内科
Volume 134, Issue 6, 2024
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目次
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特集【エキスパ-トはこう読む!検査値の臨床的解釈 日常臨床での疑問にお答えします】
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- [鼎談]
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臨床医が語る「私の検査活用法」 日々の診療で検査結果の“行間”をいかに読むか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description日常診療のなかで,各専門領域においては当たり前のように利用されている「検査の読み方」が他領域の医師には共有されていないということがよくあります.私見ですが,検査に関する書籍の多くが検査の仕組みや対象となる疾患・病態,偽陽性・偽陰性の原因などに力点を置いており,実臨床での具体的な活用方法に焦点をあてたものが少ないということも一因ではないでしょうか.エビデンス重視の風潮のなかで,領域内で慣習として行われているだけという事項については,なかなか書籍には書きづらいという側面もあるかと思います. 本特集では,そのような問題意識のもとで,「その領域の専門医はよく使うが,領域外ではあまり知られていない検査の使い方・読み方」について,あえて書いていただくという挑戦的な試みを行いました.本日は臨床現場で百戦錬磨のお二方に,どのようにすれば検査の使い方・読み方が実践的なものになるのか,という点についてお伺いできればと思います.それでは國松先生・辻本先生,どうぞよろしくお願いいたします. - [Chapter 1]呼吸器
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[間質性肺炎マ-カ-に関する疑問 ①]2 週間前から咳嗽と呼吸困難を自覚した患者の両肺にすりガラス影があり,血清KL-6 は正常でしたが,血清SP-A,SP-D が高値でした.どのような病態が考えられますか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description急性経過の間質性肺炎を疑いますが,細菌またはウイルス性の肺炎などの他疾患の可能性も否定できません. -
[間質性肺炎マ-カ-に関する疑問 ②]不整脈に対してamiodaroneを服用中の症例です.定期的な間質性肺炎マ-カ-の測定は必要でしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide DescriptionAmiodarone のような薬剤性間質性肺炎の発症リスクが高いことが知られている薬剤を使用する際は,薬剤の使用開始前にKL‒6,SP‒D などの間質性肺炎マ-カ-の測定を行い,また使用中も定期的に測定を行って薬剤性間質性肺炎の早期発見に努めることが重要です. -
[COPDに関する疑問]COPD で通院中の男性が遷延性咳嗽を主訴に来院され,血中好酸球数が350/μLという結果でした.しかし,非特異的IgE 検査(RIST)では40 IU/mLと低値であり,アレルギ-性の喘息は否定的と考えられたため,急性気管支炎と考え,抗菌薬のみで対処してよいでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide DescriptionCOPD と診断されていても,タイプ2 炎症(好酸球数)増加がみられており,喘息合併の可能性があります.よって,一度吸入ステロイドを追加して経過をみていきます. -
[IgEに関する疑問]ICS/LABA 治療を行っているにもかかわらず,咳症状が遷延するため来院した患者の検査で「非特異的IgE が340 IU/mL,特異的ハウスダスト1 IgE 抗体クラス2,特異的ダニ1 IgE 抗体クラス3,特異的スギIgE抗体クラス2」であった場合,次にどのような対応をすればよいですか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description治療抵抗性の喘息と考えられます.治療抵抗性の原因検索(副鼻腔および胸部CT,呼吸機能検査など)のための精査をすることをお勧めします.ほかの器質的肺疾患が除外され,難治性喘息と診断できれば,将来増悪が起こるリスクが高いため,生物学的製剤導入を検討していきます. - [Chapter 2]循環器
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[BNP,NT-proBNPに関する疑問 ①]循環器専門医への紹介の目安となるBNP またはNT-proBNP の値はいくつでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide DescriptionBNP≥ 35 pg/mL,NT‒proBNP≥125 pg/mL が心不全診断や循環器専門医への紹介基準として推奨されています. -
[BNP,NT-proBNPに関する疑問 ②]BNP またはNT-proBNP の変動を指標にして心不全患者の診療を行ってもよいでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide DescriptionBNP またはNT‒proBNP を指標にした治療は,死亡率や心不全入院を減少させる可能性が示唆されています. -
[トロポニンI,トロポニンTに関する疑問 ①]発作性心房細動が検出されて,紹介目的に来院した患者のトロポニンが上昇していますが,帰宅させてよいでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Descriptionトロポニンの上昇は心筋障害を示唆しているため,心電図変化や外来時の症状が明確でなくても,虚血性心疾患が臨床上疑われる場合はトロポニン値の推移をフォロ-します. -
