医学のあゆみ
Volume 242, Issue 8, 2012
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あゆみ 自己免疫疾患―自己抗体の認識抗原と病因的意義
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抗MDA5/IFIH1抗体と皮膚筋炎・急速進行性間質性肺炎
242巻8号(2012);View Description Hide Description抗CADM-140(MDA5)抗体は皮膚筋炎(DM)特異的抗体であり,とくに筋症状の少ないclinically amyopathicdermatomyositis(CADM)に多く認められる.同抗体陽性例は高頻度に急速進行性間質性肺炎を呈し,予後不良である.血清フェリチン値高値・肝胆同系酵素上昇・血球減少・血清IL-6 高値という特徴からはマクロファージ活性化が本抗体陽性例の病態に関連している可能性が示唆され,実際,肺や肝・骨髄におけるマクロファージの増加が認められることも報告されている.MDA5 は細胞内でウイルスRNA を認識し下流にシグナルを伝え,Ⅰ型インターフェロン産生を誘導する.自己抗原・自己抗体がDM と間質性肺炎の病因・病態とどのように関連するかいまだ証明されてはいないが,MDA5 の遺伝子多型がⅠ型糖尿病などの自己免疫疾患発症と関連があることが近年つぎつぎと報告されている.自己免疫疾患発症における自然免疫の役割について,今後さらなる研究が必要である. -
シェーグレン症候群における抗M3ムスカリン作働性アセチルコリン受容体抗体
242巻8号(2012);View Description Hide Descriptionシェーグレン症候群(Sjögren’s syndrome:SS)は唾液腺炎・涙腺炎を主体とし,さまざまな自己抗体の出現がみられる自己免疫疾患である.近年,SS 患者において外分泌腺に発現し,腺分泌に重要な役割を果たすM3 ムスカリン作働性アセチルコリン受容体(M3R)に対する自己抗体の存在が報告され,SS の病態への関与,診断マーカー,治療ターゲットの可能性から注目されている.著者らはSS 患者において,M3R の4 つの細胞外領域に対する自己抗体の存在を明らかにした.さらに,抗M3R 抗体はM3R アゴニスト刺激後の唾液腺上皮細胞内Ca 濃度上昇に影響し,その影響はエピトープにより異なる可能性を示した.以上の結果から,抗M3R 抗体は複数のエピトープを有し,M3R を介する唾液分泌に影響する可能性が示唆された.また,唾液分泌への影響は抗M3R 抗体のエピトープにより異なる可能性も示された.現時点ではSS において,抗M3R 抗体は病因と関連する自己抗体の有力な候補であると考えられる.今後,さらなるデータの集積が望まれる. -
抗シトルリン化蛋白抗体と関節リウマチ
242巻8号(2012);View Description Hide Description関節リウマチ患者(RA)では発症早期よりその血清中に抗シトルリン化蛋白抗体(ACPA)が高い特異度で出現するため,RA の病因・病態とACPA の関連が注目されている.ACPA はRA の骨破壊の進行リスクでもあり,臨床においてはRA の診断および治療選択にも重要な意味をもつ.ACPA の病因的意義については,炎症関節には種々のシトルリン化抗原が存在し,ACPA と免疫複合体を形成することで関節炎の発症・増悪に関与していると考えられている.また,長期にわたるRA に合併する脾腫と好中球減少を特徴とするFelty 症候群患者では抗シトルリン化ヒストン抗体が出現することが報告され,好中球減少の原因と推測されている.ACPA の出現機序として近年,口腔内細菌感染(Porphyromonas gingivaris)との関連が報告されており,RAの病因の可能性があるといわれている.ACPA の対応抗原としてα-エノラーゼ,ビメンチン,フィブリノゲンが報告されており,これらの抗原により惹起される関節炎マウスモデルが報告され,関節炎発症にシトルリン化蛋白への免疫応答が関与していることが推測されている. -
抗トロンボポエチン受容体抗体と無巨核球性血小板減少症
242巻8号(2012);View Description Hide Description血小板に対する自己免疫疾患として知られている免疫性血小板減少症(ITP)では,血小板膜表面に発現したGPⅡb/Ⅲa など糖蛋白に対する自己抗体により,網内系での血小板の破壊が促進する.一方,骨髄巨核球が著減する病態が知られており,無巨核球性血小板減少症(AMT)とよばれる.最近著者らは,血小板産生に必須な造血因子であるトロンボポエチン(TPO)の受容体を認識する自己抗体が造血幹細胞や巨核球上のTPO 受容体へのリガンド結合を阻害し,後天性AMT を誘導することを明らかにした.抗TPO 受容体抗体は,特発性ITP や血小板減少を伴う全身性エリテマトーデス(SLE)でも低頻度ながら検出される.抗GPⅡb/Ⅲa 抗体と併存することが多く,骨髄における巨核球低形成と強く関連する.また,抗TPO 受容体抗体陽性例はステロイドや免疫グロブリン大量静注療法に対する反応が不良で,治療抵抗性である.抗TPO 受容体抗体は巨核球低形成による血小板減少症と関連する新規の病因的自己抗体であり,その検出は血小板減少症の病態解析に有用である. -
血栓性血小板減少性紫斑病と抗ADAMTS13抗体
