医学のあゆみ

Volume 228, Issue 5, 2009
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【1月第5土曜特集】レニン・アンジオテンシン系のすべて
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- RASの調節機構
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組織RASの調節機構
228巻5号(2009);View Description
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循環RAS系とは,腎から放出されたレニンが肝で産生されたアンジオテンシノーゲンを切断してアンジオテンシン Iを産生し,さらに肺と血管内皮細胞のACEなどによりアンジオテンシン Iが切断されてアンジオテンシン IIが産生される機構である.この機構は神経性調節機構,液性調節機構および血圧調節機構をつかさどっている.一方,脳,心臓,腎,血管などで組織特異的に発現調節されている系を組織RAS系とよぶ.これは,組織レベルでRASの各因子のmRNA発現が確認されていること,循環RAS系と独立して発現調節されていることが解明され,とくに血圧低下に加えた長期的な臓器保護効果という観点から研究が進んでいる. -
レニン・プロレニンの構造と機能—見えてきたプロレニンの生理機能
228巻5号(2009);View Description
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ここ10年間でレニン アンジオテンシン系の研究はあらたな方向へと展開しようとしている.不活性レニン前駆体,プロレニンの生理機能が明らかにされつつある.またあらたなレニン阻害剤が開発されたことなどは特記に値する.本稿では,これらの事項を理解するために,レニンおよびプロレニンの構造と機能について知っておく必要のある点を整理し,そのうえで最近の報告について概説する.まず,1.レニンはペプシンと同じアスパルチルプロテアーゼに分類されたこと,2.レニンの立体構造の特徴,3.レニン反応の至適pHは2つあること,4.レニンの基質特異性がきわめて高いこと,5.レニン阻害剤の開発例として,最近注目を浴びているアリスキレンについて,6.プロレニンの構造研究の現状,7.プロレニン分子のプロセグメント領域の役割について,8.(プロ)レニン受容体の発見と蛋白・蛋白相互作用によるプロレニンの活性化と今後の展望について紹介し,今後を展望した. -
(プロ)レニン受容体依存性および非依存性病態
228巻5号(2009);View Description
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(プロ)レニン受容体は全身臓器に広く分布し,組織におけるレニン遺伝子の最終産物であるプロレニンと結合しプロレニンを活性化して組織レニン アンジオテンシン系(RAS)を亢進させる.と同時に刺激された(プロ)レニン受容体は細胞内シグナルを発揮する.最近の研究により(プロ)レニン受容体発現はレニンやプロレニンにより抑制され,酸化ストレスや圧により増強することが明らかにされた.それゆえ,低レニン血症を呈し酸化ストレスが亢進し糸球体高血圧を伴う糖尿病では,(プロ)レニン受容体はその発現が抑制されず臓器障害形成に重要な役割を果たし,レニントランスジェニック動物や腎血管性高血圧の狭窄側腎では増加した活性レニンが,(プロ)レニン受容体とは無関係に病態を発症し進展させる.以上のように,循環RAS調節酵素である血中レニンは組織RAS調節因子である(プロ)レニン受容体の病態生理学的意義に影響を及ぼす. -
アンジオテンシンへの変換機構の多様性とその意義
228巻5号(2009);View Description
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アンジオテンシン II(Ang II)は強力で多様な生物活性をもったペプチドであり,レニン アンジオテンシン系の産物とされてきた.全身性に血管に作用するAng IIはたしかにそうであるが,血管を主とする組織における作用は血中から由来するのではなく,組織が独自につくっている.しかも血行性のAng IIは腎から血中に放出される酵素レニン量の活性に依存するのに対して,組織ではACEとキマーゼの2つの酵素に依存してつくられる.血中レニンにまったく依存しないほとんどの高血圧や動脈硬化症の血管への脂質沈着は,組織ACEでつくられるAng IIによる.さらに,血管肥厚や心組織の線維化などには肥満細胞がつくるキマーゼに依存したAng IIが関与する.なぜこのようなことがわかったのか,その背景を解説する. -
ACE2,Ang(1−7)−Mas系
228巻5号(2009);View Description
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従来のレニン アンジオテンシン系と拮抗する系として,ACE2 Ang(1 7) Mas受容体系が近年注目を浴びている.ACE2はACEのhomologueとして同定され,ACE2のノックアウトマウスが心不全を呈したことから脚光を浴びている.一方,Ang(1 7)は1980年代よりAng IIに拮抗する機能を有するペプチドとして一部の研究者が精力的に循環系保護作用を報告してきた.2003年にAng(1 7)の受容体としてMas受容体が同定されてから,さらに多くの知見が得られている.ACE2 Ang(1 7) Mas受容体系において心臓や腎保護作用が見出されており,新しい治療ターゲットとして期待される. -
