医学のあゆみ
Volume 246, Issue 9, 2013
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【8月第5土曜特集】 抗がん剤外来治療コンセプトシート2013
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- 抗がん剤の外来治療と注意点:総論と背景
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安全管理の重要点―総論
246巻9号(2013);View Description Hide Description近年,がん化学療法は分子標的薬の進歩などにより,多くの施設で外来化学療法室が設置され,入院治療から外来治療が主体となってきている.このような背景によりいままで以上にがん化学療法に対する安全管理を徹底することが重要となってきている.とくに抗がん剤は毒性が強く,投与計画も複雑であることから,薬物の適正使用,レジメン管理,抗がん剤投与時の注意事項,安全な取扱いなどが重要で,安全管理についてしっかりとしたシステムを構築することが重要である.外来化学療法で起こりうる注意点として,血管外漏出,過敏症,インフュージョンリアクションなどがあげられ,これらに対してマニュアル整備をしっかりと行い,適切な対応・管理をすることで,安全性と質を維持し,外来治療における患者の満足度を高めることができる. -
DPC導入と外来抗がん剤治療の変化―1日定額払いによる“外来シフト”はあったのか
246巻9号(2013);View Description Hide DescriptionDPC/PDPS とは,急性期入院医療を対象とした診療報酬の包括評価制度で,在院日数に応じた1 日当りの定額報酬を基本としている.1 日定額払いとしたことで,高額な抗がん剤治療を行うと病院の持出しになるため,いわゆる“外来シフト”が起こり,外来抗がん剤治療が普及したとされる.しかし,国の公表資料・データから判断するかぎり,こうした事実は確認できなかった.むしろ,がんの化学療法を不便な入院ではなく通院しながら外来で受けたいという患者・家族のニーズに医療技術が追いついてきたことが大きい.さらに,2002 年度の診療報酬改定で新設された外来化学療法加算において2004 年度に一定の要件が撤廃されたことに加えて,その後の加算の増額が背景にあると推測される.しかし,外来抗がん剤治療も万能ではなく,入院適用の可否や一定のリスクマネジメントが求められる.また,経済的負担による受診抑制や拡大する地域間格差の解消,さらには医師の犠牲的な貢献をいかに診療報酬で手当てするかも今後の課題である. -
外来化学療法における支持療法とFNの予防
246巻9号(2013);View Description Hide Descriptionがん薬物療法においては骨髄抑制が最大の用量規定因子であり,発熱性好中球減少症(FN)を中心とした感染症の管理が重要である.FN の重症度はMASCC スコアで評価する.感染症予防はがん腫と治療レジメンに応じて行い,がん腫としては造血器腫瘍,治療レジメンとしてはプリンアナログ,ステロイドなどを含むものが問題となる.ウイルス感染症はHBV 再活性化,帯状疱疹が問題となり,HBV-DNA のモニタリングや予防投与が重要である.インフルエンザや肺炎球菌のワクチン接種はがん薬物療法実施と間隔をあけて行う.手指消毒は感染予防の基本であり励行する.低リスクFN 群は外来治療可能であるが,初期治療抵抗性の症例もあり,入院治療を実施できる体制を整えておく必要がある.G-CSF はFN 発症頻度に応じて一次予防投与を行う.一般的にFN に対するG-CSF の治療的投与は推奨されない. -
治療導入前の歯科受診と治療開始後の歯科的支持療法
