Volume 214,
Issue 10,
2005
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9月第1土曜特集【薬物性肝障害をめぐって】
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医学のあゆみ 214巻10号, 763-764 (2005);
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医学のあゆみ 214巻10号, 765-769 (2005);
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日常診療を行ううえで,肝障害を認める症例を診察する機会は少なくなく,それらのなかで,薬物による肝障害は比較的多い.最近では医師による処方薬,市販薬のみならず,安全であるという認識のもとに服用されている健康食品ややせ薬といった民間薬による死亡例も含む重篤な肝障害の報告も散見され,社会的にも問題となっている.ここでは薬物性肝障害の全国規模の調査報告をもとに,わが国での薬物性肝障害の実態を紹介する.
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■薬物性肝障害の診断基準をめぐって
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医学のあゆみ 214巻10号, 773-778 (2005);
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これまでわが国における薬物性肝障害の診断基準としては,1978年に“薬物と肝”研究会から提起されたものが用いられてきた.しかし,この診断基準はアレルギー機序による薬物性肝障害に対してのものであり,近年問題視されている代謝の特異体質に基づく薬物性肝障害には当てはめられない.海外では1993年に国際コンセンサス会議の薬物性肝障害の診断基準が提唱され,その有用性が認められている.その後,DDW−J 2002シンポジウムで,この診断基準をわが国の現況に従って薬物リンパ球刺激試験(DLST)や好酸球増多の項目を加え
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医学のあゆみ 214巻10号, 779-784 (2005);
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薬物性肝障害の診断において,わが国では1978年以来,“薬物と肝”研究会の判定基準を採用してきた.この診断基準はアレルギー機序による薬物性肝障害に対する診断基準であり,薬物リンパ球刺激試験(DLST)またはチャレンジテストが陽性でないと確診と診断されない.しかし,近年の漢方薬あるいは健康食品などの起因薬物の変化,アレルギー症状のある症例の減少,多剤併用症例の増加などにより,診断に苦慮する症例は少なくない.そのために,アレルギー機序によらない肝障害も診断できる,あらたな診断基準の作成が望まれていた.一方,1
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医学のあゆみ 214巻10号, 785-790 (2005);
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薬物性肝障害はウイルス肝炎と異なり,明らかなマーカーがないため,診断には薬剤服用歴や既往歴が重要である.本症は薬物反応の点から中毒型と過敏型に,病型の点から急性型(肝細胞障害型,胆汁うっ滞型,混合型)と,慢性型(肝細胞障害型,胆汁うっ滞型,脂肪化,血管病変,腫瘍形成)に分類される.薬物性肝障害急性型の病理形態の特徴は,炎症,胆汁うっ滞,D−PAS陽性Kupffer細胞の動員など病変がzone 3を主体とすることである.急性期の肝生検で小葉間胆管傷害を80〜90%認めた症例では慢性の経過で黄疸が持続し,小葉
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医学のあゆみ 214巻10号, 791-795 (2005);
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薬物性肝障害の診断には詳細な病歴聴取と臨床経過が重要であるが,免疫学的機序による肝障害の補助診断法として薬物リンパ球刺激試験(DLST)が従来から用いられてきた.2004年のDDW−Japanにおいてわが国の新しい診断基準にも同検査の結果が取り入れられ,それが新基準の特徴にもなっている.一方,1999年に行われた全国集計でのDLST陽性率は45.67%と低いことが明らかとなっており,その原因としては手技上の問題だけでなく,刺激源として薬物そのものを用いていることが考えられる.すなわち,多くの薬物は,それ自
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■各治療薬と薬物性肝障害
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医学のあゆみ 214巻10号, 799-803 (2005);
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糖尿病治療薬による肝機能障害について最近の知見を紹介する.肝障害が多発したトログリタゾンについてはその苦い経験から多くの知見が得られた.肝障害はある特定の個人に起こり,服薬から肝障害発症までの期間が数カ月と比較的長く,アレルギー症状に乏しい肝障害であった.これらの特徴は薬物代謝に関する個人的特質(idiosyncrasy)という言葉で表現される.アカルボースについても肝障害の機序はidiosyncrasyといわれる.Idiosyncrasyの本質を明らかにするために,薬物代謝に関連する遺伝子の一塩基多型(
