医学のあゆみ
Volume 250, Issue 9, 2014
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【8月第5土曜特集】 肥満の医学―臨床と研究の最先端
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- 臨床
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肥満症・メタボリックシンドロームの診断基準
250巻9号(2014);View Description Hide Description日本肥満学会において,わが国における肥満の判定と医学的に減量が必要な健康障害を伴う肥満症の診断基準が作成され,わが国における肥満症診療のガイドラインが発表されている.また,内臓脂肪蓄積を基盤とし,糖代謝異常,脂質代謝異常,血圧高値などの複数の代謝異常を合併する動脈硬化性心血管疾患の易発症状態というひとつの病態としてとらえたメタボリックシンドロームの診断基準が,2005 年に8 学会合同で策定されている.これらの病態の基盤は肥満・内臓脂肪蓄積であり,これらの概念を正しく理解し臨床の現場で用いることが,生活習慣病の改善,さらには心血管疾患の予防にとって重要となる. -
メタボリックシンドロームにおけるウエスト周囲長の基準
250巻9号(2014);View Description Hide Descriptionわが国では,日本内科学会をはじめとする8 学会が合同でメタボリックシンドローム(MetS)の診断基準をまとめ,2005 年にこれを公表した.そこでは本疾患の上流を内臓脂肪蓄積ととらえ,その指標としてウエスト周囲長の増大を診断の必須項目としている.一方,海外では2009 年にアメリカのNCEP-ATP Ⅲと国際糖尿病連合(IDF)が中心となり,MetS の国際統一基準を発表している.しかし,そこではウエスト周囲長の増大は診断の必須項目となっておらず,わが国の診断基準とは疾患概念の取り扱い方そのものが異なっている点に留意が必要である.また,国際統一基準のなかで示されている民族別のウエスト周囲長のカットオフ値は,実はそれぞれ異なる作業仮説に基づいて導き出されたものである点にも十分注意しなくてはならない. -
特定健診・特定保健指導―到達点と今後の方向性
250巻9号(2014);View Description Hide Description平成20 年(2008)度よりメタボリックシンドローム(MetS)に着目した特定健診・特定保健指導制度が開始されたが,ナショナルデータベース(NDB)分析によりその効果が明らかにされつつある.また,特定健診データ分析から性・年齢区分別,地域別,保険者別の肥満症などの実態を把握できるため,データ分析に基づく保健事業,いわゆるデータヘルス計画へと進みつつある.本稿ではこれまでの到達点と今後の方向性について述べたい. -
小児肥満の予防と治療―最近のトピックスとその科学的基盤
250巻9号(2014);View Description Hide Descriptionわが国における小児肥満の出現率は,学童期の男女合計で最近の10 年はほぼ10%前後として推移している.しかし,高度肥満の頻度は都市部を中心に,中学生の男女合計で1.5%を超えるところもあり,増加している傾向がある.とくに中学生,思春期以降の高度肥満は,成人期の重症肥満および慢性疾患へ進展する割合が高いのに,一般の関心は低い.臨床の現場における小児肥満の実態は20 年前,30 年前と比べて,社会的な変化につれ,経済的に恵まれない家庭における肥満の重症化や医学的合併症を有する割合がめだつ.わが国独自の小児肥満の研究基盤を固め,公衆衛生としても臨床としてもエビデンスを積み上げて有効な対策に転換していかねばならない. -
高齢者の肥満
250巻9号(2014);View Description Hide Description高齢者の肥満は一般に死亡率・健康関連アウトカムに悪影響を及ぼすとされるが,痩身もまたリスクであることは十分知られている.また,高齢期ではメタボリックシンドローム(MetS)よりも虚弱化のリスクが大きく,なかでもサルコペニア(筋量減少),さらにはサルコペニア肥満など,BMI の情報のみならず身体組成情報を付加する重要性が提唱されている.本稿では,高齢者の肥満と死亡率・健康関連アウトカムに関する簡潔なレビューと,著者らの研究結果を記す. -
腹部肥満による心血管危険因子集積に対する加齢の影響
250巻9号(2014);View Description Hide Descriptionわが国を含め,世界中でメタボリック症候群(metabolicsyndrome:MS)の罹患者数は増加し,2004 年の国民健康・栄養調査では,予備群を含めるとMS は男性の2 人に1 人,女性の5 人に1 人が該当すると報告されている.また,MS は腹部肥満(内臓脂肪蓄積)により心血管危険因子(高血圧,糖尿病,脂質異常症)が集積した状態であり,心血管疾患や,2 型糖尿病のハイリスク病態である.近年,海外ではこの腹部肥満(内臓脂肪蓄積)による心血管危険因子集積の関係は加齢の影響を受けることが報告されている1). 著者らは最近,日本人一般住民において,上記について検討し報告した2).本稿では著者らの解析結果を中心に,若干の文献的考察を加えて紹介する. -
内臓脂肪の測定法
250巻9号(2014);View Description Hide Description肥満症病態の成因として腹腔内の内臓脂肪蓄積がもっとも重要であり,肥満症の臨床の場において内臓脂肪量の適正な評価は不可欠である.また,内臓脂肪の測定は,肥満症にとどまらず,特定健診・保健指導にその病態概念がとり入れられたメタボリックシンドロームにおいても重要な診断基盤となっている.したがって,正確な内臓脂肪量の評価はもちろんのこと,大規模集団を対象とした汎用性に富む測定法の開発が望まれている. 本稿では,これまで行われてきた内臓脂肪測定法の概要,および各測定法の特徴とそれらの比較について述べる. -
肥満の疫学
250巻9号(2014);View Description Hide Description食生活の乱れ・運動不足などの生活習慣の偏りにより内臓脂肪が蓄積し(肥満),代謝異常,アディポサイトカインなどの分泌異常が起こる.遺伝要因がある場合にはさらにそれが加わり,耐糖能異常,脂質代謝異常,血圧高値が複数起こり,動脈硬化が進み,脳心血管疾患が発症するというパスウェイが考えられている.先進国のみならず,開発途上国においても肥満が大きな問題となってきており,肥満対策を早急に行わなければならない. - 【肥満の合併症】
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肥満と癌
