医学のあゆみ
Volume 233, Issue 9, 2010
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【5月第5土曜特集】最新 蛋白質共役受容体研究―疾患解明とシグナル制御の新時代
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- G蛋白質共役受容体研究の現在と未来
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G-protein coupled receptors:still a lot to be discovered
233巻9号(2010);View Description Hide Description - 総論:受容体の解析・制御のあらたな視点
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G蛋白質共役受容体の新しいパラダイム:機能選択的活性化
233巻9号(2010);View Description Hide Description最近,G 蛋白質共役受容体(GPCR)は活性型,不活性型いずれにおいても無数の高次構造を取りうると考える multi-state モデルを支持するデータが蓄積してきている.GPCR は活性型と不活性型との間で平衡状態にあるとする古典的 two-state モデルと異なり,multi-state モデルでは各 GPCR 作動薬はそれぞれにユニークな GPCR の高次構造を認識して結合しこれを安定化させて,その高次構造の GPCR の割合を増加させる.さらに,それぞれの高次構造の GPCR は潜在的にそれぞれ異なる機能を発揮すると考えられる.これが事実であるならば,あるユニークなアゴニストや,通常のアゴニストとアロステリックな調節因子の存在のもとで,本来複数の G 蛋白質を活性化する GPCR を介して,あるシグナル系のみを特異的に活性化(機能選択的活性化)することも可能となる.最近,著者らが疾患で発見解析した Ca 感知受容体自己抗体は,機能選択的活性化を可能にするアロステリック調節因子の一例である. -
ロドプシンの構造・機能における特殊性と一般性
233巻9号(2010);View Description Hide DescriptionG 蛋白質共役受容体(GPCR)は感覚・神経伝達や内分泌系などで普遍的に機能しており,多くの薬剤のターゲットとしても,構造に基づいた活性化機構の解明が待たれている.ロドプシンは視覚の光情報伝達の引き金を引く光受容体であるが,GPCR のなかでは最初に立体構造が解析されており,GPCR の構造研究のプロトタイプともいえる.一方,ほとんどの GPCR はホルモンや神経伝達物質などのアゴニストとよばれる拡散性分子が結合すると活性型へ変化するが,ロドプシンは蛋白質中に共有結合した発色団分子の光異性化が活性化を促すため,“光”を使った詳細な反応機構の解析が進んでいる.さらに,同様に光を受容する GPCR はロドプシン以外にもあり,視覚だけでなく概日リズムの調節のような非視覚的なシグナル伝達でも機能している. -
会合蛋白質によるG蛋白質共役型受容体の制御
233巻9号(2010);View Description Hide DescriptionG 蛋白質共役型受容体(GPCR)は 7 回膜貫通型受容体で,N 末端と C 末端はそれぞれ細胞外と細胞内を向いている.アゴニストが GPCR に作用すると三量体 G 蛋白質が活性化し細胞内に刺激が伝わる.近年,GPCRの C 末端に会合する蛋白質が GPCR の機能を調節することが知られるようになってきた.アレスチンは多くの種類の GPCR と会合し,そのインターナリゼーションに関与するとともに,一部はシグナル伝達にも関与する.副甲状腺ホルモン受容体(PTHR)には t-complex testis expressed-1(Tctex-1)あるいは 4.1 G が会合し,それぞれ PTHR のインターナリゼーション,あるいは細胞膜局在とシグナル伝達の増強に関与する.一方,トロンボキサン A2受容体(TP)には KIAA1005/TPIP が会合し,細胞表面 TP 量の減少を介したシグナル伝達の調節に関与する.このように,GPCR の C 末端に会合する蛋白質は GPCR を介したシグナル伝達に重要な役割を担う. -
GPCRのヘテロダイマー形成―プリン受容体を中心に
233巻9号(2010);View Description Hide Descriptionアゴニストが GPCR に結合することで三量体 G 蛋白質が活性化されるが,そのストイキオメトリーは,モノマー GPCR が三量体 G 蛋白質と 1:1 で共役しているとして考えられてきた.しかし近年,同種あるいは異種の GPCR どうしでダイマーを形成することが活発に報告されてきている.とりわけ GABA 受容体や嗅覚受容体のように,ヘテロダイマーを形成することではじめて細胞膜へ移行し機能することができる場合や,また本稿で詳しく解説するプリン受容体間のヘテロダイマーのように,あらたなシグナル伝達経路が生まれる(リガンド結合親和性や特異性,脱感作,G 蛋白質の活性化以降のシグナル伝達に変化がもたらされる)場合などが報告されている. -
GPCRによるRho活性化の新展開―GPCRシグナルと進行癌
233巻9号(2010);View Description Hide DescriptionGPCR-G 蛋白質を介したシグナル伝達系は,細胞にとってもっとも普遍的に用いられているシグナル伝達の様式で,多種多様な生理機能を調節している.従来,GPCR 伝達系として,cAMP や IP3などの細胞内可溶性セカンドメッセンジャーのレベルを制御する分子機構がおもに研究されてきた.しかし最近,この伝達系が細胞骨格の制御にかかわる RhoGTPase の活性を直接調節して細胞運動,細胞接着,あるいは細胞形態変化などを制御する分子機構が存在することが示された.病理的状態では,この伝達様式が進行癌の転移や浸潤や癌の血管新生に重要な役割を担っていることも示されている.本稿では Gα12/13および Gαqが直接 Rho に対するGDP-GTP 交換因子(RhoGEF)と相互作用してその活性を調節するメカニズムについて,最近の知見を概説する. -
オーファンGPCR標的創薬―MCH受容体の場合