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医学のあゆみ 214巻10号, 805-810 (2005);
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日常臨床において化学療法の経過中にしばしば肝機能の悪化に遭遇する.すべての薬剤はその発生頻度,重症度に差はあるものの肝障害を引き起こす可能性がある.とくに複数の薬剤が投与されることが多い化学療法時に肝障害の原因を特定することは難しく,さらに悪性腫瘍自体の変化,全身状態の変化,他の感染症の合併なども考慮する必要がある.そのため,化学療法を行う際には,投与前に肝炎ウイルス検査を含めた肝機能検査を十分検討し,抗癌剤の種類,投与量の選択を行い,投与中は血液検査などによる慎重な観察を行う必要がある.一般的に抗癌剤に
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医学のあゆみ 214巻10号, 811-817 (2005);
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一般に抗痛風薬の副作用の頻度は低いとされていたが,近年その副作用による重篤な肝障害についていくつかの報告がなされている.尿酸排泄促進薬であるBenzbromaroneは遺伝的異常薬物代謝性肝障害の関与で劇症肝炎を発症すると致死率が高いことが報告されている.一方,尿酸生成抑制薬であるAllopurinolはアレルギーの関与でのDIHS(drug−induced hypersensitivity syndrome)に合併する肝障害が報告されている.痛風患者は増加傾向にあり,抗痛風薬の使用にあたっては使用適応や
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医学のあゆみ 214巻10号, 818-826 (2005);
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向精神病薬や抗てんかん薬は臨床使用されてからの期間が長く,副作用としての肝障害の頻度も高いため,その臨床的特徴はもとより,発症機序についての報告も多い.近年,新しく臨床に導入された薬物が臨床上問題となることが増えてきたが,個々の新薬についてのまとまった評価はまだ得がたい.そのため臨床医は,歴史的にみても副作用としての肝障害の報告の多い古典的向精神病薬や抗てんかん薬を使用する場合,最低限の薬物性肝障害の知識をもつべきである.この種の薬物は酵素誘導作用により,無症候性のγ−GTP上昇をきたすことがある.向精神
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医学のあゆみ 214巻10号, 827-831 (2005);
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民間薬や中国製やせ薬と異なり,保険収載されている“漢方薬”はわが国で規格がはっきり規定されている薬物である.漢方薬全体では0.1%程度に肝障害がみられ,比較的肝障害が多い漢方薬でも0.6%程度であると考えられる.著者らの調査では発症までの服用期間は3日〜2カ月間(平均3.6週間)で,胆汁うっ滞型・肝細胞障害型・混合型のいずれの型もみられ,劇症化や死亡例はなく全例が3〜10週間(平均6.7週間)で回復していた.発熱や皮疹・そう痒の合併はなく,6%以上の好酸球増多は33.3%であった.漢方薬に対する薬物リンパ球刺激試験(DLST)が偽陽性となりやすいことは多くの研究から明らかであり,副作用診断の診断根拠にDLSTを用いるべきではない.薬物性肝障害の新しい診断基準案でもスコアリング項目にDLSTが含まれており,漢方薬などのDLST偽陽性となりやすい薬物の場合は注意が必要である.
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医学のあゆみ 214巻10号, 832-837 (2005);
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近年の美容・健康ブームのもとインターネットによる個人輸入を含む購入の手軽さも後押しして,健康食品や民間薬(本稿では処方薬ではない市販などの漢方薬や生薬を示す)を摂取する人口は増加傾向にあると推測される.2002年7月の中国製ダイエット用健康食品による劇症肝炎の報道を契機に,一般的に薬物としての認識の薄い健康食品や民間薬によっても肝障害を起こしうることは周知のこととなりつつある.また,医薬品成分が検出されなかった“いわゆる健康食品”や“中国製のいわゆる漢方薬”による深刻な健康被害も報告されている.薬物性肝障
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医学のあゆみ 214巻10号, 839-843 (2005);
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降圧薬による薬物性肝障害は従来よりメチルドーパが広く知られてきたが,処方頻度が低下したため報告は少ない.最近,汎用されているCa拮抗薬,アンジオテンシンII受容体拮抗薬,ACE阻害薬の安全性は高いが,これらの降圧薬によってきわめてまれではあるが薬物性肝障害が報告されている.薬物性肝障害は,降圧薬によってもそう痒感,褐色尿,持続する食欲不振,右上腹部痛,不明熱をもって発症する.肝機能検査をただちに行い薬物性肝障害を診断し,該当する薬剤をただちに中止する必要がある.大部分の症例は該当する降圧薬を中止することで回復するが,一部の症例は中止しても肝障害が持続し死に至る.降圧薬による薬物性肝障害は副作用として,文献上の記載がなくとも日常臨床では過小評価すべきでなく,とくに受診間隔の長い降圧薬服用患者では,患者との連絡を密にして早期にその診断を行うことが重要である.
