Volume 249,
Issue 9,
2014
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【5月第5土曜特集】 腎臓病のすべて
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医学のあゆみ 249巻9号, 733-733 (2014);
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腎臓病臨床の現状
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医学のあゆみ 249巻9号, 737-742 (2014);
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急性腎障害(AKI)は,近年の救急治療,先進医療の進歩に伴って変化していく急性腎不全(ARF)の疫学調査や早期診断・早期治療介入のため,あらたに提唱された概念である.最近10 年では,ICU 領域や腎臓病学,とくに透析医学領域で活発に議論されている.ただし,AKI は従来のARF とまったく同一の概念ではなく,また,エビデンスの集積が進むにつれて,エビデンスをもとに3~4 年ごとに診断基準の改訂が繰り返されているため,一般的に十分に理解されているとはいいがたい.本稿ではARF の歴史からはじまり,AKI の診断基準について解説し,ついでAKI の治療について概説した後,最近注目されている診断・治療判定のためのAKI バイオマーカーについて説明する.
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医学のあゆみ 249巻9号, 743-749 (2014);
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わが国では透析患者数は31 万人を超え,なお増加している.しかし一方で,さまざまな取組みが功を奏し,長らく増加が続いていた新規透析導入患者数は横ばいまたは減少の傾向を示している.透析導入の原因となる疾患は圧倒的に糖尿病が第1 位であるが,増加は止まっている.しかし高血圧,動脈硬化,加齢などが原因で起こる腎硬化症が着実に増えており,やがて第2 位の慢性腎炎を追い越すと考えられ,今後腎硬化症に対する対策が必要になる.わが国においてCKD 対策が開始されてすでに10 年が経過し,新しいステージに入った.未来に向けた疾患レジストリーの改良,高齢者を対象としたガイドラインの整備,日本社会の未来を見通した多様な診療連携システムの構築と普及,腎機能の低下抑制や再生を促すような新規治療法の開発とそのための基礎および臨床研究体制の整備,国際貢献の具体的なビジョンの作成が今後に課せられた課題である.
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医学のあゆみ 249巻9号, 751-756 (2014);
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腎臓病総合レジストリー20,913 例を中心に,わが国における腎臓病の疫学を示す.若年者(20 歳未満)2,851 例,非高齢者成人(20~65 歳未満)13,030 例,高齢者(65 歳以上)5,023 例で,高齢者が登録の24.1%を占める.おもな臨床症候群は慢性腎炎症候群47.8%,ネフローゼ症候群23.0%,急速進行性糸球体腎炎症候群(RPGN)5.8%であり,IgA 腎症が28.1%(65 歳未満・腎生検例の35.7%)であった.いずれの症候群でも,年齢層が進むほど腎機能低下とともに尿蛋白増加と血清アルブミン値低下が示された.とくにRPGN では高齢者が60.3%,ステージG4~5 が75%を占めている.ネフローゼ症候群では高齢者が33.7%であり,その組織診断型と高齢者の比率は,膜性腎症34.6%(52.9%),微小変化型ネフローゼ症候群29.7%(18.6%),巣状分節性糸球体硬化症15.8%(24.2%),膜性増殖性糸球体腎炎5.2%(46.1%)であった.さらに,アンケートによる疫学調査でも,少子高齢化を反映したIgA 腎症の減少傾向およびRPGN の増加傾向といった変化が示されており,わが国では高齢者腎臓病の重要性が増している.
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医学のあゆみ 249巻9号, 757-763 (2014);
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維持透析患者に冠動脈の石灰化や心血管疾患が頻発することは知られている.また,透析患者では脳卒中も多く認められており,心臓や脳の疾患を合併する人が多いことは経験的に知られていた.2000 年代に入り,保存期腎不全症例において心臓病の発症リスクが高まることが明らかとなった.そこで2003 年および2006年にアメリカ心臓協会(AHA)は,心臓病と腎臓病が相互に関連して病態に影響を与える心腎連関についてステートメントを発表し注意喚起を行った.その後,より早期の腎障害でも心臓病と関連するなど,さまざまな疫学データが示されるとともにそのメカニズムについても検討が進んできている.一方,腎機能が低下した症例では脳卒中の発症リスクが高いことも明らかとなってきた.また,慢性腎臓病(CKD)患者では症状がなくても有意に無症候性脳梗塞が高頻度に認められ,脳腎連関の存在がクローズアップされることとなった.また,同時にCKD 患者の認知障害などの存在も明らかとなり,早期からの脳保護を念頭においたCKD 管理が重要であることが明らかとなってきている.心腎連関や脳腎連関の中心には血管があり,脳,心,腎は密接に関連していることが明らかとなっている.これらのことから,脳心腎連関として理解し,脳や心臓保護を念頭においたCKD 管理・治療が大切である.
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医学のあゆみ 249巻9号, 765-770 (2014);
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腎生検は,腎疾患を形態学的に診断し,治療方針を立てるために必須の検査である.尿や血液などから得られる情報で腎疾患のおおよその見当はつけられるが,腎生検で得られる情報量は多く,治療方針の決定や予後の推定に有用である.血尿,蛋白尿といった検尿異常やネフローゼ症候群,急性腎障害,移植腎などが腎生検の適応となる.しかし,侵襲度の高い検査であり,その危険性と有用性を個々の患者で十分に検討したうえで適応を判断し施行しなければならない.腎全体からみれば腎生検から得られる検体量はごくわずかであるが,各染色法を比較検討し,糸球体,尿細管・間質,血管に認められる所見と臨床所見とを照らし合わせることで総合的に病態を把握し,治療に役立てることが重要である.
