Volume 233,
Issue 11,
2010
-
あゆみ ネフローゼ症候群─最新動向
-
-
Source:
医学のあゆみ 233巻11号, 1051-1051 (2010);
View Description
Hide Description
-
【総論】
-
Source:
医学のあゆみ 233巻11号, 1053-1057 (2010);
View Description
Hide Description
[ネフローゼ症候群,とくに難治性例における診療の動向として,診断におけるあらたな展開では新生児膜性腎症における中性エンドペプチターゼ,成人特発性膜性腎症における膜型ホスホリパーゼ A2受容体に対する抗体とその IgG サブクラスを解説する.さらに治療と関連して,ループス腎炎における ISN/RPS2003 分類の動向と免疫抑制療法としての副腎皮質ステロイド,核酸合成阻害薬とカルシニューリン阻害薬を組み合わせた multi-target therapy の有効性を述べる.さらに,生物製剤の治療応用として,世界的に試みられている Bリンパ球に対する抗 CD20 抗体治療を中心とした膜性腎症と,小児ネフローゼ症候群における有効性とループス腎炎における臨床応用の中止を紹介する.また,血液浄化療法との組合せによる治療展開として,C 型肝炎ウイルスとクリオグロブリン血症合併における二重濾過膜血漿交換の応用を述べる., ネフローゼ症候群,とくに難治性例における診療の動向として,診断におけるあらたな展開では新生児膜性腎症における中性エンドペプチターゼ,成人特発性膜性腎症における膜型ホスホリパーゼ A2受容体に対する抗体とその IgG サブクラスを解説する.さらに治療と関連して,ループス腎炎における ISN/RPS2003 分類の動向と免疫抑制療法としての副腎皮質ステロイド,核酸合成阻害薬とカルシニューリン阻害薬を組み合わせた multi-target therapy の有効性を述べる.さらに,生物製剤の治療応用として,世界的に試みられている Bリンパ球に対する抗 CD20 抗体治療を中心とした膜性腎症と,小児ネフローゼ症候群における有効性とループス腎炎における臨床応用の中止を紹介する.また,血液浄化療法との組合せによる治療展開として,C 型肝炎ウイルスとクリオグロブリン血症合併における二重濾過膜血漿交換の応用を述べる.]
-
Source:
医学のあゆみ 233巻11号, 1058-1061 (2010);
View Description
Hide Description
[膜性腎症,巣状分節性糸球体硬化症,微小変化型ネフローゼ症候群は,ネフローゼ症候群の原疾患として頻度の高い一次性糸球体疾患である.従来より膜性腎症がネフローゼ症候群の原因としてもっとも頻度が高い一次性糸球体疾患であると考えられてきたが,1980 年代ごろから膜性腎症より巣状分節性糸球体硬化症の発症頻度が高くなってきており,とくに黒色人種でその傾向が強いという疫学データが多数報告されている.巣状分節性糸球体硬化症が近年増加している原因はいまだ不明であり,今後さらなる研究の進展が期待される., 膜性腎症,巣状分節性糸球体硬化症,微小変化型ネフローゼ症候群は,ネフローゼ症候群の原疾患として頻度の高い一次性糸球体疾患である.従来より膜性腎症がネフローゼ症候群の原因としてもっとも頻度が高い一次性糸球体疾患であると考えられてきたが,1980 年代ごろから膜性腎症より巣状分節性糸球体硬化症の発症頻度が高くなってきており,とくに黒色人種でその傾向が強いという疫学データが多数報告されている.巣状分節性糸球体硬化症が近年増加している原因はいまだ不明であり,今後さらなる研究の進展が期待される.]
