医学のあゆみ

Volume 230, Issue 9, 2009
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【8月第5土曜特集】最新・自己免疫疾患Update ─ 研究と治療の最前線
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- 自己免疫疾患の病因− 疾患ゲノム解析
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ゲノムワイド疾患遺伝子解析の今後:自己免疫疾患−全ゲノムシークエンス技術の導入とシステムバイオロジーとの連結に向かう疾患遺伝子解析
230巻9号(2009);View Description
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SNPを用いたゲノムワイド関連解析(GWAS)により,多数の自己免疫疾患感受性遺伝子が同定されている.その結果,自己免疫疾患の間には共通のパスウェイによる要素と個々の疾患に特有の要素とがあり,それぞれに影響する遺伝子多型が存在することが明らかとなり,また疾患の遺伝リスクの構成は民族ごとに異なることもわかってきた.今後は次世代シークエンス技術やトランスクリプトーム解析,システムバイオロジーなどの成果を取り込みながら,疾患病理の全容解明に向かうとともに,成果を臨床医学に還元するための研究が進むと予想される. -
疾患感受性遺伝子の民族差
230巻9号(2009);View Description
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ヒトゲノム多様性情報や遺伝子機能・ネットワークのデータベース,ゲノム多型解析技術などの長足な進歩により,ゲノムワイド関連分析(GWAS)を代表として多因子疾患感受性遺伝子の探索研究が加速化している.その結果,従来,断片的にしか知られていなかった広範な民族差・集団差の存在が明らかになりつつある.このことから,アジア系集団の疾患の遺伝要因の全容を解明するためには,アジアの患者・健常人を研究することが必須であることが自明となる.民族差・集団差の存在を考慮した注意深い研究計画によって,疾患感受性領域の検出にとどまらず第一義的な遺伝子や多型を特定できる可能性もある. -
関節リウマチのゲノム解析
230巻9号(2009);View Description
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関節リウマチ(RA)は,遺伝・環境因子によって発症する多因子疾患である.最大の遺伝因子としてHLA DRB1遺伝子多型が知られているが,疾患感受性アレルはシトルリン化蛋白に対する自己抗体の出現と強く関連する.一方で,近年のゲノム解析技術の進歩により,ゲノムワイド関連解析による非HLA遺伝因子の探索が可能となり,PTPN22,TNFAIP3,PADI4などの感受性遺伝子が同定されるに至っている.非HLA遺伝子については,個々の寄与度が想定されていたものより低く,少なからず人種間での差があることが明らかになった.今後,個人の遺伝子多型情報を利用した予後予測や治療法の選択が行われることが期待される. -
全身性エリテマトーデス疾患感受性遺伝子研究の現況
230巻9号(2009);View Description
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全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)においては,従来からの候補遺伝子アプローチならびに近年のゲノムワイド関連研究により見出され,多くの研究者が疾患感受性遺伝子として認識する遺伝子がすでに十数遺伝子存在し,多因子疾患のなかでも,もっとも解明が進んでいる疾患のひとつといってよい.近年の研究により,集団を超えて共通の疾患感受性遺伝子が多いものの,その寄与度は集団の遺伝的背景により異なること,一部の遺伝子では,集団により違う多型が関連すること,さらに,ある集団における感受性多型が,他集団には存在しない場合があることが明らかになった.また,予想以上の多くの遺伝子が,SLEのみならず,関節リウマチ,強皮症など,複数の自己免疫疾患に共通に関連することも明らかになってきた.本稿では,現時点で多くの研究者に認められている疾患感受性遺伝子について解説を加えるとともに,著者らの日本人集団におけるデータを紹介する. -
自己免疫性甲状腺疾患−感受性遺伝子群の探索と機能解析
230巻9号(2009);View Description
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自己免疫性甲状腺疾患(AITD)は甲状腺機能亢進症であるBasedow病と機能低下症である橋本病に代表され,それらの発症や病態には複数の遺伝要因と環境要因が関与していると考えられる.AITDの遺伝要因の解明はすこしずつではあるが,確実に進展している.その遺伝要因を,1.ヒト主要組織適合遺伝子複合体(HLA)領域,2. HLA領域外の免疫関連遺伝子,3.甲状腺特異的遺伝子の三群に大別し,各群について関連遺伝子探索の進展状況を概説する.近年,複数の自己免疫疾患についてゲノムワイド関連解析が実施されているが,AITDを対象としたゲノムワイド解析の現状についても述べる.さらに,著者らが日本人症例群を対象とした遺伝解析により同定したAITD関連遺伝子ZFATについて,機能解析から得られた新知見を紹介する. -