250巻9号(2014);View Description Hide Description欧米のみならずわが国でも,BMI 30 以上の肥満において癌罹患リスクならびに癌死亡リスクが上昇することが報告された.また,減量のための胃バイパス手術を受けた高度肥満者では,手術を受けなかった高度肥満者と比較して癌による死亡が60%減少したことが報告されており,肥満が癌の発症あるいは進展に何らかの役割を果たしている可能性は高い.肥満では,アディポカインならびに白色脂肪組織に浸潤した細胞から分泌される炎症性サイトカインの分泌量が変化する.これらが癌罹患リスクの上昇に関係している可能性がある.また,肥満に伴うインスリン抵抗性はすべての細胞・組織で一様に認められるわけではなく,一部の細胞・組織では高インスリン血症のためにインスリン作用が増強しており,これが癌罹患リスクの上昇に関係している可能性もある. -
肥満症と睡眠呼吸障害
250巻9号(2014);View Description Hide Description睡眠はヒトの生活の1/3 を占める重要な現象である.睡眠の質の低下や時間の短縮は肥満・メタボリックシンドローム(MetS)の発症に関連している.また肥満は睡眠障害,とくに閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)を発生・増悪させることから,ともに悪循環を引き起こす.中等度以上のOSAS 症例では経鼻的持続陽圧呼吸療法(nCPAP)が選択されるが,あくまで対症療法であり,肥満の軽減や合併する代謝異常に対する治療の両面からのアプローチが重要である. -
肥満症と認知症
250巻9号(2014);View Description Hide Description近年,生活習慣病に罹患する高齢者の割合は増加傾向にあり,高血圧,糖尿病,脂質異常症などが認知症発症の危険因子であることが明らかになってきている.また,近年増加傾向にある中高齢期の肥満についても,アルツハイマー病(AD)をはじめとする認知症と関連している可能性が示唆されている.加齢に伴う体組成変化として,骨格筋の減少(サルコペニア)および相対的な内臓脂肪増加が認められることが多く,中年期・高齢期における適切な体型維持や肥満対策は認知症予防の観点からも重要と考えられる.本稿では,肥満症と認知症との関連性について概説する. -
肥満と整形外科疾患
250巻9号(2014);View Description Hide Description肥満との関連性が指摘されている整形外科的疾患として,股関節や膝関節の変形性関節症が以前より報告されている.荷重部位となるこれらの関節の変性が肥満による体重増と相関することは想像に難くないが,興味深いことに手指など非荷重関節の変性疾患とも肥満は相関を示すことが報告されている.このことから肥満と変形性関節症とを結ぶものには,荷重負荷という直接的な誘因のほかに,何らかの因子が存在するものと考えられるようになった.その後の研究により,現在では脂肪細胞から分泌される細胞増殖制御因子群(アディポカイン)がその鍵となる因子と考えられており,活発な報告がなされている.本稿では,肥満と関連のある整形外科的疾患について解説するとともに,現在注目を浴びているアディポカインについても言及したい. -
サルコペニアおよびサルコペニア肥満の定義とコンセンサス
250巻9号(2014);View Description Hide Descriptionサルコペニアはもともと“加齢による骨格筋量の減少”との概念であったが,現在では,骨格筋量の減少だけでなく,身体機能(多くは歩行速度)および/または筋力の低下が加わっての複合概念へと変化している.2010 年にヨーロッパ,2014 年にアジアのワーキンググループによるサルコペニア診断のコンセンサスが発表された.しかし,診断に必須となっている骨格筋量測定の基準値は,臨床的意義に基づいて決められたものではない.一方,サルコペニア肥満は診断基準が統一されておらず,相反する研究報告の原因ともなっている.今後,サルコペニア診断のコンセンサスに基づいたサルコペニア,ならびにサルコペニア肥満の報告がなされていくと思われる.しかし,現在のコンセンサスでは,歩行速度と握力が正常であれば骨格筋量の測定を行うことになっておらず,サルコペニアを前段階でみつけることはできないという問題点がある. - 【治療】
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肥満症治療における行動療法のポイント
250巻9号(2014);View Description Hide Description一般的に肥満者は体重を測りたがらない,また体重を測定する習慣がない.毎日の体重測定,なかでも朝の体重を測ることは,肥満の進展ならびに生活習慣病の予防に大きく寄与する.グラフ化体重日記の記載は体重測定を習慣化させ,グラフの波形から患者のライフスタイルや食行動が把握できる.体重の自己記録(セルフモニタリング)は,過食を誘発するストレスや体重を増加させる原因を患者自らが抽出し(ストレス管理,問題点の抽出),食行動誘発刺激の制御と問題点の解決に向けた自己管理をサポートする.減量に適した行動を自主的に遂行できた場合には,しっかりと褒め讃える(報酬による適正行動の強化).問題行動の気づきと行動変容に立脚した体重の自己管理が肥満症治療における行動療法であり,グラフ化体重日記はそのすべてを網羅したものである. -
減量手術による糖尿病改善のメカニズム
250巻9号(2014);View Description Hide Description高度肥満症の内科的治療はリバウンドしやすく,難渋することが知られている.長期的な体重減少が期待できる外科治療が注目されており,世界中で年間34 万件以上の減量手術が行われている.わが国の減量外科治療はいまだ一般化されていないが,2014 年4 月腹腔鏡下スリーブ状胃切除術が保険収載され,今後普及していくことが期待される.減量手術は体重減少効果に加え,糖尿病など肥満関連健康障害が劇的かつ術後早期に改善することが知られており,最近になって肥満2 型糖尿病患者に対する体重減少効果や糖尿病改善効果が内科的治療よりも優れていることが高いエビデンスレベルで報告されてきている.さらに減量手術による糖尿病改善のメカニズムの解明も,臨床的・基礎的研究の双方から精力的に行われている.今後,糖尿病など代謝性疾患の改善を目的とした外科治療,すなわちメタボリックサージェリーが増加していくと予想される. -
外科治療における内科的診断・治療の重要性
