Volume 134,
Issue 3,
2024
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目次
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内科 134巻3号, 364-369 (2024);
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特集【今この研究が面白い!】
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内科 134巻3号, 371-371 (2024);
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その他
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内科 134巻3号, 372-372 (2024);
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特集【今この研究が面白い!】
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第1章:呼吸器
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内科 134巻3号, 374-377 (2024);
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• 臨床研究においては,個々の研究における適格基準・除外基準をクリアした患者のみが参加しているため,現実の臨床現場での状況との間に乖離が生じている.• 情報通信技術(ICT)の発展により,カルテ,検査報告書などの書類や,健康保険デ-タベ-ス,画像デ-タなど,これまでアナログであった情報が電子化され,これらは実際の臨床現場の多様な患者集団の情報を包含しているため,新たな価値を生み出すことができる時代になってきた.• こうした背景から,目の前の患者における医療情報,いわゆるリアルワ-ルドデ-タ(RWD)を大規模かつ質が高い形で収集して利活用することが進んでいる.• 実際に,肺がんの分野においてもRWD を用いた研究が進んでおり,日本肺癌学会でもRWDの収集と利活用が行われている.• より広範な患者集団のデ-タを収集できること,コストを削減できること,迅速にデ-タを収集できること,などの利点があるものの,デ-タの品質と完全性,バイアスのリスク,倫理的・法的課題,などの課題もある.これらを解決する試みも進んでおり,今後もRWD の利活用が発展していくことが予想される.
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内科 134巻3号, 378-381 (2024);
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• 2024 年5 月時点では,切除可能非小細胞肺がんに対しては術後atezolizumab,術後osimertinib,術前化学療法+nivolumab が承認されている.• EGFR 阻害薬以外の分子標的治療薬や術後に免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を加える検討がなされ,術前・術後両方で行う周術期治療も開発されている.• ハイリスク症例に対しての周術期治療や手術の検討もなされている.• 患者選択として循環腫瘍由来DNA を用いた微小残存病変(MRD)が注目されている.
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内科 134巻3号, 382-384 (2024);
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• 人体にはもともと常在微生物(マイクロバイオ-ム)が生息しており,これまで無菌と考えられてきた肺にも多様な微生物群集が存在することがわかってきた.• 肺内細菌叢の乱れ(ディスバイオ-シス)が呼吸器疾患に関与するというデ-タが示され,COPD に関しても重症度および増悪との関連が報告されている.• 腸内細菌叢およびその代謝産物がCOPD に影響を及ぼすとの知見もあり,疾患進行の予防や増悪時の治療対象となる可能性がある.• われわれは肺線維症モデルマウスの肺内細菌叢から肺障害増悪因子corisin を見出した.今後COPD の増悪に関しても研究を展開する予定である.
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内科 134巻3号, 385-389 (2024);
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• 慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,世界的に主要な死亡原因となっているが,COPD に陥った肺の病的変化を改善する根本的な治療法は確立されていない.• 近年,間葉系幹細胞(MSC)は再生医療の分野で注目されており,疾患動物モデルを用いた基礎研究においても,その有用性が多数報告されている.そのなかでも脂肪由来間葉系幹細胞(ADSC)は,低侵襲かつ大量に採取できることから,COPD をはじめとする難治性疾患の克服に向けた臨床応用への期待が高まっている.
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内科 134巻3号, 390-392 (2024);
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• 疾患の疫学的情報は概して,その疾患に対する医療の施策の方針決定における重要な根拠デ-タとなる.• 成人喘息においても定期的に疫学調査を行い,その実態をリアルタイムに把握していく必要があるが,このような疫学研究は一般的には多大なエフォ-トとコストを要する.• レセプト上で適切に喘息症例を判別するためには,病名と処方パタ-ンを組み合わせる必要があり,その方法で検討した場合に成人喘息の有病率は1999~2019 年で1.9%から4.6%まで上昇してきた.• 吸入ステロイドの普及率はこの20 年で35%から80%程度まで上昇しており,それに応じて喘息発作回数の減少も認めている.
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内科 134巻3号, 393-396 (2024);
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• 気管支喘息の管理目標として,症状コントロ-ルの維持,増悪抑制,全身性ステロイドの使用回避,を長期的に維持することを基準として含む臨床的寛解の議論が国際的になされている.• 臨床的寛解の議論の背景には,生物学的製剤をはじめとする治療の進歩によって,重症喘息でも疾患コントロ-ルを得られる時代になったことも一因としてあげられる.• 一方で,臨床的寛解の基準や,寛解達成後の将来的な予後や経過との関連については,現在まさに議論がなされている最中であり,今後さらに研究が進んでいくものと思われる.
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内科 134巻3号, 397-401 (2024);
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• ILC2 は2 型サイトカインを産生する自然リンパ球である.2010 年に発見され,気管支喘息をはじめとしたアレルギ-・好酸球性疾患の病態に関与している.• ILC2 は特定の環境下でステロイド抵抗性となるため,とくに難治例に対する治療標的として重要視されている.• われわれを含めたさまざまな研究グル-プから,ILC2 に影響を及ぼすサイトカインや脂質メディエ-タ-,神経ペプチドなどが同定され,これらは今後の治療タ-ゲットとして期待されている.• 最近の研究により,ILC2 は組織や疾患によって性質や機能が異なる多様性のある細胞であることが明らかとなり,病気と関連した“病原性”ILC2 のみをタ-ゲットとした治療戦略が望ましいと考えられるようになった.• ヒトにおけるILC2 研究はやや遅れていたが,最近ようやく遺伝子改変技術が確立して,ヒトにおいても“病原性”ILC2 の分子メカニズムや治療タ-ゲットが明らかになりつつあり,今後の臨床応用が大いに期待されている.
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内科 134巻3号, 402-407 (2024);
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• 近年の在宅医療は,COVID-19 パンデミックの影響などによる遠隔診療の推進などで飛躍的に普及した.• 患者の自宅に医療機器を設置することで得られる情報は,医療機器の稼働情報をもとにしたアドヒアランス調査,患者の個別指導にも活用可能であり,さまざまな患者指導に活用されている.• 医療機器の稼働情報は患者の療養日誌ともいうべき記録であり,きわめて重要な医療情報源である.すでにデジタル化されていることから分析に供することが容易である.• 在宅医療機器の遠隔モニタリングは臨床医学研究において大きな可能性をもつ.
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内科 134巻3号, 408-412 (2024);
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• 呼吸器内科医,放射線科医,病理医による多職種合議(MDD)は,特発性間質性肺炎(IIPs)診断のゴ-ルドスタンダ-ドであるが,実臨床でMDD を実施することは容易でない.• IIPs クラウド型統合デ-タベ-スと遠隔MDD 診断システムの開発により,web 会議システムを用いた遠隔MDD が可能となった.遠隔MDD 診断は,IIPs 各疾患の予後の分別に優れており,診断精度の向上に寄与する.• 本邦最大規模のIIPs/間質性肺疾患(ILD)クラウド型統合デ-タベ-スを構築して,中央MDD 診断を行う前向き観察研究であるPROMISE/IBiS 研究が実施されている.ILD の2,789症例が登録されており,その研究成果が待たれる.
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第2章:循環器
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内科 134巻3号, 414-418 (2024);
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• 肺高血圧症のなかでも,肺動脈性肺高血圧症(PAH)は生命予後不良の指定難病であり,発症原因の特定および根治療法の開発が望まれる.• PAH の発症関連遺伝子はいくつか報告されているが,約7 割の症例ではいまだに発症関連遺伝子が同定されていない.また欧米と日本では遺伝学的背景が異なるため,日本(あるいは東アジア)での検証が重要と考えた.• われわれは,日本人PAH 患者において,従来の肺血管拡張薬への反応性が乏しく,予後不良と関連する遺伝子変化を複数報告し,疾患発症メカニズムを解明するため,動物を用いた基礎実験を遂行している.• 臨床現場で得た未解決な問題を基礎研究で解明する,reverse translational research の実践が,難病における個別化医療実現に向けて重要であると確信している.
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内科 134巻3号, 419-424 (2024);
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• 心臓には,心筋細胞をはじめ線維芽細胞,内皮細胞,平滑筋細胞,免疫細胞など多彩な細胞が存在している.• 臨床的に心不全の病態が個々に異なるように,その病態を構成する分子機序も大きく異なると考えられる.• 細胞レベルの詳細な分子プロファイルを網羅的に抽出して解析するのがシングルセルオミックス解析である.• シングルセルオミックス解析は,循環器領域に限らず生命科学のあらゆる分野において革新的な成果をあげている.
