医学のあゆみ
Volume 217, Issue 1, 2006
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4月第1土曜特集【メタボリックシンドローム 2006-2007:REVISIT】
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- 分子病態研究の新展開──代謝面と血管面のクロストーク
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アディポカイン:代謝の面から──インスリン感受性を制御し,メタボリックシンドローム発症にかかわるアディポカイン
217巻1号(2006);View Description Hide Description高脂肪食負荷など肥満が惹起される状態では脂肪細胞の肥大化が認められ,インスリン抵抗性を惹起するTNF−αやレジスチン,FFAがといったアディポカインの発現・分泌が増加し,骨格筋や肝でインスリンによる細胞内シグナル伝達が障害され,抵抗性が惹起される.AMPキナーゼやPPARα活性化の代謝作用を伝達するアディポネクチンの受容体AdipoR1・R2も肥満では低下を認め,血中アディポネクチンの低下と相まってインスリン抵抗性が惹起される.PPARαアゴニストはAdipoR1・AdipoR2の発現を増加させた.高活性 -
アディポカイン:血管の面から──心血管病治療の分子標的・メタボリックシンドロームのあらたな病態評価マーカーとしてのアディポサイトカイン
217巻1号(2006);View Description Hide Descriptionメタボリックシンドロームは,急性冠症候群に代表される動脈硬化性血管病の基となる病態である.ウエスト周囲径増大が国際的に診断基準の必須項目となっているのは,内臓脂肪過剰蓄積が病態の上流に位置するためである.“なぜ内臓脂肪組織の過剰蓄積が血管病につながるのか”という疑問に対する答えが,脂肪組織が分泌する“アディポサイトカインの異常”である.アディポサイトカインには,内臓脂肪過剰蓄積に伴って増加する多くの炎症惹起性因子と,唯一減少するアディポネクチンがあり,アディポネクチンには炎症性分子と拮抗し血管病を抑制する作用があることがつぎつぎと明らかになっている.耐糖能異常・高血圧・脂質代謝異常に加え,アディポサイトカインの異常を念頭におくことが,メタボリックシンドロームの病態を理解するうえで重要である.アディポネクチンは病態評価のよい指標となるとともに,血管病治療のターゲット分子となることが期待される. -
炎症・ストレス:代謝の面から──脂肪組織・肝における炎症・ストレスとメタボリックシンドローム
217巻1号(2006);View Description Hide Descriptionメタボリックシンドロームや2型糖尿病では,肥満とそれに伴う持続的な炎症反応が病態の鍵を握っていることが知られるようになってきた.実際,肥満の状態では脂肪組織にマクロファージが浸潤して脂肪細胞を活性化し,さまざまなアディポカインの分泌を増大させることがメタボリックシンドロームの病態形成に重要であるといわれている.また一方で,脂肪細胞や肝での酸化ストレスやERストレスがインスリン抵抗性の形成に必須であることが知られるようになってきており,メタボリックシンドローム治療の創薬ターゲットとしてもこれらのメカニズムに注目が集まっている. -
炎症・ストレス:血管の面から──メタボリックシンドロームにおける動脈硬化予防をめざした薬物治療法の可能性
217巻1号(2006);View Description Hide Descriptionそれぞれ独立した動脈硬化性疾患の危険因子である糖尿病,高血圧,高脂血症,肥満の重複が動脈硬化性疾患のより高頻度の発症や重症化を引き起こすことが,多くの臨床疫学研究により明らかにされ,複数の動脈硬化危険因子を合併する病態がメタボリックシンドロームという概念でとらえられるようになってきた.メタボリックシンドローム罹患患者数の増加とともに,メタボリックシンドロームにおける重要な生命予後規定因子である動脈硬化性疾患の予防に向けた治療法確立が急務となっている.メタボリックシンドロームにおいてはインスリン抵抗性が合併する糖代謝異常や血管障害の発症に重要な役割を果たしているが,アンジオテンシン㈼受容体拮抗薬あるいはアンジオテンシン変換酵素阻害薬を用いたアンジオテンシン㈼シグナルの遮断はこれらを改善することが,臨床・基礎研究の両面から明らかにされつつある.一方,HMG−CoA還元酵素阻害薬であるスタチンは高脂血症改善作用と脂質低下作用を介さない多面的心血管保護作用をもち動脈硬化抑制作用が期待される. -
