医学のあゆみ
Volume 235, Issue 9, 2010
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あゆみ 耳鼻咽喉科の低侵襲治療─外来処置,日帰り・短期入院手術の進歩
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耳(鏡)内アプローチによる低侵襲性鼓室形成術―接着法を発展させた耳鏡内からの鼓室形成術を主に
235巻9号(2010);View Description Hide Description1989 年,著者が開発・発表した“接着法(湯浅法)”による鼓膜形成術は,その後 20 年以上経過して,その簡便さと術後成績から全国的に普及し,従来法に代わる方法にまでになった.本方法は元来,単純性鼓膜穿孔が適応と考えられていたが,慢性中耳炎などに対する“鼓室形成術における鼓膜形成術”にも適応となり,鼓室形成術の低侵襲化,手術時間,入院期間などの大幅な短縮,術者の負担軽減から,鼓室形成術に大きな変革をもたらしている.外耳道が十分に広く病巣が比較的軽度で限局性の場合には,内径 6 mm の耳鏡内での操作のみで,(上)鼓室内の病巣郭清・耳小骨連鎖再建などの操作が可能である.病巣の広がりに応じて外耳道軟骨部~耳前部の切開を追加する.耳内アプローチにより剃毛,術後包帯,2 日以上の耳内タンポンなどが不要となり,日帰りから 2~3 日の短期入院での鼓室形成術が可能となった.しかし,耳鏡的アプローチのためには“接着法”を十分経験してから行うべきで,視野の確保が不十分な場合や,耳鏡内の操作を熟練していない場合には無理せずに前述のように,“耳内~耳前切開”をおき,十分な術野のもとで術を進めるべきである. -
内視鏡・レーザーによる中耳疾患の診断と低侵襲治療
235巻9号(2010);View Description Hide Description双眼視の手術用顕微鏡は複雑な構造を呈する中耳内の詳細な観察が立体的にとらえることができることから,耳科手術に必要不可欠な機器として定着しているが,その光学的特性より視野が対物レンズの直線上に限定されるため,観察したい部位の手前に構造物がある場合にはその削開・削除を要する.一方,内視鏡では削開・削除することなく顕微鏡の死角部位の明視化が可能となることから,手術の低侵襲化や根治性の向上に寄与してきた.耳科領域では,外界と連続する管腔構造をもつ外耳・鼓膜の観察・処置のみならず,鼓膜で閉鎖された中耳腔へも小さな切開創を作製し内視鏡を挿入することで観察・処置が可能となる.これまで試験的鼓室開放術や鼓室形成術における術中診断でしかわかりえなかった中耳病態が,レーザーによる鼓膜開窓部を介して,細径耳用内視鏡を用いることで術前診断可能となり,さらに引き続く内視鏡下低侵襲手術が可能となった. -
硫酸ゲンタマイシン(GM)などの鼓室内注入によるめまい治療―内服薬治療抵抗めまい症例に対する低侵襲治療
235巻9号(2010);View Description Hide Description生活習慣の改善や内服薬による保存的治療に抵抗し,めまい発作を繰り返す Ménière 病などのめまい症例に対して硫酸ゲンタマイシン(GM),副腎皮質ステロイドなどの薬物を鼓室内に注入する治療法(鼓室内注入療法)について紹介した.鼓室内注入療法は,前庭神経切断術や内リンパ嚢開放術など,他の手術療法と比較し,低侵襲であるが,十分治療効果の期待できる治療法であり,保存的治療に抵抗するめまい症例に対するつぎのステップとして考慮されるべき治療のひとつと考えられる.GM 注入療法の場合,90%以上の症例で有効であり,一方,聴力低下は比較的軽度にとどまる.ただし,適応となる症例,適応とならない症例があり,また,それぞれ薬物により治療の目標も異なっている.したがって,治療前には個々の症例ごとに治療法の適応について十分検討する必要がある. -
めまいの理学療法―めまいリハビリテーションの紹介
235巻9号(2010);View Description Hide Descriptionめまいの治療には大きく分けて薬物治療,薬物治療以外がある.薬物治療は,めまい専門医のみでなく,プライマリケアのレベルでも一般的に行われているが,それ以外の治療法はあまり普及しているとはいえない.薬物治療以外の治療法の代表が理学療法,めまいリハビリテーション(めまいリハ)で,良性発作性頭位めまい症(BPPV)に対する理学療法が有名である.しかし,それ以外のめまい疾患に対する理学療法を実施している医師はあまりいない.海外ではわずかな医師と理学療法士が実施しているが,これも盛んではない.日本では医師や理学療法士の一部が注目しはじめた程度である.そこで,めまい治療について考えてみると薬物治療は必要である.しかし,前庭神経炎後遺症やハント症候群後遺症,治りにくい BPPV などの治療で薬物治療に限界を感じているのは医師だけでない.困っている患者はたくさんいるので,治療にめまいリハを取り入れていただきたい. -
マイクロデブリッダーによる鼻副鼻腔手術
235巻9号(2010);View Description Hide Descriptionマイクロデブリッダーは鼻副鼻腔手術に盛んに使用されるようになった手術支援器具で,ブレードの先端を鼻ポリープなどの軟部組織病変にあてがうだけで,病変を連続的に切除,吸引除去できる.同時に出血も吸引できるので,出血で術野を妨げられることがなく,また吸引,ガーゼ挿入など止血操作により中断されることなく手術を継続できる.その結果,手術時間の短縮,出血量の減少,患者侵襲の軽減化がなされ,良好な術野で安全な手術施行が可能となった.今後も鼻副鼻腔の低侵襲手術の領域では,マイクロデブリッダーの重要性は増すものと思われる. -
花粉症の外科的療法
235巻9号(2010);View Description Hide Description花粉症に対する外科的治療は対症療法に過ぎないが,数回の受診で症状を長期間コントロールできるため,定期的通院の難しい成人や,服薬コンプライアンスの守れない若年者には適した時間的・経済的な費用対効果に優れた治療である.もっとも普及している手術治療は CO2レーザーによる下鼻甲介粘膜表面の蒸散術であり,副作用や肉体的負担も軽く,学童にも表面麻酔下に行える.問題点は,越年効果が乏しく毎年行った方がよい点,薬物療法以上に花粉飛散量の影響をうけるため,大量飛散年では薬物療法の併用が必要になる点,季節前に照射する必要がある点などである. -
鼻出血治療update
