医学のあゆみ

Volume 228, Issue 13, 2009
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あゆみ 大腸癌KRAS遺伝子変異ガイダンス−抗EGFR抗体医薬の適正使用に向けて
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KRAS遺伝子変異の臨床的意義とガイダンスの必要性
228巻13号(2009);View Description
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セツキシマブ(アービタックス)は,わが国初の抗上皮細胞増殖因子受容体(epidermal growth factor receptor:EGFR)抗体薬として“EGFR陽性の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌”を対象に2008年7月に製造承認を受け,9月に販売された.すでに欧米などで承認を受けているパニツムマブ(ベクティビックス)はわが国では承認申請中である.欧米では,抗EGFR抗体薬の治療効果予測因子としてKRAS遺伝子変異が以前より注目され,ヨーロッパでは抗EGFR抗体薬はKRAS野生型のみに使用が制限され,NCCNのガイドラインでもKRAS野生型のみへの使用を推奨している.しかし,わが国のセツキシマブの添付文書にKRAS遺伝子変異の記載はなく,KRAS遺伝子検査は保険未承認である.このような背景のなか,日本臨床腫瘍学会ではKRAS遺伝子変異検討小委員会を設立し,世界に先がけ,わが国の社会情勢を加味した『大腸がん患者におけるKRAS遺伝子変異の測定に関するガイダンス,第1版』を2008年11月に作成し,2009年1月30日に学会ホームページに公開,本学会員からのパブリックコメントを募集している.本稿では,抗EGFR抗体薬におけるKRAS遺伝子変異の臨床的意義とガイダンスの必要性について概説する. -
大腸癌におけるRASとEGF受容体− RASとEGFRの機能
228巻13号(2009);View Description
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大腸癌の発癌過程として,形態学的には良性増殖性病変である腺腫から腺腫内癌そして早期大腸癌,さらには転移を示す進行大腸癌の過程において,多段階の遺伝子異常が蓄積することが明らかになっている.これら遺伝子異常のなかで,RAS遺伝子は比較的発癌過程の早期から変異を伴うことが知られ,大腸癌全体のおよそ40%の症例において遺伝子変異が認められる.また,上皮増殖因子は上皮増殖因子受容体(EGFR)に結合し,細胞の増殖だけでなく,生存や血管新生因子産生など大腸癌の進展に重要な意義を有していることが明らかになってきている.これらの分子は,わが国でも承認された抗EGFR抗体治療に重要な意義を有していることが明らかになってきた.本稿ではRAS遺伝子およびその遺伝子産物の細胞内増殖シグナル伝達機構を説明するとともに,EGFRシグナル伝達とRASシグナル伝達とのかかわりについて紹介する. -
大腸癌における抗EGFR抗体医薬の有害事象
228巻13号(2009);View Description
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抗EGFR(Epidermal Growth Factor Receptor;ヒト上皮細胞増殖因子受容体)抗体医薬にはcetuximab,panitumumabなどがあるが,2009年2月現在わが国で大腸癌に承認されているのはcetuximabのみである.CetuximabはIgG1ヒト/マウスキメラ型モノクローナル抗体で,2003年にスイスで承認後,2004年にヨーロッパEMEA,アメリカFDAで承認され,世界的に用いられている.Cetuximabの有害事象は細胞障害性薬剤とは異なりおおむね軽度であり,血液毒性や消化器毒性はほとんど問題となることはなく,infusion reactionおよび皮膚症状が注意すべき有害事象である. -
ガイドラインとKRAS変異
228巻13号(2009);View Description
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抗EGFR抗体薬の効果とKRAS遺伝子の変異状態との相関が注目されているなか,各種のガイドラインでこの点をどのように扱っているか,わが国と海外との現況について概説した.わが国では,日本臨床腫瘍学会のKRAS遺伝子変異検討小委員会による大腸癌KRAS遺伝子変異ガイダンスで,基本的に抗EGFR抗体薬を有効的に使用するためにはKRAS遺伝子変異のない症例を選別して投与する重要性を指摘している.アメリカのガイドラインとしては,NCCNのガイドラインおよびASCOのProvisional Clinical Opinionで,KRAS遺伝子変異の検索の必要性を示している.一方,ヨーロッパのEMEA(ヨーロッパ医薬品審査庁)は,ホームページ上で抗EGFR抗体薬はKRAS変異のない転移性大腸癌に適応されると記載している.またEuropean Societyof Pathology(ESP)のガイドラインでは,KRAS変異検査手順の標準化に取り組むために,検査方法,検査対象などに関して推奨を行っている. -
大腸癌における抗EGFR抗体医薬の臨床試験:セツキシマブ
228巻13号(2009);View Description
