医学のあゆみ
Volume 251, Issue 5, 2014
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【11月第5土曜特集】 広がるHippo pathway研究―癌から各種疾患へ
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- 基礎編
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細胞極性制御因子とHippoシグナルの接点
251巻5号(2014);View Description Hide Description◎細胞極性制御因子とHippo シグナル制御因子の間に物理的・機能的相互作用があることが複数報告されている.PAR-aPKC 複合体,Crumbs-Pals-Patj 複合体,Basal polarity 複合体などは代表的な極性制御因子である.aPKC は細胞増殖を促進することも示されていたが,aPKC はHippo シグナルを抑制するという結果が報告された.aPKC に結合するKibra や,PAR3 と結合するMerlin は,ともにMst,Sav に結合することでHippo シグナルを活性化する.また,Patj,PAR3 などと結合するAmot はYAP と結合することでHippo シグナルとは独立してYAP の局在を制御する.その他の極性制御因子とHippo シグナル因子の相互作用も報告されており,両者の接点は多岐にわたる.今後,生理的なプロセスにおける極性制御因子の変化,それによるHippo シグナルへの影響についての知見がもたらされることを期待したい. -
Latsキナーゼによる細胞周期と細胞死の制御機構
251巻5号(2014);View Description Hide Description◎Lats1 およびLats2(Lats1/2)は,ショウジョウバエのwarts/latsの哺乳動物ホモログとしてHippo pathway(HiP)の中核的な役割をするセリン・スレオニンキナーゼで細胞増殖と細胞死を制御する.分化・発生の過程で器官サイズを制御するシグナル経路であるHiP は接触阻害(細胞間接触に応答して細胞増殖を停止)を誘導する経路でもあるため,癌抑制にも重要である.実際,ヒトの悪性腫瘍においてLats1/2 は発現抑制されているが,Yap やTaz が発現亢進していることはHiP の腫瘍抑制経路としての重要性を示唆する.しかし,HiPを介した異数性や多倍性を有する悪性化した腫瘍細胞の増殖抑制・排除の制御機構は不明である.近年,Lats1/2 キナーゼやその制御因子において制御)”とは別の新しい機能があることが明らかになってきた.本稿ではLats1/2 キナーゼによる細胞周期,“正規のHiP(Mst1/2_Lats1/2 経路によるYap/Taz の転写抑制(チェックポイント),および細胞死の制御機構に焦点を当てて紹介する. -
哺乳類NDRキナーゼの細胞機能―もうひとつのHippo下流キナーゼ
251巻5号(2014);View Description Hide Description◎NDR は酵母からヒトまで真核生物に高度に保存されたセリン/スレオニンキナーゼであり,Hippo 経路の中枢キナーゼであるMST によるリン酸化や,MOB およびFurry との結合によって活性化される.酵母やショウジョウバエのNDR は細胞周期の進行,細胞極性化,ニューロンや上皮細胞の形態形成に関与している.近年,哺乳類NDR の機能解析が進み,NDR は細胞周期におけるG1/S 期への移行,中心体複製,分裂期の染色体整列や紡錘体構築に関与していることが明らかになった.また,アポトーシスを促進して癌抑制的な機能をもつことや,細胞周期の休止期の細胞でもニューロンの樹状突起のパターン形成や一次繊毛形成を制御していることが明らかになった.さらに最近,NDR の基質として数種の蛋白質があらたに同定され,哺乳類NDR の多様な細胞機能,生理機能が明らかになりつつある. -
Hippo-NDRキナーゼシグナル伝達経路による脳神経機能制御
251巻5号(2014);View Description Hide Description◎Hippo pathway は,ショウジョウバエ複眼をモデルとした癌抑制因子スクリーニングから同定された細胞増殖制御シグナル伝達経路である.近年の研究から,Hippo pathway がNDR キナーゼファミリーを介して神経分化や神経回路形成・維持など脳神経系において主要な役割を担うことが明らかにされ,さらに神経疾患発症との関係も示唆されている.本稿では,主としてNDR キナーゼファミリーの神経機能に焦点をあてて最新の知見を概説する. -