アルドステロンの新しい作用機序
228巻5号(2009);View Description
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古くよりアルドステロン(aldo)はミネラロコルチコイド受容体(MR)と結合し,遠位尿細管,集合管,大腸,唾液腺などの上皮組織でナトリウムの再吸収を促進させることが知られてきたが,近年,非上皮細胞におけるaldoの働き,すなわちaldoの心血管障害のリスクファクターとしての作用が注目されている.そのなかで,aldoはゲノム作用と非ゲノム作用をもち,いずれも酸化ストレスと強く関連していることが示唆された.一方,aldo非依存的なMRの活性化が報告され,これもまた酸化ストレスと相関することが示唆され,今後aldo MR/未知のシグナル伝達系の詳細な検討が望まれる. - アンジオテンシン受容体の多様性とシグナル伝達
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AT1受容体によるEGF受容体トランスアクチベーション
228巻5号(2009);View Description
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AT1受容体拮抗薬は,降圧作用のみならず心血管病変の進展を抑制あるいは改善させる.とくに心血管リモデリングの抑制はAT1受容体を介した増殖肥大作用の抑制の結果と広く考えられている.AT1による増殖肥大作用の情報伝達経路では上流のチロシンキナーゼ(主としてEGF受容体)が中心的な役割を果たしている.このAT1によるEGF受容体の活性化,いわゆるトランスアクチベーションは,G蛋白,Gqによる細胞内Ca2+の上昇,活性酸素および一群のメタロプロテアーゼ,ADAMファミリーを介したEGF受容体リガンドの産生(プロセッシング)を必要とする.しかし,このADAMの活性制御機構にはいまだ不明の点が多い.アンジオテンシン IIにより活性化されたEGF受容体は種々の細胞内情報を組織特異的に伝達し,AT1による病態生理作用の発現に深く関与していると考えられている. -
AT1受容体活性化によるNADPHオキシダーゼを介した活性酸素種の産生機構
228巻5号(2009);View Description
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血管壁NADPHオキシダーゼ(Nox)は高血圧,動脈硬化,心不全などの多くの酸化ストレス依存性の心血管疾患病態に関与することが示唆されている.AT1受容体刺激によって産生されるNox由来の活性酸素は細胞内情報伝達因子として働き,さまざまなレドックス感受性シグナルの活性化とレドックス感受性遺伝子発現を引き起こす.このAT1受容体活性化によるNoxを介した活性酸素種の産生は,組織特異的に発現するNoxホモログ(Nox1,Nox2,Nox4,Nox5)によって複雑な制御を受けていることが明らかにされている.今後はNoxの活性化に関与する制御因子の同定,各Noxホモログとその調節因子の役割のより詳細な検討,さらに活性酸素によって活性化されるシグナル伝達経路の解明が必要である.これらの研究は,AT1受容体を介した心血管病態の解明とあらたなNADPHオキシダーゼ阻害剤の開発に非常に重要であると思われる. -
AT1受容体を介する心肥大形成におけるTRPCチャネルの役割
228巻5号(2009);View Description
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心臓は負荷に対応して細胞の大きさを増大(肥大)させることで,機能を代償しようとする.心肥大を仲介する分子として注目されているのが,Ca2+依存性転写因子NFAT(nuclear factor of activated T cells)である.NFATを脱リン酸化する酵素はカルシニューリンであり,細胞内Ca2+濃度の上昇により活性化される.これまで,カルシニューリン NFAT系を活性化するのに必要な細胞内Ca2+濃度の上昇は,Gq ホスホリパーゼC系により生成したイノシトール 1,4,5 三リン酸による細胞内Ca2+プールからのCa2+遊離により説明されてきた.最近,TRPC(transient receptor potential canonical)チャネルを介したCa2+流入が,NFAT活性化に大きな役割を果たしていることが示された. -
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アンジオテンシン受容体に直接結合する新規機能制御因子
228巻5号(2009);View Description
