医学のあゆみ
Volume 233, Issue 2, 2010
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あゆみ 妊娠免疫Update ― 子宮内膜局所免疫と妊娠
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着床,妊娠維持における制御性(regulatory)T細胞の重要性
233巻2号(2010);View Description Hide Description胎児は母体にとり半異物であり,母体は胎児抗原を認識している.拒絶反応を防ぐために,胎児抗原特異的トレランスが妊娠時に誘導されるが,制御性T細胞がその主役を担っている.制御性T細胞がなければ着床不全や流産が起こってしまい,妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)でも制御性T細胞の低下が認められている.胎児(父親)抗原特異的制御性T細胞の誘導には精漿に含まれる父親由来抗原が重要であり,すでに胚が着床する前に子宮所属リンパ節で胎児抗原特異的制御性T細胞が増殖し,着床時に速やかに子宮へ制御性T細胞が移動し,拒絶反応を抑制している.このような巧妙な仕組みが崩れると,着床障害,原因不明習慣流産や妊娠高血圧症候群が発生してしまうことになる. -
脱落膜natural killer細胞
233巻2号(2010);View Description Hide DescriptionNatural kille(r NK)細胞は自然免疫を構成する免疫細胞のひとつである.胎児は母体にとって本来異物であるから,NK細胞から攻撃され,排除されてもよいように思える.しかし,代理母であっても胎児は約9カ月間発育し元気に生まれてくる.妊娠現象は哺乳類が出現した最初から存在するものであり,いわば根源的な仕組みであるが,現在に至ってもなぜ胎児が拒絶されないのか,解明されたとはいえない状況である.しかし近年,母体側,胎児側それぞれに注目すべき知見が得られてきた.妊娠免疫の解明は免疫学の進歩だけでなく,習慣流産,胎児発育不全,妊娠高血圧症候群などの治療につながるため,重要で興味深い分野である. -
妊娠子宮局所におけるマクロファージの役割
233巻2号(2010);View Description Hide Description妊娠は,母体にとって免疫学的に異物(semi-allograft)である胎児を拒絶せずに受け入れることからはじまる.胎児はなぜ母体に拒絶されずに子宮内で育っていくのであろうか.長い間この疑問に対して多くの検討がされてきたが,いまだこれを完全に説明することはできない.免疫担当細胞で抗原提示能をもつ細胞の代表であるマクロファージは,妊娠期間全般にわたってとくに着床部位でその存在を多く認めることから,マクロファージが多段階性をもつその着床過程においてそれぞれ異なる機能を果たし,胎児を拒絶せずに受け入れるために重要な役割を行っていることが示唆される.妊娠中の子宮局所におけるマクロファージの研究が進めば,着床現象にかかわる病態(着床不全不妊症やpre-eclampsiaなど)の解析につながるかもしれない. -
Toll-like receptorの胎盤における機能
233巻2号(2010);View Description Hide DescriptionToll-like recepto(r TLR)は,さまざまな微生物に共通の構造(pathogen-associated molecular patterns:PAMPs)を認識して自然免疫応答を誘導する.TLRはおもに体表面における感染性病原体への曝露に対して速やかに応答し,獲得免疫への橋渡しを行う.近年,胎盤を構成する細胞群でのTLR発現とその機能が解明されている.TLRは,妊娠期間中に上行性あるいは母体血を経て胎盤に到達する病原体から胎児を守る自然免疫系の最前線であると同時に,未知の内因性リガンドがTLRを介して胎盤の内分泌機能を調節する可能性が示唆されている. -
妊娠とB7-H1
233巻2号(2010);View Description Hide Description父系由来の抗原をもつ胎児は母体の適応免疫によって認識され,拒絶される運命をもつはずであるが,実際には胎児免疫寛容が成立して拒絶されない.この現象にはさまざまなメカニズムが複雑に関与していると考えられるが,近年,B7ファミリーに属する抑制性の共刺激分子:B7-H1(別名PD-L1あるいはCD274)がそのひとつであることが示された.B7-H1は,末梢組織,肝, 扁桃腺,各種癌などに発現が認められ,活性化したT細胞上に発現するレセプターであるPD-1分子を介して細胞活性を抑制し,末梢における免疫寛容,すなわち自己免疫疾患の抑制や癌の免疫からの逃避を誘導する.この分子は,胎盤にも強い発現が認められていることから,胎児免疫寛容にも重要な働きをしていると考えられている.今回,妊娠におけるB7-H1の役割に焦点をあててまとめてみたい. -
妊娠維持とIDO(indoleamine 2, 3-dioxygenase)
