医学のあゆみ
Volume 242, Issue 5, 2012
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【8月第1土曜特集】 B型肝炎―最新治療コンセンサス2012
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- 疫学
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B型肝炎に関する疫学調査の最新情報
242巻5号(2012);View Description Hide Description厚生労働省研究班(肝炎の疫学研究班)が行ってきた調査研究を中心に,B 型肝炎に関する疫学調査の最新情報を紹介する.わが国の成人におけるB 型肝炎ウイルス持続感染者(HBV キャリア)の年齢階級別,地域別にみた分布は,団塊の世代に1~2%のピークをもつこと,近畿以西および東北,北海道で高く,東海~関東以北で低い値を示すこと,全体では2%を超えないことが明らかとなった.HBV 母子感染防止事業実施以後に出生した集団におけるHBV キャリア率は,初回供血者集団では0.05%,岩手県における調査では0.02~0.04%,広島県妊婦調査では0~0.12%ときわめて低いことが明らかとなった.感染を知らないまま潜在しているHBV キャリア数は全国推計で90.3 万人と算出され,適切な時期に適切な治療を行うためにも肝炎ウイルス検査の推進と,検査後の医療機関への受診促進は必要と考えられる. - 対策をめぐる最新情報
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小児B型肝炎の感染予防と最近の治療法
242巻5号(2012);View Description Hide DescriptionB 型肝炎母子感染防止事業により,B 型肝炎ウイルス(HBV)キャリアおよびHBV 関連慢性肝疾患は減少した.しかし,少数ながらHBV 母子感染は発生しており,その3 割が不適切な予防処置例であることは注意を要する.また,父子感染を含めた水平感染や免疫不全状態や移植ドナーの潜伏感染によるあらたなHBV 感染症が問題となっており,B 型肝炎ワクチンのuniversal vaccination の導入が早急に望まれる.B 型慢性肝炎治療はインターフェロン(IFN)による治療が行われている.肝機能障害が続くときは肝生検を行い,肝炎の活動性が高く,肝の線維化が強い場合には小児期から治療を開始することがある.IFN 無効で肝機能障害が続く症例は専門家にコンサルトすべきである. -
Genotype AによるB型急性肝炎の拡大とその特徴
242巻5号(2012);View Description Hide Descriptionわが国のB 型肝炎(HBV)の持続感染者は110 万~140 万人存在すると推定されている.日本のHBV キャリア数は,1986 年に開始された母子感染防止事業に基づく出生児に対するワクチンおよび免疫グロブリン投与により急激に減少した.現在,母子感染による新規のキャリア成立がほぼ制圧されたものの,性行為感染を主体とした水平感染による成人のB 型急性肝炎における欧米型genotype A の増加というあらたな問題が浮上している.Genotype A によるB 型急性肝炎は,他のgenotype と比較して不顕性感染が多く,遷延化や慢性化する頻度が高く注意が必要である.本稿ではB 型急性肝炎の発生数,genotype A の占める割合やその特徴に関して解説する. -
HBVウイルスマーカーとその臨床応用
242巻5号(2012);View Description Hide DescriptionB 型肝炎ウイルス(HBV)感染者は多彩な病態を示す.このため,臨床では各種ウイルスマーカーの特徴を知り,これを使い分けることが必要である.HBV 感染者の診断にはHBs 抗原の測定が優れている.ただし,B 型急性肝炎の診断ではIgM-HBc 抗体を一緒に測定する必要がある.HBV キャリアの自然経過はウイルスマーカーと予測される免疫状態などから病期に分けられている.HBV 活動性の評価にはおもにHBe 抗原/抗体とHBV-DNA 量が用いられる.HBV-DNA 量が4.0 log copies/mL 未満になると肝炎は沈静化し,肝発癌率は低下する.また,近年はHBs 抗原量やHBcr 抗原量が肝細胞中HBV-cccDNA 量を反映する新しいマーカーとして注目されている.HBV 遺伝子型の判定は治療方針決定のために有用な情報をもたらす.これに加え,いくつかの遺伝子変異もその重要性が報告されている. -
HBV無症候性キャリアの自然経過と診療―定期診療の必要性
