医学のあゆみ
Volume 231, Issue 5, 2009
Volumes & issues:
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【10月第5土曜特集】最新・脳血管疾患Update−研究と臨床の最前線
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- 脳血管疾患の基礎病態の最前線
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脳虚血とneurovascular unit
231巻5号(2009);View Description Hide Descriptionニューロン(neuron)の生存に不可欠な脳循環の途絶は,ただちに脳の機能障害を起こし,時間経過とともに不可逆的損傷を起こす.脳梗塞急性期治療には,脳循環の改善という最大の治療方針に加え,可能なかぎりニューロンを救済するための併用治療が望まれる.しかし,新規治療法の確立には,ニューロンのみを対象にした虚血性細胞障害のメカニズムの基礎研究と薬剤の開発だけでは不十分である.生理的状態において,ニューロンの機能と脳循環はつねに連動しており,血管を構成する内皮細胞(endothelium),基底膜(basal lamina)の細胞外マトリックス(extracellular matrix)とその中に存在する周皮細胞(pericyte),さらに血管平滑筋,血管外にあってニューロンとの間に介在するアストロサイト(astrocyte)という機能ユニットの理解が必須である.これをneurovascular un(it NVU)と命名し,その包括的な研究を推進することで,脳血管障害のメカニズム解明と治療法開発のさらなる進展が期待できる. -
脳虚血とオートファジー・リソソーム,ユビキチン・プロテアソーム系の役割
231巻5号(2009);View Description Hide Description細胞内の主要な蛋白質分解系にはオートファジー・リソソーム系とユビキチン・プロテアソーム系があることが知られている.脳虚血後の神経細胞死とオートファジーの関連については,著者らは遺伝学的に,また他のグループは阻害剤の投与実験によって,オートファジーがカスパーゼ非依存性の細胞死を促進することを強く示唆するデータを得ている.一方,ユビキチン・プロテアソーム系に関しては,プロテアソーム阻害剤が障害を受けた脳組織に対して抗炎症作用を示すことで脳虚血傷害を軽減すると考えられている.さらに,軽い虚血負荷によりユビキチンの発現を誘導すると,それに続く強い負荷をかけても虚血に対する耐性ができて傷害を回避できる(プレコンディショニング)ことがわかっている. -
転写因子CREBの脳虚血侵襲に対する保護的役割
231巻5号(2009);View Description Hide Description脳梗塞の治療開発に関しては従来,なぜ神経細胞が虚血侵襲によって死んでいくのかという傷害性機序にのみ研究者の関心が寄せられていた.しかし,そのような研究姿勢より得られた無数の結果は,ほとんど臨床現場へtranslationされなかったことは周知の事実である.脳が内在する保護的情報伝達機構の虚血侵襲に対する反応のひとつに,転写因子CREBの活性化を介するものがあり,神経細胞のみならずオリゴデンドロサイトの生存に密接に関与することが明らかとなってきた.内因性保護的情報伝達機構の解明に,今後の新しい脳梗塞治療開発の突破口が隠れている可能性がある. -
虚血耐性現象の分子病態−脳虚血耐性現象はどこまでわかったか
231巻5号(2009);View Description Hide Description脳での虚血耐性現象の報告は,1990年に脳虚血侵襲に対するストレス応答現象としての報告にはじまるが,現在ではストレス蛋白質などの内在性保護作用を有する因子の発現以外に,代謝抑制,免疫・炎症反応の抑制,脳血管レベルでの適応による虚血侵襲そのものの軽減作用など多くの側面が分子機構にかかわっていることが明らかになりつつある.虚血耐性現象が注目される理由は,1.この現象が低体温処置と並んで基礎実験では確実な脳保護効果を示すこと,2.脳組織,神経細胞の内在的な適応現象であるのでその機序を解明すれば臨床現場に還元しやすいと考えられること,の2点があげられる.著者らは現在,神経細胞に豊富に存在する転写因子CREBを介した遺伝子発現と脳軟髄膜血管吻合における脳血管の適応現象に注目して研究を進めている.虚血耐性現象は熱耐性現象,エンドトキシントレランス,放射線ホルミシス効果など生体に普遍的に観察される有害な侵襲刺激に対する内在性適応現象のひとつとしてとらえられると考えられる. -
冬眠が制御する低温耐性−低体温療法への応用
231巻5号(2009);View Description Hide Description長年停滞していた哺乳類の冬眠研究が欧米で再燃しつつある.冬眠中の生体では,致死的な低体温をはじめ感染症や癌,種々のストレスに対する耐性が強化されるとの指摘がなされ,関心が寄せられてきた.しかし,その制御機構は不明のままであった.最近,冬眠を制御する蛋白質がはじめて同定され,冬眠中に発現が変化する遺伝子の検出もあいつぐなか,冬眠は制御可能な生理的調整によるとの認識が高まっている.この調整がヒトで可能になれば,冬眠の医療応用も夢ではなくなる.本稿では,これまでの研究から明らかになりつつある冬眠の実体を通して,冬眠の低体温療法への応用の可能性について考察する. -
