医学のあゆみ

Volume 241, Issue 11, 2012
Volumes & issues:
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あゆみ テロメア,テロメラーゼ,クロマチンストレス
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テロメアの破綻と加齢疾患
241巻11号(2012);View Description
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加齢に伴うさまざまな疾患の発症とすべての染色体の末端に存在するテロメアDNA の長さの短縮は,相関することが明らかになっている.また,テロメアの最末端にはG テールとよばれる一本鎖のテロメアDNA 構造が存在し,染色体の安定性にきわめて重要である.加齢に伴うテロメアの短縮はさまざまな組織で起こるが,癌や老化疾患の患者における末梢血中の細胞のテロメア長も顕著に短縮していることが明らかになっている.最近では動脈硬化のリスクファクターとしてテロメア長との相関が注目されるなど,臨床におけるテロメア長測定の意義が注目されてきた.一方,染色体の安定性に重要なG テール長に関しては,その測定技術の問題から臨床レベルでの重要性は不明な部分が多い.細胞レベルでの解析からG テール長の急激な短縮は染色体末端の融合など短時間での染色体機能不全を誘導することから,臨床レベルで使用できるテロメア長およびG テール長測定法としてG-tail telomere HPA 法の実用化が注目されている. -
タンキレースのテロメア機能とあらたな研究展開―テロメアを起点としたPARP研究と創薬応用への展望
241巻11号(2012);View Description
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がん細胞のテロメレースを阻害すると,DNA の末端複製問題が再現されるため,テロメアが短縮するとともにやがて細胞老化・細胞死が観察される.著者らは新しいがん分子標的治療薬の開発をめざす立場から,テロメレースに次ぐ第2 のテロメア分子標的としてタンキレースに着目してきた.タンキレースはテロメア結合蛋白質TRF1 をポリ(ADP-リボシル)化(PAR 化)し,これをテロメアから遊離させるPARP ファミリー酵素である.著者らは,タンキレースの阻害によりTRF1 がテロメア上で安定化し,テロメレース阻害剤の制がん効果が増強されることを見出した.興味深いことに,タンキレースはAxin などあらたに同定された結合蛋白質との相互作用を介し,がんの生育を支えることも明らかになってきた.本酵素はPAR 化を介して蛋白質のユビキチン分解を導くという点でも興味深く,今まさに基礎・応用の両面で研究が加速している. -
テロメアによる細胞周期制御
241巻11号(2012);View Description
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正常な細胞周期の進行を保障する染色体末端の保護は,テロメアのきわめて重要な機能であり,その破綻は細胞周期の停止や細胞死を引き起こす.しかし,テロメア保護の破綻による細胞周期の負の制御が,個体の生存にとっては一見有利に働く局面も存在する.この知見は,DNA 複製に依存したテロメア短縮と細胞老化との関係によってもたらされた.すなわち,テロメア短縮に伴うテロメア保護の破綻によって引き起こされた細胞周期停止が,際限ない細胞の増殖を防ぐことでがん化を抑制し,個体の生存に貢献している.加えて近年,著者らのグループは細胞周期M 期(細胞分裂期)の停止がテロメア保護の破綻を誘導し,これによってM 期停止細胞のがん化が抑制されるという,類似した機構の存在を提唱した.本稿ではテロメア末端保護に関する最新の知見を踏まえながら,テロメア末端の状態が細胞周期・細胞の運命を制御する機構について概説したい. -
DNA損傷応答によるクロマチン修飾を介した細胞老化誘導機構
241巻11号(2012);View Description
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われわれ哺乳動物の細胞は,さまざまなゲノムストレス,たとえばDNA 損傷,テロメア短小化,癌遺伝子の活性化などに反応してDNA 損傷応答機構を活性化する.DNA 損傷応答機構は,ゲノムストレスが軽微であった場合には一過性に細胞周期を停止してゲノム異常を効率的に修復するが,ストレスが恒久的に継続する場合(たとえばテロメア短小化)には,早期細胞老化を誘導して異常細胞の蓄積を防いでいる.老化細胞は代謝的には活性化されており,長期生存も可能であるが,いかなる増殖刺激にも反応せず細胞分裂を起こさない.現在,早期細胞老化誘導は哺乳動物細胞にとってもっとも重要な癌防御機構と考えられているが,どのような情報伝達により細胞老化が誘導されるのか,また,いかなる機構で恒久的な増殖停止が制御されているのか,不明な点も多い.本稿では,DNA 損傷応答による老化細胞のクロマチン修飾制御,とりわけ細胞周期進行に必須なE2F 転写因子の標的プロモーター領域に焦点をあて,最近の知見を踏まえて概説する. -