[トロポニンI,トロポニンTに関する疑問 ②]心筋炎後でフォロ-中の患者のトロポニンが上昇していますが,経過観察でよいでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description心筋炎後のトロポニン再上昇は心筋炎の再燃を疑います.トロポニンの再上昇は予後不良因子でもあるため,入院のうえ加療が必要です. -
[トロポニンI,トロポニンTに関する疑問 ③]フォロ-の採血でトロポニン上昇を認め,さまざまな疾患を鑑別しましたが,明確な原因は見当たりません.経過観察でよいでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Descriptionトロポニン上昇は何らかの心筋障害を疑います.多角的な精査が必要です. - [Chapter 3]血液
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[可溶性IL-2受容体に関する疑問]全身のリンパ節が腫大している症例で,可溶性IL-2 受容体が上昇していました.悪性リンパ腫と診断してよいでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description可溶性IL‒2 受容体は,炎症を伴うさまざまな疾患で上昇します.リンパ節腫大と可溶性IL‒2 受容体高値のみで,悪性リンパ腫とは診断できません. -
[血清フェリチンに関する疑問]慢性炎症を有する症例で,血清フェリチン上昇を伴う小球性貧血の所見でした.炎症に伴う貧血と診断してよいですか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description慢性炎症を伴う貧血の症例では,鉄欠乏性貧血にもかかわらず血清フェリチンが上昇していることがあるため,出血源の精査も必要となります. -
[血小板関連IgG(PAIgG)に関する疑問]血小板減少を認めたため,PAIgG を検査したところ,80 ng/107 cellsと高値でした.免疫性血小板減少症(ITP)と診断してもよいでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide DescriptionITP の診断は除外診断です.PAIgG はITP を疑った際に検査しますが,感度は比較的高いものの特異度は低く,高値であったとしてもITP とは診断できません. -
[HIT抗体に関する疑問]ヘパリン投与中,血小板数が投与開始から1 週間後に半分以下になったため,ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)を疑ってHIT 抗体検査を行いました.結果は30 U/mLと高値だったため,HITと診断してもよいでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description本邦で保険収載されているHIT 抗体検査は3 種類あり,それぞれで解釈は異なります.ラテックス免疫比濁法は感度が高く,陰性であればHIT を否定できますが,特異度が低く定量性がないため,30 U/mL と高くてもHIT とは診断できません.一方で,化学発光免疫測定法は定量性があるため30 U/mL であればHIT と考えて間違いありません.イムノクロマト法は目視による判定のため,陰性/陽性で報告されます. -
[免疫固定法(免疫電気泳動),血清蛋白分画に関する疑問]患者が人間ドックでM 蛋白を指摘されました.そのほかの血液検査・尿検査では問題がなかったようですが,大きな病気でしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description精密検査をして多発性骨髄腫などの治療を要する疾患の所見がなければ,意義不明なM蛋白血症(MGUS)として定期的な経過観察を行います.多発性骨髄腫の所見を認めた場合は,薬物療法が必要になる可能性があります. -
[免疫固定法(免疫電気泳動),血清フリ-ライトチェ-ン(FLC)に関する疑問 ①]外傷歴がない患者の腰痛が鎮痛薬で改善しないため,血液検査を実施したところ,M 蛋白,腎障害,貧血を認めました.どの診療科に紹介すればよいでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description多発性骨髄腫の可能性があります.骨髄検査,CT などの画像検査で精査が必要であるため,専門である血液内科に紹介してください.また,骨が脆くなっている可能性があるため,無理な運動や重い物をもつことなどは避けてください.非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は腎障害を悪化させる可能性があるため,可能であれば避けてください. -
[免疫固定法(免疫電気泳動),血清フリ-ライトチェ-ン(FLC)に関する疑問 ②]階段を上ると息切れがあり,最近では立ちくらみや尿の泡立ちが目立つようになった患者が受診しました.今年の人間ドックでM蛋白が検出されています.患者に何科の受診を勧めればよいでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide DescriptionAL アミロイド-シスの確定診断には骨髄検査などの生検が必要になるため,血液内科にも紹介してください.また,AL アミロイド-シスによる心障害・腎障害の可能性があるため,循環器内科・腎臓内科に紹介してください. - [Chapter 4]リウマチ・膠原病
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[リウマトイド因子(RF)に関する疑問]関節リウマチ(RA)の症状がないときのRF 陽性をどのように解釈すればよいですか?
