Volume 251,
Issue 1,
2014
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【10月第1土曜特集】 腸内細菌と疾患
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医学のあゆみ 251巻1号, 1-1 (2014);
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総論
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医学のあゆみ 251巻1号, 5-11 (2014);
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◎ 500~1,000 種類,100 兆~1,000 兆個の腸内細菌が腸内細菌叢(フローラ)を形成している.腸内細菌は宿主と共生しながら,エネルギー産生,物質代謝の調節,感染症防御,免疫活性化,発癌への関与などの作用をもつ.腸内細菌の分析には従来の培養法に加えて,分子遺伝学的手法ならびに情報解析技術を駆使した16SリボソームRNA 遺伝子解析法やメタゲノム解析法が使われる.腸内細菌は抱合型胆汁酸の脱抱合や脱水酸基反応,コレステロールの代謝調節,ステロイド代謝,ウレアーゼ代謝などの宿主の代謝と密接に関連する.腸内細菌の生体代謝とのかかわりについての研究が健康増進や疾病予防に役立つことが期待される.
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医学のあゆみ 251巻1号, 13-17 (2014);
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◎腸内細菌の研究は長年,培養法により培養可能な菌種を対象に行われていたが,1990 年代ごろから細菌に特異的な遺伝子である16S リボゾームRNA(16S rRNA)とそれをコードする遺伝子16S rDNA をターゲットとするダイレクトシークエンスが行われるようになり,これまでに知られていない菌種の検出が可能となってきた.それに加えて次世代シークエンサーの登場により遺伝子解析の迅速化がはかられ,メタゲノム解析が行われ莫大な量の腸内細菌叢(gut microbiota)の解明が可能になった.そして腸内細菌は,炎症性腸疾患(IBD)をはじめ,過敏性腸症候群(IBS),非アルコール性脂肪性肝炎(NASH),大腸癌,2 型糖尿病や肥満に関与していることが明らかにされ,さらには自閉症とも関係があるのではないかともいわれてきている.細菌学は終わったといわれ,腸内細菌に見向きもされなかった時代からみれば隔世の感である.本稿では腸内細菌叢(gut microbiota)とこれらの疾病とのかかわりについて近年の大進歩を概説する.
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医学のあゆみ 251巻1号, 18-22 (2014);
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◎腸内細菌は宿主にさまざまな生理・病理作用を及ぼす.免疫系に対する影響もそのひとつである.無菌マウスやノトバイオートモデルを用いた研究から,特定の腸内細菌やその代謝物がTh17 細胞やTreg 細胞の腸管局所における分化誘導を促進することが明らかになってきた.腸内細菌はエピゲノム制御を介して,Treg 細胞の分化や増殖,機能的成熟に寄与することで腸管免疫系の恒常性維持に寄与している.また,好塩基球がB細胞におけるIgA へのクラススイッチや,IgA 産生形質細胞の成熟や維持に働くことで正常なIgA 分泌に寄与し,腸内細菌の恒常性維持に重要な働きをしていることも最近示された.このように,腸内細菌と腸管免疫系は複雑な相互作用によりそのバランスを保っている.
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医学のあゆみ 251巻1号, 23-26 (2014);
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◎潰瘍性大腸炎(UC)やクローン病(CD)などの炎症性腸疾患(IBD)では,遺伝的素因により腸内細菌と免疫細胞の相互作用が破綻することで過剰な免疫反応が生じ,腸管炎症が発症・進展すると考えられている.そのため,腸内細菌を標的とした治療法の重要性が認識されつつある.本稿では,IBD における腸内細菌叢の特徴と腸内細菌を標的とした代表的な治療法であるプロバイオティクスとプレバイオティクス療法の現状を概説する.