転写因子:代謝の面から──PPARαとSREBP-1cによる栄養代謝と病態
217巻1号(2006);View Description Hide Descriptionメタボリックシンドロームに関する分子病態研究が急速に展開している.臨床的にはその病態の足場や評価項目の利便性の違いにより診断基準をめぐって多少の混乱があるが1 3),動脈硬化リスク管理のためリスク重積の病態を早期に拾いだす重要性は共通の認識である.分子メカニズムの研究では根底の共通病態としてインスリン抵抗性と内臓脂肪が注目されてよく対比されるが,両者も不可分の関係にあるといえる.“症候群”の呼称のとおり,ひとつの分子やメカニズムで単純に説明することは不可能であるし,また誤謬を招く危険性を認識すべきである.さまざまな病態の分子メカニズムをひとつひとつ解明して全体像を明らかにしていくことが本症候群の確立と理解に必要であり,また治療法の開発に重要である.病態の理解のため,現状では個々の関連遺伝子の機能の変化を追求していくことになるが,メタボリックシンドロームは比較的長い期間にわたって慢性的に持続する遺伝子機能の変化としてとらえることができる.エネルギー代謝を担う酵素群は,長期的な制御の場合,遺伝子の発現がmRNAレベル,とくに転写レベルで調節されることが多い.そこでエネルギー代謝酵素の転写調節を上流で制御している転写因子の作用が重要となる(図1). -
転写因子:血管の面から──血管と脂肪の両者を制御する転写因子KLF5
217巻1号(2006);View Description Hide Descriptionメタボリックシンドロームは動脈硬化性疾患の重大なリスク要因であり,その臨床的帰結としては虚血性心疾患が重要である.メタボリックシンドロームの基盤として肥満があることから,脂肪組織と血管との臓器連関の存在が推測されている.脂肪組織から分泌されるアディポサイトカインが直接・間接に血管へと作用することが報告されているが,細胞の遺伝子発現制御機構である転写因子に関しても脂肪などの代謝臓器と血管の両者で共通して機能するものが存在することが明らかになってきており,メタボリックシンドロームと動脈硬化の病態の発症・進展では共通した細胞・組織の応答が生じている可能性がある. - 診断基準・診断法の新展開
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メタボリックシンドロームの診断基準
217巻1号(2006);View Description Hide Descriptionメタボリックシンドロームの治療は動脈硬化性疾患の予防を目標に据えたものであり,その診断は動脈硬化性疾患のハイリスク群を抽出し,予防介入を行うためのものである.メタボリックシンドロームの各危険因子の源流に存在する内臓脂肪蓄積の解消が重要であり,内臓脂肪蓄積に引き続くアディポサイトカイン,とくにadiponectinの分泌異常が直接・間接的に動脈硬化に影響を及ぼしていることが判明している.2005年に発表されたメタボリックシンドロームの診断基準はその成因論と日常臨床上の有用性の両面から検討され,腹部肥満の重要性を考慮し,BMIでは判定せず,ウエスト周囲径によって肥満を判定し,メタボリックシンドロームの診断における必須条件としている.過栄養,運動不足がメタボリックシンドロームを惹起している背景からライフスタイルの改善,腹腔内脂肪の減少が治療の基本である. -
診断基準をめぐる問題点
217巻1号(2006);View Description Hide Description中心性肥満とインスリン抵抗性を基盤として糖尿病・高脂血症・高血圧など動脈硬化性疾患のリスクファクターが重積した状態はメタボリックシンドロームという新しい概念を生み出した.最近,増加してきている脳血管障害や心血管病などの動脈硬化性疾患による死亡を抑制するためにもメタボリックシンドロームを早い段階で的確に診断することが大切である.しかし,これまでに発表されている診断基準はかならずしも診断項目や基準値が一致しておらず,メタボリックシンドロームの定義ははっきりしていない.また,診断基準はすべての人種における心血管疾患の発症リスクを正しく予測しているとはいえず,とくに欧米人のデータをもとに構築されたメタボリックシンドロームの概念と診断基準が果たして日本人の心血管疾患発症リスクの評価に有用であるか検討する必要がある.WHO・NCEP−ATP㈽・IDF基準による日本人の心血管疾患発症リスクの評価に関する報告をとおして,現在のメタボリックシンドローム診断基準をめぐる問題点について解説した. - 最新治療エビデンス
