医学のあゆみ

Volume 228, Issue 10, 2009
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【3月第1土曜特集】抗凝固・抗血小板療法Update
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なぜ,今,抗凝固・抗血小板療法なのか?
228巻10号(2009);View Description
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止血機能は人類が進化の過程で獲得した,生存に必須の機能である.進化した止血機能の過剰発現により心筋梗塞,脳梗塞などの血栓性疾患が発症する.急性発症する重篤な疾患の多くが血栓症であるため,予防,治療に用いる抗凝固・抗血小板療法はきわめて重要である.一方,生理的な止血機能を阻害する抗凝固・抗血小板療法では不可避的に出血性合併症が惹起される.“副作用”が必発する抗凝固・抗血小板療法では,適応決定がきわめて重要である.血栓症の病態,日本人の血栓リスク,抗凝固・抗血小板療法施行時の出血リスクなど,現時点では未知の部分が多い.真に科学的な医療を実践するために,本領域の科学の飛躍的発展が期待される. - 抗血小板薬概説
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抗血小板薬の種類とその作用メカニズムの概略
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抗血小板薬はその作用メカニズムにより,1. 種々の刺激による血小板活性化シグナルを阻害する薬剤と,2. 抑制シグナルであるcAMPまたはcGMPの産生を増加させる薬剤,に大別される.抑制シグナルを増強する薬剤は,血小板機能を阻害するとともに血管弛緩作用などの薬理作用を有する.1. に属する薬剤としては,ADP受容体(P2Y12)阻害剤としてチクロピジンやクロピドグレル,セロトニン受容体阻害剤としてサルポグレラート,アラチドン酸代謝の律速酵素シクロオキシゲナーゼ阻害剤アスピリン,2. に属する薬剤としてプロ -
抗血小板薬のモニタリング−抗血小板薬の薬効評価の基本的考え方と実際
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動脈血栓の主体である血小板の機能抑制に働く抗血小板薬の虚血性心疾患や非心原性脳梗塞,末梢動脈疾患に対する有用性は,多くの大規模臨床試験により示されている.しかし最近では,抗血小板薬の血小板機能抑制効果には個体差があり,抗血小板薬を服用しているにもかかわらず,血小板機能抑制が十分に認められないグループでは抗血小板療法時の心血管イベントの発症率が高いことが報告されていることから,抗血小板薬を使用時のモニタリングの必要性が提唱されてきている.2008年現在,抗血小板薬の効果を日常の診療で評価するモニタリング法は確立していない.従来用いられている血小板機能検査をモニタリングに採用するには,手技の煩雑さや標準化の困難など解決すべき問題が多い.したがって,血小板機能抑制効果に大きな個体差を有することが知られるおもな抗血小板薬アスピリンやチクロピジン,クロピドグレルの有用性を評価するために,より簡便で再現性が高く,臨床成績と良好に関連する“モニタリングの開発”が求められている.抗血小板薬のモニタリング開発は現在いまだ研究の域を超えていないが,臨床的有用性が高いデータの集積が世界レベルで行われている. -
抗血小板薬の問題点と将来の展望−限界とその克服への道筋
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血小板は正常止血で必須の細胞であると同時に,病的血栓症の発症に重要な役割を果たす.したがって,病的血栓症の主として二次予防において抗血小板薬はきわめて大きな役割を果たしている.出血傾向が少なく,病的血栓症のみを抑制するような抗血小板薬は可能であろうか.本稿では,最近の大規模臨床試験の結果から,出血傾向と治療効果が基本的に表裏一体の傾向にあるが,場合によっては出血傾向だけ強め,それほど臨床効果の上がらない場合もあることを指摘する.また,一次予防における有用性や抗血小板薬抵抗性などの問題点を整理し,その解決への試みを紹介し,ここ2 3年で発表される予定の重要大規模臨床試験を紹介する.このように複雑かつ多岐の問題点をわかりやすく整理するために,代表的抗血小板薬アスピリンを中心に議論を展開する.本稿の目的は現状の問題点ときたるべき解決策の道筋を示し,本特集の各論への橋渡しとすることである. - 抗血小板薬が重要視される疾患と病態