細胞老化とストレス―細胞老化の分子メカニズムとその役割
241巻11号(2012);View Description
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真核生物の細胞は,細胞の内外から受けるさまざまなストレスに応答してその表現形を変化させる.とくに脊椎動物の体細胞の場合,過度な細胞分裂の繰返しや癌遺伝子の活性化など発癌の危険性のあるストレスが生じると,細胞周期が不可逆的に停止することが知られている.この現象は“細胞老化”とよばれ,癌抑制機構として働くと同時に,老化(個体老化)の原因にもなっている可能性が指摘されてきた.しかし,細胞老化の研究は長い間培養細胞を用いて行われてきたため,細胞老化は正常な体細胞を生体から取り出してin vitro で培養したために起こるartifact ではないかという意見も多く,細胞老化の生物学的な意義については長い間不明なままであった.しかし近年,細胞老化のマーカーがいくつか発見され,それらを用いることで,生体内でも細胞老化様の現象が起こっていることが報告されるようになってきた.また,遺伝子改変マウスを用いた研究により,細胞老化が発癌と老化に密接に関与していることも明らかになりつつある.本稿ではストレスと細胞老化の関係に焦点を当てて,細胞老化の分子メカニズムとその生体内での役割について考察する. -
テロメラーゼの新機能
241巻11号(2012);View Description
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テロメラーゼは1985 年にはじめてテトラヒメナにおいて発見された逆転写酵素であり,原生動物から哺乳動物まで種を超えて保存されている.1989 年にテロメラーゼはヒトでも発見され,ヒトテロメラーゼの触媒サブユニットであるhTERT は,鋳型として機能する内在性のノンコーディングRNA であるhTERC と結合し,逆転写酵素活性によりテロメア伸長反応に寄与することが広く知られている.しかし近年,hTERT がテロメア伸長反応以外の機能をもつ可能性を示唆する報告があいついでいる.そこで本稿ではhTERT の新機能について紹介し,hTERT は結合する因子により,①テロメア伸長,②内在性siRNA 合成,③幹細胞増殖促進,④がん幹細胞維持を示すことを報告する.とくにhTERT がRNA 干渉や幹細胞維持,がん幹細胞維持といったこれまでに十分に解明されていない生命現象に深く関与している可能性が強く示唆されており,hTERT の新機能に関する研究がさまざまな生命現象を理解する手がかりになりうるのではないかと推測している. -
新しいテロメア蛋白質複合体CST
241巻11号(2012);View Description
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線状染色体の末端構造はテロメアとよばれ,高度な繰返しDNA 配列と,そこに特異的に結合する蛋白質群から構成される.テロメアの生物学的機能は,染色体末端をDNA 損傷として認識される二本鎖DNA 切断と区別することである.機能的なテロメアを欠くと,染色体末端の分解や融合,あるいはDNA 損傷チェックポイントの活性化が起こる.哺乳類においては,シェルタリンとよばれる6 種類の蛋白質からなる複合体がテロメアDNA に特異的に結合することが知られており,これがテロメア機能を研究する鍵であった.しかし近年,著者らのグループをはじめとする研究によって,CST(CTC1-STN1-TEN1)とよばれる3 種類の蛋白質からなる複合体が,あらたなテロメア結合蛋白質として同定された.CST はテロメアにおける末端保護の役割の一部を担いつつ,DNA ポリメラーゼα/プライマーゼによるテロメアDNA の複製を制御することによってテロメアの維持に機能する因子であることが明らかになりつつある.本稿ではCST 研究の最新の知見を紹介し,テロメアバイオロジーのあらたな展開について議論したい. -
テロメラーゼ非依存性テロメア維持機構と疾患
241巻11号(2012);View Description