233巻9号(2010);View Description Hide Descriptionオーファン G 蛋白質受容体(GPCR)のリガンド探索は新規生理活性物質の発見に直結すると考えられてきた.リガンドが既知物質と判明した場合でも研究が飛躍的に進展する場合がある.リガンドと受容体の組合せが解明されてはじめてそのリガンドの生理作用の解明が進み,創薬開発も開始できるためである.メラニン凝集ホルモン(MCH)とその受容体はその代表例であろう.MCH ノックアウトマウスは“ヤセ”となるため,摂食中枢の下流に位置する分子として注目を集めた.その後まもなくオーファン受容体のひとつが MCH の受容体であることが判明し,現在に至るまでアンタゴニスト開発・遺伝子改変動物作製が活発に行われている.MCH-MCH 受容体系は摂食・エネルギー代謝のほかに,うつ不安,薬物嗜好,そして炎症反応において調節的役割を果たすこともわかってきた.このようにオーファン GPCR のリガンド探索は魅力的な研究であるが,最近は停滞気味である.その発展を阻む要素についても考察する. -
生細胞膜におけるGPCRの1分子観察法を用いた研究
233巻9号(2010);View Description Hide Description近年,光学顕微鏡を用いた 1 分子観察法がめざましい進歩を遂げている.とくに,細胞膜上の膜蛋白質についてこの 1 分子観察法を応用すると,多数分子の平均をみていてはわからないが,1 分子ずつ観察することによってはじめてわかる現象がいくつもあることがわかってきた.たとえば,細胞膜上の GPCR などの受容体の拡散の様子を,高時間分解能(~μs),高空間分解能(~nm)で調べることで,細胞膜上の分子の拡散制御についての詳しい仕組みが明らかになった.また,受容体を正確に,1 分子ずつ螢光プローブでラベルし,GPCR分子の二量体形成と解離を直接観察することによって,このような会合体形成についてのまったく新しい知見も得られつつある.本稿ではこれらの結果を,2 種類の 1 分子観察法とあわせて紹介したい. -
G蛋白質共役受容体の構造変化の全反射照明下FRET法による解析
233巻9号(2010);View Description Hide DescriptionG 蛋白質共役受容体(GPCR)を含む膜機能蛋白の結晶構造解析が精密な構造情報を与えるなか,動的構造変化に関する情報も求められており,種々のアプローチがなされている.著者らは,螢光蛋白を付加した GPCRを培養細胞に発現させ,生きた細胞の形質膜に発現している分子のみを全反射照明顕微鏡のごく局所の照明により観察し,分子間距離の変化を螢光蛋白間のエネルギーの受け渡し(fluorescent resonance energy transfer:FRET)の変化としてとらえる手法により,リガンド投与時の GPCR の構造変化を解析した.その結果,同じfamily GPCR に属するホモ二量体の代謝型グルタミン酸受容体と,ヘテロ二量体の GABAB受容体(GABABR)のどちらもサブユニット間の配置が相対的に変化する動きを示すが,GABABR の場合はその動きが非対称であるなど,異なる動きを示すことが明らかになった. -
GPCRバキュロウイルス発現スクリーニング
233巻9号(2010);View Description Hide DescriptionKobilka のグループがβ2アドレナリン受容体の立体構造を X 線結晶解析で解いてから,GPCR の研究は新時代にはいった.彼らは結晶構造情報をもとにした分子動力学シミュレーションにより,複数のコンフォメーションをとりうることを明らかにしている.ウェットのデータからも Millar らはリガンドにより異なるコンフォーマーが,異なるシグナル伝達を行うモデル(LiSS モデル)を提唱している.GPCR のスクリーニングは,このような背景に立って系を構築する必要があるであろう.In silico の分子モデリングとウェットのアッセイデータとを,つき合わせて使われるようになると考えられる.バキュロウイルス上への膜蛋白質ディスプレイは,GPCR 複合体を簡便に再構成させて活性をみることができる.膜蛋白質間の相互作用の探索も可能である. -
可溶化・精製CXCR4の構造,機能解析へのSPR法の適用
233巻9号(2010);View Description Hide DescriptionG 蛋白質共役受容体(GPCR)は生理活性物質の受容体であり,創薬の重要なターゲットである.最近,ヒトGPCR(ヒトβアドレナリン受容体,ヒトアデノシン A2A 受容体)の構造解析があいついで報告され,創薬への応用が期待される.創薬へ応用するには GPCR の蛋白質としての理解(機能とリンクした構造的理解)が必要であり,目的の機能・構造を保持した高純度の GPCR が必要である.しかし,このような GPCR を準備するには,組換え GPCR を発現すること,発現した GPCR を構造や機能を損なわずに可溶化すること,さらに可溶化した GPCR を構造や機能を損なわずに精製することが必要であり,課題が多い.本稿では,著者らが取り組んでいるケモカイン受容体の発現・機能解析を中心に,この分野の現状と課題,著者らの取組みについて紹介させていただく. -
GPCR標的創薬―GPCR指向性ライブラリの利用
233巻9号(2010);View Description Hide DescriptionG 蛋白質共役受容体(GPCR)は,もっとも重要な創薬標的蛋白質ファミリーである.生理活性アミンやプロスタノイド,ペプチド,蛋白質など多種多様な物質が GPCR に結合し,さまざまな生理活性を発揮する.多くの医薬品が GPCR に作用して,その薬理活性を発現している.本稿では医薬品候補化合物として,また標的 GPCR の機能を解明するツール化合物として有用な低分子作動薬・拮抗薬に焦点を当て,指向性コンビナトリアルライブラリを利用した探索方法を中心に,GPCR 標的創薬について概説する. - 各論:受容体機能のあらたな展開
- 【摂食調節】
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グレリン受容体