-
Source:
医学のあゆみ 233巻11号, 1062-1067 (2010);
View Description
Hide Description
[巣状糸球体硬化とは巣状分節状の糸球体硬化病変という組織形態像を修飾する用語である.しかし,これらの糸球体病変を呈する疾患のなかに,臨床的に高度蛋白尿を伴い,ステロイド治療抵抗性で,徐々に腎機能障害が進展する疾患群が含まれている.これらの疾患群を臨床病理的に,巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)と診断している.さらに,種々の原因や病態により引き起こされる二次性 FSGS も明らかにされている.FSGSには原因不明の原発性から二次性までが含まれ,二次性 FSGS を呈する病態のなかにも疾患概念としてのFSGS を呈さない場合も多いことから,その病理診断は糸球体疾患のなかでももっとも難しい疾患のひとつである.この FSGS を共通した概念としてとらえるために,2004 年にコロンビア分類が提唱された.日本においても,2006 年に出版された日本腎臓学会,日本腎病理協会編集の腎病理標準化への指針に,FSGS のコロンビア分類が記載されている.しかし,コロンビア分類を用いた診断の際に問題点にも直面する.本稿ではコロンビア分類を用いた FSGS の診断とその注意点について解説し,今後の日本腎臓学会,日本腎病理協会による FSGS の再評価の必要性について概説する., 巣状糸球体硬化とは巣状分節状の糸球体硬化病変という組織形態像を修飾する用語である.しかし,これらの糸球体病変を呈する疾患のなかに,臨床的に高度蛋白尿を伴い,ステロイド治療抵抗性で,徐々に腎機能障害が進展する疾患群が含まれている.これらの疾患群を臨床病理的に,巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)と診断している.さらに,種々の原因や病態により引き起こされる二次性 FSGS も明らかにされている.FSGSには原因不明の原発性から二次性までが含まれ,二次性 FSGS を呈する病態のなかにも疾患概念としてのFSGS を呈さない場合も多いことから,その病理診断は糸球体疾患のなかでももっとも難しい疾患のひとつである.この FSGS を共通した概念としてとらえるために,2004 年にコロンビア分類が提唱された.日本においても,2006 年に出版された日本腎臓学会,日本腎病理協会編集の腎病理標準化への指針に,FSGS のコロンビア分類が記載されている.しかし,コロンビア分類を用いた診断の際に問題点にも直面する.本稿ではコロンビア分類を用いた FSGS の診断とその注意点について解説し,今後の日本腎臓学会,日本腎病理協会による FSGS の再評価の必要性について概説する.]
-
【難治性ネフローゼ症候群の最新治療:原発性糸球体腎炎】
-
Source:
医学のあゆみ 233巻11号, 1068-1072 (2010);
View Description
Hide Description
[膜性腎症はおもに中高年者に発症し,成人におけるネフローゼ症候群の分類上,もっとも頻度が高い疾患といわれている.ネフローゼ症候群を呈する場合,その多くはステロイド抵抗性であり,いわゆる難治性である症例も少なくない.このため,わが国でも厚労省における進行性腎障害に関する調査研究班で診療指針が定められてきた.疾患の性質上,国内外でさまざまな免疫抑制薬による治療結果が報告されているが,今回の診療指針の改訂にあたり,プレドニゾロン(PSL)とシクロスポリン(CyA)および PSL とミゾリビン(MZR)の併用療法を多施設共同で行ってきた.その結果,これらの薬剤の組合せが一定の効果を示すことが明らかとなった.ここではその概要を示すとともに,それらを中心とした免疫抑制療法,および降圧薬や脂質異常改善薬などによる補助療法について述べる., 膜性腎症はおもに中高年者に発症し,成人におけるネフローゼ症候群の分類上,もっとも頻度が高い疾患といわれている.ネフローゼ症候群を呈する場合,その多くはステロイド抵抗性であり,いわゆる難治性である症例も少なくない.このため,わが国でも厚労省における進行性腎障害に関する調査研究班で診療指針が定められてきた.疾患の性質上,国内外でさまざまな免疫抑制薬による治療結果が報告されているが,今回の診療指針の改訂にあたり,プレドニゾロン(PSL)とシクロスポリン(CyA)および PSL とミゾリビン(MZR)の併用療法を多施設共同で行ってきた.その結果,これらの薬剤の組合せが一定の効果を示すことが明らかとなった.ここではその概要を示すとともに,それらを中心とした免疫抑制療法,および降圧薬や脂質異常改善薬などによる補助療法について述べる.]