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日本人におけるステント血栓症の実態と抗血小板療法の意義− j-Cypherから日本人でのエビデンスづくりをめざして
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薬物溶出性ステント(DES)は,再狭窄を劇的に低減するデバイスとして登場した.しかし,血管平滑筋細胞の増殖を抑制して内膜の新生を遅延させるため,ステント血栓症のリスクが高いのではないかと危惧される.日本人における成績を調査するためにj Cypherレジストリーが行われた.ARCの定義でDefiniteステント血栓症の頻度をみると,30日:0.35%,1年:0.59%,2年:0.78%,3年:1.2%と許容範囲内の低いものであった.頻度は低いながらも,2年までの追跡では遅発性ステント血栓症の頻度は年率0.29%で減衰傾向は認められず,今後,追跡期間を延長して遅発性ステント血栓症のリスクがいつまで持続するかを明確にする必要がある.遅発性ステント血栓症の予防のために,2剤の抗血小板療法がいつまで必要かという問題についても現時点では明確なデータはなく,観察を継続する必要がある. -
抗血小板薬が有効な脳梗塞の病態と,抗血小板薬による予防・治療の実際
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脳梗塞にはさまざまな病型が含まれ,再発予防に抗血小板療法の適応があるのは非心原性脳梗塞である.非心原性脳梗塞のなかではアテローム血栓性脳梗塞が抗血小板療法のよい適応であるが,ラクナ梗塞にも血圧を十分にコントロールしたうえで抗血小板療法が行われる.わが国で投与可能な抗血小板薬にはアスピリン,チクロピジン,クロピドグレル,シロスタゾールがあり,このなかではアスピリンのエビデンスがもっとも豊富で費用対効果にも優れるため,第一選択薬として用いられる.しかし,アスピリンの有効性は十分とはいえないため,ハイリスク症例ではクロピドグレル投与や,抗血小板薬併用療法が考慮される.ただし,長期の血管イベントの予防を目的としたクロピドグレルの併用療法は推奨されない. -
冠動脈疾患の一次・二次予防における抗血小板薬の役割
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アスピリンは冠動脈疾患の一次・二次予防の抗血小板薬として確立されており,JPAD,JAMISは当教室から発信された日本人のエビデンスである.クロピドグレルはとくにPCI後の二次予防として重要な抗血小板薬であるが,一次予防としての地位は確立していない.冠動脈血栓の促進因子であるtissue factorや,血管内で生じたフィブリン血栓の溶解に関与するtissue type plasminogen activato(r tPA)の阻害因子であるplasminogenactivator inhibito(r PAI)活性が急性冠症候群急性期に亢進している. -
糖尿病・メタボリック症候群における抗血小板薬の意義
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わが国で増え続ける糖尿病は,微小血管障害のみならず,大血管障害の危険因子となる.糖尿病症例では血液凝固系が亢進しているのみならず線溶系の機能異常も加わることが,心血管疾患のリスクを高めることにつながる.メタボリック症候群は大血管障害の予防を目的として確立された,肥満,高血圧,脂質異常症,耐糖能障害などのリスクが個人に集積することを明示した病態概念であるが,糖尿病,とくに2型糖尿病の発症リスクを見極めるためにも有用である.その病態概念の中心をなす内臓脂肪蓄積とインスリン抵抗性はアディポカイン〔レプチン,アディポネクチン,plasminogen activator inhibitor type 1(PAI 1)〕の産生と関連して凝固・線溶系の機能異常をきたし,心血管疾患のリスクとなる.糖尿病,メタボリック症候群の症例に対する抗血小板剤投与は大血管障害の予防に有用である可能性がある. -
慢性腎障害(CKD)における抗血小板療法
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慢性腎障害(CKD)は2002年に提唱された概念で,増え続ける末期腎不全患者の予備軍として注目されているだけではなく,心血管病(CVD)の発症や死亡に対する重要な危険因子であることから,健康を脅かす重要な症候群であることがわかってきている.CKDは,CVDならびに高血圧,糖尿病などとも密接な関係があり,多角的な治療が必要となってくる.抗血小板療法は,主としてCKDからも由来するCVDを予防・進展防止することで生命予後を改善するが,CKDの病態によっては直接的にその効果が認められることもある.とくに血液透析患者のバスキュラーアクセスに対する効果についてはさまざまな研究がなされており,今後のエビデンスの蓄積が期待されるところである. - 抗血小板薬の諸問題