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内科 134巻3号, 425-430 (2024);
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• 「時空間ネットワ-ク高血圧学」は,個人の病態や周辺環境などの多次元情報を時空間で統合し,高血圧の予防と治療に活かす学問であり,デジタル技術の進展に支えられている.• 基盤となる「血圧サ-ジ共振仮説」に基づき,病態と血圧の変動を時系列で分析することから,循環器疾患のリスク予見につなげる研究である.• 高血圧治療の新しいアプロ-チとしては,デジタル降圧療法や経カテ-テル腎デナベ-ションが注目され,臨床イナ-シャの改善も重要視される.• 今後は夜間血圧と血圧変動性に焦点を当て,血圧測定デバイスや情報通信システムの開発,活用を通じて,臨床的意義とエビデンスの構築,個別最適化予見治療を目指す.
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内科 134巻3号, 431-435 (2024);
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• 実地臨床における家庭血圧の認知度はこの四半世紀で様変わりし,家庭血圧に基づいた高血圧の診断と治療は今やすっかり市民権を得た.• これまで横断研究から縦断研究にいたる過程で,家庭血圧の高い再現性や安定性,そして診察室血圧を上回る循環器疾患予後予測能が証明されてきた.• 家庭血圧に基づいた臨床試験において降圧治療の有用性が示され,世界のコホ-ト研究のメタ解析からも家庭血圧に関する多角的知見が蓄積されてきている.• しかし家庭血圧,さらには血圧そのものの研究はまだ途上にあり,実地臨床への適用を踏まえた臨床疫学研究のさらなる発展が待ち望まれる.
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内科 134巻3号, 436-440 (2024);
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• 心不全で失われた心筋細胞(CM)を補充する治療法として,ヒト多能性幹細胞(hPSC)由来のCM を移植する心臓再生治療が期待され,臨床応用に向けてさまざまな研究が進んでいる.本稿前半ではhPSC-CM の純化精製,効率的な移植,生着改善方法を紹介し,不整脈や免疫拒絶などの課題について考察する.• 心筋梗塞や心不全によって誘導される心臓線維芽細胞(CF)を,PSC を経ずにCM へと直接分化転換させる心筋ダイレクトリプログラミング法は,筆者らが世界に先駆けて開発し,その後も本領域の研究を牽引してきた.本稿後半ではその発展の歴史と最新の知見をまとめ,今後の課題を考察する.
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内科 134巻3号, 441-444 (2024);
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• 迷走神経刺激(VNS)はさまざまな疾患に対して有効性が示唆されているニュ-ロモデュレ-ション(神経修飾)の一つである.• VNS の最も明確な生理反応は徐拍化であるが,抗炎症効果をはじめとした多面的心血管保護効果が報告されている.• 心疾患においても,慢性的VNS による慢性心不全治療や心房細動抑制,急性的・一時的VNSによる心拍抑制や心筋梗塞治療などさまざまな治療法が提案され,一部は臨床試験が進んでいる.
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内科 134巻3号, 445-449 (2024);
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• 不整脈基礎研究は,細胞~生体の各レベルにおいて機能解析が可能な面白い領域である.• 不整脈基礎研究では,電磁気学・シミュレ-ション・信号処理など,研究者の得意分野を生かした研究が可能である.• 高精細な光学的マッピングなどの発展により,小動物モデルなどでも電気生理的な変化を評価可能となった.• 心房細動が微小炎症を惹起するメカニズムとして,高頻度興奮の際に心房筋から放出されるミトコンドリア由来セルフリ-デオキシリボ核酸(DNA)が重要と考えられた.• 血中セルフリ-DNA は,心房細動の有病リスクと脳梗塞の発症リスク評価のバイオマ-カ-としての有用性が期待される.
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内科 134巻3号, 450-453 (2024);
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• 近年,先天性心疾患における診療体制は確立されたが,経カテ-テル肺動脈弁置換術(TPVR)の出現によって,成人先天性心疾患(ACHD)領域では新たな問題点が浮き彫りになった.• 一部のACHD は生涯で複数回手術を要するにもかかわらず,成人循環器疾患のそれと違い,本領域には客観性の高い開心術の周術期リスク予測モデルが存在しない.• ACHD は小児期に手術介入を行うことによって近年生存期間が延長した特殊な疾患群であり,成人循環器疾患同様,もしくはそれ以上に周術期手術リスク予測モデルの重要性が高い.本邦で多施設共同研究を行い有用な手術リスク予測モデルを構築することで,ACHD の生涯を見据えた,より質の高い医療を提供することが期待される.• ACHD 診療では,各診療科との連携を密にし,包括的にハ-トチ-ムとして患者を診療することが重要である.
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内科 134巻3号, 454-458 (2024);
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• 狭心症が疑われる患者の約70%には器質的狭窄病変が認められないとされており,非閉塞性冠動脈に伴う虚血性心疾患(ischemia with non-obstructive coronary artery disease:INOCA)という疾患概念に注目が集まっている.• INOCA における心筋虚血の成因として冠攣縮や冠微小血管障害といった冠動脈機能異常の果たす役割が重要である.• INOCA 患者の冠動脈の収縮反応性と拡張機能の両者をカテ-テルで一期的に評価するinterventional diagnostic procedure(IDP)を用いることで,新たな治療法開発につながることが期待されている.
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内科 134巻3号, 459-462 (2024);
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• がん診療において進められてきたオミックス情報解析に基づく個別化医療の循環器領域への応用が期待されている.• マルチスケ-ル・マルチフィジックス心臓シミュレ-ション(「用語解説」参照)は分子レベルから臓器レベルまでの機能および構造情報を三次元モデルに統合し,機能評価を行うことで新たな視点から個別化医療に貢献することができる.• 侵襲的治療の最適化を目指した臨床例ならびに心電図デ-タベ-スの応用例をもとにシミュレ-ションを応用した未来の循環器診療の可能性を解説した.
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第3章:血液
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内科 134巻3号, 464-467 (2024);
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• わが国で開発中の人工赤血球 hemoglobin vesicle(HbV)は,長年にわたる膨大な数の動物実験を経てその有効性と安全性が検証されている.• HbV は,献血由来の赤血球からHb を分離・精製し,脂質二重膜で構成されたリポソ-ムに内包したもので,血液型を問わず投与でき,かつ室温で2 年間は保存可能である.• 既存の赤血球がすぐには使えない状況下の危機的大量出血の際に,赤血球製剤が利用可能となるまでの繋ぎとして本剤を投与すれば,救命率そして救命後のQOL の向上に寄与すると期待される.• すでにHbV 製剤の治験(phaseⅠ:first-in-human,最大投与量100 mL)が終了し,現在,より高容量投与における安全性を検証するための治験の準備が進められている.
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内科 134巻3号, 468-473 (2024);
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• 自己免疫疾患の原因は,IgG 型自己抗体である.• 古くから自己免疫疾患に対しては副腎皮質ステロイドが治療の主役であったが,患者への負担が大きいのが課題であった.• 新たに臨床応用された胎児性Fc 受容体(FcRn)阻害薬は,自己抗体を含むIgG を約6 割減らすことにより,自己免疫疾患を軽快させる.• すでに全身型重症筋無力症と特発性血小板減少性紫斑病に実用化されており,膠原病,神経難病,腎臓病,胎児・新生児溶血性疾患などへの応用が期待されている.
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内科 134巻3号, 474-478 (2024);
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• 血友病は,血液凝固第Ⅷ因子または第Ⅸ因子の遺伝子異常による出血性疾患である.• 血液凝固因子は肝臓でつくられるタンパク質であり,半減期がきわめて短い.• 血友病患者には,生涯にわたり定期的な治療薬を投与することで関節出血を予防することが重要である.• 現在の遺伝子治療は機能的な遺伝子を細胞に補充する遺伝子補充療法が中心である.• 血友病の遺伝子治療はアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクタ-を静脈投与して,機能的な凝固因子遺伝子を肝臓に送達させる手法で行われる.• 血友病に対する遺伝子治療は1 回の投与で数年~数十年にわたって治療効果が持続する.
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内科 134巻3号, 479-483 (2024);
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• ほとんどの患者が数年で死亡していた血液の「がん」である慢性骨髄性白血病(CML)が,内服薬のみで完治を望めるまでになった.将来的に,他の「(固形)がん」についても外科的治療せずとも,内服薬だけで治癒を目指せる時代を予感させる画期的な「がん」治療における進歩である.• 劇的な変化をもたらしたのは,2001 年に出現したBCR::ABL チロシンキナ-ゼ阻害薬(TKI)である.不可能とされていたTKI の中止に挑戦する臨床試験によって,深い分子遺伝学的寛解(DMR)を一定期間維持できた患者の約半数は治療不要寛解(TFR)が維持できることがわかった.そしてTFR 成功に関する予測因子も徐々に明らかになってきた.