炎症性腸疾患のゲノム解析
230巻9号(2009);View Description
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炎症性腸疾患はCrohn病と潰瘍性大腸に分類される多因子疾患であるが,原因はいまだに不明である.ゲノム情報の急速な集積や解析ツールの発達により,多因子疾患の関連遺伝子解明を目的とした全ゲノムアプローチによる探索が可能となり,盛んに行われるようになった.Crohn病においても,はじめて同定されたNOD2に加え,IL23R,ATG16L1など多くの遺伝子と関連がつぎつぎと報告されている.また2008年より潰瘍性大腸炎の全ゲノム解析の報告がされるようになってきた.こうした遺伝学的な知見を利用することで,炎症性腸疾患の病態解明や治療法の開発が可能になると考えられる. -
川崎病の感受性遺伝子研究
230巻9号(2009);View Description
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川崎病は乳幼児期に好発する全身の血管炎症候群であり,先進国の小児後天性心疾患の最大の原因となっている.高熱・発疹を主徴とした臨床像から何らかの感染の関与が疑われるが,発見から40年以上が経過した現在においても原因は不明である.疫学データから遺伝的素因の存在が疑われており,罹患感受性や罹患した際の合併症リスクと関連した遺伝子多型が存在すると考えられている.川崎病のゲノム研究は候補遺伝子を中心として比較的小規模なサンプルにより行われてきたが,近年ゲノムワイドな探索も行われるようになり,成果が報告されつつある. -
多発性硬化症のゲノム解析
230巻9号(2009);View Description
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多発性硬化症(MS)に対する疾患感受性を規定する遺伝因子に関しては,ヒトの主要組織適合性複合体を構成するHLAの解析から,欧米型MS(cMS)もわが国のcMSも,ともにDRB1*1501との相関が確認されている.HLA以外の遺伝因子としては,最近の一塩基多型SNPを用いた大規模ゲノム解析の結果,あらたにIL 7受容体α鎖のSNPとの相関が見出された.このSNPはエクソン6のスプライシングに関与し,感受性アリルでは可溶性受容体の産生が増加して,IL 7シグナル伝達が変化する可能性が指摘され,MSの発症機序が改めて注目を集めている.一方,neuromyelitis optica(NMO)は特異的な疾患マーカーとしてアクアポリン4抗体が同定され,cMSとは異なる疾患として確立されつつあるが,わが国ではDPB1*0501との相関が認められる. -
自己炎症症候群と遺伝子異常
230巻9号(2009);View Description
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炎症のカスケードは,さまざまな生命現象において重要な役割を果たす細胞内シグナル伝達経路である.このなかで,細胞増殖・分化,細胞死にかかわるNF κBカスケードと,inflammasomeとよばれるIL 1β/IL 18のプロセシングに中心的な役割を果たすシグナル伝達複合体が重要である.近年,これら経路を構成する分子群の異常によって炎症が制御できなくなり,自己炎症症候群(autoinflammatory syndrome)/自己炎症疾患(autoinflammatory disease)が発症することが明らかになった.自己炎症疾患によって惹起される炎症は,病原微生物の侵入によって引き起こされる炎症や自己への攻撃によって生じる自己免疫疾患による炎症とは明確に区別される. -
遺伝子異常による自己免疫(多腺性自己免疫症候群など)
230巻9号(2009);View Description
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自己免疫疾患は,自己免疫を原因とする病理学的状態である.自己免疫疾患の本質は,自己抗原に対する免疫寛容の破綻であると考えられている.本稿では,免疫寛容の破綻のメカニズムを概説し,明確な遺伝子異常が同定されている自己免疫疾患(多腺性自己免疫症候群1型,X染色体連鎖免疫調節異常・多発性内分泌障害・腸症症候群,自己免疫性リンパ増殖症候群)について解説する. - 自己免疫疾患の免疫学
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自然免疫系から自己への認識へ
230巻9号(2009);View Description
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侵入病原体に対する免疫応答は,Toll-like receptor(TLR)をはじめとする自然免疫受容体が,自己には存在しない病原体特有の分子パターンを認識することで開始される.自然免疫受容体はさまざまな炎症性メディエーターを誘導し,同時に抗原提示細胞活性化を介してT細胞の活性化とその方向性を決定する.すなわち自然免疫受容体は病原体の認識とその後の自然免疫,獲得免疫双方の成立を支配している.自然免疫受容体によるリガンド認識は病原体特異的とは限らない.ある条件下においてはゲノムDNAやATP,尿酸,フィブリノーゲン,ヒアルロン酸などの自己の分子を自然免疫システムが認識し活性化シグナルを送ることも知られている.こうした自己の分子を認識した自然免疫システムによって炎症,組織破壊,さらにはT細胞の異常活性化が引き起こされ,自己免疫疾患の誘発あるいは増悪につながっている可能性がある. -