134巻6号(2024);View Description Hide DescriptionRF はRAの抗体として有名ですが,陽性だからといってRAとは限りません.偽陽性疾患に注意し,患者と相談してさらなる精査を行うべきです. -
[抗CCP抗体(ACPA)に関する疑問]ACPA 陽性の測定タイミングをどのように判断すればよいでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide DescriptionACPA は関節リウマチ(RA)の診断において特異度が高い検査です.このため,リウマトイド因子(RF)高力価陽性の場合または関節炎症状がある場合に検査を考慮します.ただし,偽陽性リスクがあること,ACPA が陽性であっても必ずしもRA を発症するとは限らないことに注意が必要です. -
[リウマトイド因子(RF),抗CCP抗体(ACPA)に関する疑問]RF/ACPA 陽性で関節症状はあるものの関節炎が乏しい,または認められない患者にはどのように対応すればよいでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description関節リウマチ(RA)の前段階の可能性があります.具体的には以下の二つの状態が考えられます.① clinically suspect arthralgia(CSA);臨床的に疑いのある関節痛 ② 早期関節炎 経過観察を行いつつ,治療介入すべきか患者と相談すべきです.ただし,治療介入するかどうかに関しては議論が分かれるところです. -
[抗核抗体に関する疑問]どのようなときに抗核抗体を測定すればよいでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description基本的には,患者の状態から抗核抗体関連疾患が疑われる場合に測定することをお勧めします.具体的には,全身性エリテマト-デス(SLE),全身性強皮症(SSc),Sjögren 症候群(SS),多発筋炎(PM)/皮膚筋炎(DM),混合性結合組織病(MCTD)は抗核抗体関連疾患に含まれ,抗核抗体が診断に有効である代表的な膠原病です. -
[抗核抗体,特異抗体に関する疑問]抗核抗体が陽性だった場合は,どの特異抗体を測定すればよいでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description抗核抗体をとる契機となった症状や抗核抗体染色パタ-ンを参考にして特異抗体を測定します.患者が無症状かつ80 倍以下の低力価の場合,追加検査は必ずしも必要ありません. -
[抗リン脂質抗体症候群(APS)に関する疑問 ①]抗核抗体陽性の高齢男性が複数回にわたり塞栓性梗塞を起こしています.抗リン脂質抗体を提出したほうがよいでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description血栓イベントのなかでも,ほかの血栓リスク因子がない状況や,若年例の発症では抗リン脂質抗体症候群(APS)を疑うこととされていますが,全身性エリテマト-デス(SLE)の背景のある不明塞栓症の場合はとくに注意が必要です.そのほかのAPS を疑う状況としては,不妊症/不育症,重症の全身血栓病態,血小板減少やAPTT 単独延長などの検査異常があげられます. -
[抗リン脂質抗体症候群(APS)に関する疑問 ②]抗カルジオリピン抗体と抗β2GP Ⅰ抗体の違いは何でしょうか? それぞれのIgG 抗体とIgM 抗体は両方測定したほうがよいのでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description抗リン脂質抗体症候群(APS)の病態は細胞のリン脂質二重膜のカルジオリピンに結合するβ2GP Ⅰへの自己抗体が中心ですが,それ以外のカルジオリピンへの血漿蛋白も抗原となりうるため,両者の提出が望ましいです.また,両者のIgG とIgM はいずれも分類基準に含まれているため,4 項目を提出することが一般的であり,これがAPS パネル検査です. -
[抗リン脂質抗体症候群(APS)に関する疑問 ③]ル-プスアンチコアグラント(LA)測定の意義,蛇毒法とリン脂質中和法の違いを教えていただけますでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide DescriptionLA は凝固カスケ-ドを利用してリン脂質介在下で凝固に影響を及ぼす免疫グロブリンの存在を明らかにする検査であり,抗リン脂質抗体症候群(APS)の分類基準にも含まれています.蛇毒法とリン脂質中和法では凝固カスケ-ドの活性化部位が異なりますが,同時測定は保険上認められないため,まずは蛇毒法で提出し,検査前確率が高い場合はリン脂質中和法を追加提出します. - [Chapter 5]感染症