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内科 134巻3号, 484-486 (2024);
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• チロシンキナ-ゼ阻害薬(TKI)が臨床導入されたことにより,フィラデルフィア染色体(Ph)陽性急性リンパ性白血病(ALL)の治療成績は画期的に進歩した.• 以降,第二・第三世代のTKI が登場しさらなる治療成績の改善が認められた.• しかし,TKI のみで治癒できることはなく,通常の化学療法あるいは造血幹細胞移植(HSCT)療法の併用が必要とされていた.• 近年,二重特異性T 細胞誘導抗体であるblinatumomab が登場し,TKI との併用(chemotherapy-free 治療)のみで長期生存が得られる可能性が示唆されている.
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内科 134巻3号, 487-491 (2024);
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• 機械学習は,コンピュ-タ-がデ-タから規則性やパタ-ンを見出し,それをもとに新しいデ-タについて予測や分類を行う技術で,造血幹細胞移植領域での応用が期待される.• 移植後合併症と予後の予測,移植法の最適な選択,移植後合併症の診断や重症度に関する新規分類について,さまざまなアルゴリズムを用いた検討が進められている.• 機械学習にも潜在的な過学習や,学習過程の説明可能性について課題が残されており,効果的に臨床に活用するためには,その特性の理解を進める必要がある.
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内科 134巻3号, 492-496 (2024);
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• 同種造血幹細胞移植は,今も造血器腫瘍に対する最強の治療法である.• 移植の合併症である慢性移植片対宿主病(GVHD)は病態が明らかでなく,有効な治療薬が少ない.• 慢性GVHD と移植片対白血病(GVL)効果は表裏一体の関係である.• 女性ドナ-から男性レシピエントへの移植は慢性GVHD の重要なリスクである.• 女性ドナ-から男性レシピエントへの移植における慢性GVHD では,Y 染色体由来の蛋白質がHLA class Ⅱと複合体を形成し,血管内皮上に発現することで同種抗体を誘導する.• Y 染色体由来の蛋白質とHLA class Ⅱの複合体は男性の白血病細胞にも発現する.
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内科 134巻3号, 497-500 (2024);
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• 患者由来のT 細胞にがん細胞で発現する表面抗原を認識するキメラ抗原受容体(CAR)を導入して輸中するCAR-T 細胞療法は,一部の血液腫瘍に対して高い治療効果を示し,実臨床に導入されている.• しかし長期的な治療効果が得られる症例は限定的であり,安全性を保ちながらさらに治療効果を持続させるための改変が求められる.• T 細胞の機能に深く関わるサイトカインシグナルや転写制御機構に着目することで,人工的にT 細胞の性質を変化させることができ,治療への応用が期待される.
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第4章:リウマチ・膠原病
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内科 134巻3号, 502-506 (2024);
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• 細胞内代謝には,主に解糖系,グルタミンなどのアミノ酸代謝,脂肪酸代謝などの経路がある.• 細胞内代謝の阻害によって,細胞の生存,増殖,分化,機能が変化する.• T 細胞,B 細胞,樹状細胞などのさまざまな免疫細胞の代謝(免疫代謝)を制御することで,全身性エリテマト-デス(SLE)などの自己免疫疾患モデルの病勢を抑えられる.• 抗菌作用,抗ウイルス作用をもつイタコン酸はTh17 細胞分化を抑制し,制御性T(Treg)細胞分化を促進する.• グルココルチコイドはマクロファ-ジ細胞内のイタコン酸濃度を高く維持することで異常活性化を抑制する.• 細胞内代謝はSLE を含む自己免疫疾患の治療タ-ゲットとなりうる.
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内科 134巻3号, 508-512 (2024);
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• Sjögren 症候群(SS)は,唾液腺・涙腺などの外分泌腺へのリンパ球浸潤を病理学的特徴とする自己免疫疾患で,病態形成には自然免疫と獲得免疫の異常の両方が関わる.• われわれは,唾液腺・涙腺に高発現するM3 ムスカリン作動性アセチルコリン受容体(M3R)に対する自己免疫応答に着目し,ヒト検体,モデルマウスを用いてSS の病態形成におけるM3R 反応性T 細胞の役割を解明してきた.• 最新の研究では,CD4 陽性T 細胞のエピト-プを同定するTScan-Ⅱが開発され,SS 患者の唾液腺浸潤CD4 陽性T 細胞が認識する新たな自己抗原が同定された.• 最近のシングルセルRNA シ-クエンシングを用いた解析において,一次性SS 患者の末梢血および口唇唾液腺では,CD4 陽性T 細胞と比較して,CD8 陽性T 細胞のほうがクロ-ナルに増殖しており,口唇唾液腺で強い細胞傷害活性を有するCD69 陽性CD103 陰性CD8 陽性GZMK 陽性Trm 細胞が同定されて,病態との関連が示唆された.
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内科 134巻3号, 513-517 (2024);
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• 特発性炎症性筋疾患(IIM)に対する非特異的な免疫抑制を用いた現行の標準治療は,安全性や有効性に関する多くのアンメットニ-ズを抱えている.• 筆者らは,IIM において傷害を受けた筋線維がHMGB1 などの炎症介在因子の放出を伴うプログラム細胞死である,ネクロト-シスに至ることを明らかにした.• マウスIIM モデルに対するネクロト-シス阻害剤(Nec1s)や,抗HMGB1 抗体を用いた治療は,筋の炎症を抑制するのみならず,筋力低下をも改善した.• グルカゴン様ペプチド-1 受容体(GLP-1R)作動薬は筋線維のネクロト-シス阻害作用を介して,マウスIIM モデルの筋の炎症や筋力低下を改善させた.• 筋線維のネクロト-シスはIIM の新規治療標的として期待される.
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内科 134巻3号, 519-521 (2024);
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• 近年普及したscRNA-seq 技術により,滑膜解析を通じた関節リウマチ(RA)の病態理解が発展している.• 滑膜scRNA-seq 解析により,マウス・ヒトともに機能的に異なる線維芽細胞集団が複数報告された.• RA 患者の滑膜の細胞構成は多様であり,滑膜解析による患者の層別化が治療反応性予測に有用であることに加え,一部の線維芽細胞集団が治療抵抗性と密接に関連する可能性が示唆されている.
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内科 134巻3号, 522-526 (2024);
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• 皮膚筋炎(DM)は特発性炎症性筋疾患(IIM)の一病型である.• DM の病態背景はinterferon(IFN)pathway の活性化である.• DM に認められる筋炎特異的自己抗体(MSA)としては,抗ARS 抗体・抗MDA5 抗体・抗TIF1-γ抗体・抗Mi-2 抗体・抗NXP-2 抗体・抗SAE 抗体があげられ,各々際立った臨床的意義をもち,患者層別化に役立つ.• MSA に対応する自己抗原のエピト-プ解析とそれに反応する自己免疫現象が病態に関連する可能性がある.• MSA 陽性モデルマウスが確立しつつあり,新たな病態解明への道が開こうとしている.
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内科 134巻3号, 527-530 (2024);
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• 米国リウマチ学会(ACR)/欧州リウマチ学会(EULAR)から抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎の新たな分類基準が提案され,間質性肺障害や中耳炎など欧米とは異なるわが国のANCA 関連血管炎患者の特徴が反映されている.また,従来の基準よりも分類不能例が減るなど,わが国でのANCA 関連血管炎患者を対象とした臨床研究を行ううえでも有益であると思われる.• 治療に関してはこれまでの中心的な治療薬であった副腎皮質ステロイドと同等の有効性を示しつつ,有害事象を低減できる可能性のあるavacopan が臨床現場で使用可能となった.副腎皮質ステロイドとの併用方法や障害臓器による治療反応性の違い,維持期での使用方法など,よりANCA 関連血管炎診療における位置づけが明確となることが求められる.
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内科 134巻3号, 531-534 (2024);
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• TAFRO 症候群は2010 年に本邦より提唱された急性の全身性炎症性疾患である.• リンパ節生検病理像の類似性から多中心性Castleman 病の一部分症と捉える研究者もいるが,リンパ節腫大を呈さない症例もあるため,TAFRO 症候群は独立した臨床的な疾患概念であり,多中心性Castleman 病とは病理像が一部類似した関係と理解すべきである.• 病初期に急性に増悪するため,最重症に至る前の適切な診断と治療開始が必要である.治療は大量グルココルチコイド(GC)がまず用いられることが多いが,その奏効率は1 割程度であり,多くの例で二次治療(tocilizumab,rituximab,cyclosporin など)が必要である.
