医学のあゆみ

Volume 232, Issue 2, 2010
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あゆみ ヒト幹細胞による薬物代謝・トランスポート・副作用予測 − iPS・ES細胞・間葉系細胞を用いた新たな創薬スクリーニング
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創薬におけるin vitroヒト組織細胞を利用した薬物動態・薬効・副作用予測の重要性
232巻2号(2010);View Description
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薬物動態や薬効・副作用については大きな種差があることが知られており,ヒトin vivoにおける予測を行うためには,ヒト組織由来サンプルを用いたin vitro実験が必要であると考えられてきた.近年,ようやくヒト凍結肝細胞やヒト腎スライスが創薬における前臨床試験においても利用可能となりつつあり,薬物動態・薬効などの予測に利用されはじめている.In vitro実験から,in vivoにおけるクリアランスの予測や個々の分子の相対的な寄与率を求める方法も動物実験における検証を経て提唱されており,非常に有用な実験系である.しかし,入手できるヒトのサンプルはロット間のばらつきが大きく,かつ同一ロットのサンプルは有限であることから,今後ES,iPS細胞由来の均一かつ無限に入手可能な分化細胞を用いたアッセイ系の確立が望まれる. -
ヒトES/iPS細胞由来分化細胞を用いた創薬スクリーニング
232巻2号(2010);View Description
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ヒトES/iPS細胞を用いた薬剤スクリーニングは,創薬研究開発にかかる期間・コストを大幅に低減できる技術として近年大きく期待されている.そのようなスクリーニング系を実現させるためには,ヒトES/iPS細胞を実際のヒトの各種体組織に近い細胞へと高い効率で大量に分化誘導させる培養技術の開発が必要となる.さらに,それらの分化細胞が示す薬剤応答を高感度・高精度で検出し,なおかつ高速・自動で測定できるハイスループットスクリーニング(HTS)系を開発することが重要となる.本稿ではヒトES/iPS細胞についての概要と,これらの幹細胞を用いたHTS系の現状について説明し,また心筋細胞分化促進物質を探索するためのHTS系の一例を具体的に紹介する. -
ヒトiPS細胞・ES細胞・間葉系幹細胞由来の肝細胞を用いた薬物の安全性・毒性試験
232巻2号(2010);View Description
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成人肝細胞の増幅培養とその生体外機能維持はほぼ不可能である.したがって,創薬応用に向けて幹細胞由来の肝細胞作製がおおいに期待されている.現在までにマウスのみならず,サルそしてヒト胚性幹(ES)細胞も肝細胞への分化能力が検討されてきた.マウスES細胞の肝細胞への直接分化は,肝誘導因子カクテルを用いた接着細胞の単層培養として確立された.肝細胞分化を誘導する増殖因子はES細胞の肝傷害動物に対する移植実験の結果から同定された.また,ヒトES細胞は肝細胞の特徴を有する細胞へ分化することが報告されている.個々の患者の体細胞から肝細胞の作製が可能であれば,細胞源の倫理的問題を抜本的に解決し,遺伝的背景,年齢,性別の異なる標準化された肝細胞の提供が可能となる. -
ES細胞の肝細胞への分化と薬物動態試験への応用
232巻2号(2010);View Description
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医薬品の効果や副作用は血液中の濃度によって多くは規定され,その濃度を左右するのが薬物動態である.創薬研究における薬物動態試験にはヒト肝細胞が用いられるが,安定供給や個体差など多くの問題がある.胚性幹細胞(ES細胞)は増殖能力に優れ,成体を構成するすべての細胞に分化可能である.したがって,ES細胞を分化して得られる肝細胞は,薬物動態試験など創薬研究への応用が期待されている.サルES細胞は,胚様体とよばれる細胞塊をマトリゲル上で接着培養することで成熟した肝細胞に分化した.しかしヒトES細胞では,同じ条件では胎児様の肝細胞にしか分化しなかった.そこで,アクチビンAにて内胚様に分化し,さらにジメチルスルホキシドにて分化した場合より短時間で肝細胞に分化した.この細胞は,成人の肝細胞とよく似た薬物応答性を示すことから,ヒトの肝細胞に代わり創薬研究に利用可能であることが示唆された. -
ES細胞由来分化肝細胞の創出
232巻2号(2010);View Description
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新薬の開発過程において,前臨床試験(実験動物を用いた試験)から臨床試験(実際にヒトを用いた試験)に移行した時点で,予期せぬ副作用や期待したほどの薬効がないなどの理由で開発中止となるケースがある.そのため開発のできるだけ早い段階でのヒト試料を用いた試験が望ましい.候補化合物を絞り込む前段階で,ハイスループットの薬物試験を行うためには,性質の揃ったヒト細胞が大量に必要となる.しかし,現在汎用されている初代培養肝細胞や肝ミクロソームは,ドナー間のばらつきや低い供給量など多くの面で問題を抱えている.そこで,ES細胞から作成された同一の遺伝子背景での肝細胞多量培養の可能性が注目されるようになった.本稿ではまずES細胞について概説し,現在創薬研究においてどのような機能をもった肝細胞が求められているかを述べる.続いて世界での肝分化誘導法の報告とともに,当研究室において開発した誘導法を紹介する.最後に,現在多くの研究者が直面している肝分化誘導技術の問題点を指摘しつつ,今後の展望について述べたい. -
膵β細胞の分化誘導系の創薬スクリーニングへの利用
232巻2号(2010);View Description
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最近,flow cytometryを利用した膵幹細胞(pancreatic stem cell)の分離・培養技術が確立し,生体内における膵β細胞の更新機構について理解が進んできたことから,膵β細胞の絶対量を人為的に増加させる作用を有する革新的な糖尿病治療薬の開発が注目を集めている.実際,膵β細胞の増殖を正に制御するとされているGLP 1やDPP IV 阻害剤が臨床応用されたことから,さらに強力な膵β細胞の再生誘導作用を有する新薬の開発への期待が高まっている.このような画期的な新薬を開発するためには,膵β細胞のin vitroにおける分化誘導系を構築し,効果的な化合物スクリーニングを行うことが重要である. -
