医学のあゆみ
Volume 233, Issue 7, 2010
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あゆみ “肺高血圧”内科的治療の最前線─この難治性疾患に挑む
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肺動脈性肺高血圧症治療の新規アルゴリズム―Update
233巻7号(2010);View Description Hide Description肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension:PAH)の治療薬には現在,プロスタサイクリン経路,エンドセリン経路,一酸化窒素経路と 3 系統のそれぞれ異なった作用機序をもつ治療薬に加え,従来のカルシウム拮抗薬が存在する.2008 年の第 4 回肺高血圧症ワールドシンポジウム(アメリカ・ダナポイント)で検討された PAH 治療ガイドラインでは,まず肺血管反応性試験を行い,反応性陽性例についてはカルシウム拮抗薬が第一次選択薬となる.反応性陰性例については治療対象例の重症度に応じ,WHO 機能分類Ⅱ度またはⅢ度例ではエンドセリン経路に属するボセンタンか,一酸化窒素経路に属するシルデナフィル,タダラフィルが適応となり,WHO 機能分類Ⅳ度例ではプロスタサイクリン経路に属するエポプロステノールが推奨度 A の治療薬とされた.またこれらの薬剤の併用療法についても有効性が認められつつある. -
膠原病合併PAH
233巻7号(2010);View Description Hide Description膠原病診療において肺高血圧症は,長年にわたり手をつけられない臓器病変であった.そのなかでも肺動脈性肺高血圧症(PAH)に対しては,プロスタサイクリン持続静脈内投与に代表される強力な治療薬がつぎつぎに開発され,この 10 年間でその生命予後を著しく改善した.これが契機となり,膠原病診療において肺高血圧症は注目されるようになった.さまざまな臨床的な特徴が明らかにされ,診断と治療への積極的な取組みが行われるようになり,膠原病合併 PAH の生命予後は改善しつつある.しかし,膠原病に合併する肺高血圧症全体を考えた場合,この難治な臓器病変の克服は道半ばと考えるべきである.早期診断や鑑別診断,より有効な治療薬の使用方法や新薬開発への取組みは今後も継続していかなければならない.本稿では,膠原病に合併する肺高血圧症の臨床について明らかにされてきたこと,とくにその病態の多様性と治療について記載する. -
慢性血栓塞栓性肺高血圧症の病態解明と治療の進歩
233巻7号(2010);View Description Hide Description慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)は,器質化血栓により肺動脈が慢性的に閉塞し,肺高血圧症をきたす疾患である.原因不明の労作時息切れを呈する患者では本症を疑うことが重要である.原因として,急性肺血栓塞栓症の既往が認められないものも多く,肺血管リモデリングの関与が示唆されている.とくにわが国では女性に多く,HLA-B*5201 を有し,深部静脈血栓症(DVT)と関連しない病型がみられる.本症では肺血流スキャンにおいて区域枝以上の欠損を呈し,肺動脈性肺高血圧症との鑑別に有用である.血栓にアプローチ可能な患者では手術によって著明な予後および QOL の改善が得られるため,肺動脈造影による正確な評価が必要となる.一方,非手術適応例に対して肺動脈性肺高血圧症に使用される治療薬や経皮的肺動脈形成術の有効性の報告がみられる.現在,新規治療薬の臨床試験も進行中で,その結果の行方が注目される. -
先天性心疾患に伴うPAH治療の進歩―Eisenmenger症候群とFontan循環不全への挑戦
233巻7号(2010);View Description Hide Description先天性心疾患(CHD)に伴う肺動脈性肺高血圧(PAH)は,術前・術後急性期・遠隔期に合併しうる重要な病態である.このうち,体循環-肺循環短絡心疾患に合併する PAH のもっとも進行した病態が Eisenmenger 症候群(ES)であり,これまで支持療法以外に治療法はなかった.また近年,一心室循環である Fontan 型手術をめざす症例が増加し,特異な Fontan 循環における肺循環障害が問題となっているが,これに対する確立された治療法はない.肺高血圧治療薬開発に伴って,あらたな内科的治療介入が可能となりはじめた Eisenmenger症候群と,いまだ確立された治療法のない Fontan 肺循環不全とにスポットを当て,最近の知見を紹介する. -
先天性心疾患に対する開心術後急性期の重症肺高血圧―“PH crisis”への対処
233巻7号(2010);View Description Hide Description術前から肺高血圧を呈する先天性心疾患に対する開心術後急性期では,しばしば生命に直結するほどの肺高血圧が急激に重症化する場合があり,PH crisis とよばれる.これには厳重な全身管理に加え各種肺血管拡張剤を中心とした治療が展開される.また,肺高血圧が遷延する場合は慢性期治療への円滑な移行も必要となる.1990 年代後半から最近までこの領域でも新しい薬剤が導入され,治療バラエティが広がり,その治療成績も向上した.このような肺高血圧に対する治療の現況,効果と限界,そして展望について解説する. -
新生児遷延性肺高血圧症の診断と治療―最近の動向
233巻7号(2010);View Description Hide Description新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)は,出生後にさまざまな理由で肺血管抵抗が下がらず,肺高血圧が持続する病態であり,診断は呼吸障害やチアノーゼなど臨床症状と心エコー所見が必須となる.心エコー検査で卵円孔または動脈管レベルの右左短絡を証明する.多くの場合は続発性であり,基礎疾患の存在を確認する.もっとも多いのは胎便吸引症候群であり,先天性横隔膜ヘルニアでは PPHN を高率で発症する.横隔膜ヘルニアでは,出生時のマスクバッグによる蘇生は胸腔内の腸管にガスが入り込み,肺や心臓を圧迫するため禁忌であり,気管内挿管をしたほうがよい.鑑別疾患として,総肺静脈灌流異常などが重要である.総肺静脈灌流異常や大動脈縮窄などの心疾患は肺血管抵抗を下げると悪化するので,心エコー診断でこれらを除外しておく.治療法は,肺血圧を下げ,体血圧を上げることに尽きる.酸素のほか,人工呼吸管理法,NO 吸入療法,薬物治療など.肺のみの血管抵抗を下げる一酸化窒素(NO)吸入療法はもっとも期待できる治療法である.NO 使用にあたっては吸入 NO 濃度のモニタリングを行いながら,メトヘモグロビン血症のチェックも必要である. -