242巻8号(2012);View Description Hide Description血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)は無治療の場合は致死率90%以上の予後不良の疾患であるが,適切に診断し,血漿交換を行うことで致死率が20%以下に低下する.長く病因不明であったが,von Willebrand 因子(VWF)切断酵素(ADAMTS13)の活性著減が大部分の症例で認められることが明らかとなった.ADAMTS13活性著減により血小板との結合能が非常に強い超高分子量VWF マルチマー(UL-VWFM)が切断されずに流血中に存在し,微小血管で血栓を形成することでTTP が発症することが想定されている.先天性TTP(Upshaw-Schulman 症候群)はADAMTS13 遺伝子に異常があり,後天性TTP ではADAMTS13 に対する自己抗体(インヒビター)が産生されることで,同活性が著減する.ADAMTS13 に対する自己抗体の大部分はIgG 型である.少数例でIgA 型やIgM 型も存在するが,臨床的な意義は明らかでない.ADAMTS13 に対するIgG 型自己抗体のエピトープ解析によって自己抗体の認識部位も明らかになりつつあり,機能解析につながっている. -
抗PLA2受容体抗体と特発性膜性腎症
242巻8号(2012);View Description Hide Description特発性膜性腎症(IMN)は成人のネフローゼ症候群の40%を占め,20 年で40%が末期腎不全に至るという予後が悪い疾患であることから,その根本的な治療法の開発が望まれている.2009 年にIMN のおもな原因がポドサイトに発現するホスホリパーゼA2(PLA2)に対する自己抗体ができることであると判明し,約70%のIMN 症例の血清中に抗PLA2 受容体(R)抗体があることが報告された.この抗体の産生を抑制する,または抗体を除去することによるIMN の治療の可能性が示唆された.膜性腎症の治療には副腎皮質ステロイドおよびシクロスポリンによる治療が行われている.一方で,B 細胞の消滅に目標を絞ったCD20 の分子標的薬であるリツキシマブを使用したIMN に対する治療の有効性も報告されている.リツキシマブはPLA2R 抗体を低下させ,それに遅れて尿蛋白が減少する.
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連載
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- 漢方医学の進歩と最新エビデンス 14
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慢性閉塞性肺疾患(COPD)の漢方治療:最新のエビデンス
242巻8号(2012);View Description Hide Description慢性閉塞性肺疾患(COPD)は最近の疫学調査で,日本において約530 万人もの患者数が推定されている重要な疾患である.COPD 患者では全身合併症として栄養障害,ヤセがあり,これによって呼吸筋力の低下が起こる悪循環が存在する.さらに,重要な病態としてウイルス感染などをきっかけに,急性増悪を起こすことがあげられる.漢方補剤である補中益気湯は,元来,ヤセて栄養状態の悪い虚証に適応がある方剤で,消化吸収能を改善し,また直接的な免疫増強作用も有していることから,COPD の病態に適していると考えられる.COPD に対して補中益気湯が長期に投与され,実際に体重の増加,感冒罹患回数の減少といったことが確認されている.そのほか,COPD の咳に対しての麦門冬湯,痰に対しての清肺湯の報告があり,これらの漢方薬がCOPD に対して用いられる.
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注目の領域
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米国での医薬品迅速承認制度の現状と課題―midodrine, gemtuzumab ozogamicin, bevacizumabを例に
242巻8号(2012);View Description Hide Description米国において,代替エンドポイントに基づく医薬品の承認制度である“迅速承認制度”は重篤疾患における新薬の速やかな入手を可能にする一方で,制度開始から約20 年経過した2010 年には,迅速承認により市販されていた医薬品がFDA によりはじめて承認取り消しとなる事例が生じた.このような事態の背景には,臨床的ベネフィットを確認するための試験に関する問題点や,試験を実施しても臨床的ベネフィットが確認されないなどの代替エンドポイントに関する問題点があることが指摘されている.
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フォーラム
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- 近代医学を築いた人々 8
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- “教養”としての研究留学 Extra edition 1
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TOPICS
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- 小児科学
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- 神経内科学
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