Volume 229,
Issue 9,
2009
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【5月第5土曜特集】細胞医療Update
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医学のあゆみ 229巻9号, 663-663 (2009);
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幹細胞の基礎研究
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医学のあゆみ 229巻9号, 667-674 (2009);
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難治性疾患に対する再生医療の開発のため,ヒトES細胞から主要臓器への分化誘導が世界中で研究されている.ヒトES細胞はその細胞株間において未分化状態では同様のマーカー遺伝子を発現し,胚様体や奇形腫を形成するなど共通の性質を有するが,分化する際にもその均一性が保持されるのかどうかは不明であった.著者らは17の異なる個体由来のヒトES細胞株の分化能を詳細に比較解析し,株間で分化能に顕著な違いがあり,株によって特定の系譜に分化する傾向,分化指向性が異なることを明らかにした.この結果はiPS細胞など他の方法で作製されたヒト多能性幹細胞にも分化能の不均一性が存在する可能性を示唆するとともに,各研究者の目的とする臓器への分化に適する細胞株を選択および樹立する重要性を示している.
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医学のあゆみ 229巻9号, 675-678 (2009);
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iPS(induced Pluripotent Stem)細胞は当研究室において,マウスおよびヒトの線維芽細胞にc Myc,Oct3/4,SOX2,Klf4の4つの遺伝子を導入することにより樹立可能であることが発見され,その後ヒトにおいても同様の方法によって樹立可能であることが発見された.iPS細胞は,ES(embryonic stem)細胞とほぼ同等の自己複製能と分化多能性をもつと考えられている.患者自身の体細胞から作製可能なiPS細胞は,再生医療においてES細胞のもつ倫理的あるいは技術的問題点を解決しうる細胞として期待され,研究が進められている.現在急速に進んでいるiPS細胞樹立法に関する研究,細胞治療や疾患特異的iPS細胞研究などのiPS細胞の応用技術の研究の2点について,これまでの進展を概説したい.
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医学のあゆみ 229巻9号, 679-680 (2009);
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医学のあゆみ 229巻9号, 681-685 (2009);
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細胞医療・再生医療において,供給源となる細胞のひとつとして間葉系幹細胞がある.表皮細胞,角膜上皮細胞が現実の再生医療として利用されているのと同様に,間葉系幹細胞が形成外科,歯科口腔外科,循環器科,整形外科の領域で細胞製剤として考えられている.骨髄由来の間葉系細胞の移植は,移植片対宿主病(GvHD)に対する治療選択肢として臨床試験が開始された.さらに,その増殖能が高いことと同時に遺伝子導入が容易であることより,遺伝子治療の対象となる細胞として考えられる.間葉系幹細胞研究の歴史は長く,同一または類似した細胞に対し種々の呼称が存在する.また,間葉系幹細胞を規定するマーカーの同定に対する研究も精力的に行われている.
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医学のあゆみ 229巻9号, 686-692 (2009);
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幹細胞は特定の組織や臓器を構成する成熟細胞への多分化能と自己複製能をあわせもつ細胞であり,各組織が長期にわたる恒常性を維持するのに貢献している.成体の各組織における幹細胞の自己複製・増殖・分化は,幹細胞内因性の遺伝子プログラムによるコントロールに加え,幹細胞周囲の微小環境“幹細胞ニッチ”からの影響を大きく受けている.どのようにして幹細胞がその特性および機能を維持しているのかを理解するためには,幹細胞周囲のニッチとの相互作用による調節機構を解明することが重要であり,その理解は幹細胞を制御する技術基盤の確立にもつながると考えられる.
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医学のあゆみ 229巻9号, 694-697 (2009);
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近年,簡便かつ安全に採取できる脂肪組織に,骨髄由来の間葉系体幹細胞や臍帯血由来体幹細胞と同様な細胞群の存在が報告されている.これら脂肪組織由来体性幹細胞(ADSC)も骨髄および臍帯血由来体性幹細胞と同様に,脳神経系,筋骨格系,心脈管系,内分泌系の構成細胞に分化しうることが示されている.著者らは脂肪組織から新規の幹細胞として,islet 1およびGATA 4陽性である“脂肪組織由来多系統前駆細胞”を得た.これらは骨・軟骨・脂肪組織のみならず,心筋芽細胞・肝細胞・インスリン分泌細胞へと分化しうる細胞である.新規幹細胞を含め,脂肪組織由来体性幹細胞は簡便かつ安全な細胞治療素材の供給源として期待されており,世界的にも再生医療に臨床導入され,細胞治療の素材として広く用いられていくと考えられる.
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医学のあゆみ 229巻9号, 698-702 (2009);
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幹細胞は自己複製能と多分化能をもつ細胞と定義することができる.成体において血液細胞などの一定の寿命をもつ細胞が枯渇することなく終生供給されるのは,それぞれの組織の幹細胞が維持され,そこから分化した細胞がたえず産生されるためである.幹細胞は生体においてはニッチとよばれる微小環境によって維持されていると考えられ,支持細胞との細胞間接着,ニッチにより産生されるサイトカインなどが幹細胞の自己複製と増殖・分化をつかさどっている.造血幹細胞は生理的条件下では多くが細胞周期の静止期(G0)にあるとされている.本稿では造血幹細胞の表面マーカーによる純化と自己複製能と細胞周期の静止状態の維持の分子メカニズムについて,最近の知見を中心に概説する.