-
Source:
医学のあゆみ 233巻11号, 1073-1077 (2010);
View Description
Hide Description
[巣状分節性糸球体硬化症は,発症当初は微小変化型ネフローゼ症候群と同じような臨床像をとりながら,しばしば治療抵抗性の経過をとり,最終的に末期腎不全に至る症例もまれでない.標準的な治療法はまだ十分に確立されていないが,ネフローゼ症候群を脱しきれない症例の予後がきわめて不良であるのに対して不完全寛解Ⅰ型以上まで改善した症例の予後は比較的良好であることから,不完全寛解Ⅰ型の要件である 1 日尿蛋白1 g 以下をめざして積極的に治療を行っていく必要がある.治療の中心はステロイド薬になるが,経口ステロイド治療単独での寛解導入は期待しがたいことから,ステロイドパルス療法や免疫抑制薬の併用を早期から考慮しなければならない.難治症例に対しては LDL アフェレシス療法併用の有効性も報告されている.重大な副作用を避ける意味でも漫然と経口ステロイド薬を長期大量投与することは避け,さまざまな治療法を組み合わせた“combination therapy”で寛解をめざすべきと考えられる., 巣状分節性糸球体硬化症は,発症当初は微小変化型ネフローゼ症候群と同じような臨床像をとりながら,しばしば治療抵抗性の経過をとり,最終的に末期腎不全に至る症例もまれでない.標準的な治療法はまだ十分に確立されていないが,ネフローゼ症候群を脱しきれない症例の予後がきわめて不良であるのに対して不完全寛解Ⅰ型以上まで改善した症例の予後は比較的良好であることから,不完全寛解Ⅰ型の要件である 1 日尿蛋白1 g 以下をめざして積極的に治療を行っていく必要がある.治療の中心はステロイド薬になるが,経口ステロイド治療単独での寛解導入は期待しがたいことから,ステロイドパルス療法や免疫抑制薬の併用を早期から考慮しなければならない.難治症例に対しては LDL アフェレシス療法併用の有効性も報告されている.重大な副作用を避ける意味でも漫然と経口ステロイド薬を長期大量投与することは避け,さまざまな治療法を組み合わせた“combination therapy”で寛解をめざすべきと考えられる.]
-
Source:
医学のあゆみ 233巻11号, 1078-1082 (2010);
View Description
Hide Description
[微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)の治療は通常,副腎皮質ステロイド薬の投与が行われ著効することが多いが,頻回再発型・ステロイド依存性となる症例や,一部ではステロイド抵抗性を呈する症例が認められる.そのような症例ではステロイドの総投与量が多くなり,骨粗鬆症,高血圧,脂質・糖代謝異常,白内障などの合併症が問題となる.免疫抑制薬投与やステロイドの隔日投与,パルス療法などが行われるが,エビデンスの確立した治療法はない.近年,リツキシマブの有効性が報告され,これまで主因と考えられてきた T 細胞機能異常に加えて,B 細胞機能異常の関与が考えられるようになり,注目されている.しかし,わが国で保険適用とされている免疫抑制薬はステロイド抵抗性を呈する症例に対するミゾリビンと,頻回再発型あるいはステロイド抵抗性を呈する症例に対するシクロスポリンのみである.今後のエビデンスの蓄積が期待される., 微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)の治療は通常,副腎皮質ステロイド薬の投与が行われ著効することが多いが,頻回再発型・ステロイド依存性となる症例や,一部ではステロイド抵抗性を呈する症例が認められる.そのような症例ではステロイドの総投与量が多くなり,骨粗鬆症,高血圧,脂質・糖代謝異常,白内障などの合併症が問題となる.免疫抑制薬投与やステロイドの隔日投与,パルス療法などが行われるが,エビデンスの確立した治療法はない.近年,リツキシマブの有効性が報告され,これまで主因と考えられてきた T 細胞機能異常に加えて,B 細胞機能異常の関与が考えられるようになり,注目されている.しかし,わが国で保険適用とされている免疫抑制薬はステロイド抵抗性を呈する症例に対するミゾリビンと,頻回再発型あるいはステロイド抵抗性を呈する症例に対するシクロスポリンのみである.今後のエビデンスの蓄積が期待される.]