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医学のあゆみ 249巻9号, 771-776 (2014);
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腎疾患の画像診断においては超音波が第一選択になることが多い.代表的な疾患として腎不全,腎血管性高血圧,透析腎癌を取りあげた.最近では腎障害の指標や透析腎癌の検出としてMRI の拡散強調像,腎血管狭窄の評価法として非造影MR angography などが登場し,今後に期待される.造影剤投与での留意点は,eGFRが60 mL/min/1.73 m2以下ではヨード造影剤による腎症発症のリスクが増加し,eGFR が45 mL/min/1.73m2未満の患者に造影CT を行う際には補液などの十分な予防策を講じる必要がある.MRI のガドリニウム造影剤はeGFR が30 mL/min/1.73 m2以下の患者には投与を避ける.
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医学のあゆみ 249巻9号, 777-780 (2014);
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“Critical care nephrology”とは10 年あまりの歴史を有する新しい学問領域であり,集中治療学(criticalcare medicine)と腎臓病学(nephrology)が融合した集学的分野である.このようなあらたな学問領域が提唱された背景として,集中治療室(ICU)における急性腎障害(AKI)が高い頻度で発症していること,しかもAKI の死亡率は急性心筋梗塞(MI)や脳卒中と比較して有意に高いことが広く認識されるようになったことがある.ICU における急性血液浄化を担うのみならず,critical care とnephrology の両分野にわたる知識と技能を有する“Critical care nephrologist”こそがICU におけるAKI 治療成績の向上を可能とすると期待され,そのためにはCritical care nephrology トレーニングプログラムの確立による人材養成が必須である.
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腎臓病各論:診断とエビデンスに基づいた治療
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医学のあゆみ 249巻9号, 783-788 (2014);
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糖尿病性腎症の評価項目は,アルブミン尿と糸球体濾過量(GFR)であり,この点は以前と変わっていない.微量アルブミン尿の出現で糖尿病性腎症を診断するが,微量アルブミン尿には診断の特異度の面で問題点が存在することも事実である.この意味で微量アルブミン尿を超えるバイオマーカーが必要と考えられる.GFRに関しては,eGFR により評価することが一般的となった.その結果,GFR の年間低下速度の算出も可能となり,GFR が急激に低下するfast progressor の存在も指摘されている.糖尿病性腎症の治療戦略の中心は,高血糖の是正と糸球体高血圧の是正である.そして,現在の治療戦略でも糖尿病性腎症の寛解が生ずることが報告されている.成因に基づく新しい治療薬はいまだ臨床応用には至っていないが,その開発も進んできており,今後の発展を期待したい.
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医学のあゆみ 249巻9号, 789-795 (2014);
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高血圧性腎硬化症は,透析導入の原因として年々増加している.その要因は高血圧疾患患者が多いことと人口の高齢化にある.わが国における高血圧の管理状況はまだまだ不十分であり,個別アプローチと集団的アプローチが欠かせない.腎硬化症は長い経過で腎機能障害を起こしてくるが,同時に心血管疾患の発症率も高い.早期発見のためには検尿により尿蛋白を測定し,推定糸球体濾過量(eGFR)を算出する必要がある.また,十分な降圧を行い,尿蛋白のある症例ではレニン-アンジオテンシン(RA)系阻害薬を使用して尿蛋白を減少させることが重要である.ただし,高齢者では緩徐な降圧を図るなど,注意が必要である.また,動脈硬化性腎動脈狭窄をしっかり鑑別する必要がある.
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医学のあゆみ 249巻9号, 796-800 (2014);
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肥満は高血圧,糖尿病,脂質異常症などの因子を取り除いても,慢性腎臓病の独立した危険因子である.肥満によって蛋白尿や腎機能低下が生じ,病理組織学的には糸球体肥大,巣状糸球体硬化の像を呈する.これらを肥満関連腎症(ORG)とよぶことが提唱されている.ORG の発症メカニズムとして,①脂肪細胞から分泌される物質(アディポカイン)の影響,②レニン-アンジオテンシン系の亢進,③交感神経系の亢進,④インスリン抵抗性による腎血行動態変化,糸球体過剰濾過,が考えられている.肥満は世界的に増加の一途であり,肥満関連腎症の知識とともに,肥満管理の重要性を認識する必要がある.
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医学のあゆみ 249巻9号, 801-805 (2014);
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IgA 腎症治療における日本のガイドラインと世界のガイドラインについて比較した.日本では『IgA 腎症診療指針(第3 版)』と『エビデンスに基づくCKD 診療ガイドライン2013』があり,世界の代表的ガイドラインは『KDIGO Clinical Practice Guideline for Glomerulonephritis』である.生活指導,食事療法については,基本的に差はみられない.薬物療法にも大きな差はないが,日本ではエビデンスレベルはけっして高くはないが副腎皮質ステロイド薬と併用する抗血小板薬が基礎薬として用いられている.日本において扁摘パルスはいまや標準治療といえるほど普及しているが,国際的には推奨されていない.その大きな理由として,多施設共同ランダム化比較試験(RCT)が行われていないことがあげられる.わが国から扁摘+ステロイドパルス療法がステロイド単独療法に比べ有効であるとするRCT 結果が得られており,今後の国際的評価が期待される.
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医学のあゆみ 249巻9号, 806-811 (2014);
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特発性膜性腎症の治療には,ステロイド薬と免疫抑制薬が使用されてきた.しかし,自然寛解が認められるこの疾患の治療において,海外では6 カ月間の経過観察の後にステロイド薬または免疫抑制薬を使用することを推奨している.一方,日本ではステロイド薬が第一選択薬であり,かならずしも一定の経過観察期間をおくことは推奨していない.このあたりの差異は,ステロイド薬の反応性に対する評価の相違,アルキル化薬の保険適用の問題,外来あるいは入院治療体制の相違などから生じていると思われる.