脳内炎症と虚血性白質病変
231巻5号(2009);View Description Hide Description虚血性大脳白質病変を病理学的特徴のひとつとする皮質下血管性認知症は,血管性認知症の多様な病型のなかで患者数がもっとも多い.虚血性白質病変は高血圧性小血管病変を基礎とした低灌流が原因と考えられ,病態成立への脳内炎症反応の関与が示されている.虚血性白質病変患者の脳脊髄液中matrix metalloproteinase(MMP)の上昇や病理所見における血液−脳関門の障害,血管周囲腔や実質でのリンパ球浸潤とミクログリアの活性化,MMPやcyclooxygenase−2(COX−2)の産生が示されている.モデル動物においても,白質病変部位では白血球浸潤,グリア活性化などの炎症反応が認められ,抗炎症作用を示す薬剤が白質病変の抑制効果をもつことが示されている.慢性的な炎症反応の虚血性白質病変の成立機転への関与が示されるとともに,炎症・免疫反応の制御が皮質下血管性認知症の治療に役立つことが期待される. -
脳血管疾患における血液−脳関門障害−高血圧性血液−脳関門障害血管ではオステオポンチンの発現が増加している
231巻5号(2009);View Description Hide Description脳血管には血液−脳関門というバリアー機能が備わっており,血管内から脳内への高分子量物質の無用な侵入を防いでいる.一方で,ブドウ糖などの栄養物質は,輸送体などを通して選択的に脳内へ輸送されている.その血液−脳関門が脳虚血などの侵襲によって障害されると,脳実質に障害性のある抗体や補体などの血管内物質にさらされ,脳障害をもたらしうる.血液−脳関門障害の具体的機序解明のため,血液−脳関門障害血管で発現が増減している物質を調べたところ,オステオポンチンがそのひとつであった.また,脳血管内皮細胞には,Alzheimer病脳で沈着するAβ蛋白の脳外への排出ポンプが備わっており,それに異常が生じるとAβ蛋白の沈着にもつながりうる.したがって,血液−脳関門障害がAlzheimer病の病態にも関与している可能性が考えられる.血液−脳関門の概説から,血液−脳関門障害が認知症などの疾患の病態にどのように関与しうるか,最近の知見も含めて述べてみたい. -
プロテオミクスと脳虚血のバイオマーカー探索
231巻5号(2009);View Description Hide Descriptionバイオマーカーとは,正常の状態,病気の進行状況および介在治療における薬物療法の効果などを客観的に判定できる指標である.虚血性脳障害に対する特異的なバイオマーカーはまだ見出されていないが,これまでには興奮性アミノ酸やGABA,炎症関連,酸化ストレス,内皮障害,凝固または線溶にかかわる因子,成長因子などが虚血性脳障害における早期の神経学的な破綻や病巣の増大を反映しうるバイオマーカーの候補としてあげられてきている.また,血液中にごく微量にしか存在しないバイオマーカーは通常の方法では測定できない.これらの問題を解決すべく,超高感度同時多項目バイオマーカー検出技術“MUSTag”について紹介する.今後,バイオマーカーが虚血性脳疾患の病態を早期かつ網羅的に把握するためのツールとなり,治療に貢献していくことを願いたい. -
脳卒中における疾患感受性遺伝子の探索
231巻5号(2009);View Description Hide Description脳卒中は脳梗塞,脳出血,くも膜下出血に代表される脳血管障害が急激に発症したものであり,遺伝因子に加えて,さまざまな環境因子が複雑に絡みあって発症する多因子疾患である.虚血性脳梗塞では動脈硬化が最大の危険因子であり,高血圧症,脂質異常症,糖尿病,喫煙の影響が大きく,くも膜下出血では脳動脈瘤・脳動静脈奇形の合併が問題となる.脳卒中における疾患感受性遺伝子の探索は動脈硬化などに関連する既知の候補遺伝子アプローチから,ゲノム全域に分布する約100万個の一塩基多型(single nucleotide polymorphism:SNP)などをマーカーとし,あらたな遺伝子座を網羅的に探索するゲノムワイド関連解析(genomewide associationstudy:GWAS)へと移行している.本稿では,おもに虚血性脳梗塞とくも膜下出血に焦点を絞り,遺伝子解析の現状を概説する. - 脳血管疾患の疫学の最前線
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脳とCKDの連関メカニズム
231巻5号(2009);View Description Hide Description慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)とは蛋白尿の存在,あるいは腎機能が低下した状態をいう.以前より末期腎不全や透析患者において心血管病が多いことは漠然と知られていた.しかし,近年,比較的軽度の腎機能障害であっても心血管病の危険因子となることが明らかになってきている.また,わが国の脳心血管病の特徴は脳卒中が多く,冠動脈疾患の2倍にものぼるとされている.しかし,CKDとの関連に関しては不明な部分が多かった.近年,両者の相互関連を指摘する報告が出てきており,今回はそのメカニズムについて,さまざまな研究報告や解剖学的側面を考察しながら説明する. -