-
【難治性ネフローゼ症候群の最新治療:二次性ネフローゼ症候群】
-
Source:
医学のあゆみ 233巻11号, 1083-1086 (2010);
View Description
Hide Description
[腎アミロイドーシスは,アミロイド線維が腎組織に沈着し,蛋白尿や腎機能低下を起こす難治性疾患である.アミロイド沈着をコンゴレッド染色,偏光顕微鏡,電子顕微鏡で確認することで診断するが,近年,鋭敏な血中フリーライトチェーン定量法も用いられる.形質細胞異常に伴う AL アミロイドーシスの治療では,幹細胞移植を併用した大量化学療法の有効性が確立されてきている.また,関節リウマチに伴う反応性 AA アミロイドーシスにおける生物学的製剤の効果も報告されている.アミロイドーシスの発生機序にはいまだ不明な点も多いが,あらたな治療法による腎アミロイドーシスの予後改善が期待される., 腎アミロイドーシスは,アミロイド線維が腎組織に沈着し,蛋白尿や腎機能低下を起こす難治性疾患である.アミロイド沈着をコンゴレッド染色,偏光顕微鏡,電子顕微鏡で確認することで診断するが,近年,鋭敏な血中フリーライトチェーン定量法も用いられる.形質細胞異常に伴う AL アミロイドーシスの治療では,幹細胞移植を併用した大量化学療法の有効性が確立されてきている.また,関節リウマチに伴う反応性 AA アミロイドーシスにおける生物学的製剤の効果も報告されている.アミロイドーシスの発生機序にはいまだ不明な点も多いが,あらたな治療法による腎アミロイドーシスの予後改善が期待される.]
-
Source:
医学のあゆみ 233巻11号, 1087-1090 (2010);
View Description
Hide Description
[末期腎不全による透析患者は国内外で増加の一途をたどり,わが国でも約 28 万人に上っている.このうち,糖尿病性腎症が慢性腎臓病の最大の疾患であり,新規透析導入の原因疾患では 1998 年より第 1 位である.したがって,糖尿病性腎症の進展機序の解明とその治療戦略の構築は,医学的・社会的・医療経済ならびに施策の重要な課題である.とくに,顕性蛋白尿,ネフローゼ症候群を呈する糖尿病性腎症例の腎予後は不良である.現時点では糖尿病性腎症について, 1 微量アルブミン尿を的確に測定し早期腎症の診断を行うこと, 2 血糖管理,血圧管理,食事・運動療法を長期にわたり厳格に行う包括的な治療が重要である., 末期腎不全による透析患者は国内外で増加の一途をたどり,わが国でも約 28 万人に上っている.このうち,糖尿病性腎症が慢性腎臓病の最大の疾患であり,新規透析導入の原因疾患では 1998 年より第 1 位である.したがって,糖尿病性腎症の進展機序の解明とその治療戦略の構築は,医学的・社会的・医療経済ならびに施策の重要な課題である.とくに,顕性蛋白尿,ネフローゼ症候群を呈する糖尿病性腎症例の腎予後は不良である.現時点では糖尿病性腎症について, 1 微量アルブミン尿を的確に測定し早期腎症の診断を行うこと, 2 血糖管理,血圧管理,食事・運動療法を長期にわたり厳格に行う包括的な治療が重要である.]