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[妊婦梅毒検査に関する疑問]妊婦の梅毒スクリ-ニング検査で6.8 RUという結果でした.TPHA は陰性です.生物学的偽陽性(BFP)と考え,経過観察としてよいでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description梅毒感染を示唆する所見や病歴がなければ,期間を空けて再検査して判断することをお勧めします.一方で,臨床的に梅毒の可能性があれば治療を行います. -
[嫌気性菌検査に関する疑問]偏性嫌気性菌が培養されていませんが,偏性嫌気性菌のカバ-は必要でしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description偏性嫌気性菌は,検体採取条件や菌種によっては培養しづらいことがあるため,偏性嫌気性菌の感染を示唆する背景・所見があれば,偏性嫌気性菌をカバ-する抗菌薬を使用することをお勧めします. -
[CRP,プロカルシトニンに関する疑問]敗血症などの重症患者において,プロカルシトニンとCRP のデ-タ変化に乖離がある場合には,どちらを信用すべきでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description細菌性感染症による敗血症の場合は,プロカルシトニン値は低下したにもかかわらずCRP 値が高いままということが多いと思います.CRP 値以外の要素が安定しており,標準的な抗菌薬治療期間が過ぎていれば,プロカルシトニン値を参考に抗菌薬終了を検討してよいでしょう. -
[免疫不全患者におけるCOVID-19の検査に関する疑問]新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染した免疫不全患者の検査結果が1ヵ月以上陽性のままです.持続感染ということでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Descriptionウイルス排出が続いている可能性もありますが,そうでない可能性もあります.現時点では明確に線引きする方法はないため,リアルタイムRT‒PCR のCt値などを参考にして,慎重に判断する必要があります. - [Chapter 6]消化器
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[肝障害鑑別の血液マ-カ-に関する疑問]採血で肝障害を指摘されました.原因(成因)についてどのように考えるとよいでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description問診,身体診察,各種マ-カ-の血液検査,画像検査を用いて鑑別をします.最終的に肝生検を要するケ-スもあります. -
[代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)の血液マ-カ-に関する疑問]MASLD の診断にはどのようなプロセスが必要でしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)は,脂肪肝に肥満,耐糖能異常,高血圧,高中性脂肪血症,低HDL 血症のいずれかが併存する場合に診断されます.肝生検を含めた特殊な検査は必須ではなく,健診やプライマリケアで診断可能となりましたが,迷ったら肝臓専門医へ紹介しましょう. -
[消化管出血関連検査に関する疑問]上部消化管出血が疑われる症例でBUN/Cr の上昇を認めるものの,Hbは低下していませんでした.どのように解釈するべきでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description消化管出血において,Hb は出血の早期や脱水の併存で下がらないときがあります.血圧や脈拍を含めたバイタルサイン,BUN/Cr,吐血・血便のエピソ-ド,直腸診の所見などから,緊急内視鏡検査や輸血の必要性を総合的に判断します. -
[ピロリ菌関連検査に関する疑問]上部消化管内視鏡検査で萎縮性胃炎を認めて,ピロリ菌感染が疑われたため,採血で抗ピロリ抗体を測定したところ抗体価が6 U/mL で,検査上は陰性でした.この場合は陰性と判断してよいのでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description抗ピロリ抗体検査は,検査で陰性と判断されても,抗体価が3 U/mL 以上10U/mL 未満のカットオフ値に近い「陰性高値」の症例のなかには,偽陰性となっている症例が少なからず含まれています. - [Chapter 7]神経