脳梗塞二次予防のための糖尿病治療戦略
231巻5号(2009);View Description Hide Descriptionまったく症状のない疾病,2型糖尿病の治療の所期の目的は心血管イベントの発症予防にある.はたして血糖コントロールにその効果があるのか.最近,五大RCTのメタ解析が発表された14).UKPDS,PROactive,ADVANCE,VADT,ACCORDの5研究を対象とした33,040例であり,平均5年の観察中に約1,500例の非致死性心筋梗塞,2,300例の冠動脈疾患,1,100例の脳梗塞,2,900例の死亡がみられた.介入群と対照群でのHbA1cの差異は0.9%であった.その結果,非致死性心筋梗塞と冠動脈疾患については,血糖コントロールが有意にその発症を抑制したが,脳梗塞に関しては抑制傾向を示したものの有意差はなかった.死亡に関しては差がなかった.一方,2型糖尿病患者での脳梗塞の二次予防に関しては,ピオグリタゾンや抗血小板薬が有効であるとする新知見が集積されてきた.2型糖尿病の治療においては,より早期からのより積極的な統合的治療が脳梗塞防止には必須であろう. -
脳卒中のゲノムワイド関連遺伝子の探索
231巻5号(2009);View Description Hide Description近年,遺伝子多型に関する情報基盤と解析技術の整備に伴い,疾患関連遺伝子の同定を目的としてゲノム全体を網羅的に探索するゲノムワイド研究が試みられている.海外ではアイスランド人家系を対象としたゲノムワイド連鎖解析により,世界に先がけて2つの脳梗塞関連遺伝子(PDE4D,ALOX5AP)が同定された.また,白人を対象とした4つのコホートの統合研究により,12番染色体短腕の遺伝子外領域(NINJ2近傍)と脳梗塞発症との関連が報告された.一方,著者らは日本人の脳梗塞関連遺伝子を同定するために,福岡県内の7つの医療機関を受診した40歳以上の脳梗塞患者群1,112名と同数の福岡県久山町住民からなる対照群を用いたゲノムワイド関連研究を行った.その結果,2つの脳梗塞関連遺伝子(PRKCH,AGTRL1)を同定した.1988年の循環器健診を受診した久山町住民1,683名を14年間追跡したコホート研究において,これら遺伝子上のSNPsは脳梗塞発症の遺伝的危険因子であることが明らかとなった. - 脳血管疾患の診断の最前線
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アテローム硬化性脳主幹動脈閉塞症における脳虚血−PETイメージング
231巻5号(2009);View Description Hide Descriptionアテローム硬化性脳主幹動脈閉塞症患者において,慢性的な脳循環障害の存在は脳組織障害のリスクを増加させる.脳循環障害の程度が高度で脳梗塞再発率がきわめて高い一群が,positron emission tomography(PET)によりmisery perfusionという状態を検出することで選別できる.Misery perfusionは,PETにより形態画像上変化のない大脳皮質領域における中枢性ベンゾジアゼピン(benzodiazepine)受容体低下として検出される選択的神経細胞障害の原因にもなる.バイパス手術はmisery perfusionを改善し,脳梗塞再発予防に有効であるが,選択的神経細胞障害を防ぐことでも予後を改善する可能性がある.PETにより,神経細胞障害を含めた虚血性脳組織障害の総合評価が可能になり,脳循環動態に基づいた治療方針の決定およびそのモニタリングを精度よく行うことができる. -
脳血管疾患におけるMRI拡散テンソルtractography−脳梗塞における錐体路の描出と定量的解析
231巻5号(2009);View Description Hide DescriptionMRIの拡散強調像を得る際には強い傾斜磁場を用いるが,その傾斜磁場の方向と脳白質の方向との関係により,信号変化がある.6方向以上の異なる傾斜磁場の拡散強調像を用いて,その変化を拡散テンソル解析することにより脳白質の方向性を知り,その障害程度を定量的に評価することができる.方向をtracking(fibertracking)することにより,特定の白質路を抽出した拡散テンソルtractographyが得られる.定量値としては,0から1までの値をとるfractional anisotropyがよく用いられる.脳梗塞などの脳血管障害への応用としては,皮質脊髄路などの特定の白質路と病変との三次元的位置関係による予後予想,病態解析,白質変性の進展速度の解析などが報告されている. -
3T MRIによる頭頸部black blood imaging