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抗血小板薬抵抗性の概念とその実態
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動脈血栓症の治療において,抗血小板薬の作用が減弱する抗血小板薬抵抗性という概念が注目されている.臨床予後に関する多くの報告もあるが,実際に薬理学的な抵抗性を意味する研究は少ない.抵抗性の定義を薬理学的抵抗性に限れば,アスピリンにより血小板シクロオキシゲナーゼが抑制されないアスピリン抵抗性はまれである.一方,クロピドグレルは75 mg投与においては効果が不十分である群が存在するという報告が多い.このクロピドグレル抵抗性には肝における活性型への代謝の低下が一因と考えられている.今後は,日本独自の抗血小板薬の反応性,予後に対する臨床研究が必要と考えられる. -
消化器内科医からみた抗血栓療法の問題点−とくに内視鏡時の注意点を中心に
228巻10号(2009);View Description
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消化性潰瘍の最大のリスク要因であるHelicobacter pyloriの感染率が減少する一方,アスピリンを含む抗血栓薬による消化性潰瘍や消化管出血の症例が増加している.平均寿命の延長に伴う高齢化社会を迎えて抗血栓療法中の患者に対する観血的な内視鏡的治療が増加していることから,抗血栓療法中の患者を実際に診療する際の消化器内科医からみた注意点を解説した.低用量アスピリンなどの抗血小板薬の使用頻度が飛躍的に増加しているが,抗血栓薬による消化管出血は疼痛などの症状に乏しいため,主治医のみでなく患者自身も出血の危険性を熟知し,便の色や貧血などに十分な注意が必要である.観血的な消化器内視鏡手技の必要性が生じた場合,手技に伴う出血の合併症のみならず,抗血栓薬の中断による血栓塞栓症にも留意した対応が必要であり,とくにワルファリン(ワーファリン)内服者については手技前後におけるINRのコントロールが肝要である. -
抗血小板薬による上部消化管出血の発症メカニズムと現状
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抗血小板薬の副作用として上部消化管出血が問題である.なかでもアスピリンは従来型のNSAIDと同様に,粘膜傷害作用が強い.低用量アスピリンの上部消化管出血のリスクは無作為割付試験のメタ解析やcase controlstudyの検討で1.6 8.2と報告されている.その他の薬剤ではチクロピジンやジピリダモールで上部消化管出血のリスクが高いという報告がある. - 抗凝固薬概説
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経口抗凝固薬の種類とその作用メカニズムの概略
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現在使用可能な経口凝固薬はワルファリン(ワーファリン)のみである.ワルファリンはCYP2C9による代謝に影響を受けるため,個人差が大きい.また,併用薬,食事による影響も大きく,十分なモニタリングが必要である.モニタリング方法としては,現在では服薬前後のプロトロンビン時間の比を試薬ごとの感度を反映する国際感度インデックス(International Sensitivity Index:ISI)で補正して得られる国際標準単位INRが推奨されるようになった.一方で,欧米データを日本人にあてはめようとしても日本人は欧米人に比較して血栓リスクが低く,出血リスクが高いとされている.ワーファリンはきわめて強力な抗凝固薬であるが,個々の患者におけるワーファリン適応,至適INRの決定を見極め実践することが必要である. -
経口抗凝固薬の薬効評価の実践アプローチ
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脳梗塞や心臓病をはじめとする全身の血栓性疾患の増加に伴い,抗血栓療法の需要は増すばかりである.一方で本療法には出血性合併症のリスクを伴うというジレンマがある.心房細動をはじめとした諸疾患に対し,適切な血圧管理下で,適切なINRを目標としたワルファリン療法を行えば,重篤な出血性合併症を生じることなく,塞栓性疾患の発症を抑えることが可能である.ガイドラインを遵守したワルファリン療法の実施が望まれる. -