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トピックス
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医学のあゆみ 251巻1号, 29-34 (2014);
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◎腸管は食餌抗原や腸内細菌などの刺激にたえず曝露されており,独自の免疫制御機構を発達させてきた.とりわけ,Peyer 板に代表される腸管関連リンパ組織は粘膜免疫において重要な役割を果たすIgA を誘導する.盲腸に存在する虫垂は発達したリンパ組織(虫垂リンパ組織)を有するが,その免疫学的意義は長らく不明であった.虫垂リンパ組織を切除した無菌マウスを常在性細菌の存在する環境下で飼育したところ,非切除群に比べ大腸のIgA 産生細胞数が有意に減少し,その腸内細菌叢も変化した.一方,小腸のIgA 産生細胞数に変化は認められなかった.また,虫垂リンパ組織で誘導されたIgA 産生細胞は小腸および大腸に移動したが,Peyer板で誘導されたIgA 産生細胞はおもに小腸に移動した.さらに,ナイーブB 細胞は虫垂リンパ組織の樹状細胞の刺激を受けて大腸指向性ケモカイン受容体CCR10 を発現した.以上のように,虫垂リンパ組織は大腸指向性のIgA 産生細胞を誘導する重要な組織であることが明らかになった.
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医学のあゆみ 251巻1号, 35-41 (2014);
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◎ヒトは出産と同時に外界に存在している微生物に曝され,その結果多種多様な菌から構成される腸内菌叢(腸内フローラ)が腸管内で形成される.腸内菌叢の構成は近年,rRNA 遺伝子を標的とした分子生物学的手法による詳細な解析が可能となり,成人では1 人当り数百の菌種から構成されること,個人ごとにその構成が異なること,Bacteroidetes,Firmicutes,Actinobacteria の3 つの門が最優勢を占めることなどが明らかとなった.一方,乳児の腸内菌叢は成人とは異なり,腸内菌叢の多様性が低く個人差が大きいこと,誕生直後から離乳期までの変動が顕著であることが報告されている.また,超高齢化社会の到来に向けて高齢者の腸内菌叢についてもメスが入りつつあり,高齢者に特徴的な菌叢構成が同定されつつある.本稿では乳児,成人,高齢者それぞれについての腸内菌叢の最近の研究報告を紹介し,それぞれの年齢層の腸内菌叢構成の特徴を概説したい.
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医学のあゆみ 251巻1号, 42-48 (2014);
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◎腸内細菌叢の乱れはさまざまな疾患との関連性が指摘されている.しかし,腸内細菌叢の乱れが,実際にどのような機序で生体内に影響を及ぼしているのか,明らかにされていない点は多い.当研究室では,抗生剤投与によって生じた腸内細菌叢の乱れがマウスの肺胞マクロファージを活性型(M2 型)に変化させ,アレルギー性気道炎症を増強していることを解明した.抗生剤を投与されたマウスのアレルギー性気道炎症が増悪したため,腸管内を調べたところ,真菌(カンジダ)が増殖していた.カンジダの増殖により血中プロスタグランジンE2(PGE2)濃度が上昇し,M2 型マクロファージを誘導していた.PGE2合成阻害剤(シクロオキシゲナーゼ阻害剤)を投与したところ,M2 型マクロファージの誘導は抑制され,アレルギー性気道炎症は軽減した.抗生物質の投与により腸管内に特定の菌種が増殖し,腸管から離れた臓器に炎症を惹起できることを解明した.
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各論
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医学のあゆみ 251巻1号, 51-54 (2014);
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◎炎症性腸疾患(IBD)の病態において腸内細菌叢が重要であると考えられている.IBD の病因となる特定の菌は同定されていないが,腸内細菌叢を構成する菌のバランスの異常,dysbiosis がIBD において認められる.IBD においてもっともよく観察されるdysbiosis は腸内細菌叢の多様性の低下である.また,Firmicutes の減少もしばしば認められる.Dysbiosis がどのようにIBD の病態に関与しているのかはまだ明らかではない.腸内細菌の違いによって腸管に異なる免疫反応が引き起こされることはマウス腸炎モデルでは示されている.また,腸内細菌の代謝産物の変化,とくに酪酸などの短鎖脂肪酸の減少が腸管上皮細胞や腸管免疫に影響を与えている可能性も考えられている.さらに,dysbiosis を是正することによるIBD の治療法の開発も進められている.
