医学のあゆみ
Volume 224, Issue 12, 2008
Volumes & issues:
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あゆみ 睡眠呼吸障害の合併症—Multiple risk factorとしての睡眠時無呼吸
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睡眠時無呼吸と日中の過剰な眠気
224巻12号(2008);View Description Hide Description日中の過剰な眠気(EDS)は社会的影響が大きく,睡眠時無呼吸症候群(SAS)の症状として有名である.OSASの約20%にみられる主要症状だが,意外にも倦怠感の訴えより頻度が低い.とくに診断前の患者は眠気と倦怠感を区別しておらず,その定量化も容易でないため,患者・医師双方が症候として意識することが難しく,診断に細心の注意を要する.自覚症状の確認には信頼性が検証された眠気の調査用紙を用いることや,SAS以外の睡眠関連疾患もEDSの原因となるため,脳波を含む睡眠検査(PSG)による客観的睡眠評価が望ましい.睡眠関連の症候は患者自身に解釈の誤りが多いことを医師は知っておくべきである.さらに近年,CPAPや口腔内装置などによる必要充分な治療に抵抗して残存するEDSが報告され,治療開始前の微細な脳損傷による可能性も想定されている.残存する眠気に対して,最近ではモダフィニルによる薬物療法が試みられつつあり,今後の成果が期待される. -
閉塞型睡眠時無呼吸症候群患者にみられる夜間の症状と日中の症状
224巻12号(2008);View Description Hide Description閉塞型睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome:OSAS)は,昼間の眠気以外にも常習的で大きないびき,無呼吸,窒息感による目覚めなど,上気道抵抗や呼吸停止に起因すると考えられる症状から,不眠,抑うつといった精神科領域や,夜間頻尿,夜尿,インポテンツといった泌尿器科領域に至るまで,その病態を反映して多彩な症状を呈する.これらの症状は,患者本人は気づきにくく,OSASと関連づけることができない場合があり,ベッドパートナーを含めた問診により始めて明らかになることも多い.また,OSASに対する適切な診断と治療で改善がみられることもあるため,睡眠障害を扱う専門施設以外の一般診療科においてもこれらOSASに随伴する症状に関する知識が必要である.本稿では日中傾眠を除いたOSASの臨床症状について,日中,および夜間に起こるものに分類して解説した. -
睡眠時無呼吸と高血圧—睡眠時無呼吸症候群の血圧に及ぼすインパクト:疫学,病態生理,そして治療
224巻12号(2008);View Description Hide Description近年,疫学研究により睡眠呼吸障害が高血圧発症の危険因子であることが示されている.本稿では睡眠時無呼吸症候群と高血圧との関連を疫学,病態生理,そして治療の観点からまとめた.睡眠呼吸障害に伴う夜間高血圧の発症に,交感神経活性の上昇,レプチン抵抗性,インスリン抵抗性,レニン−アンジオテンシン−アルドステロン系(RAAS)の賦活化,酸化ストレスなどが考えられている.近年,夜間酸素低下時の血圧測定が可能なトリガー血圧計が開発され,睡眠時の無呼吸に伴う血圧上昇“ミッドナイトサージ”をとらえることが可能となった.また,治療の観点から高血圧を伴う重度の閉塞性睡眠時無呼吸症患者へのCPAP治療により降圧効果が得られるという報告が散見され,実際メタ解析においても収縮期,および拡張期血圧で有意な降圧効果を認めている. -
睡眠時無呼吸と不整脈・虚血性心疾患・脳梗塞
224巻12号(2008);View Description Hide Description閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)は,急性変化として胸腔内圧陰圧増大に伴う後負荷および右室容量負荷を生じ,さらに慢性変化として左室肥大,高血圧,虚血性心疾患の合併の誘引となる.OSASは心房細動とも関連があり,心房細動の新規発症は無呼吸の重症度および肥満度の上昇により増加する.OSAS患者のCPAPやOAによる治療では不整脈の改善傾向がみられる.脳梗塞および死亡に対してSASがある患者では平均3.3年の経過で,脳梗塞に対するハザード比が1.97倍,死亡に対するハザード比が1.7倍である.OSASは循環器疾患,とくに虚血性心疾患や不整脈の発症の一因となり,予後に影響する.これらの点を十分に考え,循環器疾患の治療において,日中ばかりでなく夜間睡眠中における病態にも配慮し治療にあたるべきである. -
睡眠時無呼吸症候群と糖代謝
224巻12号(2008);View Description Hide Description肥満はアメリカなどの先進国だけでなく,ラテンアメリカ,カリブ海周辺諸国,インド,中国などの途上国でも増加してきており,世界的な健康問題である.日本においてもBMIが10年間で0.44増加している.肥満に起因または関連し,減量を要する健康問題としてII型糖尿病,対糖能異常,高血圧などが合併したメタボリック症候群のほか,睡眠時無呼吸症候群も注目すべき重要な疾患である.睡眠時無呼吸症候群が原因で高血圧,脂質代謝異常をきたすことが報告され,さらにさまざまな側面から他の動脈硬化性疾患と相まって脳血管・心血管疾患をきたし,患者本人やその家族だけでなく,労働力の損失や医療費の高騰というように,社会にも多大な影響を与えることがわかっている.本稿では睡眠時無呼吸症候群とインスリン抵抗性,II型糖尿病といった糖代謝との関連について述べる. -
睡眠時無呼吸と血液凝固異常—血管障害の危険因子