233巻9号(2010);View Description Hide Description成長ホルモン(GH)分泌促進作用をもつ物質は 1970 年代からつぎつぎと発見・合成され,GH 分泌促進因子(GHS)とよばれていた.GHS は 7 回膜貫通型の G 蛋白共役型受容体である GHS 受容体を介して作用し,GHS 受容体は 1996 年にクローニングされた.GHS 受容体は下垂体や視床下部などの中枢神経系を含め,全身の組織に広く発現している.GHS 受容体の内在性リガンドは 1999 年に胃から単離・同定され,グレリンと命名された.それ以後,GHS 受容体はグレリン受容体とよばれるようになった.グレリンはグレリン受容体を介する強力な GH 分泌促進作用に加えて,摂食亢進,消化管運動促進,抗心不全,抗炎症,交感神経抑制などの多彩な生理作用をもつ.それらの生理作用を応用して,カヘキシアを呈する心不全,慢性閉塞性肺疾患,癌,胃全摘術後などに対する臨床応用研究もはじまっており,そのほかグレリン受容体拮抗物質は肥満に対する治療ターゲットとしても期待されている. -
NPY受容体―摂食調節ペプチドと摂食障害
233巻9号(2010);View Description Hide Descriptionニューロペプチド Y(NPY)は中枢神経系を中心に非常に多く分布しており,その生理作用は摂食調節やエネルギー調節のほか,行動,情動系,アルコール摂取,消化管運動,痙攣調節など多岐にわたっている.NPY受容体には 6 種類のサブタイプが存在し,各サブタイプのアゴニスト,アンタゴニスト化合物投与による薬理作用の検討やトランスジェニック動物を用いた各サブタイプ遺伝子のノックアウトあるいは過剰発現による表現型の観察により,その生理作用が検討されている.摂食調節における NPY 受容体の役割についても広く研究されており,とくに Y1 および Y5 受容体が摂食亢進作用として,Y2 受容体が摂食抑制作用として報告されている.しかし単一受容体サブタイプだけでは摂食調節機構を説明することは困難であり,NPY 受容体サブタイプ間における相互作用や他の神経ペプチドによる代償作用あるいは重複作用が想定されている. -
4型メラノコルチン受容体(MC4R)
233巻9号(2010);View Description Hide Description4 型メラノコルチン受容体(MC4R)は視床下部や脳幹部で高発現し,エネルギー代謝調節をはじめとする多くの生理作用を有している.POMC から翻訳後プロセッシングを受けて生成されるメラノコルチンのうち,α-MSH は MC4R に対するもっとも重要な内因性のアゴニストであると考えられている.またα-MSH のシグナルは,視床下部弓状核に存在する特異的ニューロンにおいて発現する MC4R の内因性アンタゴニストである AgRP により調節を受けている.脂肪細胞由来ホルモンであるレプチンは,視床下部に発現するレプチン受容体に結合することにより強力な摂食抑制とエネルギー消費亢進をもたらす抗肥満ホルモンとして知られているが,レプチンは視床下部弓状核において POMC と AgRP の遺伝子発現を反対方向に調節することにより,摂食やエネルギー代謝を調節しているものと考えられている.MC4R 遺伝子異常症から,ヒトにおいても食欲調節やエネルギー代謝調節に MC4R が重要な役割を有していることが示唆されている. -
オレキシン受容体
233巻9号(2010);View Description Hide Descriptionオレキシンは摂食中枢である視床下部外側野に局在する.また,中枢投与で摂食量が上昇することや,絶食で発現が上昇することなどから,摂食行動の制御因子として報告された.その後,オレキシン産生ニューロンの変性がナルコレプシーの病因であることが明らかになり,この物質が覚醒の維持に重要な役割を担っていることが明らかになった.さらに,オレキシン産生神経の入出力系の解明により,大脳辺縁系,摂食行動の制御系,覚醒制御システムとの相互の関係が明らかになってきた.オレキシン系は単に睡眠・覚醒調節機構の一部であるだけでなく,情動やエネルギーバランスに応じ,睡眠・覚醒や報酬系そして摂食行動を適切に制御する統合的な機能を担うシステムであると考えられる.オレキシンの受容体には 2 つのサブタイプが存在し,これらはこのようなオレキシンの機能を役割分担しながら支えている.オレキシン受容体作動薬や拮抗薬は,睡眠障害や不眠症のほか,摂食障害,薬物依存などにも有効な治療薬となる可能性がある. - 【代謝調節】
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インクレチンの受容体
233巻9号(2010);View Description Hide Description食事摂取とともに増加し,膵β細胞からのインスリン分泌を促進する因子というのがオリジナルのインクレチンの考え方であり,GLP-1 と GIP という 2 つの消化管ホルモンが担っている.これらのホルモンは膵β細胞の受容体に作用し,食後のインスリン追加分泌を促進しているのみならず,膵β細胞数の増加にもつながるのでないかと考えられている.さらに,これらの受容体は膵外にも発現しており,それぞれ固有の膵外作用を発揮している.GLP-1 と GIP,生理作用と薬理作用,膵作用と膵外作用を理解することが,GLP-1 受容体作動薬,DPP-Ⅳ阻害薬,αグルコシダーゼ阻害薬といったインクレチン薬の薬効の違いを理解することにつながる. -
脂肪酸受容体に対するリガンド探索,生理機能の解明と創薬応用
233巻9号(2010);View Description Hide Description脂肪酸は主要な代謝・栄養物質であるとともに,細胞の機能調節に重要な役割を果たしている.近年のゲノム情報に基づいたオーファン G 蛋白質共役型受容体研究の進展により,細胞膜上に存在する遊離脂肪酸受容体ファミリーが発見された.本稿ではこれまでに報告されている新規脂肪酸受容体のなかでも,中・長鎖脂肪酸により活性化される GPR40 と GPR120 の生体内での分布や生理機能,さらに創薬標的としての可能性について,著者らの研究結果を含めて概説する. -
TGR5/M-BARを介するシグナル伝達系が担う多彩な生理機能
233巻9号(2010);View Description Hide Description胆汁酸をリガンドとする受容体として,1999 年に核内受容体 FXR が,2002 年に G 蛋白共役受容体 TGR5/M-BAR が見出され,胆汁酸が単なる脂質の消化と吸収に携わるコレステロールの代謝産物ではなく,コレステロール代謝,脂質代謝,糖代謝をはじめとする生体内の重要ないくつかの場面においてシグナル伝達分子の役割を担い,生体機能の制御に深く関与していることが明らかにされつつある.本稿では TGR5/M-BAR を取り上げ,胆汁酸から TGR5/M-BAR を介するシグナル伝達系と,最近注目されているメタボリックシンドロームや免疫,悪性腫瘍などとの関連について述べる. -