231巻5号(2009);View Description Hide Description3D black blood imaging(BBI)は,血管内腔を無信号にすることにより血管壁の情報を得るという技術である.3Dで撮影することにより2D BBIに比べ,短時間の撮影で広範囲をカバーでき,また,任意の断面の再構成が可能という長所がある.とくに頸部頸動脈のプラークの評価に使われ,T1強調画像での高信号プラークと脳虚血との関連が示唆されてきたが,3T MRIを使った最近の3D BBI技術により頭蓋内の動脈についての応用も可能となってきた.今後は頸部頸動脈のプラーク評価のほか,椎骨動脈の解離や血栓を伴う巨大動脈瘤への評価が期待できる. -
Branch atheromatous disease
231巻5号(2009);View Description Hide Descriptionラクナ梗塞は,通常,高血圧性の穿通枝自体病変(lipohyalinosisなど)で1本が閉塞したものを指すが,比較的大径の穿通枝で,母動脈よりの分岐部でアテロームプラークにより閉塞され,穿通枝全域の梗塞を示すものをbranch atheromatous disease(BAD)とよぶことをCaplanが提唱した.本来,病理学的概念でレンズ核線条体動脈,前脈絡叢動脈,橋傍正中枝などの血管にみられるが,これらの血管は放線冠,内包,橋底部などの錐体路を灌流するため,わが国では急性期に進行性運動麻痺を呈しやすいことと結びつき広がってきた.ラクナ梗塞,アテローム血栓性梗塞との中間に位置づけられることが多いが,その病態は十分に明らかにされておらず,主幹動脈のアテロームプラークとの関連など研究者間の意見の一致をみていないのが現状である.糖尿病はとくに橋傍正中枝梗塞で多く,さらに進行性運動麻痺をきたしやすい.アルガトロバン,シロスタゾール,エダラボンなどを併用することで機能予後が改善することが明らかとなってきた. -
頸部頸動脈狭窄症に対する血行再建術中|後の脳合併症−発症メカニズム,予知および対策
231巻5号(2009);View Description Hide Description頸部頸動脈分岐部の粥状動脈硬化性狭窄病変に対する血行再建術(内膜 /離術および頸動脈ステント術)の二大脳合併症は,術中脳塞栓と術後過灌流である.後者は頭蓋内出血をきたす可能性があるとともに術後高次脳機能障害の原因となる.両合併症とも,脳血流SPECTなどで測定される術前脳血管反応性の低下が予知因子である.術中塞栓子の頻度と数および過灌流症候群による頭蓋内出血への対策を考慮すると,脳血管反応性低下症例は頸動脈ステント術ではなく内膜 /離術を選択すべきである. -
脳アミロイドアンギオパチー−病態と診断法の進歩
231巻5号(2009);View Description Hide Description脳アミロイドアンギオパチー(CAA)は脳血管へのアミロイド沈着症である.脳血管壁へのアミロイドβ蛋白(Aβ)の沈着は加齢とともに出現し,高度の沈着例では脳出血や多発性脳梗塞を引き起こし,認知症とも密接に関連している.CAAはAlzheimer病で高率に認められる.アポリポ蛋白Eのε4アレルはCAAの,ε2アレルはCAA関連脳出血の危険因子とされている.CAAの確定診断は病理学的証明によるが,画像検査を用いて出血部位や微小出血,白質病変を評価することにより,臨床診断が可能になりつつある.とくにT2*MRIによる皮質微小出血の検出は有用である.最近臨床応用されつつあるアミロイドPETでは,後頭葉優位の集積パターンがみられる. -
Vascular cognitive impairment(VCI)
231巻5号(2009);View Description Hide DescriptionVascular cognitive impairmen(t VCI)は,脳血管障害に起因する軽度認知機能障害から認知症まで,重症度の異なる認知機能障害を包括する疾患概念である.背景病変もさまざまで,大血管病変に伴う認知症(大脳皮質型血管性認知症),小血管病変に伴う認知症(Binswanger病や多発小梗塞性認知症),遺伝性血管性認知症CADASIL,さらには脳血管障害を伴うAlzheimer病まで多岐にわたる.VCIでは実行機能障害や注意障害がみられるものの,言語や記銘力は比較的保たれるといった臨床的特徴がみられる.一般的にAlzheimer病の記憶障害と認知プロフィールは異なるとされるが,その鑑別は難しいことが少なくない.神経画像所見としては,広範大脳白質病変,多発性のラクナ梗塞,微小出血などがVCI診断の一助となる.血管リスクの是正などの治療介入を行うことは認知機能障害の進展予防につながるため,VCI早期診断の重要性を強調してもしすぎることはない. -
遺伝性脳小血管病CARASILおよびCADASIL
231巻5号(2009);View Description Hide Description脳小血管病は高血圧症を危険因子とするが,その分子病態は不明であった.近年,遺伝性脳小血管病であるCerebral autosomal recessive arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy(CARASIL),およびCerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy(CADASIL)の原因遺伝子が同定され,その分子病態の解明が進んでいる.CARASILではHtrA1遺伝子変異によるTGF−βシグナルの調節障害が,CADASILではNotch3遺伝子変異によるあらたな蛋白間相互作用が病態に関与することが推定されている.本稿ではこれらの知見を踏まえ,CARASILおよびCADASILの病態機序と診断について概説する. - 脳血管疾患の治療の最前線