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糖代謝:PROactive
217巻1号(2006);View Description Hide DescriptionPROspective pioglitAzone Clinical Trial In macroVascular Events(PROactive)は,世界ではじめて糖尿病患者を対象に大血管障害を真のエンドポイントとした糖尿病治療薬の大規模スタディである.ヨーロッパ19カ国,321施設から登録された5,238例をピオグリタゾン群2,605例とプラセボ群2,633例に無作為に割付け,2.5〜4年(平均3年)観察した.無作為化から総死亡,非致死性心筋梗塞,脳卒中のいずれかのイベントが最初に起こるまでの期間をエンドポイントとした最重要副次評価において,ピオグリタゾン群はプラセボ群に比較して16%(p=0.027)の発現率の低下,absolute risk reduction 2.1%を示した.また,ピオグリタゾン群ではインスリン注射の新規導入が53%(p<0.0001)少なかった.このように,ピオグリタゾンは2型糖尿病のハイリスク患者において全死亡率・非致死性心筋梗塞・脳卒中の発症を減らし,インスリン治療への移行を減らすことが明らかになった. -
糖代謝:Japan Diabetes Complications Study (JDCS)
217巻1号(2006);View Description Hide Description日本人糖尿病患者の合併症や病態的特徴を明らかにするためにわが国で進行中のJapan Diabetes ComplicationsStudy(JDCS)の中間結果より,日本人と欧米人糖尿病患者の違いがいくつも明らかになってきた.そのデータによると,従来の診断基準によって日本人2型糖尿病患者でメタボリックシンドロームを診断しても,心血管疾患予測にはそれほど有用でないことが判明し,日本人糖尿病患者に適した心血管合併症のスクリーニング法をさらに検討する必要があると思われた. -
メタボリックシンドロームと高血圧
217巻1号(2006);View Description Hide Description2004年に改定されたわが国の高血圧治療ガイドラインでは,メタボリックシンドローム合併高血圧患者に対して,病態の基盤であるインスリン抵抗性を改善する降圧薬(α遮断薬,ACE阻害薬,ARB,Ca拮抗薬)を勧めている.また,糖尿病合併高血圧にはACE阻害薬,ARB,Ca拮抗薬を第一次薬として勧めている.降圧目標についてはメタボリックシンドロームの診断基準からは130/85 mmHg未満であるが,糖尿病を合併している場合は130/80 mmHg未満にする.内臓脂肪蓄積はメタボリックシンドロームの特徴であるが,脂肪細胞はアディポサイトカインと称するさまざまな物質を分泌する臓器であり,血圧調節に重要なかかわりをもつと考えられる.大規模臨床試験の成績は高血圧を合併するメタボリックシンドローム患者に対して心血管疾患発症抑制のために厳格な降圧治療がもっとも重要であること,代謝面への影響に関する試験成績を合わせるとアンジオテンシン㈼受容体拮抗薬(ARB)が優れる可能性があることを示している.ACE阻害薬やARBは降圧薬のなかでも糖尿病新規発症抑制効果がもっとも高く,メタボリックシンドロームの患者によい適応である. - メタボリックシンドロームの理解に必要な最新研究動向□疫学
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端野・壮瞥町研究