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正常体細胞が分裂を繰り返すと,やがて細胞老化の状態に至って増殖を停止する.このように正常体細胞には分裂可能回数に上限があるのに対し,がん細胞は無限に増殖することができる.無限に分裂するためには,染色体末端にあるテロメアDNA を伸長により維持することが必須である.多くのがん細胞では逆転写酵素の一種であるテロメラーゼがこの役割を果たしているが,一部のがん細胞ではテロメラーゼに依存しない伸長機構が働いている.このテロメア維持機構はALT(alternative lengthening of telomeres)とよばれ,テロメアDNA どうしの相同組換えと,それにより誘発される新規DNA 合成がかかわる.ALT 機構によりテロメアを維持している細胞はテロメアDNA 長が短いものから長いものまでさまざまであり,染色体外に環状や一本鎖の状態でテロメアDNA が存在し,さらに,一部のテロメアDNA とPML(promyelocytic leukemia)構造体が間期の細胞核内で共局在することが見出されている.このような特徴を指標にして,それぞれのがん細胞がALT 機構によりテロメア維持を行っているかどうかの判定が可能である.また,特定の遺伝子機能を阻害したときに,これらが変化するかを調べることで,ALT 機構に重要な役割をもつ遺伝子が同定されつつある.ALTの分子機構が解明され,それを利用した新しい抗がん剤の開発が期待されている.
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連載
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- 漢方医学の進歩と最新エビデンス 8
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うつの漢方治療:最新のエビデンス
241巻11号(2012);View Description
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うつ(抑うつ)に対する漢方治療は,漢方薬単独での治療,向精神薬の補助薬としての漢方薬併用治療,向精神薬の有害作用(副作用)に対する漢方薬併用治療の3 つに大きく分類される.病的ではない抑うつに対しては,漢方薬単独での治療が可能である.実際に漢方薬を処方するさいには気・血・水という概念を用いることにより,どのような漢方薬を用いるべきなのかを選択することができる.また,向精神薬では完全に取り去ることができない身体症状や精神症状に対しては,漢方薬併用治療が可能である.実際に漢方薬を処方するさいには,残存している症状に応じてさまざまな漢方薬が使用される.さらに,大うつ病性障害や双極性障害の治療に用いる抗うつ薬や気分安定薬,非定型抗精神病薬などの向精神薬の有害作用に対しても,さまざまな漢方薬が用いられる.実際に漢方薬を処方するさいには,出現している有害作用に応じてさまざまな漢方薬が使用される.
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フォーラム
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- 近代医学を築いた人々 6
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- 第76 回日本循環器学会総会・学術集会レポート 2
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冠動脈疾患患者における至適な抗血栓療法―人種差を考える(Optimal Antithrombotic Treatment in Patients with Coronary Artery Disease:Racial Considerations)
241巻11号(2012);View Description
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心筋梗塞,脳梗塞などの血栓性疾患の予防・治療を目的として,多くの抗血栓薬が広く日常臨床に用いられている.比較的安全なアスピリンであっても,重篤な出血性合併症が1 年間に0.2~1%起こるとされている.抗血栓療法は“肉を切らせて骨を切る”治療法である. 心筋梗塞,脳梗塞などの動脈硬化・血栓性疾患の発症リスクには地域差がある.血栓リスクの高い地域では,多少出血イベントが増えても血栓イベントが減る効果のインパクトは大きい.しかし血栓リスクの低い地域では,出血イベント増加のインパクトのほうが大きくなってしまう. これまでの日本循環器学会のプレナリーセッションにおいて,地域の特性が集中的に議論された機会は少ない.今回のセッションでは抗血小板薬の効果にとどまらず,心血管イベント発症率の地域差,その地域差をもたらす要因についても詳細な議論がなされた.アジア地域は人口の面でも経済力の面でも,今後相対的インパクトの増加する地域である.日本から世界に向けて情報発信が加速することを期待している.
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TOPICS
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- 細胞生物学
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- 再生医学
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- 消化器内科学
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