医学のあゆみ
Volume 249, Issue 2, 2014
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あゆみ IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)Update
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IPMN国際診療ガイドライン―初版から改訂版への進化
249巻2号(2014);View Description Hide Description膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)ガイドラインの2012 年改訂の概略を述べる.型分類に変更はないが,主膵管型とする主膵管径の閾値を5 mm とし診断率向上をはかった.閉塞性黄疸を伴う膵頭部の囊胞性病変,造影される充実性成分,主膵管径≧10 mm をhigh-risk stigmata とし切除適応とした.また,囊胞径≧30 mm,造影される壁肥厚,主膵管径5~9 mm,造影効果のない壁在結節,尾側に閉塞性膵炎を伴う主膵管狭窄,近傍のリンパ節腫大をworrisome features として,超音波内視鏡(EUS)での精査を勧めた.膵癌家族歴があればworrisome features で膵切除を考慮してもよい.超音波内視鏡下穿刺生検法(EUS-FNA)はまだ研究段階で,ERCP 膵液細胞診は臨床研究として行う.悪性の定義では上皮内癌をhigh-grade dysplasia とするWHO分類に従った.主膵管型は全例切除が望ましいが慢性膵炎の鑑別に注意し膵全摘の適応は厳選する.切除法については高度異型までは腹腔鏡手術の適応としてよいとした.多発性分枝型の管理は変わらないが,膵癌家族歴が濃厚な場合の膵全摘を視野に入れた.通常でもIPMN 切除時は膵全摘の可能性を説明する.組織学的には微小浸潤癌の代りにT1(<2 cm)のa,b,c 亜分類を提唱し,IPMN 上皮分類の臨床病理学的な意義も追加した.囊胞のサイズに応じた追跡方針に対し併存膵癌を警戒して,あるいは増大速度が速い場合は頻回の追跡を推奨した.切除後膵の経過観察も同様である. -
IPMNの病理Update
249巻2号(2014);View Description Hide Description膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)は,“粘液産生膵癌”の報告から組織亜型分類まで,多くの知見が日本人研究者からもたらされてきた.IPMN は膵管内での腫瘍上皮の乳頭状発育と粘液の過剰産生を特徴とするが,それぞれの所見や程度はさまざまである.粘液産生に乏しいものもあり,その一部は2010 年のWHO 分類で膵管内管状乳頭腫瘍(ITPN)として分離された.IPMN の増殖細胞にはその細胞分化に応じたいくつかの亜型があり,病変の主座やその他の臨床病理学的所見との相関もある程度示されてきている.IPMN 由来の浸潤癌と膵管癌の鑑別は,画像診断上,また病理診断上もしばしば問題になるが,従来の病理組織学的所見に加え,SMAD4 発現の消失やGNAS 遺伝子変異の有無が両者の鑑別法として有力な手段となる可能性がある.さらに最近,IPMN の発育進展に間質反応や免疫細胞など周囲環境が関与していることが示されつつあり,治療法開発の面からも注目されてきている. -
IPMNの手術適応
249巻2号(2014);View Description Hide DescriptionIPMN の手術適応,とくに分枝型の適応については,一定した基準がなくさまざまな報告がされてきた.2012 年に改訂された国際診療ガイドラインでは,絶対的な手術適応であるhigh-risk stigmata of malignancyが決定された.分枝型IPMN では悪性疑いで精査をすすめるworrisome features が設定され,EUS による精査でその所見に基づいて手術適応を決定することが推奨されている.著者らの多数例での検討でもEUS 観察による壁在結節径は高い癌診断予測能を示し,結節の存在や大きさをIPMN の手術適応基準のひとつとすることは有用と思われた.しかし,癌症例の約10%に結節のない症例が存在し,これらはほとんどが非浸潤癌ではあるが,その診断と取扱いが今後の問題となる.複数の因子で癌を予測するノモグラムは癌の診断予測能が非常に高いことに加えて,症例ごとに癌の可能性を具体的な数値(%)で予測することが可能で,高い精度で手術適応を決定するためのひとつの有用な手段と考えている. -
分枝型IPMNの経過観察成績
249巻2号(2014);View Description Hide Description分枝型IPMN の経過観察成績の報告では,観察期間1.8~8.1 年で,進展を示した率は7.0~61.8%であり,切除術を行いIPMN 病変が悪性であった頻度は0~6.4%である.さらに,結節を認めない分枝型IPMN では進展率0~36.7%,悪性率0~2.6%と低率であり,浸潤癌の頻度も0~1.1%にすぎない.このことから,結節を有さない分枝型IPMN に対しては経過観察を行い,進展を認めた場合に手術を考慮する治療方針が妥当と考えられる.一方,分枝型IPMN に併存する膵癌の発生率は1.4~9.3%であり,経過観察例による検討では1.0~2.6%の発生頻度であり,結節を有さない分枝型IPMN 病変の悪性化率とほぼ同等と考えられる.したがって,IPMN の経過観察に際しては,IPMN 病変自体の進展,悪性化の監視に加えて併存膵癌の発生に留意した膵全体の詳細な観察が必要である. -
