医学のあゆみ

Volume 208, Issue 6, 2004
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2月第1土曜特集【Parkinson病──最新動向】
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- ■基礎編
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Parkinson病の発症機序──Up date
208巻6号(2004);View Description
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孤発性Parkinson病(PD)におけるドパミン神経選択的な細胞死の機序に関する最近の研究の進展について概説した.PDにおける細胞死の原因は,ドパミン神経選択的なミトコンドリア機能障害に起因する可能性がある.ミトコンドリアの慢性機能障害により不要蛋白分解の要であるプロテアソームの失活と酸化修飾蛋白の細胞内蓄積を伴う細胞死モデルが作製された.従来,PD患者の剖検脳ではミトコンドリア機能障害,酸化修飾蛋白の増加,プロテアソームの活性低下が報告されており,本モデルで得られた所見と一致する.PDの原因には,ドパ -
α-synucleinとParkinson病
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α—synucleinは常染色体優性遺伝形式を示す家族性Parkinson病家系(PARK1)の病因遺伝子として同定され,これまでにA53T,A30Pの2変異が報告されている.また,α—synuclein蛋白はParkinson病脳内に特徴的に出現するLewy小体の主要構成成分でもあり,α—synuclein蓄積とParkinson病発症との間に何らかの因果関係があることが推定されている.さらに最近,他の家族性Parkinson病家系(PARK4)においてα—synuclein遺伝子を含む遺伝子領域の増幅 -
Parkinson病の病理変化──黒質外への進展
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Parkinson病の中核病変は黒質・線条体系ドパミン作働ニューロンの変性・脱落であるが,孤発性Parkinson病の必須病変であるLewy小体の進展をみると,1延髄,青斑核と進展して黒質に届く経路,2嗅球,@ 桃核より辺縁系さらに新皮質に広がる経路,3交感・副交感神経節から末梢自律神経系に進展する経路が,微妙に時期を違えて進行する.若年者の場合,病変が黒質に比較的限局傾向を示すのに対し,高齢者の場合は後二者の経路がすでに臨床的に検出可能なレベルに到達しているのが一般的である.これはParkinso -
DJ-1と神経細胞死
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Parkinson病はAlzheimer病と並ぶ脳疾患であり,その原因究明と治療はきわめて重要な課題である.Parkinson病は全Parkinson病患者の2〜3%で発症する家族性と,大多数の患者にみられる孤発性に大別される.家族性Parkinson病は50歳以下の若年性での発症が顕著であり,現在までに11個の原因遺伝子座が特定され,そのうち5遺伝子が同定された.解析の結果,これらの遺伝子産物の異常は家族性Parkinson病の発症に加えて孤発性Parkinson病発症にかかわっていることが明らかになり -
ユビキチンシステムとParkinson病──UCH-L1の役割
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Parkinson病の病態形成にユビキチンシステムが重大にかかわることが明らかになってきている.Ubiquitincarboxy—terminal hydrolase L1(UCH—L1)は脱ユビキチン化酵素のひとつであるが,93番目のアミノ酸がイソロイシンからメチオニンに置換する症例がドイツの家系で報告され,18番目のアミノ酸がセリンであるかチロシンであるかの多型がParkinson病発症と密接にかかわっている可能性が高いことも明らかになってきている.UCH—L1は神経細胞特異的な発現を示すなど特徴のあ -
小胞体ストレスとParkinson病
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小胞体は膜蛋白質や分泌蛋白質の品質管理を行う細胞内小器官として知られている.新しく合成された分泌系蛋白質は翻訳と連動して小胞体内腔に運ばれ,そこで小胞体シャペロンの助けを借りて正しい折れたたみ(フォールディング)を起こす.何らかの原因で折れたたみがうまくいかないミスフォールド蛋白質が過剰に小胞体に蓄積する異常な状態を小胞体ストレスとよぶ.これに対して生体は小胞体シャペロンの転写亢進や蛋白質翻訳の全般的抑制などで対応しようとするが,抑えきれなくなると最終的に細胞死を起こす.このような小胞体ストレスによる細胞 -
成体脳におけるドパミン神経細胞の再生
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ごく最近まで,中枢神経が障害された場合には修復不可能であり,神経細胞は再生しないと考えられていた.しかし,成体脳や脊髄においても神経幹細胞が存在し,神経が再生しうることが近年明らかになった.Parkinson病は,黒質ドパミン神経細胞の変性・脱落による脳内ドパミン含量低下に起因して症状が発現・進行する神経変性疾患である.また,Parkinson病では嗅覚障害も発現し,嗅球ではドパミン神経細胞が脱落することが知られている.嗅球のドパミン神経細胞はその神経前駆細胞が存在し,ドパミン神経細胞に分化することが著者 -