246巻9号(2013);View Description Hide Description抗がん剤外来治療に伴い口腔内に出現する口腔有害事象は,基本的に治療後に回復が望める可逆性のものがほとんどである.がん治療医のなかには口腔の問題は生命に直接かかわる重大な問題ではないとの考えもあり,口腔有害事象の対処方法やケア方法は看護師にすべて任せる医師も少なくなかった.しかし,口腔粘膜炎や口腔感染症などの口腔有害事象ががん治療中の患者QOL を著しく低下させるうえに治療を中断・中止させる原因になることや,骨転移に対するビスホスホネート剤や抗ランクル抗体による重篤な顎骨骨髄炎・骨壊死の発症が報告され,がん治療に従事する医師・看護師に,治療中の口腔管理の重要性が認識されるようになった.昨年度より“がんチーム医療の推進”をはかるために,がん対策推進基本計画に口腔ケアを医科歯科連携で行うことが文言化され,歯科診療報酬としてがん患者の口腔機能管理が評価されるようになった.今後,歯科的支持療法を導入しない抗がん剤外来治療はありえない時代が来るのは間違いない. - 抗がん剤の外来治療と注意点:各論
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大腸癌に対する化学療法
246巻9号(2013);View Description Hide Description大腸癌の化学療法は外来治療が中心となってきている.切除不能進行癌のみならず,術後治療など化学療法の有用性は多岐にわたる.新規薬剤の登場により治療成績が向上してきている一方で,抗腫瘍薬には特徴的な有害事象があり,治療継続には適切な管理を要する.本稿では現在の標準治療と今後の検証課題や,外来における化学療法の注意点について解説する. -
外来での胃がんの化学療法
246巻9号(2013);View Description Hide Description胃がんに対する化学療法は,外科切除例に対して生存成績向上をめざした術後の化学療法と,遠隔転移を有する症例に対する症状緩和や延命を目的とした全身化学療法に大別される.胃がんの化学療法を外来で行うことは患者のquality of life(QOL)の観点のみならず,入院期間短縮の要請が高まっていることや包括評価(DPC)導入の拡大など,昨今のわが国を取り巻く医療体制・医療経済の観点からもその必要性は高く,今後の大きな課題といえる.胃がん治療の術後補助化学療法・全身化学療法を安全にQOL を維持しながら行うためには,治療として用いられる使用薬剤の有害事象を管理することが重要である.本稿では胃がんの化学療法における治療と代表的な有害事象の管理について概説する. -
腎細胞癌―mTOR導入のもたらしたものは
246巻9号(2013);View Description Hide Description進行性腎細胞癌に対する分子標的治療はめまぐるしい発展を遂げている.現在国内で使用可能な分子標的薬は5 種類で,チロシンキナーゼ阻害薬とmTOR 阻害薬に分類され,それぞれの薬剤で大規模試験により治療効果が確認されている.mTOR 阻害薬の出現によって治療の選択肢が増え,チロシンキナーゼ阻害薬抵抗性例や,重篤な有害事象によってチロシンキナーゼ阻害薬中止となった例でも,分子標的治療を継続することが可能となっている.進行性腎細胞癌に対する分子標的治療の長期継続に一番重要なのは,有害事象のコントロールである.有害事象の多くは早期から対処することでマネージメント可能であることから,まずは早期発見を第1 の目標とする.そのためには医師,看護師,薬剤師などが密接な連携を取りながら,患者から得た情報を共有してチーム医療を実践していくことが重要である. -
乳がん―外来治療と地域連携
246巻9号(2013);View Description Hide Description現在,乳がん薬物療法はほとんどの場合,入院ではなく外来通院で行われている.そのため地域における病病・病診連携は比較的可能な領域である.また薬物療法におけるクリティカルパスを地域で共同して作成・実施することは,治療の標準化や安全管理の向上につながる.がん診療連携拠点病院において専門的な治療の方針決定・導入を受け,自宅に近い地域のかかりつけ医療機関において標準化した治療と副作用対策がなされるため,患者・家族は恩恵が受けられる.地域連携クリティカルパスでは,乳がん標準的薬物療法のうち,まずはリスクの比較的少ない術後補助治療における内分泌療法から導入し,地域連携クリティカルパスモデルを開発し,ネットワークの構築を試みている.がん治療の連携にあたり,患者への説明や薬剤個々の副作用などに注意を要するため,その画一化は容易ではないとされるが,クリティカルパスを用いることで,より標準化した安全な医療が提供できる.本稿では,現在活用中の地域連携クリニティカルパスを紹介しながら,その背景・利点・問題点と対策について述べる. -