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医学のあゆみ 249巻9号, 812-816 (2014);
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急速進行性糸球体腎炎(RPGN)は予後不良な腎不全症候群であり,積極的な免疫抑制療法が必要となる.わが国では2011 年に『RPGN の診療指針第2 版』が改訂発表され,ANCA 陽性RPGN および抗GBM 抗体型RPGN の治療指針が提示された.同時期に『ANCA 関連血管炎の診療ガイドライン』も発表されている.また,2013 年に改訂発表された『エビデンスに基づくCKD 診療ガイドライン2013』では,わが国の慢性腎臓病(CKD)に関連するガイドラインとしてRPGN をはじめて取り上げている.一方,諸外国ではANCA 関連血管炎(BSR/BHPR,EULAR),腎血管炎(CALI ガイドライン),pauci-immune 型巣状分節性壊死性糸球体腎炎(KDIGO 診療ガイドライン)に対するガイドラインと学会提言が作成され,厳密にはRPGN とは対象に違いがある.副腎皮質ステロイドとシクロホスファミド(CY)を中心に初期治療を行い,毒性の少ない免疫抑制剤使用の工夫で維持治療を行うことが全世界共通の治療指針となっている.
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医学のあゆみ 249巻9号, 817-823 (2014);
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慢性腎臓病(CKD)において推奨される血圧管理については,国内では日本腎臓学会から2013 年10 月に『エビデンスに基づくCKD 診療ガイドライン2013』(以下,『CKD 診療ガイドライン2013』)が刊行され,2014 年4 月には日本高血圧学会により刊行された『高血圧治療ガイドライン2014』(以下,JSH2014)にも記載されている.CKD での血圧管理の意義はCKD 進行の抑制,および心血管病(CVD)合併の予防である.最近のエビデンスからは,CKD 合併高血圧などの高リスク高血圧に対する血圧管理において,厳格な降圧一辺倒ではなく,病態に応じて降圧の質の改善を念頭においた“適切な降圧療法”を行うことが,CKD 進行・CVD 合併に対する効率的な抑制戦略のために重要ではないかと考えられる.このため『CKD 診療ガイドライン2013』に記載されているCKD での血圧管理「第4 章CKD と高血圧・心血管合併症」は,降圧目標や降圧薬選択を含めて病態に応じた個別的治療をしていることが特徴のひとつである.また今回,国内においてCKD の血圧管理のために推奨される治療に関して日本腎臓学会のエビデンスに基づくCKD 診療ガイドライン2013 作成委員会(委員長:木村健二郎 聖マリアンナ医科大学教授)と日本高血圧学会の高血圧治療ガイドライン2014 作成委員会(委員長:島本和明 札幌医科大学学長)との間で入念なエビデンスの検証と検討が行われた結果,『CKD 診療ガイドライン2013』と『JSH2014』との間でCKD における血圧管理に関して推奨内容の整合性が重要視されたことも特筆すべきである.海外では,とくにアメリカでは2013 年12 月に3 つの異なる高血圧ガイドラインが別個に発表され一種の混乱状態にある状況を鑑みると,きわめて重要なポイントのひとつであると考えられる.
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医学のあゆみ 249巻9号, 824-829 (2014);
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腎性貧血は慢性腎臓病(CKD)の代表的合併症であり,腎機能障害の進展に伴って合併頻度は増加し,その程度も増悪する.また,貧血の進展により腎機能のさらなる低下や心血管系合併症の増加などにも影響することが指摘され,ESA 投与によるCKD 早期からの治療介入により,臓器保護効果を含めた生命予後の改善が期待された.しかし,貧血の正常化をめざした世界の大規模臨床試験では,予想と相反する結果が続き,世界のガイドラインにおける貧血改善目標値は下方に見直された.その一方,2012 年に国際的指針としてKDIGOガイドラインが示した基準に対し,2013 年にヨーロッパ人に適した目標値としてヨーロッパから声明が示されたが,こちらは過度の下方修正に歯止めをかけている.わが国では日本透析医学会の腎性貧血治療ガイドラインの改訂作業が進められているが,欧米諸国のエビデンスを踏まえたうえで,日本人に適した目標値の設定が望まれる.
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医学のあゆみ 249巻9号, 830-834 (2014);
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腎はミネラル代謝の調節に重要な役割を果たしており,腎の機能が障害される慢性腎臓病(CKD)ではミネラル代謝のさまざまな異常が生じる.この異常は従来骨の病変と考えられてきたが,血管石灰化などを介して生命予後に影響を及ぼすことがわかり,全身疾患としてCKD に伴う骨-ミネラル代謝異常(CKD-MBD)とよばれるようになった.その結果,データの改善だけでなく,アウトカムとして心血管イベント・生命予後を重視するようになり,この観点からまとめたガイドラインが,欧米ならびにわが国から発表されている.しかし,CKD 患者でRCT を行うことは難しく,ガイドラインの根拠となるデータはまだ十分あるわけではない.
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医学のあゆみ 249巻9号, 835-839 (2014);
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常染色体優性多発性囊胞腎(ADPKD)はもっとも頻度の高い遺伝性腎疾患で,原因遺伝子はPKD1 とPKD2である.腎や肝をはじめとした種々の臓器に多数の囊胞が発生・増大する全身性・進行性の疾患である.加齢とともに腎機能が低下し,70 歳代までに約半数が末期腎不全に至り,人工透析あるいは腎移植を必要とする.ADPKD 患者では高率に高血圧を合併するが,高血圧は腎機能悪化のリスクファクターである.降圧治療にはアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)が推奨されている.また,脳動脈瘤も重要な合併症である.いままでADPKD に対する有効な治療薬はなかったが,バゾプレシンV2受容体拮抗薬のトルバプタンが,第Ⅲ相試験において腎容積の増加や腎機能低下を抑制することが示された.この結果を受け,2014 年3 月本邦においてトルバプタンがADPKD の治療薬として承認された.今後ADPKD の治療は大きく変わると予想される.