食細胞による死細胞貪食を介した免疫寛容誘導
230巻9号(2009);View Description
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われわれの体では,細胞や組織の新陳代謝などによりつねに多数の死細胞が発生している.これらの死細胞はマクロファージや樹状細胞などの食細胞により速やかに貪食処理される.この食細胞による死細胞貪食は過剰な死細胞を除去するだけでなく,死細胞に含まれる自己抗原を提示することにより積極的に免疫寛容を誘導している.この死細胞貪食に異常が生じると自己免疫疾患が引き起こされることから,死細胞貪食による自己抗原提示は自己に対する免疫寛容維持に重要な役割を果たしていると考えられる.著者らは最近,脾に存在する樹状細胞とマクロファージが協調して死細胞貪食およびそれに伴う免疫寛容誘導をしていること,それらの細胞が欠損すると死細胞貪食に異常が生じて免疫寛容誘導が破綻することを明らかにしたので紹介する. -
樹状細胞による自己免疫寛容の誘導
230巻9号(2009);View Description
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末梢臓器の上皮内または間質に広く分布する樹状細胞は外界の異物や病原体を認識し,その抗原をT細胞に提示することによって,外来抗原に対する初期免疫応答を引き起こす門番としての役割を担っている.一方,定常状態において自己抗原を獲得した樹状細胞は,T細胞に自己抗原を提示するとともにそのT細胞を不活化することで自己抗原への無応答性,すなわち免疫寛容を誘導する役割も担っている.感染や炎症などによって樹状細胞が刺激されて免疫寛容の維持が破綻すると,自己反応性T細胞が誘導されて自己組織の破壊へとつながり,自己免疫疾患が発症すると考えられている.近年,自己免疫寛容の誘導・維持における樹状細胞の役割が徐々に明らかとなってきており,最近では自己抗原提示能に優れた新しい樹状細胞サブセットがみつかり注目されている. -
NKT細胞と自己免疫
230巻9号(2009);View Description
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ナチュラルキラーT(NKT)細胞はNK細胞のマーカーを発現する特異なT細胞集団で,その主要な構成要因であるインバリアントNKT(iNKT)細胞は限られたレパートリーのT細胞抗原受容体(ヒト:Vα24 Jα18,マウス:Vα14 Jα18)を発現し,CD1d分子によって提示される糖脂質を認識する.iNKT細胞は刺激を受けると短時間の間に大量の炎症性および抗炎症性サイトカインを産生し,他の免疫担当細胞の機能を抑制または増強し,あるいは自ら病原性細胞として作用することで生体防御,自己免疫,アレルギーなど多様な病態への関与が知られている.なかでも,さまざまなヒト自己免疫疾患においてiNKT細胞の頻度や機能の異常が報告されている.iNKT細胞は活性化の状況によってさまざまな機能を発揮しうるが,現在,合成糖脂質リガンドを用いてその機能を調節することで自己免疫疾患治療への応用が期待されている. -
自己との反応とは(T細胞)
230巻9号(2009);View Description
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免疫系は,T細胞による自己・非自己の識別機構の存在の上に成り立つ高次調節システムである.自己反応性T細胞は,胸腺上皮細胞や胸腺内樹状細胞の発現する自己抗原との反応によって除去されるが(負の選択),その過程はかならずしも完全ではなく,負の選択を逃れて末梢に逸脱した自己反応性T細胞は,同じく胸腺で産生される制御性T細胞の働きによりその活性化が阻止されている.すなわち,胸腺での負の選択と制御性T細胞の産生,および末梢での自己反応性T細胞と制御性T細胞の活性化バランスによって自己寛容が成立しているが,何らかの原因によって自己寛容が破綻し,難治性の自己免疫疾患が発症する.胸腺における自己・非自己の識別機構と末梢におけるその維持機構の解明は自己免疫疾患に対する原因療法の開発に必要であり,それぞれのプロセスに必須の役割を果たす遺伝子の機能解明が重要な鍵となる. -
自己との反応とは(B細胞)
230巻9号(2009);View Description
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B細胞は,自己に対する反応を回避するために中枢性および末梢性免疫寛容の複数のメカニズムを有している.しかし,アポトーシスの異常やB細胞シグナル伝達の異常などによって,免疫寛容が破綻し,病的な自己反応性B細胞が出現すると考えられる.自己免疫疾患におけるB細胞の関与においては自己抗体産生を介する機序が広く知られているが,サイトカイン産生や抗原提示など抗体産生以外の役割も重要であることが明らかになってきた.一方で,IL 10を介して自己免疫反応を抑制する“制御性B細胞”の存在も明らかになってきている. -
新しいT細胞サブセットTh17− Th17の分化制御と免疫疾患
230巻9号(2009);View Description