婦人科がん
246巻9号(2013);View Description Hide Description婦人科領域の主要ながん腫である子宮頸がん,子宮体がん,上皮性卵巣がんのいずれにおいても外来投与が可能なパクリタキセル+カルボプラチン併用療法(TC 療法)およびdose dense TC 療法(dd-TC 療法)の比重が最近増してきている.それに伴い婦人科がんの治療において今後ますます外来化学療法の位置づけが高まることが予想される.本稿では,婦人科がん領域における化学療法の概略と,主要なレジメンについての外来投与時の注意点を解説する. -
原発不明癌
246巻9号(2013);View Description Hide Description原発不明癌(CUP)は,“あらゆる診察や検査によっても原発巣が同定できない転移性腫瘍”と定義され,癌全体の1~5%を占めている.一般的にCUP は予後不良であり,今日の優れた診断技術をもってしても原発巣の特定には限界があるため,検査に時間を費やすあまりに治療の機会を逸してしまうこともある.したがって,必要十分な検査を迅速に行いながらも,原発巣特定の見込みが少ないと判断したときには,原発不明癌として速やかに治療を行うことが重要である.CUP には予後良好のsub group があり,この群に対しては特異的な治療により効果を期待できる.一方,予後不良群に対する標準治療は現在までに確立していないが,一次治療としてはプラチナ系薬剤とタキサン系薬剤の併用療法がもっとも頻用される.医療スタッフは,外来で安全にCUP 症例に対する化学療法を施行するため,血管外漏出や過敏反応などのリスクを十分に認識したうえで,有害事象の予防法と発生時の対応について十分把握しておくことが重要である. -
頭頸部癌―セツキシマブ(Cmab)登場によるあらたなチーム医療の展開
246巻9号(2013);View Description Hide Description頭頸部癌は初診の時点でStageⅢ・Ⅳ期の進行例が50%以上を占める一方で,機能・形態温存を含むQOLの維持が治療に要求されるため,多職種が関与するチーム医療の体制で行われている.標準的治療は手術と放射線療法であり,化学療法はこれらと併用しての集学的治療や再発・転移に対する緩和的な治療として行われている.組織型の90%以上を占める扁平上皮癌が症例も多く,この組織型を中心に治療開発が進められてきた.上皮成長因子受容体(EGFR)は頭頸部扁平上皮癌の80~90%に過剰発現が認められており,これに対する分子標的治療薬の開発が行われ,モノクローナル抗体であるセツキシマブ(Cmab)で放射線療法や化学療法への上乗せ効果が報告され,わが国でも大腸癌に続き保険適応となった.本稿では,頭頸部癌に対するCmabを用いた治療とその外来での実施について解説する. -
骨髄異形成症候群―アザシチジンによる外来治療
246巻9号(2013);View Description Hide Description移植非適応の高リスク骨髄異形成症候群(MDS)に対して,アザシチジン(AZA)は第一選択薬である.臨床試験で約50%の血液学的改善率と9 カ月の生存期間延長を示した.AZA はDNA メチル化阻害作用により抗腫瘍効果を示す薬剤であり,低リスクMDS や高齢者においても治療効果が期待されている.AZA 投与症例に対しての予後予測モデルが提唱され,適応の決定の際に有用である.AZA は外来投与が可能で,7 日間連続皮下投与が標準投与法であるため,週末や毒性の問題から投与日数に関しての変法が検討されている.投与期間については,MDS の進行や重篤な毒性がなければ最低4~6 サイクル必要であり,効果が持続しているかぎり投与を継続することが最良効果を得るうえで重要である.血液毒性はAZA 投与においてもっとも多い有害事象であり,多くが最初の1~2 サイクルに認められる.支持療法や必要に応じ減量・休薬を行い,治療を継続することが重要である. -