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医学のあゆみ 249巻9号, 840-844 (2014);
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腎疾患患者が妊娠を希望した場合のカウンセリング,また妊娠した場合の治療の指針として,『腎疾患患者の妊娠:診療の手引き』が,2007 年に日本腎臓学会から発刊されている.その後,慢性腎臓病(CKD)の概念が浸透し,またCKD 診療ガイドラインも作成された.妊娠・出産に関しても,臨床に即してCKD の概念を取り入れる必要性が出てきたため,現在その改訂が進められている.最近の知見では,CKD ステージ1 程度の軽度の腎機能障害でも,母体の合併症および早産率は健常人よりも増加することが知られている.CKD が重症化するとその割合も増加し,出産後に腎機能が低下する例も増加する.一方,透析患者の妊娠は透析医療,新生児医療の進歩により生児を得る確率は増加している.いぜん早産率は高いが,より長時間,頻回の透析を行うことにより,今後の改善が見込まれる.また腎移植後の妊娠は,腎機能回復に伴う妊孕性の改善により,生児率は高くなっているが,免疫抑制薬の使用に注意する必要があり,計画的な妊娠が望まれる.
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医学のあゆみ 249巻9号, 845-850 (2014);
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分子遺伝学の進歩により,従来は症候論で分類されていた小児期発症疾患の多くが,責任遺伝子同定とともに単一遺伝子病として理解されはじめている.遺伝性腎炎や先天性ネフローゼ症候群も例外ではなく,ここ20 年ほどの間で責任遺伝子がつぎつぎに分離同定され,その病因が明らかにされた.Alport 症候群は,糸球体基底膜の構成成分であるⅣ型コラーゲンの遺伝子異常によって生じる遺伝性進行性腎炎である.糸球体基底膜は不規則に肥厚し,糸球体基底膜緻密層は数層に分裂して網目状の変化を認める.根治療法はなく,遺伝形式によって違いはあるものの,通常は20~40 歳で末期腎不全に至る.Alport 症候群の治療は,腎機能を保持し,腎代替療法の導入をすこしでも遅らせることを目的としたもので,ACE 阻害薬の有効性と安全性が報告されている.先天性ネフローゼ症候群は生後3 カ月までに発症するネフローゼ症候群をいう.ここ10 年ほどの間に,その発症には糸球体上皮細胞スリット膜に関連する分子の構造異常が関係していることが明らかとなった.免疫抑制剤による治療は通常無効で,腎移植を最終目標とした治療計画を立てる必要がある.患者の管理には専門的知識のみならず,エビデンスに乏しい領域であるため医師の経験が重要となる.本症の患者は高度な専門施設に集約化して治療されることが望ましい.
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医学のあゆみ 249巻9号, 851-858 (2014);
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糸球体から濾過された原尿は順に近位尿細管,Henle ループ尿細管,遠位尿細管,集合管を経るなかで,濾過量の99%が再吸収される.尿細管細胞膜には糸球体で濾過された水,電解質,ブドウ糖,アミノ酸などを再吸収する膜輸送体蛋白質(チャネル・トランスポーター)が存在しており,各尿細管セグメントごとに生体内への物質輸送がきめ細やかに調節されている.1990 年代には,各種膜輸送体が盛んにクローニングされ,それら膜輸送体の機能異常によりさまざまな遺伝性尿細管疾患をきたすことがあいついで報告された.さらに最近では,次世代シーケンサーの登場により,責任となる膜輸送体の周辺分子の異常までもがつぎつぎと解明されるに至っている.本稿では,尿細管に発現する膜輸送体の機能とその異常により起こる疾患について,輸送体機能異常から説明される病態生理と診断・治療法に至るまでを最新の知見を交えつつ,尿細管セグメントごとに順を追って解説する.
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医学のあゆみ 249巻9号, 859-863 (2014);
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非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)は,志賀毒素産生腸管出血性大腸菌によるHUS(STEC-HUS)とADAMTS13 活性著減(5%未満)による血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)以外の血栓性微小血管障害(TMA)で,微小血管症性溶血性貧血,血小板減少,急性腎障害を3 主徴とする疾患である.aHUS は多様な病因により発症するが,約50~70%の症例は補体調節因子の異常によるとされている.補体調節因子異常によるaHUS では,補体第二経路の病的な活性化が持続する結果,C5b-9 による血管内皮細胞の障害・活性化が起こってHUS が発症する.補体調節因子異常によるaHUS は,STEC-HUS と比べて生命および腎機能予後ははるかに不良で,50%以上の症例が発症後1 年以内に死亡または透析導入となる.また,腎移植後の再発率はきわめて高く,再発例の大半で移植腎機能が廃絶する.さらに,腎のみならず中枢神経系や心血管系など,全身の臓器障害をきたす疾患である.血漿交換療法の効果は限られており,第一選択治療は従来の血漿交換療法からエクリズマブ(補体C5 に対するヒト化モノクローナル抗体)投与へと変わりつつある.