250巻9号(2014);View Description Hide Description日本でも肥満外科治療が広まりつつあるなか,術前・術後における内科的診断・治療の重要性が増している.とくに手術が検討されるようなBMI 35 kg/m2以上の高度肥満患者では,糖尿病,高血圧,脂質異常,肝機能障害,睡眠時無呼吸症候群,運動器疾患,婦人科系疾患や精神疾患を合併する例も多いため,内科的治療に加えて他科との連携を通した全人的なアプローチが必要となる.その中核的役割を担うのが内科である.術前には食事・運動指導を通じて患者の行動変容を促し,手術に備えた正しい知識の提供,患者の性格分析や家庭環境なども考慮して手術の適応判断を行う.術後には吸収阻害による栄養不足や貧血,骨密度低下といった合併症の予防・早期発見に努める.内科医と肥満症患者との関係は永続的となるため,術前から治療内容の合意や信頼関係を築くことは重要である.今後は,わが国の事情により適した外科治療を含めた肥満症のチーム医療を確立していく必要がある. -
新しい肥満症治療薬
250巻9号(2014);View Description Hide Description肥満症治療薬は,体重を減らすことにより肥満症の合併症を軽快・改善させる薬物であり,体重を大きく減らし,普通の体重にするやせ薬ではない.現在,市販あるいは開発中の肥満症治療薬は,体重を3~10%減少させることで肥満に起因する疾患を改善させる.日本ではリパーゼ活性を阻害し,脂肪の消化・吸収を抑制することで体重を減少させるセチリスタットが製造承認されている.セチリスタットの体重減少率は3%弱であるが,血糖,脂質代謝異常を改善することが示されている.肥満症治療薬には,肥満に起因する複数の疾患を一挙に改善するというメリットがある.アメリカでは中枢性食欲抑制薬がすでに市販されている.食事,運動を主とした生活習慣改善に加え,薬物を用いた肥満症治療を行うことで,肥満から生じる糖尿病,脂質異常症などを一挙に改善する効果が期待されている. -
糖質制限食
250巻9号(2014);View Description Hide Description最近,糖質制限食が話題とされることが多い.ことによると民間療法のひとつとしてみなされがちな糖質制限食であるが,歴史的には日本糖尿病学会の食品交換表第1 版(1965)ではエネルギー制限と並ぶ大原則とされていたものであり,その歴史は長い.一方,SevenCountires Study1)が報告された1970 年以降,脂質摂取と心血管疾患との関連が懸念され,さらに蛋白質摂取と腎機能低下との関連も懸念されたため2),脂質,蛋白質を控えることが優先されるようになり,食品交換表第5 版(1993)からはエネルギー制限のみが採用されて糖質制限は食品交換表では表現されないようになった.実際,21 世紀初頭は糖質制限食はやってはならない危険な食事法であるとの概念が優勢を占めていた3,4). しかし,こうした概念は十分な科学的検証がなされておらず,今後,きちんとした科学的検証が求められるという意見も存在していた5).そして,2007 年にAto Z 試験6),2008 年にDIRECT 試験7)が報告されるようになると,科学的な検証の結果として糖質制限食を糖尿病8,9)や肥満10)の治療として採用するガイドラインが増えるようになった.そこで本稿では,A to Z 試験6),DIRECT 試験7)について解説し,さらに著者らのデータ11)をご紹介したい. - 【トランスレーショナルリサーチ】
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脂肪萎縮症とレプチン治療
250巻9号(2014);View Description Hide Description著者らは,脂肪萎縮症モデルマウスとレプチン過剰発現トランスジェニック(LepTg)マウス交配実験から,脂肪萎縮症に伴う糖脂質代謝異常のおもな原因がレプチンの不足であることを明らかにした.つぎに臨床研究においてヒト症例におけるレプチン治療の有効性を確認した後,医師主導治験および高度医療評価制度下での臨床試験を実施し,2013 年,国内外未承認薬としてはわが国ではじめてメトレレプチンが医師主導治験により薬事承認された.今後,メトレレプチンのさらなる臨床応用の拡大が期待される. -
脂肪組織幹細胞の臨床応用
250巻9号(2014);View Description Hide Description脂肪には多くの幹細胞が存在することが明らかになり,現在その臨床応用に向けた取組みが世界中で精力的に進められている.わが国においても脂肪由来幹細胞を用いた複数の臨床研究が進行中である.脂肪幹細胞を含んだ製剤は,①SVF(stromal vascular fraction)つまり脂肪由来幹細胞を含む非培養細胞分画と,②ASC(adipose-derived mesenchymal stem/stromal cell)つまり培養脂肪幹細胞,の2 つに分けられる.また,脂肪由来幹細胞の機能としては臓器再生促進作用と免疫抑制作用の2 つが重要である.著者らは,SVF やASCが腎をはじめとする各種臓器再生に促進的に働くことや,ASC が各種モデル動物において免疫抑制機能を呈することを見出した.今後,脂肪由来幹細胞を用いた腎再生医療や難治性腎疾患に対する新規免疫制御治療の実現が期待される. - 基礎研究
- 【アディポネクチン】
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アディポネクチン
250巻9号(2014);View Description Hide Descriptionアディポネクチンは脂肪細胞で産生・分泌され,比較的高濃度で血中に存在している生理活性物質である.アディポネクチンは脂肪細胞から分泌されているにもかかわらず,肥満に伴いその血中濃度が低下するという特徴を有する.“低アディポネクチン血症”は,メタボリックシンドロームをはじめとするヒトにおけるさまざまな病態基盤となることが示されてきた.最近,アディポネクチン蛋白はおもに心血管系組織に集積・分布していることが明らかになってきた.本稿では,当教室を中心に得られた最近の知見を交えて,アディポネクチンについて概説する. -
アディポネクチンの作用機構とアディポネクチン受容体アゴニスト
250巻9号(2014);View Description Hide Description高脂肪食や運動不足による肥満に伴ってアディポネクチンが低下することが,糖尿病,動脈硬化リスク増大の主因である.著者らはアディポネクチンの作用機構を解明するため,その受容体AdipoR を同定し,AMPKやSIRT1,PPAR を活性化するなど,カロリー制限や運動と同様に生活習慣病を改善するのみならず,寿命延長効果を発揮し,健康長寿に貢献できる可能性を見出した.アディポネクチン受容体アゴニストの開発を試み,見出した化合物は,肥満による糖尿病を改善させ,運動持久力を増加させ,肥満糖尿病マウスの短くなっている寿命を延伸させることを示した. -