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医学のあゆみ 229巻9号, 704-710 (2009);
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ヒトES細胞からは多系統の成熟血球(赤芽球,NK細胞,Tリンパ球,樹状細胞,血小板など)の産生が報告されている.分化誘導技術に関してはマウスフィーダー細胞との共培養法が最初に確立されたが,現在では無フィーダー培養法でも同等の成績が得られつつある.後者では浮遊培養による球状構造物(スフィア)の形成プロセスが鍵となるが,著者らはヒトES細胞由来スフィアを接着培養するという2段階法により,効率よく好中球を作製することに成功した.ヒトES細胞からの造血細胞の分化誘導に関しては多くの研究成果が集積しているが,課題も残されている.たとえば,ウシ胎仔血清を含む動物由来因子の完全排除はまだ達成されていない.造血幹細胞の作製も成功例はない.ヒトES細胞株間での分化挙動に関する顕著な差異も原因は解明されていない.これらに対するわれわれの模索やヒトiPS細胞への応用について言及しながら,好中球分化に関する著者らの最近の知見について解説する.
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医学のあゆみ 229巻9号, 711-719 (2009);
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心臓は厳密にプログラムされながら正確に形づくられた非常に美しい器官であり,まるでデザイナーやアーティストによって図案され,現在でも利用されている機能的な歴史的建造物のようである.心臓は発生過程においてもっとも早期に機能する臓器であり,かつ胎生期・生後の生命維持活動においても重要な器官である.しかし,先天性心疾患患者は全出生児の約1.9%1),心不全における死亡者は全体の30%強2)を占める.このようなことから,心臓誘導過程や心臓維持機能を理解し,心機能回復に役立てようとする研究は現在非常に注目されている3).ここ数年,心臓形成にかかわる分子群,心臓誘導メカニズムの新発見,心臓幹/前駆細胞の存在,エピジェネティック因子による制御などの基礎心臓研究は卓越した結果を得ており,臨床応用を見据えた実践研究とのギャップが埋まりつつある.
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医学のあゆみ 229巻9号, 720-725 (2009);
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幹細胞の本質的機能は自己再生能と多分化能であるが,ウイルスがこれらを障害し疾病を生じることは十分に予想される.また,ますます発展する再生医療において,ウイルスが再生医療の主役である幹細胞の“敵”となりうる.したがって,ウイルス性疾患を幹細胞障害の観点で検討することが必要である.本稿ではその一例として,サイトメガロウイルス(CMV)による神経幹細胞・前駆細胞障害について解説する.一方,ウイルスの弱点を知ることでウイルスに抵抗性をもつ幹細胞を人工的に作製し,幹細胞の万能性を利用した再生医療によって難治性ウイルス感染症を治療することが可能である.これについてはヒト免疫不全ウイルス1型(HIV 1)感染症に対する造血幹細胞・前駆細胞を用いた最先端の治療法について解説する.
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医学のあゆみ 229巻9号, 726-731 (2009);
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細胞培養は細胞の増幅および機能発現を目的とし,細胞を含む移植材料を製造するうえで重要な工程である.培養面に付着し増殖する足場依存性細胞は容器内において平面的に増殖し,細胞が培養面のほぼ全面を覆ったとき,培養面から細胞を /離して再懸濁し,他の複数の培養容器に再播種する.培養面積の増大に伴い容器の交換する継代培養を繰り返す.このような継代培養は多くの煩雑な操作での厳密管理が要求される工程となり,セルプロセッシングセンター(CPC)にて熟練オペレータが煩雑な一連の培養作業を実施しているが,操作の安定性,多大な労力やクロスコンタミネーション・作業ミスの予防など,安全性を担保する必要がある.よって培養操作の簡略化や自動化は,培養細胞・組織(製品)の品質向上と人的作業ミスの排除が実現でき安全性と有効性の保証に貢献することが考えられる.本稿では培養装置の役割および継代培養における操作の自律化について紹介する.
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細胞移植の方法
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医学のあゆみ 229巻9号, 735-739 (2009);
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心不全,心筋梗塞の新しい治療法として再生医療が注目されている.細胞移植治療は心筋再生医療の重要な戦略のひとつであるが,臨床的に十分な量の移植細胞を生着させる方法は確立されていない.移植細胞がドナー組織内で生着するためには微小環境が必要であり,さまざまな細胞移植床が考案されてきた.PuraMatrixは重合してナノスケールの微小線維網からなる,三次元ヒドロゲルを形成するオリゴペプチドである.PuraMatrixは血管,神経や骨,軟骨の分化を促進することが明らかになっており,他の細胞への応用が期待されている.また,ペプチド構造を修飾することにより生物活性を高めたり,薬剤の組織内徐放化ツールとして応用したりすることも可能である.PuraMatrixは人工ペプチドであり,細胞移植免疫反応や感染の危険がないため細胞移植床に適した素材である.