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正の免疫応答を起こすエフェクターT細胞としてTh1およびTh2細胞が古くから知られていたが,近年,あらたなエフェクターT細胞としてTh17細胞が発見され,自己免疫疾患,細菌感染,腫瘍促進に重要であることが明らかになった.Th17の分化誘導にはIL 6やIL 23によって活性化されるSTAT3とTGF βシグナルが必須である.しかしTGF βはナイーブT細胞をFoxp3陽性Treg(iTreg)に転換する.Th17とiTregはエフェクターとサプレッサーでありながら兄弟関係にある.これらは自己免疫疾患や消化管免疫においても重要な役割を果たす.また,Th17自体にはIL 10を産生するregulatory Th17とよばれる集団も存在する.さらにIL 17はTh17以外からも産生され,炎症応答に重要な役割を果たすことがわかってきた. -
FoxP3陽性制御性T細胞による免疫制御メカニズム
230巻9号(2009);View Description
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制御性T細胞とは,免疫反応を抑制することに特化したT細胞である.そのなかでFoxP3陽性制御性T細胞(以下,制御性T細胞)は転写因子FoxP3を高発現し,独特の活性化T細胞様の表現型をもち,自己免疫反応の制御細胞として特徴づけられてきた細胞である.制御性T細胞による免疫制御の今日の理解は,1.自己免疫反応を抑制する活性をもつT細胞を表面抗原により同定することをめざした研究,と2.生後3日目の胸腺摘出術(day 3 thymectomy)による自己免疫病発症過程での制御性T細胞の役割の研究,という2つの研究に基盤をもっている.その後の制御性T細胞特異的な転写因子としてのFoxP3の同定により,これらの実験の再確認と制御性T細胞の分化・機能の分子レベルでの理解が現在試みられている.本稿では,制御性T細胞の概念形成に重要であった研究を紹介することで制御性T細胞の基本的な理解をめざし,分子レベルでの制御性T細胞の機能および分化についての現在の研究の最前線を紹介したい. -
IL-10産生制御性T細胞
230巻9号(2009);View Description
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制御性T細胞は自己および外来性抗原に対する免疫寛容を誘導することで,自己免疫,アレルギー,炎症の発症抑制に重要な役割を果たしている.Interleukin 10(IL 10)は免疫恒常性の維持を担っている強力な抑制性サイトカインであり,CD4+制御性T細胞は主要なIL 10産生細胞として知られている.近年,胸腺より分化する“内因性制御性T細胞”に対して,外来性抗原に対する免疫寛容を誘導する“誘導性制御性T細胞”の重要性が注目されてきている.代表的な“誘導性制御性T細胞”のひとつである typeⅠ regulatory T cell (Tr1細胞)は,IL 10を高産生するという特徴を示す.末梢性免疫寛容とIL 10は密接な関係を有しており,本稿ではTr1細胞をはじめとする制御性T細胞につきIL 10産生という観点から概説する. -
天疱瘡モデルマウスにおける病的抗体産生を制御するDsg3反応性T細胞の役割
230巻9号(2009);View Description
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尋常性天疱瘡は,重層 扁平上皮に発現する細胞間接着分子・デスモグレイン3(Dsg3)に対する自己抗体により生じる重篤な自己免疫疾患である.自己抗体の産生には自己反応性T細胞が重要であることが知られている.従来のヒトT細胞研究では,分離・解析されたT細胞の自己抗体産生への関与を評価することができなかった.本研究では,抗Dsg3抗体産生を誘導できるT細胞の病原性をin vivoで評価するシステムを確立した.Dsg3 / マウスからDsg3反応性T細胞株を20株樹立し,Dsg3 / マウスから分離したB細胞とともにRag2 / マウスへ移植すると,20株中7株で抗Dsg3抗体が産生され,皮膚や口腔にびらんが出現し病原性を確認できたが,残りの13株は病原性を認めなかった.この評価システムは,Dsg3反応性T細胞には病原性の差異(pathogenic heterogeneity)が存在することを明らかにしただけでなく,今後の免疫学的検討の基礎として有用な手法と考える. -
血小板特異的自己抗体
230巻9号(2009);View Description
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血小板に対する自己抗体は網内系での血小板破壊や血小板産生の抑制により血小板減少を誘導する病因的自己抗体である.抗血小板抗体の対応抗原は血小板膜表面に存在する糖蛋白で,GP II b/III aが主要な標的である.血小板膜糖蛋白由来の潜在性ペプチドを網内系マクロファージが発現し,それを認識することで活性化された自己反応性T細胞がB細胞を刺激して抗血小板抗体が産生される.このようなマクロファージ,自己反応性T細胞,B細胞による病的サイクルが形成されると,抗血小板抗体の産生が持続する.臨床検査としての抗血小板抗体の検出は免疫性血小板減少性紫斑病の診断に有用であり,GP II b/III aなど血小板膜糖蛋白に特異的な抗体やその産生B細胞を検出するアッセイ法が提案され,その有用性が示されている. -
核抗原に対する自己抗体
230巻9号(2009);View Description