C1q/TNF-related proteinファミリー(アディポネクチンパラログ)―CTRPファミリー蛋白質の機能と制御
250巻9号(2014);View Description Hide Description脂肪組織から分泌されるアディポサイトカインが肥満関連疾患の病態に重要な役割を果たすことが多く報告されている.アディポネクチンは2 型糖尿病,高血圧に加え,動脈硬化性疾患に対しても防御作用を有している.近年,C1q/TNF-related protein(CTRP)ファミリー蛋白質が,アディポネクチンパラログとして注目されてきている.本稿ではCTRP ファミリーのうち,アディポネクチン同様にアディポサイトカインであるCTRP3,CTRP6,CTRP9,CTRP12(アディポリン)について概説する.CTRP9,CTRP12 はアディポネクチン同様に肥満の病態で血中濃度が低下し,2 型糖尿病,心臓病に防御的に作用することが明らかとなってきた.CTRP ファミリーのなかにはアディポネクチンとヘテロ三量体を形成するものも報告されており,今後CTRP ファミリーのさらなる研究は肥満関連疾患のさらなる理解と総合的な治療戦力につながる可能性を有している. - 【炎症と肥満】
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脂肪組織の炎症と線維化
250巻9号(2014);View Description Hide Descriptionメタボリックシンドロームの病態形成に,肥満の脂肪組織が大きく関与することが明らかになりつつある.脂肪組織には実質細胞である成熟脂肪細胞と,マクロファージをはじめとする免疫担当細胞などの間質細胞が含まれており,肥満に伴いその細胞構成成分が大きく変化する(脂肪組織リモデリング).最近,肥満の脂肪組織において脂肪細胞とマクロファージの複雑な相互作用により誘導される慢性炎症が,アディポサイトカイン産生や中性脂肪蓄積に代表される脂肪組織機能の低下につながること,脂肪組織にはすくなくとも2 種類の性質の異なるマクロファージが存在し,マクロファージの極性や活性化状態が脂肪組織炎症を調節することが指摘されている.また,脂肪組織炎症のみならず,脂肪組織線維化が脂肪組織機能の低下を促進し,異所性脂肪蓄積が増加した結果,慢性炎症が増悪するなど,さまざまな知見も増えてきた.本稿では,肥満の脂肪組織における炎症性変化と線維化について,最近の知見を概説する. -
脂肪組織と酸化ストレス
250巻9号(2014);View Description Hide Description肥満状態の脂肪組織では脂肪細胞の肥大とマクロファージの集積による慢性炎症状態となっている.酸化ストレスは糖尿病や動脈硬化症,癌の発症・進展に深く関与する.肥満者では血中および尿中酸化ストレス指標が内臓脂肪面積と相関しており,血中アディポネクチンとは負に相関する.肥満脂肪組織では活性酸素種産生酵素の発現が増加し,抗酸化酵素の発現は低下した酸化ストレス状態となっている.発生した活性酸素種は脂肪細胞においてインスリン抵抗性とアディポサイトカイン産生異常を引き起こし,メタボリックシンドロームの病態が形成される.肥満マウスでは活性酸素種産生酵素を阻害したり抗酸化酵素を発現誘導すると,耐糖能異常が改善する.したがって,fat ROS は肥満病態において有効な治療標的であると考えられる. -
脂肪組織マクロファージと低酸素
250巻9号(2014);View Description Hide Description脂肪組織マクロファージ(ATM)には,炎症性のM1ATM と抗炎症性のM2ATM がある.M2ATM は非肥満時から脂肪組織内に常在し,インスリン感受性維持への関与が示唆されている.一方M1ATM は,肥満に伴い内臓脂肪組織に強くリクルートされ,炎症性サイトカインの発現増強など慢性炎症の誘導を介してインスリン抵抗性を促進する.肥満時には脂肪組織の酸素分圧が低下する.この脂肪組織低酸素がM1ATM を中心とする肥満脂肪組織の慢性炎症の誘導に関与している. -
脂肪細胞におけるインスリンシグナルとその作用―遺伝子改変マウスより得られた知見
250巻9号(2014);View Description Hide Description脂肪細胞は余剰なエネルギーを中性脂肪として貯えておく単なる貯蔵庫であり,エネルギー貯蔵以外には脂肪組織のもつ機能は乏しいと考えられてきた.しかし1990 年代以降,レプチンやアディポネクチンをはじめとするアディポカインがつぎつぎに発見されたことをきっかけとして脂肪細胞が脚光を浴び,この細胞が生体のエネルギー代謝調節にきわめて重要な役割を担うことが明らかとなってきた.脂肪細胞は脂肪合成や脂肪分解,糖取込み,アディポカイン産生調節など多彩な機能を通じて生体のエネルギー恒常性維持に重要な役割を担っており,インスリンはこのような脂肪細胞の機能調節のあらゆる局面において働く制御因子である.近年の遺伝子工学の発達により脂肪細胞特異的な遺伝子改変マウスが作製できるようになり,インスリン受容体や糖輸送担体GLUT4 などインスリンシグナルの主要な分子の生体における役割とその分子メカニズムが明らかになりつつある. -
脂肪組織の血管新生と肥満病態
250巻9号(2014);View Description Hide Description脂肪組織はエネルギーとして脂質を貯蔵する場であるとともに,糖やエネルギー代謝,血管新生などにかかわるさまざまな生理活性因子のアディポサイトカインを分泌する内分泌臓器として認識されている.脂肪組織は血管が豊富に存在する組織であり,血管新生と脂肪組織の構築は緊密にかかわっている.さらに,その豊富な血管網を介して遊離脂肪酸などの脂肪細胞由来の物質を他臓器へと輸送することでエネルギー恒常性維持の調節にかかわるなど,脂肪組織の機能と血管との連関が認められる.また,肥満病態では余剰なエネルギーを脂肪細胞に貯蔵するため,脂肪細胞から分泌されたアディポサイトカインによって血管新生を含む脂肪組織のリモデリングが引き起こされ,脂肪細胞の分化や肥大化が促進されるが,高度な肥満の状態では不可逆的な脂肪組織のリモデリングが生じ,脂肪組織が機能不全に陥ることでさまざまな代謝異常を生じる.本稿では,脂肪組織と血管新生の連関について概説するとともに,最近著者らが明らかにした脂肪組織のリモデリングにかかわるアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2)の機能についてもあわせて紹介する. - 【中枢と末梢の臓器間ネットワーク】
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視床下部と骨格筋におけるAMPKの代謝調節作用