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医学のあゆみ 229巻9号, 740-747 (2009);
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細胞の増殖・分化能力に支えられた自然治癒力を高めることによって生体組織の再生修復を行う治療の試みが,再生医療である.近年の基礎生物医学研究の進歩は優れた幹細胞の利用を可能にしてはいるが,細胞能力を最大限に活用した再生誘導治療を実現するためには,細胞がうまく機能するための周辺環境の創製が必要不可欠である.細胞周辺環境は生体シグナル因子(細胞増殖因子や遺伝子など)と細胞足場からなっている.体内で不安定な細胞増殖因子や遺伝子を利用するためにはドラッグデリバリーシステム(DDS)技術が,また,細胞の増殖・分化を助け促すためには,細胞の三次元足場技術が必要となる.本稿では,生体シグナル因子のDDSと細胞足場技術を用いた生体組織の再生誘導治療を紹介しながら,細胞移植医療におけるバイオマテリアルの重要性を強調する.
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医学のあゆみ 229巻9号, 748-752 (2009);
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近年,細胞を用いた再生医療が注目を集めており,いくつかの治療法が臨床応用されている.著者らは,注射による細胞懸濁液移植や生体吸収性高分子を細胞の足場とした従来型の組織工学の問題点を克服し再生医療を本格化させることを目的として,細胞シート工学と名づけた新規再生医療技術の開発に取り組んできた.細胞シート工学を用いた細胞移植は,単層の細胞シートを用いてすでに一部の組織ではヒト臨床応用がはじまっており,順次さまざまな組織でのヒト臨床の準備が進んでいる.また,細胞シートを重層化させて再構築した三次元組織を用いた医療技術開発も進んでいる.細胞シートを基盤とした組織工学は世界的にも広まりつつあり,次世代組織工学の中核的技術として大きな期待を集めている.
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造血幹細胞移植の臨床
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医学のあゆみ 229巻9号, 755-760 (2009);
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Graft versus leukemia/lymphoma(GVL)効果は,移植された同種移植ドナーの免疫反応が患者の腫瘍細胞に向けられることで,白血病その他の造血器腫瘍(腎癌など一部の固形癌も含む)が退縮・治癒する過程で認められる.基本的にgraft versus host disease(GVHD)とGVL効果は,ドナーにはなくて患者にのみ存在する抗原に向けられた同種免疫反応という点で同じものである.臨床的にはGVHDを経験せずにGVL効果が認められることがしばしばあり,標的となっている同種抗原が異なる可能性が指摘されている.また,腫瘍関連抗原もGVL効果にかかわっている.移植造血幹細胞として多様なドナーソースが存在する現在,GVL効果にかかわるエフェクター細胞,標的となる抗原はさまざまである.標的を決定して選択的なGVL効果誘導をめざすのか,標的は限定せず免疫反応の巧みなコントロールでGVHDを回避しつつ最大限のGVL効果を得るのか.現在の研究はその二大テーマへの挑戦である.
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医学のあゆみ 229巻9号, 761-766 (2009);
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造血幹細胞移植は,一部の血液疾患に治癒を望みうる治療法として確立されてきた.急性GVHD(acutegraft versus host disease)は同種造血幹細胞移植を成功に導くうえで最大の障壁のひとつであり,同種造血幹細胞移植の歴史は急性GVHDとの戦いの歴史であるといっても過言ではない.急性GVHDの発症・重症度には,幹細胞ドナーおよび移植患者のさまざまな遺伝的要因がかかわっている.これらの要因のメカニズム,臨床的重要性を明らかにすることにより,各移植患者の遺伝的要因に合わせたオーダーメイドの前治療や免疫抑制を行ったり,ドナー選択の際により良好な予後が期待できるドナーを選択したりすることが可能となる.本稿ではこのような遺伝的要因のなかでも,とくに重要な役割を担っていると考えられている1. HLA(humanleukocyte antigen),2. マイナー組織適合性抗原(human minor histocompatibility antigen),3. サイトカイン産生・自然免疫に関与する遺伝子多型について解説する.
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医学のあゆみ 229巻9号, 767-772 (2009);
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慢性移植片対宿主病(CGVHD)は移植後後期の死亡および生活の質の低下に関与するもっとも重要な要因である.これまでの動物実験と臨床データの解析からは,1. 胸腺でのドナー由来T細胞のnegative selectionの障害,2. transforming growth factorβ(TGF β)の産生異常,3. 自己抗体の産生,そして4. T regulatory細胞の欠損の発症機序が想定されている.そして,それぞれの機序に対してkeratinocyte growth factorの投与による胸腺機能の回復,チロシンキナーゼ阻害剤を用いたPDGFR agonistic抗体の阻害,rituximabを用いた自己抗体産生の抑制などの新規治療の可能性が検討されている.今後は個々の慢性GVHD患者でのGVHD発症機序に基づいたオーダーメイドの治療がされることが期待されている.