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脳卒中降圧療法の最新エビデンス(急性期から慢性期)−脳卒中予防と降圧療法
231巻5号(2009);View Description Hide Description“高血圧治療ガイドライン2009”において,脳卒中急性期には原則として降圧は行わないが,顕著な血圧上昇に対しては降圧療法が推奨されている.また脳卒中慢性期における積極的降圧療法は再発予防に有用であるが,個々の病態を考慮に入れ,緩徐な降圧を心がけることが必要とされる.最近の大規模臨床試験の結果から,脳卒中再発予防に対し薬剤間での差異も注目されはじめている.こうした視点を踏まえ,本稿では脳卒中急性期および慢性期における降圧療法を概括する. -
脳卒中急性期の医療システム構築とプレホスピタル脳卒中スケール
231巻5号(2009);View Description Hide Description2005年より発症3時間以内の脳梗塞患者に対するrt−PA静注療法による血栓溶解療法が認可され,超急性期脳卒中治療の重要性が高まっている.そのためには一般市民の脳卒中の症状に対する認識を高め,初期対応に関する啓発教育を行うとともに,わかりやすい脳卒中救急システムを構築し,救急隊との連携やプレホスピタル脳卒中スケールを用いた病院前救護を地域単位で進めることが求められている.rt−PA静注療法をはじめとした急性期脳卒中治療は脳卒中の早期診断にはじまり,多職種の専門医療チームとStroke Unitをもつ脳卒中・脳血管センターでの高度な急性期治療から急性期・回復期・維持期を通じてのリハビリテーションへと進む,切れ目ない診療体制が望まれる. -
血栓溶解療法の併用薬物療法とtherapeutic time window
231巻5号(2009);View Description Hide Description急性期脳梗塞に対し血栓溶解療法は劇的な効果をもつが,発症から3時間以内という短時間で使用できる症例は限られており,出血合併症は致命的になることがある.t−PAのtherapeutic time windowを延長すること,血栓溶解効果を増強すること,血栓溶解薬の使用量を減少すること,早期再閉塞を予防すること,出血合併症を減少すること,などの目的で,t−PAと脳保護薬または抗血栓薬との併用療法の開発が進められている.現状では臨床試験で効果を証明できた併用療法はないが,より多くの脳梗塞症例の予後を改善するために,この治療ストラテジーは魅力的であり,今後も期待される. -
t−PA静注療法と超音波連続照射の併用
231巻5号(2009);View Description Hide Description経頭蓋ドプラ検査(transcranial Doppler:TCD)は,頭蓋内血管病変(狭窄あるいは閉塞),血流中の栓子,さらにt−PAを用いた経静脈的線溶療法(t−PA静注療法)における閉塞血管の再開通現象など,急性期脳梗塞例の病態評価に応用されている.近年,発症3時間以内の超急性期脳梗塞例に対しt−PA静注療法にTCDを用いた超音波連続照射の併用(超音波併用療法)を行うと,閉塞血管の再開通現象が促進される結果が示された.一方で,併用療法による線溶効果は促進するものの,症候性脳内出血の発症は増加しなかった.さらなる線溶効果の促進を期待し,“t−PA静注療法+超音波連続照射+超音波造影剤(超音波造影剤併用療法)”が試みられつつある.本稿ではTCDの使用法,t−PA静注療法と超音波連続照射の併用(超音波併用療法)の現状と今後の展開を中心に概説する. -
頚動脈・頭蓋内動脈の血管内治療の最前線
231巻5号(2009);View Description Hide Description頚部頚動脈狭窄症に対する血行再建術には頚動脈血栓内膜 /離術(CEA)が行われているが,CEAに際して合併症率が高く,成績の悪い群であるハイリスク群が存在する.そのハイリスク群をカバーする目的で,頚動脈ステント留置術(CAS)が行われるようになってきた.当初は,機材や技術的問題でCEAより治療成績が悪かったが,専用機材の開発・発展,全身合併症のコントロール技術の向上などにより,CASの成績も向上してきた.そして,SAPPHIRE StudyにてCEAハイリスク群の治療としてのCASはCEA非劣性であることが証明された.しかし,遠位塞栓予防器具にはまだまだ改良の余地がある.脳動脈瘤のコイル塞栓術にはプラチナコイルが用いられるが,螺旋状のコイルだけではなく,三次元立体形状のコイルが登場し,さらにバルーンカテーテルによる母血管へのコイルの逸脱を予防しながらの塞栓技術が組み合わされ,塞栓術の限界点は上昇した.また,bioactive coilやステントを用いた動脈瘤コイル塞栓術により,治療成績の向上と治療限界点の引き上げが続いている.一方,flow diversion theoryにより,動脈瘤内を塞栓しなくとも,ステント留置することで自然血栓閉塞化させる治療もはじまっている.頭蓋内動脈狭窄症に対しては,バルーンカテーテルでの血管形成術,そして狭窄症専用の頭蓋内ステントが登場し,今後,ますます血管内治療の適応が増えると考えられる. -