β3アドレナリン受容体と過活動膀胱治療薬
233巻9号(2010);View Description Hide Descriptionβアドレナリン受容体(β-AR)にはβ1,β2およびβ3の 3 つのサブタイプが知られている.β3-AR は発見当初は脂肪組織に発現していたことから,抗肥満・抗糖尿病を適応症に多くの製薬会社が魅力あるターゲットとして競いあうことになった.しかし,β3-AR の研究開発には多くの課題のあることが明らかになり,現在まで上市に成功した薬剤は存在しない.一方,膀胱平滑筋にもβ3-AR が多く分布しており,蓄尿期における膀胱弛緩に関与するレセプターであることが示唆され,著者らも 1990 年後半より膀胱でのβ3-AR の役割に注目し泌尿器領域での開発を検討してきた.β3-AR 作動薬(β3アゴニスト)は各種動物の摘出膀胱平滑筋において濃度依存的に弛緩作用を示し,動物モデルの実験では排尿時の膀胱収縮,残尿などに影響を与えることなく膀胱容量を増加させることなど明らかにしてきた.これらの結果から,β3-AR に選択的な薬剤の開発は現在臨床で使用されている抗コリン剤の問題を克服できる理想的な OAB 治療薬になると期待される. - 【内分泌】
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カルシウム感知受容体―アロステリックな制御と疾患・薬剤
233巻9号(2010);View Description Hide Descriptionカルシウム感知受容体(CaSR)は,おもに副甲状腺と腎に発現し,細胞外の Ca 濃度の恒常性を維持するのに必要不可欠な役割を担っている.一方で,脳,小腸,皮膚,心血管系にも発現しており,細胞外 Ca 濃度の制御以外の役割について研究が進んでいる.実際の疾患を引き起こす変異体の機能解析は,CaSR 活性化機構を理解するヒントとなってきた.また CaSR は,allosteric modulator である薬剤が現実に著効している代表的な GPCR である.著者らは後天性低 Ca 尿性高 Ca 血症を呈する症例で,ユニークな自己抗体を発見した.この自己抗体は CaSR に対して allosteric modulator として作用し,Gq/11のみが選択的に活性化されるようになる(functional selectivity).この自己抗体の発見は創薬の分野で求められている,必要なシグナルのみを選択的に活性化するという薬剤開発のヒントになるものと考えている. -
甲状腺刺激ホルモン受容体―その構造と機能の相関
233巻9号(2010);View Description Hide Description甲状腺刺激ホルモン〔thyroid stimulating hormone(TSH)あるいは thyrotropin〕受容体(以下,TSH 受容体)は,下垂体から分泌されて甲状腺の機能を調節する糖蛋白ホルモン TSH のシグナルを受容して甲状腺の機能を調節する,甲状腺機能にとってもっとも重要な分子である.いわゆる甲状腺特異的蛋白のひとつである.G蛋白共役型受容体(G protein-coupled receptor)ファミリーに属し,7 回の細胞膜貫通部分をもつという共通の構造を呈するが,大きな細胞外領域をもつ糖蛋白ホルモン受容体として,lutropin(LH)・follitropin(FSH)受容体とともにサブファミリーを形成する.さらに,サブユニット構造をとること,constitutive activity が高いことなど構造・機能上特徴的な性質をもち,それらが自己免疫性甲状腺疾患 Basedow 病や gain of function 変異の病態に結びついていると考えられる点で,このサブファミリーのなかでもユニークな受容体であるといえる. -
TRH受容体―基礎から臨床への展開
233巻9号(2010);View Description Hide DescriptionTRH 受容体は齧歯類では TRHR1 と TRHR2 の 2 つのサブタイプが存在するが,ヒトでは TRHR2 は同定されていない.TRH 受容体は Gαq/11に共役し,ホスホリパーゼ C(PLC),イノシトールリン酸を介した細胞内カルシウム濃度の上昇,Ca2+依存性プロテインキナーゼ(PKC)の活性化を引き起こす.さらに,カルシウム/カルモデュリン依存性蛋白キナーゼ(Ca2+/CamKin)や MAP キナーゼ(MAPK)を活性化させる.また,単量体/二量体いずれの構造もとりうるが,TRH 存在下では二量体の割合が高くなる.齧歯類では TRHR1 はおもに下垂体のホルモン調節に,TRHR2 は高次脳機能への関与が予想されている.ヒト TRH 受容体異常症はクレチン症のような重度の甲状腺機能低下症にはならず,低身長など軽症の甲状腺機能低下症を示す.TRHはプロラクチンの合成分泌も促すが,TRH 受容体が欠損しても妊娠や授乳には異常を認めなかった. -
変異Gn-RH受容体とゴナドトロピン単独欠損症
233巻9号(2010);View Description Hide Descriptionゴナドトロピン放出ホルモン(Gn-RH)受容体変異は,ゴナドトロピン単独欠損症(IHH)の原因である.ミスセンス変異遺伝子のホモ接合や複合ヘテロ接合例が大部分を占めている.ヘテロ接合例では臨床症状を呈さない.変異受容体の発現実験から,変異の種類により受容体機能低下の程度が異なることが明らかにされている.受容体機能低下が強い変異をもつ患者では,臨床症状もより強い傾向がみられる.変異受容体は,立体構造の変化から合成後に細胞膜に運ばれることなく分解される,すなわち,フォールディング異常により機能低下をきたす.非ペプチド性 Gn-RH 受容体アンタゴニストにより変異受容体のフォールディングが助けられ,細胞膜への発現,リガンド結合能,シグナル伝達は部分的に回復することがわかってきた. - 【脂質メディエータ・炎症・免疫】
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リゾホスファチジン酸受容体研究Update