250巻9号(2014);View Description Hide DescriptionAMP キナーゼ(AMPK)は“代謝センサー”とよばれるセリン・スレオニンキナーゼであり,AMP/ATP 比の上昇,AMPKK であるCaMKK またはLKB1 によって活性化される.AMPK の活性化は骨格筋において脂肪酸酸化およびグルコース利用を促進する.また,視床下部においては摂食行動の制御に関与する.視床下部AMPK は,骨格筋と同様に脂肪酸酸化を促進,または細胞質のカルシウム(Ca)濃度を増加させることによって摂食促進ニューロンの活動を高める.AMPK は,またSirt1,mTOR など重要なシグナル分子にも作用を及ぼし,代謝調節に関与する.このように,AMPK を基点とする代謝調節作用の研究はエネルギー代謝調節作用の分子機構,さらには臓器間相互による調節機構の解明に大きく貢献すると期待される. -
グレリン,グルカゴン様ペプチド1と迷走神経
250巻9号(2014);View Description Hide Description腸管は,中枢神経系に次ぐ神経細胞数からなる腸管神経系によって調節され,中枢性の制御とは独立して自律性の活動を可能にしている.近年,腸管で生じるさまざまな反応が中枢に影響を与えることが明らかになってきた.なかでも迷走神経の機能が注目され,消化管ペプチドが迷走神経を介して摂食調節に機能することや,腸内細菌が起こす炎症が迷走神経を介して中枢に伝達され,腸管の運動や免疫の調節に機能することなどの科学的証拠が蓄積されつつある.胃のA-like 細胞から分泌されるグレリンと,おもに回腸のL 細胞から分泌されるインクレチンのひとつであるグルカゴン様ペプチド-1 は,それぞれ迷走神経を介して摂食の亢進と抑制に調節するとともに,相互に迷走神経を介して連関している.消化管ペプチドと迷走神経求心路は末梢のエネルギー代謝情報を中枢に伝達し,主導的に摂食行動を制御すると考えられる. -
自律神経を介した臓器間ネットワーク
250巻9号(2014);View Description Hide Description摂食とエネルギー消費の調節に集約される体重の調節メカニズムにおいて,脳は重要な役割を果たしている.図1 に示すように,脳は臓器間代謝情報ネットワークを通じてエネルギー代謝情報を入手し,それに基づいてエネルギー摂取(=摂食)とエネルギー消費を調整し,最終的に個体の体重を統御している1).エネルギー代謝情報の脳への入力経路には血流と神経経路が存在し,たがいが協調的に,あるいは相補的に機能している.本稿では,神経を介する臓器間代謝情報ネットワークに焦点を絞り,摂食およびエネルギー消費調節機構を解説したい.またエネルギー消費については,近年,ヒト成人においてもその働きが注目されている褐色脂肪組織(BAT)に焦点を絞り,臓器間神経ネットワークの観点から論じてみたい. -
摂食調節機構と神経ペプチド
250巻9号(2014);View Description Hide Description生物では,種々の外部環境や刺激に対して自己の生存と生殖に関する行動を維持するために適応した生理的反応が認められる.この反応パターンはホルモン性制御と神経性制御とにより構成され,神経性調節には視床下部が重要な働きをしている.生命活動の維持に必須なエネルギーの備蓄に関しても,視床下部を中心とした神経性制御により食行動は調節されている.食行動の調節には数多くの神経ペプチドが関連しているが,本稿では“ホメオスタシス系制御”“報酬系制御”“ストレス性摂食制御経路”の3 つの神経性制御系におけるおもな神経ペプチドについて解説する. - 【エピゲノムと脂肪細胞】
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エピゲノムと脂肪細胞
250巻9号(2014);View Description Hide Description糖尿病,動脈硬化など多因子の疾患の解明は21 世紀の生物医学の大きな課題となっている.近年,遺伝子発現や遺伝子配列情報に加え,ヒストン修飾によるクロマチンの変化と遺伝子発現(エピゲノム)への理解が病気の発症解明に重要となっている.エピゲノムは外来刺激・環境の変化により変動し,さまざまな生命現象に関与する.著者らは3T3-L1 脂肪細胞分化系で次世代シーケンサーを用いたエピゲノム解析から,PPARγがヒストンH3 の9 番目のリジン(H3K9)やH4K20 のヒストン修飾酵素発現を制御することで脂肪細胞分化を制御すること,またH3K9 脱メチル化異常が肥満・インスリン抵抗性発症に重要な鍵を握ることを明らかにした. -
エピゲノムと肥満症
250巻9号(2014);View Description Hide Description肥満症を含めたさまざまな疾患研究において,エピゲノム研究が注目されている.本稿ではポストゲノムとして次世代シークエンサーなどの技術革新により進展し続けるエピゲノム研究について,環境因子と肥満をつなぐ機構としてのエピゲノムの可能性,ゲノム(遺伝因子)とエピゲノムの相互作用,臓器におけるエピジェネティック制御などの最新の知見を概説する. - 【前駆脂肪細胞,褐色脂肪細胞と白色脂肪細胞】
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脂肪細胞のprogenitor
250巻9号(2014);View Description Hide Description肥満した脂肪組織の慢性炎症が,全身の代謝疾患,ひいては虚血性心臓病をはじめとする動脈硬化性疾患の基盤病態であるという概念が提唱され,注目されている.脂肪細胞の分化増殖のメカニズムを明らかとすることは,肥満関連疾患の予防・治療にとって重要であると考えられる.本稿では,脂肪細胞のprogenitor について概説し,分化増殖のプロセス,多能性のもつ臨床的な可能性に言及する. -
ヒトの褐色脂肪組織
250巻9号(2014);View Description Hide Description褐色脂肪組織は寒冷曝露や食事摂取に伴う代謝性エネルギー消費の自律的調節部位であり,マウスなどではその機能障害が肥満の一因となる.ヒトの褐色脂肪は,癌の画像診断法であるFDG-PET を利用して検出・評価できる.その活性や量は環境温度や食事成分などの外的要因のみならず,年齢,肥満度,遺伝子多型など,さまざまな内的・遺伝的要因によっても大きく変化する.ヒト褐色脂肪が全身のエネルギー消費量にどの程度寄与するのかについては確定しているとはいいがたいが,数%程度と想定され,それが長期間にわたって低下すると体脂肪の過剰蓄積をもたらす. -
褐色脂肪細胞およびベージュ脂肪細胞の由来
