医学のあゆみ

Volume 208, Issue 1, 2004
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1月第1土曜特集【呼吸器領域において問題となる新興・再興感染症】
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- ■国内での感染症で問題視すべきもの
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麻疹──最近の動向とその対策
208巻1号(2004);View Description
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麻疹は麻疹ウイルスによって引き起こされる急性発疹性熱性疾患である.以前は代表的な子どもの病気であったが,近年麻疹の発生状況に大きな変化が起こっている.以前のような全国的流行はみられないが,地域的・局地的流行が発生し続け,毎年20万人ほどの患者が発生しており,成人麻疹患者が相対的に増加し,妊婦や新生児の麻疹患者がみられ,中学校や高等学校,大学でも麻疹が集団発生している.麻疹患者の多くは麻疹未罹患かつ麻疹ワクチン未接種の者である.麻疹の流行阻止のために1歳早期でワクチン接種率を高めることが推進されている.これ -
インフルエンザパンデミック(汎流行)対策──新型インフルエンザはいつでもやってくる
208巻1号(2004);View Description
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新興感染症としての新型インフルエンザが発生すると,大陸間を越え地球規模での汎流行(pandemic)となり,たとえばスペイン風邪では世界中で約2,500万人以上,わが国でも約50万人の死亡者などの被害がみられる.今度の新型流行時には日本では3,000万人が発病し,3〜9万人が死亡することが予測される.世界のどこで何時発生するかを予測する方法はまだないが,WHOを中心とした世界的なインフルエンザサーベイランス網を構築している.1997年に香港からAH5N1,今年もSARS(severe acute resp -
レジオネラ症
208巻1号(2004);View Description
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レジオネラ症は感染症法で第4類の全数把握対象疾患に入れられた.通常の呼吸器症状に加えて消化器系あるいは中枢神経系の症状を伴う場合,すなわち高熱,全身倦怠,頭痛,筋肉痛,乾性咳嗽,胸痛,呼吸困難などの呼吸器症状に加えて腹痛,水様性下痢,意識障害などを伴う場合には本症を積極的に疑う.最近まで,わが国のレジオネラ肺炎症例の報告は欧米に比較すると非常に少なかったが,感染症法施行後急速に増加しており,尿中抗原検出法,PCR法など簡易で迅速な検査法が普及するとさらに報告が増加すると思われる.本症は進展が速く,治療が遅 -
ペニシリン耐性肺炎球菌による気管支肺感染症──抗菌薬選択上の問題点と今後期待されるワクチン療法
208巻1号(2004);View Description
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多剤耐性肺炎球菌による呼吸器感染症では,ペニシリン耐性の言葉に惑わされずに,多剤耐性をきたしにくいアモキシシリン(経口),アンピシリン(静注)を選択すべきである.現在のペニシリン耐性の基準は抗菌薬移行率の低い髄膜炎をもとにした基準であり,呼吸器感染症では治療効果が異なる.現行の莢膜多糖体ワクチンは粘膜免疫応答が不十分であり,鼻咽頭保菌率の低下,表在性呼吸器感染症の予防効果は乏しく,有効性は認められていない.今後臨床応用され,期待されるconjugateワクチンについて言及した. -
BLNARインフルエンザ菌感染症
208巻1号(2004);View Description
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インフルエンザ菌の薬剤耐性化は,1974年にアメリカでアンピシリン耐性菌が分離されて以来,β—ラクタマーゼ産生による耐性化(BLPAR)が中心とされてきた.近年,β—ラクタマーゼ産生によらないアンピシリン耐性株,すなわちβ—lactamase nonproducing ampicillin resistan(t BLNAR)株が急激に増加しており,髄膜炎や気道感染症治療における薬剤選択が難しくなってきている.この薬剤耐性化はとくに小児において急速に進行しており,急性中耳炎,副鼻腔炎の難治化,遷延化例が増加 -
β-ラクタマーゼ産生モラキセラ・カタラーリス感染症
208巻1号(2004);View Description
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モラキセラ・カタラーリス感染症は1970年代後半から増加してきた新興感染症であり,本菌は主として呼吸器感染症と中耳炎の起炎菌である.本菌感染症の特徴はもともとは症例が少なかったのが急に増加して,1980年代には呼吸器感染症の代表的な病原細菌と認識されるほどになったことである.また,この時期に平行してβ—ラクタマーゼ産生菌の比率が急増し,現在では世界中で検出される本菌のうちの90〜100%がβ—ラクタマーゼ産生株となっている.本稿では本菌感染症の臨床像と最近の研究成果について述べる. -
MRSA感染症
208巻1号(2004);View Description
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メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は国内における主要な薬剤耐性菌である.本来上気道などの常在菌である黄色ブドウ球菌が耐性を獲得したものであり,いったん定着した場合は除菌が困難である.喀痰からMRSAが分離された場合,抗MRSA用抗菌薬の投与を必要としない定着のみの例も多く,その臨床的意義の評価は慎重に行う.MRSAが単独で分離され白血球による貪食像がみられれば,肺炎の原因となっている可能性が高い.抗MRSA薬はいずれも腎機能障害などの副作用が現れやすいため,血中濃度モニタリング(TDM)を行いながら -