脳動脈解離の治療最前線
231巻5号(2009);View Description Hide Description脳動脈解離は若年者脳卒中では忘れてはならない疾患である.脳動脈解離では,解離により破壊された血管壁に偽腔が形成され,その結果,血管内腔の狭窄や閉塞をきたせば脳梗塞に代表される虚血性脳血管障害を引き起こし,外膜側に進展すれば解離性動脈瘤を形成し,動脈瘤が破綻することによってくも膜下出血に代表される出血性脳血管障害を引き起こす.脳動脈解離は内頸動脈系または椎骨脳底動脈系に分類され,さらにそれぞれが頭蓋内解離または頭蓋外解離に分けられる.頭蓋外解離であれば,くも膜下出血発症の危険性は乏しく,抗血栓療法の有効性を示す報告もあるが,明確なエビデンスはない.頭蓋内解離の際はくも膜下出血の危険性を考慮したうえで,抗血栓療法の妥当性を考える必要があるが,こちらも明確なエビデンスはない.抗血栓療法を開始した際は,解離部位の状態は刻々と変化するため定期的な画像診断を行い,抗血栓療法の必要な期間に関して検討することが重要である. -
虚血性脳卒中に対する抗血栓薬併用の有用性と限界
231巻5号(2009);View Description Hide Description虚血性脳卒中では,急性期,慢性期に抗血栓薬(抗凝固薬,抗血小板薬)が使用され,しばしば併用される.とくに慢性期では,抗血小板薬の併用が多い.アスピリンとシロスタゾール,アスピリンと徐放性ジピリダモール(欧米),アスピリンとクロピドグレル,抗血小板薬とワルファリンなどである.これらの併用療法は,単独使用に比較し出血性合併症が明らかに増加する.したがって,個々の患者において血栓性イベントの発症リスクを十分評価して使用する必要がある.とくに,アスピリンとクロピドグレルの併用は,重篤な出血性合併症の増加が報告されており,症例の選択に注意を要する.また,抗血栓薬使用時には血圧管理を厳重に行い,脳出血の発症を抑制する必要がある. -
抗凝固療法・抗血小板療法の出血合併症とその対策
231巻5号(2009);View Description Hide Description抗血栓療法の合併症としての出血イベントの実態と,その対応策を解説する.脳梗塞急性期治療薬としてのヘパリンは,再発抑制効果と出血合併症発症率が拮抗すると報告されている.ワルファリン服用患者で出血合併症を起こしやすい要因に,脳卒中既往,抗血小板薬併用,高齢,高血圧,抗凝固療法の強度などがあげられる.ワルファリン療法中の出血合併症に対して,ワルファリンの減量〜中止に加えて,ビタミンKや乾燥ヒト血液凝固第IX因子複合体製剤などによる中和療法が有用である.抗血小板薬は脳梗塞治療薬としてエビデンスが確立しているが,アスピリン+クロピドグレルなどの2剤併用は虚血イベント発症が単剤に比べて有意に軽減しない反面,出血イベントが増える傾向にあるため,ルーチンには勧められない.抜歯や手術時には,国内での最新の指針などを参考にした抗血栓療法の管理が望まれる. -
アスピリンおよびクロピドグレルレジスタンス
231巻5号(2009);View Description Hide Descriptionアスピリンまたはクロピドグレルレジスタンス(不応症)は薬理学的な観点から,標準用量のアスピリンまたはクロピドグレルの投与によりex vivo血小板機能(または凝集能)や生化学的マーカーが十分に抑制されない状態と考えられる.不応症の検出方法は標準化されていないため不応症の診断は報告者によりさまざまであり,概して不応症例の心血管イベントのリスクは高い.これら抗血小板薬不応症は,ともに薬物動態的(pharmacokinetic)な原因に起因することが多いと考えられる.Ex vivo血小板機能検査は抗血小板薬の薬理学的作用に対する情報を得るのに有用であるが,薬剤のひとつの作用点を示しているにすぎず,生体内での薬理作用すべてを正しく評価できるものではないことを理解しておくことが大切である. -
Microbleedsの基礎病態と抗血栓療法
231巻5号(2009);View Description Hide Description脳内微小出血(cerebral microbleeds:CMB)は加齢,脳血管障害の危険因子に関連して認められるありふれた所見であり,脳内の小動脈病変の存在と,それによる脳出血や脳梗塞を生じやすい病態を暗示する.原因は血管壊死とアミロイド血管症が大部分を占め,抗血小板療法や血栓溶解療法の際にはCMBの有無と個数を調べてその適否を考慮する必要がある. -
心房細動患者に対する新規抗凝固薬開発の現状と展望