250巻9号(2014);View Description Hide Description褐色脂肪細胞はエネルギーを熱として散逸させる脂肪細胞である.最近の研究により,褐色脂肪細胞は胎児期から存在する古典的褐色脂肪細胞と,長期の低温刺激などの環境要因によって白色脂肪組織中に出現する誘導性の褐色脂肪様細胞(ベージュ脂肪細胞)とに大きく分けられ,その発生学的特徴や発現遺伝子プロファイルがきわめて異なっていることが明らかとなってきた.著者らは,褐色脂肪細胞やベージュ細胞の発生・分化のメカニズムを理解する端緒として,転写調節制御因子であるPRDM16 や,ヒストン修飾因子であるEHMT1 を同定した.本稿では,おもにマウスを用いた遺伝的系列追跡(lineage tracing)によって明らかとなってきた古典的褐色脂肪細胞やベージュ脂肪細胞の由来,またPRDM16 やEHMT1 などの制御因子がこれらの細胞の分化へ与える影響などの最近の知見について概説する. -
ヒト多能性幹細胞からの褐色脂肪細胞の作製
250巻9号(2014);View Description Hide Description褐色脂肪組織(BAT)は体熱産生を担う特殊な脂肪組織である.遺伝子改変動物を用いた実験や臨床研究から,近年ではメタボリック症候群(MetS)の治療標的として注目されているが,BAT による代謝改善の機序はまだ十分に解明されていない.たとえば,熱産生に伴うエネルギー消費以外の機序でもBAT が代謝改善に貢献していることが想定されているが,検体採取後の品質劣化に加えて,ヒト検体は希少性から入手そのものが困難であり,研究材料の不足により解析は遅れている.しかし一昨年(2012)に著者らは,ヒトES/iPS 細胞から高効率に褐色脂肪細胞(BA)を作製する技術を開発した.この技術はそれまで予想されなかった造血性サイトカインカクテルを用いることに特徴があるが,昨年(2013)にはアメリカ企業から同技術を応用したBA作製キットが販売されるなど汎用性の高さが確認されている.本技術によりBAT の代謝改善の機序が解明され,MetS を標的とした創薬研究が加速されることが期待される. -
褐色脂肪細胞の増殖とその生理的意義
250巻9号(2014);View Description Hide Description機能的なヒト褐色脂肪組織の存在が広く認知されるようになり,その機能解析や肥満対策への応用についての研究が進んでいる.褐色脂肪組織の量を増やすことは,さまざまな活性化因子による作用を増強させるだけでなく,基礎代謝を増やすことにより全身のエネルギー消費量を増加させ,太りにくい体質の獲得につながることが期待できる.ヒト褐色脂肪組織が加齢に伴い減少することからも,褐色脂肪組織を増やす方法を考えていく必要性は明らかである.交感神経-ノルアドレナリン経路は褐色脂肪細胞の脱共役蛋白質1(UCP1)の活性化と遺伝子発現を引き起こすが,慢性的に作用すると褐色脂肪細胞の数そのものを増加させる.この作用は前駆細胞への直接作用による細胞増殖の促進に加え,成熟褐色脂肪細胞への作用により分泌されるさまざまな増殖因子の機能を介している.本稿では,褐色脂肪組織の増生機構について,動物実験から得られている知見を整理して紹介する. - 【脂肪細胞のKey Molecules】
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アクアポリン―脂肪細胞グリセロールチャネル分子・アクアポリンアディポース(AQPap/7)
250巻9号(2014);View Description Hide Description脂肪組織は飢餓に備えてエネルギーを蓄える巨大な代謝燃料の貯蔵庫として機能している.脂肪細胞は生体のエネルギーバランスに応じて脂肪合成と脂肪分解を活発に行う臓器である.しかし,過剰な栄養摂取,運動不足に傾いている現代社会においては,脂肪蓄積,とくに内臓脂肪の蓄積が糖尿病,脂質異常症やこれら危険因子の集簇による動脈硬化疾患の基盤となる.脂肪細胞から脂肪分解により放出される生理物質として,遊離脂肪酸とグリセロールがある.脂肪細胞のグリセロール放出機構について脂肪分解時には大量のグリセロールが産生され,細胞内浸透圧が上昇するのを防ぐチャネル分子としてアクアポリンアディポース(aquaporin adipose:AQPap╱7)が発見された. -
FGF21
250巻9号(2014);View Description Hide Description線維芽細胞増殖因子(Fibroblast growth factor)は古典的にはin vitro での細胞増殖活性を指標に同定された分泌蛋白質で,多くはparacrine 因子として分泌細胞近傍で作用し,発生や臓器修復に関与する.最近,分泌されずintracrine 様式で作用する細胞内FGF や,血液中を循環してendocrine 因子として遠隔臓器に作用する内分泌型FGF の存在が示され,多彩なFGF による多様な生体調節機能が明らかとなりつつある.FGF21 はFGF19 やFGF23 とともに内分泌型FGF に属すると考えられ,飢餓応答や糖脂質代謝調節作用などを担う新しいFGF である.しかし,作用の分子機序や生理的意義には未知の点も多い. -
NADとその関連代謝物による生活習慣病の制御
250巻9号(2014);View Description Hide DescriptionNAD(Nicotinamide adenine dinucleotide)は細胞内において,その還元型であるNADH との酸化還元反応を介して,さまざまな酵素反応の補酵素として働く重要な代謝物である.また,DNA 損傷時のPARP によるポリADP リボシル化や,老化関連分子Sirtuin による脱アセチル化反応においても,NAD は基質として働くなど,細胞内のストレスセンサーとしての役割も注目を浴びている1).NAD 合成の反応経路は古くからよく研究されており,①トリプトファンやニコチン酸を出発点とするde novo 合成経路と,②ポリADP リボシル化反応や脱アセチル化反応で産生されたNAM(ニコチンアミド)を利用したサルベージ経路,の2 つ経路で合成されていることが知られている(図1). 近年,こうしたNAD 代謝経路が肥満や糖尿病,癌などのさまざまな生活習慣病に関与していることが明らかとなっている.また,NAD 合成経路の中間代謝物や関連代謝物を個体レベルで投与することにより,こうした生活習慣病の改善や,寿命延長といった効果があることがわかってきた.本稿ではこうしたNADとその関連代謝物による生活習慣病の制御機構について,最近の文献を交え概説する. -
Nesfatin