242巻5号(2012);View Description Hide DescriptionB 型肝炎ウイルス(HBV)キャリアとはHBs 抗原が6 カ月以上にわたって持続陽性を示す症例を指す.このうち血清トランスアミナーゼ値などの肝機能検査異常を認めない症例をHBV 無症候性キャリアとよぶ.HBV無症候性キャリアはHBV キャリアの自然経過において病期の一部であり,能動的に変化することを認識する必要がある.HBV 無症候性キャリアの診断は初診時のワンポイント診療では困難であり,注意深い定期診療の対象と考えられる.初診時にHBV 無症候性キャリアと診断され,その後の定期診療が不十分であった症例において,ときに進行した肝硬変や高度進行肝細胞癌の病態で発見されることがある.こういった症例の多くは患者側・医療側の“キャリア”という言葉に対する理解不足から診療が途絶えていたケースも少なからず存在するものと思われる.“HBV 無症候性キャリア”という言葉は臨床的に軽症である印象を与えるが,“HBV無症候性キャリア=肝正常”ではないことを認識し,病診連携を駆使した診療体制を構築することが重要である. - 治療の最新情報
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B型急性肝炎に対する抗ウイルス治療
242巻5号(2012);View Description Hide Description成人のB 型急性肝炎は90%以上が自然治癒するため,すべての症例に対する抗ウイルス療法は推奨されない.実際の臨床現場では慢性肝炎への移行が危惧される症例に対して核酸アナログが投与されることが多いが,大規模なランダム化比較試験がないため,抗ウイルス治療による慢性化阻止の明確なエビデンスはなく,治療の是非や適応基準のコンセンサスは確立されていない.経過遷延例に対するIFN 治療の有用性が少数例ながら報告されており,ゲノタイプA,ステロイドやグリチルリチン製剤を投与された症例,経過が遷延する症例など,慢性化リスクが高い症例における抗ウイルス治療効果について今後の知見の集積が必要である.B 型急性肝炎の一部は重症化・劇症化する.このような症例に対する核酸アナログ治療の大規模ランダム化比較試験はないが,少数例での有効性の報告があるため,肝移植の検討と並行して核酸アナログによる治療を行うことが推奨される. -
わが国におけるB型劇症肝炎の実態と治療
242巻5号(2012);View Description Hide Description2011 年にわが国における急性肝不全の診断基準が発表され,2011 年度はこれに準拠した全国調査が実施された.急性肝不全の大部分は肝炎像を呈する症例で,ウイルス性症例の大部分はB 型であった.B 型は急性感染例とキャリア例に大別されるが,人工肝補助を中心とした内科的治療による救命率は後者でとくに低率であり,劇症肝炎のみならず,非昏睡型でも救命できない症例が多かった.また,キャリア例には免疫抑制・化学療法を契機に発症する再活性化例が,2010 年になっても多数存在した.B 型劇症肝炎の予後を向上するためには,早期から核酸アナログ製剤による治療を開始することと,再活性化の予防ガイドラインを遵守することが重要である.一方,劇症化した場合は2009 年に発表されたスコアリングシステムまたはデータマイニングの予測法に従って死亡率を算出し,これをもとに肝移植の適応を検討する必要がある. -
B型慢性肝炎に対する核酸アナログ製剤治療の最新情報
242巻5号(2012);View Description Hide DescriptionB 型慢性肝炎の治療に際しては,自然経過を考慮して行うことが重要と考えられる.ウイルス量を一定以下(最近の報告では2.3 log copies/mL 未満)に持続的に抑制させることにより,肝疾患の進行や肝癌発生を抑制することが治療目標となる.わが国においては核酸アナログ製剤の第一選択薬としてはエンテカビル(ETV)があげられる.韓国で治験開発が行われたクレブジン(L-FMAU)には,肝細胞核内のcccDNA に対する効果も期待されたものの,副作用(ミオパチー)の点で世界への普及には至らなかった.また,欧米ではETV に並びテノホビル(TDF)が第一選択薬とされている.ETV とTDF の抗ウイルス効果は高く,耐性出現率の低さはきわだっており,また,これらの耐性変異のプロフィールは異なっているため,核酸アナログ治療は当面この2 剤に集約されつつある感がある. -
核酸アナログ製剤の長期投与成績―ラミブジン,アデフォビル,エンテカビルの長期成績