Parkinson病の細胞移植療法
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神経変性疾患に対する神経再生医療において細胞移植療法は有用な手段として期待される.Parkinson病では胎児黒質細胞を利用した移植治療の臨床応用が行われているが,倫理的問題やドナー細胞数などの問題がある.近年,幹細胞の発見により理論的にはひとつの幹細胞から無限な数の細胞を供給することができるようになった.神経幹細胞は胎児脳のみでなく,成人脳,骨髄,皮膚中にも存在が示唆され,また,万能細胞であるES細胞(胚性幹細胞)がヒトから作製可能となり,これらの細胞を用いた細胞移植療法が注目を浴びるようになった.本稿 - ■臨床編
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新しい優性遺伝の家族性Parkinson病──PARK8
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常染色体優性遺伝様式を示すパーキンソニズム(autosomal—dominant parkinsonism:AD—PD)は数家系報告されている.PARK8はわが国で見出されたAD—PDで発症年齢,薬物の効果などの臨床像は孤発性Parkinson病と差異が見出せないが,神経病理は純粋黒質変性症の像を示し,Lewy小体を認めない.このAD—PDの原因遺伝子を探索中であるが,12p11.23—12q13.11の領域にあることを見出し,PARK8として登録した. -
常染色体劣性遺伝性若年発症パーキンソニズム──parkin up date
208巻6号(2004);View Description
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家族性Parkinson病の研究は遺伝子産物の機能が同じメカニズムにかかわってくる可能性があり,遺伝性のみならずもっとも一般的な孤発型Parkinson病の病態解明につながる可能性がある.とくにPark2であるparkin遺伝子変異は,常染色体劣性遺伝性で若年発症あれば約50%の症例で変異が認められ,現在もっともポピュラーな遺伝性Parkinson病として確立されている.劣性遺伝性であるため通常ホモ接合体で発症するが,ヘテロ接合体でも発症しうることがわかってきている.その機序としてはドミナントネガティブ効 -
痴呆を伴うParkinson病── DLBとPDD,DLBDとの関係
208巻6号(2004);View Description
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Parkinson病では約40%で痴呆がみられる.痴呆を伴うParkinson病(PDD)の痴呆の病理学的背景としては,最近では大脳皮質のLewy小体の出現が重視されている.すなわち,PDDは小阪らによって提唱されたびまん性Lewy小体病(DLBD)の病理像を示すことが多い.DLBDの臨床像は従来報告されてきたパーキンソニズムを伴う痴呆以外にParkinson病である例もみられる.一方,Lewy小体型痴呆(DLB)は痴呆で発症し,認知機能の変動,幻視,パーキンソニズムがみられる.DLBの病理は大多数がDL -
Parkinson病の診断マーカー──MIGB心筋シンチグラフィ
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[123I]meta—iodobenzylguanidine心筋シンチグラフィは節後性心臓交感神経の障害を判定できることから,各種心疾患の局所交感神経障害,糖尿病性ニューロパチーの自律神経障害,神経変性疾患に伴う自律神経障害などの評価に用いられている.自律神経障害を伴う神経変性疾患のうち,Parkinson病では高率に心臓のMIBG集積が低下するのに対し,多系統萎縮症では心臓のMIBG集積は正常のことが多く,[123I]meta—iodobenzylguanidine心筋シンチグラフィは両疾患を鑑別する際 -
SPECTによるParkinson病の評価──脳血流測定・神経伝達物質測定を中心に
208巻6号(2004);View Description
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核医学的診断法であるPET・SPECTでは脳機能評価,神経伝達物質の測定が可能であり,Parkinson病の診断,病態把握に有用である.血流代謝測定では大脳皮質血流のびまん性低下を示すことが多い.一方,被殻,淡蒼球は相対的血流上昇を認め,淡蒼球内節,視床下核のニューロン活動亢進を反映していると考えられる.また,視床,小脳歯状核の血流増加も報告されており,皮質の神経活動低下が小脳—視床—運動野の経路を介して代償されている可能性が示唆されている.神経伝達物質についてはドパミントランスポーターのイメージング製剤 -
二次性パーキンソニズム──Parkinson病との鑑別診断
208巻6号(2004);View Description
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パーキンソニズムを示す疾患は,特発性パーキンソニズム(Parkinson病:以下,PD)以外に,血管性,PD以外の神経変性疾患,薬物・中毒・代謝性,神経感染症など多様である.これらのうち薬物・中毒・代謝性,神経感染症などは原因病態が改善することによって種々の程度に自然回復する.一方,血管性,PD以外の神経変性疾患では抗PD薬がある程度有効であるが,PDほどの効果は期待できない.予後も一般にPDより不良である.PDを含めてパーキンソニズムを示す神経変性症については近年,診断基準がしだいに確立され,疫学調査お -