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全身性自己免疫疾患である膠原病には自己の細胞核成分と反応する多種類の自己抗体が検出され,それらは抗核抗体とよばれる.その対応抗原の多くはRNAやDNAと複合物を形成している蛋白が多く,遺伝子の複製,転写,修復・組換え,プロセシング,蛋白合成など細胞の重要な生命現象に関与する酵素や調節因子である.とくにクロマチン,スプライソゾーム,核小体などの核内高次構造物は,膠原病における自己免疫の主要なターゲットとなりうる.これら自己抗体の多くは,一部の例を除き,一般には生体内で直接の病原性を発揮することはないと考えられている.しかし,自己抗体は疾患や病態と特異的に関連することから,自己抗体の産生機序と自己免疫疾患の発症機序は深くかかわりあっているものと考えられる. -
抗リン脂質抗体症侯群の発症機序−最近の話題
230巻9号(2009);View Description
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抗リン脂質抗体症候群(APS)は,自己免疫血栓症あるいは自己免疫妊娠合併症と理解され,患者血中に存在する一群の抗リン脂質抗体は病原性自己抗体であると認識されている.抗リン脂質抗体の産生,APSの発症には遺伝的要因が関与していると考えられるが,いまだ十分に明らかとはなっていない.これまでHLA class II ,抗リン脂質抗体の代表的な対応抗原のひとつであるβ2 glycoproteinI(β2GPI)の遺伝子多型,血栓症のリスク遺伝子,APSを合併することが多い全身性エリテマトーデスの疾患感受性遺伝子などが検討されている.抗リン脂質抗体の病原性の研究は,対応抗原,とくにβ2GPIの機能と,抗体によるその修飾を中心に行われてきた.しかし最近の動向は,β2GPIの機能そのものよりも,β2GPIを介した自己抗体の向血栓細胞への作用が重要であると認識されるようになった.また,APS発症と補体の活性化の重要性も明らかにされつつある. -
シトルリン化抗原に対する自己免疫反応
230巻9号(2009);View Description
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蛋白質のシトルリン化は翻訳後修飾の一種であり,生理的に観察される.関節リウマチ患者の血清中に抗シトルリン化蛋白/ペプチド抗体が高い特異度で出現することが報告され,シトルリン化抗原と自己免疫反応の関連が示唆された.実際,関節リウマチ患者の炎症関節にはシトルリン化されたフィブリン,ビメンチン, II 型コラーゲンなどのシトルリン化蛋白が存在している.マウスモデルでは,シトルリン化抗原の免疫により関節炎の誘導・増悪が観察され,またシトルリン化抗原に対するモノクローナル抗体投与により関節炎が増悪することから,シトルリン化抗原に対する免疫反応が関節炎の発症・増悪に関与することが示唆されている.しかしヒトにおける病的意義はいまだ明らかでなく,抗シトルリン化蛋白/ペプチド抗体の出現機序とともに今後解明されるべき問題である. -
臓器特異的自己抗体−Sjogren症候群における抗M3ムスカリン作働性アセチルコリン受容体抗体の病因的意義を中心に
230巻9号(2009);View Description
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自己免疫疾患は,全身性自己免疫疾患と臓器特異的自己免疫疾患に分類される.一方で,Sj gren症候群のように全身性自己免疫疾患と臓器特異的自己免疫疾患の両方の要素を有する疾患も存在する.臓器特異的自己免疫疾患では,標的臓器の細胞表面に存在する機能的受容体や細胞質内に存在する酵素に対する臓器特異的自己抗体が検出される.臓器特異的自己免疫疾患では自己反応性T細胞に加えて,臓器特異的自己抗体が臓器機能障害に重要な役割を果たす可能性が考えられる.臓器特異的自己抗体は病因的意義に加えて,診断マーカー・発症予測マーカー,疾患活動性・重症度のマーカーおよび治療ターゲットとして臨床的にも有用であると考えられる.Sj gren症候群では種々の自己抗体が検出されるが,Sj gren症候群に特異的な病因抗体はいまだ同定されていない.外分泌腺に発現し,分泌に重要な役割を果たすM3ムスカリン作働性アセチルコリン受容体に対する自己抗体(抗M3R抗体)は,Sj gren症候群において病因となる臓器特異的自己抗体の非常に有力な候補であると考えられ,近年注目されている.今後,抗M3R抗体などの臓器特異的自己抗体をターゲットとした発症前診断,確定診断,治療法の確立が期待される. -
抗好中球細胞質抗体(ANCA)
230巻9号(2009);View Description
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抗好中球細胞質抗体(ANCA)は好中球の細胞質に対する抗体であり,好中球の細胞質顆粒内の種々の酵素に対する抗体が知られている.現在のところ臨床的に意義が確認されているものには,myeloperoxidaseに対する抗体(MPO ANCA)とproteinase 3に対する抗体(PR3 ANCA)がある.Wegener肉芽腫症,顕微鏡的多発血管炎,Churg Strauss症候群がANCA陽性をきたす原発性血管炎として知られ,ANCA関連血管炎と称される.それ以外にも膠原病を含む自己免疫疾患,薬剤,感染症などでANCAが認められることがある.ごく最近,lysosomal membrane protein 2(LAMP 2)に対する抗体(LAMP 2 ANCA)の病因性が示され,今後の研究の進展が期待されている. - 進展する自己免疫疾患の診療と問題点