235巻9号(2010);View Description Hide Description鼻出血は耳鼻咽喉科領域の救急疾患のなかでもっとも頻度が高いもののひとつである.鼻腔の血流は外頸動脈系と内頸動脈系の分枝から供給され,とくに鼻中隔前下部の Kiesselbach 部位は血管網が豊富なため鼻出血の最好発部位となっている.鼻出血は種々の局所的要因や全身的要因によって起こりやすくなるが,実際には特発性が 70%を占める.診断に際しては患側,出血部位,おおよその出血量の 3 点を速やかに把握する.止血法には圧迫法,鼻腔タンポン法,後鼻タンポン法,焼灼法,動脈結紮術・塞栓術などがある.とくに焼灼法に関しては近年,アルゴンプラズマ凝固装置,レーザー凝固装置,超音波凝固装置などの医療器械の発達がめざましい.いずれの止血法を選択するにしろ,出血部位を的確に診断し,迅速に安全に,しかも最小の苦痛・侵襲で止血するという原則に変わりはない. -
唾液腺管内視鏡による診断と治療―外切開術を回避する可能性を求めて
235巻9号(2010);View Description Hide Description唾液腺は,唾液産生を行う腺細胞から実質内の小導管が集合して腺外に主導管となり,口腔側へ唾液を排出するという機能と形態を有している.耳下腺においてはステノン管,顎下腺ではワルトン管が主導管である.唾液腺疾患のうち唾石症,唾液腺管の狭窄・拡張症の診断・治療に対しては,近年開発された唾液腺管内視鏡が有用なツールとなりつつある.多くの科で内視鏡による治療の発達がめざましいが,唾液腺管に使用する際の機器は極細であることのみでなく,治療の際は working channel も必要となる.過去,軟性内視鏡で観察のみを試みたこともあったが,本内視鏡が開発されてからは,従来の外切開による腺摘出術を施行しないですむ例や,短期滞在手術が可能となる例も増加すると考えられる.
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フォーラム
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- 切手・医学史をちこち107
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- 新“事故調”のあり方―診療関連死調査モデル事業から⑥
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連載
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- 動物の感染症から学ぶ 12
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動物のレプトスピラ症
235巻9号(2010);View Description Hide Descriptionレプトスピラ症は動物からヒトに感染する疾病で,人獣共通伝染病のひとつである.発熱,黄疸,出血,蛋白尿を主徴とし,ウシやブタが感染すると流産などの繁殖障害を起こす.感染環の中心にいるのはレゼルボア(感染巣)であるネズミなどの齧歯類であり,病原性レプトスピラを腎に保菌し尿中に排出する.レプトスピラは汚染された水や土壌などの環境を介し,さまざまな野生動物や家畜などに直接的あるいは間接的に感染する.ヒトはネズミやこれらの感染動物の棲む区域に立ち入ることにより感染する.ウシやブタなどの家畜が感染した場合,臨床所見が乏しく不顕性感染であることが多い.したがって,レプトスピラが農場内に侵入しても感染が認識されず,生産性が低下することも多い.家畜によっては長期間にわたり排菌する例もあり,公衆衛生上問題となる.定期的なサーベイランスが必要である.
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注目の領域
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肥満関連指標および糖代謝に関するDHEAの効果―無作為化対照比較試験の知見
235巻9号(2010);View Description Hide Descriptionデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)はヒト血液中に高濃度に存在し,加齢とともに減少する副腎皮質ホルモンである.血中の DHEA は,99%以上が硫酸抱合型のデヒドロエピアンドロステロンサルフェート(DHEAS)として存在している.DHEA と DHEAS は C19 骨格をもったステロイドのひとつであり,副腎の帯層網状部より分泌される.これらはコレステロール代謝の生成物であり,副腎皮質のミトコンドリア膜内部で生成される1).DHEAS はあらゆる組織でステロイドスルファターゼにより容易に遊離型の DHEA に変換され,DHEA の供給源になっている.DHEA は副腎で産生される性ホルモンの前駆体になる(図 1).DHEA のおもな代謝物としてアンドロステロン,エチオコラノロンがあり,尿中に排泄される.コルチゾンやコルチゾールなどの 17-ヒドロキシコルチコステロイド(17-OHCS)はストレスに反応して上昇するが,DHEA,アンドロステロン,エチコラノロンなどの 17-ケトステロイド(17-KS)はストレスに反応して低下する2). DHEA と DHEAS は生後高濃度に存在するが,その後 1 歳までに急速に減少する.6~10 歳にかけて増加しはじめ,20 歳代をピークに 30 歳以降にしだいに低下し,60 歳以降はピーク時の半分以下になり,70 歳ではピーク時の 10~20%までに低下する3).動物実験においては,免疫機能の改善,抗動脈硬化作用,脂質低下作用,抗肥満作用,インスリン抵抗性の改善など多様な生物学的作用が報告されている4). 本稿では,DHEA 補充療法の体脂肪および糖代謝に及ぼす影響について無作為化比較試験の結果を中心に考察した.
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TOPICS
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- 解剖学
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- 細胞生物学
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- 小児科学
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