医学のあゆみ
Volume 246, Issue 10, 2013
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【9月第1土曜特集】 制御性T細胞―その基礎と臨床展開
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- Tregの基礎研究
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Nr4a核内受容体とTGF-βによるFoxp3の誘導機構
246巻10号(2013);View Description Hide Description免疫制御において抑制性T 細胞(Treg)の重要性はいうまでもない.Treg には胸腺で発生するnTreg(natural-occurring Treg)と末梢でTGF-βの作用で誘導されるiTreg が存在する.Treg のマスター遺伝子がFoxp3であり,Foxp3 の発現と維持がTreg としての性質を規定する.Foxp3 遺伝子のエンハンサー領域(CNS1)にはSmad 結合サイトがあり,TGF-βはSmad2/3/4 によってFoxp3 を誘導する.一方,胸腺におけるnTregの発生メカニズムはこれまで不明であった.胸腺においては,自己抗原よって強いTCR 刺激を受けるとT 細胞はネガティブセレクション(負の選択)を受けてアポトーシスで死滅するが,CD4+T 細胞の一部はnTreg として生き残る.強いTCR 刺激のシグナルを受けてFoxp3 の発現を誘導する因子として,著者らはNR4a ファミリーを同定した.NR4a ファミリーはFoxp3 遺伝子のプロモーター領域に結合し,nTreg の発生に必須である.NR4a ファミリーを欠損するマウスはnTreg が存在せずに,出生後早期に重篤な自己免疫疾患で死亡する.また,NR4a はネガティブセレクションにおいてT 細胞のアポトーシスにも関与する.これらの研究成果から,Nr4a は胸腺におけるCD4+T 細胞発生において,自己抗原に対する親和性の強度に従った運命決定を担う必須の因子であり,免疫恒常性維持のための中心的な役割を担っていることがわかった. -
制御性T細胞の系列安定性
246巻10号(2013);View Description Hide Description転写因子Foxp3 の発現によって規定される制御性T 細胞(Treg)は広範な免疫抑制機能を示し,環境からのさまざまな擾乱に対してもその分化状態を安定に維持することで自己免疫寛容と免疫恒常性の頑健性を保証している.従来,Foxp3 がTreg の細胞系列特異的分子マーカーであり,“マスター転写因子”として機能すると考えられてきた.最近,一部のFoxp3+T 細胞は,おかれた環境に応じてFoxp3 発現を失って他のヘルパーT 細胞へ分化する“可塑性”を示すことが明らかにされたが,一方でそれに対する反証も提出され,Treg の系列安定性と可塑性に関する関心と議論が高まっている.本稿ではTreg の系列安定性vs. 可塑性をめぐる論争について概説し,Foxp3+T 細胞の可塑性は運命決定を受けたTreg の“リプログラミング”ではなく,Foxp3+T 細胞の不均一性に起因するという著者らの最近の知見を紹介する. -
Treg発生におけるエピゲノムの役割―Treg発生はTregエピゲノムの形成とFoxp3発現により成立する
246巻10号(2013);View Description Hide Description制御性T 細胞(Treg)は抑制性免疫制御に必須の細胞群であり,異常,過剰な免疫反応を負に制御することにより免疫恒常性を維持している.Treg の発生・分化・機能維持にはこれまで転写因子Foxp3 が中心的役割を果たしていると考えられてきたが,Foxp3 発現では説明できない転写制御,機能発現,維持機構が存在することも報告されている.最近,このFoxp3 に非依存的な機能発現は,Treg 特異的なエピゲノム変化に基づく転写制御により補完されることがわかってきた.Treg 特異的なエピゲノム変化はおもにTreg 機能発現に重要な遺伝子内部を中心に,ごく一部の領域のCpG 脱メチル化として検出される.このTreg 特異的DNA 脱メチル化はTreg 細胞系譜の成立・維持・機能発現に必須な要素であり,真のTreg にきわめて高い相関を示す.さらに,Treg 型エピゲノムをもたないFoxp3 発現T 細胞は免疫抑制機能がきわめて低い.これらのことから,Treg 分化成立にはFoxp3 発現とTreg 型エピゲノム成立の2 つの要素が必要であることがわかる.本稿ではTreg における特異エピゲノム成立の意味,成立過程,機能発現に焦点をあて概説してみたい. -