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[神経感染症における脳脊髄液の細胞数・分画に関する疑問]感冒症状が先行し,頭痛,発熱,嘔気のため紹介受診した患者に項部硬直を認めました.脳脊髄液検査において,多形核球優位であるものの細胞数の上昇は軽度(112/μL)でした.この場合,抗菌薬を使用せずにウイルス性髄膜炎として治療してよいでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description初期治療においては,細菌性髄膜炎の可能性が否定できなければ,抗菌薬の使用を推奨します.問診や診察所見に加え,脳脊髄液塗抹・培養,抗原検査,PCR 検査などのほかの検査を組み合わせて,診断の確定を目指すべきです.初回の検査で確定診断ができない場合は,翌日以降の腰椎穿刺の再検査も含めて鑑別することをお勧めします.なお,ウイルス性髄膜炎であっても,初期には多形核球優位の所見が得られる場合があり,経過観察と再検査が必要です.治療は対症療法が主体となりますが,単純ヘルペスウイルスや水痘帯状疱疹ウイルスの関与が疑われる場合は,aciclovir を適切な用量で使用することを検討するべきです. -
[神経感染症における脳脊髄液の蛋白濃度に関する疑問]脳脊髄液蛋白濃度は,髄膜炎や脳炎の診断と治療効果判定の指標になりますか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description中枢神経感染症の診断と治療経過の判定において,脳脊髄液蛋白濃度の上昇は非特異的であり,支持的な参考所見に留まります.多くの中枢神経感染症で脳脊髄液蛋白濃度は上昇しますが,高齢者,糖尿病,脊柱管狭窄症でも上昇がみられるため,必ずしも神経疾患を示すものではありません.また,髄膜炎や脳炎,脊髄炎では治療経過とともに蛋白濃度も正常化していきますが,早期に正常値になる場合もあれば,正常化に時間がかかることもあります.したがって,蛋白濃度の上昇だけで診断を確定することや治療完了を判断することはできません. -
[神経感染症における脳脊髄液の糖濃度に関する疑問]ウイルス性髄膜炎を疑って腰椎穿刺を行い,単核球優位の細胞数増多を認めましたが,糖濃度46 mg/dL,血糖120 mg/dLと,脳脊髄液糖濃度が低値でした.この場合,原因はウイルスではなく,細菌や結核,真菌を考えるのでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Descriptionウイルス性髄膜炎では,脳脊髄液糖濃度が正常範囲内にあることが多いですが,一部の症例では軽度の低下が認められることがあります.とくに,ムンプスウイルスやヘルペスウイルスによる髄膜炎では,脳脊髄液糖濃度が正常から軽度に低下することが報告されています.しかし,脳脊髄液糖濃度が著しく低下している場合や,脳脊髄液糖/血糖比が0.6 以下である場合には,ウイルス性髄膜炎の診断に加えて,細菌性髄膜炎や結核性髄膜炎,真菌性髄膜炎,さらにはがん性髄膜炎の可能性を念頭に置く必要があります.これらの疾患では,脳脊髄液糖濃度の低下が顕著であり,とくに細菌性髄膜炎では極端に低くなることが特徴的です. -
[アミロイドβ検査に関する疑問]軽度認知症レベルの認知機能低下がある70 歳代女性で,脳脊髄液アミロイドβ42/40 比が0.050と低下していました.最近よく転倒する,幻覚がみえると訴えていますが,Alzheimer 病と診断してよいでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description脳脊髄液アミロイドβ42/40 比の低下は脳内アミロイド蓄積を反映しており,Alzheimer 病以外にもLewy 小体型認知症などのほかの認知症や認知機能正常高齢者でも低下することがあります.そのため,認知機能低下の原因の診断は,臨床症状やほかの検査所見と合わせて行います. -
[脳脊髄液総タウ蛋白検査に関する疑問]1 年前に発症したもの忘れと失語を呈する60 歳代男性で,脳脊髄液総タウ蛋白検査では1,520 pg/mLと高値でした.Alzheimer 病と診断してよいでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description脳脊髄液総タウ蛋白の上昇は,Alzheimer 病以外にCreutzfeldt‒Jakob 病などのほかの疾患でも認められます.そのため,認知機能低下の原因の診断は臨床症状やほかの検査所見と合わせて行います. -
[抗AQP4抗体に関する疑問]視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)を疑う患者で抗AQP4 抗体(ELISA 法)を測定したところ,陰性という結果でした.NMOSD は否定できますか?