233巻9号(2010);View Description Hide Descriptionリゾホスファチジン酸(LPA)は G 蛋白質共役型受容体(GPCR)を介し,多彩な機能を発揮する生理活性脂質である.近年,各種 LPA 受容体欠損マウスの表現型がつぎつぎと報告され,疼痛,生殖,線維化など LPA の生理学的・病的な役割がすこしずつ明らかになってきている.その一方で,リガンドが未知の,いわゆる“オーファン GPCR”の解析やヒト疾患の解析により新規 LPA 受容体も同定されている.今後,新規 LPA 受容体も含めた欠損マウスの解析や選択的アゴニストやアンタゴニストの開発が進み,LPA 受容体があらたな創薬のターゲットとなることが期待される. -
ロイコトリエン受容体―炎症から免疫へ
233巻9号(2010);View Description Hide Description強力な生理活性脂質であるロイコトリエン(LT)は生体防御に重要な役割を果たす一方で,過剰な炎症や気管支喘息の発症・増悪因子としても知られ,受容体をターゲットとして新規薬剤の開発が行われてきた.LT はロイコトリエン B4とペプチド LT に大別され,現在までに 4 種の LT 受容体(BLT1,2,CysLT1,2)が同定されている.低親和性ロイコトリエン B4受容体 BLT2 は,12-HHT とよばれる不飽和脂肪酸をもっともよいリガンドとすることが明らかとなり,ロイコトリエン受容体とは別のファミリーに分類されるべき受容体であると考えられた.遺伝子欠損マウスの解析から,ロイコトリエン受容体は古典的に知られていた炎症細胞,平滑筋細胞に加え,樹状細胞や T 細胞などにも発現し,免疫反応の重要な制御因子であることが明らかとなってきた.CysLT1 拮抗薬はすでに臨床医学の現場で応用されており,他のロイコトリエン受容体拮抗薬も種々の免疫・炎症性疾患の治療薬として期待されている. -
PAF/ロイコトリエン受容体と呼吸器疾患
233巻9号(2010);View Description Hide Description気管支喘息などの呼吸器疾患は社会的にもきわめて重大な疾患であり,治療薬の開発が切実に待たれている.血小板活性化因子,プロスタグランジン,トロンボキサン,ロイコトリエンなどは脂質メディエーターと総称され,リン脂質およびアラキドン酸を起点とする代謝産物である.脂質メディエーターは気管支喘息をはじめ,さまざまな呼吸器疾患の発症機序に関与することが明らかになりつつあり,今後あらたな治療標的となることが期待されている. -
プロスタノイド受容体―受容体欠損マウスを用いた解析
233巻9号(2010);View Description Hide Description生理活性脂質であるプロスタノイドは,生体の恒常性維持やさまざまな疾患の病態形成にかかわるオータコイドである.現在,生理的に重要な 5 種類のプロスタノイドに対し 8 種類の受容体が同定されている.これらの受容体は種々の臓器や組織に発現分布し,それぞれ異なった G 蛋白質と共役して多彩なプロスタノイドの作用を仲介している.著者らは各受容体欠損マウスに疾患モデルを適用した解析を行い,さまざまな病態形成におけるプロスタノイドの役割を明らかにしてきた.本稿では,発熱,炎症性頻脈,血管リモデリングにおけるプロスタノイドの役割について紹介したい. -
ケモカイン受容体
233巻9号(2010);View Description Hide Descriptionケモカインは感染症や癌を含む多岐にわたる疾患での炎症・免疫反応において,白血球の遊走や活性化に携わる主要な調節因子である.ケモカイン受容体は G 蛋白質共役受容体であり,ケモカインと結合することで細胞内シグナル伝達を通じて炎症性細胞を動的に制御し,病態形成に深くかかわっている.このケモカイン・ケモカイン受容体を標的とした治療薬の臨床試験が進んでおり,ケモカイン受容体を標的とした阻害剤の臨床応用もはじまっているが,ほかにも複数の受容体を標的とするデュアル阻害剤,ヒト型化抗体や治療標的となる特異的会合分子の探索など,さまざまな観点からの薬剤開発も進められている. - 【循環調節】
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アンジオテンシンⅡ受容体
233巻9号(2010);View Description Hide DescriptionアンジオテンシンⅡ(AngⅡ)は体循環系では血圧や水・電解質の恒常性の維持に中心的な役割を果たすとともに,組織レベルでは心血管系細胞の増殖や肥大,線維化を促進するなど心血管リモデリングの病態に深く関与している.AngⅡには 7 回膜貫通型の G 蛋白質共役型受容体ファミリーに属するタイプ 1(AT1)受容体とタイプ 2(AT2)受容体が存在するが,心血管系組織における作用の大部分は AT1受容体を介している.AT1受容体の活性化およびシグナル伝達の分子機構は複雑で,受容体レベルでのクロストークに加えて,細胞内シグナルのレベルでも G 蛋白質依存性あるいは非依存性のさまざまな伝達系が関与し,しかも細胞あるいは臓器特異性が認められる.本稿では,AT1受容体の活性化やシグナル伝達機構,そして生理機能や疾患形成における病因的役割について概説する. -
βアドレナリン受容体
233巻9号(2010);View Description Hide Descriptionβアドレナリン受容体はアドレナリン受容体ファミリーに属する受容体であり,交感神経から放出されるアドレナリン,ノルアドレナリンなどをリガンドとする.βアドレナリン受容体は 7 回膜貫通型 G 蛋白質共役受容体(GPCR)としてかなり早くに同定された受容体である.そのため,GPCR からの G 蛋白質を介したシグナル伝達機構や,受容体脱感作のメカニズムなど GPCR を介した細胞内シグナル伝達経路の解析のために古くからよく研究されてきた.近年になってβ1およびβ2アドレナリン受容体の立体構造が解明され,またβアドレナリン受容体を介した G 蛋白質非依存的なシグナル伝達の存在が明らかになるなど,βアドレナリン受容体研究は新しい局面を迎えつつある.本稿では,新しい技術の導入などにより最近になって明らかとなったβアドレナリンシグナルに関するトピックについて概説する. -
エンドセリン受容体の多彩な機能―形態形成から病態発症まで