250巻9号(2014);View Description Hide Description脂肪細胞は脂肪滴を貯蔵すると同時に,多くの生理活性物質を合成・分泌する内分泌細胞である.また,中枢の視床下部は食欲とエネルギー消費を調節することによりエネルギー代謝を保持し,体重を一定に保つ.末梢の脂肪組織に局在して脂肪細胞の分化増殖を調節している分泌型分子またはその受容体は,視床下部にも局在して食欲制御に関与する(表1).脂肪組織と視床下部はエネルギー代謝調節において密接な関連を有しており,the brain-adipose axis と呼称される1).このaxis 構成分子の異常により肥満となる. 著者らは,PPARγ活性化により遺伝子発現が増強するnesfatin(nefa╱nucb2)を発見した2).Nesfatinは食欲関連の視床下部神経核に局在して,nesfatin-1 にprocessing されて食欲を抑制する.また,視床下部におけるその発現増強は,暗期ならびに飲水制限後の食欲低下に関与する3).脂肪細胞のnesfatin は,adipogenesis制御にも関与する. -
マクロファージ由来蛋白質AIM
250巻9号(2014);View Description Hide Description近年におけるライフスタイル,とくに食習慣の急激な変化に伴って,肥満に伴うさまざまな疾患群が急速にクローズアップされている.そのなかには糖尿病や動脈硬化といった生活習慣病だけでなく,自己免疫疾患,脂肪肝から進行する種々の肝疾患,そして癌なども含まれ,非常に多岐にわたる疾患群を形成している. 本稿では,このような複雑な疾患群の病態進行において鍵となる分子のひとつであるAIM(apoptosisinhibitor of macrophage)について,そのユニークな血中における安定性の維持機構と,脂肪細胞における役割について概説する. -
Vaspin
250巻9号(2014);View Description Hide Description著者らは,2 型糖尿病や肥満の動物モデルであるOtsuka Long-Evans Tokushima Fatty(OLETF)ラットと,コントロールとしてLong-Evans TokushimaOtsuka(LETO)ラットの内臓脂肪を用いて,PCR を用いたcDNA 遺伝子サブトラクション法を行うことにより,肥満・糖尿病において内臓脂肪で発現が亢進する遺伝子vaspin(visceral adipose tissue-derived serineprotease inhibitor)を発見した1).Vaspin はα1-antitrypsin と40.5%のホモロジーを有し,ヒト・マウス・ラットで相同性が高く,その構造からserpin(serine protease inhibitor)遺伝子ファミリーに属することが明らかとなった2). - 【抗肥満作用を有する食品成分】
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トマト由来オキソ脂肪酸
250巻9号(2014);View Description Hide Description国際赤十字社の“世界災害報告”2011 年版によると,栄養不足に苦しむ人びとがおよそ9 億人いるといわれている.栄養不足の問題は世界的な食糧不足だけでなく,分配の偏りや食べ物の廃棄,さらには投機的取引と気候変動による食糧価格の高騰などに起因している.その一方で,現在世界には15 億人にも上る肥満者がおり,生活習慣病やメタボリックシンドローム(MS),医療費の増大の問題が生じている.現在,肥満症をはじめとする疾患に対して医薬療法や運動療法,食事療法が治療に用いられている.それに加えて,長期にわたって日常の食生活に取り入れることで穏やかに生体機能を調節しうる食品(機能性食品)の開発は,個々人の食生活が密接に関連するこれら病態の予防・改善策として重要性かつ有効性の高い方法のひとつといえる. そこで本稿では,“食”の観点から,肥満症およびMS に対する有効な科学的戦略のひとつとして食品の可能性の事例を紹介したい. -
γ-オリザノール―多彩な代謝改善効果と新たな作用点が明らかになった玄米由来有効成分
250巻9号(2014);View Description Hide Descriptionγ-オリザノールは1953 年に土屋,金子らにより玄米から抽出された数種のトリテルペンアルコールのフェルラ酸エステル化合物で,米ぬかに含まれる玄米特有の物質である1).ウサギを用いた実験により経口投与されたγ-オリザノールは脳に多く分布し,肝で代謝されることが示されている2).γ-オリザノールは,視床下部におけるカテコールアミンの代謝に作用し自律神経系の機能を調整することから,更年期障害や過敏性腸症候群の治療薬として,また,コレステロール吸収抑制,肝コレステロール生合成抑制作用を有することから,高脂血症治療薬としても臨床応用されている3,4).抗酸化作用やメラニン生成抑制作用,紫外線吸収作用をもつことから,化粧品や食品添加物にも幅広く応用されている4,5). 著者らは沖縄県のメタボリックシンドローム患者を対象に玄米の介入臨床試験を行い,食後の血糖値,インスリン値の上昇が軽減すること,1 日3 食の主食を2 カ月間玄米に替えることで,肥満や糖・脂質代謝の改善,血管内皮機能が改善することを証明した6).アメリカで行われた疫学研究においても玄米摂取が白米に比べ糖尿病の発症リスクを有意に減少させることが報告されている7).玄米による体重減少,糖・脂質代謝改善効果の分子メカニズムを検討する過程で,γ-オリザノールが多彩な代謝改善効果を発揮することが明らかになってきた8,9). -
カプシノイド
250巻9号(2014);View Description Hide Description肥満を軽減するためには,エネルギー摂取を減少させるか,エネルギー消費を亢進させる,あるいはその両方が必要である.一般に,エネルギー消費を高めるためには習慣的な運動が推奨されるが,現在,褐色脂肪も有望な刺激標的として注目されている. 本稿では褐色脂肪を刺激・活性化する食品成分,とくにカプシノイドに焦点を当て,その代謝亢進作用と抗肥満効果について概説する. - 【脂肪組織の解析に必要な技術】
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生体分子イメージングでみる脂肪組織炎症の発生過程―手法論を含めて
250巻9号(2014);View Description Hide Description最近の研究により,各種生活習慣病の背景には慢性炎症を基盤とした異常な細胞間作用,とくに免疫・炎症性細胞の活性化が生体内で生じていることが明らかになった.著者らは一光子・二光子レーザー顕微鏡を用いた“生体分子イメージング手法”を用いて,肥満に伴う脂肪組織リモデリング過程を明らかにし,炎症とのかかわりにアプローチしてきた.この手法は生体内での細胞動態をそのままとらえるものできわめて新規性が高く,かつ得られる情報が多い.肥満脂肪組織では脂肪細胞分化・血管新生が空間的に共存して生じ,脂肪組織微小循環では炎症性の細胞動態を生じていた.さらに,肥満脂肪組織にはCD8 陽性T 細胞が存在し,肥満・糖尿病病態に寄与していた.また,脂肪組織には抗炎症作用をもった特異なB 細胞が存在することが示唆された.血栓形成過程など多様な病態破綻も可視化・解析している. -