-
Source:
医学のあゆみ 233巻11号, 1091-1095 (2010);
View Description
Hide Description
[ループス腎炎は,先天的な遺伝因子に後天的な環境因子が加わり,T 細胞と B 細胞の制御に異常をきたして自己抗体が産生され,これが免疫複合体を形成して糸球体障害を引き起こすものである.大量副腎皮質ステロイドが使用されるようになり,ループス腎炎の予後は大きく改善した.その後,シクロホスファミド併用療法が国際的には標準治療法となり,予後はさらに改善した.近年,Mycophenolate mofet(il MMF)の有用性が示されている.リツキシマブも有望な薬剤である.わが国ではタクロリムスやミゾリビンを用いた検討も多くなされている.今後さらに,より少ない副作用でより高い有効性を示す治療法の開発が求められる., ループス腎炎は,先天的な遺伝因子に後天的な環境因子が加わり,T 細胞と B 細胞の制御に異常をきたして自己抗体が産生され,これが免疫複合体を形成して糸球体障害を引き起こすものである.大量副腎皮質ステロイドが使用されるようになり,ループス腎炎の予後は大きく改善した.その後,シクロホスファミド併用療法が国際的には標準治療法となり,予後はさらに改善した.近年,Mycophenolate mofet(il MMF)の有用性が示されている.リツキシマブも有望な薬剤である.わが国ではタクロリムスやミゾリビンを用いた検討も多くなされている.今後さらに,より少ない副作用でより高い有効性を示す治療法の開発が求められる.]
-
Source:
医学のあゆみ 233巻11号, 1096-1098 (2010);
View Description
Hide Description
[腎糸球体病変は全身性疾患に伴うことが非常に多く,なかでも肝炎ウイルスに合併する腎症は慢性肝炎をはじめとする肝障害とともに総合的に治療する必要がある.近年,インターフェロン(IFN)や抗ウイルス薬の進歩は著しく,肝炎ウイルス関連腎症の治療にも応用されている.C 型肝炎ウイルス(HCV)感染症では混合型クリオグロブリン血症・膜性増殖性糸球体腎炎を伴いやすく,腎機能に応じたインターフェロン・リバビリンによる治療が推奨される.B 型肝炎ウイルス(HBV)感染症は膜性腎症・膜性増殖性糸球体腎炎と関連があり,若年者ではインターフェロン,中年以降ではエンテカビルによる治療が推奨される., 腎糸球体病変は全身性疾患に伴うことが非常に多く,なかでも肝炎ウイルスに合併する腎症は慢性肝炎をはじめとする肝障害とともに総合的に治療する必要がある.近年,インターフェロン(IFN)や抗ウイルス薬の進歩は著しく,肝炎ウイルス関連腎症の治療にも応用されている.C 型肝炎ウイルス(HCV)感染症では混合型クリオグロブリン血症・膜性増殖性糸球体腎炎を伴いやすく,腎機能に応じたインターフェロン・リバビリンによる治療が推奨される.B 型肝炎ウイルス(HBV)感染症は膜性腎症・膜性増殖性糸球体腎炎と関連があり,若年者ではインターフェロン,中年以降ではエンテカビルによる治療が推奨される.]
-
フォーラム
-
-
逆システム学の窓32
-
Source:
医学のあゆみ 233巻11号, 1099-1102 (2010);
View Description
Hide Description
[不正な診断,経験のない手術実施での死亡,患者への嘘の説明,架空請求,カルテ改ざん,カルテの金庫への隠匿など,あらゆる“嘘”が繰り返されたという奈良山本病院事件は,近年稀にみる猟奇事件として医療関係者に大きなショックを与えた.だが問題は,単に“嘘つき”の医師がいたというに留まらない.「週刊朝日」の“いい病院ランキング”では,“嘘”に“嘘”を重ねたこの病院が 2009 年版まで心臓カテーテル件数の上位として紹介されている. 嘘の心理学の研究の進歩は,“嘘”またはその一歩手前の“虚飾”(ファブリケーション)というものが,社会的な方策として一般的に用いられることを明らかにしている.ところが,“数値目標”によって一面的な評価が行われたり,非合理的な評価で経済的利得や評判が決められると,“嘘”や“虚飾”を使うのが当たり前になってしまう.ここに“成果主義”が失敗する真の原因がある. 意外にも心理学の検討では,“嘘”の発見は一般的には困難であり,すべてのことを“嘘”の可能性を前提にする“嘘バイアス”では,何もできなくなってしまい無効だという.むしろ,自らが“嘘”を減らしていく努力をし,“嘘”を減らすルールを奨励する“真実バイアス”のほうが有効だという.