233巻9号(2010);View Description Hide Descriptionエンドセリン受容体は,エンドセリンペプチドファミリー(ET-1,ET-2,ET-3)をリガンドとする 7 回膜貫通型の G 蛋白質共役受容体である.A 型(ETAR)と B 型(ETAR)の 2 つのサブタイプからなり,同じペプチドをリガンドとしながらたがいに相反する生理活性をもたらすなど,シグナル伝達の機序やクロストークは非常に多彩である.当初,エンドセリンは血管収縮因子として単離されたが,その後の遺伝子改変マウスの解析や受容体拮抗薬の開発などにより,個体発生から病態発症に至るまで,幅広い生命現象との関連が明らかにされつつある.本稿ではその一端について,近年の知見を中心に報告する. -
アドレノメデュリン受容体の機能と役割
233巻9号(2010);View Description Hide Description降圧ペプチドのアドレノメデュリン(AM)は抗酸化ストレス,抗動脈硬化,血管・リンパ管新生を強力に惹起する.2 つの AM 受容体は,カルシトニン受容体様受容体(CRLR)に 2 つの受容体活性調節蛋白(RAMP2 および RAMP3)が作用することにより形成される(それぞれ AM1受容体および AM2受容体).AM の特異性はAM1受容体のほうが高く,RAMP の体内分布や病態での発現変化は多々異なる.最近,遺伝子欠損マウスの解析により,RAMP2 遺伝子が AM と CRLR 同様,胎生期の生存や心血管系の発達(とくにリンパ管形成)に重要な役割を果たしていることが判明した.事実,AM はリンパ管新生を促進して二次性のリンパ浮腫を改善する.一方,RAMP3 遺伝子が完全に欠損しても正常に発育するが,高齢期に体重が減少する.このように 2 つの AM受容体の役割は大きく異なる. -
α1アドレナリン受容体―その病態生理および生体内表現型α1L受容体に関する最近の知見から
233巻9号(2010);View Description Hide Descriptionα1アドレナリン受容体(以下,α1受容体)は,中枢神経系,心臓血管系や下部尿路などの組織に広く分布し,交感神経性の反応に関与している.さらに高血圧,心肥大,排尿障害などの病態に関与している.現在,α1受容体には,アンタゴニスト prazosin に対し高い親和性を示す 3 つのサブタイプ(α1A,α1B,α1D)が同定されている.それとは別に prazosin に対し低親和性の受容体も検出され,α1L受容体と名づけられている.最近α1Lは,α1Aをコードしている ADRA1A 遺伝子(α1a)に由来することが明確になった.ADRA1A からは,α1L受容体とα1A受容体という,異なる受容体が生じているのである.α1Lは薬理学的に,α1Aと非常に異なる性質を示す.本稿では,まずα1アドレナリン受容体の生体機能について概観し,つぎに生体内表現型についてα1Lを中心にして最近の知見を紹介する. -
脳血管攣縮におけるトロンビン受容体PAR1 の発現亢進とフィードバック制御障害
233巻9号(2010);View Description Hide Description脳血管攣縮は,くも膜下出血後数日から 2 週目にかけて遅発性に発症する脳血管の過剰収縮現象である.重篤な脳虚血を引き起こす場合があり,急性期を脱した患者の生命および神経機能の予後を決定する合併症である.しかし,血管攣縮の発症機序にはいまだ不明な点が多い.臨床研究および動物実験から攣縮発症におけるトロンビンの関与が示唆される.さらに,くも膜下出血モデル動物を用いた最近の研究から,脳血管攣縮におけるトロンビン受容体の役割が明らかになりつつある.正常脳底動脈はトロンビンにほとんど反応しないが,くも膜下出血においてはトロンビン受容体の発現が亢進し,トロンビンに対する反応性が増強した.また,この収縮は受容体のフィードバック制御機構の障害によりトロンビン刺激を止めても不可逆的に持続した.したがって,くも膜下出血後の脳血管において,発現の亢進とフィードバック制御機構の障害によりトロンビン受容体の機能が亢進し,トロンビンに対する血管の反応性が増強することが示唆される.この結果,出血により髄液中に大量に産生されるトロンビンの作用を受けて脳血管は不可逆的に強く収縮し,これが攣縮発症に関与すると考えられる.トロンビン受容体は脳血管攣縮のあらたな治療標的として期待される. - 【感 覚】
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嗅覚受容体―匂いやフェロモンの感知
233巻9号(2010);View Description Hide Description生物は五感を用いて外界の状況を認識し,自らの行動や生理状態に反映させることで環境に対応する.数十万種類ともいわれる環境中の化学物質から,生物は嗅覚を使って必要な情報を抽出する.それらは,食生活に関する情報や個体間のコミュニケーションに関する情報であり,その情報処理機能のバランスが崩れることは疾病につながる生活習慣やストレスの原因となる.近年,哺乳類の嗅覚のメカニズムは高度な複数の分子基盤からなり,いわゆる“匂い”以外にもさまざまな情報を処理していることが明らかになりつつある.本稿では嗅覚器官が備えている化学感覚受容体の最新知見と,それらがどのような情報処理機能を担っているのかについて概説する. -
味覚受容体の構造と機能の多様性
233巻9号(2010);View Description Hide Description味覚の受容メカニズムは長年謎であった.近年,GPCR である T1r と T2r ファミリーがそれぞれ甘味/うま味,苦味受容体として同定されたことを契機に,急速にその謎が解き明かされつつある.生物は進化の過程で食環境に適応するため,多様な味覚感受性を獲得してきた.この味覚感受性の“種差”“系統差”“個体差”の解析を通して,その機能・構造やリガンド特性のみならず,環境による味覚受容体の進化の過程も追究されている.さらに,口腔以外のさまざまな臓器における発現や機能が明らかになりつつあり,多機能性受容体として生体のホメオスタシスの維持に深くかかわっている側面がみえはじめてきた. -
Small Molecule Modulators of Family-C taste GPCRs