IPMNに併存する通常型膵癌の問題
249巻2号(2014);View Description Hide DescriptionIPMN を有する膵には,IPMN 自体の悪性化に加えて通常型膵癌を併存するリスクのあることが臨床上の大きな問題として注目されている.これまでの報告から通常型膵癌の併存頻度は1.4~9.3%,標準化罹患比は15.8~26.0 といずれも高く,IPMN における通常型膵癌併存のリスクはきわめて高いと推定される.通常型膵癌はIPMN の局在とは無関係に膵内発生するため,IPMN を認めた際には通常型膵癌の併存に注意して膵全体を死角なしに評価する必要がある.とくにIPMN の経過観察例では,IPMN の悪性化と通常型膵癌併存の2つのリスクを念頭において短期間隔での定期検査を継続して行うことが推奨される. -
IPMNの経過観察法
249巻2号(2014);View Description Hide Description膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)国際診療ガイドラインの改訂により,分枝型IPMN の手術適応が控えめになり,経過観察対象例の増加が見込まれる.しかし,併存する膵癌の問題があらたに浮上してきた.したがって,経過観察に際しては,IPMN 病変の進展の監視とともに併存膵癌の早期診断を行う必要がある.ガイドラインによる分枝型IPMN の経過観察法としては,拡張分枝径別に核磁気共鳴画像法(MRI)と超音波内視鏡検査(EUS)を中心とした3~6 カ月ごとのfollow-up が推奨されているが,結節を有さない例の経過観察成績では進展率・悪性率ともに低く,IPMN 病変に対する検査間隔は1 年ごとで十分と考えられる.一方,併存膵癌の早期診断にはコンピュータ断層撮影(CT),MRI,EUS による短期間での経過観察を要する.日本膵臓学会の“分枝型IPMN の前向き追跡調査”委員会では,6 カ月後にCT,12 カ月後にMRCP とEUS を行い,これを6 カ月ごとに繰り返す経過観察法としている.本研究により,IPMN の自然史と併存膵癌の早期診断法がより明らかになることが期待される.
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シリーズ対談 vol.8
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連載
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- エコヘルスという視点 2
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エコヘルスをめぐる世界の動向
249巻2号(2014);View Description Hide Description研究と社会実装の領域としてのエコヘルスは1990 年代に出現し,2000 年代に急激に成熟した.科学の分野というよりも一種の“研究運動”とよばれるエコヘルスはけっして統一されたものではなく,複数の潮流から構成されている.本稿ではエコヘルスの領域を構成する3 つの潮流である,①生態系の健康(EcosystemHealth),②保全医学(Conservation Medicine),③地球変化と人間健康(Global Change and Human Health)の由来と歴史を簡潔に整理したうえで,カナダ政府の国際援助機関である国際開発研究所IDRC が1990 年代末より展開した“エコヘルス研究支援プログラム”や,エコヘルスとワンヘルスの関係を解説し,エコヘルスの“概念的な空間”という概念の適正性を示す.
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フォーラム
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- パリから見えるこの世界 27
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- ゲノム人類学の最先端 4
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TOPICS
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- 生化学・分子生物学
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- 脳神経外科学
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- 神経精神医学
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- 環境衛生
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