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医学のあゆみ 229巻9号, 773-778 (2009);
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ミニ移植とは,骨髄を破壊せずに(骨髄非破壊的),あるいは強度を減弱させた前処置で行う同種造血幹細胞移植の総称である.前処置毒性を軽減しつつ,ドナー細胞生着と移植片抗腫瘍効果による治療効果を求めている.低用量の全身放射線照射,抗リンパ球グロブリン,フルダラビンなどで構成される前処置を用いた本移植法の開発とともに,従来型移植,すなわち骨髄破壊的同種移植(フル移植)では移植困難であった高齢者や臓器障害を有する患者にも移植が可能となり,高齢者に多い血液疾患に対するあらたな治療選択肢となった.治療関連死は減らせても,生着,移植片対宿主病(GVHD)や移植後再発などはフル移植と同様,あるいはそれ以上に重要な課題である.対象疾患・病期や造血幹細胞ソースの種類別に,より安全でより効果的なミニ移植をめざした取組みが行われている.
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医学のあゆみ 229巻9号, 779-785 (2009);
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臍帯血移植(CBT)は,その独特な免疫学的寛容性によりHLA不適合移植も可能とし,成人領域でも急速に増加している.しかし,移植細胞数が限られることから生着不全や遅延が最大の問題点とされ,また免疫学的にna veなリンパ球が輸注されるため,移植後の感染症のリスクが高いとされている.生着不全については細胞数だけの問題ではなく,血球貪食症候群や抗HLA抗体の関与が指摘されている.移植片宿主反応も弱いとされるが,著者らは移植後平均9日目に発症する非感染性発熱,末梢性浮腫,体重増加,皮疹,下痢,黄疸をPIRとして報告した.高齢者の場合は重篤化する傾向にある.感染症についても,CMV感染症,HHV 6感染症などが高頻度に再活性化され,その対策が必要である.
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医学のあゆみ 229巻9号, 786-792 (2009);
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ヒト造血幹細胞のex vivo増幅は,移植医療のみならず,遺伝子治療や血液細胞の製造などの再生医療にも貢献すると考えられる.造血幹細胞の増幅研究は,1. サイトカインを組み合わせた方法,2. 骨髄ストローマなど支持細胞を利用した方法,3. 遺伝子導入など内因子操作をする方法,からアプローチされている.臍帯血移植は最適な時期に移植できる反面,生着不全など合併症の頻度が高いことが問題点としてあげられる.臍帯血移植において輸注総細胞数よりもCD34陽性細胞を指標とした,より未分化な細胞をできるだけ多く移植することが,生着率のみならず生存率の改善に寄与することが明らかになってきた.採取できる臍帯血量が限られる臍帯血移植に造血幹細胞増幅技術を応用することは,理にかなった方法である.細胞治療の実用化=臨床研究には,閉鎖系無血清培養法の開発,細胞治療製剤の安全性試験,品質管理法の確立,セルプロセッシングセンターを含む作業環境の整備を行う必要がある.
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医学のあゆみ 229巻9号, 793-797 (2009);
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造血幹細胞移植(骨髄移植,末梢血幹細胞移植,臍帯血移植)は,先天性免疫不全症,造血系疾患,代謝異常症などの治療法としてめざましい成果を上げている.最近では自己免疫疾患の治療にも造血幹細胞移植が実施されるようになってきたが,自己の幹細胞移植が主流であるため再発例が増加しており,アロの幹細胞移植の重要性が再認識されている.HLAのバリアーを超えたアロの移植では移植片対宿主病(GvHD)や生着不全,さらにはT細胞機能の回復が不完全であるというような問題点が山積している.著者らは難治性の自己免疫疾患を自然発症するマウスを用いて,主要組織適合抗原の異なる正常マウスの骨髄細胞を骨髄内に注入(骨髄内骨髄移植)すると,難治性の自己免疫疾患が治療できることを発見した.この革新的骨髄移植法は臓器移植や加齢に伴って発症する肺気腫,骨粗鬆症,悪性腫瘍にも効果を示すことを見出したので,ヒトへの応用を含めて紹介する.
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医学のあゆみ 229巻9号, 798-802 (2009);
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間葉系幹細胞(MSC)は炎症や組織傷害のある部位へ集積するだけでなく,免疫抑制能を有することから,移植片対宿主病(GVHD)の治療への応用が期待されている.興味深いことに,MSCは,costimulatory分子を発現しないことから,免疫原性をほとんど示さない.したがって,免疫学的に急速に排除されることがないため,MSCを細胞治療に用いる際に,HLAを一致させる必要はかならずしもないとされている.MSCの免疫抑制作用の分子機序についてはさまざまな分子が複雑に関与しており,その詳細は明らかではない.なお,MSCの免疫抑制作用はMSCが集積したGVHD局所に限定され,全身性の強い免疫抑制は起こらないものと想定される.この点は感染症合併のリスクが高くなる強力な免疫抑制剤に比べて有利であると思われる.ヨーロッパで多施設非ランダム化第II相臨床試験が実施されたが,55名のステロイド不応性重症急性GVHD患者の30名(55%)が完全なレスポンス,さらに9名が軽快した.きわめて好成績であるといえるが,今後のさらなる検証が必要である.