242巻5号(2012);View Description Hide Description核酸アナログ製剤〔ラミブジン(LAM),アデフォビル(ADV),エンテカビル(ETV)〕は,B 型肝炎ウイルス(HBV)自身がコードするDNA ポリメラーゼを特異的に阻害し,DNA 合成を強力に抑制する.この結果,血中HBV-DNA 量は速やかに低下し,ALT 値も改善する.さらに,組織学的な改善が得られ肝発癌も低下する.しかし,中止により高率に肝炎の再燃を起こすため,現在は長期投与が主体である.長期投与になることを考慮すると,核酸アナログ製剤の適応は35 歳以上の慢性肝炎症例が主体となる.長期投与の成績から,核酸アナログ製剤のなかでは核酸アナログ未使用例に対してはETV が第一選択となる.また,LAM 使用例で耐性ウイルス出現例にはLAM とADV を併用投与する.さらに,LAM 単独投与にてウイルスが陰性化している症例ではETV への切り替えが推奨される.これらの治療の長期成績は良好であるが,少数例で多剤耐性ウイルスの出現を認める.このような場合は新規治療薬が将来的に必要になる症例もある. -
PegIFNとHBs抗原量
242巻5号(2012);View Description Hide Description諸外国では2005 年にB 型慢性肝炎に対するペグインターフェロン(PegIFN)製剤の使用が許可され,多くの患者に対して治療が行われてきたが,2011 年,日本においてもB 型肝炎に対するPegIFN 製剤の使用が許可された.PegIFN 製剤を用いた治療では,核酸アナログ製剤に比較するとその治療効果は20~30%と確実ではないものの,通常は1 年投与で治療を終了しdrug free になれること,HBs 抗原消失率がコントロール群に比較して高い点などの長所がある.一般的に,IFN 治療例では核酸アナログ製剤治療例に比較してHBs 抗原量の低下量の幅が大きいことが多くの論文で示されている.核酸アナログ製剤ではおもにB 型肝炎ウイルス(HBV)の逆転写のプロセスを抑制して抗ウイルス効果を発揮しているのに対し,IFN 治療は抗ウイルス効果に加えて免疫増強効果も有している.それぞれの薬剤の作用機序の違いが,HBs 抗原量の反応性の違いに反映されていると考えられている.また,PegIFN 治療前後のHBs 抗原量のモニタリングは,本治療法の治療効果予測に有用であることが報告されている. -
癌化学療法によるB型肝炎ウイルス再活性化の対策と問題点
242巻5号(2012);View Description Hide Description癌化学療法後のB 型肝炎ウイルス(HBV)再活性化への対策において重要な点は,化学療法前のリスク評価(スクリーニング検査)および再活性化リスクに応じた対策を実施することである.HBV 再活性化による肝障害が出現してから抗ウイルス薬を投与したのでは効果が十分でない場合がある.厚生労働省ガイドラインに従い,治療前HBs 抗原陽性例においては,原則として抗ウイルス薬の予防投与(prophylaxis)を行う.HBV 既往感染例(HBs 抗原陰性例のうち,HBc 抗体陽性and/or HBs 抗体陽性)においては,HBV-DNA モニタリングによるpreemptive antiviral therapy を行う. -
HIV/HBV共感染者の現状とその治療
242巻5号(2012);View Description Hide DescriptionB 型肝炎は,ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者の5~8%にみられる重要な合併症である.HIV/B 型肝炎ウイルス(HBV)共感染者のHBV genotype は慢性化しやすいAe 型が多く,かつ免疫不全が慢性化に関与している可能性がある.HIV/HBV 共感染者の抗レトロウイルス療法(ART)では,強い抗HBV 効果が期待できるテノフォビルとエムトリシタビンを含むレジメンが第一推奨となっており,広く用いられている.不用意な核酸アナログの使用はHIV の薬剤耐性を誘導しかねないため,背景にあるHIV 感染の有無をかならず確認する必要がある.テノフォビルとエムトリシタビンの組合せを含んだART の抗HBV 作用は強力であり,ほとんどの症例で速やかなHBV-DNA 低下をみる.肝細胞癌の発症リスクなど,長期予後についてはまだ不明な点が多い.HIV/HBV 共感染では肝の線維化が速く,HBV-DNA 量もより高く,また死亡率が高いといわれている.抗HIV 療法後,免疫再構築症候群による一時的な肝機能の悪化があることにも留意する.HIV/HBV 共感染者の治療においては,HIV 診療経験のある医師と肝臓専門医との密な連携が不可欠である. -
肝細胞癌局所療法の最新:ラジオ波焼灼術(RFA)
