Volume 214,
Issue 6,
2005
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8月第1土曜特集【睡眠時無呼吸症候群】
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医学のあゆみ 214巻6号, 519-519 (2005);
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■概念
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医学のあゆみ 214巻6号, 523-528 (2005);
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睡眠時無呼吸症候群は睡眠中に無呼吸/低呼吸が繰り返し起こることにより,低酸素血症,高炭酸ガス血症をきたすだけでなく,断眠により睡眠障害をきたす.それに伴い心不全,虚血性心疾患,高血圧など,いわゆる生活習慣関連の疾患を合併するだけでなく,日中過眠による就業効率の低下や重大な事故を引き起こしうる.平成15年(2003)2月の山陽新幹線で起こった列車緊急停止事故の原因が本症候群に特徴的な日中過眠に伴う居眠り運転によると指摘された.以来,本症候群に対する国民の認識も高まり,わが国ではやっと市民権を得た症候群である
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■疫学
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医学のあゆみ 214巻6号, 531-536 (2005);
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近年,睡眠時無呼吸症候群(SAS),とくに閉塞型SAS(OSAS)に関する大規模な疫学調査が行われてさまざまなことが明らかにされている.具体的には,1.人口の数パーセントがOSASに罹患しており,これは気管支喘息の罹患率とほぼ同じであること,重症OSASを無治療で放っておくと,2. OSAS自体が重症化するばかりか,3.心血管・脳血管障害を高率に伴い,4.これが原因となって死亡する症例が著増,診断から10年経過すると死亡率は約15%にものぼることなどである.一方,軽症と中等症のOSASにおける合併症や死亡
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■病態
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医学のあゆみ 214巻6号, 539-547 (2005);
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脳血管障害において睡眠時無呼吸症候群は発症の危険因子として関与する.また,脳障害の後遺症により睡眠時呼吸障害がみられる.高次脳機能においては覚醒水準の低下のみならず,遂行機能障害や大脳内の情報処理過程において障害がみられる.多系統萎縮症では多彩な睡眠時呼吸障害を合併し,吸気性喘鳴を特徴とするいびきは声帯外転麻痺によるもので,突然死の原因となりうる.神経筋疾患では病初期に肺胞低換気による睡眠時呼吸障害を示し,睡眠中の非侵襲的な呼吸療法は呼吸機能の急速な悪化の防止や患者のQOLの向上に有用である.また,筋強直
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医学のあゆみ 214巻6号, 549-554 (2005);
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いびきは上気道狭窄の際の摩擦音であり,閉塞性の睡眠時無呼吸とあわせ,これらの現象はまさに上気道で起こる.わが国では極端な肥満が少ないにもかかわらず,睡眠呼吸障害患者は欧米と同程度とされている.著者らの検討では肥満,顎顔面形態異常とともに上気道疾患が独立した要因として影響している.アデノイドや口蓋 扁桃肥大は小児において睡眠呼吸障害の大きな要因となり,成人でも同様の病態は存在する.さらに,鼻呼吸障害は直接の原因となることはないが,間接的に咽頭レベルの狭窄や閉塞の誘因となったり睡眠構造に影響を与えるとされる.
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医学のあゆみ 214巻6号, 555-558 (2005);
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肥満は,上気道を狭小化することや呼吸機能にさまざまな影響を及ぼすことで閉塞型睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の発症の危険を高める.さらに,無呼吸低呼吸イベント時の低酸素血症を増強させることにより動脈硬化の進展を促進させ,結果として虚血性心疾患の危険を高める可能性がある.また,OSASを引き起こす内分泌疾患として甲状腺機能低下症や末端肥大症の合併に注意して診察する必要がある.