パーキンソン病の治療ガイドライン2002の解説
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日本神経学会から「パーキンソン病治療ガイドライン2002」が発表されている.このガイドラインの特徴は,まず,抗Parkinson病薬の効果,副作用について客観性の高い臨床試験結果を渉猟し,その簡潔なまとめが記載されていることである.また,非薬物療法についても最新の情報が客観的に紹介されている.後半部分には治療導入時の薬剤選択の基本的考え方,長期治療における問題症状への対策が経験を加味して具体的に述べられている.臨床上の種々の局面において治療方針や治療薬が適切に決められるためには,個々の患者の病状が正確に把 -
Motor fluctuationの治療と新しい抗Parkinson病薬──Zonisamide
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L—DOPAはParkinson病治療の中心で,効果が高いが半減期が短く急峻な血中濃度変動を示すため,長期治療中にmotor fluctuationとよばれる効果持続時間の減少(wearing—off)や不随意運動などが出現することが多い.治療としては,L—DOPAやドパミンの半減期を延長させるCOMT阻害薬やMAOB阻害薬,また,持続時間の長いドパミン受容体刺激薬などが使われる.抗てんかん薬zonisamideは臨床経験から,抗Parkinson作用があることが見出された.半減期が長く,ドパミン合成亢進 -
Parkinson病の精神症状とその治療
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Parkinson病は運動症状のみならず,多彩な精神症状を呈することが理解されるようになった.これらの多くは薬剤起因性のものが多いが,身体疾患の合併が原因として重要であることを忘れてはならない.うつの頻度は高いが適切なParkinson病の治療が第一であり,抗うつ薬は第2の治療選択である.うつ病の頻度はまれであるが,うつ状態の頻度は高く,Parkinson病自体に起因した本質的な症状であると理解される.痴呆に対する薬物治療は確立されていないが,Lewy body型痴呆に対してはドネペジルが有効との報告があ -
Parkinson病における睡眠障害
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Parkinson病(Parkinson’s disease:PD)において種々の睡眠や眠気に関する問題が出現することは,臨床上,多くの医師が経験してきているが,ドパミン神経系が睡眠・覚醒にはあまり関与していないと長年思われてきたこともあって,最近に至るまでその実情はあまり理解されていなかった.PDにおける睡眠障害(sleepdisturbance)への対応について体系だった取組みはわが国ではいまだなされていないが,その内容を総合的に評価していくことが治療への第一歩であり,ひいては,PDの病態理解,睡眠機 -
Parkinson病に対する脳深部刺激療法
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脳深部刺激療法とは脳内に留置した電極で脳深部を刺激し,中枢神経系の機能を制御して疾病の治療を行うものである.この方法はParkinson病をはじめとするさまざまな不随意運動の治療法として,すでに広く用いられている.Parkinson病の治療を目的とした場合の刺激部位としては,視床,淡蒼球,視床下核があげられる.それぞれの症例で,治療対象となるおもなParkinson症候によって適切な刺激部位を選択する必要があるが,現在もっとも多く用いられているのは視床下核の刺激である.視床下核の刺激は振戦,固縮,無動のい -
Parkinson病薬物治療の将来──進行抑制薬実現の可能性
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Parkinson病の進行あるいは進行抑制薬の効果を判定する際にはドパミン(DA)神経細胞数の増減だけで判断するのは誤りであり,“細胞死”と“機能障害/異常(disorder)”の両方で評価すべきである.神経変性が特異的にDA系だけに集中するのは遊離DAから発生するDAセミキノン/DAキノンの傷害性によっている.また,脳内の炎症反応も緩徐な進行の基盤として重要である.これらのことから,神経保護薬の条件としては,1 DAキノンを中和できるグルタチオン増加作用,2神経栄養因子増加作用,3抗炎症作用などが -
Parkinson病の遺伝子治療に向けて
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黒質のドパミン産生ニューロンは線条体に投射している.Parkinson病ではこのニューロンが進行性に脱落し,線条体で放出されるドパミン量が減るために症状が出現する.したがって,Parkinson病の遺伝子治療戦略のひとつはドパミン合成に関与する酵素(チロシン水酸化酵素,芳香族Lアミノ酸脱炭酸酵素,GTPシクロヒドロラーゼ)の遺伝子を搭載したベクターを線条体に注入して発現させ,そこでドパミンを産生させることである.著者らはParkinson病モデルサルの一側被殻にこの3酵素の遺伝子を搭載したアデノ随伴ウイル
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