242巻5号(2012);View Description Hide Descriptionわが国において原発性肝癌による死亡数は,肺癌,胃癌,大腸癌に次いで悪性新生物による死因の第4 位であり,その95%は肝細胞癌である.肝細胞癌に対する治療として,穿刺局所療法は肝切除とともに確立した治療法のひとつとなっている.とくにラジオ波焼灼術(RFA)はその高い治療効果から,現在肝細胞癌に対する穿刺局所療法の中心的存在となっている.RFA の適応は,一般的には肝機能Child-Pugh 分類のA またはB,腫瘍径3 cm 以下,腫瘍数3 個以下とされている.RFA はその実際的な治療手技自体も重要であるが,その他術前のプランニングや,治療後の外来での経過観察も,良好な治療成績を達成するために欠かせない要素である.これまでに当科でRFA を施行した初発肝細胞癌の生存率は5 年60.2%,10 年27.3%であった.当科ではRFA に際して体位変換,人工胸水法,人工腹水法などさまざまな工夫を行っている.また最近では,ソナゾイド造影超音波やmultimodality fusion imaging など最新の技術も取り入れて治療を行っている.RFA は今後も画像診断をはじめとしたさまざまな技術革新により,さらなる進歩を遂げることが期待される. -
HBVに対する最新の肝移植事情―肝移植後のHBV再感染とde novo肝炎に対する対応
242巻5号(2012);View Description Hide Description2010 年7 月の臓器法改正後,脳死ドナー提供者が増えてきたが,当初の予想を下まわり,おおよそ年間40~50 例である.一方,脳死肝移植候補者は登録されているだけで400 例弱に及んでいる.このことから,医学的緊急度の高い候補者から優先順位を決めている脳死肝移植においては,劇症肝炎や肝移植後グラフト機能不全などの疾患が優先され,非代償性肝硬変の脳死肝移植実施率がすこしずつ減少傾向にならざるをえない状況となってきている.もっとも核酸アナログの出現により,B 型非代償性肝硬変の肝移植適応者が減少してきていることも事実である.ことHBV に関する肝移植は再感染に対するHBIG と核酸アナログ,とりわけ最近のentecavir の効果は高く,将来的にHBIG の併用が不要になる可能性が示唆されている.一方,anti-HBc 陽性ドナー肝からの肝移植後のde novo 肝炎もHBIG で制御されているが,核酸アナログとの併用が当初から必要なのか,HBV-DNA 陽性時に投与開始すべきかは今後の検討課題と考える. -
B型肝炎に対する新薬開発の最新情報
242巻5号(2012);View Description Hide Description現在わが国でB 型慢性肝炎に対する治療で使用可能な抗ウイルス薬は,従来型インターフェロン(IFN),ペグインターフェロン(PegINF)αなどのIFN 製剤とラミブジン(LAM),アデホビル(ADV),エンテカビル(ETV)などの核酸アナログ製剤である.これらの抗ウイルス薬の導入によりB 型慢性肝炎の治療効果は著しく改善したが,HBsAg が消失しHBsAb が出現するいわゆる“完全著効”を達成する患者はまだ多いとはいえない.また,核酸アナログ製剤の単独療法を中止すると,B 型肝炎ウイルス(HBV)が高率に再増殖することから,核酸アナログ製剤とIFN のsequential 療法が試みられており,核酸アナログ製剤を確実に中止できる方法や指標の模索が続いている.現在,国内外であらたな核酸アナログ製剤の開発や臨床治験が進められており,わが国でも近い将来,欧米ですでに承認されているテノホビル(TDF)が使用可能になる予定である.作用機序の異なる非核酸アナログ製剤や治療用HBV ワクチンの開発も進められており,将来的にはこれらの薬剤をうまく組み合わせることにより治療効果のさらなる向上が期待される. - 基礎研究の最新情報
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B型肝炎病態研究の最新情報―B型肝炎動物モデル
242巻5号(2012);View Description Hide DescriptionB 型肝炎は全世界で約4 億人の患者がいると推定されており,世界的健康問題のひとつである.ウイルス発見以来,基礎から臨床にわたりさまざまな研究がなされてきたが,その病態発症機構は不明のままである.近年,分子生物学的な技術を応用した実験系の開発が進み,小型動物での感染実験により免疫機構との関連が検討できるようになってきた.アデノウイルスベクターを利用した検討では感染初期から慢性感染期の自然免疫や獲得免疫の担当細胞の挙動が解析され,感染初期では制御性T 細胞が肝内に多数誘導されることで,NK 細胞やCD8+ T 細胞,NKT 細胞といった細胞傷害性の細胞を抑制していた.また,この制御性T 細胞がHBV 抗原に対する抗体産生も遅延させていることが示された.さらに,免疫不全下マウスを用いた検討では,HBV 感染によって肝傷害の進展が加速することが示され,移植後肝炎やHIV 共感染下での肝炎における病態モデルとしての有用性が期待されている.このようなHBV 感染後の免疫細胞の動態や肝病態については臨床検体においても確認されており,一連のモデルマウス実験の推進によりB 型肝炎の病態解明が進みつつある. -