最良のconbination治療とは
233巻7号(2010);View Description Hide Description肺動脈性肺高血圧症の発症原因が多様であること,現在使用できる治療薬の作用機序が大きく 3 つに分かれることなどから,併用療法は多系統の原因因子を是正でき単独療法より有用である可能性がある.併用療法を使った多くの前向き研究でも,多くが有意な臨床指標の改善を認めている.どの併用療法が最良かに関しては,個々の患者における肺動脈性高血圧症の原因メカニズムや薬剤への感受性を薬剤投与前に確認する方法はないため,投与して経過をみるという試行錯誤をしつつ併用をしていくしかない.併用療法の開始時期に関してはエポプロステノールの効果は 3 カ月の投与でわかるとの報告もあるが,著者の経験では 1 年の投与後に改善が認められた症例もあり,急激な悪化を示す症例でなければ 1 年は経過をみるべきと考える.シルデナフィルは 6 カ月間まではさらに改善を示すことがあると社内資料で報告され,ボセンタンは 6 カ月から 1 年でほぼ効果が現れるとされている.各薬剤ごとにこれらの期間,単剤で経過をみた後,副作用や代表的な併用療法研究の効果を参考として併用療法を考慮すべきであろう. -
肺高血圧症に対する新しい治療薬―Rhoキナーゼ阻害薬,タダラフィル,イマチニブ,リオシグアト
233巻7号(2010);View Description Hide Description肺高血圧症はいぜん難治性疾患であり,これまでの一連の研究により,Rho キナーゼ阻害薬であるファスジルが冠攣縮性狭心症や高血圧における血管過収縮抑制作用を示すこと,さらに,肺高血圧症の動物モデルに対して有効であることが明らかにされた.また臨床研究においても,ファスジルの急性投与が肺高血圧症患者の肺血管抵抗を有意に減少させることが示され,さらに最近,肺高血圧症患者において Rho キナーゼ活性が亢進している直接的な証拠を得ることができた.現在,肺高血圧症患者における Rho キナーゼ阻害薬の臨床的検討を行っており,その有効性が示されれば,あらたな治療法の開発につながることが期待される.さらに,最近臨床応用が承認されたタダラフィルや現在開発中のリオシグアト,イマチニブなども合わせ,今後はさまざまな薬剤のコンビネーション治療の可能性が期待される.
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フォーラム
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- 患者アドボカシーの実践③
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- 第74回日本循環器学会総会・学術集会レポート④
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遺伝性不整脈の診断と治療
233巻7号(2010);View Description Hide Description遺伝性不整脈という概念は,1995 年に遺伝性 Qt延長症候群(LQTS)の原因遺伝子が報告されてから急速に広まった.すなわち,心筋の再分極をつかさどるイオンチャネルやその調節蛋白をコードする遺伝子の種々多様な異常(変異や SNP)により再分極の遅延が起こり,結果として心電図上,QT 延長さらに torsade de pointes(TdP)とよばれる多形性心室頻拍を招来することがわかった.最初の報告からすでに 15 年が経過し,現在では遺伝性 LQTS のみならず,Brugada 症候群,カテコールアミン誘発性多形性心室頻拍(CPVT),後天性 LQTS,Lenègre 病,家族性心房細動,QT 短縮症候群など,さらには直接のイオンチャネル遺伝子ではないが,細胞接着に関与するデスモゾーム遺伝子の異常により発症する不整脈原性右室心筋症など,続々と発見されてきており,あらたな疾患群・疾患概念を形成しつつある.本シンポジウムでは一貫して LQTS 研究に携わられ,その診断基準として有名な Schwartz スコアを提唱された,イタリア Pavia 大学の Peter Schwartz教授を Keynote lecturer としてお迎えした.また,わが国において当該分野で活躍されている 6 名の先生方に,その成果の一部を紹介いただいた.
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連載
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- 女性医師復帰支援プログラム②
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長崎大学病院の女性医師麻酔科復帰支援プロジェクト
233巻7号(2010);View Description Hide Description麻酔科におけるマンパワー不足の原因として集中治療,ペインクリニック,救急医療,緩和医療など手術麻酔以外の業務を行っている麻酔科医の増加と女性麻酔科医の増加に加え,24 時間フルタイムで働ける医師だけが必要といったスタンスの勤務環境があげられる.再教育と復帰支援により女性麻酔科医のワークフォースを活用することで,麻酔科医の就労環境の改善をはかることを目的に女性医師麻酔科復帰支援機構をスタートさせた.女性医師の再教育や復帰支援をすすめていくなかでスタッフ全員が多様な勤務形態に慣れ,男女を問わずすべてのスタッフの労働環境や労働時間に対する配慮が行える雰囲気になってきた.個人がもっている能力を発揮し組織に貢献できるように多様な労務形態を受容していくこと,男女を問わず全医療人を対象とするワーク・ライフ・バランスへの取組みをすすめていくこと,が新時代の病院の命運を決することになる.
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TOPICS
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- 薬理学・毒性学
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- 細菌学・ウイルス学
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- 腎臓内科学
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