現在の抗凝固薬の問題と将来展望
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血管から採取した血液を試験管内に放置すると凝固する.血液凝固を阻害する薬剤としてヘパリン,ワルファリンなどの薬剤が広く使用されてきた.これらの薬剤は“血液凝固”を阻害する故に“出血性合併症”を増加させる.ヘパリン,ワルファリンは薬効メカニズムの解析から演繹的に開発された薬剤ではなく,経験的に生まれた薬剤である.両者とも投与量の効果の間に個人差,環境の影響が大きいとの問題があった.現在あらたな抗凝固薬が“効果のばらつき”の問題を解決すべく開発されている.生体内の血栓形成メカニズムの精細な理解に基づいた,“出血性合併症”を惹起しない抗凝固薬の開発戦略の確立が急がれる. - 抗凝固薬の有効な病態と治療の実際
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経口抗凝固薬による脳塞栓症予防と頭蓋内出血の発症リスク
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心原性脳塞栓症の再発は,抗血栓療法を行わない場合,年間12%,適切なワルファリン療法を行うと年間4%である.ワルファリン療法中には年間約0.6 1.0%の頻度で頭蓋内出血が起こりうるが,適切なワルファリン療法は心原性脳塞栓症の二次予防に有用であるといえる.ワルファリンに伴う頭蓋内出血のもっとも強力な予測因子は,患者の年齢と抗凝固作用の強度である.また,頭蓋内出血の危険因子である高血圧・喫煙・アルコール摂取量・血中コレステロールレベルの管理も重要である.抗血小板薬単剤服用者における頭蓋内出血発症率は年間0.34%である.抗血小板薬2剤服用者やワルファリン服用者の頭蓋内出血の発症率は,抗血小板薬単剤服用者の約2倍,ワルファリン・抗血小板薬併用者では約3倍に増加するため,不必要な併用療法は避けるべきである.ワルファリン療法中の頭蓋内出血は,発症24時間以内でINRが2.0以上の場合に血腫が増大しやすい.その抑制にワルファリンには,乾燥ヒト血液凝固第IX因子複合体の静脈内投与が有効である.頭蓋内出血後の抗凝固療法の再開は,止血完了後に再開の可否とその時期を症例ごとに検討する. -
心房細動症例における脳血栓塞栓症の一次予防
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心房細動の合併症のひとつである脳血栓塞栓症は,ひとたび発症すると重篤になることが多く,発症前対策としての一次予防を積極的に考慮すべき疾患といえる.塞栓症の予防としてワルファリンの有効性が証明されているが,出血性合併症やビタミンK制限,薬剤相互作用など薬として扱いづらい側面も多く,また,患者側だけでなく医療者側の不理解も加わってワルファリン導入が進まない場合も多く見受けられる.本稿では脳血栓塞栓症に対するワルファリンの有効性について考察し,どのような症例にワルファリンを導入し,導入後はどのように管理すればよいかについて概説した. -
深部静脈血栓症,肺血栓塞栓症予防における抗凝固療法の実際
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深部静脈血栓症(DVT)と肺血栓塞栓症(PTE)は静脈血栓塞栓症(VTE)と総称され,その頻度は過去40年間に著しく増加した.予防ガイドラインが公表されて理学的予防法が普及したが,最近の数年間はその頻度は改善されず,死亡率もいぜん高いままである.また,手術患者ではわが国でも欧米と同じ発生リスクであり,さらなる予防には抗凝固療法が不可欠である.抗凝固療法では出血などのリスクとVTEの抑制というベネフィットのバランスを考慮する必要がある.近年,VTE予防にフォンダパリナクスや低分子量ヘパリンのエノキサパリンが承認され,抗凝固薬の選択肢が広くなった.これら新しい薬剤によるVTE予防の実際を中心に概説する. - 抗凝固薬の諸問題
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経口抗凝固薬の応答性を支配する薬物動態と標的分子の遺伝背景の解明