骨髄腫―ベルケイド(R)の静脈投与から皮下投与へ
246巻9号(2013);View Description Hide Descriptionプロテアソーム阻害剤の発見によって悪性疾患の治療を改善するという希望を果たすことはできなかったが,最初のプロテアソーム阻害剤であるボルテゾミブ(ベルケイド(R))は,初発あるいは再発難治性多発性骨髄腫において予後の改善に寄与してきた.ボルテゾミブと高用量デキサメタゾンを比較した大規模ランダム化試験であるAPEX 試験の結果では奏効率,無増悪生存率,全生存率においてボルテゾミブの優位性が証明され,この結果をもってボルテゾミブの再発難治性多発性骨髄腫での使用が承認された.さらに,他の薬剤との併用によってその作用が増強されることも証明され,つぎの段階は新規多発性骨髄腫へと移行した.事実,ボルテゾミブ・メルファラン・プレドニゾン(VMP 療法)は高齢者の新規骨髄腫患者の標準治療として承認された.しかし,投与に必要とされる経静脈ルートと同様に,毒性とくに神経障害は,2 つのもっとも重大なボルテゾミブ関連事項である.末梢神経障害を減じる試みとして,週1 回の投与スケジュールの導入と管理の新しいガイドラインによって神経障害の頻度は有意に減少し,経静脈投与を避けるために,皮下投与が近年導入されてきた.第Ⅰ/Ⅱ相および第Ⅲ相試験の結果から,皮下投与は実現可能でボルテゾミブ使用の最適化に向かったさらなる段階を意味し,結果として,すくなくとも効果は同等であるが,経静脈ルートよりもっと便利な方法であることが判明した. -
リツキシマブの外来治療とrapid infusion
246巻9号(2013);View Description Hide DescriptionCD20 抗原陽性悪性リンパ腫に対して,リツキシマブが抗腫瘍効果を発揮することが証明され,R-CHOP療法は標準治療となった.リツキシマブは悪性リンパ腫治療において安全で有効な薬剤であることはいうまでもないが,投与の際,インフュージョンリアクションが出現することがよく知られており,初回投与でとくに問題なくとも,2 回目以降もその投与には数時間かかっていた.2013 年6 月,急速投与での投与方法が公知申請され承認された.急速投与法の承認により,とくに外来治療では患者はもちろん,医療従事者間でも,より簡便で快適なリツキシマブ投与が期待されている. - 設備環境・技術
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外来化学療法センターのアメニティ
246巻9号(2013);View Description Hide Descriptionがん化学療法はこれまでおもに入院で行われていたが,近年,支持療法の進歩に伴い,患者のQOL(qualityof life)向上や医療経済の面から外来治療が普及してきた.快適な治療環境を提供するためには,建物の空間や設備などのハード面とともに人的サービスや情報提供などのソフト面の充実も必要となる.本稿では,当がんセンターをモデルとして外来化学療法センターのアメニティについて概説する. -
外来癌治療における皮下および筋肉内注射薬剤
246巻9号(2013);View Description Hide Description現在,癌治療領域において外来で行われている皮下注射および筋肉内注射のおもな薬剤として,内分泌治療薬やG-CSF 製剤などがある.従来,これらの薬剤は外来診察時に医師により投与されていたが,外来化学療法室の整備や診療報酬改正により,外来化学療法加算の適用が拡大したこともあり,最近では化学療法室において看護師により投与される施設も増えている.これらの薬剤投与に際し,個々薬剤の特性,副作用,合併症,投与間隔・方法などについて医師・看護師および薬剤師が共通の認識として共有することは,適正な医療提供とともに医療安全遂行のためにも大切である.本稿では,とくに皮下注射薬剤,筋肉注射薬剤のなかで外来使用が多い内分泌療法薬剤を中心に,薬剤の特徴,投与方法,投与の注意点,合併症などについて述べる. -