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内科 134巻3号, 535-538 (2024);
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• 原因不明で病態もはっきりしていなかったCastleman 病だが,1990 年代に本邦でIL-6 の過剰産生による疾患であると確定された.その後mTOR,JAK/STAT 経路の異常などが確認されて病態解析や治療法の開発が急速に進んでいる.• Castleman 病は希少疾患のため,大規模な臨床試験を行いがたい.その半面,症例を詳細に観察することで得られる知見も大きい.臨床医も病態解析や治療の開発に寄与できる分野であると思う.
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第5章:感染症
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内科 134巻3号, 540-543 (2024);
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• 抗ヒト免疫不全ウイルス(HIV)療法は長い間,服用アドヒアランスが最重要課題とされてきたが,長時間作用型抗HIV 薬はアドヒアランスの概念を変える可能性がある.• 長時間作用型抗HIV 薬として初めて登場したcabotegravir・rilpivirine は,臨床試験では間違いなく投与されているにもかかわらず原因不明のウイルス学的失敗を認めるケ-スがあったが,実臨床においては現在のところ抗ウイルス効果は良好である.• cabotegravir・rilpivirine はHIV とともに生きる人々(PWH)の満足度が高く,実臨床でも多くの患者が導入・継続を希望している.• 現在開発中の薬剤は多くが長時間作用型であり,今後は長時間作用型の抗HIV 療法が診療の中心となっていくと考えられる.
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内科 134巻3号, 544-546 (2024);
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• サル痘ウイルスは1958 年に初めて発見され,1970 年にヒトへの感染が報告された.• 2022 年5 月,欧州で主に男性同性間性的接触者(MSM)間でエムポックス(Mpox)が急速に拡大し,WHO は同年7 月に国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態を宣言した.• 全体の致死率は約0.2%と低いが,免疫不全患者では重症化および死亡のリスクが上昇する.• 予防にはワクチン接種が重要であり,本邦で承認されたLC16m8 ワクチンは有効な手段となりうる.研究では,免疫不全状態にないHIV 感染者を含むMpox 感染の高リスク者に対するLC16m8 の曝露前接種の有効性と安全性が評価され,重大な安全性の懸念は示されなかった.これにより,免疫不全状態にないハイリスク者を中心に,国内外でのMpox の感染対策においてLC16m8 の活用が促進されることが期待される.
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内科 134巻3号, 547-551 (2024);
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• 基質特異性拡張型βラクタマ-ゼ(ESBL)産生菌は院内だけでなく市中でも増加しており,多大な公衆衛生学的な脅威になっている.• 現在のESBL 産生菌の治療はカルバペネム系薬が国際標準になっているが,本邦で使用可能なcefmetazole も同等に有効である可能性がある.• 現在,cefmetazole がmeropenem に対して非劣性であるかどうかを検証するRCT が本邦で実施されており,結果が出れば,カルバペネム温存療法として重要なエビデンスとなる.
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内科 134巻3号, 552-556 (2024);
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• 黄色ブドウ球菌は,感染症の概念が確立されたときにはその存在が明らかとなっていた歴史的に古い病原体であるにもかかわらず,現代においてもヒトにとって脅威であり続けている.• 特筆すべきはその適応力であり,市中感染症および医療関連感染症の主要な原因菌であるだけでなく,多彩な耐性機序や伝播力によって医療の周辺環境にも生存範囲を広げることで生き延びている.• 次世代シ-ケンサ-(NGS)の登場により感染症領域の研究は大きく進展し,さまざまな知見が明らかとなってきている.• メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の進化と新しい高病原性クロ-ンの出現は新たな脅威であり,われわれ人類はこの進化のスピ-ドに負けないように対策を練っていく必要がある.
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内科 134巻3号, 557-561 (2024);
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• 近年,非結核性抗酸菌症は増加傾向にあり,なかでもきわめて強力な抗菌薬自然耐性を有するMycobactererium abscessus speciesによる感染が急増している.M. abscessus speciesはヒト-ヒト感染を起こす進化の過程にある可能性が指摘されており,将来的に公衆衛生上の重大な問題となる可能性が非常に高く,新規治療薬開発が強く望まれている.• ゲノムワイド関連解析によって宿主側の疾患リスク因子が少しずつ明らかになってきているが,菌側の因子は依然としてよくわかっていない.• より病態理解を深めるためには,適切なin vitro もしくはin vivo 感染モデルの基盤構築が必須である.気相液相界面培養などの技術によって適切な気道上皮モデルを構築するだけでなく,トランスポゾンシ-ケンスなどの技術を用いて自在に遺伝子機能解析を行うことによって新規治療標的を探索している.
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内科 134巻3号, 562-566 (2024);
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• 薬剤耐性菌感染症は,2019 年時点で127 万人の直接的な死因と推計され,2030 年までに年間損失額が3.4 兆US ドルを超える可能性がある.• 本邦においては薬剤耐性(AMR)対策アクションプランに基づいて対策が実施され,その一つとしてビッグデ-タを用いた抗菌薬処方動向の評価が行われている.• 本邦では広域抗菌薬の使用割合が多い.• 抗菌薬使用量は経年的に減少傾向であるが,高齢化の影響で注射抗菌薬は増加が予想される.• 急性気道感染症や下痢症に対する不適切な抗菌薬の処方が報告されている.• 地域差や人口構造変化などの実情を評価し,それに応じた継続的な対策が必要である.
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内科 134巻3号, 567-571 (2024);
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• 感染症数理モデルは,本邦においてこれまで取り上げられることが少ない領域であった.• 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行により,1 人の感染者当たりが生み出す2 次感染者数の平均値を意味する実効再生産数をはじめとして,流行動態の解釈や予測・評価などに直結する数理モデルの重要性が再認識され注目が集まった研究分野である.• SIR モデル,基本再生産数,実効再生産数などを用いることで,感染症流行の予測や流行動態の把握および対策の評価を行うことができる.
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内科 134巻3号, 572-574 (2024);
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• 病院は水を介した微生物伝播が多数起こっている.しかしながらこのリスクに対する医療者の認識は十分でない.• 上水自体が汚染されているリスクは低いが,病院内の配管や吐水口で汚染が起こり,水を使用した際にシンクやシンク排水口に水がぶつかり跳ね返ることで微生物が伝播することがわかっている.• 吐水口に設置されている網目状の小さな器具が微生物定着の温床になりやすいことや,本邦で採用されている水の消毒方法である塩素消毒に抵抗性を示す病原体の伝播も示されるようになっている.• まずは水に関連する院内感染のリスクを認識することが大切である.
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第6章:消化管
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内科 134巻3号, 578-581 (2024);
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• 過敏性腸症候群(IBS)の病態は脳腸相関が基本であり,主要病態に腸管透過性亢進(LG)がある.• 腸管透過性制御の中枢神経機構についての知見は限定的である.• 脳内オレキシンを中心とする神経ペプチドはLG 改善作用を有し,腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸である酪酸塩は中枢神経系に作用してLG を改善することが示唆された.これらのメカニズムには迷走神経が重要な役割を果たしている.• 脳内オレキシンや迷走神経を治療タ-ゲットにすることで,IBS などのLG 関連疾患に対してまったく新しい治療法を生み出せる可能性がある.
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内科 134巻3号, 582-585 (2024);
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• 短腸症候群の治療は限定的で,小腸移植の成績も十分とはいえず,新しい治療アプロ-チが求められている.• 小腸の構造や機能は複雑なため,再生医療に期待は寄せられるが,すべてを体外で創出し,ヒトのサイズに応用することは現実的ではない.• 大腸上皮を剝離してオルガノイドを移植すると,細胞の特性を反映した組織を再構築することが可能である.• 小腸上皮によりリモデリングされた大腸は,小腸特有の消化吸収機能をもつ小腸化大腸となる.• 短腸症候群モデルラットにおいて,回腸オルガノイド移植では大腸オルガノイド移植に比して有意な生存期間延長が得られ,小動物コンセプトが確認された.
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内科 134巻3号, 586-589 (2024);
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• 炎症性腸疾患は潰瘍性大腸炎とCrohn 病の2 疾患が主である.いずれも若年世代に発症し,消化管粘膜に慢性炎症と組織破壊が生じる.• 炎症性腸疾患の治療において損傷した粘膜の再生・修復が完了した「粘膜治癒」の達成は予後の改善に寄与する.• 腸上皮オルガノイドは幹細胞機能を有する細胞群を含みながら培養・増幅することが可能であり,かつ炎症で損傷した粘膜を修復する機能を備えている.• オルガノイドシステムを再生医療に用いるFirst-in-human(FIH)試験として,潰瘍性大腸炎を対象とした自家腸上皮オルガノイド移植の臨床研究が実施されている.