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Cetuximab(Erbitux)の有用性については2003年のASCOにおいて,はじめての報告がなされた(BOND試験).その後の大規模第III相試験の結果,cetuximabの有効性は一次治療(CRYSTAL試験),二次治療(EPIC試験),多剤耐性例(NCIC CTG CO.17試験)のいずれにおいても検証され,欧米においてcetuximabは一次 三次治療すべてのラインのなかで実地臨床での導入がはかられている.しかし,上述の試験における後付けの解析から,KRAS遺伝子変異型では臨床効果(奏効率,無増悪生存期間・全生存期間の延長)が認められないことが明らかとなった.このことからcetuximabを投与するうえで,事前のKRAS遺伝子変異の検索が必要であり,かつ変異型の症例では本療法を行うべきではない.また,一次治療におけるcetuximabとbevacizumabの併用は推奨されない(CAIRO2試験)ことも明らかとなった.わが国においてもirinotecanとの併用の第II相試験が行われ,欧米での報告と同等の成績が得られ,cetuximabはirinotecanに抵抗性となったEGFR陽性結腸直腸癌に対して,2008年7月に承認された. -
大腸癌における抗EGFR抗体医薬の臨床試験:パニツムマブ
228巻13号(2009);View Description
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上皮成長因子受容体(EGFR)の過剰発現は多くの固形癌(頭頸部癌,非小細胞肺癌,大腸癌など)で認められ,腫瘍増殖やアポトーシス阻害,血管新生の誘導と関連しており,シグナルの遮断により腫瘍の増殖を抑制できると考えられている.完全ヒト型抗EGFR抗体パニツムマブは,進行再発大腸癌に対しbest supportive care(BSC)と比較した第III相試験において有意に無増悪生存期間の延長を示し,欧米において大腸癌治療戦略の重要なoptionのひとつとして承認されている.BSCとの比較第III相試験における検体を用いたKRAS変異についての検討では,KRAS変異例ではパニツムマブ群とBSC群の無増悪生存期間に有意差は認めなかったが,KRAS野生型の症例ではパニツムマブ群がBSC群と比べ有意に無増悪生存期間の延長を認めた(中央値:パニツムマブ群vs.BSC群=12.3週vs.7.3週).このようにKRAS変異はパニツムマブの無効予測因子として有用であることが示されている. -
他のがん腫におけるEGFR-RASシグナル
228巻13号(2009);View Description
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分子スイッチであるRAS蛋白はがんのシグナル伝達において重要な分子であり,明らかながん遺伝子として知られている.RAS遺伝子変異は膵癌,肺癌,大腸癌をはじめとする多くのがん腫において変異が認められている.一番頻度の多いKRAS遺伝子変異以外にも,膀胱癌のHRAS変異や,リンパ性の悪性腫瘍や悪性黒色腫のNRAS変異が知られている.RAS蛋白は生物学的活性を獲得するために,プレニル化,蛋白質分解,カルボキシルメチル化,パルミチル化などいくつかの翻訳後修飾を必要とし,これらを標的とした薬剤の開発がはじまっている. -
セツキシマブの効果予測因子としてのKRAS遺伝子測定における検体の取扱い
228巻13号(2009);View Description
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進行・再発大腸癌において,KRAS遺伝子はEGFR阻害剤であるセツキシマブの重要な効果予測因子として注目されている.セツキシマブの適正使用のためにはKRAS変異の有無を正確に評価することが不可欠であるが,標準的測定系はいまだ確立されていない.しばしば用いられるダイレクトシークエンス法においてもピットフォールが存在し,注意が必要である.また,手術標本のなかにはホルマリン過固定によって著しいDNAの断片化が生じ,PCR増幅ができなくなるおそれがあることから,固定条件を考慮する必要がある.さらに,生検標本を用いたKRAS測定は簡便であり,その頻度が上昇することが見込まれるが,正常組織の混入による感度の低下にも留意が必要である.感度・特異度ともに優れ,日常臨床において実用的な測定系が望まれるが,測定系の特徴を考慮し,それぞれに適切な標本を選択することが重要である. - 【付録】
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フォーラム
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- 切手・医学史をちこち87
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- 逆システム学の窓23
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TOPICS
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- 形成外科学
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- 免疫学
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- 腎臓内科学
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連載
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- 医師のための臨床統計学12
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統計的推測の基礎(2)
228巻13号(2009);View Description
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まれな現象の発生モデルとしてよく用いられるポアソン分布を紹介し,標準化死亡比(SMR)の大きさの判断に応用する事例を示す.確率変数をデータとして複数観測し,それらの平均値や分散を計算すると,これらの変数も確率変数となる.統計量とよばれるデータの関数の分布に関する理論を標本分布理論という.χ2分布は標準正規分布に従う確率変数の2乗和の分布であり,分散分析で重要な役割を果たす.