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腎臓病の治療薬の使い方
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医学のあゆみ 249巻9号, 867-873 (2014);
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薬剤の腎排泄には糸球体濾過と尿細管分泌および再吸収の3 つの過程があり,近位尿細管で行われる分泌と再吸収には種々のトランスポーター群が関与している.腎機能障害患者では水溶性薬剤および脂溶性薬剤の活性代謝物の蓄積に注意し,また,尿毒症により代謝酵素やトランスポーターが変性し,腎外クリアランスが変化する.尿中排泄率の低い薬剤では併用薬剤との相互作用にも注意が必要である.血清クレアチニン値は体格の影響を受けるため,他のマーカーも含めた腎機能の正しい把握法を理解する必要がある.患者の腎機能,薬剤の尿中排泄率から補正係数を求め,投与量や投与間隔を調整する.しかし,その係数を適応しにくい薬剤も少なからず存在する.透析患者においては,薬剤の体内動態と透析性の両方を勘案する必要がある.
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医学のあゆみ 249巻9号, 874-880 (2014);
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利尿薬は,尿細管での水・電解質の再吸収抑制を介して尿量を増加させる薬剤である.作用する尿細管部位の相違により利尿作用が規定される.サイアザイド系利尿薬の利尿作用は弱いが血管拡張作用も有し,降圧作用が強く,降圧薬として使用される.ループ利尿薬の利尿作用は強力であるが,作用持続時間が短く降圧作用は弱い.浮腫性疾患に用いられる.アルドステロン拮抗薬の利尿作用は弱く,他のK 低下性利尿薬との併用,アルドステロン症で用いられる.アルドステロン拮抗薬には心血管保護作用(心筋梗塞後の心不全発症予防など)も示されている.血清Cr 値2.0 mg/dL 以上ではサイアザイド系利尿薬は無効である.ループ利尿薬は腎機能障害時にも有効である.無尿では利尿作用は期待できず,副作用リスクだけが増大するため禁忌である.バゾプレシンV2 受容体拮抗薬は水利尿薬であり,心不全・肝硬変などの浮腫性疾患,また多発性囊胞腎の囊胞容積の増大抑制効果が示されている.
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医学のあゆみ 249巻9号, 881-887 (2014);
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慢性腎臓病(CKD)患者の降圧療法にACEI・ARB は欠かせない薬剤であるが,蛋白尿が陰性の非糖尿病合併CKD の場合,アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)・アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の優越性を示すエビデンスはない.また高齢者や動脈硬化が強い患者に投与すると急激に腎機能が低下することもあるので注意が必要である.一方,レニン活性を抑制するアリスキレンはACEI やARB と併用すると蛋白尿が減少するが,糖尿病性腎症での併用は実質上禁忌となっている.またエプレレノンにも蛋白尿減少効果があるが,微量アルブミン尿レベル以上の糖尿病性腎症での投与は禁忌である.ACEI とARB の併用は急速に腎機能が悪化する可能性が高いため一般医家には勧められず,専門医が慎重に状態をモニタリングして行うべきである.CKD に心不全や虚血性心疾患を合併する場合は,ACEI をARB よりも優先して使うことが推奨される.
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医学のあゆみ 249巻9号, 889-894 (2014);
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経口吸着炭による尿毒素吸着療法は透析療法と並び,CKD における尿毒素除去療法の数少ない選択肢のひとつである.経口吸着炭は腸管において尿毒素およびその前駆物質を吸着することで血中濃度を低下させる.経口吸着炭により血中濃度が低下する代表的な尿毒素としてインドキシル硫酸があげられる.インドキシル硫酸は腎や心血管系などへのさまざまな毒性が報告されており,経口吸着炭の薬理作用はインドキシル硫酸の血中濃度低下によるところが大きいと考えられる.いまのところ経口吸着炭投与により生命予後の改善や透析導入遅延が得られたとする報告はランダム化比較試験では存在せず後ろ向き試験に限られるが,腎機能の低下の抑制や酸化ストレスマーカーの改善などの報告は数多くなされており,CKD 患者に対する補助療法として考慮される.
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医学のあゆみ 249巻9号, 895-901 (2014);
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糖尿病性腎症は,腎機能予後のみならず心血管系疾患の発症や生命予後の観点からも,CKD においてもっとも重要な疾患のひとつであり,顕性アルブミン尿期だけではなく,正常あるいは微量アルブミン尿期から腎機能低下を示す糖尿病例も存在する.厳格な血糖コントロールは糖尿病性腎症の発症・進展を抑制することが示されている.また,血糖コントロール単独でのCVD 合併抑制の効果は明らかではないが,腎症における多角的強化療法の中心的治療として,また早期腎症寛解のための因子として,血糖コントロールがCVD 発症の抑制に寄与する可能性が考えられている.一方,低血糖によるCVD 発症と死亡率の増加が報告されており,糖尿病性腎症ならびに糖尿病合併腎臓病の腎機能低下例では低血糖や副作用発現の危険が高まることから,適切に腎機能を評価し,糖尿病薬を選択することが重要である.
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医学のあゆみ 249巻9号, 902-912 (2014);
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脂質異常が単独の病因として腎障害(蛋白尿などの尿異常や腎機能低下)の発症因子であることは,遺伝性酵素異常によるスフィンゴ脂質のリソソームへの蓄積症(lipidosis)であるFabry 病,先天的血清リポ蛋白異常であるLCAT 欠損症やリポ蛋白糸球体症(LPG)などに限られる.一方,一般的な脂質(リポ蛋白)異常症が腎障害の進展因子であるとする仮説(lipid nephrotoxity 仮説)が提唱されて約30 年が経過するが,現在まで動物モデルでの支持する多くの結果がある.臨床(ヒト)では支持するエビデンスも蓄積されているが,かならずしもコンセンサスはない.さらに,statin によるCKD 患者の脂質異常症への介入によってアルブミン・蛋白尿の減少がメタ解析で証明されているが,腎機能低下予防効果は臨床研究やそのメタ解析による統一的な結論は出ていない.一方,慢性腎臓病(CKD)においては,ネフローゼおよび非ネフローゼのCKD においてそれぞれⅡ型脂質異常およびメタボリックシンドローム類似の特徴的な脂質異常症が惹起され,CKD の重要な臨床的アウトカムである心血管疾患発症および腎機能低下の危険因子となる可能性が指摘されている.また,statinやezetimibe による脂質低下の介入による心血管イベント発症予防効果は,保存期CKD でも証明されてきた.また,透析患者における脂質介入による心血管イベント発症予防効果には疑問が提出されており,進行したCKD では脂質異常以外の腎不全病態に関連する因子がより重要と考えられ,腎不全病態の改善が脂質介入の前提条件となる.また,CKD における心血管イベント発症予防のための脂質介入に関しては,治療方針,治療目標や治療法などのさらなる詳細な検討が必要である.