Hippo pathwayによるmicroRNA生成制御
251巻5号(2014);View Description Hide Description◎microRNA(miRNA)は22 ヌクレオチド程度の短いRNA 分子で,メッセンジャーRNA の3′非翻訳領域(3′UTR)に蛋白複合体を配列依存性にリクルートし,遺伝子の発現を蛋白質レベルで抑制する.miRNA は発生や分化,発癌など幅広いコンテキストで役割をもつが,Hippo pathway との関連は詳細には理解されていない.miRNA はpri-miRNA とよばれる前駆体がMicroprocessor 複合体とDicer 複合体に連続的に切断されて生成する.著者らはHippo pathway 下流の機能分子であるYAP 蛋白がMicroprocessor 複合体の調節因子であるp72(DDX17)蛋白と結合し,Microprocessor 複合体から解離させることによりmiRNA の生成を抑制することを見出した.この知見は,Hippo pathway がmiRNA を介して細胞増殖や発癌,臓器サイズコントロールを行っている可能性を示唆する. -
RASSFとHippo pathway
251巻5号(2014);View Description Hide Description◎Ras association domain family(RASSF)蛋白質はRas 結合ドメインをもつ蛋白群で,ヒトには10 個あり,うち6 個はC 末端にSARAH ドメインという蛋白相互作用領域をもち,Hippo pathway の中核キナーゼであるmammalian Ste20-like kinase(MST1,MST2)に作用するが,その作用は実にユニークである.MST1/2の活性を促進するタイプのRASSF がいれば,活性を抑制するタイプのRASSF も存在する.多くのRASSFは腫瘍抑制分子として機能するが,はたしてそれはいかなるものなのか.RASSF によってHippo pathway はどのような運命が決定づけられるのか.キナーゼや転写因子といった種類の蛋白質だけでは説明しきれないHippo pathway についてRASSF の視点から迫る. -
細胞の協調と競合におけるHippo経路の役割
251巻5号(2014);View Description Hide Description◎多細胞生物を構成する細胞はたがいに影響し合いながら細胞増殖と細胞死のバランスを巧妙に調節することで,正常な組織発生や恒常性維持を実現する.このような細胞間コミュニケーションを介した生体制御において,隣接する細胞どうしの性質や活性の差に依存した“協調”や“競合”現象が重要であることがわかってきた.細胞間の協調と競合は正常発生過程のみならず癌の発生・進展にもかかわっており,その過程において癌抑制経路であるHippo 経路の活性制御が重要な役割を果たすことがショウジョウバエを用いた遺伝学的解析により明らかになってきた. -
栄養・エネルギーセンサーシグナルとHippo pathway
251巻5号(2014);View Description Hide Description◎Hippo pathway は細胞の増殖や器官サイズを制御するシグナル伝達経路である.細胞はつねに外界の栄養状態を感知し,その変化に応じて細胞増殖を制御している.最近,栄養やエネルギー状態を感知するシグナルとHippo pathway のクロストークを示す報告がつぎつぎとなされている.本稿ではPI3K-mTOR シグナル経路およびLKB1-AMPK シグナル経路に焦点をあて,このような栄養・エネルギーセンサーシグナルがどのようにHippo pathway と相互作用するのか,最近の知見を概説する.また,著者はショウジョウバエを用いてインスリン依存性の腫瘍悪性化モデルを確立しているが,最近このモデルを用いてインスリンシグナルがAMPK ファミリーの分子であるSIK を介してHippo pathway 依存的に腫瘍増殖を促進することを見出したので,これについても紹介する. - 発生
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肝形成および肝癌におけるHippo-YAPシグナル経路の役割
