走行するというまれな動脈破格を伴っていたため,慎重なリンパ節郭清操作が求められた. -
黒色便を契機に発見された多発胃石症の1 例
86巻2号(2024);View Description
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胃石症は,食物や異物が胃内で不溶性の結石化した比較的まれな疾患である.胃内に停滞し胃潰瘍,落下による腸閉塞をきたすことがある.今回われわれは,黒色便を契機に発見された多発胃石症の1 例を経験したので,文献的考察をふまえ報告する. -
Crohn 病に合併した下行結腸早期癌(pTis)の1 例
86巻2号(2024);View Description
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炎症性腸疾患ではcolitic cancer を合併することがあり,Crohn 病(CD)の大腸癌相対危険度は5.6 と高い1).本邦では症例数が少なく,臨床像はまだ十分に検討されていない.最近報告例が増加しつつあるが,進行癌で診断される例が多く予後は不良である.今回われわれは,比較的まれなCD 合併下行結腸粘膜内癌の1 例を経験したので診断と手術などに関し若干の文献的考察を加えて報告する. -
括約筋間直腸切除術後の吻合部閉塞に対し人工肛門からの内視鏡併用下に経肛門的穿刺拡張術を行った1 例
86巻2号(2024);View Description
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直腸癌に対する括約筋間直腸切除術(intersphincteric resection:ISR)では,術後吻合部狭窄を8.4%に認める1)とされるが,完全閉塞をきたす症例はまれである.今回,ISR 術後の吻合部完全閉塞に対して内視鏡併用での経肛門的穿刺拡張術が有効であった症例を経験したため報告する. -
腹腔鏡下に切除した腹膜前腔に広がる脂肪腫の1 例
86巻2号(2024);View Description
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腹膜外腫瘍は後腹膜腔や腹膜前腔に存在する結合組織,脂肪などから発生する比較的まれな腫瘍である.臨床症状が乏しく腫瘍が巨大化して発見されることも多く,手術の侵襲が大きくなることも多い.今回,腹膜前腔に広がった脂肪腫に対して腹腔鏡下切除を行った1 例を経験したので報告する.
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随録
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