134巻6号(2024);View Description Hide DescriptionNMOSD を強く疑う症例では,cell‒based assay(CBA)法での抗AQP4 抗体測定を考慮することをお勧めします. -
[抗MOG抗体に関する疑問]MOG 抗体関連疾患(MOGAD)を示唆する患者で測定したところ,血清の抗MOG 抗体は陰性でしたが,髄液の抗MOG 抗体は陽性となりました.MOGADと診断できますか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description脱髄の中核的臨床症状と支持的臨床画像的特徴があれば,MOGAD と診断できる場合があります. - [Chapter 8]代謝・内分泌
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[血糖値とHbA1cに関する疑問]血液検査で血糖値は295 mg/dLと高いものの,HbA1c は5.9%と低い結果でした.経過観察でよいでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description血糖値とHbA1c が乖離する場面があることに注意しましょう.また,HbA1cは過去2~3 ヵ月の血糖値を反映した指標であるため,実際の血糖値で現状を評価することが重要です. -
[血糖値と糖尿病性ケトアシド-シスに関する疑問]血糖値がそれほど高くなければ,糖尿病性ケトアシド-シスは否定的だと考えてよいでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Descriptionインスリン作用不全が高度になると,血糖値が著明に上昇して糖尿病性ケトアシド-シスを発症しますが,SGLT2 阻害薬の使用中は血糖値が高くなくてもケトアシド-シスを発症することがあります. -
[甲状腺機能低下症と薬剤に関する疑問]患者の甲状腺機能低下症が悪化したため,levothyroxine を増量していますが,効果がありません.さらに増量したらよいでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide DescriptionLevothyroxine の内服状況の確認とともに,サプリメントを含めた併用薬にも注意が必要です.内服しているにもかかわらず,効果がない,あるいは弱いという場合は,吸収の問題が隠れていることがあります. -
[コルチゾ-ル,ACTHに関する疑問]左副腎に偶発腫瘍が発見されました.コルチゾ-ルとACTH は正常範囲内でした.Cushing 症候群ではないと考えてよいでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Descriptionコルチゾ-ルとACTH が正常範囲内でも,Cushing 症候群やサブクリニカルCushing 症候群は否定できません.診断のためにdexamethasone 抑制試験が必要です. -
[レニン活性,アルドステロンに関する疑問]高血圧症患者における原発性アルドステロン症のスクリ-ニングのため,レニン活性とアルドステロンを測定する際に,降圧薬の変更が必要でしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description降圧薬の種類によってレニン活性とアルドステロンは変動し,アルドステロン/レニン比(ARR)が偽陽性や偽陰性を呈する可能性があるため,Ca 拮抗薬やα遮断薬への変更後にスクリ-ニングを実施することが推奨されます.しかし血圧や低カリウム血症の管理が優先されるため,偽陽性や偽陰性の可能性を考慮しつつ,現在の薬物治療のままスクリ-ニング検査を実施することは可能です. -
[カテコ-ルアミン,メタネフリンに関する疑問]発作性高血圧で褐色細胞腫を疑う場合は,血中カテコ-ルアミンを測定すればよいでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description褐色細胞腫のスクリ-ニング検査としてカテコ-ルアミンを測定しますが,カテコ-ルアミンは変動が大きく,診断特異性・感度が低いため,体内動態が安定しているカテコ-ルアミン代謝産物のメタネフリン,ノルメタネフリンの測定が推奨されます. -
[テストステロン,LH・FSHに関する疑問]性腺機能低下の自覚症状があり,テストステロンが低値の場合は泌尿器科に紹介すべきでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Descriptionテストステロン低値かつLH・FSH 高値の場合は精巣機能不全などの原発性性腺機能低下症が疑われるため,泌尿器科での検査が必要です.一方で,テストステロン低値かつLH・FSH が正常~低値の場合は,視床下部・下垂体障害による中枢性性腺機能低下症が疑われるため,内分泌内科で精査が必要です. - [Chapter 9]腎臓