233巻2号(2010);View Description Hide DescriptionIDO(indoleamine 2,3-dioxygenase)はトリプトファン代謝酵素のひとつで,酵素活性は健常時ではほとんど検出されないが,IFN-γやTNF-αなどのTh1タイプのサイトカイン刺激により,おもに単球・マクロファージ・樹状細胞など抗原提示細胞に誘導される.IDOは感染や炎症時における役割だけでなく,移植臓器や腫瘍に対し抑制的な働きが示唆され,胎児抗原により惹起された免疫細胞の増殖を抑制することにより妊娠維持に関与することが知られている.そこで,IDOの誘導因子であるIFN-γが,妊娠中に漸増するPRL(プロラクチン)と細胞膜上のレセプター構造やシグナル伝達機構を共有することから,PRLのIDO発現への影響とその機序を検討した.その結果,PRLは免疫細胞のIDOを介して妊娠維持に寄与する可能性があることが明らかとなった.そして,このPRLの作用には,生理的濃度のIFN-γが必須であること,CD14陽性細胞のPRLによるプライミングがIFN-γによるIDOの発現を増強した可能性が示唆された. -
抗β2-glycoproteinI(GPI)抗体とその作用機序
233巻2号(2010);View Description Hide Description抗β2-GPⅠ抗体は抗リン脂質抗体の一つで,カルジオリピンにもβ2-GPⅠにも結合せず,カルジオリピンに結合したβ2-GPⅠの新しい抗原結合部位に結合する抗体で,血栓症との関連性が高い.習慣流産における出現頻度は5.4%~8.6%である.そのメカニズムとして,血管内皮細胞に作用し血栓形成,絨毛,胎盤に作用し胎児の発育を阻害する.抗β2-GPⅠ抗体による細胞活性化のメカニズムは血管内皮細胞表面の陰性荷電部,Annexin Ⅱ,TLRを介した作用がある.TLRを介した作用ではTLR-2やTLR-4に作用し,proinflammatorycytokineやcell adhesion moleculeを産生する. -
抗フォスファチジルエタノールアミン(PE)抗体,抗第XII因子抗体─カリクレイン-キニン系の破綻と流産
233巻2号(2010);View Description Hide Description近年,キニノーゲン依存性抗フォスファチジルエタノールアミン(PE)抗体や,第 L因子活性低下と不育症(妊娠初期流産,子宮内胎児死亡,妊娠高血圧症候群など)との関係が報告されており,著者らはカリクレイン-キニノーゲン-キニン-線溶系の破綻が流産を引き起こすという新しい不育症の病態を提唱している.キニノーゲンと第 L因子はカリクレイン-キニン系の主要蛋白であり,どちらも血小板上のGPⅠb-Ⅸ-Ⅴという同じレセプターと競合し,血小板凝集を抑制するなど似た役割をもっている.第 L因子活性低下と抗PE抗体を合わせもつ不育症患者も多く,どちらも同様の機序で流産を引き起こしている可能性がある.本稿ではカリクレイン-キニン系,接触因子と生殖の関係について最近の知見を紹介する.
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フォーラム
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- 逆システム学の窓31
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多死社会に求められる医師養成─初期臨床研修制度2010年改革への懸念
233巻2号(2010);View Description Hide Descriptionかつては新卒医師の7割が大学病院の医局に入局し,専門医中心の養成が行われていた.しかし,幅広い診療能力を持った医師育成をめざして,平成16年に始まった,国が給与を保障して義務化された初期臨床研修制度は日本の医学界を大きくかえた.研修医がマッチングで2年間のスーパーローテートする病院を全国から自由に選べるようになったためである. 大学病院での初期研修を受ける割合は4割へ減少し,市中病院での研修が6割と力関係が逆転した.大学病院での後期研修はさらに減少し,基礎研究に進む医師は激減した.若手不足に直面した大学病院では,地域病院への医師派遣を取り止めるところが相次ぎ,地方の公立病院で閉鎖や縮小の危機が引き起こされた. この医療危機をうけて,初期臨床研修の見直しが行われ,1年目は内科6カ月,救急3カ月,2年目は地域医療1カ月が必修とされ,外科,麻酔科,産婦人科,小児科が選択必修と改訂され,スーパーローテートは実質1年プラス・アルファに短縮された. 初期研修をめぐる議論は,大学,市中病院,ジャーナリストらが参加して激しい論争をまきおこし,日本医学界の将来をめぐるビジョンが戦わされた.しかし,大学か市中病院か,どの診療科が大事か,といった既得権益の利害を代表する重鎮の医師が前面に出て,若手医師からの発言はなく,本当の課題であった多死社会かつ高齢化社会において鍵となる在宅介護医療と救急のネットワークをどう作るか,高度医療や基礎研究の担い手をどう育てるか,という課題は顧みられず,将来に憂いを残す結果となった.
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注目の領域
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TOPICS
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- 循環器内科学
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- 腎臓内科学
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- 救急・集中治療医学
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