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レニン アンジオテンシン系は,その生理活性物質アンジオテンシン IIが生体における主要な受容体であるAT1受容体に作用して下流の情報伝達系を活性化することにより,生体に高血圧をもたらすとともに,心血管系や腎の組織局所に豊富に存在するAT1受容体系の亢進を介して病的な心血管系リモデリングを促進し,心肥大,心不全,動脈硬化,腎障害などの心血管系疾患の発症・進展に深くかかわっている.このように生体における組織局所でのAT1受容体系の活性化をいかに効率的かつ安全に抑制しうるかは,現代病として顕著に増加しつつある心血管病,腎不全,そしてメタボリック症候群の発症・進展阻止にとってはきわめて重要である.最近,AT1受容体,そして一般的にはAT1受容体への拮抗作用をもつとされるAT2受容体に直接結合して,それら受容体の機能を修飾している可能性がある複数の新規分子があいついで単離・同定され,それら分子の詳細な機能や病態生理学的意義が注目されている. -
メカニカルストレスによるAT1受容体活性化と心肥大形成
228巻5号(2009);View Description
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アンジオテンシン II(Ang II)タイプ1(AT1)受容体は内因性アゴニストであるAng IIとの結合によって活性化し,多様な細胞内シグナル伝達系を介して心肥大反応を誘導する.しかし最近になって,AT1受容体は伸展刺激というメカニカルストレスによっても構造変化や活性化が生じ,このAng II非依存的な受容体活性化が心肥大形成に深く関与することが明らかとなった.さらに,ある種のAT1受容体ブロッカーがインバースアゴニストとして作用して,伸展刺激による受容体活性化をも抑制することが示され,インバースアゴニスト活性は臓器保護作用を規定する薬理学的特性として注目を浴びつつある.本稿ではメカニカルストレスによるAT1受容体活性化の分子機構と,心肥大形成における機能的意義について解説する. - RASの病態生理
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食塩感受性とレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系
228巻5号(2009);View Description
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古典的には食塩感受性高血圧は低レニン性高血圧として分類され,循環血液量増加が血圧上昇の主因でレニン アンジオテンシン系(RAS)の関与は小さいものとされていた.しかし,食塩感受性高血圧は雑多なメカニズムに基づく食塩負荷で血圧が上がりやすい高血圧の集合体であり,RASの関与が大きいとされているものもありうる.実際,RASはナトリウム再吸収にも関与し,アンジオテンシノーゲン遺伝子M235T多型との関連もいわれている.食塩過剰摂取が重要臓器障害の一因でもあることはよく知られているが,この食塩過剰状態における臓器障害にも食塩感受性があり,その一例であるメタボリックシンドロームにおいてはレニン アンジオテンシン アルドステロン系(RAAS)の関与が明らかになりつつある. -
RASに関する疾患ゲノム解析
228巻5号(2009);View Description
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RAS遺伝子多型と心血管病のさまざまな病態との関連が報告されている.なかでもアンジオテンシノーゲン遺伝子の235TT型や 20Cアレルは高血圧や食塩感受性のリスクを高めることが知られている.アンジオテンシン変換酵素(ACE)遺伝子287 bpの欠失をホモ接合体に有するDD型は,虚血性心疾患のリスクを高めるだけでなく,糖尿病性腎症や心肥大の進展にもかかわる.AT1遺伝子の3′非翻訳領域にはA1166C多型があり,臓器合併症リスクの制御因子的に作用するが,micro RNAがこの制御に関与することも最近の知見で明らかになっている.ゲノム情報は一生変わらないものであるが,これに基づく環境や投薬内容は人為的に設定できることから,遺伝的体質に応じた至適環境設定を行うテーラーメイド医療をめざした取組みがはじまっている. -
高血圧発症と高血圧退行(regression)におけるRASの役割
228巻5号(2009);View Description
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高血圧が発症する前の段階でRASを抑制すると,後の高血圧の発症を抑制できることが動物実験と臨床試験の双方で示され,RASが高血圧発症において重要な役割を果たすことは明らかである.最近,著者らは高血圧が発症した後でも高用量のRAS抑制薬を投与することにより,一度発症した高血圧を退行(regression)できる可能性を報告した.これらの成績から,RASが高血圧発症の重要な決定因子であると同時に,高血圧の退行にもかかわる可能性が考えられる. -
RA系による血管内皮障害の新しい分子機序
228巻5号(2009);View Description
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アンジオテンシン IIによる心血管病の機序には血管内皮障害が重要な役割を演じている.血管内皮障害の重要な機序のひとつとしてアンジオテンシン IIによる酸化ストレスの増加があげられるが,その機序には複数の経路が存在する.そのなかで,eNOSアンカップリングが最近注目されている.eNOSアンカップリングの機序には,酸化ストレスで活性化されるASK1が中心的役割を演じている. -
アンジオテンシンによる炎症と内皮機能障害
228巻5号(2009);View Description