胸腺におけるTreg発生
246巻10号(2013);View Description Hide Description免疫系はT 細胞による自己・非自己の識別機構を基盤とする高次調節システムである.自己反応性T 細胞は胸腺上皮細胞や胸腺内樹状細胞が発現する自己抗原との反応によって除去されるが(負の選択),その過程はかならずしも完全ではなく,負の選択を逃れて末梢に逸脱した自己反応性T 細胞は,同じく胸腺内自己抗原との反応によって産生されるTreg の働きにより,その活性がコントロールされている.こうした胸腺内Tregの発生には,TCR の自己抗原に対する親和性,自己抗原の量,副刺激分子やサイトカインの作用などの働きが関与するが,Treg がどのような自己抗原に対する抗原特異性をもっているかの解明がきわめて重要である.胸腺におけるTreg 発生のメカニズムの解明は,免疫学的自己がいったいどのようなものであるかを明らかにする研究にほかならず,免疫システムの根本を問いかける研究課題であるといえる. -
TCR刺激とTreg
246巻10号(2013);View Description Hide Description免疫抑制機能を有するTreg の存在が明らかになって以降,Treg に関する基礎的研究が盛んに進められている.また一方で,Treg に着目した免疫応答の制御に関する応用研究も進んできている.Treg を除くことにより免疫応答をより誘導しやすいようにする試み,また,Treg を誘導して生体内で数的に増やすことで免疫応答を抑制しようという試み,これら大きく2 つの方向性でTreg に関する応用が進んできている.抑制機能を有する細胞集団(Treg)の存在が明らかになったことは,免疫研究の展開において大きな魅力・原動力となった.本稿では今日までのTreg に関する知見を振り返って,Treg の応用に関する問題点を整理したいと思う. -
レチノイン酸によるTregの分化と機能の制御
246巻10号(2013);View Description Hide Description自己に対する免疫反応の抑制ばかりでなく,非病原性非自己に対する免疫反応の抑制も恒常性維持のために重要である.とくに腸管においては,広い表面積で外界と接することで病原体の侵襲の危機にたえず曝されており,免疫反応の準備と発動を行いつつも,食物や共生細菌などの非病原性異物に対しては免疫反応を抑制して経口免疫寛容を成立させる必要がある.これらの免疫反応の抑制には制御性T 細胞(Treg)の役割が重要である.Treg には大別して,①胸腺で分化してくる自然発生型Treg(nTreg)と,②末梢組織で分化してくる誘導型Treg(iTreg)の2 種類がある.ビタミンA 代謝産物レチノイン酸は,腸関連組織でとくに樹状細胞(DC)により産生され,T 細胞に小腸ホーミング特異性をインプリントするともに,Foxp3+iTreg の分化を促進し,その機能維持を補助し,さらにnTreg の機能の維持にも効果を示すことが明らかになった. -
CD4+CD25-LAG3+制御性T細胞による免疫制御
246巻10号(2013);View Description Hide Description制御性T 細胞(Treg)は,自己および外来抗原に対する免疫寛容誘導において中心的な役割を果たしており,その機能不全は自己免疫疾患の発症に直結する.Treg は,①内因性Treg(naturally-occurring Treg:nTreg)と,②誘導性Treg(induced Treg:iTreg),に大別され,nTreg とiTreg が協調することで全身の免疫学的恒常性は保たれている.おもに胸腺で分化するCD4+CD25+nTreg は,転写因子Foxp3 がその抑制機能に重要なマスター制御遺伝子として知られている.一方,iTreg に関しては近年までその特異的な表面マーカーおよびマスター制御遺伝子は不明なままであり,その研究発展の大きな障害となっていた.当研究室では抑制性サイトカインIL-10 を高産生するCD4+CD25-LAG3+iTreg(LAG3 Treg)を同定した.LAG3 Treg は転写因子Egr2 を高発現し,その免疫抑制能はFoxp3 に依存しない.本稿ではLAG3 Treg による免疫システム制御機構について,最新の知見を含め概説する. -
Toll-like receptor(TLR)と制御性T細胞(Treg)