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関節リウマチ−治癒をめざす治療の新時代へのアプローチ(治療パラダイムシフト)
230巻9号(2009);View Description
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破壊性関節炎を特徴とする関節リウマチ(RA)は有病率0.5 1.0%の身近な難病とされ,自己免疫学的な機序が関与するものの,その原因は不明のままである.しかし,RA治療の現場では,生物学的製剤をはじめとする分子標的治療薬などによって,数年前には考えられなかったほどの変貌を遂げている. -
SLEの臨床−ループス腎炎の発症時期で分類した新規治療方針
230巻9号(2009);View Description
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全身性エリテマトーデス(SLE)の予後は,おもにループス腎炎によって規定される.治療副作用と腎不全の回避が課題であり,ステロイド用量とシクロホスファミド併用の適切な選択が,非常によい予後をもたらす.現在,治療選択の判断基準は腎生検の病理分類に依存しているが,本稿では,腎症の発症時期に注目した治療選択が大幅な予後改善につながる可能性を論じる. -
多発性筋炎・皮膚筋炎の診断と治療
230巻9号(2009);View Description
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多発性筋炎(polymyositis:PM)は,近位筋の対称性筋力低下と骨格筋の炎症・変性・再生を特徴とする慢性炎症性疾患である.筋炎症状にGottron徴候などの特徴的な皮膚症状を伴う場合には,皮膚筋炎(dermatomyositis:DM)と診断される.筋以外の多臓器障害も併発し,自己抗体が検出される全身性自己免疫疾患でもある.治療にはステロイド薬が第一選択薬として使用され,その有効性が認められている.しかし,一部のPM/DMや封入体筋炎には標準的ステロイド療法が無効で,ステロイド抵抗性筋炎とされる.また,筋症状の乏しいDMに合併する急速進行性間質性肺炎は予後不良な難治性病態である.これらの病態はいまだ解明されておらず,その診断・治療法の確立が今後の課題である. -
血管炎症候群
230巻9号(2009);View Description
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近年,免疫系における炎症関連分子を標的とした生物学的製剤が開発され,関節炎の治療体系は革新的進歩を遂げている.その臨床経験の蓄積と血管炎の病態解明の進歩に伴い,難治性血管炎の治療に生物学的製剤が試みられるようになった.とくに,標準的治療法に抵抗性を示すANCA関連血管炎に対して有効な治療法となりうる.また,生物製剤の使用により,逆に血管炎の病態に対するわれわれの理解を深める効果もある.しかし,血管炎の治療におけるTNF阻害薬や抗CD20モノクローナル抗体のエビデンスはいまだ乏しい.したがってこれらの製剤の使用は,適切に計画された臨床試験において十分な注意を払って使用すべきであり,とくに有害事象に関する慎重な対応が必要である. -
炎症性腸疾患(IBD)の克服をめざして− IBDの最新治療と上皮細胞再生による新規治療法開発
230巻9号(2009);View Description
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炎症性腸疾患(IBD)は潰瘍性大腸炎,Crohn病に代表される難治性の腸炎である.現在,炎症の制御を目的とした治療法が中心となり行われている.潰瘍性大腸炎では免疫抑制剤,血球成分除去療法,Crohn病では抗TNF α療法,バルーン内視鏡による治療などが現在の治療法である.これらの治療法はこれまでステロイド治療に抵抗を示す症例に難渋していた状況を飛躍的に改善させ,疾患をコントロールできるところまで可能としている.しかし炎症を標的とした治療法の限界も生じており,新しい視点に基づいた治療法の開発が望まれている.現在,腸管上皮再生が新しい標的として注目され,上皮細胞機能の炎症性腸疾患における影響,上皮細胞再生機構が詳細に解析されつつあり,骨髄由来細胞からの再生,細胞内シグナル伝達による制御機構が明らかとされ,これらを標的とした治療法の開発が今後の新展開となる. -
乾癬の病態形成における免疫学的側面と生物学的製剤治療の進展
230巻9号(2009);View Description
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乾癬とは,慢性の炎症性皮膚疾患であり,厚い鱗屑を付けた紅斑が全身皮膚に多発する疾患である.乾癬皮膚病変部では表皮角化細胞の増殖亢進による異常角化と慢性炎症が繰り返し生じており,現在では乾癬は自己免疫疾患のひとつと考えられている.病変部における樹状細胞からTh17細胞,さらにSTAT3活性化へというストリームやそれを介在するサイトカインIL 17,IL 22,IL 23,TNF αなど病態形成の中心に迫る多くの研究がなされ,それらの複雑に絡みあった細胞やメディエーターのかかわりが明らかにされつつある.さらに免疫学的機序に基づいたあらたな治療戦略も展開しており,生物学的製剤による乾癬治療の期待や問題点について海外での臨床治験も含めて概説する. -