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内科 134巻3号, 590-593 (2024);
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• 炎症性腸疾患(IBD)の発症には遺伝的素因が関与するため,さまざまな解析が繰り返し行われてきた.• ゲノム解析技術の進展により,多くのIBD 関連遺伝子が特定されているが,欧米人と日本人では関与する遺伝子やその関わり方が異なる.• 実用的な遺伝子多型マ-カ-であったNUDT15 遺伝子多型は臨床応用につながった.• 臨床研究としてのゲノム解析は明確なクリニカルクエスチョンと質の高い臨床情報が必要であり,その内容によって必要な症例数は変化する.• 難病のゲノム医療実現に向けて,本邦でも大規模なコホ-トの構築が進んでおり,これが新たな遺伝子マ-カ-の発見に貢献することが期待される.
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内科 134巻3号, 594-597 (2024);
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• 抗菌ペプチド(antimicrobial peptide)は多細胞生物の遺伝子にコ-ドされた30 個ほどのアミノ酸からなる病原体を排除する自然免疫の作用因子である.• 小腸上皮細胞であるPaneth 細胞から細菌刺激やコリン作動性神経刺激などに応答して分泌される抗菌ペプチド「αディフェンシン」は病原菌を強く殺菌する一方,Lactobacillus やBifidobacterium などの共生菌は殺さない選択的殺菌活性を有し,腸内細菌叢の組成を制御している.• αディフェンシンの分泌量低下や高次構造異常は,腸内細菌叢の破綻(dysbiosis)を介して炎症性腸疾患(IBD),生活習慣病や精神疾患などさまざまな疾患の発症や病態の増悪に関与することが示唆されている.
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内科 134巻3号, 598-602 (2024);
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• 肥満モデルマウスや糖尿病患者の便中にはLachnospiraceae 科に属する新種の細菌,Fusimonas intestini が有意に多く認められる.• F. intestini は食用油に多く含まれる不飽和シス脂肪酸であるオレイン酸を代謝して,不飽和トランス脂肪酸であるエライジン酸を産生する.• エライジン酸は腸管上皮タイトジャンクション障害から全身性の軽度慢性炎症を引き起こし,肥満・糖尿病を引き起こす.• メタボリックシンドロ-ムやインスリン抵抗性のある人では,便中の単糖類が健常者と比較して有意に多く認められる.• 便中単糖類と正に相関する腸内細菌はインスリン抵抗性とも正の相関を示し,便中単糖類と負に相関する腸内細菌はインスリン感受性と正に相関する.
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内科 134巻3号, 603-606 (2024);
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• われわれは慢性便秘症の病態解明と新規治療法の開発を目指し,腸内細菌が腸管運動機能に及ぼす影響とその機序について基礎およびトランスレ-ショナル研究を行っている.• 単一菌種を定着させたノトバイオ-ト動物モデルを用いて,腸内細菌が宿主自然免疫反応を介し,小腸筋間神経叢の血管作動性腸管ペプチド(VIP)神経の発現調節が腸管運動機能の発達・維持に重要な役割を果たすことを解明した.• 慢性便秘症患者より採取した糞便を移植して作製したマウスモデルを解析したところ,慢性便秘症患者から採取した腸内細菌が大腸筋間神経叢に炎症性マクロファ-ジを増加させ,Cajal 介在細胞(ICC)のネットワ-ク障害をきたし,大腸運動低下に至る経路を見出した.
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内科 134巻3号, 607-609 (2024);
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• ヒト腫瘍の辺縁に,リンパ節とよく似た組織が形成されることがある.この組織は三次リンパ組織(TLS)とよばれ,腫瘍に対する免疫応答を担う.• 腫瘍血管は酸素や栄養分を運搬することで腫瘍を増大させるが,TLS に存在する特殊な腫瘍血管(腫瘍関連高内皮細静脈:TA-HEV)は,リンパ球を血中から腫瘍組織に遊走させることで腫瘍進展に抑制的な機能をもつ.• TA-HEV やTLS を腫瘍組織に誘導することができれば,腫瘍内で効率的な抗腫瘍免疫応答を誘導できるかもしれない.
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内科 134巻3号, 610-613 (2024);
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• 近年,医療分野におけるさまざまな分野で人工知能(AI)が活用され,消化管領域においても病変の検出や診断を支援する内視鏡AI の実臨床への導入が始まっている.(株)AI メディカルサ-ビスでは早期胃がんの検出を支援する内視鏡画像診断支援ソフトウェア「gastroAITMmodel-G」の製造販売承認を取得し,実臨床での実装化を進めている.• 現在までに消化管領域(食道,胃,大腸)における内視鏡AI の有用性は世界中から報告されており,その多くが非熟練医より優れ,熟練医と同等の診断能力を示している.• 内視鏡AI の実装化には医療コストなどの課題があり,上部消化管内視鏡検査におけるプログラム医療機器の保険収載が望まれる.
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第7章:肝・胆・膵
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内科 134巻3号, 616-621 (2024);
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• 進行肝細胞がんの治療は,2008 年,血管新生阻害薬sorafenib の登場で劇的に変わった.その後,4 種類の血管新生阻害薬が一次・二次治療として追加された.• 免疫チェックポイント阻害薬の時代が到来したが,肝細胞がんにおいては,抗PD-1 抗体単剤治療では有意な効果を示すことができなかった.• 2020 年,抗PD-L1 抗体atezolizumab と血管新生阻害薬bevacizumab の併用療法は著明な抗腫瘍効果を示し,肝細胞がん治療が新たなフェ-ズに入った.抗PD-L1 抗体durvalumabと抗CTLA-4 抗体tremelimumab の併用療法も承認された.• 治療効果や有害事象の予測因子の探索が重要になるとともに,次世代免疫チェックポイント阻害薬の開発も期待されている.
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内科 134巻3号, 623-626 (2024);
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• 胆道がんは難治がんの一つであるが,長らく有望な新規治療薬が登場してこなかった.• そのようななか,免疫チェックポイント阻害薬を従来の標準治療に上乗せすることで,切除不能例に対する一次治療において有意な予後延長効果を示す結果が近年報告された.• さらに遺伝子変異に基づく分子標的治療薬を用いた治療開発も盛んに行われ,さまざまな標的分子に対する薬剤が使用可能となってきている.• このように,免疫チェックポイント阻害薬を用いた免疫療法や各種分子標的治療薬が胆道がん診療にも登場してきたことで,今後ますます胆道がん薬物療法の世界が活性化し,長期予後が得られるようになっていくことが期待されている.
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内科 134巻3号, 627-629 (2024);
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• 膵囊胞性腫瘍の大半を占める膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)は膵がんの危険因子であるため,サ-ベイランスの対象となる.• IPMN からの膵発がんには,IPMN 由来がんのみならずIPMN 併存がんも同程度存在することに留意する必要がある.• IPMN 由来がんと比較してIPMN 併存がんは早期発見が困難であるが,6 ヵ月ごとの画像検査を中心としたサ-ベイランスにより通常の膵がんよりも良好な予後が得られることが明らかとなった.• 早期での根治切除により長期生存が得られる症例を増やしていくことが今後の課題である.
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内科 134巻3号, 631-634 (2024);
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• 一般集団に対する膵がんのスクリ-ニングは推奨されないが,膵がん発症の高リスクである家族性膵がん,遺伝性膵がん家系の個人に対しては海外のガイドラインでEUS/MRI を用いたサ-ベイランスが推奨されている.• 臨床試験やメタアナリシスの結果も報告があるが,エビデンスは十分とはいえず,条件付きの推奨としているガイドラインもあり,完全に日常診療に受け入れられているとは言い切れない.• 本邦ではこのような対象へのサ-ベイランスのエビデンスも乏しく,現在多施設前向き介入研究(DIAMOND 試験)が進行中である.
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内科 134巻3号, 635-641 (2024);
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• NAFLD/NASH からMASLD/MASH へ病名と疾患定義が変更された.これは,差別的な旧用語の是正と,脂肪肝の分類精度向上を目的としている.• 新たな分類では,脂肪肝全体をSLD とし,NAFLD はMASLD,NASH はMASH に変更され,さらに中間量の飲酒を伴うMASLD はMetALD として新たに定義された.• 現状,本邦ではMASLD/MASH に対して保険適用を有する薬剤はなく,併存する疾患に対する薬剤のなかで,MASLD/MASH への効果が期待されるものを選択する.• 甲状腺ホルモン受容体β作動薬が米国食品医薬品局(FDA)にMASH 治療薬として初めて承認された.• 疾患概念の整理と新治療薬のFDA 承認により,MASLD/MASH の診療と研究が急速に進展しつつある.