ミキシング後の安定時間が短い薬剤とまち時間対策―“ファストパス”の導入
246巻9号(2013);View Description Hide Description近年,がん治療では外来通院治療に重点がおかれている.抗がん剤治療は初回導入時のみ入院で,その後は外来通院で治療継続している.当院では1 日200 名に抗がん剤を投与しているが,そのうち外来患者は100名ほどである.2010 年12 月に低悪性度B 細胞性非Hodgkin リンパ腫などを適応とするトレアキシン®(ベンダムスチン)という抗悪性腫瘍剤が発売された.溶解時間後3 時間のうち,1 時間で投与しなければならないという安定時間の制限がある.そのため従来,医師の実施確定順にミキシングしているが,トレアキシン® だけは溶解後の注射を速やかに開始できるように優先した運用を作成し“ファストパス”と称している.患者がATC に青色のファイルに入れたファストパスを提出してすぐに着席し,静脈ルートの確保の準備ができた段階で,ATC 看護師が電話で薬剤部ミキシングルームに連絡をしてからミキシングを開始する.この取組みは外来看護師側からの依頼によって,運用が開始された. - 治験
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外来における治験での留意点
246巻9号(2013);View Description Hide Descriptionがんの薬物療法の主体が外来へと移行するに伴い,多くの治験が外来で実施されるようになった.治験を実施する場として,外来・入院を問わず,被験者の安全に最大限配慮しながら,治験を正確かつ効率的に実施するという原則は同じである.しかし,外来では限られた短い時間のなかで,質を落とすことなく実施することが求められる.また,治験を成功させるためには,短期間のうちに必要とされる症例数を満たす症例集積能力をもつことが必要とされている.本稿では,当施設での経験を参考にしながら,外来での治験における注意点や工夫のポイントについて解説する. - 各職種の役割
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外来がん化学療法室に勤務する看護師への教育
246巻9号(2013);View Description Hide Description入院治療と同等の質の高い外来がん化学療法の遂行には,短い時間でいかに医師・薬剤師・看護師が安全かつ効率的,そして有効にかかわるかが要である.とくに外来がん化学療法室に勤務する看護師は,薬物の投与管理や副作用の対応,セルフケア支援だけでなく,患者の抱える不安や日常生活への支障に対する心理・社会的支援や意思決定支援を継続実践する中心者でありうるため,教育体制の充実が非常に重要だと思われる.当がん研究会有明病院外来治療センターでは,臨床現場で各種マニュアルをもとに指導する現任教育と,机上学習を主体とした集合教育を外来がん化学療法室の看護師教育の基盤とする.がん化学療法の理解,緊急時の対応,血管確保,曝露対策,そして患者支援などのケアアプローチの方法を直接ケアと看護カンファレンス,チーム活動,合同カンファレンスなどを通して学んでいる. -
医師からみた点滴確保に必要な知識―外来がん化学療法室での点滴確保において看護師の不安を軽減させるために
246巻9号(2013);View Description Hide Descriptionがん分子標的薬の登場や支持療法の進歩,患者価値観の多様化,医療費抑制政策などさまざまな要因をもとに,入院治療が中心であった抗がん剤治療は外来通院で行う時代になりつつあり,医師の負担が増している.そのような医療の複雑化にあって,安全かつ効率的な医療を提供するために,看護師,薬剤師といった専門職と連携するチーム医療の重要性がますます高まっている.本稿では,外来がん化学療法室で看護師が点滴確保を行うにあたり,その不安を軽減させるために医師の視点からがん化学療法における点滴確保,抗がん剤投与で必要な知識について整理して提示する. -
通院治療センターにおける外来薬剤指導