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心血管病の基礎となる動脈硬化進展過程は,各種の因子による血管傷害と血管壁を場とした慢性炎症を主体として説明されてきた.この過程においてレニン アンジオテンシン系の活性化による血管壁の炎症と酸化ストレス,内皮機能障害は病態の進展にきわめて重要な要素を占める.正常血管内皮細胞の機能として,一酸化窒素(NO)の産生を介した血管トーヌス調節機能,抗血栓作用,細胞接着調節作用,平滑筋増殖抑制作用などがあげられる.心血管病において観察されるNO活性の低下により血管壁の酸化ストレス,炎症を介して広義の内皮機能異常(細胞 -
骨髄RASの血管傷害後内膜増生における役割
228巻5号(2009);View Description
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血管傷害後の新生内膜増生は血管修復過程における血管平滑筋細胞の過剰な増殖反応によるものと考えられるが,骨髄由来血管前駆細胞は血管傷害の程度に応じて傷害後内膜増生の病態に深く関与している.アンジオテンシン II受容体拮抗薬(ARB)は血管傷害後の新生内膜増生を抑制することが動物実験において報告されているが,骨髄由来血管前駆細胞に対する作用については十分には明らかでない.最近,傷害血管に集積する平滑筋様血管前駆細胞がARB投与マウスで減少していることや,ARB投与家兎より採取した末梢血単核球では平滑筋様細胞への形質転換が抑制されていることが報告された.著者らは,骨髄AT1受容体が血管傷害後の血管前駆細胞の動態に及ぼす作用と新生内膜増生におけるその意義を,骨髄AT1受容体欠損マウスを用いて明らかにした.冠動脈形成術後の再狭窄予防を目的としたあらたな治療戦略として発展することが期待される. -
アンジオテンシンによる血管系細胞の発生分化と血管形成の制御
228巻5号(2009);View Description
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血管新生は多くの生理的および病的な組織変化に伴って生じ,組織に酸素や養分の供給路を与える重要なメカニズムである.これまでvascular endothelial growth facto(r VEGF)やbasic fibroblast growth facto(r bFGF)にはじまり,platelet derived growth facto(r PDGF),アンジオポエチン,エフリン,notchリガンドなど,多くの血管系サイトカインによる血管新生の分子メカニズムが明らかにされてきた.しかし近年,元来血圧調節にかかわるとされてきたレニン アンジオテンシン系(RAS)が,血管形成のプロセスにおいて内皮細胞の発生や分化に直接的あるいは他の血管系サイトカインの分泌を介して間接的にかかわることが明らかにされてきており,種々の病態で生じる血管新生などのプロセスに関係することが明らかにされてきている.RASは血管機能においても血管透過性を制御することから,癌をはじめ,炎症疾患や糖尿病性網膜症などの病態形成を制御する血管新生の分子標的と考えられるようになってきた. -
レニン・アンジオテンシン系によって制御される血管老化メカニズム
228巻5号(2009);View Description
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ヒトは血管より老いるといわれているが,そのメカニズムは明らかではない.加齢に伴って心血管系のレニン・アンジオテンシン系が活性化されることが知られており,その病態生理学的意義が多くの基礎研究で検証されている.また,これまで多数の大規模臨床試験によって,レニン・アンジオテンシン系の阻害が心血管イベントの抑制や腎保護効果をもたらすことが示されている.今後さらに研究が進められることによって,抗老化としてのレニン・アンジオテンシン系阻害の有用性について検証されることが望まれる. -
アルドステロンによる血管障害のメカニズム—酸化ストレスの視点から
228巻5号(2009);View Description
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近年,心血管リスクホルモンとしてのアルドステロンの役割がクローズアップされてきた.臨床面では,1.二次性高血圧症である原発性アルドステロン症の高血圧症に占める割合が予想外に高く(約5 10%),本態性高血圧症より臓器障害の程度がむしろ重篤であること,2.アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシン II受容体拮抗薬(ARB)で治療しているにもかかわらず,血中アルドステロン濃度が再上昇する現象(“アルドステロンブレークスルー”)があること,3.各種心疾患におけるミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬の大規模臨床試験(RALES,EPHESUS)での,ACE阻害薬やAng II受容体(AT1)阻害薬(ARB)によるAng II作用の抑制に加え,MR拮抗薬を追加すると心血管病変の進展防止や予後の改善に有用であること,などが明らかにされた1).基礎研究でも,1.各種高血圧モデル動物でMR拮抗薬が心血管組織に作用して臓器保護作用を発揮すること,2.アルドステロンの直接的な心血管作用機序に酸化ストレスが重要な役割を果たすこと,などが明らかとなってきた.本稿では,アルドステロンの心血管組織における酸化ストレス誘導機構とその病態生理学的意義を中心に,最近の知見を解説する. -