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内科 134巻3号, 642-646 (2024);
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• 原発性硬化性胆管炎(PSC)は,肝内外の胆管に線維性狭窄を生じる進行性の胆汁うっ滞性肝疾患である.• 原因が不明であるため,特異的な診断マ-カ-が存在せず診断に難渋することが少なくない.また,肝移植以外に有効な治療法が確立されておらず,移植後の再発もあるため予後不良の難治性疾患である.• 本研究により,PSC 患者の多くが抗インテグリンαvβ6 自己抗体を有することが明らかとなり,新たな診断バイオマ-カ-の可能性を示した.• 本抗体は,胆管上皮細胞に発現するインテグリンαvβ6 とフィブロネクチンの結合を阻害することでPSC の病態にも関与している可能性が示唆された.• 本研究は,PSC の診断と病態解明に新たな光明を与える成果であり,今後のさらなる研究の進展が期待される.
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内科 134巻3号, 647-650 (2024);
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• 急性膵炎は死亡率が高い疾患であり,合併症であるpancreatic fluid collection(PFC)に感染が合併した場合,ドレナ-ジやネクロセクトミ-が必要となる.• オランダでの無作為化比較試験により,まずはドレナ-ジを行うステップアップ・アプロ-チが,さらに外科的治療よりも内視鏡的治療が有用であることが示された.• 近年では専用デバイスであるlumen-apposing metal stent(LAMS)が使用可能となり,内視鏡治療がより簡便となった.• 本邦におけるPFC に対する多施設研究グル-プを立ち上げ,後方視的研究やシステマティックレビュ-の結果をもとに,被包化壊死(WON)に対する超音波内視鏡(EUS)ガイド下ドレナ-ジ施行後のネクロセクトミ-の最適なタイミングについて多施設共同無作為化比較試験にて検証した.
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内科 134巻3号, 651-655 (2024);
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• 悪性胆道閉塞に伴う閉塞性黄疸の治療として,内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)による金属ステント(MS)を用いた内視鏡的経乳頭的胆管ドレナ-ジが第一選択として行われており,開存期間延長のためさまざまなMS が開発されている.• 肝門部胆管狭窄では,MS を用いた両葉ドレナ-ジが主に行われているが,再処置のことも考慮してプラスチックステント(PS)の胆管内インサイド留置も注目されている.• ERCP 困難例に対する代替法として超音波内視鏡下胆管ドレナ-ジ(EUS-BD)が行われており,とくにHot-LAMS システムを用いたEUS-guided choledochoduodenostomy(EUS-CDS)が遠位悪性胆道閉塞に伴う閉塞性黄疸に対するドレナ-ジの第一選択肢としても注目されている.
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内科 134巻3号, 656-660 (2024);
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• 近年,欧州の内視鏡業界では気候変動と地球温暖化の対策として,「green endoscopy」という持続可能な新たな医療概念が提唱されている.• このアプロ-チは消化器内視鏡診療による環境負荷を低減し,温室効果ガスの排出を削減することで持続可能性を高めることを目指している.• 消化器内視鏡診療は二酸化炭素(CO2)の重要な排出源であり,サプライチェ-ンの活動や直接的・間接的なエネルギ-消費,使い捨てプラスチックやディスポ-ザブル製品の使用がこの問題に関連している.• 内視鏡診療において検査前,検査中,検査後の三つの段階でCO2が排出されている.• 環境負荷を低減するための実践的なアプロ-チとして廃棄物量の測定,内視鏡処置具の新規パッケ-ジデザイン案,ポスタ-シ-ル掲示による水資源の確保などがある.
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内科 134巻3号, 662-665 (2024);
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• 筋骨格系障害(MSDs)は医師不足の原因となる.• MSDs を予防する人間工学的対策はあまりとられていない.• 米国消化器内視鏡学会(ASGE)から「人間工学ガイドライン」が発行された.• 消化器内視鏡領域だけでない医療現場全体への人間工学の普及を目指している.
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第8章:神経
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内科 134巻3号, 668-672 (2024);
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• alteplase の適応のある急性脳主幹動脈閉塞患者においてalteplase 投与後に機械的血栓回収療法(MT)を行うことが,本当に正しいのか?• われわれは,この疑問に答えるためにランダム化比較試験(RCT)であるSKIP 研究を行った.• SKIP 研究の結果は,MT 単独群とalteplase 併用群の転帰良好の割合はほぼ同等であったが,非劣性を証明することはできなかった.しかし,頭蓋内出血は併用群で有意に多かった.• SKIP 研究を含む6 つの統合解析であるIRIS 研究が報告され,3 ヵ月後の転帰良好の割合は,ほぼ同等であったが,非劣性を証明することはできなかった.• IRIS 研究のサブ解析から,alteplase を発症140 分以内に投与した場合は,併用群が単独群より転帰がよいという結果であった.
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内科 134巻3号, 673-676 (2024);
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• Alzheimer 病(AD)の病態生理において,アミロイドβ蛋白(Aβ)が異常凝集し,タウの蓄積とともに神経細胞に傷害を引き起こすという「アミロイド仮説」が提案されている.• 元来,脳内の不溶性アミロイド線維の蓄積がAD を引き起こす神経毒性につながると考えられてきたが,近年,早期・中間凝集体の位置づけも重要視されている(オリゴマ-仮説).• とくにlecanemab の臨床第Ⅲ相試験結果とそれに基づく米国承認を受け,lecanemab の標的分子であるAβプロトフィブリルの病態が注目されている.• われわれは,高速原子間力顕微鏡(HS-AFM)を主に用いてlecanemab が,プロトフィブリルへ高い親和性で結合して取り囲むことで膜傷害を介した細胞毒性を軽減させることを示した.
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内科 134巻3号, 677-681 (2024);
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• αシヌクレイン(α-syn)はParkinson 病(PD)や多系統萎縮症(MSA),Lewy 小体型認知症(DLB)などのα-シヌクレイノパチ-の共通した原因蛋白質であり,α-シヌクレイノパチ-の病態において主要な役割をもつ.• 病的なα-syn シ-ドを検出する方法であるα-syn seed amplification assays(SAAs)法が注目されており,体液診断バイオマ-カ-としての可能性が注目されている.• SAAs 法の発展に伴い,疾患の背景となる生化学的・病理学的異常を反映する客観的なバイオマ-カ-が求められており,生物学的病期分類の議論が現在活発になされている.
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内科 134巻3号, 682-685 (2024);
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• 高用量methylcobalamin の筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対する第Ⅲ相試験の結果から,発症早期のALS 患者には高用量methylcobalamin が有効であることが確認された.• 今後さまざまな手法による新規治療薬開発が期待されるが,より早期に診断し,治療を開始することも重要である.• 早期診断を実現する方法として,筋超音波,筋生検,iPS 細胞の活用などがある.
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内科 134巻3号, 686-689 (2024);
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• 多発性硬化症(MS)は原因不明の中枢神経系(CNS)脱髄疾患である.• 病態に関しては未解明な点も残るなか,治療開発が先行している分野であり,最初の疾患修飾薬(DMD)であるインタ-フェロンβ製剤もウイルス感染がMS の原因であるという誤った仮説に基づく臨床研究から始まっている.その後,実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルの開発などからT 細胞が病態の主役と理解されてきたが,抗CD20 抗体の活躍をみるとB細胞も主要な登場人物であると考えられる.• MS 治療開発は原因不明であることを前提に進み,患者からフィ-ドバックを受けて行われてきた.• 残念ながら髄鞘再生に関しては実用化には至っていないが,今後はミクログリアを標的とした治療薬の開発も進むなか,髄鞘再生薬の必要性は減っていくことが予想される.
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内科 134巻3号, 690-692 (2024);
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• 代表的な自己免疫性末梢神経障害としてGuillain-Barré 症候群(GBS)があげられる.• GBS は軸索型と脱髄型に大別されている.• Campylobacter jejuni 腸炎後軸索型GBS はガングリオシドGM1 分子相同性による発症機序が証明された唯一の自己免疫疾患である.• 脱髄型GBS の標的抗原・病態は明らかにされていない.• GBS は単相性疾患であり,急性期の軸索変性を抑制するために抗補体療法,免疫グロブリン(IgG)切断酵素の開発が進行中である.