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再生医療
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医学のあゆみ 229巻9号, 805-812 (2009);
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ヒトを含む哺乳類の中枢神経系では,発生過程において自己複製能と多分化能をもつ神経幹細胞から多様なニューロンやグリア細胞が生みだされ,複雑な形態および機能が構築される.そのため,疾患や損傷によりいったん障害されると再生させるのは難しいと考えられてきたが,近年の幹細胞生物学の進展により,胎児由来,あるいは多能性幹細胞(胚性幹細胞:ES細胞,人工多能性幹細胞:iPS細胞)から誘導した神経幹細胞を用いて神経系の再生が試みられるようになってきた.これらの細胞は神経再生のための有用な細胞のソースではあるが,安全性(腫瘍化),免疫学的拒絶反応,倫理的な問題など,いまだ解決すべき問題点が多い.本稿ではヒト胎児由来神経幹細胞の有用性および安全性について,また,ES細胞からの多様な神経幹細胞の誘導法およびその有用性について,さらにはiPS細胞への応用についても触れながら,神経系の再生について概説したい.
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医学のあゆみ 229巻9号, 813-817 (2009);
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骨髄には間葉系幹細胞(MSC)とよばれる体性幹細胞が存在する.この幹細胞は種々組織構成細胞へ分化する能力をもつ.この分化には骨分化も含まれるが,血管内皮細胞への分化能力も有する.さらに,MSCは血管再生に重要な因子である血管内皮細胞成長因子(VEGF)を多量に分泌する.これらの能力により,MSCを用いた種々の再生医療が可能である.本稿では,患者自身の骨髄から培養増殖させたMSCを用いた骨再生,とくに骨壊死に対する著者らの取組みを紹介する.
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医学のあゆみ 229巻9号, 818-823 (2009);
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角膜は透明な無血管組織であるが,疾患や外傷により透明性は低下する.透明性低下により視覚障害に至った患者に対してはドナー眼を用いた角膜移植が実施されているが,国内においてはドナー不足,またとくに角膜上皮疾患においては拒絶反応が問題となっている.著者らはこれらの問題を解決すべく,難治性上皮疾患に対して患者自身の上皮幹細胞・前駆細胞の培養により作製した培養上皮細胞シートによる治療法の臨床応用を開始し,角膜上皮の再生に成功した.本手法はドナーを必要とせず,また拒絶反応も起こらないため,有効な治療法のなかった難治性上皮疾患に対する有効な治療法になりうる.また,角膜内皮疾患に対しても培養角膜内皮細胞シート移植法を開発し,動物モデルにおいてその有効性を確認している.著者らは臨床応用を開始している角膜上皮再生医療のみではなく,角膜全層の再生医療技術の開発をめざし研究に取り組んでいる.
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医学のあゆみ 229巻9号, 825-830 (2009);
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末梢血中に骨髄由来の血管内皮前駆細胞が存在することが報告されて以来,骨髄単核球細胞を用いた虚血性心血管疾患の治療は著しい早さでヒトへと臨床応用された.しかし,いまだにその明確な作用メカニズムは不明である.これに対して著者らは独自に,末梢血単核球細胞の有用性について基礎的な検討を行った.その結果,末梢血単核球細胞は骨髄由来の単核球と比較して血管新生効果が勝るとも劣らないことなどを明らかにし,末梢血単核球細胞を用いたヒト重症末梢性動脈疾患に対する治療について臨床研究を開始した.これまでに80数例に対して本治療を行い,70%以上の症例に有用性を認めた.レスポンダーとノンレスポンダーとの臨床データの比較から,その治療効果は単核球移植により惹起される虚血組織における血管増殖因子の産生によることが明らかとなりつつある.
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医学のあゆみ 229巻9号, 831-838 (2009);
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重症慢性心不全は最新の医療技術をもってしてもなお予後不良であり,すべての循環器医にとり克服すべき病態である.自らの細胞の再生力を最大限に引き出し障害された心臓を回復させる心筋再生医療は,骨髄細胞などの他臓器由来細胞を経て心臓由来細胞(cardiosphere derived stem cell:CSC)の登場で大きく変貌を遂げつつある.CSCは少量の心組織からも単離可能な心筋分化効率のきわめて高い組織幹細胞である.増殖因子bFGFの存在下で障害心組織内であっても高い生着率を保ち,形質転換も含めドナー心内で実効的な心筋細胞再生を果たし,失われた心組織を補完,局所のremodelingを介して心機能を回復させる可能性を秘めた細胞である.CSCと再生工学を併用したハイブリット治療は近い将来,臨床試験を通じて重症慢性心不全患者に革新的な治療法となる可能性がある.
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医学のあゆみ 229巻9号, 839-843 (2009);
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近年,さまざまな幹細胞移植による心血管再生治療が虚血性心疾患に対するあらたに有効な治療法として大きく期待されている.とくに,自己骨髄幹細胞や筋芽細胞などを用いる心血管再生治療はすでに約10年前から臨床試験が開始され,早期の臨床試験では治療後の虚血心筋の血流増加や心機能の改善などが報告されている.しかし,最近の二重盲検臨床試験では,それらの細胞移植治療の有効性に疑問がもたれている.著者らの最近の研究結果から,加齢やさまざまな疾患により患者自身の幹細胞の機能が低下し,虚血組織への移植後に十分な治療効果が発揮できなかったことが明らかになった.今後はさらなる基礎研究を行い,より統一されたプロトコールで大規模な臨床試験を実施し,本治療法の有効性を確認するべきである.