心腎連関(心腎症候群)とレニン・アンジオテンシン系(RAS)
228巻5号(2009);View Description
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心臓と腎臓はたがいにそれぞれ悪影響を及ぼし合い,悪循環を形成し,この悪循環にRASが関与している.腎機能が低下していない蛋白尿(あるいは微量アルブミン尿)の段階から心血管イベントのリスクとなり,また,心血管イベントのリスクは腎機能の低下と平行して増加することより,心腎連関として注目されている.一方,蛋白尿の減少あるいは腎機能低下の抑制が心血管イベントの抑制をもたらすことは,観察研究や介入試験で明らかにされている.とくにRAS抑制薬は,蛋白尿の減少作用,腎障害の進展抑制作用をもたらすことが示されており,心血管イベントもより効果的に抑制することが期待されている.一方,これらの抑制には厳格な降圧も必要であることが指摘されている.したがって,悪循環を断ち,腎障害の進展を抑制し,心血管イベントを抑制するには,RAS抑制薬を中心とした厳格な降圧治療が重要である. -
CKDとRAS
228巻5号(2009);View Description
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腎症を進行させる共通の機序として,腎糸球体にかかる圧負荷の重要性が想定されている.この圧負荷としての糸球体高血圧が腎障害を加速させる過程でrenin angiotensin系(RAS)が重要な役割を果たしていることが実験レベルで明らかにされた.一方,臨床的エビデンスからも,RAS抑制薬に腎症阻止作用があることは確立している.著者らは末期腎不全の発症動態には顕著な地域差が存在することを発見し,この地域分布はACE阻害薬消費量の地域分布と逆相関することを明らかにした.これらの事実は,すべて腎症の進行にはRASが大きな役割を果たしていることを確固たるものにしている.アメリカやデンマークではすでに糖尿病性腎症に基づいた末期腎不全が減少に転じていることが報告されている.わが国でなぜ増加の一途をたどるのか真摯に考えてみる必要があろう. -
インスリン抵抗性とRAS
228巻5号(2009);View Description
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メタボリックシンドロームの病態の中心は,インスリン抵抗性とその上流に位置する腹部肥満である.そしてインスリン抵抗性の病態の一部にレニン アンジオテンシン(RA)系が関与する.最近はインスリン抵抗性と密接に関連する腹部肥満における病態にアディポサイトカイン(TNF α,アディポネクチン,アンジオテンシノーゲン,IL 6など)の異常が関与し,その異常にもRA系活性がかかわることが示されている.RA系抑制薬であるARB,ACE阻害薬はインスリン抵抗性を改善し,糖尿病新規発症も抑制する.このように,RA系はインスリン抵抗性 糖代謝異常を介して臓器障害の予防・治療に大きな意義を有するものと思われる. -
脂肪組織RASと肥満
228巻5号(2009);View Description
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脂肪組織は生理活性物質(アディポサイトカイン)を分泌する内分泌臓器である.肥満に合併する生活習慣病の発症には,脂肪細胞の増殖・分化,あるいはアディポサイトカイン産生の破綻などの脂肪細胞の機能異常が関与している可能性がある.RASの各コンポーネントは脂肪組織に発現しており,肥満に伴い脂肪組織RASが活性化することにより脂肪細胞の肥大,肥満が促進される可能性が考えられる.とくに内臓脂肪型肥満や高血圧を伴う肥満症においてRASの病態生理的意義が示唆される.RASを抑制することが肥満やその合併症の抑制につながる可 -
臓器線維化とRAS—線維芽細胞の活性化におけるRASとTGF−βシグナルのクロストーク
228巻5号(2009);View Description
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臓器に障害または炎症が生じると,その修復過程においてマクロファージ,線維芽細胞がさまざまな増殖因子などを産生して組織を再生させるとともに,細胞外マトリックスが産生される.コラーゲンなどを中心とする細胞外マトリックスは,その産生と分解のバランスのうえに組織内の量が調節されており,組織の慢性炎症などの刺激によりマクロファージ,線維芽細胞の活性化が持続してしまうと,細胞外マトリックスの産生が過剰になって不可逆的な組織の線維性瘢痕化をきたす.これが線維化である.組織線維化には多くの細胞種,多くの増殖因子,ケモカイン,サイトカインなどが関与するが,本稿では組織の慢性炎症・線維化の過程について,中心的な役割を果たす線維芽細胞(またはそれが分化した線維筋細胞),マクロファージにおけるレニン アンジオテンシン アルドステロン系,TGF β1シグナルに焦点を当てて解説する. -
循環調節中枢“脳”におけるレニン・アンジオテンシン系の分子機構
228巻5号(2009);View Description
