医学のあゆみ
Volume 214, Issue 7, 2005
Volumes & issues:
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あゆみ 疾患感受性をさぐる──遺伝子変異と分子進化
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トリプレットリピート病と蛋白質の進化
214巻7・8号(2005);View Description Hide Description翻訳領域に存在するトリプレットが伸長することで発病する一群の疾患の発症メカニズムが明らかになりつつある.また,特殊なポリアミノ酸(とくに,疎水性アミノ酸)の性質によって細胞死が引き起こされることがわかってきた.同時に,ヒトゲノムの解析から蛋白質の進化的な観点からも興味深い知見が得られている. -
2型糖尿病感受性遺伝子──カルパイン10遺伝子の分子進化
214巻7・8号(2005);View Description Hide Description2型糖尿病など生活習慣病の感受性遺伝子アリルはもともとエネルギー保存に有利であったが,飽食時代の現代においては逆に疾患を惹起すると考えられている.この観点からこれらの感受性遺伝子は倹約遺伝子とよばれ,感受性アリルは“ありふれた疾患ではその原因となる突然変異は家系が違っていても共通のものが多いであろう”という共通祖先遺伝子仮説に基づいて同定される.この過程で多民族を用いた詳細な多型解析が必要であり,感受性遺伝子の分子進化の様子がとらえられるのである.多遺伝子で非Mendel型の糖尿病,高血圧,肥満などの生活習慣病,すなわちcommon disease(ありふれた病気)の遺伝学的解析に現在SNPsが有用とされているが,単一SNPsを用いた多くの関連研究の成績は,集められた集団の民族差,環境因子,疾患分類,ミスタイピングなどの影響を受けやすく,かならずしも結果が一致しない.そこでハプロタイプ,すなわち数個のタグSNPsを同時に解析する方法がよく用いられるが,この方法論により世界で最初に2型糖尿病の感受性遺伝子として同定されたのがNIDDM1(カルパイン10)である. -
ビタミンCと尿酸──偽遺伝子の生物学的意義
214巻7・8号(2005);View Description Hide Description近年の医学の進歩により,個々の疾病の原因を分子のレベルあるいは遺伝子のレベルで明らかにすることができるようになった.しかし,なぜそのような疾病に罹患するのかについて理解するには,分子や遺伝子のレベルだけでなく進化学的な視点からの考察が必須となる.通風は血中の高濃度の尿酸が,壊血病はビタミンCの不足が原因となる疾患である.これらの疾患はヒトを含む類人猿あるいは霊長類で尿酸やビタミンCの代謝に関連する経路のある酵素遺伝子〔通風ではプリン代謝経路の尿酸酸化酵素(UOX),壊血病ではビタミンC合成経路のLグロノガンマラクトン酸化酵素(GLO)の遺伝子〕が機能的に欠損していることに起因する.類人猿でUOX遺伝子やGLO遺伝子に起こった機能的欠損の原因とそのような欠損遺伝子がなぜ進化的に受け入れられたのか,偽遺伝子化の生物学的意義について解説する. -
本態性高血圧感受性遺伝子アンジオテンシノーゲン遺伝子の多様性と自然選択
214巻7・8号(2005);View Description Hide Description本態性高血圧感受性遺伝子であるアンジオテンシノーゲン遺伝子プロモーター多型A(−6)Gのallele頻度分布は人類の歴史における自然選択の影響を示唆している.本稿では世界各地より収集された16集団,368人のDNAを詳細に解析することによりアンジオテンシノーゲン遺伝子と自然選択のかかわりについて紹介する.著者らの解析したヒト集団は,アフリカ系,中東・ヨーロッパ系,アジア系の3つの系統に分類されるが,中東・ヨーロッパ系ではアフリカ系からの系統間距離が大きくなるにつれ,(−6)G allele頻度が高くなる.(−6)G alleleは塩分摂取と高血圧の関係から考えると本態性高血圧を発症しにくいalleleであり,霊長類のDNA解析よりヒト集団で出現した変異であることがわかっている.中東・ヨーロッパ系集団では(−6)G alleleは生存環境に有利なalleleであり,自然選択によりその集団での頻度が高まっている可能性が示唆される. -
βグロビン遺伝子に作用する正の自然淘汰──HbE変異とマラリア抵抗性
214巻7・8号(2005);View Description Hide Descriptionある疾患に罹患することが生存上不利であれば,その疾患の感受性変異が集団中に広まり対立遺伝子頻度が増加する可能性はきわめて低い.しかし,疾患感受性変異のなかには正の自然淘汰によってその対立遺伝子頻度を増加させてきたものがある.淘汰圧が強ければ,対立遺伝子頻度は急速に増加するため,疾患感受性変異と周辺の多型マーカーとの間には強い連鎖不平衡が観察される.そのため,自然淘汰の痕跡を変異周辺の連鎖不平衡構造に見出すことができる.本稿では,ヘモグロビンE症の原因変異であるにもかかわらず,マラリア抵抗性という正の自然淘汰によって東南アジア集団に広まったHbE変異を例に,自然淘汰が連鎖不平衡構造に与える影響を解説するとともに,連鎖不平衡解析の結果に基づいてHbE変異の誕生時期を推定する方法について紹介する.
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フォーラム
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TOPICS
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- 循環器内科学
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- 内分泌・代謝学
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- 腎臓内科学
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連載 五感の生理,病理と臨床
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7.アロマセラピー
214巻7・8号(2005);View Description Hide Descriptionアロマセラピーはエッセンシャルオイルを用いて疾患の治療や症状の緩和をはかる治療法のひとつである.医療だけでなく,看護や介護の場でも広く用いられている.エッセンシャルオイルには,抗菌作用,抗ウイルス作用,抗炎症作用,鎮静作用,抗不安作用などさまざまな薬理作用があるので,アロマセラピーは産婦人科疾患,皮膚疾患,上気道感染症,心身症,疼痛管理,ストレス管理などにおいて有用である.アロマセラピーの方法としては,芳香浴,吸入,内服,アロマバス,マッサージなどがある.このうち,アロママッサージはもっとも効果が高い.アロママッサージにより効率よくリラクセーションを誘導することができる.アロマセラピーはまだ科学的根拠が確立しているわけではなく,今後レベルの高い臨床試験が重要となってくる.アロマセラピーはあくまでも補完的であり,他の療法と組み合わせることで,理想的な医療の実現に貢献できる.
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注目の領域
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