QTempo:幹細胞由来心筋細胞を用いた心毒性試験
232巻2号(2010);View Description
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創薬研究においてcell based assayとよばれる細胞機能性試験は,native cellおよびラベルフリーという新しい材料および新技術の投入により,めざましい変化を遂げようとしている.このめざましい変化の中心にいるのがES細胞やiPS細胞といった多能性幹細胞である.従来の細胞株のように大規模な実験に使用できるほどの細胞量を容易に確保することができ,かつ,初代培養細胞のようにnativeに近い細胞のソースとしてとして利用できるという期待からである.本稿で紹介する細胞機能性試験であるQTempo(QT prolongationexamination with myocardia derived from pluripotent cell)は,化合物を創薬早期に検索し,創薬後期以降での“ドロップアウト”を少なくすることを主眼において研究開発されてきた.本法は,ラベルフリーで無侵襲のAPD(action potential duration)検出手法と,前述の多能性幹細胞を組み合わせたものである.QTempoにおいて化合物を評価することで,ヒトへの外挿性のより高い心毒性の予測が可能となる. -
ヒトES細胞株の遺伝子改変と神経細胞分化誘導によるAlzheimer病モデル細胞
232巻2号(2010);View Description
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疾患モデル細胞は,疾患機構の解明や治療薬開発のための化合物スクリーニングにおいて有用な細胞である.ヒト多能性幹細胞(ES/iPS細胞)は無限増殖能と多分化能を有しており,これらの特徴を利用したモデル細胞の作製が期待されている.著者らは,神経変性疾患のひとつであるAlzheimer病モデル細胞の構築を目的として原因遺伝子であるpresenilin1(PS1)を組み込んだヒトES細胞株の作製と神経細胞への分化誘導手法の確立を行った.神経細胞への分化誘導はBMPシグナル系の阻害に加えてTGF βシグナル系を阻害することで初期誘導が効率よく進み,十分量の成熟した神経細胞へと誘導が可能であった.家族性Alzheimer病由来の変異型PS1を発現するヒトES細胞由来の神経細胞では培養上清中のAβ42の比率が増加し,疾患モデル細胞としての利用が期待できる結果が得られた. -
Invitro血液-脳関門モデルの創製−ヒトES細胞を活用する新たな試み
232巻2号(2010);View Description
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血液 脳関門(BBB)は,薬物の血液から脳への移行を制限する生体内バリア機構である.創薬の現場では,この生体内バリアが関与する薬物の脳内移行性を知ることは重要である.とくに中枢神経薬の場合,薬物が“BBBを通過するかどうか”は開発の運命を左右する大きな位置づけをもつ.薬物の脳内移行性評価をヒトへの外挿性に乏しい動物実験に頼らざるをえない現状は,適正な候補薬の選択を制限することで創薬の成功確率を低下させ,また臨床開発段階以降の開発中止を招くなど,創薬研究開発(R & D)リスクを高めている.ヒト生体内のBBB機構を反映したin vitroモデルは,薬物の脳内移行性や中枢副作用の可能性を創薬プロセスの早期段階で予見できる評価ツールとして医薬品開発の効率化に貢献するものと考えられ,その誕生が期待されている.本稿では,こうした課題へのあらたな挑戦として,ヒトES細胞を活用したBBBモデル創製の取組みについて紹介する. -
ヒト多能性幹細胞からの血液系細胞への分化誘導
232巻2号(2010);View Description
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さまざまな血液疾患,あるいは遺伝子治療における造血幹細胞の有用性は疑う余地がない.しかし,すべての患者のニーズに適合する幹細胞の確保は難しい.一方,移植時のヒト白血球型抗原(human leukocyte antigen:HLA)適合の問題は,近年のヒト誘導型多能性幹(induced pluripotent stem:iPS)細胞樹立という革命的な手法で解決策が見出された.ヒト胚性幹(embryonic stem:ES)細胞やiPS細胞から造血幹細胞を誘導できれば,移植医療への新しいソースとなりうる.さらに,血小板や赤血球といった終末分化細胞への分化誘導は,輸血医療への貢献も考えられる.本稿では,ヒトES細胞およびヒトiPS細胞から分化誘導する血液細胞,とくに造血幹細胞,血小板に焦点を当て,その有用性と今後の展望について述べたい.
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- 感染症法と保険診療3
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- がん診療連携拠点病院にみる工夫 − レベルアップをめざして18
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金沢赤十字病院の取組み−がん診療連携拠点病院と地域中核病院
232巻2号(2010);View Description
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今後のがん診療を行っていくうえにおいて,がん診療連携拠点病院と当院のような地域中核病院との連携は非常に重要である.しかし,地域中核病院は病院の規模の点から設備や人員配置などにおいて,がん診療連携拠点病院との間に明らかに差が認められるため,スタッフ同士がたえず情報交換を行い顔のみえる関係を築いておくとともに,当院で治療を受ける患者に対しては何らかのメリットを感じてもらう必要があると考えている.金沢赤十字病院の化学療法室では在宅でのフォローアップシステム,栄養士の介入や“がんの痛み外来”など患者のニーズやコメディカルとのカンファレンスを通じて必要であるとされたことを取り入れ,有効な治療をすこしでも快適に継続してもらえるように配慮していきたいと考えている.