224巻12号(2008);View Description Hide Description睡眠時無呼吸では心臓や脳の血管障害を合併する危険性が高いが,血液凝固異常によって過凝固の状態になっていることがその理由のひとつと考えられる.また,凝固異常の程度は,睡眠時無呼吸の重症度の指標である無呼吸低呼吸指数や低酸素の種々の指標とも有意な相関があることが報告されている.しかし一方,睡眠時無呼吸の主要治療の持続陽圧呼吸を使用しても凝固異常の程度はかならずしも改善されていない場合もある.従来からの血管障害危険因子である肥満や高血圧や喫煙などの合併の影響とも考えられ,真に睡眠時無呼吸が血管障害の独立した危険因子かどうかは十分に解明されておらず,この分野はいまだ多くの課題が集積している. -
睡眠時無呼吸と心不全
224巻12号(2008);View Description Hide Description近年,心不全に対するβ遮断薬やACE阻害薬,利尿薬などの薬物療法の有効性が明らかにされ,心不全患者の予後は以前と比べ改善されてきている.しかし,いぜん予後の悪い疾患であるのに変わりはない.心不全患者には閉塞型無呼吸やチェーン・ストークス呼吸などの睡眠呼吸障害が合併する頻度はきわめて高いが,無呼吸のたびに繰り返される覚醒反応や低酸素血症,高二酸化炭素血症は交感神経活動の亢進などをもたらし,循環動態をさらに障害,そして予後をいっそう悪化させる要因のひとつとなる.したがって,何らかの治療が必要である.近年,非薬物治療として,経鼻的持続気道陽圧療法(CPAP)などの陽圧呼吸療法や酸素療法などの有効性が報告され,注目されている. -
睡眠時無呼吸と小児の合併症
224巻12号(2008);View Description Hide Description小児の閉塞性睡眠時無呼吸症候群が提唱された当初は,重篤な高血圧,知的障害,呼吸不全,心不全,昏睡などの合併が報告された.しかし,最近では疾患概念が周知されるにつれ,重度の合併症例に遭遇する頻度は減り,代わって発達遅滞,学業成績不振,注意欠陥/多動性障害,攻撃的行動などとの関連が話題とされることが多くなっている.本稿では小児の閉塞性睡眠時無呼吸症候群の合併症について,成長障害,メタボリックシンドローム関連(血圧,糖代謝,脂質代謝),認知・行動上の問題,手術の合併症,その他(夜尿症など)に分けて概説した. -
睡眠時無呼吸と高齢者の合併症
224巻12号(2008);View Description Hide Description睡眠時無呼吸は加齢とともに増加する.無呼吸指数(AI)5(/hr)以上を診断基準とすると,65歳以上では20%以上が睡眠時無呼吸症候群(SAS)であると推定される.しかし,その多くは明らかな症状を示さない場合が多く,65歳以上まで生きられた高齢者ではいわゆる生存者効果により,SASが予後に悪影響を示さない可能性もある.しかし近年の研究は,高齢者といえども睡眠時無呼吸が病的意義をもつことを明らかにしている.動脈硬化,心筋梗塞,心不全,脳梗塞のリスクを高めると同時に,転倒,夜間頻尿,認知機能低下,うつ状態,嚥下障害,誤嚥などの老年症候群や高齢者特有の疾病のリスクになることが明らかにされている.高齢者であっても,SASを積極的に治療することが,各種疾病予防,高齢者の生活の質の向上につながると考えられる.現状では高齢者のSASが十分スクリーニングされていないため,一度はSASを疑って検査を行い,診断率を上げる必要がある.
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フォーラム
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- 切手・医学史をちこち 75
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- 医師不足と地域医療の崩壊—現状と展望 4
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連載
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- 定位放射線治療—最新動向4
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髄膜腫に対するガンマナイフ治療—より低侵襲な髄膜腫治療をめざして
224巻12号(2008);View Description Hide Description髄膜腫の治療においては腫瘍の全摘出がgold standardである.しかし,腫瘍の進展方向,腫瘍の存在部位によっては手術合併症が高い場合がある.一方,ガンマナイフ治療は周辺の組織に対する影響の非常に少ない定位的放射線治療装置であり,髄膜腫に対しては頭蓋底などの手術困難な部位の腫瘍に対して第一選択の治療として,また腫瘍摘出後の残存,再発腫瘍に対しても有用であり,長期的にも高い腫瘍増大抑制効果,機能温存効果が得られている.現在は髄膜腫に対して,その自然歴,手術リスク,ガンマナイフ治療を含めた定位的放射線治療の有効性を十分に考えた,より低侵襲な治療が可能な時代になっている.
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注目の領域
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- 再考“レストア腎”移植 3(最終回)
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TOPICS
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- 膠原病・リウマチ
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- 病理学
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- 耳鼻咽喉科学
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