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医学のあゆみ 229巻9号, 844-849 (2009);
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肝細胞は肝臓が発揮する3,000以上の高次機能の大部分を担うことから,肝細胞を用いる細胞療法は,さまざまな肝疾患に対する新規治療として期待されている.肝細胞を用いた治療法は,1. 門脈血流に細胞を注入して病態肝内へ移植する肝細胞移植と,2. 肝外部位に移植することにより小肝組織を作製する肝組織工学,に大別される.前者は臨床試験の段階にあり,後者は研究開発が重ねられている.本稿では,両治療の現状について概説する.
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医学のあゆみ 229巻9号, 850-854 (2009);
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わが国における生体肝移植の成績は向上し,末期肝不全患者に対する治療法としてすでに確立した医療であるといえる.しかし,生体肝移植は健常成人から肝の一部を摘出し肝不全患者に移植する方法であり,その手術侵襲はきわめて大きい.生体肝移植時に生じる余剰肝を用いた肝細胞移植方法について,肝移植・肝細胞移植の現状を踏まえて概説する.
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医学のあゆみ 229巻9号, 855-857 (2009);
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末期腎不全より透析療法を受ける患者総数は27万5千人を超えたが,死体腎移植数は一向に増加しないことから,腎の再生療法に期待が集まっている.腎再生の最大の難点は,単に細胞群を再生することには意味がなく,水・電解質代謝と種々の物質代謝を行える臓器を再生しなくてはならない点にある.現在までに解明したことは,出発点となる細胞として骨髄細胞などが使用可能であり,何らかの方法により後腎組織の段階まで分化誘導できれば,体内に移植した場合に腎まで発達することである.この後腎組織までの分化誘導の手段として他の動物の胎仔に細胞を注入する方法や,種々の分化誘導因子を用いることにより分化させようという試みが行われているが,いまだ実用には遠い状態にある.
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医学のあゆみ 229巻9号, 858-862 (2009);
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先天代謝異常症に対する根治療法として,欠損酵素の分泌能をもった細胞群を体内に移植生着させ,必要な酵素を持続的に供給させる細胞移植療法がある.現在,広く臨床応用されている細胞移植療法は,リソソーム病とペルオキシソーム病に対する造血幹細胞移植である.これらの疾患に対し早期に造血幹細胞移植を行うことで病状の改善・進行抑制が認められるが,進行した骨や中枢神経病変への治療効果がかんばしくないこと,ドナー不足による供給の不安定性,安全性などの問題を抱えている.現在,新規の再生医療として体性幹細胞,胚性幹(ES)細胞,人工多能性幹(iPS)細胞を用いた細胞治療の研究がなされている.現時点で細胞治療は先天代謝異常症に対する唯一の根治療法であり,今後,これらの細胞を用いた新規細胞治療の開発が期待されている.
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医学のあゆみ 229巻9号, 863-867 (2009);
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内耳は特殊なリンパ液で満たされた独特な構造をもち,血液 内耳関門とよばれる血管系を有するため,内耳有毛細胞やその周辺細胞への薬物的アプローチが難しい.しかし,移動能・多分化能を兼ね備えた幹細胞による内耳細胞治療の方法が確立すれば,難聴の根本的治療への有効なツールになると考えられる.近年の内耳再生医療に関する基礎研究分野は,in vitroでの有毛細胞への分化誘導において年々進歩している.最近では培養シャーレ内で鳥類細胞から聴毛を有する有毛細胞への分化誘導も可能となっており1),細胞工学的分野では一定の成果が得られている.しかし,それらの細胞を移植により内耳組織へ生着させ,同時に機能的補足や組織修復によって聴力回復を誘導する細胞治療の試みは成功例が少なく,引用度の高い論文での報告も少ない.聴力回復を目的とした内耳細胞治療法を開発するためには移植細胞の生着と機能発現を同時に考慮し,内耳の解剖学的特徴および各細胞の生理学的特徴を十分に理解することが重要であると考えられる.著者らの報告では,実験的に蝸牛線維細胞のみに傷害を与えたラットへ半規管外リンパ液を経由した細胞液灌流法を用いることにより,損傷部の修復と聴力回復率を高めることに成功した2).現在は,ヒト疾患に近い遺伝性難聴モデル動物への各種の幹細胞移植に取り組んでいる.蝸牛線維細胞のような,修復が困難ではないが聴力維持に不可欠な細胞を標的に検討を積み重ねることにより,将来的には有毛細胞も標的とした多様な難聴に対する聴力回復も不可能ではないと考えられる.本稿では,とくに各種幹細胞や遺伝子改変動物を用いた内耳への細胞治療に関する知見について報告する.
