医学のあゆみ
Volume 231, Issue 9, 2009
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あゆみ Autopsy Imaging − その長所と限界
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法医学におけるAutopsy Imagingの現状と問題点
231巻9号(2009);View Description Hide Description法医学における重要な業務のひとつである検案および司法解剖におけるAutopsy Imagingの有用性については,すでにいくつもの報告がある.日本法医学会は平成21年(2009)1月に死因究明医療センター構想を,同4月には司法解剖標準化指針をあいついで公表した.そのなかでAutopsy Imagingの現状と問題点について,「基本的に解剖前診断としての意義は大きいが,現状では画像所見と肉眼所見との対比がいまだ不十分であり,Autopsy Imagingだけに基づく死後診断を実際例に応用することは時期尚早ではないかと考える」と記載している.Autopsy Imagingはたしかに有用な方法ではあるが,これを司法解剖に有効に活用し,死因判定の一助にしようとするなら,当面はAutopsy Imagingを行った例は全例解剖し,正確な所見を得たうえで画像を見直し,比較,検討する必要がある. -
法医学における画像診断の有用性とその課題−死因究明先進国オーストラリアに学ぶ
231巻9号(2009);View Description Hide Descriptionオーストラリアのビクトリア州は世界でもっとも進んだ死因究明制度をもつ.そこではコロナーとよばれる法律家が死因調査権をもち,異状死体はすべて州内1カ所の法医学研究所に持ち込まれ,死因調査が行われる.遺体はすべてCTスキャンにかけられるうえ,解剖率は日本とは比較にならないほど高い.CT撮像には,解剖前にあらかじめ病変や損傷などを知ることができたり異物を発見できたりするなど,さまざまなメリットがある.その一方,遺体ならではの画像所見があるため,読影には注意を要する.2009年2月,ビクトリア州で大規模な山火事が発生し,多数の死者が出た.被害者はすべてCT撮像された.その結果,これまでに知られていなかったCTのあらたな有用性が発見され,大規模災害時の個人識別に,CTは絶大な威力を発揮することが証明された. -
救急医からみたAutopsy Imaging −普及させるべきは監察医制度
231巻9号(2009);View Description Hide Description着院時心肺停止症例などの異状死の死因究明は,監察医制度のない地域では,死亡確認を行った救急医療機関などの救急医が行い,死亡診断書や死体検案書を交付している.その際,遺族の承諾を得にくい解剖にかわって,死亡時画像診断(PMI)を行う施設が増えてきており,より正確な死因の把握に努めようとしている.そうした場面ではPMIが有効ではあるが,それを死因を確定しうる死亡時画像病理診断(Ai)にまで発展させることは現在,極めて困難な状況にあり,また,PMIあるいはAiの実施が,現場の救急医や救急医療機関に負担を強いることが危惧される.現場の救急医としては,東京都監察医務院のような監察医制度を全国的に整備することのほうが急務であり,Aiは,監察医制度が普及するうえで不可欠なリソースである解剖医の不足を補うためにこそ,活用されるべきものと考えている. -
医療安全管理の立場からみたAutopsy Imaging
231巻9号(2009);View Description Hide Description医療安全管理の立場から,また,著者が関与した医療事故調査約20例の経験をもとに,Autopsy Imaging(Ai)について考察した.一般的な医療事故調査委員会は自律的対処として設置されるが,個人の過失・過誤として責任を追及するのではなく,医療事故がなぜ発生したのか,診療経過を検証するものである.調査報告書には,委員会構成と調査経過,診療経過,医療事故に関する情報,緊急事態の対応,患者側要因,発生要因,事故原因とその検証,再発防止策などが記載される.著者の経験では,生存例を含め3/4の事例には解剖が施行されず,画像所見や診療録が最重要となった.今後,検査所見が乏しく画像所見もない場合には,Aiの価値が高くなるのは明白である.Aiは,脳神経系の異常,とくに脳出血の検出率が高く,占拠病変や体内出血,肺病変,大動脈解離・大動脈瘤破裂にも有力であろう.なお現状のAiでは,冠動脈内血栓や心筋梗塞,致死的不整脈といった直接死因は描出できない可能性がある. -
病理医からみた死後画像の有用性と限界
231巻9号(2009);View Description Hide Description死後画像(いわゆるオートプシーイメージング)の有用性と限界について一病理医の立場から論じたい.死後画像の最大の長所は,コスト面や承諾の取りやすさなどの点で解剖よりはるかに実施しやすい点にある.情報の保存性や再現性,客観的な提示能力などの点でも優れ,筋骨格系など全身の評価がしやすく,外傷や出血性疾患,腫瘍などの粗大な占拠性病変の描出に優れている.一方,内因性急死例で高率な心臓性突然死や,腫瘍の確定診断,感染症など診断困難な疾患も多い.また,造影剤の使用しにくさや,死後変化や蘇生処置の影響により病変の評価が困難になるなど,死後画像ならではの限界もある.総括すると,死後画像は確定診断能力の点では解剖には及ばず,過剰な期待は禁物であるが,スクリーニングの手段としては優れ,解剖のガイドとしての活用も有用性が高い.したがって,両者の特性の違いを念頭におき,死因究明システムを構築することが重要であると考える. -
診療関連死の調査における死後画像の有用性と限界:病理医の立場から−解剖調査の代替手段としての死後画像の限界を画像-病理対比によって明示する
