医学のあゆみ
Volume 231, Issue 12, 2009
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あゆみ メタボロミクス − 網羅的代謝物質解析の医学・医療へのあらたな応用
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ヒト癌組織のメタボローム解析
231巻12・13号(2009);View Description Hide Descriptionキャピラリー電気泳動 質量分析装置(CE MS)を用いたメタボローム測定法は,各種サンプル中に含まれるイオン性低分子代謝物の網羅的測定に適している.とくに解糖系,ペントースリン酸回路,TCA回路をはじめとして,アミノ酸代謝やプリン,ピリミジン代謝など,エネルギー代謝に関与する代謝物のほとんどはイオン性であることから,本法はエネルギー代謝を解明するうえで有用なツールになると考えられる.本稿ではCE MSによるメタボローム解析を用いて,癌の微小環境における特殊なエネルギー代謝を明らかにした研究成果を紹介したい. -
癌の低酸素下エネルギー代謝戦略
231巻12・13号(2009);View Description Hide Description著者らは,ポジトロンCTを用いた癌の低酸素部位診断や代謝診断研究のなかで,癌が正常細胞とは質的に異なる電子処理システムを構築していること,乳酸産生よりも高効率な代謝物処理システムをもっていることを示唆する結果を見出した.これらについて概説するとともに,それらの癌“特異的”代謝戦略を利用した癌“選択的”治療法の可能性について言及する. -
メタボローム解析を用いた抗癌物質の標的分子探索
231巻12・13号(2009);View Description Hide Description近年,癌の血管新生作用,低酸素・低栄養下での生存,癌転移など,癌のきわだった生存戦略が明るみになってきた.と同時に,それを支える細胞内部の分子メカニズムや原因因子の一端も明かされてきており,癌を狙い撃つ医薬の開発研究はますます盛んになっている.一方,培養癌細胞でもこうした特徴を再現できることから,培養癌細胞を用い,cell basedアッセイにより化合物をスクリーニングし,薬剤リードとして抗癌物質を取得しようとする試みも根強い.しかし,これには見出した抗癌物質の標的蛋白質の同定という医薬開発上もっとも重要かつ困難な問題が付随する.そのようななか,著者らは培養細胞を用いたスクリーニングから見出した抗転移性の抗癌物質について,その標的分子探索をメタボローム解析を経て行ったので,紹介する. -
抗癌剤反応性のメタボローム解析−癌細胞の薬剤応答解明と個別化医療実現に向けた新戦略
231巻12・13号(2009);View Description Hide Description癌化学療法の治療成績向上には癌細胞の薬剤反応の違いを引き起こす因子を解明し,かつその機序に基づいた薬効バイオマーカーを見出す必要がある.著者らは,細胞内代謝物質を対象としたメタボローム解析により,抗癌剤の活性化や標的分子への作用メカニズム,さらには細胞内応答変化から薬剤反応性の差異の解明に取り組んでいる.5 FU作用機序のメタボローム解析においてヒト大腸癌細胞における核酸代謝物の細胞内挙動を経時的に追跡したところ,5 FU曝露による細胞内核酸代謝変動のダイナミクスを包括的にとらえることができた.また,5 FU感受性の異なる細胞間の比較により5 FU作用後における癌細胞の薬剤反応の違いを細胞内メタボローム変動という,あらたな視点から解明することができた.薬剤反応性のメタボローム研究は新しい概念であり,個別化治療実現に向けた有力なアプローチとなりうる. -
メタボロミクスによる体内時刻の測定法
231巻12・13号(2009);View Description Hide Description体の中に1日を作り出すメカニズムを体内時計と呼ぶ.“針のない時計”である体内時計の状態(体内時刻)を知る簡単な方法はこれまで十分に開発されてこなかった.著者らは液体クロマトグラフィ質量分析器(LC-MS)や,キャピラリー電気泳動質量分析器(CE-MS)を用いたメタボローム解析に基づく,新規の体内時刻測定法の開発を行っている.これは血中の1日周期で変化する物質の量を時刻指標に用いた方法であり,さまざまな時刻に頂値をもつ概日振動物質を複数利用することで,時刻を知ることを可能とする方法である.体内時刻を簡便に知ることができれば,体内時計の異常の診断に役に立つと期待できる.本稿では,体内時計の概説と体内時刻診断法の開発の詳細を紹介する. -
リピドミクスの基盤技術と医学研究への応用−脂質分子種の機能・局在の多様性を包括的に解析する
231巻12・13号(2009);View Description Hide Descriptionリピドミクスは,メタボリックシンドロームのような遺伝的要因や食生活その他の生活慣習など,複数の要因が複雑に関係した疾患の診断・予防そして治療に貢献することが可能である.とくに,年齢とともに蓄積されると考えられる種々の酸化ストレスは,脂質の酸化を介して種々の成人性疾患の要因となっている.今後,患者や病態モデルマウスを用い,脂質代謝分子の変動解析から各病態におけるや組織局在を念頭においた病態マーカーを見出す試みは非常に重要である.本稿では医学研究への応用を念頭において,リピドミクスの基盤技術と解析手法の現状を,異なる質量分析法の使い分け,同定ツールであるLipid Search,そして多変量解析や部位特異的な解析手法も含めて解説した. -
メタボロミクスによるorphan SLCトランスポーターの生体内基質探索
231巻12・13号(2009);View Description Hide DescriptionSolute carrier( SLC)トランスポーターは,ヒトで360個以上の遺伝子からなるスーパーファミリーである.多くが栄養物やホルモン,代謝物など生体内物質の膜透過に働く一方,機能の不明なものも多数存在する.また,遺伝子欠損マウスなどを作製しても明確なフェノタイプが出ないなど,生体内での役割がいまだ不明なものも多い.OCTN1/SLC22A4は金沢大学で見出されたSLCトランスポーターである.OCTN1は生体内のほぼすべての臓器にユビキタスに発現し,in vitroでは多くの化合物を輸送する一方,生体内での役割は未解明であった.著者らはOCTN1の生理的役割を解明する目的でoctn1遺伝子欠損マウスを作製し,さらにメタボローム解析を応用することでOCTN1の生理的基質としてエルゴチオネインを見出した.本稿では,メタボローム解析を組み込んだトランスポーター研究の展望も含め概説する.
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フォーラム
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- 切手・医学史をちこち96
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- 感染症法と保険診療
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1.感染症法第四類感染症の検査,治療薬の保険適用について
231巻12・13号(2009);View Description Hide Description「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」で,日本紅斑熱やつつが虫病などのリケッチア症や Q 熱,ライム病,レジオネラ,野兎病などは,第四類感染症に指定され,診断した医師は届出義務が課せられている.しかしながら,感染症法の発生届け出に必要とされる確定診断のための検査は保険適応外となっているものが多い.治療に関しても有効治療とされガイドラインに記載されている治療薬が,健康保険の適応となっていない. 今後電子カルテへの移行に伴い,診療報酬の請求の際や感染症法上の取り決めの狭間で臨床家は頭を悩ませている.感染症法を所轄する厚生労働省は,感染症法で届出義務が課せられている感染症について,届け出に必要な検査法および他疾患で安全性が担保されている有効治療薬については“包括的保険適応”を認めるよう提言したい. -
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TOPICS
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- 免疫学
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- 腎臓内科学
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- 環境衛生
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連載
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- がん診療連携拠点病院にみる工夫− レベルアップをめざして17
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