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医学のあゆみ 214巻6号, 559-562 (2005);
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呼吸は睡眠時には覚醒時と違った変化がみられる.その変化は,呼吸器疾患患者ではより著明である.睡眠時の低酸素血症は肺高血圧,肺性心の原因にもなりうるため,呼吸器疾患の予後に関連すると考えられる.さらに微小覚醒が繰り返されると睡眠構築を障害し睡眠の質を悪化させるため,日中の眠気や倦怠感をきたし,QOLの低下にも関連すると考えられる.本稿では呼吸器疾患と睡眠呼吸障害について解説する.呼吸器疾患と睡眠の関係については十分に解明されたとはいえないが,睡眠時に著明な低酸素血症をきたす可能性のある患者にはパルスオキシメ
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医学のあゆみ 214巻6号, 563-567 (2005);
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睡眠呼吸障害は循環器疾患を有する患者に多く,循環器疾患の病態と密接に関与し予後に影響を及ぼす.閉塞型睡眠時無呼吸症群(obstructive sleep apnea syndrome:OSAS)は急性的および慢性的にさまざまな呼吸・循環器系の病態変化を引き起こす.高血圧はOSASとの関連性がもっとも強く証明されている.OSASを合併した循環器疾患に対する持続陽圧呼吸療法(continuous positive airway pressure:CPAP)の有用性に関して降圧作用,心不全患者における心機能の改
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医学のあゆみ 214巻6号, 568-573 (2005);
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小児の睡眠中の呼吸の特徴を述べ,小児の睡眠時無呼吸を分類したうえで,小児の閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断,疫学,合併症(成長障害,高次機能障害,高血圧,糖代謝,覚醒反応),いびき症の潜在的な健康被害,治療について述べた.本症の多くはアデノイド 扁桃の摘除術で改善するが,再発例もけっして少なくはない.扁桃アデノイド肥大のない例の原因,思春期以降の本症の発現との関連も未解決である.本症の病態はアデノイド扁桃の肥大という物理学的な要因でのみ説明できるわけではない.本症の病態生理には未解決の問題点が山積しているこ
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医学のあゆみ 214巻6号, 574-578 (2005);
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睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)はインスリン抵抗性あるいはメタボリックシンドロームとよばれる病態を介して高血圧症や糖代謝異常,冠動脈疾患,脳血管障害を合併することが多い.SASとこれらの病態や疾患を結ぶ因子として炎症性サイトカインや心血管障害関連物質(TNF−α,IL−6,レプチン,PAI−1,高感度CRPなど)の関与が想定されている.これらの液性因子の異常は無呼吸に伴う低酸素/再酸素化による活性酸素の発生がトリガーとなり,低酸素・活性酸素感受性の転写因子の活性化が誘
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■診断
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医学のあゆみ 214巻6号, 581-587 (2005);
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睡眠障害の検査はポリソムノグラフィー(polysomnography:PSG)が標準的な検査法であり,脳波,眼電図,筋電図により睡眠段階,覚醒反応を判定し,口・鼻の気流,胸・腹部の呼吸運動,動脈血酸素飽和度により無呼吸,低呼吸などの呼吸障害の判定を行う.そのほか,周期性四肢運動を判定するための下肢筋電図,いびきセンサ,体位センサ,心電図などからなる.PSGは多大な労力とコストを要するため,呼吸,循環系の測定項目に絞った簡易モニタ(portable monitoring device)を用いることがある.簡
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医学のあゆみ 214巻6号, 588-591 (2005);
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睡眠呼吸障害の評価において終夜睡眠ポリグラフ検査は重症度を判定するのに役立つ.しかし,重症度の判定だけでは病態を完全に把握することは困難であり,経時的な上気道の形態変化を考慮することが病態の解明に重要である.現在当科では3D−CTによるバーチャルエンドスコピーやdynamic MRIを行い手術加療の適応を判断している.バーチャルエンドスコピーは睡眠中の内視鏡挿入の刺激がないまま上気道の形態が確認され,SAS患者では健常人に比べ上気道容積が小さかったことがわかった.また,dynamic MRIでは左右要素の
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医学のあゆみ 214巻6号, 592-596 (2005);
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閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の診断にあたってはいくつかの鑑別すべき疾患が存在する.とくに睡眠時呼吸障害のなかでイビキと中途覚醒が頻発する上気道抵抗症候群,心不全状況下で睡眠中に呼吸量の漸増・漸減を繰り返すチェーンストークス呼吸は重要な存在である.また,OSAS同様二次性過眠を呈する周期性四肢運動障害も中高年層では無視できない病態である.一方で,原発性過眠症(ナルコレプシーや特発性過眠症)は若年発症することが多いのが特徴である.SASではまれならず中途覚醒時に窒息感を生じるが,これについてはパニック
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■治療