246巻10号(2013);View Description Hide Description自然免疫から獲得免疫を起動する仕組みは,樹状細胞(DC)とリンパ球の相互応答を念頭に語られる.Toll様受容体(TLR)シグナルの発見はDC の成熟化を分子機構として展開する一助となった.TLRs は多くの微生物・自己由来の特有のパターン分子(PAMPs,DAMPs)を認識して活性化する.DC サブセットは複数あり,TLR レパトワも異なる場合があり,アウトプットは液性因子,膜分子を含めて多様といえる.一方,リンパ球は,DC の発現膜分子群とのシナプス連携と液性メディエーターの両方によって増殖・分化する.また,CD4+リンパ球は制御性T 細胞(Tregs)を含むサブセットからなり,DC 応答は一様でない.さらに,リンパ球自身がTLRs を含むパターン認識レセプターを発現しており,その機能は未解明となっている.多くのTLR アゴニストはTregs 上のTLRs の活性化やTLRs を介して活性化したDC により直接的または間接的にTregs の機能を調節し,生体の恒常性維持に寄与する.本稿では複雑なTLR 応答をDC とTregs に関して現状の理解を総説し,疾患(とくに癌)との関連に言及する. -
樹状細胞とTreg
246巻10号(2013);View Description Hide Description樹状細胞(DCs)は樹状突起を有する系統マーカー陰性,MHC classⅡ陽性の抗原提示細胞(APCs)であり,通常型樹状細胞(cDCs)と形質細胞様樹状細胞(pDCs)に大別される複数のサブセットから構成される.DCsは炎症状態では自然免疫と獲得免疫をつなぐもっとも強力なAPCs として,種々のエフェクターT 細胞を誘導して免疫系を賦活する.一方,定常状態では制御性T 細胞(Treg)などが関与する免疫寛容を誘導し,免疫学的恒常性の維持に重要であると考えられている.さらに,DCs の機能制御によるTreg 細胞の誘導・増幅が自己免疫疾患,アレルギー,移植拒絶反応などの免疫疾患に対する新しい免疫療法の確立に寄与するものと期待される. - Tregと臨床
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自己免疫疾患と制御性T細胞
246巻10号(2013);View Description Hide Description制御性T 細胞(Treg)は,末梢のCD4+T 細胞の5~10%を占める自己免疫反応を抑制する細胞集団として発見された.現在ではTreg は自己免疫反応のみでなく,腫瘍免疫,移植免疫,アレルギー,感染に対する免疫反応をも抑制することが知られている.本稿においては自己免疫疾患とTreg についての歴史および最近の知見と,樹状細胞(DC)で増殖誘導した抗原特異的制御性Treg と自己免疫疾患の治療について解説する. -
動脈硬化症における制御性T細胞の役割
246巻10号(2013);View Description Hide Description近年,心血管疾患や糖尿病などの生活習慣病における共通の発症・進展の機序として,慢性炎症の役割が注目されている.急性冠症候群などの致死的疾患を引き起こす基盤となる粥状動脈硬化における炎症・免疫反応の関与について精力的に研究がなされ,多くの知見が得られた.おもにマウスを用いた基礎研究により,病変形成初期における単球やマクロファージなどの自然免疫系の関与に加えて,その進展において,T 細胞を中心とした獲得免疫系が中心的役割を果たすことが明らかになってきた.T 細胞のなかには炎症を負に制御するような制御性T 細胞(Treg)が存在し,自己免疫疾患をはじめとするさまざまな慢性炎症性疾患において病的な免疫応答を抑制することが明らかになったが,動脈硬化症においてもこの細胞集団が病変形成に抑制的に働くことがわかりつつある.炎症に対して直接的に介入することによる治療はいまだ臨床の現場では行われていないが,今後,Treg をターゲットとした炎症・免疫反応を制御することによる新規の動脈硬化治療法の開発が期待される. -
ヒトT細胞白血病ウイルス1型と制御性Tリンパ球
246巻10号(2013);View Description Hide DescriptionヒトT 細胞白血病ウイルス1 型(HTLV-Ⅰ)の感染には,ウイルス粒子でなく生きた感染細胞が必須である.このためHTLV-Ⅰは感染細胞を増殖させ,感染機会を増大させる.HTLV-Ⅰ bZIP facto(r HBZ)は Foxp3 遺伝子の転写を促進し,発現細胞をFoxp3+細胞へと変換する.HTLV-Ⅰ感染によって引き起こされる成人T 細胞白血病(ATL)の約80%はFoxp3+であることから,HTLV-ⅠがFoxp3+細胞と強く関連していることがわかる.ATL 患者では強い細胞性免疫抑制があり,免疫不全状態にある.このため日和見感染が好発し,予後不良の原因ともなっている.Foxp3 はHTLV-Ⅰ感染において病原性のキー分子となっている. -
臓器移植と制御性T細胞