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医学のあゆみ 249巻9号, 913-918 (2014);
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腎炎を引き起こす原因はいまなおほとんど解明されていないが,発症のメカニズムには免疫学的機序が想定されている.そのため治療としては免疫抑制療法が主体である.ステロイド剤が第一選択薬で,ステロイドだけでは効果不十分のときには免疫抑制薬を追加することが多い.これらの薬剤はときとして劇的な効果を示すが,長期に大量に投与すると多様な副作用を引き起こす.免疫抑制作用に伴う易感染性だけでなく,圧迫骨折の原因となる骨粗鬆症や糖尿病,発癌性などは重篤である.とくにcytotoxic な作用をもつ薬剤が問題となる.これに対し近年,広義の免疫抑制薬には含まれるが,cytotoxic な作用のない薬剤がつぎつぎと開発されてきている.これらの薬剤を使用することによってステロイド減量効果も期待できる.ただ,これらの薬剤は結局のところ対症療法であり,原因療法ではないので,腎炎の原因の解明がまたれる
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末期腎不全の治療
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医学のあゆみ 249巻9号, 921-924 (2014);
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現在の形の血液透析療法は末期腎不全〔慢性腎臓病(CKD)ステージ5〕の腎機能代行療法(RRT)として1960年に導入され,すでに50 年が過ぎた.わが国の透析患者数は1968 年末の300 人未満から2012 年末に約31 万人にまで増加している.これまでに腎移植,死亡者を含めて総数は約80 万人にのぼる.1998 年度より導入原因疾患として糖尿病が1 位となっている.慢性腎炎は導入時の平均年齢が上昇し,導入数自体は減少している.糖尿病による腎不全患者の増加には肥満,メタボリックシンドロームの頻度増加,RAS(renin-angiotensinsystem)抑制薬の使用による進展抑制(死亡率の低下),寿命の延長による高齢者人口の増加など,複雑な要因の関与が考えられる.高齢者の腎不全では糖尿病を伴っていても高血圧,腎硬化症,虚血性腎症などとの鑑別が困難な例が増加している.透析療法を必要とする患者の高齢化は進行し,合併症を有する例が増加すると考えられる.透析導入の基準は推算糸球体濾過量(eGFR)のみでは不十分であり,eGFR 高値で導入される患者ほど予後不良である.しかし,わが国の透析患者の生命予後は諸外国に比べ良好である.体格当り透析量が多いのが理由のひとつとしてあげられるが,個々の患者に配慮した血液透析が効を奏している.
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医学のあゆみ 249巻9号, 925-931 (2014);
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バスキュラーアクセス(VA)は血液透析(HD)を施行するうえで不可欠であり,これを長期に維持していくことが重要である.前腕で橈骨動脈と橈側皮静脈を吻合することにより作製されたVA は,手術成績や経皮的血管形成術(PTA)の開存率からのみでなく,生命予後の面からも好ましいことが報告されている.その一方で,肘部で作製されたVA やグラフトによるVA は,手術やPTA の開存率が低いことが特徴である.また,過剰血流をきたす例もあるが,手術を行っても長期に血流を管理することは困難で,内科的治療を優先して行うことがガイドラインで推奨されている.
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医学のあゆみ 249巻9号, 932-936 (2014);
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糖尿病を原疾患とする末期腎不全患者の増加に伴い,循環動態の不安定な患者も多くなっており,腎代替療法のなかで腹膜透析(PD)療法を選択する社会背景になっている.しかし,2012 年度にかけて血液透析(HD)患者数は5,222 人増加したのに比較し,PD 患者数は132 人減少しており,PD 患者の比率は3.2%から3.1%に減少している.PD 療法が普及しない理由として,医療サイドと患者サイドの問題がある.PD 療法による透析不足や体液過剰を是正する目的で,PD+HD 併用療法が行われてきた.PD 療法に関する診療報酬を見据えながら,認定看護師などの導入を含めた在宅医療の推進に向けた取組みが必要である.
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医学のあゆみ 249巻9号, 937-943 (2014);
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腎移植は,末期腎不全に対する腎代替療法のひとつとして確立した治療法である.わが国では献腎ドナーの絶対的な不足のため,その大半を生体腎移植が占めている.この傾向には2010 年の改正臓器移植法施行後も変化がなく,献腎待機年数は平均16 年ときわめて長いのが現状である.一方,免疫抑制療法,移植に関連する諸検査,感染症対策など,移植医療には大きな進歩がもたらされ,移植腎生着率は飛躍的に向上している.これに伴い先行的腎移植,血液型不適合移植,既存抗体陽性患者に対する腎移植など,生体腎移植を中心に移植の適応も拡大しつつある.今後は移植患者の高齢化,糖尿病患者の増加が予想され,生活習慣病や悪性腫瘍への対策が必要となる.腎移植の質を担保するためには,移植外科医に内科系の各診療科医師や多職種のコメディカルスタッフを加えた移植チームの構築が重要である.
