医学のあゆみ

Volume 228, Issue 7, 2009
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あゆみ “ケミレス”環境医学−化学物質を削減した社会づくり
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環境改善型予防医学の実践−ケミレスタウン・プロジェクト
228巻7号(2009);View Description
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著者らは,へその緒から検出される化学物質の調査から胎児期からすでに人体汚染がはじまっていることを明らかにしてきた.この問題を根本的に解決するべく,化学物質をできるだけ削減して街をつくる“ケミレスタウン・プロジェクト”を開始した.現在対象としているのはシックハウス症候群である.建材や家具から揮発してくる化学物質によって頭痛,のどの痛み,めまいなどを引き起こす同症候群は,室内の揮発性化学物質の濃度が十分に低ければ発症することはないと考えられる.そこで著者らは,環境改善型予防医学を適用した解決方法を試みている.現在,千葉大学キャンパス内に戸建住宅型の実験棟4棟と,同症候群の診察を行う環境医学診療科,シックスクール対応の教室を想定した講義室などの入った鉄筋コンクリート2階建てのビルを建設し,各室内の空気中の揮発性有機化合物(VOC)の濃度を測定してきた.その結果,建材や家具の選択,あるいは建物の構造によって濃度が大きく異なることがわかり,VOCの濃度が低ければそれだけ健康影響の出るヒトの数も少なくなることが判明した. -
シックハウス症候群−診断治療の最新動向
228巻7号(2009);View Description
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シックハウス症候群の診断の第一歩は,患者の訴える中枢神経・自律神経障害に起因する多彩な不定愁訴の原因が,有害化学物質曝露によるものであるとまず疑うことからはじまる.よって詳細な問診である程度の診断は可能ではあるが,身体表現性障害,不安障害など,心療内科・精神神経科学的な症状を示しやすい本症の診断にはどうしても他覚的検査所見の異常が求められる.本稿では,シックハウス症候群に関する厚生労働科学研究の最新の成果をもとに,神経学的検査,微量化学物質負荷検査,遺伝子解析などの有用性を主として紹介する. -
室内空気由来の化学物質曝露−現状と対策
228巻7号(2009);View Description
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シックハウス症候群は室内空気中の化学物質によりさまざまな健康障害が起こる疾病で,1990年代に顕在化し大きな社会問題となった.これを受け,国や業界団体は対策に取り組み,法の整備や自主規制を行ってきた.シックハウス症候群を引き起こす原因物質のひとつにホルムアルデヒドがあるが,種々の対策により建材中含有量は低減し,新築住宅におけるホルムアルデヒド濃度は減少した.そのため,近年ではシックハウス問題は解決したかのような印象を受けるが,一方でシックハウスに関する相談件数は以前と変わらずに推移している.そのおもな要因としては,規制された物質の代替として使用されている未規制物質がいぜんとして室内空気を汚染していることが考えられる.シックハウス対策建材はホルムアルデヒド含有量が少ない.しかし,それ以外のすべての未規制物質が低減化されているわけではないことを認識したうえで,予防対策を立てる必要がある. -
環境化学物質によるアレルギー疾患の増悪
228巻7号(2009);View Description
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近年のアレルギー疾患の増加・増悪には環境要因の変化が重要と考えられている.居住環境,衛生環境,食環境,水・土壌・大気環境など,多くの環境の変化には化学物質の増加という背景が共通して存在している.環境化学物質は実験的にも種々のアレルギー疾患を増悪しうることが明らかにされている.たとえば,粒子と莫大な数の化学物質の集合体であるディーゼル排気微粒子はアレルギー性気管支喘息を増悪する.プラスチックの可塑剤として汎用されているフタル酸ジエチルヘキシルはアトピー性皮膚炎を増悪する.これらの増悪メカニズムにはTh2へのシフトが重要な役割を演じていると考えられる.さらに,これらの物質によるアレルギー疾患の増悪は疫学的にも示唆されている.今後,激増したアレルギー疾患を制圧するためには環境化学物質への対策も考慮すべきと考えられる. -
難分解性有機汚染物質(POPs)の健康リスクと疫学的知見
228巻7号(2009);View Description
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難分解性有機汚染物質(POPs)は環境中において難分解性と長距離移動性を有し,野生生物やヒトで蓄積性および毒性が問題となる有機汚染物質の総称である.ダイオキシン類,ポリ塩化ビフェニル(PCB),有機塩素系農薬(OCs)に加え,最近あらたに有機フッ素系化学物質(PFC)が追加された.生体内蓄積性があり,低レベルの曝露でも健康リスクがあるのではないかと懸念されている.最近の疫学的知見について紹介する. -
ポリ塩化ビフェニル(PCB)を指標とした化学物質の健康診断と削減方法の開発
228巻7号(2009);View Description
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ポリ塩化ビフェニル(PCB)は有機塩素系化学物質曝露の指標となる.400名以上の日本人PCB濃度を測定したところ,年齢とともに血中PCB濃度が上昇した.出産を経験すると減少するが,胎盤・母乳を通して児へ移行したものと思われる.乳児は授乳期間に応じてPCB濃度が高かった.蓄積性化学物質を減らすためには摂取しないことが第一であるが,高コレステロール血症治療薬コレスチミドで低減させることが可能であった. - 【ayumi TOPICS】
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- 再生医学
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- 腎臓内科学
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- 眼科学
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連載
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医師のための臨床統計学8 医学研究の方法論(4)
228巻7号(2009);View Description
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治療法・予防法の評価と開発のために行われる臨床試験は“相”によって分類され,そのデザインは毒性の強い抗がん剤とその他の薬剤では異なる.わが国の臨床試験実施の基盤とその実態はこの15年で大きく変化したが,基盤整備はおもに製薬会社主導の“治験”に対してなされ,トランスレーショナルリサーチやエビデンスを生み出す医師研究者主導の臨床試験に対する基盤はいまだに脆弱である.複数の臨床研究を統計的に併合するメタアナリシスは臨床ガイドライン策定に有用な手法であるが,限界も多い.分子生物学の発展を契機とし個別化医療が求められるなかで,臨床試験とそのメタアナリシスのパラダイムシフトが起こりつつある.臨床試験とメタアナリシスのデータ解析手法について簡単にまとめも行った.
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