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医学のあゆみ 229巻9号, 868-875 (2009);
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奇形腫は内胚葉,外胚葉,中胚葉の3胚葉組織の混在からなる混合腫瘍と定義されている.ヒト奇形腫は性腺(精巣,卵巣)から発生するものが多いが,縦隔や仙尾骨部など性腺外からも発生し,発生臓器によって臨床像や組織像,生物学的態度に異なる点もある.病理学的に奇形腫は,1. 成熟奇形腫,2. 未熟奇形腫,3. 悪性転化を伴う奇形腫,の3つに分けられる.卵巣の成熟奇形腫と小児精巣奇形腫は二倍体で正常の核型を示し,臨床的に良性であるのに対して,成人精巣奇形腫は高二倍体で12pの増幅を伴っており,臨床的に悪性である.その組織発生の説には,1. 胚細胞由来説,2. 胎芽細胞(胚性幹細胞)由来説,3. 組織幹細胞由来説,4. 二重体説があり,性腺と性腺外のいずれの奇形腫についても現在のところ胚細胞由来説がもっとも支持されている.
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医学のあゆみ 229巻9号, 876-880 (2009);
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小耳症は耳介の大半の組織欠損を主徴とする,耳介の先天性形態異常である.頻度は1万出生に1程度の比較的まれな状態である.治療として耳介形成術が行われる.具体的には,耳介前面と後面の皮膚,そして耳介軟骨が不足しており,これに対して組織移植,組織拡張など形成外科的手技を組み合わせて耳介を再建する.耳介前面の皮膚には組織拡張器で伸展させた側頭部の皮膚や遺残耳垂の皮膚を用い,耳介後面の皮膚は鼠径部や頭皮からの植皮を行い,耳介軟骨の代替物としては自家肋軟骨を加工して耳介の形状を模したフレームワークを移植している.耳介形成術は進歩しつつあり,形状再現もおおむね満足のいくところまで到達したが,現在用いられる素材の多くは本来の組織と比較するとsecond bestというべきものであり,また採取部位(ドナー)の侵襲の問題がいぜんとして存在する.耳介形成術における再生医療応用の利点はドナー採取部の犠牲を最小限にできることであるが,その手術結果が長期にわたって安定していることが重要となる.待機している患児,ご家族の再生医療への期待は大きく,一刻も早い臨床応用が待たれている.
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医学のあゆみ 229巻9号, 881-886 (2009);
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出生前における胎児診断の技術はめざましく,また遺伝子解析の技術も進んでおり,妊娠中に多くの胎児疾患を診断することが可能となる日も近いと思われる.出生前診断に関しては倫理的な側面から,その意義について議論されることが多いが,その疾患に対する胎児治療が開発され胎児期から治療が可能となれば,出生前診断の意義が高まっていくものと思われる.しかし現在,ほとんどの疾患はいまだ治療法がなく生後の治療が行われているのが現状であり,また胎児期から病態が進行する疾患もあるため,生後の治療も満足のいく成績が得られていないのも事実である.それゆえに胎児治療法の開発が望まれており,子宮内幹細胞移植治療(inutero stem cell transplantation:IUSCTx)は,先天性胎児疾患,とくに遺伝性血液疾患において今後期待される治療法である.
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行政・社会環境
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医学のあゆみ 229巻9号, 889-892 (2009);
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細胞・組織利用製品を用いる再生医療は,既存の方法では治療が困難な疾患を克服するためのあらたな治療法として大きな期待を集めている.再生医療の実用化・産業化をより効率的・効果的に促進するためには,適切な指針を作成するなどの規制環境の整備と,その合理的な運用が不可欠な要素となる.現在,再生医療は,1. 薬事規制による細胞・組織利用製品の製造販売承認,2. 国によるヒト幹細胞臨床研究実施確認,3. 医師法に基づく医師の裁量権,の3つの形で実施されている.本稿では,1. ,2. に関連する細胞・組織利用製品の薬事規制に関する指針や通知およびヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針について概説した.また,再生医療の実用化・産業化の促進に向けての留意点についても言及した.
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医学のあゆみ 229巻9号, 893-896 (2009);
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再生医療や細胞治療のツールとして使用することを目的に,細胞または組織を加工した製品を“細胞・組織加工医薬品/医療機器”(細胞組織製品)という.わが国では先ごろ,初の細胞組織製品として重症熱傷治療用培養皮膚製品が薬事法上の承認を受け,また世界に先がけてわが国で開発されたヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)も再生医療・細胞治療への応用に熱い期待が集まっており,国内外で細胞組織製品の熾烈な開発競争が繰り広げられている.しかし,細胞組織製品の本格的な実用化・産業化に至るためには,その安全性評価方法の理解・確立が必須である.本稿ではヒト細胞組織製品の安全性の評価・確保について,最近の厚生労働省の関連指針を軸に概説する.
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医学のあゆみ 229巻9号, 897-900 (2009);
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細胞再生医療の研究開発には研究機関のみならず,研究機関から技術移転を受けて開発を行うバイオベンチャーや製薬企業も数多く参入している.このような背景からアメリカにおいては,食品医薬品庁(Food andDrug Administration:FDA)が臨床試験の審査をする対象品は,低分子化合物のみならずバイオテクノロジー技術を応用した生物製剤(バイオテクノロジー製剤,あるいはバイオロジクス)としての細胞医薬にまで拡大している.本稿では細胞医薬における日本およびアメリカの規制環境について紹介し,理想形を提案する.