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医学のあゆみ 249巻9号, 945-950 (2014);
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東日本大震災学術調査により,慢性透析医療は災害に弱く,透析患者は災害弱者であることが改めて浮き彫りにされた.今後予想される大規模災害において,慢性維持透析における被害を最小限度に食い止めるためには,透析施設の自助努力と地域自治体で行う共助の態勢を整えることが大切である.各透析施設は大型機械の防振対策,フレキシブルチューブの使用,患者ベッド,ベッドサイドコンソールのロック方法などの防災対策を徹底する必要がある.地域においては,電気・水道,燃料などのライフライン障害が長期化した場合にどのような慢性透析治療を展開するのか,急性腎障害が多発した場合どのように役割分担するのかなど,平時から計画しておくべきである.透析患者は災害時,身体的・精神的ストレスから心血管系事故を起こしやすい状態にある.平時から災害時の自己管理の要点,遠隔地での透析治療の可能性などについて理解させ,適切な降圧処方を行うことが重要である.
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腎臓病研究の進歩と未来の治療
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医学のあゆみ 249巻9号, 953-958 (2014);
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慢性腎臓病(CKD)は,その基礎疾患によらず,ある程度進行すると共通した障害経路により末期腎不全へと至る.CKD 患者の腎病理では間質の線維化が認められ,古くから腎臓病の進行において線維化が果たす役割は注目されていたが,その詳細については不明な点が多かった.近年,遺伝子改変動物の進歩などにより,腎機能障害進行の過程でどのような機序で線維化が誘導されるのか,それらが他のCKD で共通に認められる病態とどのような関連があるのかが精力的に検討され,これまで別々のものとして扱われていた病態が腎線維化と密接に関連した一連の病態であることが明らかにされつつある.またこれらの過程が治療標的になりうる可能性も示唆され,CKD の予後を改善する創薬への期待が高まっている.本稿では腎線維化の機序およびそれと併存することの多い病態との関連について,最近の知見を中心に概説する.
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医学のあゆみ 249巻9号, 959-964 (2014);
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生体は低酸素環境下で生存するためのさまざまな応答システムを兼ね備えている.一方で慢性的に持続する低酸素状態はさまざまな疾患を引き起こす.低酸素環境におけるマスターレギュレーターである転写因子HIF は細胞の生存に関与するさまざまな遺伝子に結合し,それらの発現を調節している.近年の急速な高速シークエンサーの発達により,細胞内の全DNA 配列を読むことが可能となった.著者らはHIF1 が低酸素下で結合する遺伝子を網羅的に解析し,低酸素において重要な役割を果たす遺伝子群を同定した.さらに近年,エピジェネティクスによる遺伝子発現制御機構が細胞の生存に重要な役割を果たすことがつぎつぎと報告されている.著者らのグループは,腎尿細管間質の慢性低酸素が腎臓病の進行に重要な役割を果たすこと,さらに低酸素において発現が誘導されるヒストン修飾酵素と転写因子HIF1 の関係を明らかにすることで,慢性腎臓病(CKD)の進行にエピジェネティックな遺伝子発現制御メカニズムが関与する可能性を見出した.
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医学のあゆみ 249巻9号, 965-969 (2014);
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レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)の阻害薬は,その強い降圧作用に加えて腎保護作用が期待されており,臨床的にも降圧を超えた抗蛋白尿効果などが報告されている.しかし,RAAS 阻害薬が実際に腎組織の障害を抑制あるいは改善することができ,これが腎機能の保持につながっているのかについては,議論が続いている.一方,腎におけるRAAS の制御機構については全容が解明されているとはいいがたく,最近になっても新しい知見があいついで報告されている.なかでも腎におけるRAAS の調節機構として,腎でのアンジオテンシノーゲンがクリティカルな因子であることが明らかになり,腎内RAAS を評価するバイオマーカーとして尿中アンジオテンシノーゲンに注目が集まっている.また,新しいカテゴリーのRAAS 阻害薬の開発も進んでおり,より強い腎保護効果を示すことが強く期待されている.
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医学のあゆみ 249巻9号, 970-974 (2014);
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Proteostasis とは,protein homeostasis を意味する言葉である.これまでさまざまな全身疾患で,proteostasisの破綻が疾患の惹起・進展に関与していることが明らかになっていた.近年,いくつかの腎疾患ではproteostasis の破綻が診断・治療のターゲットとなってきている.個別の疾患のみならず,急性腎障害(AKI)において細胞質proteostasis に関し重要な役割を果たすheat shock protein(HSP)の変動が診断に有用であるとされる.また,細胞内小器官proteostasis ではER ストレスがポドサイト,尿細管,EPO 産生細胞に影響を及ぼし,病的な形質を発現させることが慢性腎臓病(CKD)の進行に深く関与していることが明らかになってくるなど,proteostasis の破綻は個別の腎疾患のみならず,AKI,CKD の両者において普遍的な治療ターゲットとなる可能性が考えられている.
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医学のあゆみ 249巻9号, 975-979 (2014);
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慢性炎症は急性炎症が持続したものではなく,炎症の制御機構が破綻したために炎症が遷延化した状態である.慢性炎症が長期持続すると,機能変化や組織のリモデリング・線維化を引き起こす.近年,慢性腎臓病(CKD)の進展に慢性炎症,とりわけ内因性のストレスを感知したインフラマソームの関与が注目されている.インフラマソームとは,カスパーゼ1 活性化によるIL-1βやIL-18 の分泌などを誘導する,炎症の要となる細胞質内蛋白質複合体である.糖尿病や高尿酸血症など生活習慣病においてもインフラマソームとの関連が指摘されており,CKD の進展にもその関与が報告されている.インフラマソーム活性化メカニズムは徐々に明らかになってきており,慢性炎症をターゲットとした治療法の開発が期待される.