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高血圧はヒトの健康を語る際,人類最大の問題のひとつと考えて疑いがない.高血圧患者が長い年月を経て不可逆的に虚血性心疾患,脳卒中,腎硬化症,高血圧性心臓病などといった問題を抱えるということからも,明らかである.高血圧に関連してレニン・アンジオテンシン系(RAS)は100年以上精力的に研究されてきた.血圧の強力な規定因子のひとつであること,RASの阻害剤が高血圧に対して非常に有効であるといった大規模臨床試験をあげれば枚挙にいとまがないことなどは,この系がヒトの高血圧の病態においていかに重要であるかを如実に物語っている.にもかかわらず,それぞれの領域の研究が進んで,巧妙なメカニズムが理解されれば理解されるほど,さらにそのつぎの巧妙なメカニズムの存在が明らかとなり,謎は深まるばかりである.本稿ではそのなかでもとくに脳内RASの役割について概説する. -
AT2受容体シグナルに着目した脳保護作用—ARBに期待される脳保護効果
228巻5号(2009);View Description
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アンジオテンシン変換酵素阻害薬と比較してアンジオテンシン II受容体ブロッカー(ARB)に期待される効果のひとつに,相対的に活性化されるAT2受容体シグナルの効果があげられる.AT2受容体シグナルの活性化が脳梗塞時の神経障害を抑制することがわかってきた.その作用としては,AT1受容体シグナルを抑制することによる酸化ストレスの軽減や脳血流の低下の抑制効果もあるが,AT2受容体独自の作用として,受容体関連蛋白であるATIPやSHP 1を活性化し,DNA損傷修復蛋白であるMMS2を増加させることによって神経分化・神経保護効果を誘導することがわかってきた.また,脳におけるレニン アンジオテンシン系が認知機能にも関連していることも示唆されており,今後臨床応用も含めてAT2受容体シグナル活性化に注目した,脳保護を目的とするARB治療が期待される. -
急性呼吸不全におけるACE,ACE2の役割
228巻5号(2009);View Description
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成体において肺は,アンジオテンシン変換酵素(ACE)のもっとも高い遺伝子発現レベルを示す臓器のひとつである.2000年,ACEの最初のホモログであるACE2が発見されたが,ACE2はアンジオテンシン IIを基質とすることによりレニン アンジオテンシン系を負に調節する.ACE2の循環器系における役割・意義が明らかになる一方で,ACE2が新興感染症であるSARS(重症急性呼吸器症候群)ウイルスのレセプターであることがわかった.さらに,ACE2がSARS感染などにおける急性呼吸窮迫症候群(ARDS)/急性肺傷害 -
受精担当分子としてのアンジオテンシン変換酵素—GPIアンカー型蛋白質遊離機能との相関
228巻5号(2009);View Description
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ACEには,血圧調節をつかさどる体細胞型(sACE)と,雄性生殖細胞でのみ発現している精巣型(tACE)の2つのアイソフォームがある.ACEノックアウトマウスでは,循環器系の異常に加えて雄マウスで生殖能低下がみられる.これは精子の子宮 卵管移行能および卵透明帯との結合能の低下による.この症状はtACEの再導入で回復するが,sACEでは回復しないことから,tACEには精巣内または精子において特有の機能・基質があり,受精において重要な役割を担っていることがうかがわれる.著者らはACEには細胞膜蛋白質の一種であるGPIアンカー型蛋白質(GPI AP)を細胞膜上から遊離する活性(GPIase活性)があることを見出し,この活性が精子 透明帯結合に重要であることを示した. -
腫瘍進展におけるRASの役割とその阻害薬による新しい癌治療
228巻5号(2009);View Description
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レニン アンジオテンシン系(RAS)における主要作動性ペプチドであるアンジオテンシン IIは,その血管収縮作用を介して心血管系や腎のホメオスタシスを調節するのみならず,血管平滑筋や心筋をはじめとする種々の細胞において細胞増殖を促進し,growth factorとしての機能も有する.最近の研究においてさまざまな腫瘍組織におけるRASの活性化が報告され,腫瘍局所内でアンジオテンシン変換酵素によりアンジオテンシン IIが産生されること,および腫瘍細胞や腫瘍内血管においてアンジオテンシン IIタイプ1受容体(AT1)の発現が亢進していることが判明した.同時に,アンジオテンシン IIがAT1受容体を介して腫瘍細胞の増殖・浸潤を促進することや,いくつかの担癌動物モデルにおいてアンジオテンシン II AT1受容体システムが腫瘍の増殖・転移・血管新生に関与することが報告された.したがって,ヒト癌における局所RASの機能的役割のさらなる解明と,これを標的とした新しい癌治療へのアプローチが注目されている. -
赤血球造血とレニン・アンジオテンシン系
228巻5号(2009);View Description