Behcet病の治療の進歩− TNF阻害療法のインパクト
230巻9号(2009);View Description
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Behcet病は再発性口腔内アフタ性潰瘍,皮膚症状,外陰部潰瘍,眼病変を4主症状とする原因不明の炎症疾患である.特殊病型として,腸管の潰瘍性病変を示す腸管Behcet,大小の動静脈の病変をきたす血管Behcet,脳幹・小脳・大脳白質の病変を主体とする神経Beh etがあり,これらは患者の生命予後を左右することから,眼病変とともにきわめて重要なウェイトを占める.本症の基本病態はTリンパ球の過剰反応性に基づくサイトカインの産生による好中球の機能(活性酸素産生能・遊走能)の亢進であり,これに細菌抗原など何らかの外因が関与すると考えられる.近年,新しい治療として難治性眼病変に対する抗TNF α抗体(インフリキシマブ)の有用性が証明され,わが国で世界に先がけて保険で承認された.インフリキシマブは,難治性である神経Behcetや腸管Behcetなどの特殊病型にも応用が期待される. -
多発性硬化症(MS)と視神経脊髄炎(NMO)
230巻9号(2009);View Description
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多発性硬化症(MS)は,中枢神経内の炎症性脱髄疾患である.急性増悪からの改善のためにステロイドパルス療法や血液浄化療法を行う.再発予防と進行抑制のためにIFN βをより早期から開始する.一方,視神経脊髄炎(NMO)は視神経炎と横断性脊髄炎を繰り返す疾患で,MSとの異同が議論されてきたが,特異的自己抗体〔抗アクアポリン4(AQP4)抗体〕が発見されMSと異なる疾患であることが明確になり,治療についてもMSと別個に考える必要がある.したがってNMOとMSの鑑別はきわめて重要であり,抗AQP4抗体の検索を発症早期に行うべきである.NMOの急性増悪期にはステロイドパルス療法を行うが,効果がみられず血液浄化療法が必要になることも多い.抗AQP4抗体陽性症例は高率に再発するため,発症早期からプレドニゾロンや免疫抑制剤を導入する.抗AQP4抗体陽性症例には原則的にIFN βは用いない.MS,NMOいずれにおいても慢性期の後遺症を緩和する対症療法も大切である. - 自己免疫疾患の将来的な治療戦略
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自己免疫疾患に対する粘膜誘導型免疫寛容療法
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粘膜免疫システムは外部環境と体内環境の境界として,共生微生物,病原微生物,食物抗原,アレルゲンなどを含む多種多様な異種抗原の識別を行う.この結果,生体にとって不利益な病原微生物やアレルゲンに対しては,粘膜系IgA抗体や上皮細胞間リンパ球による細胞性免疫などの積極的免疫応答を誘導してその排除を試みる.一方,生体の生命維持に必要な抗原(例:共生細菌,食物抗原)に対しては消極的免疫誘導機構を発動し,寛容・無視・無応答などの免疫学的恒常性を確立するとともにその維持を図っている.このように相反する免疫応答を巧みに誘導制御する場として粘膜免疫システムは生体の恒常性に必要不可欠である.粘膜免疫システムにおける免疫寛容の誘導制御が,自己免疫疾患に対する予防・治療への新しい取組みとして1980年代から注目され,その応用性をはかる理論的・技術基盤の確立が進められてきた.しかし,その臨床現場への応用については残念ながら達成できていない.経口あるいは経鼻的に抗原を投与し免疫寛容を誘導する方法は,ステロイドなどの免疫抑制剤を中心とした従来の治療よりも,全身系の副作用が少なく安全で簡便な方法として臨床への応用が期待されていることも事実である.一方,自己免疫性疾患の発症や増悪に密接に関与しているTh17細胞が同定され,その細胞が腸管の粘膜固有層に多く存在することが明らかとなり,粘膜系におけるTh17細胞の誘導制御機構の解明が活発に進んでいる.その解明は自己免疫疾患治療への新しいアプローチとして注目されており,その具現化に向けた研究が精力的に進められている. -
シグナル伝達分子を標的とした関節リウマチ治療−新規抗リウマチ薬の可能性
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炎症病態に大きな役割を果たすTNFやIL 6などの液性因子や,細胞表面上に発現している分子を標的とした抗体や融合蛋白を生物学的製剤といい,これを用いた治療が自己免疫炎症性疾患に対して従来では考えられないほどの高い効果を示している.しかし,投与が静脈内または皮下であることに加えて高価であることが大きな障害となっている.そこで,サイトカインや細胞表面分子が生物学的活性を発揮するに際して,細胞内において活性化する種々のキナーゼや転写因子などの分子を標的とした阻害薬が注目されている.なぜなら,経口投与可能であるとともに製造コストが安価であることが予想され,生物学的製剤の抱える問題を解決する可能性を有するためである.とくに,関節リウマチに対する臨床試験においては,チロシンキナーゼのなかでもJanus kinase(Jak)とSpleen tyrosine kinase(Syk)を標的とした阻害薬がTNF阻害薬に匹敵する効果を示しており,関節リウマチの今後の治療法を大きく変える可能性を秘めている. -