246巻9号(2013);View Description Hide Descriptionがん患者が増加していくなかで,さまざまながん薬物治療の開発が進められている.従来は殺細胞効果を有する抗がん剤を単剤あるいは併用して治療に供されてきたが,近年,さまざまな分子標的薬剤の臨床導入により飛躍的な効果を導いてきた.そのめざましい効果の反面,有害事象に関しても従来経験しえなかった症状発現に苦慮するようになってきた.当院の場合,がん薬物療法を実施する患者の2/3 以上が外来治療として実施しており,居宅における患者自身による有害事象に対するセルフケアが治療成功のための重要な要因となっている.治療に用いる各薬剤の特性に応じて,有害事象の発現時期やその対策などを薬学的視点から的確に情報提供し,患者自身によるセルフケアを支援することは非常に重要である.また居宅における支援に関し,化学療法ホットラインとして専用電話回線を用意し,患者からの問合せに対し通院治療センター専従の薬剤師・看護師が初期対応を行い,支援強化を図っている. -
抗がん剤治療にかかわる薬剤師の教育と実践
246巻9号(2013);View Description Hide Description抗がん剤に関する薬剤師の教育として重要なことは,専門的知識以前にまず薬学的基礎教育の十分な習得である.すなわち,薬剤師として薬学全般に対する知識・技能をもっていることが基礎となる.そのうえで,がん領域に関し抗がん剤を中心とした高度な知識・技術を兼ね備えた専門知識を習得していなければならない.がんの疫学的知識からがんの終末医療までの幅広い知識を習得するよう心がける必要がある. -
経口抗がん剤の服薬指導―アドヒアランス向上をめざした多職種連携
246巻9号(2013);View Description Hide Description近年,がん治療は入院から外来へとシフトし,多くのがん患者が外来で治療を受けている.また,医薬分業の進展に伴い1),経口抗がん剤,がん化学療法の支持療法薬,麻薬なども院外処方とする病院・診療所が増えつつあり,保険薬局におけるがん患者サポート体制の構築が急務となっている.しかし,多くの保険薬局では患者情報,治療内容などの情報がほとんどない状況で服薬指導しなければならない2).そのうえ,経口抗がん剤においても,注射抗がん剤との併用レジメンが増えたことや,分子標的治療薬の登場などにより,副作用が多様化・重篤化している.ますます,患者指導の重要性がクローズアップされている今,保険薬局も含めた多職種によるチーム医療が不可欠である.本稿では,愛知県がんセンター中央病院における経口抗がん剤のアドヒアランス向上をめざした医看薬薬連携の取り組みについて紹介する. -
注射薬抗がん剤調製―手技のポイント
246巻9号(2013);View Description Hide Description多くの抗がん剤は細胞毒性,変異原性,発がん性を有するため,調製時の被曝によって医療従事者における皮膚炎や発がんの危険性が報告されている.そのため日本病院薬剤師会の『注射剤・抗がん薬 無菌調整ガイドライン』1)などを参考に,施設ごとにその取扱いを規定したマニュアルを作成し,それに基づいた調製を行う必要がある.通常,抗がん剤は薬の種類や量,投与方法などを時系列で示した“レジメン”とよばれる治療計画書に従い,処方・調剤(調製)・投薬される.注射薬抗がん剤の調製は通常の注射薬の調製とは取扱い手技が大きく異なるため,調製する際に留意するポイントについて概説する. -
抗がん剤外来治療における臨床検査のあり方
246巻9号(2013);View Description Hide Description抗がん剤の治療前には,末梢血データ,とくに白血球数の確認は必須である.その他,腎機能,肝機能といった基本的な検査によって全身状態を把握することも望ましい.検査室は,外来迅速検査の一環として,採血から結果報告までスムーズに行える体制を整備したい.また当然ながら,通常検査と変わらぬ品質を維持しなければならない. - 外来での有害事象管理
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外来化学療法中の管理と副作用対策