217巻1号(2006);View Description Hide Descriptionメタボリックシンドローム(MS)は内臓脂肪蓄積を基本病態として,インスリン抵抗性,耐糖能異常,動脈硬化惹起リポ蛋白異常,血圧高値が個人に合併する心血管病易発症状態と定義される.北海道での前向き疫学(端野・壮瞥町研究)では日本人一般住民のMSの実態を検討している.2005年内科学会のMS診断基準での一般住民でのMSは,男性17.6%,女性5.5%であった.MSの基本病態として内臓脂肪蓄積型肥満が想定されているが,腹部超音波法で検討した内臓脂肪が増加するにつれて危険因子は集積した.また,surrogated endpointとした脈波伝播速度(PWV)は,MSでは非MSに比較して有意に高値であり,さらに6年間の追跡研究ではMSは非MSより2.23倍の心疾患発症・死亡リスクの上昇が認められた.MSは日本人一般住民において動脈硬化の進展や心疾患の発症およびそれによる死亡を介して予後に影響していると考えられた. -
疫学からみた日本人の糖尿病とメタボリックシンドローム
217巻1号(2006);View Description Hide Description人間ドック受診者について,低線量CTによる内臓脂肪面積とWHOから提案された腹囲の測定方法(WHOの方法)で用いられている方法で測定した腹囲との関連は,男性:r=0.757,女性:r=0.860と高い相関がみられ,内臓脂肪面積100 cm2に対する腹囲は83 cmおよび85 cmと推定され,腹囲の測定で内臓脂肪面積を推定は可能と思われる.腹囲は臍部で測定したものが男性は平均1 cm多いことから,日本の基準である85 cmでよいと思われる.女性は腹囲が大きい人ほど差が拡大することから,慎重に取り扱う必要がある.WHOの基準に基づく広島住民のメタボリックシンドロームの頻度は耐糖能低下群では男性34.5〜41.5%,女性30.5〜38.8%,糖尿病では52.9%,50.6%であったが,いずれも性差はほとんどみられなかった.糖尿病発症率および虚血性心疾患死亡率はメタボリックシンドローム群で有意に高率であった.疫学的な比較には腹囲の測定方法や診断基準値を統一する必要があることから,国際的な基準値の検討が望ましい. - メタボリックシンドロームの理解に必要な最新研究動向□基礎研究
- 【シグナル・パスウェイ】
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インスリン感受性を調節するシグナル
217巻1号(2006);View Description Hide Descriptionわが国の死因の第一位を占める動脈硬化性疾患(心筋梗塞,脳梗塞など)の最大の原因は,糖尿病,高脂血症,高血圧,肥満が重積する,いわゆる代謝症候群(metabolic syndrome)によるものと考えられている.この代謝症候群では,肥満を基盤としたインスリン抵抗性が存在することが知られている.インスリン抵抗性は生理的なインスリンシグナル伝達機構のいずれかの段階に異常が生じることによって発生すると考えられ,インスリンシグナルを理解することはインスリン抵抗性の病態の解明と治療法を確立するうえできわめて重要である -
レプチン抵抗性の分子機構──SOCS3の解析を中心として
217巻1号(2006);View Description Hide Descriptionレプチンは視床下部に作用して食欲抑制とエネルギー消費亢進をもたらす,脂肪細胞から分泌される重要なアディポサイトカインである.しかし,慢性の肥満においては血中レプチン濃度が高いにもかかわらず食欲が抑制されない,いわゆるレプチン耐性が存在する.レプチン受容体はJAK/STAT経路を活性化する.レプチン耐性の分子機構のひとつとして,レプチン受容体シグナルを抑制する因子の蓄積が予想されてきた.そのようなレプチンシグナルの負の制御因子はチロシンホスファターゼSHP−2やPTP−1Bやサイトカインシグナル抑制因子SOCS3である.これらのノックアウトマウスではレプチン感受性が亢進し高脂肪食の摂取によっても肥満にならず,レプチン抵抗性,インスリン抵抗性にならないことが示された.脳内レプチンシグナル抑制因子はレプチン抵抗性を改善する有力な標的遺伝子であることが示された. -
脂肪細胞におけるグルココルチコイド活性化──アディポステロイド:メタボリックシンドローム病態基盤
217巻1号(2006);View Description Hide Descriptionメタボリックシンドローム診断基準では,代謝病を重積させる共通の基盤としての内臓脂肪の過剰蓄積を病態の上流に位置づけ,“未病”の段階から心血管病の高リスク群として積極的介入を行うことを勧告している.細胞内グルココルチコイド活性化酵素,11β−HSD1は“内臓脂肪肥満の感受性”の分子機構を解く鍵分子のひとつであり,チアゾリジン誘導体による内臓脂肪減少効果の担い手と考えられる.その発現レベルは肥満者脂肪組織において著明に上昇し,BMIやウェスト周囲長,内臓脂肪面積と強い正相関を示す一方,血中アディポネクチン濃度 -