231巻5号(2009);View Description Hide Description高齢者の増加とともに心房細動による脳塞栓症が増加しており,一次・二次予防のための抗凝固療法を必要とする患者が増加している.しかし,ワルファリンには血液凝固モニター,ビタミンK摂取制限,他剤との相互作用などの煩雑さがあり,本来適応となる患者にも十分使用されていないのが現状である.近年,これらのワルファリン使用に伴う煩雑さを解消する経口の選択的なトロンビン阻害薬やXa因子阻害薬が開発され,高リスクの心房細動患者を対象としてワルファリンとの比較試験が行われているが,このうちもっとも先行していたトロンビン阻害薬ダビガトランの成績が発表され,ワルファリンを上まわる有効性と安全性が示された.ダビガトランを中心に,これら新規抗凝固薬の心房細動患者における開発状況と今後の展望について述べる. -
脳梗塞に対する脳保護療法の到達点
231巻5号(2009);View Description Hide Description脳梗塞急性期治療の戦略は,1.血流改善療法と,2.脳保護療法の2つである.このうち脳保護療法は脳細胞の保護と脳血管内皮保護の両面が重要であり,酸化ストレス軽減薬や神経栄養因子などが代表的な薬剤である.エダラボンは1988年の著者らの報告を嚆矢とし,2001年に世界ではじめて“脳保護薬”として臨床現場に登場し,実際の脳梗塞患者に使用され,大きな社会的貢献をしている.2005年11月から可能となった脳梗塞血栓溶解療法に対するtPA(tissue plasminogen activator)使用に際しても,脳保護療法の併用効果がtPAパートナーとして注目されている.主要作用メカニズムは,フリーラジカル消去作用によるneurovascularprotection(脳細胞血管内皮両面保護効果)である. -
未破裂脳動脈瘤の最新エビデンスと治療
231巻5号(2009);View Description Hide Description未破裂脳動脈瘤の治療適応においては,未破裂脳動脈瘤自体のリスク,治療に伴うリスク,治療の有益性,各患者背景などを総合的に判断しなければならない.リスク評価においては,諸外国に比べて日本におけるくも膜下出血の頻度は高く,欧米のデータによらないわが国独自の解析が必要なため,UCAS Japan,UCAS IIなどの臨床研究が進行中であり,6,000例を超す登録症例から,年間出血率は約1%で,大きさや部位によりかなり異なることが明らかになりつつある.治療については,開頭術による治療のほか血管内治療が導入されているが,長期成績についての十分なデータはない.治療方針決定においては,未破裂脳動脈瘤を有することによるうつや不安,患者の社会的背景や家族のサポート体制なども考慮すべきである.また今後,脳動脈瘤の発生や増大にかかわる因子の解析により,あらたな治療法が開発される可能性もある. -
脳卒中とスタチン
231巻5号(2009);View Description Hide Description高脂血症(高コレステロール血症)が脳卒中の危険因子であるのかしばらく疑問視されていたが,現在は“脂質異常症”として,脳梗塞の重要な危険因子のひとつと考えられるようになった.そこに至るにはスタチン登場が大きく貢献しており,冠動脈疾患やその危険因子をもつ患者において,スタチンにより脳卒中発症が有意に抑制されることが明らかとなった.その後,脳卒中の二次予防にも効果があることが証明され,わが国においてもJ−STARS研究が進行中である.また,脳梗塞急性期においても梗塞縮小や予後改善作用のデータが蓄積されつつある.これらスタチンの脳卒中慢性期・急性期に対する効果は,単にコレステロール低下作用によるもののみではなく,抗酸化作用,内皮細胞機能改善作用,抗炎症作用などさまざまなプレイオトロピック(多面的)効果によることが指摘されている. -
軽度低体温療法の現状と展望
231巻5号(2009);View Description Hide Description体温と虚血性脳損傷の間には密接な関係があり,体温が0.5〜1.0℃でも上昇すると脳損傷が増悪し,体温が1.0〜2.0℃下降するだけでも脳損傷にブレーキがかかる.これを利用して虚血性侵襲から脳を保護しようとするのが低体温療法である.体温が低ければ低いほど脳保護作用は強力であるが,副作用も並行して強くなる.軽度低体温とは脳温33〜34℃程度をいい,重篤な不整脈や免疫抑制を起こしにくいので,ベッドサイドで脳保護治療を行うには最適とされている.しかし,脳温33〜34℃を得るためには全身麻酔が必要で,挿管・人工呼吸という操作を経なければならない.その煩雑さゆえに脳梗塞急性期の治療に全身低体温療法を用いている施設はきわめて少ない.いきおい無作為化比較対照試験(RCT)を行うことは困難で,低体温療法の脳梗塞に対する臨床的有効性はいまだ証明されていない.これに代わるものとして局所脳低温療法や平温療法があるが,その有効性もいまだ証明されてはいない. -
脳梗塞の神経再生医療
231巻5号(2009);View Description Hide Description脳梗塞亜急性期の患者に対して自己の骨髄幹細胞を静脈内に投与することで,神経症状の改善が期待されている.1990年代初期から,著者らは神経移植・再生治療の確立をめざして,神経系細胞をはじめとする種々のドナー細胞を用いた細胞移植研究を開始し,とくに神経幹細胞やES細胞などの幹細胞を用いた基礎研究を展開してきた.近年では実用化を念頭に,臨床応用に最短位置と予想される骨髄細胞をドナー細胞とした神経再生研究に注目し,そのなかでもとくに神経再生作用の強い細胞群(骨髄間葉系幹細胞)が,経静脈内投与でも実験的脳梗塞に対して著明な治療効果が認められることを報告してきた.これらの基礎研究結果に基づき,2007年1月より脳梗塞亜急性期の患者を対象とした自己骨髄間葉系幹細胞の静脈内投与について,その安全性と治療効果の検討を行っている. -