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内科 134巻3号, 693-696 (2024);
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• 重症筋無力症(MG)は神経筋接合部を標的とする疾患であり,その病態が比較的明らかになっている自己免疫疾患である.• 20 年ほど前までは胸腺摘除術とステロイドくらいしか治療手段がなかったが,近年飛躍的に治療が進展した.• 2010 年代からは早期速効性治療戦略(EFT)が行われるようになり,2017 年を皮切りに各種の分子標的治療薬が使用可能になった.• 日本のMG 診療を根幹で支え,日本の,ひいては世界のMG 治療へ影響を与え続けているのが日本MG レジストリ-多施設研究(JAMG-R)である.
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内科 134巻3号, 697-702 (2024);
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• 従来の“多発筋炎(PM)/皮膚筋炎(DM)”の提唱から50 年が経ち,筋病理学の発展と多数の筋炎特異的自己抗体の発見から分類が見直され,変革の新時代を迎えている.• 免疫介在性壊死性ミオパチ-(IMNM)や封入体筋炎(IBM),抗合成酵素抗体症候群(ASS)が見出され,DM とともに従来と異なる疾患概念とされる一方,PM の存在には議論がある.• IMNM は体幹筋や呼吸筋,嚥下の障害をきたして重症化しやすい.自己抗体としてSRP 抗体とHMGCR 抗体が知られている.• 筋病理では壊死・再生筋線維が特徴的で炎症細胞浸潤は乏しく,補体経路やオ-トファジ-の関与が示唆される.• IMNM はステロイド抵抗性により再燃も多く,免疫抑制薬や大量免疫グロブリン,分子標的治療薬を考慮した治療戦略の確立が求められる.
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内科 134巻3号, 703-708 (2024);
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• 治療戦略の発展に伴い,診断の枠組みが進化し,てんかん分類も改訂を重ねてきたが,発作型・病因を基盤とした段階的診断は治療方針決定のうえで重要であり,診療早期に行う必要がある.• 抗てんかん発作薬は日進月歩であり,近年では焦点てんかんに対するbrivaracetam,てんかん発作を抑制するcenobamate,Dravet 症候群やLennox-Gastaut 症候群に対するfenfluramineなどがある.• 近年増加する高齢発症てんかんはAlzheimer 病(AD)の鑑別の一つであり,脳波を含めた指標による認知症の早期発見,抗てんかん発作薬による合理的治療介入の可能性が広がることが期待される.• てんかんとともに生きる人々(people with epilepsy)のWHO 到達目標達成に向けて,ますます診断・治療に向けた研究発展が望まれる.
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内科 134巻3号, 709-716 (2024);
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• 遺伝性ATTR アミロイド-シス(ATTRv)はトランスサイレチン(TTR)遺伝子変異に起因する常染色体顕性遺伝の疾患である.• 本症は典型的な毒性機能獲得型の疾患であり,また動物モデルでTTR 遺伝子をノックアウトしても明かな表現型を呈さないことから,低分子干渉RNA(siRNA)やアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)を用いた遺伝子サイレンシング治療の開発が進んでいる.• siRNA 製剤であるpatisiran とvutrisiran は,ランダム化比較試験でATTRv アミロイド-シスの末梢神経障害の進行を有意に抑制することが示され,国内外で認可されている.• 高齢者のcommon disease である野生型ATTR(ATTRwt)アミロイド-シスに対する核酸医薬品の治験も進行中である.
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第9章:糖尿病・代謝・内分泌
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内科 134巻3号, 720-726 (2024);
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• 糖尿病患者の合併症の進行においては,予測困難な状況がしばしばある.• 長期血糖コントロ-ル不良でも糖尿病関連合併症を認めない症例において,終末糖化産物(AGEs)が長期間低値で推移していた.• 長期血糖コントロ-ル不良な2 型糖尿病患者において,持続的にAGEs のMG-H1 が低値の群ではその他の群より心血管リスクが有意に低かった.
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内科 134巻3号, 727-729 (2024);
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• 脂肪組織はエネルギ-貯蔵の役割に加えて,アディポネクチンなどの生理活性物質を産生して全身の代謝を調整している.アディポネクチン受容体活性化を有する半減期の長い抗体により,月1 回投与で糖尿病・非アルコ-ル性脂肪性肝炎を治療することができると期待される.• 褐色脂肪組織(BAT)はミトコンドリアに局在するUCPI の作用を介し,熱としてエネルギ-を消費する機能がある.転写因子NFIA の活性化を介してBAT の機能を高めることで,エネルギ-消費の促進に基づく肥満症治療法の開発につながる可能性が期待される.• 250 万人規模の2 型糖尿病ゲノムワイド関連解析(GWAS)におけるメタ解析で,糖尿病性腎症5 期(透析療法期)についてはβ細胞プロインスリン増加クラスタ-が負の効果を,肥満クラスタ-が正の効果を有していた.糖尿病やその合併症の予防といった将来的な個別化医療へ貢献すると期待される.
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内科 134巻3号, 730-734 (2024);
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• 糖尿病では,肝臓の糖新生の亢進により高血糖が惹起され,その抑制は病態に即した治療法となる.• 肝糖新生系酵素の遺伝子転写はグルカゴンにより誘導され,その抑制により高血糖が改善する.• 肝糖新生系酵素の遺伝子転写を担う核内シグナル伝達モジュ-ルとその標的分子は糖尿病の治療標的となる.• 肝臓の脂肪酸の新規合成(DNL)の亢進は脂肪蓄積とインスリン抵抗性に寄与する.• DNL を担う脂肪酸合成酵素の肝臓における欠損は非アルコ-ル性脂肪性肝疾患(NAFLD)と糖尿病を改善する可能性があるが,その効果は肥満の成因の影響を大きく受ける.
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内科 134巻3号, 735-739 (2024);
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• 糖尿病根治を目指した膵β細胞再生医療の実現には,β細胞発生の詳細な解析が不可欠である.• 胎仔マウスを用いた膵β細胞分化のリアルタイム・シングルセル解析により,新生β細胞は膵島辺縁から発生し,発生場所(血管近傍か膵管近傍か)によって成熟度が異なることが明らかとなった.• 膵β細胞は内分泌前駆細胞からソマトスタチン陽性細胞を経て,分化する可能性が示された.• 膵β細胞分化において脂質代謝・合成が重要である可能性が示された.• ヒトiPS 細胞由来β細胞分化誘導モデルと組み合わせることで,新たな知見について種を超えた重要性の解明や糖尿病再生医療への応用が可能となる.
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内科 134巻3号, 740-744 (2024);
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• 1 型糖尿病における自己インスリン分泌の枯渇は患者QOL の障害をきたすため,インスリン分泌を保持するための免疫学的介入法の開発が強く望まれている.• 筆者らは,発症早期1 型糖尿病を対象に自己インスリン分泌保持を目的とした免疫修飾療法の臨床試験を実施するとともに,膵島抗原特異的免疫療法開発のための基盤研究として,日本人1 型糖尿病患者における膵島抗原特異的細胞性免疫反応の同定を試みている.• 欧米では,1 型糖尿病発症前の段階から予防学的介入が実施されており,わが国でも発症前コホ-トの構築が望まれる.
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内科 134巻3号, 745-749 (2024);
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• 後天性低カルシウム尿性高カルシウム血症(AHH)は,Ca 感知受容体(CaSR)に対するブロッキング型の自己抗体が原因となる疾患として2004 年に報告されたが,われわれは臨床的にAHH と診断される患者においてCaSR に共役するG 蛋白質のうちGq/11 を刺激,Gi/o を抑制するバイアス抗体を同定してきた.• バイアス抗体の機能解析をするなかで,副甲状腺からのPTH 分泌制御メカニズムに関するドグマを壊してきた.• 本邦におけるAHH の共通性として,多くは高齢男性でみられること,ほかの自己免疫疾患の合併はほとんどないこと,Ca 受容体作動薬が特異的治療として奏効すること,Gq/11 とGi/o を逆向きに制御するバイアス抗体が同定されることを見出してきた.• 今後は,なぜ本邦でバイアス抗体が生じるのか,そしてその抗体が安定化するCaSR のユニ-クな構造を明らかにしていきたい.
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内科 134巻3号, 750-753 (2024);
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• ホルモン補充療法が確立されていない最後の古典的内分泌疾患である,副甲状腺機能低下症に対する副甲状腺ホルモン補充療法の開発が進んでいる.• 原発性副甲状腺機能亢進症に対する内科的治療としてCa 感知受容体作動薬が開発されているが,さらに骨折抑制や腎結石予防にも有効な薬剤の開発が望まれる.• 低ホスファタ-ゼ症の治療として酵素補充療法が開発され,新生児症例に大きな恩恵をもたらしている.さらに,骨粗鬆症に潜んでいる軽症の成人患者の臨床的意義が注目されている.