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[透析患者の貧血に関する疑問]透析患者の貧血をみたとき,どのように評価と治療を行えばよいですか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description腎性貧血は除外診断であるため,通常の貧血と同様にアプロ-チしますが,とくにMCV と鉄動態(とくにフェリチン,TSAT)に注意します. -
[透析患者のP,Caの管理に関する疑問]透析患者のP やCa の管理はどのように行ったらよいですか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description血清P,補正Ca,intact PTH の順に正常化することを目標とします. -
[透析患者の微量元素欠乏に関する疑問]透析患者は微量元素欠乏が起きやすいと聞きました.いつ測定し,いつ治療したらよいですか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description原因不明の貧血,血圧低下,こむら返り,皮疹などをみた場合に積極的に測定します. -
[クレアチニンに関する疑問]毎年健診を受けている患者の今年の血清クレアチニン値が0.82 mg/dLでした.とくに困っていることはなさそうなので,経過観察としてよいでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description血清クレアチニン値と,年齢および性別から推定糸球体濾過量(eGFR)を算出し,その数値を参考にして対応を考えましょう.また,昨年のeGFR 値や尿蛋白の有無なども含めて,総合的に判断します.骨格筋量の増加や減少が疑われる場合には,シスタチンC 値を用いてeGFR を算出しましょう. -
[尿蛋白に関する疑問]健診を受けた患者の尿蛋白が(2+)でした.どのように対応すればよいでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description生理的蛋白尿の可能性を疑って,早朝尿および随時尿の検査を行ったうえで,尿蛋白定量を行いましょう.もし尿潜血や血清クレアチニン値もあれば参考にします. -
[低ナトリウム血症に関する疑問]患者の血清Na 値が120 mEq/L でした.緊急性はありますか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description電解質異常はその値の絶対値も重要ですが,症候性であるかどうかがより重要です. -
[高カリウム血症に関する疑問]患者の血清K 値が6.3 mEq/L でした.緊急性はありますか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description電解質異常はその値の絶対値も重要ですが,症候性であるかどうかがより重要です. -
[動脈血ガス分析に関する疑問]救急外来患者の動脈血ガス分析でpH 7.4でした.酸塩基平衡は異常なしと判断してよいでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description複数の酸塩基平衡異常が合併している可能性があります.pH の値によらず,毎回決まったステップを踏んで動脈血ガスを読むことを推奨します. -
[静脈血ガス分析に関する疑問]日常診療での動脈血ガス分析は,侵襲度の面でもハ-ドルが高いです.静脈血ガス分析で代用してもよいのでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description静脈血ガス分析は,酸塩基平衡の評価において動脈血ガス分析と代用できる場合があります. - [Chapter 10]腫瘍
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[腫瘍マ-カ-に関する疑問 ①]検診で偶然発見されたCEA 高値に対して,がん精査を行うべきでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide DescriptionCEA の上昇はがんだけでなく,喫煙や良性疾患でも認められることがあります.腫瘍マ-カ-の特性を理解したうえで,まずはほかの要因を評価し,必要な検査を検討することが重要です. -
[腫瘍マ-カ-に関する疑問 ②]60 歳代男性が検診でPSA のわずかな上昇を指摘されました.前立腺がんの家族歴があるのですが,がん精査をすぐに行うべきでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description前立腺がんのリスクは家族歴がある場合に上昇することが知られていますが,PSA のわずかな上昇は必ずしも即座にがん精査を必要とするわけではありません.まずは,患者の状態やそのほかのリスク要因を把握して,個別に判断することが重要です. -