233巻9号(2010);View Description Hide DescriptionThe discovery of genes encoding taste G protein-coupled receptors(GPCRs)almost 10 years ago has had an unprecedented impact on helping us figuring out how taste functions at the molecular level and how taste is processed at the periphery. For example, these genes have been used to determine the coding logicof bitter, sweet and savory(umami)taste. It is now known that the exclusive expression of either bitter, sweet or umami taste receptors in separate taste receptor cells(TRCs)allow these taste modalities to be selectively segregated at the periphery. These genes have also been used to successfully“deorphan”the rather large family of bitter taste receptors, to show that dozens of radically different sweeteners can activate the sweet taste receptor by interacting with different domains of the receptor molecule and to understand, at the molecular level, how 5’-ribonucleotides enhance the taste of monosodium glutamate(MSG). The genes encoding taste receptors have also allowed the development of specific cell-based assays that are amenable to high throughput screening. Contrary to the classical approach to flavor development, where usually only a few hundred close analogues of known flavor molecules can be evaluated by taste panelists on ayearly basis, it is now possible to evaluate the effect of 100,000s of compounds from 1,000s of different chemical classes in a just a few weeks. The screening hits are then moved to an efficient iterative cycle of assay-guided chemical optimization and taste testing until the required flavor profile is obtained. This newparadigm in flavor development has been used recently to identify novel sweet and savory taste receptor modulators. Some of these molecules are now being commercialized as flavor enhancers used in a variety of consumer products. -
GRKによる視物質のリン酸化とその制御―明順応へのかかわり
233巻9号(2010);View Description Hide Descriptionわれわれの網膜には光を検出して電気的応答に変換する神経細胞(視細胞)が存在する.視細胞には 2 種類あって,薄暗い所で働く桿体と,昼間明るい所で働く錐体とがある.いずれの視細胞でも,光を検出するのはG 蛋白質共役受容体である視物質である.視物質は光を受容すると活性型となり,電気応答を引き起こすための酵素カスケードを駆動するが,光刺激がなくなれば,この酵素カスケードが働いては困る.そこで光刺激がなくなった後,活性化された視物質は不活性化される.その不活性化にかかわっているのが視物質キナーゼ(GRK)であり,リン酸化によって活性型視物質は不活性化される.視細胞は単なる光検出細胞ではなく,そのときどきの光環境に応じて順応する.活性型視物質の不活性化,すなわち,視物質キナーゼの活性は細胞内Ca2+濃度によって調節され,順応に寄与することが報告されている. - 【精神・神経】
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オピオイド受容体―脱感作と耐性形成における受容体細胞内陥入の役割
233巻9号(2010);View Description Hide Descriptionオピオイド受容体は,モルヒネをはじめとするアヘンアルカロイドとその誘導体,およびエンケファリン類,ダイノルフィン類,エンドルフィン類などのモルヒネ様活性を有する内因性ペプチド(オピオイドペプチド)の生体内における一次作用点である.オピオイド受容体μ,δ,κサブタイプの cDNA クローニングにより,痛覚情報伝達制御やモルヒネ耐性形成の分子機構の研究が精力的に進められてきた.従来,オピオイド耐性形成のメカニズムとして,受容体のリン酸化とそれに続く細胞内陥入internalization)による細胞表面受容体の減少が考えられてきたが,モルヒネが受容体の細胞内陥入を起こしにくい一方で,耐性を形成しにくい内因性オピオイドペプチドやペプチド性アナログが受容体の細胞内陥入を効率よく引き起こすことから,受容体細胞内陥入は受容体の脱リン酸化と細胞膜表面への再提示により受容体を再感作させるために重要な過程であり,耐性形成をむしろ抑制すると考えられるようになってきた. -
セロトニン受容体
233巻9号(2010);View Description Hide Descriptionセロトニン(5-hydroxytryptamine:5-HT)はモノアミン神経伝達物質のひとつで,13 種類の G 蛋白質共役型受容体(GPCR)と 1 種類のイオンチャネル共役型受容体によって,さまざまな効果を発現させる.現在,セロトニン受容体は,その構造,細胞内情報伝達システム,そして薬理学的作動様式の違いによって 7 つのクラスに分類されている.これら物理学的多様性は明らかにセロトニンの生理学的重要性を物語っているが,薬理学的特性は,多くのスプライスバリアントやエディットバリアント,また修飾蛋白質の存在,モノマーやヘテロマーの構成やそれらの存在によってさらに多様化している. -