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ワルファリンは日本で1962年の発売以来,約50年間もの長期にわたり経口可能な抗凝固薬として,静脈血栓症と心房細動に伴う血栓塞栓症の治療と予防に適応がある唯一の薬物である.とくに心房細動患者の血栓塞栓症予防については,過去10年間の処方患者数が増加している.一方,ワルファリンは薬物副作用のために急患室を受診する原因薬として,つねにインスリンとトップの座を争っている薬物でもある.この原因は,ワルファリンの投与量 効果関係(応答性)には10倍以上の個人差が存在するためである.現在では,ワルファリンの応答性の個人差は,おもに薬物動態の個人差に関係する薬物代謝酵素チトクロームP450(CYP)2C9の遺伝多型と,標的分子であるビタミンKエポキシド還元酵素複合体(VKORC1)の感受性の個人差に関係する遺伝多型により,すくなくともその50%が説明可能であることが判明しており,ワルファリン投与量の個別化に資するゲノム情報の利用が現実的になっている. -
抗凝固薬による頭蓋内出血(脳出血)の現状
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1960年代から高血圧治療の進歩によって脳出血の発症率・死亡率が減少してきたが,最近では加齢に加えて全身のアテローム血栓症や心房細動などの心疾患を基盤とする脳梗塞の発症率が増加しているため,脳梗塞再発予防のために抗血小板薬,抗凝固薬を服用する患者が増え,これらの抗血栓療法に伴う脳出血が増加している.抗血栓療法に伴う脳出血例では,入院後の血腫量の増大により神経学症状の重症化が高率に生じ,予後の悪化をきたす.抗血栓療法のなかでも抗凝固薬に伴う脳出血は重症化しやすく,その予防・予知が重要な課題となる.抗血栓療法は脳梗塞を含む循環器病の一次・二次予防として欠くことはできない治療法であるが,これらの薬剤による出血性合併症を減じるためには,抗血栓薬を適切な用量とする(ワルファリン服薬例ではPT INRのモニターをつねに行う)だけではなく,高血圧症などの他のリスク因子についても厳格に管理することが重要である. -
生体内における血液凝固メカニズムと動脈血栓形成への関与
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凝固反応については,現在の内因系・外因系からなる凝固カスケードモデルが広く受け入れられている.しかし,いくつかの臨床的矛盾点が指摘されており,デューク大学のMonroeらは細胞をベースとした凝固反応モデルを提唱している.血栓形成における凝固系の関与については,血流が緩徐な静脈ではよく理解されている.一方,血流の速い動脈においては血栓形成の初期は,血流に抗して損傷血管壁に粘着する血小板が主役を演じる.しかし,動脈硬化巣には組織因子が発現し,凝固活性も上昇しているため,硬化巣の破綻部には血小板とともに大量のフィブリンからなる血栓が形成され,破綻部の凝固活性の程度がイベント発症に重要な因子になると考えられる.組織因子については組織や細胞に存在するものに加えて,マイクロパーティクルと結合した流血中の組織因子の生理機能が注目されている. -
スタチンの血液凝固システムに及ぼす影響
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スタチンには近年,抗血栓作用を含むいくつかの血管保護作用があることが報告されてきており,それらは脂質代謝の変化とは独立しているとされている.スタチンが血液凝固のカスケードを抑制するというエビデンスが徐々に蓄積されてきており,それはtissue factorの発現低下とそれによるトロンビン生成減少によるものと推測されている.さらに,スタチンは血管内皮細胞でのトロンボモデュリンの発現増加を通じてプロテインCによる抗凝固経路も活性化することも判明してきた.明らかとなってきたこれらのスタチンの作用によって,急性冠症候群などの患者に対するスタチンの治療効果のすくなくとも一部は説明できると考えられる. -
組織循環障害と白血球系細胞の役割およびこれを標的とした抗血栓治療
228巻10号(2009);View Description
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血管内で生じる血栓は組織循環障害をもたらし,しばしば臓器障害の原因となる.この対策として抗血小板療法や抗凝固療法が存在するが,最近では血栓形成において重要な役割を演じている活性化好中球をターゲットとした治療が注目されている.抗血小板薬では,ジピリダモールやシロスタゾールなどのホスホジエステラーゼ阻害薬,抗凝固薬では活性化プロテインCやアンチトロンビンなどの生理的抗凝固物質がそれぞれ抗血小板作用や抗凝固作用とともに活性化白血球を制御しうることが報告されており,注目されている.
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