[血液検査を用いたがん検診に関する疑問]がんの早期発見を目的とした自費血液検査を受けた患者が「高リスク」の結果をもって外来を受診しました.どのように診療を進めるべきでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description自費検査そのものの検査精度がどの程度なのか,という点について多くの検査でははっきりしていません.また,その検査結果に基づいてどのような追加検査を行うべきか,という点についても根拠の高い検査方法と種類は確立していません.さらに,無症状であれば保険診療の範囲内での対応が難しい可能性が高いため,「その他のがん検診(個人が任意に受ける検診)」を追加で実施するか否かについては,患者とよく話し合う必要があります. -
[尿・便検査を用いたがん検診に関する疑問]もともと高血圧で受診している患者が自費がん検診である尿検査の結果をもって,定期外来を受診しました.結果は「低リスク」とのことで,患者は「がんの可能性がなくなって安心している」といっています.かかりつけ医としてどのようなことを指導すればよいでしょうか?
134巻6号(2024);View Description Hide Description当該尿検査の結果では,がんでないことが完全に証明されたわけではないことを伝えたうえで,無症状であっても「市区町村が実施する住民検診」で定められたがん検診(前稿の表1)の定期的な受診を推奨することが重要です.
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連載
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- 内科医が精神科のくすりを処方する.
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- ほんとに意味あるの? その感染対策・感染症治療
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第10回(最終回) ル-チンの術前HIV や梅毒検査
134巻6号(2024);View Description Hide Descriptionこれまで本連載では,マスクの着用は新型コロナウイルス感染症の予防に本当に意味があるのか,三密の回避はどれくらい必要か,経口コロナウイルス薬や歯科治療の際の経口抗菌薬,手術室のスクラブへの着替えや手術時に投与する抗菌薬,そしてうがいなどさまざまな感染症対策の効果を議論してきた.また,前々回は抗菌薬にアレルギ-歴がある人には本当に抗菌薬を再投与してはいけないのか,前回はお見舞いに花は本当にNG なのか,などについて解説した.感染対策や感染症治療として一般に広く行われていることが,実際には意味があるのか,どこに根拠があるのか,について論じてきたが今回で最終回となる.最終回では,感染管理業務を始めたスタッフから聞かれることが多い「術前にヒト免疫不全ウイルス(HIV)や梅毒の検査をル-チンに行うことは本当に必要か」について考えてみようと思う. - 内科医のための睡眠外来入門
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- イメ-ジで捉える呼吸器疾患
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- Focus On
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尿酸値異常=痛風ではない尿酸代謝異常症(dysuricemia)という概念
134巻6号(2024);View Description Hide Description臓器障害と高尿酸血症,低尿酸血症ならびに尿酸のJ カ-ブ現象を包括して,尿酸代謝異常症(dysuricemia)という概念に統一されようとしている.血管内痛風を含む痛風型では血清尿酸値が高いほどリスクが大きい.神経変性型では血清尿酸値が低いほど,神経変性疾患のリスクが大きい.慢性腎臓病・心血管疾患型では,臓器障害と血清尿酸値との間にJ カ-ブ現象が認められる.これらの3 型は血清尿酸値と臓器障害の関連を反映する.一方で,尿中尿酸濃度の上昇は尿路結石症,尿細管障害ならびに運動後急性腎障害を引き起こすため,臓器障害と関連があり腎尿路型と定義できる.尿酸値と疾患との関係はこれら四つの病型を有する尿酸代謝異常症として総括できる.尿酸値の異常を臓器障害のリスクとして体系的に捉える必要がある.
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その他
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総目次
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