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医学のあゆみ 249巻9号, 980-985 (2014);
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京都大学・山中伸弥教授のノーベル賞受賞に後押しされるかのように,再生医学への注目度が高まっている.2014 年夏,iPS 細胞から分化させた網膜上皮細胞を用いる臨床研究が計画されている.iPS 細胞が臨床応用される世界初のケースとなる予定である.一方,iPS 細胞の腎再生への臨床応用は10 年以上かかると予想されている.腎再生医療は組織再生ではなく臓器再生が必要となるがゆえにハードルが高く,困難だと考えられてきた.しかし,あらたな再生手法の開発や幹細胞研究の進展で,腎再生がすこしずつ現実味をおびてきた.いくつかの先進的な研究も報告されている.Nishinakamura やOsafune らの研究でiPS 細胞から腎前駆細胞までの分化誘導が実現した.Ott らは,脱細胞化した腎を三次元培養の足場に用いる戦略で尿を産生する腎を新生した.異種の発生過程を利用する胚盤胞置換法という手法は,ほぼ完全な腎が作製できる可能性を秘めている.著者らの研究室は胎仔に幹細胞を注入する手法で,他に先がけ2006 年に尿産生可能な腎の新生に成功している.本稿ではそのような,ここ数年にかけての腎再生学の進歩を概説し,今後の展望を述べる.
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医学のあゆみ 249巻9号, 986-990 (2014);
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わが国の透析患者数は30 万人を超え,とくに血液透析療法を透析室内で安全に施行するための技術・知識・経験は世界のトップレベルである.エリスロポエチンをはじめとする関連薬剤の開発も患者QOL の向上や合併症の改善におおいに寄与しており,臨床応用されて約50 年でほぼ完成の域に近づいている.医学におけるナノテクノロジーの応用も徐々に進んでおり,透析領域にもその端緒となりうる動きがみられる.著者らのマイクロダイアライザーは基本的に現在用いられている機材を用いたシステムであり,現在動物実験で耐久性や効率を検討している.週3 回の通院や長時間の床上安静,穿刺に伴う疼痛などから解放される可能性があり,免疫学的な問題や倫理的な問題が少ないために再生腎が臨床応用されるまでのブリッジ医療として期待できる.
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医学のあゆみ 249巻9号, 991-996 (2014);
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生体内で酸素を利用する過程において種々の活性酵素種(ROS)が産生される.しかし,防御機構を凌駕するROS 産生が起こる場合は“酸化ストレス”となり,腎障害進展に大きく関与する.生体内においてこの酸化ストレスと関連し,臓器障害を惹起する物質として,非対称性ジメチルアルギニン(ADMA)と終末糖化産物(AGEs)がある.慢性腎臓病(CKD)や糖尿病ではADMA やAGEs が蓄積してROS を亢進する結果,腎障害が進展する.Keap1-Nrf2 系はこういったさまざまなタイプのストレス対応システムであることから,腎障害に対してKeap1-Nrf2 系を活性化する治療戦略が検討されている.今後,酸化ストレスをターゲットとした治療の有用性が確立されることが期待される.
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医学のあゆみ 249巻9号, 997-1002 (2014);
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2004 年ごろから,これまでの曖昧な急性腎不全の概念に代わって,早期の軽微な血清クレアチニンの上昇(50%の増加)あるいは乏尿の持続を急性腎障害としてとらえることが,RIFLE 分類あるいはAKIN 分類として提唱されるようになった.同時期に,急性腎障害の早期に尿中で増加する蛋白質が続々と同定され,腎障害の新規バイオマーカーとして注目されている.Neutrophil gelatinase-associated lipocalin(NGAL)やlivertypefatty acid-binding protein(L-FABP)は尿細管の炎症・虚血などのストレスによって増加する蛋白質で,急性腎障害の超早期バイオマーカーと考えることができる.一方,kidney injury molecule-1(KIM-1)は障害を受けた尿細管が増殖・再生状態に入ることに伴って産生される蛋白質で,すこし遅れる早期バイオマーカーと位置づけられる.血清クレアチニンや蛋白尿とは異なる新しいバイオマーカーが実臨床で使えるようになれば,急性腎障害(AKI)や慢性腎臓病(CKD)の早期診断・病勢評価・薬効判断に新しい基準が加わることとなり,臨床腎臓病学の進歩に貢献するものと期待される.
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医学のあゆみ 249巻9号, 1003-1009 (2014);
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脊椎動物はすべて腎臓を有しているが,哺乳類の腎臓にはきわだった特徴がある.外見上でもソラマメ形の独特の形状をしている.哺乳類は身体機能を向上させて,物質の流通・代謝の速度を著しく高めており,腎臓も同様の進化を遂げている.哺乳類の腎臓では,①よく発達した髄質を有して濃縮した尿をつくる.髄質には尿素が蓄積し,高い浸透圧を保持している,②糸球体濾過量が著しく大きく,尿の成分と量をよく調節する.そのために糸球体には高い血圧と大量の血流が供給される.糸球体には細い毛細血管が高い密度で集まり,濾過の表面積を増やしている.さらに濾過障壁の発する張力とメサンギウム細胞の牽引力により糸球体構造が保持される,③傍糸球体装置では尿細管糸球体フィードバックにより糸球体濾過量を調節し,レニンを分泌して全身の血圧を上昇させる,④腎臓の表面にあるコラーゲン線維の豊富な被膜は腎臓内の圧を保持する働きをしている.