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多くの臨床報告や研究報告から,レニン アンジオテンシン(RA)系の赤血球造血への関与が考えられているが,その分子基盤はいまだ明らかとなっていない.著者らはヒトレニン遺伝子とヒトアンジオテンシノーゲン遺伝子をあわせもつトランスジェニックマウスが,過剰なアンジオテンシン II産生により惹起される高血圧に加えて,持続的な赤血球増加を呈することを発見した.さらに,アンジオテンシン1型受容体(AT1a)遺伝子欠損マウスを用いた交配実験や骨髄移植実験法の活用により,この赤血球増加作用はAT1a受容体が担っていること,また,AT1a受容体による赤血球前駆細胞の直接的な活性化ではなく,腎のAT1a受容体によるエリスロポエチン産生促進作用が重要であることが明らかとなった. -
骨粗鬆症とRAS
228巻5号(2009);View Description
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高血圧患者では尿中カルシウム排泄量が増加し,続発性副甲状腺ホルモン亢進による骨量減少による骨粗鬆症を助長することが知られている.著者らはこの機序とは別に,アンジオテンシン IIが直接破骨細胞の活性化を促して高回転型の骨粗鬆症を促進させることを見出し,ARBが骨粗鬆症抑制作用を有することを明らかにした.また,レプチンの破骨細胞の活性化作用に対しては,降圧薬のβ遮断薬が抑制的に働くこと,高脂血症治療薬のスタチン製剤が骨粗鬆症抑制作用を有することなど,生活習慣病と骨粗鬆症との関連は今後注目される. -
妊娠高血圧症候群の病態とRAS
228巻5号(2009);View Description
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妊娠中は子宮内で胎児が発育する特殊環境にあり,循環動態は非妊娠時と大きく変化する.妊娠高血圧症候群(PIH)では妊娠中期以降母体血圧が上昇し,胎盤は小さく脱落膜への浸潤不全を起こしており,胎児は発育遅延を起こす.近年,遺伝子改変動物による実験によって,その発症機序が明らかとされてきた.RASコンポーネントの遺伝子を母獣と胎仔に強制発現させて母獣の全身性RASを亢進させると,PIH様の症状を呈することから,その病態にRASが大きく関与していることが予想された.最近,AT1 receptor autoantibodyの血中濃度がPIHの妊婦で上昇していることが明らかとなり,動物実験モデルと同様に全身性のAT1受容体の活性化がPIHの症状を引き起こしていると考えられている.PIHでは脱落膜,胎盤の局所性RASの亢進も報告されており,PIHにおいてRASはその症状発現のみならず,発症要因にも関係している可能性が高い. - RAS抑制薬の新展開
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レニン阻害薬の降圧作用と臓器保護作用—アリスキレンの特徴と有用性
228巻5号(2009);View Description
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新しいレニン アンジオテンシン(RA)系降圧薬として近年レニン阻害薬が開発され,欧米ではすでに発売されている.直接的レニン阻害薬であるアリスキレン(aliskiren)は非ペプチド系の阻害薬でヒトレニンに対する親和性が高く,ブラジキニンやサブスタンスPの代謝には影響しない.欧米の報告では,アリスキレンはこれまでの降圧薬とすくなくとも同等の降圧効果を有する.また,心保護作用や腎保護作用も有することが示唆されている.他の降圧薬との併用投与においても有効性を示している.そのユニークな作用が期待されるレニン阻害薬であるが,すでにACE阻害薬とAT1受容体ブロッカーが臨床的に広く用いられている現在,レニン阻害薬の投与についてはその必要性に対する疑問が生じることも予想される.これまでのRA系阻害薬との違いは血漿レニン活性の低下と血漿レニン濃度の上昇であり,これら血中指標の変化と最近注目されている(プロ)レニン受容体の機能とのかかわりなど,今後の研究に期待されるところも大きい. -
ACE阻害薬かARBか,あるいは併用か?
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レニン アンジオテンシン(RA)系阻害薬であるアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)とアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)は,ともに優れた臓器保護作用を有する薬剤である.ACEIはアンジオテンシン(Ang) IIの産生を抑制するのみならず,キニン,一酸化窒素の活性を亢進させる.一方,ARBはAng IIの1型(AT1)受容体を選択的に阻害するが,2型(AT2)受容体は逆に刺激され,NOなどの産生を促進する.このようにACEIとARBは違った作用機序をもつため,併用のほうが単独より臓器保護効果に優れるかどうかが大きな問題となっている.最近発表されたACEI,ARBおよび両者の併用を比較した大規模臨床試験では,3群間の臓器保護効果に差はなく,有害事象は併用群で多かった.RA系は元来,体液量と循環の維持に重要なものであり,正常血圧者,減塩下や利尿薬服用中の患者では急激な降圧と腎不全の発症がみられることがあるので,RA系抑制薬の使用と用量調節は患者の病態を見きわめて行う必要がある. -
ARBとの併用薬は利尿薬か,カルシウム拮抗薬か?