ゲノム解析技術のHBVへの臨床応用
242巻5号(2012);View Description Hide Description近年の次世代シークエンス技術の急速な進展により,正確なヒトゲノム解析,トランスクリプトーム解析,エピゲノム解析といったゲノム解析から,膨大かつ多様なゲノム情報を短時間で得られるようになってきている.ゲノム解析技術の急速な進展のなか,ヒト疾患研究におけるゲノムワイドSNP 解析技術を用いたゲノムワイド関連分析(GWAS)の論文報告数は,最初の論文が日本のグループから報告された2002 年以降,まさに右肩上がりで増えている.この背景には,GWAS による疾患関連遺伝子同定の戦略がすでに確立されたものとなっていることがあげられる.著者らはGenome-Wide Human SNP Array 6.0(SNP Array 6.0)およびAxiom Genome-Wide ASI 1 Array Plate(Axiom ASI Array)によるSNP タイピングを効率的に行うためのシステムを構築し,これまでにC 型肝炎の薬剤応答性に関与するIL28B 遺伝子やC 型慢性肝炎ペグインターフェロン・リバビリン併用療法中の血球減少に関連するITPA/DDRGK1 遺伝子などを同定した.本稿では,SNP Array 6.0 およびAxiom ASI Array を用いた,日本人健常人420 検体を対象としたタイピング結果を一例として紹介し,HBV 研究におけるGWAS の成果をまとめる. -
ゲノミクスによるB型肝炎の特徴
242巻5号(2012);View Description Hide Description一塩基多型(SNP)を網羅的に同定し,病態との関連を解析するGWAS や遺伝子発現を網羅的に解析するcDNA マイクロアレイやDNA チップ,さらには癌組織における体細胞変異などに代表されるレアバリアントを同定するための次世代シークエンサーなどゲノミクス技術が普及している.慢性肝炎,肝硬変,さらには肝細胞癌発症の主因であるHBV およびHCV の両肝炎ウイルスが発見され,数十年が経過した.治療法の進歩に伴い,ウイルス制御も可能になりつつあるが,治療抵抗性,肝発癌の問題が依然として残っている.ゲノミクスを応用し,両肝炎の病態の違いや,肝発癌阻止を見据えたウイルス制御を目的とした詳細な解析が可能になってきている. - 感染予防の最新情報
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ユニバーサルワクチネーション導入に向けて―克服すべき問題点
242巻5号(2012);View Description Hide DescriptionB 型肝炎ワクチンは世界的には乳児全員に接種が行われるユニバーサルワクチンであるが,わが国ではB型肝炎ウイルス(HBV)感染の危険性が高い集団に対してのみワクチン接種が行われる任意接種(セレクティブワクチネーション)である.わが国では,母子感染防止事業によりHBV キャリア数は激減しているが,一方でB 型急性肝炎は若年者を中心とした性行為感染症(STD)として増加傾向である.とくに遷延化・慢性化率の高いgenotype A による感染が主体となっている.STD としてのB 型肝炎感染拡大や乳幼児期の父子感染,施設内感染を防止するため,またde novo 肝炎の発生を防止するためにも,わが国もユニバーサルワクチネーションの導入が必要である. -
献血者におけるHBV感染状況
242巻5号(2012);View Description Hide Description献血者におけるHBs 抗原陽性率は,陽性通知の効果もあって年々低下してきている.年代別では50 歳代をピークとして高齢者側で陽性率が高く,若年者側での陽性率は低い.とくに1985 年6 月から開始された,公費による“B 型肝炎の母子感染防止対策事業”開始以降の出生者で陽性率の低下は顕著である.地域別では従来から報告されている北海道・九州の陽性率が高く,ついで中四国,近畿,東北,関東甲信越・東海北陸の順である.HBs 抗原陽性者の約9 割はB 型肝炎ウイルス(HBV)キャリアと考えられ,残りの約1 割は新規感染者と考えられた.HBV キャリアでは日本で多いといわれている遺伝子型C と遺伝子型B で大半を占めるが,新規感染者では遺伝子型A が約2 割を占め,外国型HBV が性感染症として国内で広がっている.さらなる感染の拡大も危惧されており,HB ワクチン接種などの水平感染防止対策の検討が必要であると思われる.
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