246巻9号(2013);View Description Hide Description近年,がん化学療法は入院ではなく外来で行われるようになってきた.副作用をコントロールする支持療法の開発や在院日数の短縮,包括医療制度の導入により入院治療から外来治療へ加速した.外来で安全に治療を行うためには短時間で患者の状況を把握し,個別の問題をアセスメントしながら患者がセルフケアを行えるように支援していくことが重要である.さらに,抗がん剤治療中は安全に,正確に投与が行われ看護師による有害事象対策を行うことで,患者がQOL を保ちながら治療効果が最大に得られるために,治療を完遂できるようにケアすることがもっとも重要である. -
Infusion reaction
246巻9号(2013);View Description Hide Descriptionモノクローナル抗体は細胞傷害性抗がん剤と比較して毒性が低い一方で標的への高い特異性を有しており,いまやがん薬物療法における中心的存在として広く用いられるようになった.Infusion reaction とはモノクローナル抗体に共通してみられる特徴的な有害事象であり,投与開始24 時間以内にみられる有害事象を総称したものである.Infusion reaction の症状や程度は薬剤によっても異なり,多くの例では発熱,悪寒,掻痒感,頭痛などの軽症~中等度の症状を呈するが,なかにはアナフィラキシー様症状,肺障害,心障害をはじめとする重篤な症状や,まれではあるが死亡例の報告もあるため,とくに外来での治療にあたっては細心の注意を払う必要がある.本稿では,infusion reaction について,またその危険因子や発症機序,各薬剤における発症プロファイルと発症時の対応方法などについて概説していきたい. -
血管外漏出
246巻9号(2013);View Description Hide Description化学療法を行ううえで,血管外漏出はしばしば起こりうる問題であり,患者の心理的・身体的負担も大きいため,スタッフによる適切で迅速な対応が要求される.血管外漏出の特徴は各抗癌剤によっても異なる.本稿では,抗癌剤の分類とそれぞれについてのリスク因子,予防法,治療についての概略を述べる.とくにリスク因子と予防については適切な期間での治療を進めるという点でも重要であると考えられる.本稿が日常臨床として化学療法を行っていくうえでの一助となれば幸いである. -
アバスチン(R)による高血圧
246巻9号(2013);View Description Hide Description抗VEGF ヒト化モノクローナル抗体であるアバスチン®(BV)は,VEGF に選択的に結合することでVEGF受容体との結合を阻害し,腫瘍細胞の血管新生を抑制することにより,抗腫瘍効果を発揮する薬剤である.2007 年に“治癒切除不能な進行・再発結腸直腸癌”に対し承認されて以降,肺癌・乳癌への適応拡大などに伴って外来化学療法においても身近な薬剤として使用されている.BV の副作用として代表的なものに高血圧,蛋白尿,出血,創傷治癒遅延,消化管穿孔などがあげられる.BV による高血圧はそのなかでも頻度が高い副作用であるが,高血圧に対する治療法として確立したものは存在せず,日常生活での定期的なモニタリングや降圧薬を使用した血圧の管理を行いながら,抗がん剤治療を継続している患者が多く存在するのが現状である.本稿では,現在まで報告されているBV などの血管新生阻害薬による高血圧の発症メカニズムや高血圧の管理における降圧薬の選択について,既存の報告を中心に概説する. -
血液がんの新規抗腫瘍薬における皮膚障害―ベンダムスチンとモガムリズマブ
246巻9号(2013);View Description Hide Descriptionあらたに登場した抗腫瘍薬,分子標的薬のなかには,従来の殺細胞型抗がん剤とは異なる皮膚障害を副作用としてもつものが多い.したがって,それらの薬剤の使用にあたっては,皮膚障害の発症時期・初期症状を踏まえたうえで早期発見と対処が重要である.血液がん領域における新しい抗腫瘍薬であるベンダムスチン(トレアキシン(R))とモガムリズマブ(ポテリジオ(R))は,外来化学療法が主流となってきているが,皮膚障害とその症状マネジメントは,原病の治療を遂行するうえでも重要である.本稿では,ベンダムスチンとモガムリズマブの投与で遭遇する皮膚障害と対処法について解説する. -