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医学のあゆみ 251巻1号, 55-61 (2014);
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◎過敏性腸症候群(IBS)とは,腹痛・腹部不快感に代表される内臓知覚と便秘,下痢,あるいはその混合の便通異常が慢性再発性に持続する状態である.IBS における腸内の常在菌の特徴とその産物の役割が検討されている.腸内細菌叢の役割は介入研究においても証明され,脳腸相関を介して生体を変化させる.IBS における腸内細菌の役割は,感染性腸炎後の発症,感染性腸炎後IBS の遺伝子多型分析,ストレスによる細菌叢の変化,粘膜透過性亢進に果たす腸内細菌の役割と解明が進んでいる.腸内細菌に関するさらなる検討がIBS 研究においておおいに期待される.
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医学のあゆみ 251巻1号, 63-68 (2014);
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◎肝細胞癌の多くは慢性炎症を基盤とする肝疾患から発生することから,炎症性発癌の典型例とされる.最近,既存の肝疾患に加え,腸内細菌叢が炎症の助長に加担し,肝発癌を促進している可能性が注目されている.その理由として,腸内細菌叢の構成変化により,①腸内細菌叢からのTLR リガンド供給増加で肝での炎症や線維化が促進すること,②細胞障害作用のある胆汁酸が増加し,炎症性サイトカインの過剰産生が起こること,③Helicobactor やAkkermansia 増減による腸内環境の変化,④アルコール産生菌の増加による有害物質増加,⑤短鎖脂肪酸の肝保護作用の減弱,などがあげられる.現在までのところ,肝発癌における腸内細菌叢の役割には不明な点が多いが,腸内細菌が炎症を助長していることが明らかになりつつあり,腸内細菌叢は肝発癌において注目すべき分野である.
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医学のあゆみ 251巻1号, 69-74 (2014);
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◎腸内細菌との共生の場である大腸で近年急増している大腸癌の発症と腸内細菌叢との関連が注目されている.腸内細菌叢と宿主の自然免疫との相互作用は両者にとって非常に重要であるが,これに加えて近年は,腸内細菌叢によって産生される代謝物のさまざまな生物活性も大きな関心をよんでいる.さらに,腸内細菌叢と肥満・糖尿病などメタボリック症候群との密接な関係が明らかとなるにつれて,代謝疾患において大腸癌のリスクが高いという疫学的観察もたいへん興味深い.腸内細菌叢と代謝物の網羅的解析は現在グローバルな規模で進行中であり,現在つぎつぎと開示されつつあるその結果は,今後の大腸発癌予防のために重要な情報であると考えられる.
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医学のあゆみ 251巻1号, 75-79 (2014);
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◎小腸内細菌異常増殖(small intestinal bacterial overgrowth:SIBO)とは,小腸における細菌の過剰増殖がある状態をさす.この細菌はほとんどが嫌気性菌で,粘膜炎症や吸収不良に関与する.SIBO の患者はかならずしも症状を示さないが,腹部膨満感,腹部不快感,水様性下痢,およびディスペプシアを呈することがあり,重症例では体重減少を示す場合もある.原因としては慢性膵炎,腸閉塞,消化管運動障害などがあげられる.診断は吸収不良や炎症の存在のもとになされ,空腸吸引液培養や非侵襲的なグルコースやラクツロースを用いた呼気試験によってなされるが,必要十分な検査診断法は確立されていない.治療法として背景疾患の治療,食事療法および抗生物質投与があるが,再発することも多いため,抗生物質を使用する場合には逐次変更しながら間欠的に投与するとよい.
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医学のあゆみ 251巻1号, 81-84 (2014);
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◎アルコール性肝障害(ALD)や非アルコール性脂肪肝炎(NASH)などの慢性肝疾患の病態に,腸管細菌の異常増殖が関与する.腸内細菌由来のエンドトキシンがKupffer 細胞を活性化し,過剰産生された炎症性サイトカインが肝細胞壊死やアポトーシス,線維化を引き起こす.また,アルコール摂取や肥満は腸管での透過性を亢進し,肝でのエンドトトキシンの感受性亢進も相まってこれらの病態を形成する.近年,腸内細菌には自己免疫性肝疾患や肝発癌への関与も示唆されている.抗生物質やプロバイオティクスによる慢性肝疾患治療の試みも報告されつつあり,今後,腸内細菌は慢性肝疾患における治療標的となるであろう.