フローサイトメトリー
250巻9号(2014);View Description Hide Description脂肪組織には多種類の細胞が混在し,肥満に伴いその数や性質が大きく変化する.フローサイトメトリーは,細胞ごとの複数のマーカーを同時に高速で検出でき,その変化を解析するうえできわめて優れた手法である.実際に,脂肪組織に浸潤するマクロファージ,B 細胞,T 細胞,制御性T 細胞,好中球,好酸球などさまざまな細胞が肥満によりその数や性質を変え,慢性炎症や全身の糖代謝に大きく影響していることがこの手法を用いて明らかとなってきた.本稿では,脂肪組織の解析におけるフローサイトメトリーの特性と,サンプル調整の流れ,さらにこれまでに明らかとなった知見について概説する. -
脂肪細胞特異的Creトランスジェニックマウス
250巻9号(2014);View Description Hide Description脂肪組織は,エネルギー代謝の恒常性に中心的な役割を果たしている.メタボリックシンドロームの患者数の急激な増加のため,脂肪細胞の機能や肥満の病態解明に関する研究に注目が集まっている.しかし,脂肪組織は成熟脂肪細胞,前駆脂肪細胞,内皮細胞などの異なった細胞集団で構成される臓器であり,また脂肪細胞にも大きく分けて白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞(beige 細胞を含む)の2 つの細胞集団が存在するため,脂肪細胞を制御する特定の遺伝子の機能解析は複雑であり,容易ではない.生体内での脂肪細胞の機能解析には,組織特異的なノックアウト(KO)マウスが不可欠である.脂肪細胞特異的KO マウスを作製するためには,組織特異性とCre-loxP の組換え効率に優れた脂肪細胞特異的Cre トランスジェニックマウスが必要である.本稿では,現在使用されている脂肪細胞特異的Cre トランスジェニックマウスの特徴について概説する. - 【Emerging concept】
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DOHaD仮説とエピゲノム医療の可能性
250巻9号(2014);View Description Hide Description疫学データや動物モデルを用いた研究により,胎児期や新生児期の栄養環境が成人期の肥満症や2 型糖尿病などの代謝関連疾患への罹患性に影響を与えるというDOHaD 仮説が提唱されている.DOHaD 仮説の分子機構として,塩基配列の変化を伴わずに遺伝子発現を調節するエピジェネティクスの関与が考えられる.すなわち,胎児期~新生児期の栄養環境により,代謝関連遺伝子のDNA メチル化,ヒストン修飾などが個々に調節され,その後維持されることで遺伝子発現量に個体差が生じた結果,成人期の肥満症や2 型糖尿病などへの罹患性に影響を与えると想定される.今後,DOHaD 仮説に基づいた妊娠時母体への適正な栄養介入や,将来の疾患を予防する“エピジェネティックミルク”の開発などを通じて肥満症・2 型糖尿病の発症を阻止するための“先制医療”が期待されている. -
報酬系とレプチン
250巻9号(2014);View Description Hide Description摂食行動は,視床下部や脳幹を中心として生体の恒常性維持を目的とした調節を受けているが,一方で食物摂取による快楽の刺激に基づいた調節も受けている.肥満においては前者のみならず,後者のシステムも異常をきたしていることが近年の研究により明らかにされつつある.後者の快楽の刺激による調節に重要な役割を果たしているのが脳内の報酬系である.一方,レプチンは脂肪細胞により分泌される代表的な摂食・エネルギー消費の調節ホルモンである.レプチンの主たる作用部位は視床下部であるが,視床下部以外の神経核での作用も古くから知られており,報酬系関連の神経核もそのなかに含まれる.本稿では報酬系とレプチンの関係について,レプチンのドパミン系への作用を中心に概説する. -
異所性脂肪と心臓脂肪―生活習慣病のあらたな病態
250巻9号(2014);View Description Hide Description内臓肥満症に脂質異常症,耐糖能障害,高血圧症が重積する理由として,インスリン抵抗性,インスリン分泌障害が重要であるが,近年脂肪細胞以外の臓器における脂肪蓄積,異所性脂肪が注目されている.異所性脂肪蓄積により,肝・筋肉の慢性炎症やインスリン抵抗性をきたすことで,脂質異常症,耐糖能障害,高血圧症のリスクが重なり,心臓血管病が起こりやすくなると想定される.異所性脂肪は心臓血管系にもみられ,心臓脂肪と称する.心臓脂肪は,①流血中脂肪および血管局所への脂肪,②心筋細胞内脂肪・心筋細胞外脂肪,③血管周囲脂肪,④心外膜周囲脂肪,の4 つのコンポーネントに分けられる.異所性脂肪・心臓脂肪は心臓血管病の病態に深く関与する. -
肥満と腸内細菌
250巻9号(2014);View Description Hide Descriptionヒトの腸内には500 種類以上の腸内細菌が存在しているといわれており,腸内細菌は宿主が代謝できない物質を代謝したり,宿主の免疫システムを調節して共生している.近年,腸内細菌を単離培養できなくとも,腸内容物や糞便から腸内細菌のゲノムDNA を精製し,細菌のもつゲノム配列を解析することにより,どのようなDNA 配列をもつ細菌が存在するのかが明らかになってきた.とくに16S リボソームRNA 遺伝子の可変領域の塩基配列解析法によって菌の分類を行うことができるようになり,さらに近年は次世代シーケンサー技術進歩も相まって,細菌の全ゲノムを同定していくメタゲノム解析などのマイクロバイオーム研究が急速に発展している.このような方法を使ってさまざまな病態での腸内細菌の変化が解析されているが,肥満という病態もそのひとつである1).肥満は糖尿病や心疾患だけでなく,がんのリスクファクターにもなることが知られている.近年,先進各国においては肥満人口は増加の一途をたどっており,その病態メカニズムの解明や予防法の開発は重要である.肥満という病態は腸内細菌と密接な関係があること示すエビデンスやその分子機構が,最近多く報告されてきている.本稿では,肥満と腸内細菌に着目した最近の研究を概説する.
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