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医学のあゆみ 214巻10号, 845-850 (2005);
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抗菌薬による肝障害は,わが国でもっとも多くみられる薬物性肝障害である.原因抗菌薬は多様で,入院を要する薬物性肝障害はセフェム系やキノロン系で多く報告されているが,これらの薬物による重症肝障害の発生頻度は低いとされている.わが国でこれらの薬物を使用する機会が多いために,入院を要する肝障害も多く報告されているものと考えられる.重症肝障害を発症する可能性の高い抗菌薬はミノサイクリンで,長期投与時には自己免疫性肝炎類似の病態を呈することがある.抗結核薬による肝障害の多くはイソニアシドが起因薬物であり,リファンピシ
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医学のあゆみ 214巻10号, 851-856 (2005);
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抗リウマチ薬(DMARD)治療中には肝機能障害がしばしばみられる.その原因には,薬剤自身によるもの,薬剤性過敏症候群(DIHS),肝炎ウイルスの再活性化などが含まれる.メトトレキサート(MTX)による肝酵素上昇は用量依存性で,体重当りの投与量が0.15 mg/kgを超すと頻度が増える.葉酸欠乏によるもので,口内炎や消化器症状のような他の用量依存的副作用と同時に起こりやすい.葉酸製剤の併用で改善するので,MTX投与は継続できる.レフルノミドはピリミジン代謝を阻害する新規DMARDであるが,ときに黄疸を伴う重
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医学のあゆみ 214巻10号, 857-862 (2005);
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抗甲状腺薬は甲状腺機能亢進症の治療に欠かせない薬剤であるが,高頻度に軽度肝機能異常を生じる.高度肝障害は少数であるが,ごくまれに死亡・肝移植に至る.これらの肝障害はそれぞれ異なるメカニズムで発生すると考えられるがその詳細は不明である.甲状腺ホルモン過剰下では酸化ストレスの増強などによって肝障害性因子に対する感受性が高まっている.一方,甲状腺機能低下状態ではさまざまな肝障害因子に対する抵抗性が示されており,抗甲状腺薬のアルコール性肝障害への臨床応用の報告など薬物性肝障害治療薬としての可能性も考えられる.
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■薬物性肝障害病態解明の進歩
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医学のあゆみ 214巻10号, 865-869 (2005);
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薬物性肝障害は中毒性(用量依存性,予測可能)と,薬物に対する特異体質によるもの(予測不可能)に大別されるが,いずれにおいても薬物代謝が発症に大きく関与する.近年,アレルギー症状を伴わない薬物性肝障害が増加しつつあり,薬物代謝の個体差に起因すると思われる症例も多い.これらの点を考慮して,わが国においても新しい診断基準が利用されはじめている.本稿では,肝における薬物代謝の中心であるチトクロームP450(CYP)を介する薬物性肝障害の発症機序と,CYPをはじめとする薬物代謝関連酵素の遺伝的多型が肝障害のリスクを
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医学のあゆみ 214巻10号, 871-875 (2005);
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免疫反応は生体防御反応のひとつとして位置づけられているが,化学物質あるいは薬物などにより生体分子が修飾を受け,過度に免疫反応の増強が生じる,あるいは逆に免疫反応の抑制機構に破綻がもたらされるとアレルギーや自己免疫疾患などの疾病を引き起こすこととなる.薬剤の多くは肝の薬物代謝酵素(肝チトクロームP450:CYPs)で代謝され,代謝過程で生じた活性代謝物が免疫原性を獲得して免疫反応を惹起することとなる.薬物の服用によって引き起こされる肝障害には,自己抗体が出現し,自己免疫性肝炎(AIH)との鑑別が問題となるよ
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医学のあゆみ 214巻10号, 877-881 (2005);