サイトカインを標的とした治療
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炎症性サイトカインを標的とした治療法は関節リウマチ治療のパラダイムを変えた.現在もなお,あらたな治療の標的候補分子がつぎつぎと見出されており,疾患のコントロールから寛解,さらには治癒をめざした治療へと進化しつつある.しかし,すべての患者に十分な効果がみられるわけではない.サイトカインは免疫システムのなかでネットワークを形成し,相互に制御しあっていると考えられる.これらの相互作用が明らかになれば,より有効なサイトカインの制御が可能になるかもしれない.また,個々の患者におけるサイトカインのプロフィールの違いが明らかになれば,レスポンダーとノンレスポンダーを事前に予測するテーラーメイドの治療が可能になるであろう.今後さらに,低分子化合物の開発,遺伝子治療などあらたな治療法の開発が待たれる. -
ケモカインの免疫疾患への関与と医薬品開発
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ケモカイン(chemokine,chemotactic cytokine)は白血球の遊走・活性化に携わる8kDa程度の低分子量蛋白質の総称で,生体の発生・分化・恒常性の維持に密接に関与するとともに,炎症・免疫性疾患における主要な調節因子である.ケモカインの関与する疾患は,AIDSはもとより糖尿病,アレルギー,循環器疾患,呼吸器疾患あるいは神経性疾患にまで多岐にわたる.このケモカイン・受容体システムを標的とした医薬品候補として,ケモカイン・受容体に対する中和抗体,受容体アンタゴニストとしての低分子化合物が積極的に開発されている.ケモカイン受容体は現在20種類以上が知られているが,阻害薬の研究は,最近では腸疾患や癌分野へと適応対象疾患を広げる動きがみられる.昨年(2008),CCR5アンタゴニストがHIV進入阻害薬として上市され,日本発の抗CCR4抗体も臨床試験に入り,ますますケモカイン研究の重要性が増している. -
接着分子を標的とした治療
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個体形成に重要な細胞接着は,免疫系でも抗原提示細胞からリンパ球への抗原提示,リンパ球の血管外移動などに重要な役割を果たす.このため,免疫担当細胞上に発現する接着分子の機能阻害は免疫を抑制する.自己免疫疾患治療のために標的とされてきた接着分子にはLFA 1/ICAM 1,CD2/LFA 3,VLA 4/VCAM 1があり,これらの阻害のためにモノクローナルヒト化抗LFA 1抗体,LFA 3Ig,モノクローナルヒト化抗VLA 4抗体などがつくられた.これらの生物学的製剤はおもに尋常性乾癬の治療に有効で,乾癬治療の選択肢を広げたが,その有効性は従来薬と比べて格段に高いとはいえない.しかも,接着分子の阻害は正常の免疫監視機構を損ねることになり,治療患者に感染症,とくにJCウイルス活性化による進行性多巣性白質脳症の発生が認められる場合がある.上記3剤のうち2剤が,この予後の悪い有害事象の発生でいったんは販売中止となっており,一方は発売再開したものの,今後の動向が注目される. -
免疫担当細胞を標的とした治療
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関節リウマチ(RA)や全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患(膠原病)の治療は,ステロイド薬や免疫抑制剤のような副作用の多い非特異的な治療に終始し,免疫難病とされてきた.しかし,病態形成過程において中心的な役割を担う分子を標的とした生物学的製剤の台頭に伴い,治療が一変した.RAに対してはTNF阻害薬が導入され,画期的な効果をもたらした.一方,TNF阻害薬といえども寛解導入率は約3割にすぎず,さらに高い寛解率をめざすために自己反応性リンパ球にアプローチし,破綻した自己寛容の修復を最終目標とする次世代の製剤が期待される.このような背景をもとに,T細胞やB細胞などの免疫担当細胞を標的とし,B T細胞間相互作用を制御する生物学的製剤の臨床試験が国内外で進行し,高い認容性と有効性が報告されている.本稿では,免疫担当細胞を標的とした自己免疫疾患の治療の新展開を概説する. -
抗原特異的免疫療法
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現行の非特異的な自己免疫疾患の治療は日和見感染症などの合併のリスクが高く,治療の質としては不十分といわざるをえない.一方で自己抗原に特異的な免疫療法は最小限の副作用で最大限の効果を得られる治療法として大きな可能性があるといえる.これまでにいくつかの自己抗原特異的な免疫抑制療法の治験が行われたが,残念ながら既存治療を代替するほどの明らかな有効性は示されていない.とくにT細胞は自己抗原特異性における鍵となる細胞であり,免疫療法の有力なターゲットであるが,いまのところ抗原特異的にT細胞を制御する手法は確立していない.本稿ではこれまでの自己抗原特異的免疫療法の状況を示しつつ,著者らが進めているT細胞レセプター(TCR)遺伝子導入による抗原特異的免疫抑制療法について解説してみたい.
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