BortezomibとmTOR阻害薬による間質性肺疾患
246巻9号(2013);View Description Hide Description薬剤性肺障害のおもな病型である間質性肺疾患は抗悪性腫瘍薬を原因薬剤とするものが多く,とくにgefitinibによる急性肺障害・間質性肺炎の問題以降は分子標的治療薬による肺障害が注目されてきた.BortezomibおよびmTOR(mammalian target of rapamycin)阻害薬であるeverolimus とtemsirolimus はいずれも市販前から間質性肺疾患の副作用が注目されていた分子標的治療薬である.それぞれの間質性肺疾患の発現状況が使用成績調査(全例調査)から明らかとなってきている.本稿では,各薬剤の間質性肺疾患の特徴ならびに実際に投与する前に行うべき確認事項と投与中のマネージメントにおける注意点について概説する. -
帯状疱疹とCMV,真菌感染症
246巻9号(2013);View Description Hide Description抗がん剤外来治療を実施するうえで感染症対策はきわめて重要である.帯状疱疹やサイトメガロウイルス(CMV)感染症は細胞性免疫の低下時に発症しやすい.帯状疱疹ではアシクロビル(ACV)とバラシクロビル(Val-ACV)が,CMV 感染症ではガンシクロビル(GCV)が,予防や治療のkey drug である.前者では予防が,後者では先制攻撃的治療がとくに有効である.対象は造血幹細胞移植やリンパ系腫瘍などの血液疾患患者が中心である.真菌感染症は遷延する好中球減少や細胞性免疫低下が要因となるため,対象は造血幹細胞移植や急性白血病患者などである.とくに侵襲性肺アスペルギルス症対策が重要で,予防ではイトラコナゾール(ITCZ)の液剤が,治療ではボリコナゾールが有効である.ニューモシスチス肺炎は細胞性免疫の低下がリスクファクターで,造血幹細胞移植やリンパ系腫瘍にみられる.ST 合剤が予防や治療にきわめて有用である.固形がんではこれらに遭遇する頻度は低いものの,個々の患者のリスクを勘案しながら診療する必要がある. -
がん化学療法によるHBV再活性化
246巻9号(2013);View Description Hide Descriptionがん化学療法により,HBs 抗原陽性のみならずHBs 抗原陰性でHBc 抗体またはHBs 抗体陽性の既往感染状態であっても,HBV 再活性化をきたすことが明らかになった.さらには既往感染からのHBV 再活性化による肝炎はde novo B 型肝炎ともよばれ,劇症化率が高いことも明らかにされている.わが国ではHBV 再活性化対策として『免疫抑制・化学療法により発症するB 型肝炎対策ガイドライン』が示されており,がん化学療法を行う際には一定の割合でB 型肝炎のキャリアや既往感染患者が存在することを認識し,ガイドラインに沿ったスクリーニングと注意深いモニタリング,肝臓専門医との円滑な連携がより安全ながん化学療法につながると考える. -
RANKL抗体医薬による低カルシウム血症
246巻9号(2013);View Description Hide Description固形癌骨転移および多発性骨髄腫に対する薬物治療としてゾレドロン酸水和物が使用されてきたが,2012年4 月からはヒト型抗NF-κB 活性化受容体リガンド(RANKL)モノクローナル抗体製剤デノスマブが保険適応となった.デノスマブはRANK-RANKL 系を阻害して破骨細胞を抑制する作用をもち,骨転移を有する乳癌や前立腺癌などの患者を対象とした臨床試験においてゾレドロン酸より高い骨関連事象(SRE)の予防効果を示した.しかし,その強いSRE 抑制作用の一方で,販売後に死亡原因との関連が完全に否定できない重篤な低カルシウム血症の発生が報告されている.本稿では,デノスマブによる低カルシウム血症の特徴と予防,腎機能障害による影響について概説する.
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