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医学のあゆみ 251巻1号, 85-88 (2014);
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◎ヒトには非常に多数の腸内細菌が共生しているが,抗菌薬などの使用による菌交代現象の結果,腸内細菌の構成は大きく変化し,腸管炎症を発症することがある.その代表的なものはC. difficile 感染症(CDI)や急性出血性大腸炎などである.欧米において従来の治療法で制御することが困難な難治性CDI が激増し,大きな問題となっている.これに対して便移植という非常にユニークな治療法が行われ,従来の治療法を上まわる効果をあげている.世界中で腸内細菌の研究は精力的に行われており,腸内細菌のバランスの維持の重要性,およびそれが破綻した際の疾患の発症について急速に解明が進んでいる.
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医学のあゆみ 251巻1号, 89-93 (2014);
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◎過大肝切除後や過小グラフト肝移植の術後感染症治療において,感染源が不明な敗血症はしばしば経験することであり,そのなかでも,bacterial translocation(BT)は無視できない合併症のひとつである.その病態は,門脈圧亢進による腸管うっ血に起因する腸管粘膜障害・透過性亢進に基づいて生じると考えられている.BT の臨床症状はけっして特異的なものではなく,確定診断も簡便ではない.そのため,複数の方法で総合的に診断する必要がある.対策としては経腸栄養,胆汁外瘻時の胆汁返還,門脈圧調節などを行ってBT 発症を予防することが肝要と考えられ,つねに最新の知見に精通しておく必要がある.
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医学のあゆみ 251巻1号, 95-99 (2014);
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◎カプセル内視鏡やバルーン内視鏡などの進歩で,これまで診断できなかった小腸疾患の解明が急速に進み,さまざまな小腸疾患に関する臨床研究や症例報告が発表され,小腸の消化器病学にあらたな光を灯した.とくに,多くの小腸疾患の発症に腸内細菌の関与が重要であることが明らかになってきており,さまざまな研究が進んでいる.非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)やアスピリンによる小腸粘膜障害に関する臨床研究・基礎研したLeaky Gut 症候群(LGS)では腸内細菌など多くの外敵が容易に体内に侵入できる状態となり,さまざま疾患と関与する可能性が報告されている.本稿ではLGS について概説し,この病態を引き起こす一因となる小腸粘膜障害,とくに薬剤性小腸粘膜障害と腸内細菌の関与について概説したい.
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医学のあゆみ 251巻1号, 100-106 (2014);
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◎腸内細菌は,生体内最大の免疫臓器としての腸管免疫機能に大きな影響を与えていることがわかってきた.腸内細菌叢(腸内フローラ)を同定する方法も進歩し,各個人のもつ腸内フローラがいくつかのタイプに分類できる可能性が報告されている.さらに,腸内フローラとさまざまな疾患発症との関連性が研究されており,炎症性腸疾患など消化器疾患のみならず,肥満や糖尿病など代謝性疾患と腸内フローラとの関係が報告された.また,疾患発症予防などを目的とした腸内細菌への治療的介入も視野に入れた研究が進められており,あらたな疾患治療のターゲットとしても期待されている.循環器疾患においても腸内細菌の病態への関与や,腸管免疫修飾による動脈硬化予防の報告があり,一見関連がなさそうな腸管と心血管の臓器連関が注目されるようになっている.本稿では腸内細菌を含む腸管と動脈硬化との関連性に注目して,いままで報告された研究成果を紹介し,今後の展望と将来の臨床応用の可能性について考えたい.