摂食調節分子のシグナル
217巻1号(2006);View Description Hide Descriptionメタボリックシンドロームの効果的な治療には,その上流に位置する内臓脂肪蓄積(腹部肥満)のメカニズムや摂食調節機構の解明が重要である.摂食調節には視床下部や大脳辺縁系などの中枢神経系だけでなく脂肪細胞や腸管などの末梢組織も重要で,さまざまなペプチド,神経線維,迷走神経などを介して複雑かつ巧妙にコントロールされている.最近はその分子メカニズムを応用した抗肥満薬の開発も進められている. -
細胞内ストレスと糖尿病──酸化ストレスおよび小胞体ストレス
217巻1号(2006);View Description Hide Description2型糖尿病は近年日本において患者数が急増しており,その特徴としては膵β細胞におけるインスリンの生合成,分泌の低下と並んで肝や末梢組織でのインスリン抵抗性の増加があげられる.膵β細胞が慢性高血糖にさらされると,その機能は障害され,インスリン生合成,分泌は低下する.また,肝や末梢組織が慢性高血糖にさらされると,インスリン抵抗性はさらに増加し,耐糖能異常もさらに悪化が認められる.こういった現象は“ブドウ糖毒性”として臨床的にも広く知られているが,その原因のひとつとして糖尿病状態において惹起される酸化ストレス,小胞体ストレスなどの細胞内ストレスが関与する可能性が示唆されてきている(図1). -
AMPキナーゼとエネルギー代謝調節──AMPキナーゼによる摂食・代謝調節作用
217巻1号(2006);View Description Hide DescriptionAMPキナーゼは5’−AMPによって活性化するセリン・スレオニンキナーゼである.AMPキナーゼは虚血,低酸素など細胞内5’−AMP濃度の上昇によって活性化し,脂肪酸酸化など異化作用を促進することでATPを回復させる.ところが近年,AMPキナーゼはレプチン,アディポネクチン,レジスチンなどのホルモン,メトホルミンなど抗糖尿病薬のシグナル・標的分子として働くことが明らかとなり肥満・糖尿病分野において注目されることとなった.さらに最近になって,視床下部AMPキナーゼが生体のエネルギーレベルをモニターするエネルギーセンサーとして働き,摂食行動を調節することも判明した.このようにAMPキナーゼは摂食行動と代謝の両方を調節することで,生体エネルギー代謝の制御に関与する.AMPキナーゼの活性調節機構はいまだに不明な点も多いが,これらを明らかにすることでエネルギー代謝の調節機構,抗糖尿病薬の作用機構を解明する糸口になると期待されている -
メタボリックシンドロームの原因遺伝子
217巻1号(2006);View Description Hide Descriptionメタボリックシンドローム(MetS)に含まれるそれぞれの異常はいずれも遺伝形質であり,MetS自体も複数の遺伝因子を背景として過栄養と運動不足などの環境因子の負荷が加わり発症に至る複合遺伝形質である.因子分析の結果,MetSはたがいに独立した複数の病態を内包するが,その上流には主としてインスリン抵抗性と肥満を足場とした共通の因子が存在するものと考えられる.脂肪細胞の異常やインスリン抵抗性に関連する遺伝子はMetSの疾患感受性を規定する有力な候補遺伝子であり,実際に多数の候補遺伝子上の変異や多型とMetSに関連する表現型との間で有意な相関が報告されている.また,ゲノムワイド連鎖解析の結果によりMetSの疾患感受性を規定するいくつかの染色体領域(第1,第6,第7染色体など)とその領域内にある候補遺伝子が明らかになりつつある.MetSの遺伝素因の解明はその正確な診断と効果的な臨床介入にとって重要となる. - 【臓 器】
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細胞周期と脂肪細胞の分化・肥大化
217巻1号(2006);View Description Hide Description内臓脂肪蓄積を伴う肥満は生活習慣病,動脈硬化性疾患の発症基盤となる.肥満発症のメカニズムを解明することはこれらのあらたな治療法を考えるうえで重要である.体脂肪の過剰状態では脂肪細胞自身の肥大化と脂肪細胞数の増加が関与しているものと考えられている.脂肪細胞の肥大化の調節機構に関しては多くの知見が集積しているが,脂肪細胞数の調節機構はいまだ十分に明らかとされていない.最近,細胞増殖機構を制御する細胞周期制御因子が脂肪細胞分化のマスターレギュレーターであるPPARγの活性化を介して脂肪細胞の分化・肥大化に重要な役割を果たしているという報告があいついでなされた.脂肪細胞の増殖と分化・肥大化の調節機構はたがいに独立したものではなく,すくなくとも一部はPPARγを介するクロストークにより制御されている可能性が高い. -