医療事故を“刑事罰”でなく“再発防止”に視点をおいた原因の探求に目的を移す意味はこうしたところにある., 不正な診断,経験のない手術実施での死亡,患者への嘘の説明,架空請求,カルテ改ざん,カルテの金庫への隠匿など,あらゆる“嘘”が繰り返されたという奈良山本病院事件は,近年稀にみる猟奇事件として医療関係者に大きなショックを与えた.だが問題は,単に“嘘つき”の医師がいたというに留まらない.「週刊朝日」の“いい病院ランキング”では,“嘘”に“嘘”を重ねたこの病院が 2009 年版まで心臓カテーテル件数の上位として紹介されている. 嘘の心理学の研究の進歩は,“嘘”またはその一歩手前の“虚飾”(ファブリケーション)というものが,社会的な方策として一般的に用いられることを明らかにしている.ところが,“数値目標”によって一面的な評価が行われたり,非合理的な評価で経済的利得や評判が決められると,“嘘”や“虚飾”を使うのが当たり前になってしまう.ここに“成果主義”が失敗する真の原因がある. 意外にも心理学の検討では,“嘘”の発見は一般的には困難であり,すべてのことを“嘘”の可能性を前提にする“嘘バイアス”では,何もできなくなってしまい無効だという.むしろ,自らが“嘘”を減らしていく努力をし,“嘘”を減らすルールを奨励する“真実バイアス”のほうが有効だという.医療事故を“刑事罰”でなく“再発防止”に視点をおいた原因の探求に目的を移す意味はこうしたところにある.]
-
書評
-
Source:
医学のあゆみ 233巻11号, 1103-1103 (2010);
View Description
Hide Description
-
連載
-
-
女性医師復帰支援プログラム④
-
Source:
医学のあゆみ 233巻11号, 1111-1116 (2010);
View Description
Hide Description
[近年,急速に増加している女性医師の就労状況が注目され,医師不足への即効性のある方策としても女性医師支援が重要視されるようになった.岡山大学では文部科学省の“社会的ニーズに対応した質の高い医療人養成推進プログラム(医療人 GP)”に採択され,平成 19 年(2007 年)度より女性医療人の支援に取り組んできた.30 代を中心とした医師の聞き取り調査と 20~70 代医師のアンケートから浮き彫りになったニーズを中心とした支援を行い,約 2 年間で大学病院にのべ 37 名が復職した.支援の中心は,先輩から後輩に知識と経験を伝え緩やかなネットワークをつくるサポートシステムと,一人ひとりに合わせた復職支援であり,病児保育もスタートした.岡山大学の女性医師支援の特徴は男性も活動に参画し,だれでも参加できメリットが得られるという汎用性と,個々への細やかな対応という個別性のバランスにあると考える.本稿では岡山大学の取組みと今後の展望について述べる., 近年,急速に増加している女性医師の就労状況が注目され,医師不足への即効性のある方策としても女性医師支援が重要視されるようになった.岡山大学では文部科学省の“社会的ニーズに対応した質の高い医療人養成推進プログラム(医療人 GP)”に採択され,平成 19 年(2007 年)度より女性医療人の支援に取り組んできた.30 代を中心とした医師の聞き取り調査と 20~70 代医師のアンケートから浮き彫りになったニーズを中心とした支援を行い,約 2 年間で大学病院にのべ 37 名が復職した.支援の中心は,先輩から後輩に知識と経験を伝え緩やかなネットワークをつくるサポートシステムと,一人ひとりに合わせた復職支援であり,病児保育もスタートした.岡山大学の女性医師支援の特徴は男性も活動に参画し,だれでも参加できメリットが得られるという汎用性と,個々への細やかな対応という個別性のバランスにあると考える.本稿では岡山大学の取組みと今後の展望について述べる.]
-
TOPICS
-
-
呼吸器内科学
-
Source:
医学のあゆみ 233巻11号, 1107-1108 (2010);
View Description
Hide Description
-
産科学・婦人科学
-
Source:
医学のあゆみ 233巻11号, 1108-1109 (2010);
View Description
Hide Description
-
社会医学
-
Source:
医学のあゆみ 233巻11号, 1109-1110 (2010);
View Description
Hide Description