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医学のあゆみ 251巻1号, 107-111 (2014);
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◎近年のゲノム科学の進歩に伴い,食と健康の関係が現象論だけにとどまらず,科学的根拠に基づき証明されるようになった.とくに最近の腸内細菌研究の進展は著しく,腸内細菌叢がその宿主のエネルギー調節や栄養の摂取,免疫機能などに関与し,その結果,肥満や糖尿病などの病態に直接的に影響するという報告が多数なされ,医学的側面からも食と腸内細菌,健康への関心はますます高まっている.このなかで,食事由来,とくに食物繊維などの難消化性食物の腸内細菌による発酵で生じる腸内細菌主要代謝産物である短鎖脂肪酸は,ヒトにおける主要エネルギー源として利用されるだけではなく,生体内シグナル分子として宿主のエネルギー恒常性維持に直接的にかかわっていることが明らかになりつつある.このことから,腸内細菌代謝産物,短鎖脂肪酸は,腸内細菌による宿主の肥満・糖尿病などのエネルギー代謝疾患への関与へ直接的に影響を及ぼす重要な因子として注目されている.
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医学のあゆみ 251巻1号, 113-121 (2014);
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◎自閉症スペクトラム障害(ASD)は,神経学的異常に免疫・代謝異常,胃腸障害などの併存症を伴った全身疾患である.遺伝因子は宿主の環境因子に対する感受性を高める役割を担っているらしい.腸内ミクロビオータはASD の環境因子であるとの視点から,本格的な菌叢解析がはじまり10 年以上が経過した.高い異質性のある症候群のため菌叢解析には困難な点があったが,近年,Clostridiaceae-Lachnospiraceae-Desulfovibrionaceaeの3 科を含む細菌群の増加を特徴とする患者のサブグループの存在がみえてきた.そして,これらの細菌群の細菌因子と代謝産物,とくにプロピオン酸とリポ多糖体が注目されている.神経発達上重要な時期のプロピオン酸の血中レベル・脳内レベルの上昇による細胞内小器官ミトコンドリアの二次的機能不全に源を発する神経細胞やミクログリア細胞などの機能異常に,リポ多糖体などを免疫源とする免疫系による修飾が加わって,中枢神経機能異常を惹起するというトランスレーショナル仮説が登場してきた.
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医学のあゆみ 251巻1号, 123-128 (2014);
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◎出生直後の免疫反応は通常Th2 型優位であるが,出生早期の腸内細菌曝露によりTh1 型免疫反応の誘導や,Treg 細胞の活性化が起こる.アレルギー疾患のある子どもの腸内細菌叢ではビフィズス菌が減少し,このシフトが起こらず発症に関与すると考えられている.発症予防を目的にプロバイオティクスを乳児期に投与するとアトピー性皮膚炎の発症は部分的に有意に抑制されたが,アレルギー予防効果は限定的である.食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)は原因となる食物摂取後に運動することによりアナフィラキシー症状が誘発される,食物アレルギーの特殊型である.運動に伴う消化管の透過性の亢進,それに続く食物抗原の吸収量の増加が関与すると考えられている.近年,石鹸に添加された加水分解小麦(グルパール19S)に感作され,あらたにFDEIA を発症した患者が多数報告された.また,皮膚バリア機能障害に関連し,乳幼児における食物抗原への経皮感作と食物アレルギー発症との関与が報告されている.
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医学のあゆみ 251巻1号, 129-134 (2014);
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◎早産は早期新生児死亡での約70%を占める.早産率は日本のみならず全世界で増加傾向にあるため,早急にその病因ならびにリスク因子を抽出し,早産予防法を見出す必要がある.妊娠早期(28 週未満)で出生する児の胎盤の60%以上に絨毛膜羊膜炎や細菌感染が認められていることから,これら病原体が腟から上行性に子宮内に波及することがその病態の本質であると考えられている.そのため,腟内細菌叢の乱れを生じている細菌性腟症に対して妊娠早期に抗菌薬投与が試みられているが,早産の予防効果は少なく有意差は得られていない.一方,これまで早産と腸内細菌叢との関連性はまったく論じられてこなかったが,著者らの最近の研究で,早産例の腸内細菌叢が正常妊娠と大きく異なることが判明した.とくにClostrium 属の低下が早産例で顕著で,切迫早産例で早産に至らなかった症例では正常妊娠群と早産の中間の値を示した.これら腸内細菌叢の変化と早産について考察を加えた.