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内科 134巻3号, 754-758 (2024);
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• 腸管は,外界から体内へ一方向性に,主に物質の獲得を担う臓器として理解されてきた.しかし近年,腸管内代謝産物の網羅的検討から,摂取した物質は腸管と腸内細菌が相互に影響しつつ代謝され,獲得されていることが明らかになった.• たとえば,運動により腸管胆汁酸代謝が変容し身体能力が向上する,長時間運動で蓄積した乳酸が,腸管内に放出されプロピオン酸などに代謝され,生体に吸収されるため長時間の運動が可能になることが示された.• 間欠的絶食は,腸管Paneth 細胞からのcyclic ADP ribose(ADP:adenosine diphosphate)放出を増加し腸管幹細胞のsilent mating type information regulation 2 homolog(SIRT)活性を上げ,腸管内細菌も変化させ,これらの変化をもって加齢性変化に拮抗している.• このように腸管代謝機能を応用したさまざまな疾病に対する新たな治療開発が期待される.
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第10章:腎臓
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内科 134巻3号, 760-765 (2024);
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• グルカゴン受容体の腎臓における機能が解明された.• 糖新生酵素PEPCK1 の腎保護作用の可能性を筆者らが新たに明らかにした.• ミトコンドリアリボソ-ムの腎での代謝作用を筆者らが新たに解明した.
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内科 134巻3号, 766-770 (2024);
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• 慢性腎臓病の根本的な治療を模索するなかで,シングルセル解析は腎臓の精緻な機能と調整メカニズムを細胞レベルで解明するための重要な手段となっている.• シングルセル技術により,20 種類以上の異なる細胞タイプから構成される腎臓の病態を細胞レベルで解き明かし,新たな治療標的を同定する道が開かれているものの,これらの研究成果を臨床に応用するまでには,さらなる発展と挑戦が必要な状況である.• シングルセルトランスクリプトミクス解析とは,個々の細胞の遺伝子発現パタ-ンと量を把握し,細胞の挙動や状態を低次元で表現する技術であり,腎臓の解析に応用されている.• シングルセル解析を用いて細胞同士の空間的関係性を解明するプラットフォ-ムが登場し,MMP7 のバイオマ-カ-としての利用可能性が示された.• 腎臓領域のシングルセル解析の課題として,異なるデ-タセット間の再現性・解釈の難しさ,細胞間相互作用の理解があげられるが,腎臓でのシングルセルレベルでの理解が深まれば,異なるデ-タセット間での比較が容易になることが期待される.
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内科 134巻3号, 771-774 (2024);
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• 食事から摂取したNa が速やかに尿から同じ量だけ排泄されるという理論が近年疑問視され,Na 代謝は全身の複数の臓器・組織が関与していることが示されつつある.• 腎機能障害が進行した慢性腎臓病(CKD)患者ではK 摂取制限が指導されるが,それに伴う弊害も指摘されており,植物ベ-スの食事が有益な効果をもたらす可能性も指摘されている.• 遠位ネフロンに発現するペンドリンの発現調節や機能に関する基礎的研究が進行し,生理的・病理学的に多様な役割を果たしていることが明らかになりつつある.
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内科 134巻3号, 775-778 (2024);
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• 急性腎障害(AKI)は致死率が高い病態であるのみならず,末期腎不全(ESKD)や慢性腎臓病(CKD)に至る予後のわるい病態である.• AKI の頻度と重症度が高いほどCKD への移行リスクが高いこと,また逆にCKD があるとAKIに罹患しやすいことが臨床疫学で報告されており,AKI とCKD は双方向に深い関係を有する病態である.• AKI がCKD に移行するメカニズムとして,AKI 後の障害近位尿細管の修復不全や慢性炎症の関与などが多くの基礎研究により明らかにされてきた.
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内科 134巻3号, 779-783 (2024);
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• 腎臓老化は加齢に伴い糸球体機能が低下し,それによる尿毒素・老廃物の蓄積,尿細管間質障害(慢性炎症,線維化),ひいては臓器連関の破綻による寿命の低下につながる.• 近年,細胞老化の分子特性が詳細に解析され,腎臓老化に密接に連動する細胞群(修復不全腎臓細胞,腎老化細胞,免疫老化細胞)や老化促進要因(代謝異常,オルガネラストレス,炎症系サイトカイン)がわかってきた.• 老化や疾患による腎臓細胞の再生・修復機能の低下は,修復不良細胞形成,あるいは細胞老化(cellular senescence)を加速させ,腎臓老化を促進する.• 将来的に抗腎臓老化薬が臨床応用可能となれば,腎臓老化や病的老化を呈する腎臓病の発症・進展を抑制でき,健康寿命の延長にもつながることが期待される.
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内科 134巻3号, 784-787 (2024);
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• iPS 細胞を用いた腎臓オルガノイドの分化誘導法は,主に日本人研究者によって開発されてきた.• 腎臓オルガノイドは非常に小さいため,現時点では治療に用いることはできないが,患者由来のiPS 細胞を用いて,疾患を再現するオルガノイドをつくることで,病態の解明や有効な治療法の確立が可能になってきた.一方,成体の骨髄や脂肪などに含まれる間葉系幹細胞(MSC)は,炎症やアポト-シスを抑制する能力を有しており,損傷組織の修復に働く.• 現在,MSC を用いて腎機能の低下を抑制させる臨床試験が実施されている.• MSC を用いたこのような治療法は「先制的再生医療」に位置づけられている.
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内科 134巻3号, 788-791 (2024);
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• 慢性腎臓病(CKD)では腎性貧血が必発である.• 腎性貧血の原因は赤血球造血因子低下と鉄利用障害である.• 鉄の恒常性維持には,鉄代謝調節因子のヘプシジンとエリスロフェロンが重要であり,腎性貧血の治療標的となる.• CKD でのヘプシジン増加は鉄利用障害につながり貧血を増悪させる.• エリスロフェロンは赤芽球と骨格筋より分泌される.• 運動により骨格筋由来エリスロフェロンは増加する.• エリスロフェロンはヘプシジンを抑制する.• CKD の鉄代謝変容の解明による腎性貧血の革新的治療法開発が期待される.
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内科 134巻3号, 793-798 (2024);
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• フェロト-シスは,脂質酸化依存性の細胞死の一種であり,急性腎障害(AKI)や慢性腎臓病(CKD)を含むさまざまな腎臓病の病態への関与が報告されている.• とくに,腎虚血再灌流障害(IRI)や腎毒性物質による尿細管壊死などの病態に深く関与する.• フェロト-シスの抑制は,AKI などのフェロト-シスが関与する病態の治療戦略として期待されている.• フェロト-シスを阻害するには,抗酸化化合物による脂質ラジカルの捕捉や,グルタチオンペルオキシダ-ゼ4(GPX4)やフェロト-シスサプレッサ-プロテイン1(FSP1)などのフェロト-シス防御経路の増強するアプロ-チが期待されている.
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内科 134巻3号, 799-802 (2024);
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• 人工知能(AI)を用いた画像解析技術の進歩は著しく,腎生検病理画像解析への応用が進みつつある.• 多施設共同研究による大規模かつ多様な学習デ-タ構築が,実用的AI モデルの開発に重要である.• AI による画像解析は診断補助のみならず,新たな病態分類の発見につながる可能性があり,腎病理診断は新時代を迎えつつある.
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内科 134巻3号, 803-807 (2024);
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• 透析療法は平均的な医療行為による温室効果ガス排出の10 倍程度とも試算され,非常に環境負荷が大きい.• 非透析患者であっても,慢性腎臓病(CKD)の進行によって環境負荷は増大する.• green nephrology は,透析医療に限らず,高齢化に伴い増加するCKD の診療のあり方を,地球環境に配慮したうえで考えるものである.• 日本においてgreen nephrology の認知度はきわめて低いが,腎臓専門医や非専門医,多くの医療従事者が健康・医療・環境の連関を意識し,CKD の新規発症や進展を抑制すること,持続可能な治療法を確立することが望まれる.• 目の前の患者の腎臓を守ることは,未来の子ども達の地球を守ることであり,その自覚をもって質の高い腎臓診療を展開したい.
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内科 134巻3号, 0-0 (2024);
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その他
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内科 134巻3号, 507-507 (2024);
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内科 134巻3号, 813-813 (2024);
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内科 134巻3号, 810-810 (2024);
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内科 134巻3号, 812-812 (2024);
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内科 134巻3号, 814-814 (2024);
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