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医学のあゆみ 229巻9号, 901-904 (2009);
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現在,再生医療は多くの臨床研究のなかで試みられ,治療効果の認められる症例が数多く積み上がりつつある.これらの事実からは,再生医療は“実用化”されつつあるといえる.一方で,治療を望む多くの患者に対して広くこの技術が提供されうる状況にまで至っているかといえば,その途はいまだ遠いといわざるをえない.このような現状の背景には,新しい技術である再生医療を社会に導入し,普及させるための制度的枠組みが,再生医療という技術の特質に十分合致していないという実態があるのではないか.こうした問題意識に基づき,望ましい制度的枠組み検討の必要性と,そうした検討を行うに際して求められる視点とを論じた.
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医学のあゆみ 229巻9号, 905-909 (2009);
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独立行政法人医薬基盤研究所(NIBIO)は平成17年(2005)4月に大阪の北部,彩都地区(大阪府茨木市,箕面市)に創設された厚生労働省初の研究開発・支援型組織である.組織発足後の歴史はまだ浅く4年にしかすぎないものの,平成20年(2008)11月には当研究所の研究者が研究代表者を務める2つの研究課題がスーパー特区(先端医療開発特区)に採択されるなど,徐々に研究機関としての知名度も上昇してきている.本稿ではこのNIBIOの組織・活動状況などについて紹介する.
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医学のあゆみ 229巻9号, 910-913 (2009);
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特許権は特許法で定められている権利であり,その権利を保有する者に,発明を独占し他人の使用を排除することを認めるものである.近年は企業ばかりでなく大学や公的研究機関(以下,大学等)の研究者も特許と無縁ではいられなくなっている.本稿では第1に,特許や知的財産というものが基礎研究にどのようにかかわっているのかについて述べる.第2に,誘導多能性幹細胞(iPS細胞)の特許保護のあり方にも影響を及ぼしうる知的財産保護制度改革の論点について述べる.第3に,iPS細胞の研究と特許に関する競争が激化しているなかで,特許出願の際にどのようなことに留意したらよいのかについて述べる.第4に,iPS細胞研究に伴って成立した特許やそれに関連する知的財産を活用してさらなる研究を促進するために,どのような体制を構築したらよいのかについて述べる.
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医学のあゆみ 229巻9号, 914-919 (2009);
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多様な技術の集合体である再生医療の実現化には,再生医療分野の研究者を核にして多岐にわたる専門性をもつ企業が関与している.現在,世界的に販売されている再生医療製品は皮膚,軟骨などに限定されている.一方,海外においては再生医療分野関連企業による臨床試験(治験)は,虚血性心疾患など循環器系の疾患・神経系の疾患まで治療対象が広がっている.臨床試験は世界においてすくなくとも約40社,100件近くが実施されており,幹細胞を用いた臨床試験は確実に進展していることがうかがわれる.
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医学のあゆみ 229巻9号, 920-924 (2009);
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胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用いた再生医療(細胞移植治療)の実現は,他の幹細胞を用いた治療法と比べて著しく遅れていることは周知の事実である.倫理性や腫瘍原性などのES細胞・iPS細胞特有の欠点がおもな理由であることも間違いないが,一方ではES細胞・iPS細胞のメリットである多様な細胞へ分化しうる性質が,目的細胞への選択的分化誘導やその純化・精製の効率を妨げている面も否定できない.本稿ではこのようなES細胞,iPS細胞のメリット・デメリットを整理しながら,再生医療(細胞移植治療)においてこれら多能性幹細胞の利用が期待される疾患を紹介する.
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医学のあゆみ 229巻9号, 925-931 (2009);
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2000年ごろより再生医療が心臓病に対して行われはじめ,現在はメタアナリシスが行われるほどに臨床研究の症例数が蓄積されるようになっている.しかし,細胞移植という方法論による心臓再生療法は一定の評価は得られているものの,まだまだ解決されなければならない問題が数多く存在し,その効果も有意差がようやく出るという程度のものである.心不全という複雑な病態を治療するための治療戦略としては,薬剤を含め統合的にアプローチする必要があるが,なかでも重症化した病態においては循環維持をサポートする人工心臓の存在はきわめて重要である.現在,著者らは再生医療と人工心臓治療を組み合わせることで,よりよい効果と安全性を獲得するためのプロトコールを模索しており,本稿では,そのようなプロトコールを創出するために重要である事象および新しく使用可能となる補助人工心臓を概観する.
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医学のあゆみ 229巻9号, 932-936 (2009);
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患者自身の表皮細胞を培養して得られる自家培養表皮は,さまざまな要因で生じた皮膚欠損の治療に用いられ,臨床的有用性が明らかとなっており,皮膚の再生医療として1980年代から行われてきた.その多くは大学などの研究施設を有する医療機関で実施されてきたが,一般の医療として普及するためには,これを普及する仕組みづくりが必要となる.著者らは1999年から自家培養表皮を提供する企業を設立し,医療機器として薬事承認を得るための活動をしてきた.安全性の根拠となるさまざまな基礎的研究や,製品として提供するための機器などの開発を行わなくてはならない.その結果,2007年に自家培養表皮は“ジェイス”という名の製造販売承認を得た医療機器となった.本稿では自家培養表皮が医療機器として製品化されるまでの概要と,それにまつわる課題を述べる.