肝の糖代謝とメタボリックシンドローム
217巻1号(2006);View Description Hide Description肝の糖代謝制御の障害はメタボリックシンドロームの主要な構成要素であり,高インスリン血症の誘導を通じて種々の病態の発症・進展に関与する.インスリンの肝糖産生抑制作用は,解糖やグリコーゲン代謝,糖新生の制御を通じて発揮される.ヒト肥満者やインスリン抵抗性患者において肝糖産生制御機構のどの段階に障害の主座があるかは明らかではないが,モデルマウスを用いた検討では糖新生系酵素の発現増加を認めるとの報告が多い.また,肥満モデルマウスの肝の糖新生系酵素の発現を抑制すると,耐糖能異常や高インスリン血症は著しく改善する.肥満インスリン抵抗性状態における肝糖新生系酵素の発現増加には,ERストレスの亢進などを介したインスリンシグナル伝達の障害や遺伝子転写抑制によるIRS2の発現減少,また転写コアクチベータであるPGC1αやAktの活性阻害因子であるTRB3の発現増加などが関与するのかもしれない. -
脂肪細胞とマクロファージの相互作用
217巻1号(2006);View Description Hide Description多くの疫学研究により,メタボリックシンドロームの基盤病態として全身の軽度の炎症反応の重要性が注目されている.近年,肥満の脂肪組織にはマクロファージの浸潤が増加することが報告され,脂肪細胞に由来する遊離脂肪酸とマクロファージに由来するTNF−αをメディエータとするパラクリン調節系の破綻により生じるvicious cycle(悪循環)が脂肪組織の炎症性変化を促進することが示唆されている.肥満の脂肪組織は,脂肪細胞の肥大化とともに血管新生,マクロファージの浸潤などのように,動脈硬化の血管壁において認められる“血管壁再構築(血管壁リモデリング)”に匹敵する“脂肪組織再構築(脂肪組織リモデリング)”ともいうべきダイナミックな変化をきたしている可能性があり,肥満の脂肪組織をターゲットとしたメタボリックシンドロームの新しい治療戦略が開発されることを期待される. -
メタボリックシンドローム発症におけるMCP-1の役割
217巻1号(2006);View Description Hide Descriptionメタボリックシンドロームの発症におけるmonocyte chemoattractant protein 1(MCP−1)の役割には,血管における動脈硬化惹起作用と,脂肪組織におけるインスリン抵抗性惹起作用が考えられる.血管においては,血管内皮から分泌されるMCP−1が動脈硬化の初期に血中の単球を引き寄せ内膜のマクロファージを増加する.脂肪組織においては,ライフスタイルの西欧化によりMCP−1の分泌が増加し血中のMCP−1濃度が増加することにより肝と骨格筋においてインスリンシグナルが抑制されるという直接作用 - 【臨 床】
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高分子量アディポネクチン
217巻1号(2006);View Description Hide Descriptionアディポネクチンは血中において,高分子量,中分子量,低分子量のすくなくとも3種類以上の多量体構造をとって存在する.高分子量アディポネクチンは血中で300KDa以上の12〜18量体から形成されている.高分子量アディポネクチンを特異的に形成できなくなる変異を有するヒトは糖尿病になることが報告されており,さらに肥満・インスリン抵抗性においては高分子量のアディポネクチンがとくに低下している.高分子量アディポネクチン比は総アディポネクチンに比べ,インスリン抵抗性の予測に有用である.高分子量アディポネクチンはチアゾリジン誘導体投与によるインスリン抵抗性の改善とよく相関し,またメタボリックシンドロームの鍵となる内臓脂肪蓄積・インスリン抵抗性・糖脂質代謝と有意な相関を示し,メタボリックシンドロームの診断において重要なバイオマーカーとなる. -
細胞内脂質とメタボリックシンドローム