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医学のあゆみ 214巻6号, 599-604 (2005);
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経鼻持続気道陽圧(nasal continuous positive airway:nCPAP)療法は高血圧,虚血性心疾患などの脳心血管障害または日中の過度の眠気などの何らかの臨床症状のある軽中等度以上の閉塞型睡眠時無呼吸・低呼吸症候群(OSAHS)およびCPAPの効果が見込める心不全によるチェーンストークス呼吸(CSR)患者の標準的な治療法である.OSAHSにより障害された認知力,QOL,OSAHS関連の日中の過度の眠気,交通事故発生率の増加,高血圧をはじめとする脳心血管障害,糖耐能の悪化,健康関連費用
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医学のあゆみ 214巻6号, 605-611 (2005);
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歯科では閉塞型睡眠時無呼吸症候群は,単純いびき症,上気道抵抗症候群と同じいびき症の一病態と考えられている.この三病態は連続的で,どれも口腔咽頭部の気道の狭窄によって発症し重症化するため,上気道の診断が不可欠で,もし怠れば,海図も羅針盤ももたずに大海を渡るに等しい.上気道の診断には,上気道を構成する骨格や軟部組織の異常を診断し,計測値から重症度を予測して睡眠ポリグラフの妥当性まで確認することができるセファログラムが推奨される.いびき症の治療は第一世代(バイパス),第二世代(過剰軟部組織の除去),第三世代(骨
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医学のあゆみ 214巻6号, 612-617 (2005);
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耳鼻科医は睡眠時無呼吸症候群(SAS)に対して外科的治療を行う.研究がはじめられた当初は手術適応が曖昧であったため,けっしてよい治療成績ではなかった.その後の追跡により解明した見解について述べる.治療に際し,小児と成人に分別する必要がある.小児は検査値に頼らずに症状による診断が重要である.陥没呼吸や胸郭変形を認めた小児は早急の手術を要する.小児の場合,アデノイドや扁桃肥大がSASの主因である.これに対して成人はまず睡眠検査により重症度分類をするべきである.重症例について,あえて手術する場合もあるが,一般的
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医学のあゆみ 214巻6号, 618-626 (2005);
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日本人における閉塞型睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の特徴のひとつは,BMI>25を超えると軽度の肥満でもOSASを合併しやすいこと,またBMI<30の軽度肥満のOSASが多いということである.肥満はOSASすべての誘因ではないが,かなりの症例では肥満がOSASの悪化に関与している.肥満の治療によりOSASからの離脱に成功する症例もある.OSASに対する治療の基本は肥満に対する食事療法,運動療法と併用した薬物療法である.強調すべき点は薬物療法のみでは肥満の治療は困難ということである.さらに,無呼吸を悪化させ
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■予後
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医学のあゆみ 214巻6号, 629-632 (2005);
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睡眠時無呼吸症候群(SAS)の予後,とくに死亡率を左右するのは虚血性心疾患や脳卒中などの血管イベントである.高血圧とSASの間には肥満や年齢などに影響されることのない独立した関与を示す強力なエビデンスがあり,さらに虚血性心疾患,脳血管障害,不整脈の有病率,交通事故率などへのSASの関与に関する証拠も蓄積されつつある.SAS患者集団における総死亡率は5〜8年間で6%程度とされるが,無治療の集団では30%以上に達する.とくに50歳未満の中年人口で死亡率が高く,同程度の病状を有する高齢SAS群よりも予後が悪い.
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■その他・TOPICS
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医学のあゆみ 214巻6号, 635-640 (2005);
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睡眠時無呼吸症候群は,睡眠時に繰り返す呼吸障害による低酸素血症とそれに続く覚醒反応による睡眠障害を特徴とする.職域においては,作業中の眠気や居眠り,集中力低下などによる事故や生産性の低下のほか,労働者の健康障害による労働力の低下が懸念される.職域における取組みとしては,できるだけ精度の高い方法でスクリーニングを行うことによって早期発見・早期治療に努めることと,診断された病状に応じて労働者の健康障害防止を目的とした就業上の配慮を行うことといった労働衛生管理が重要である.これらについて企業産業医の立場から職域
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医学のあゆみ 214巻6号, 641-644 (2005);
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睡眠時無呼吸症候群を専門に診療する施設を睡眠クリニックとよぶことが多い.睡眠ポリグラフ検査施設を有し,持続経鼻陽圧呼吸補助装置を用いる治療方法(CPAP療法)を実施している.CPAP療法の健康保険給付に基づいて運営されている.標榜科目は,内科,耳鼻咽喉科,精神神経科などである.受診者は30代後半から60代前半の働く男性が大部分を占める.睡眠状態の記録と判定,治療法の選択,CPAP療法の実施,その後の健康管理がそのおもな役割である.CPAP療法の適応とならない症例については歯科と,扁桃腺肥大の著しい症例は耳