多剤耐性結核
208巻1号(2004);View Description
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わが国は先進国のなかでは結核の罹患率の高い国である.とくに高齢者の結核患者の増加が著しい.不適切な治療や患者管理が耐性菌の排出を増加させる可能性がある.耐性結核菌は10種類ある抗結核薬のいずれかに耐性の結核菌を指すが,もっとも強力な治療薬であるイソニアジドとリファンピシンの両剤が耐性である耐性菌を多剤耐性結核菌という.この両剤のいずれかが欠けても十分な結核治療ができないので,多剤耐性結核は難治性結核のひとつとして社会的なインパクトは大きい.多剤耐性結核の内科治療は感受性の残っている薬剤を最低でも3剤(可能 -
クラミジア肺炎
208巻1号(2004);View Description
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呼吸器領域で最近問題となっている新興・再興感染症としてクラミジア肺炎があり,肺炎クラミジア(C.pneumoniae)肺炎とオウム病クラミジア(C.psittaci)によるオウム病が主体である.これらの疫学,臨床,診断,治療について述べた.C.pneumoniae肺炎は定点報告の5類感染症で,市中肺炎の約1割と頻度が高く,軽症の異型肺炎では特に重要である.小児のみならず,高齢者にも多く,家族内感染や幼稚園,中学校内などでの流行が散発的にあり,高齢者施設での集団発生も認められている.オウム病は,全数把握の4 -
Q熱コクシエラ感染症──Q熱はなぜ見逃されているのか
208巻1号(2004);View Description
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Q熱はリケッチアやレジオネラに近縁のCoxiella burnetiiの経気道感染による肺炎や気管支炎などの総称である.他の呼吸器感染症との鑑別が困難であり,肝炎や不明熱などの病型もある.急性Q熱の多くはインフルエンザ様の症状を呈する一過性熱性疾患であり,予後は良好であるが,予後不良の慢性Q熱となる例もあり,確定診断例や疑いの強い例では積極的に治療する.確定診断は血清抗体価の有意上昇によるが,抗体価上昇までに長期間を要する例が多く,頻回に測定する.急性期の気道系検体を用いるPCR法の成績も有用であるが,将 - ■輸入感染症として問題視すべきもの
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SARS
208巻1号(2004);View Description
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Severe acute respiratory syndrome(SARS)は新型のSARSコロナウイルスによるあらたな感染症である.2003年7月までに全世界で8,439人が感染し,812人が死に至った.SARSの流行は一応終息したものの,その感染ルートはいまだ明らかになっておらず,今後も再来の可能性を残している.本症にはまだ確立された治療法はない.ステロイドも急性呼吸不全に陥った重症例にある程度有効ではあるが,投与量,投与期間が定まってはいない.迅速診断についても現在のRT—PCRでは感度が十分でな -
ペスト──再侵入が危惧される人獣共通感染症
208巻1号(2004);View Description
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ペストはペスト菌の感染による急性熱性感染症である.ペスト菌は本来は野生齧歯類を宿主とし,ヒトへは感染齧歯類を吸血したネズミノミによって媒介される.動物宿主の存在がなければヒトの感染は発生しないため,代表的な人獣共通感染症(動物由来感染症)のひとつでもある.腺ペスト,敗血症ペスト,および肺ペストなどの病型がある.肺ペストの場合にはヒトからヒトへの感染の可能性がある.ストレプトマイシンなどの抗生物質が有効であるが,治療の開始が遅れると致死率はきわめて高くなる.ワクチンは一般には用いられていない.日本には70年 -
メリオイドーシス
208巻1号(2004);View Description
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メリオイドーシスは,グラム陰性桿菌であるBurkholderia pseudomalleiにより肺炎や致死的敗血症を起こす人獣共通感染症である.空洞を形成する慢性型は肺結核との鑑別が必要である.本症は,北緯20度から南緯20度に位置するタイ,ベトナムなどの東南アジアやオーストラリア北部,中南米などの熱帯地域で発症がみられる.とくに,タイ北東部での本症の罹患率はきわめて高く,死亡率も高い.メリオイドーシスの発症地域への渡航歴や居住歴の問診は診断上重要である.通常,日本国内で感染することはないが,海外への企業 -
コクシジオイデス症
208巻1号(2004);View Description
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コクシジオイデス症(coccidioidomycosis)13)はCoccidioides immitisを原因菌とする南北アメリカ大陸,とくにアメリカのカリフォルニア,アリゾナ,ニューメキシコ,ネバダ,テキサスの各州,アルゼンチンのパンパ,ベネズエラのコロ,中米ではメキシコ太平洋側の半乾燥地帯の限局された地域に発生する風土病で,風や土木工事などで舞い上がったC.immitisの分節型分生子(arthroconidium)を吸入することにより肺に初発病巣が生じる.本症は通常急性のかぜに似た呼吸器疾患を起
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