217巻1号(2006);View Description Hide Descriptionメタボリックシンドロームの根幹にはインスリン抵抗性,内臓型肥満が存在することが示唆されているが,その詳細な発症メカニズムについてはいまだ不明な部分が多い.現在までに,骨格筋や肝の細胞内へ脂肪が蓄積することが,インスリン抵抗性やメタボリックシンドロームの発症メカニズムの一部である可能性が示唆されている.著者らの検討により食事療法(カロリー摂取,脂肪摂取量の減少)による軽度の体重減少はおもに肝の,運動療法(軽度の運動量の増加)はおもに骨格筋の細胞内脂質,インスリン抵抗性を改善することが明らかとなった.そして,これらの変化はメタボリックシンドロームの改善と強く関連していた.とくに肝は糖代謝のみならず脂質代謝においても大きな役割を担っているため,メタボリックシンドロームの治療標的臓器としてたいへん重要であると考えられる.今後,細胞内脂肪蓄積とメタボリックシンドロームに関するさらなる研究が望まれる. -
カンナビノイド拮抗薬:リモナバン──新しい食欲抑制薬
217巻1号(2006);View Description Hide Description2005年,日本でもメタボリックシンドロームの診断基準が提唱され,内臓脂肪蓄積が基盤となる病態であることが鮮明となった.治療にあたり内臓脂肪蓄積を軽減させることが重要であるが,現在までのところ内臓脂肪を特異的に減少させる薬物はない.内臓脂肪型肥満症患者の体重を減少させると,内臓脂肪は皮下脂肪より急速に減少するので,体重の減少は内臓脂肪量の減少にたいへん有用である.肥満症治療薬のひとつである中枢性食欲抑制薬として内因性カンナビノイド1受容体阻害薬であるリモナバンは,大麻(マリファナ)の受容体であり,食欲を抑制し,体重を減少させる効果があることが知られている.体重の減少に伴ってメタボリックシンドロームのコンポーネントである血糖,血清脂質,血圧を改善し,メタボリックシンドロームの病態を軽快させるので,今後治療薬として期待されている. - 【その他・最新トピックス】
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血管新生と肥満の連関──メタボリックシンドロームと血管新生因子
217巻1号(2006);View Description Hide Description近年,動脈硬化性疾患発症の基盤となる病態として肥満,インスリン抵抗性,糖代謝異常,脂質代謝異常,高血圧などが合併するメタボリックシンドロームが注目されている1,2).とくに診断,治療においては内臓脂肪に過剰に脂質が蓄積される,いわゆる内臓肥満,さらにはその脂肪組織から分泌されアディポサイトカインと総称される内分泌因子,生理活性因子が注目されている.これらアディポサイトカインのなかには従来,血管新生因子として知られていたものも含まれている.また,代謝調節因子のなかにも血管新生制御作用を示すものがあることがわかってきた.最近,脂肪組織内の血管新生の調節を介して脂肪組織の増殖・生存を制御することによる肥満治療の可能性も提唱されており,肥満病態における血管の役割を明らかにすることの重要性が示唆されている.本稿では脂肪で産生される血管新生因子の紹介と,著者らが同定した代謝調節作用と血管新生作用を独立して有する新規分子アンジオポエチン様増殖因子(AGF/Angptl6)の肥満病態での役割について概説するとともに,血管新生調節による肥満治療の可能性について最近の知見を概説する. -
核内受容体を介した炎症制御機構
217巻1号(2006);View Description Hide Descriptionさまざまな免疫反応や炎症に対し,核内受容体スーパーファミリーはトランスリプレッションというリガンド依存的な制御作用で深く関与していることが知られている.最近の知見ではマクロファージやリンパ球などにおいて,peroxisome proliferator−activated recepto(r PPARγ)やliver X recepto(r LXR)などをはじめとする,代謝,炎症に関与する遺伝子発現プログラムの制御も明らかになりつつあり,生活習慣病との関連も示唆されている.本稿では,核内受容体を介した転写制御メカニズムのなかでもトランスリプレッションによる抗炎症作用,免疫応答制御に着目し,その臨床的意義や応用性について紹介する.
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