カンナビノイド受容体
233巻9号(2010);View Description Hide Descriptionカンナビノイド受容体は 7 回膜貫通型の Gi/o蛋白質共役型受容体で,CB1と CB2の 2 種類がある.CB1は中枢神経系に,CB2は免疫系に多く発現しており,マリファナのさまざまな精神神経作用は主として脳の CB1受容体を介する.これらの本来のリガンドである“内因性カンナビノイド”は中枢神経系においてシナプス後部のニューロンから活動依存的に放出され,シナプス前終末の CB1受容体を活性化し,神経伝達物質の放出を抑制する.シナプス伝達の短期的抑圧だけでなく,長期抑圧の誘発にも関与する.内因性カンナビノイドの候補にはアナンダミドと 2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)があるが,“逆行性シナプス伝達”を担うのは 2-AG である.内因性カンナビノイドによるシナプス伝達の短期および長期抑圧は,海馬,小脳,線条体,大脳皮質などのさまざまな脳部位でみられ,普遍的なシナプス伝達調節機構であると考えられる. -
神経ペプチド受容体/代謝型グルタミン酸受容体―うつ病との関連および抗うつ薬創製の新規ターゲットとしての可能性
233巻9号(2010);View Description Hide Description近年,うつ病の病態を分子レベルおよび神経ネットワークレベルで解明しようとする研究が盛んに実施されている.それらのなかで,神経ペプチドはうつ病の原因であるストレス応答において調節的役割を果たし,その調節機構の破綻はうつ病発症と密接に関連する.一方,うつ病患者においてグルタミン酸神経伝達異常が認められている.著者らは,種々の神経ペプチド受容体拮抗薬やグルタミン酸神経伝達の調節的役割をもつ代謝型グルタミン酸受容体拮抗薬を創製し,動物モデルにおける作用を検討してきた.これらの拮抗薬は種々のうつ病モデルにおいて効果を示し,また,既存薬の問題点を改善した薬剤となる可能性を示唆する結果が得られている.このことから,神経ペプチド受容体および代謝型グルタミン酸受容体は,うつ病の病態に根ざした新しい抗うつ薬創製のターゲットとなる可能性が期待される. -
ドパミン受容体クロストーク
233巻9号(2010);View Description Hide Description統合失調症をはじめとするいくつかの主要な精神疾患は,ドパミン神経伝達の変調が原因であるとした病態仮説に基づき研究が進められている.また,脳内の神経ネットワークの観点から,ドパミン神経伝達を制御する機序としてグルタミン酸神経伝達との相互作用(クロストーク)が注目されている.近年著者らは覚醒動物を用いて,ドパミン神経伝達の変調がグルタミン酸神経伝達の制御によって是正される現象を positron emissiontomography(PET)により画像化することに成功した.PET による生体イメージングは,疾患発症メカニズムの解析や治療薬開発に大きく貢献する可能性が期待される分野である.本稿では著者らの行った研究で得られた結果を中心に,そこから推察されるグルタミン酸神経系とドパミン神経系のクロストークの分子基盤について解説する. -
PACAP・VIP受容体の構造と機能の多様性―PACAPの中枢神経機能を中心として
233巻9号(2010);View Description Hide Description下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ペプチド(PACAP)と,血管作動性腸管ペプチド(VIP)に対する受容体である PACAP/VIP 受容体には,PACAP に選択的な PAC1-R と,PACAP と VIP の両方に親和性のあるVPAC1-R,VPAC2-R の 3 種類が存在する.いずれも 7 回の膜貫通部位をもち,ロドプシンスーパーファミリーに属する G 蛋白共役型受容体である.VIP はおもに肝,腸,肺など末梢組織に分布し,消化管ホルモンとして消化機能の調節に関与するが,PACAP は視床下部にもっとも高濃度に存在するなど中枢神経系におもに局在し,神経伝達物質,神経伝達修飾物質,神経栄養因子としての機能を担う.受容体としても脳には PAC1-Rが優位に分布していることから,PACAP の高次中枢機能および痛覚伝達作用や,神経栄養因子として神経の生存維持,分化成熟における作用が注目されている. -
Prokineticin-signaling pathwayとKallmann症候群
233巻9号(2010);View Description Hide DescriptionProkineticin シグナル伝達には,2 つの分泌型蛋白(Prokineticin-1:PROK1,Prokineticin-2:PROK2)と 2つの同族 G 蛋白共役受容体(Prokineticin receptor-1:PROKR1,Prokineticin receptor-2:PROKR2)が関与する.これらはさまざまな組織に発現し,多様な生物学的機能を示すことが知られている.近年,PROK2 および PROKR2 の遺伝子欠損マウスにおいて,嗅球形成不全と Gn-RH 欠損が同定された.さらに Kallmann症候群と嗅覚正常な低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(IHH)患者の変異解析で,PROKR2 遺伝子と PROK2遺伝子に変異が同定され,この 2 つの遺伝子は両疾患の責任遺伝子となりうることが報告された.また,PROKR2 遺伝子変異と KAL1 遺伝子変異の合併により,Kallmann 症候群の発症に複合遺伝の関与が示唆され,IHH の発症機序にあらたな知見が見出されている.今後,分子遺伝学的解析の進歩により,さらなる Prokineticin-signaling pathway の組織特異的発現に関するメカニズムの解明が進み,疾患成立機序の明確化と治療法確立が望まれる.
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