231巻9号(2009);View Description Hide Description遺体の撮像による画像所見から死因を判断する画像検案の有用性が確立されつつある.しかし,死後画像が解剖の代替手段となりうるか,その可能性を議論するためには死後画像と剖検所見の十分な対比検討が必要である.“診療関連死の死因究明”制度の創設が求められ,厚生労働省のモデル事業“診療に関連する死亡の調査分析モデル事業”が2005年よりはじまり,解剖を含む調査によって診療関連死の死因究明と医療評価が行われているが,診療関連死調査における死後画像検査の有用性と限界についての検証は十分とはいえない.著者らはシミュレーション研究および死後画像 剖検対比研究を通じて,診療による修飾が加わり複雑な病態が関与している診療関連死における死後画像の限界について明らかにした.画像技術の進歩は急速であり,限界が克服されることが期待され,今後も死後画像と剖検両者の緻密な観察と対比を継続する必要がある. -
放射線科の立場から− 2つのAi:スクリーニングおよび解剖前のAiの重要性
231巻9号(2009);View Description Hide Descriptionオートプシーイメージング(Ai)の現状と長所および限界などについて概略する.Aiの役割としては,スクリーニングとしてのAiと解剖を補助,補完する目的の2通りがある.Aiによる死因究明には限界があるが,スクリーニングとしては,現在行われている体表からの検視を十分補助する役割がある.また,解剖と組み合わせることにより,より精度の高い死因究明を行うことができる.Aiは画像診断が中心となることから,必然的に放射線科医が深く関与し,その方向性を示さなければならない.Aiは大きく撮影と読影に分かれ,撮影が行われる状況は病院内・病院外に大別される.いずれにおいても撮影を行う放射線技師,読影を行う放射線科医などがAiに対して重要な役割を果たすが,現状ではこれらに対する正当な対価が支払われていない.今後Aiを普及させるためには,正当な費用拠出を求める運動を続けなければならない. -
CT画像から死後の状態をどの程度指摘することができるか−群馬大学オートプシー・イメージングセンター開設1年を振り返って
231巻9号(2009);View Description Hide Description群馬大学オートプシー・イメージングセンター(以下,Aiセンター)が開設され,まもなく1年が経とうとしている.Aiセンターで撮影される死亡時画像検索は,おもに1.事件性の有無を検索するもの(法医学関係)と,2.解剖学実習の補助に使用するものであった.そのなかで,法医学解剖が行われたCT画像について画像検索がどれだけ有用であったか,症例を提示しながら言及する.画像が有用であった症例には,気胸や脳出血,骨折などの所見があった.しかし,CT所見のみでは死因を断定することが難しいものが大半であった.法医学分野での死因検索は,画像検索と司法解剖が二人三脚で行われることで,よりよい死因究明につながるものと思われる.
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フォーラム
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- 切手・医学史をちこち95
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連載
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- がん診療連携拠点病院にみる工夫− レベルアップをめざして15
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新潟県立新発田病院におけるがん診療委員会を中心とした取組み
231巻9号(2009);View Description Hide Description当院は地域がん診療連携拠点病院指定後,その使命を果たすべく活動を展開しているのでここに紹介する.当院のがん診療に関するシステムの企画・立案・実行・評価などは,全面的に“がん診療委員会”に委ねられている.がん診療委員会は,プロトコール班,広報・学習班,マニュアル班,事故対策班,緩和ケア班の5つの活動班をもつ.がん診療では,各科でのがん診療のほかに外来化学療法部門,がん支援相談窓口が密接に業務を提携している.今後の問題点は3つ,コメディカルの専門資格修得の促進による医師以外のリーダーの育成,緩和ケア領域でリーダーシップを発揮する医師の育成,当地域でのがん診療連携の確立,であると考える.しかし,ゆっくりではあるが,着実にがん診療システムは進歩を遂げていると思われる.
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注目の領域
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医学シミュレーションと地域医療の安全
231巻9号(2009);View Description Hide Description日本の大学における医学シミュレーションの普及は欧米に比べて遜色ないほど進んでいるが,多くの施設では運営経費の確保に問題を感じている.シミュレーション教育は単に学内の学生や職員を対象とするだけでなく,地域の医療者に対する技術的継続教育機会として重要な役割を担っているが,現在の運営形態ではそこまで十分に配慮したシミュレーション教育はなかなか実践できていない.地域の医療従事者の能力を高めることは,地域の医療安全を支える基盤である.この基盤を構築するためにシミュレーションセンター/ラボは,大学の私的施設から地域の公的機関としてその位置づけを変える必要がある.しかし,そのためには便益を享受する主体どうしのコスト・シェアの実現が不可欠である.
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