医学のあゆみ
Volume 251, Issue 3, 2014
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あゆみ 医療・医科学分野のパーソナルデータ―社会的・法的・論理的側面
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ヒトゲノム情報は21世紀の“新しい石油”となるか?―パーソナルゲノム時代の倫理的・法的・社会的課題
251巻3号(2014);View Description Hide Description◎日本を含めた情報通信技術先進国において,パーソナルデータやビッグデータは次世代の新しい資源として利活用への期待がもたれ,さまざまな施策が行われている.こういった施策のなかで,これまでヒトゲノム情報はあまり注目されてこなかった.しかし他方では,国内でも大規模ゲノムコホートプロジェクトが進行中であり,消費者直販型の遺伝子検査が普及しはじめているなど,ヒトゲノム情報は多くの個人から収集され,大規模に集積・利用される兆しがある.本稿では,パーソナルデータやビッグデータ政策が進行中の日本において,ヒトゲノム情報が新しい価値をもちうるか,またその探索における課題について考察する. -
医療情報の利用に関する政策の20年
251巻3号(2014);View Description Hide Description◎医療情報の利用に関する政策はこの20 年間,さまざまな変遷を遂げてきた.日本における政府レベルの政策は1994 年からはじまり,厚生省では薬害AIDS 問題の反省を受けて1996 年から診療情報の提供や診療記録の開示を検討した.最終的に法制化は見送られたが,医療分野の情報化に関する制度は1990 年代中ごろから整備され,2000 年のIT 基本法によってさらに促進されることとなった.2003 年の個人情報保護法を受けて患者の視点の尊重が掲げられたものの,2013 年に番号法が成立すると医療情報の利用のあり方が改めて問われるようになっている.医療情報の共有については医療費適正化計画や薬剤疫学的研究に資するため,近年になって医療に関する2 つのデータベースが登場した.ところが,こうした公共性の高い医療情報の収集や提供は医療現場では必要性に乏しく,情報の利活用についての体制が確立しているとはいいがたい.これには国の制度整備のみならず,医療関連団体や医療機関による連携や統治の見直しが期待される. -
ビッグデータ時代の全国民医療・健康情報共有化プラットフォームとその課題
251巻3号(2014);View Description Hide Description◎少子超高齢社会となっているわが国において,医療の質の向上と産業の育成を行うべく,ビッグデータの利活用が期待されているが,その前提となる情報/データ共有の仕組みや,その前提となるべき法的・倫理的なルールに関してはまだまだ議論の途上にある.本稿では,これまで国内外で検討されてきた,地域医療連携を中心とした医療情報や健康情報の共有・利活用に向けたいくつかの取組みを紹介し,情報の種類,情報の取得・管理,情報の利活用の観点からゲノム情報の取扱いや本人の同意のあり方,そのほか今後の課題について概説する. -
ヒト由来試料を用いた生命科学研究とデータ共有化:倫理面に留意したデータ共有への取組み
251巻3号(2014);View Description Hide Description◎近年のめざましい解析技術の発展により,大量のデータが出力されるようになった.その大量データを広く研究者間において共有することで,既存のデータのさらなる利活用が可能になるとともに,重複した研究費分配の防止,追試や再現を実施しやすいことからの研究結果の透明性の確保,科学の進歩が加速することでの経済効果,が期待されている.学術論文や関係するデータの共有化の動きが活発になるなか,倫理面で配慮が必要なヒト由来試料を対象とした研究などから産出されたさまざまなデータ(ヒトデータ)の共有をどのように進めていけばよいのであろうか? 本稿では,生命科学分野の研究におけるデータ共有化の世界的な動向,および,とくにヒト試料を用いた研究からのデータをどのように共有していくか,について焦点を絞って紹介する. -
医療・研究データのさらなる活用を促す次世代高機能暗号技術
251巻3号(2014);View Description Hide Description◎情報技術の高度化に伴い,医療・研究の現場でもこれらの技術のいっそうの活用が期待されている.しかし,医療データには健康情報をはじめとするプライバシー保護を必要とするデータが多く含まれており,また,研究開発においては知的財産権に関係した秘匿性の高いデータが取り扱われており,これらの情報を保護したまま利活用することはまったく容易でない.それに対し近年では,上記のような高い秘匿性を必要とするデータを利活用するためのさまざまな高機能暗号技術の提案がなされている.そのような高機能暗号の例として,たとえば暗号化したままでのデータ処理を可能とする準同型暗号などがあげられる.本稿では,これらの医療・研究データのさらなる活用を促す次世代高機能暗号技術について解説する. -
医療研究データ利用におけるプライバシーとセキュリティ―課題解決に向けて
251巻3号(2014);View Description Hide Description◎医療研究データ利用におけるプライバシーとセキュリティの課題解決に向けて,プライバシー保護技術および情報セキュリティ技術の研究の立場から考察を行う.データプライバシー保護の原則を振り返ったうえで,医療研究データ利用の5 つのユースケースを想定し,それらに存在する課題と解決のための技術を解説する.紹介する技術には関数型暗号,秘密計算,統計開示制御,匿名化,が含まれる.データのプライバシー保護とデータ利用価値の両立にはジレンマがあるが,ケースごとに適切な技術の選択と限界の理解をし,高い倫理とルールとともに研究を遂行することが重要である.
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連載
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- iPS細胞研究最前線-疾患モデルから臓器再生まで 4
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iPS細胞を用いた心臓再生医療の現状と課題
251巻3号(2014);View Description Hide Description◎重症心不全治療に対する心臓移植は,ドナー不足が大きな問題である.iPS 細胞を用いた心筋細胞の再生医療が注目されているが,臨床応用には解決すべき課題が存在する.まず,第1 に安全なiPS 細胞の樹立法,品質管理の必要がある.つぎに効率のよい心筋細胞の分化誘導法,増殖法を確立する必要がある.一心臓当りに含まれる細胞数は1×109個以上であり,心臓の再生医療には大量の心筋細胞が必要であるため有効な大量培養法が求められる.大量培養後には残存する幹細胞の腫瘍化を防ぐために,得られた心筋細胞を純化精製する必要がある.さらに,心筋細胞を患者に移植するために安全かつ有効な移植法を確立する必要性がある.移植した心筋細胞による直接的な心機能回復のためには移植細胞を長期間生着させる必要があり,虚血,免疫拒絶,炎症,細胞死の問題を解決しなくてはならない.移植後には致死的な不整脈が生じないか注意深い観察が必要である.これらの課題を臨床応用に向けてひとつずつ解決するする必要がある.
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フォーラム
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- 近代医学を築いた人々 33
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- 書評
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TOPICS
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- 免疫学
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- 腎臓内科学
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- 耳鼻咽喉科学
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