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高血圧に対する降圧療法では,併用療法が必要となることが多い.併用療法は副作用をできるだけ少なくし,降圧効果を増強する点で意義が大きい.現在,ARBがもつ心血管保護作用のため,ARBを降圧療法のfirstchoiceとして使用する機会も多い.ARBに併用する場合,利尿薬はそれぞれの降圧作用を増強させ,たがいの副作用を打ち消しあうという点でもっとも相性がよい.また,カルシウム拮抗薬は降圧効果がより強くなるという点で魅力的である.ARBに併用療法を行う場合,利尿薬,カルシウム拮抗薬を中心にしていけばよいが,個々の症例でうまく組み合わせていくことが重要である. -
ARBのPPARγ活性化作用
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アンジオテンシン IIタイプ1受容体拮抗薬(ARB)は,副作用が少なく,切れのよい降圧薬として,その処方が増加している.最近,ARBにアンジオテンシン IIの作用の阻害を介さない,いわゆる多面的作用がいくつか報告されている.そのなかで,テルミサルタンとイルベサルタンには核受容体転写因子であるperoxisomeproliferator activated receptor gamma(PPARγ)を活性化する作用のあることが報告された.活性化されたPPARγは糖・脂質代謝を改善するとともに抗炎症・抗動脈硬化作用を示す.これらのARBは小規模ではあるが,臨床研究においてもアンジオテンシン II作用の阻害とともに,PPARγのアゴニストとしての効果を示すことが報告されており,より有効な治療薬となる可能性が示唆されている. -
RAS抑制による心房細動のupstream治療
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心房ストレッチや炎症によりアンジオテンシン II(A II)が上昇すると,Ca過負荷をきたして撃発活動を誘発し,肺静脈から群発興奮が発火する.この頻回興奮により不応期が短縮する(電気的リモデリング).一方,A IIの上昇はErkカスケードを活性化し,線維化を促進する(構造的リモデリング).心筋の線維化は伝導障害を招き,リエントリーの素地ができると多数の興奮波が形成され,心房細動はさらに持続すると考えられる.ACEI/ARBは短期的な電気的リモデリングを抑制するだけでなく,線維化のような長期的な構造的リモデリングに対しても抑制効果があるため,心房細動慢性化予防のupstream治療のひとつになりうることが期待される.心房細動,ア -
抗アルドステロン薬の臓器保護効果
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アルドステロンによる臓器障害メカニズムと抗アルドステロン薬の臓器保護効果について概説する.アルドステロンは腎遠位尿細管(集合管)のミネラロコルチコイド受容体に作用する,単なる水電解質調節ホルモンにすぎないと考えられてきた.しかし,抗アルドステロン薬を用いた大規模臨床研究の結果から,アルドステロンの直接的な臓器障害作用が明らかとなってきた.多くの基礎研究によりアルドステロンが心血管系や腎などの臓器に存在するミネラロコルチコイド受容体に作用し,一部は酸化ストレスを増加させることにより細胞内情報伝達系を介し,さまざまな働きをきたすことが報告された.今後,副作用の少ない選択的ミネラロコルチコイド受容体拮抗薬が用いられるようになり,抗アルドステロン薬の臓器保護効果について多くのエビデンスが構築されることが期待されている. -
アルドステロンブレイクスルー現象—アルドステロンはRAS系のブースター
228巻5号(2009);View Description
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高血圧,心不全の治療に対するレニン アンジオテンシン系阻害薬の有効性は多くの臨床成績で実証されている.しかし,ACE阻害薬およびARBの臨床効果はアルドステロンの血中濃度の再上昇とともに減弱することがあり,アルドステロンブレイクスルー現象として知られている.本現象が生じる原因として,ACE阻害効果の低下,AT1受容体抑制による血中Ang II濃度上昇とAT2受容体刺激,Ang II以外のアルドステロン刺激因子の賦活化,ACE遺伝子多型などが提唱されている.いったんブレイクスルー現象が生じるとRAS阻害薬による心・腎保護効果が消失するため,選択的アルドステロン拮抗薬への変更や併用などの対策を講じる必要がある. -
キマーゼ阻害薬の展望
228巻5号(2009);View Description
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キマーゼはヒト組織での含量が高く,生活習慣病を基礎とする心血管病で増加していることが知られている.最近開発されたキマーゼ阻害薬はまだ臨床でのデータは報告されていないが,動物実験ではさまざまな病態でその効能について報告がある.本稿ではキマーゼ阻害薬を用いた動物実験のまとめと今後の臨床応用について報告する. -
わが国におけるアンジオテンシン受容体拮抗薬のエビデンス
228巻5号(2009);View Description
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近年,evidence based medicineが重要視されるに伴い,心血管イベントの発症・死亡を評価項目とする大規模臨床試験の成績が注目されている.欧米においては種々の臨床領域で大規模臨床試験が実施され,数多くのエビデンスが蓄積されているが,わが国においてはこれまで明確な結果の得られたエビデンスは少なく,欧米でのエビデンスに頼ることが多かった.しかし,欧米でのエビデンスをそのまま日本人にあてはめることには問題があり,日本人を対象としたレベルの高いエビデンスを確立することが求められていた.近年わが国においても,高血圧患者を対象に心血管イベントの発現を評価項目とする臨床試験がいくつか実施され,最近になってCASE J,JIKEI HEART,INNOVATION,SMARTなどのアンジオテンシン II受容体拮抗薬(ARB)に関する臨床試験の成績がつぎつぎと報告されており,ARBの有用性を示すエビデンスが集積されつつある.
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