脳梗塞の細胞移植療法と分子イメージング
231巻5号(2009);View Description Hide Description生体内の分子や細胞の情報を画像化する分子イメージングが注目されている.なかでも,無侵襲画像診断法として知られる核磁気共鳴(MR)法は,生体の深部組織から高解像度の画像が得られるうえに,繰り返し計測ができるなど,他の方法にはない長所をもつ.このMR法を利用して再生医療や細胞治療で用いるES細胞などの治療用細胞を生体内で可視化する方法が編み出され,移植細胞の生体内無侵襲追跡が可能になってきた.本稿では,脳梗塞モデルを取り上げながらMR法が細胞識別を可能にする標識法やMRレポーターなどを紹介するとともに,合わせて,MRによる分子イメージング法の課題や展望についてまとめたい. -
脳血管障害に対する遺伝子治療と抗炎症療法
231巻5号(2009);View Description Hide Description脳血管障害は死亡原因の第3位を占める国民病であるとともに,難病の側面も有している.著者らは脳血管障害の病態生理の解明と遺伝子治療の応用をめざした研究を行っており,脳虚血発症後の治療開始であっても,新規成長因子であるミッドカインやインターロイキン10の遺伝子導入,またはMCP−1やVEGFを抑制する遺伝子導入を行うことで,アポトーシスや炎症性シグナル,血液−脳関門などを標的とした良好なneurovascularprotectionを得ている.また,脳梗塞の増悪機構におけるマクロファージやT細胞の浸潤とそこから産生されるインターロイキンの寄与に関して,あらたな知見を認めている.これらの成果は,脳梗塞の新規治療の開発に結びつく可能性を秘めている. -
脳卒中地域連携パスの現状と今後の課題
231巻5号(2009);View Description Hide Description市民による迅速な救急要請,ドクターヘリや救急隊の病前診断など病院前救急診療システム,stroke unitを中心とした患者と医療資源の集約,リハビリテーションのスペシャリスト集団である回復期施設,かかりつけ医による再発予防の危険因子管理,在宅医療を支援する介護事業所など,急性期の脳卒中診療にはさまざまな機関との連携が必須である.医療制度改革では脳卒中診療体制の拡充を最優先と位置づけ,脳卒中地域連携パスの診療報酬が認可され,全国で運用されるようになった.千葉県の印旛保健医療圏では2008年3月に印旛脳卒中地域連携パスを設立,医療圏を越えた医療ネットワークが構築され,多数の脳卒中患者に適用された.またその集計データは,地域全体の診療体制改善に有用であった.しかし,脳卒中診療体制には解決すべき問題が山積している. -
siRNAによる虚血性神経障害の保護
231巻5号(2009);View Description Hide Description脳卒中は血管障害により脳神経細胞に必須な酸素とグルコースの供給を遮断し,いわばエネルギー不全をきたす疾患である.著者らは脳卒中における低酸素状態に注目し,低酸素反応性因子HIF2αに対する特異的な負の調節因子Int6を同定した.このInt6に対するsiRNA(Int6−siRNA)を用いた解析の結果,Int6/HIF2αは正常血管(動脈と静脈)の誘導を行うマスタースイッチのひとつであることが判明した.Int6−siRNAを細胞に導入することでHIF2αが活性化され,さまざまな血管新生・増殖因子が誘導される.著者らはInt6−siRNAを心筋梗塞,皮膚損傷,下肢閉塞モデル動物に用いたところ,著明な組織保護効果を示すことを見出した.さらに脳障害モデルにて,動脈からの投与により同様に著明な神経保護効果が得られた.このように,Int6−siRNAはこれまでにない作用機序で神経保護効果を示す治療薬として期待される. -
脳卒中後の神経ネットワーク修復とニューロリハビリテーション−ロボット訓練
231巻5号(2009);View Description Hide Description脳卒中片麻痺は30日以内に大きく回復し,おおむね90日以内に一定レベルに到達する.この経過のなかで,脳レベル,ネットワークレベル,細胞間レベル,細胞内レベル,遺伝子的レベルで,動的に修復が進められる.リハビリテーションで実施する訓練は,脳可塑性,とくにネットワークレベルで解剖学的および機能的再構築を促す.脳卒中医療における新しいリハビリテーション訓練法として,麻痺側上肢強制使用療法(constraint−induced movement therapy),部分免荷トレッドミル訓練,ロボット訓練が報告されている.いずれの訓練方法も麻痺側上下肢に十分量の訓練を強制的にあるいは積極的に提供するのが特徴であり,片麻痺の有意な改善を認め,脳可塑性を示す成果が得られてきた.
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