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薬物性肝障害の機序のひとつに酸化ストレスがある.中毒性のものでは酸化ストレスが主であり,量依存性に肝障害を起こす.アセトアミノフェンはその代表的な薬物であり,その機序も詳細に研究されている.酸化ストレスによりミトコンドリアの障害をきたすこともアポトーシスやネクローシスをきたす機序のひとつと考えられている.酸化ストレスの結果,免疫学的な機序により細胞障害をきたしたり,免疫学的な機序で起こる肝障害においても細胞障害性をきたす時点で酸化ストレスが関与するなど,酸化ストレスはあらゆる肝障害の細胞障害性に関与してい
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医学のあゆみ 214巻10号, 882-887 (2005);
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わが国の劇症肝炎,LOHFは,生活習慣病,悪性腫瘍など基礎疾患を有する症例が増加しており,その多くは薬物が投与されている.薬物歴を有する患者の比率は,劇症肝炎急性型37%,亜急性型45%,LOHF 50%であったが,臨床経過またはリンパ球刺激試験によって成因が薬物性と診断された症例は全体の10%であり,病型別では急性型6%,亜急性型11%,LOHF 19%にすぎなかった.原因薬物としては健康食品やサプリメントが増加する傾向がある.なお,薬物性症例の内科的治療での救命率は,急性型68%,亜急性型28%,LO
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医学のあゆみ 214巻10号, 888-892 (2005);
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NASH(nonalcoholic steatohepatitis)は,ウイルス性肝疾患,自己免疫性肝疾患,既知の先天性代謝性肝疾患が除外された脂肪肝を特徴とする原因不明の慢性肝障害であり,飲酒歴が乏しいにもかかわらず肝組織像はアルコール性肝炎に酷似するのが特徴である.肥満を背景に発症する原発性NASHと,原因が特定されている二次性NASHに分類される.薬物性NASHの発症機序として,直接毒性による肝細胞ミトコンドリアにおけるATP産生抑制や脂肪酸代謝異常,あるいはインスリン抵抗性や肥満,糖尿病などNAS
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■薬物性肝障害の診療における問題点
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医学のあゆみ 214巻10号, 895-900 (2005);
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薬物性肝障害は,薬物療法を継続する過程において発現する副作用である.薬剤使用の頻度や,薬剤の種類が増加する近年,本疾患は増加してきている.以前とは誘因となる薬剤も変化してきており,抗菌薬や抗生物質がもっとも多く,ついで鎮痛解熱剤が多い.近年,代謝調節剤,抗癌剤などによるものも増えてきており,さらに健康食品,漢方薬,ビタミン剤などの一般薬でも起こり問題となっている.また,これらにより重篤化,劇症肝炎による死亡例なども報告される.薬物性肝障害はアレルギー性と中毒性の2つの発生機序に分けられる.最近では特異体質
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医学のあゆみ 214巻10号, 901-905 (2005);
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小児における薬物性肝障害の頻度は成人に比べて少ないとされる.しかし,小児本症の発生頻度に関する信頼すべき報告はないし,その診断基準も確立されていない.薬物代謝は,新生児,幼弱乳児ばかりでなく,思春期に至るまで発達過程にあり,薬物に対して成人とは異なる機能をもっている.したがって,小児の薬物性肝障害に対して成人とは異なる診療基準が必要である.小児肝臓学を専門とする者は,臨床薬理学者,病理学者,統計学者などを含む共同研究によって,小児に適した薬物性肝障害の診断基準を提示しなければならない.
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医学のあゆみ 214巻10号, 907-911 (2005);
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肝疾患,とくに肝硬変では薬物の代謝能が低下している.このため肝疾患患者に対して薬物を投与すると薬物あるいは中間代謝産物による薬物性肝障害が起こりやすく肝不全になる危険性がある.また,常用量の投薬でも血中濃度が中毒量となり,思わぬ副作用が生じることがある.また,併用薬による薬物代謝の亢進あるいは阻害により投与薬物の効果が低下する場合,逆に増強して副作用が増加する場合がある.このように肝疾患患者に薬物を投与する場合には肝機能や併用薬などを考慮して投薬量を決めなければならないが,個人差が大きく基準がないのが現状