246巻10号(2013);View Description Hide Description臓器移植による治療は,代替医療がない臓器不全で苦しむ患者を救う画期的な医療として発展してきた.術式・術後管理はほぼ確立したといえるが,移植臓器に対する拒絶反応については免疫抑制剤の開発改良で予後改善がみられているものの,感染症や発癌のリスクを高める要因となっている.制御性T 細胞(Treg)は正常な免疫系において,胸腺選択では制御しきれない不必要な免疫反応を抑制する.その安定性や機能のメカニズムが基礎実験で明らかになってきており,この機能を移植医療に利用することができれば,移植臓器を含めて正常な免疫系を再構築することで移植後の予後およびQOL の飛躍的な改善が期待される.実際,骨髄移植後のGVHD に対してTreg を用いることで従来の方法と比較して有効かつ安全であることが臨床試験で示されている.いまだ臨床でのTreg の使用に関しては解決すべき課題はあるが,今後期待できる治療法であるといえる. -
Tregs制御による抗腫瘍免疫応答増強の可能性―抗腫瘍免疫応答の抑制解除
246巻10号(2013);View Description Hide Description近年,悪性腫瘍に対する免疫応答を種々の方法で増強することにより腫瘍増殖を抑制し,がん患者の予後改善効果を得られることが示されてきている.抗腫瘍免疫を増強する方法として,①腫瘍抗原特異的T 細胞の増幅・機能亢進,②抗腫瘍免疫応答に対する免疫抑制分子シグナル(immune checkpoint)の阻害,③免疫抑制細胞の不活化・除去,があげられる.後二者は免疫抑制を解除する方法であり,免疫抑制分子シグナル解除による抗腫瘍免疫応答の増強を目的とした研究が,臨床応用をめざして精力的に進められている.なかでも免疫応答を負に制御する分子であるCTLA-4,PD-1 をターゲットとした免疫療法はすでに第Ⅲ相臨床試験が施行されており,ある一定の腫瘍縮小効果とともに予後改善効果が証明されている.以上の臨床試験の結果により,抗CTLA-4 抗体薬は悪性黒色腫に対する治療薬としてアメリカで承認され,広く使用されている.また,③免疫抑制細胞の不活化・除去では,ひとつのターゲットとして制御性T 細胞(Tregs)が注目されており,Treg免疫抑制の解除による抗腫瘍免疫応答の増強が試みられている.動物モデルにおいてはTregs 除去による腫瘍縮小効果が証明されている.ヒトにおいても腫瘍局所にTregs が多数浸潤していることが明らかになっており,Tregs 表面に発現するCTLA-4,PD-1,CCR4 などの分子を標的にしたTreg 除去による抗腫瘍免疫増強が試みられている.がん免疫療法は他の治療法(化学療法,放射線療法など)との相乗効果も期待されており,今後さらなる研究が求められている. -
腸管誘導Treg
246巻10号(2013);View Description Hide Description消化管はつねにあらゆる微生物侵入の危険にさらされている.そのため,消化管は強い活性をもつ免疫細胞から構成される頑強なバリアシステムを備えている.一方で,消化管免疫システムは日常的に接する無害な食物抗原や腸内常在細菌に対しては,不必要に免疫応答しないよう制御されている必要がある.このため,消化管には多数の制御性T 細胞(Treg 細胞)が用意されている.大腸Treg 細胞は腸内常在細菌によって分化・増殖・機能的成熟が制御されている.なかでもクロストリジア網(Clostridia class)に属する細菌種がTreg 細胞に深く影響を与えること明らかとなってきている.本稿では,腸内細菌に関する最新の知見を紹介すると同時に,クロストリジアに属する細菌によるTreg 細胞誘導機構について述べる. -
制御性T細胞を標的とした創薬開発
246巻10号(2013);View Description Hide Description免疫とは,自己を寛容し,非自己を排除する生体防御システムである.制御性T 細胞(Treg 細胞)はこの自己に対する免疫寛容をつかさどり免疫恒常性の維持に必須の役割を担っている.近年,免疫恒常性の破綻に起因する自己免疫疾患の病態形成とTreg 細胞の抑制能低下との関連を示唆する報告が相次いでいる.Treg 細胞が免疫抑制能を獲得または喪失するメカニズムの解明は,Treg 細胞の抑制能の回復を促す新規免疫抑制薬の開発につながると考えられる.この新薬は従来の免疫抑制薬とは異なり,生体が本来有する免疫恒常性を回復することで,自己免疫疾患の根治治療を実現しうる可能性を秘めている.本稿では自己免疫疾患治療に着目し,Treg 細胞を標的とした創薬について,これまでの創薬開発の概要と今後の戦略および展望を概説したい.
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