251巻5号(2014);View Description Hide Description◎肝は糖質・蛋白質・脂質などの代謝をはじめ,有害物質の解毒や胆汁酸の生成・分泌など多岐にわたる機能を有しており,生体の恒常性維持に必要不可欠な器官である.そのため生命活動を維持するのに十分な肝機能を発揮できるように,肝はつねに適切な器官サイズ制御を受けている.近年,細胞内情報伝達経路のひとつであるHippo シグナル経路が,転写共役因子であるYAP の活性制御を介してマウスの肝サイズを調節していることが明らかとなった.また,Hippo-YAP シグナル経路は肝癌発症や肝内胆管の発生にも関与することも見出されている.さらに最近では,ヒトの肝癌発症や小児の胆道形成に対するHippo-YAP シグナル経路の関与を示唆する臨床的な知見も数多く報告されている.本稿ではこのような最近の知見を踏まえ,マウスおよびヒトの肝におけるHippo-YAP シグナル経路の役割について紹介する. -
心臓発生における転写共役因子Yapの機能
251巻5号(2014);View Description Hide Description◎心臓発生におけるHippo シグナルの亢進(Yap 依存性転写活性の抑制)と抑制(Yap 依存性転写活性の促進)による心臓への影響は,遺伝子改変マウスを用いて調べられている.前者ではMst1-Lats1/2 の心筋特異的過剰発現マウスにより心臓の形成障害,後者では優勢劣勢変異体Lats の心臓での発現あるいはMst11,Lats1/2 の心筋での欠損により心臓の過形成となる.Yapは転写因子TEAD と結合することによりMCAT 配列に結合して転写を促進することから,MCAT 配列を認める筋特異的因子を転写調節する,すなわち直接心筋の形成にかかわる.ゼブラフィッシュではスフィンゴシン1-リン酸による胚葉間の制御機構が機能し,内胚葉のHippo シグナルの抑制により,Yap/TEAD を介したCtgfa の発現を誘導する.内胚葉から分泌されたCtgfaは,心臓前駆細胞が内胚葉を足場にして正中線に移動し,心筒形成するために必須であることがわかった. -
血球,血管内皮分化とHippo pathway
251巻5号(2014);View Description Hide Description◎Hippo シグナル経路は,最近になり伝達機構の詳細が明らかにされた,“遅咲き”のシグナル伝達経路である.細胞増殖を制御する重要なシグナル伝達経路であることから,多くの研究分野から注目され,多様な解析が急速に進んでいる.しかし,初期発生過程におけるHippo シグナルの役割には不明な点が多く残されている.著者らはツメガエル胚を用いて,初期発生過程の一次造血におけるHippo シグナルの機能解析を行った.一次造血の場である血島においてHippo のホモログであるMst1/2 一時的な強発現があることを明らかにし,Mst1/2 の機能阻害胚の解析から,Mst1/2 が一次造血に関与することを明らかにした.本稿では,血球・血管内皮細胞形成におけるHippo シグナル経路の役割について概説する. - 疾病:癌
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悪性中皮腫とHippo pathway
251巻5号(2014);View Description Hide Description◎悪性中皮腫は,アスベスト(石綿)の曝露によって生じるきわめて悪性度の高い腫瘍である.胸膜あるいは腹膜の中皮細胞から発症するが,浸潤能が非常に強く,有効な治療法はいまだ確立されていない.中皮腫はHippo シグナル伝達系を制御するマーリン(Merlin;NF2 遺伝子産物)が約半数の症例で不活化している.Hippo シグナル伝達系の不活化はLATS2 遺伝子の不活化で起こる症例もあり,中皮腫ではYAP1 転写コアクチベータが高頻度に活性化している.YAP1 の恒常的活性化は細胞周期を促進するCCDN1 や結合組織成長因子(CTGF)の高発現を引き起こし,中皮腫の細胞増殖,細胞間質の造成,上皮型から肉腫型への形態変化,そして悪性度の増強に寄与すると考えられている.マーリン(NF2)-Hippo シグナル伝達系の不活化は悪性中皮腫の発生・進展の根本的な要因のひとつと考えられる. -
Hippo経路と腫瘍―Hippo経路変異による癌モデルマウス
251巻5号(2014);View Description Hide Description◎Hippo経路は組織構造変化や細胞外からの機械的張力などを感知するユニークな経路で,器官のサイズや形,および腫瘍の発症や進展を制御している.個体レベルでHippo 経路の生理的な役割を解析するために,著者らを含む多くのグループにより,種々のHippo 経路構成分子欠損マウスや組織特異的な欠損マウスを作製し,その生理機能やその破綻病態が続々と解明されてきた.本稿では,Hippo 経路欠損マウスの表現型のうちとくに癌に関連するものを組織ごとにまとめ,Hippo経路異常による腫瘍発症や進展性機構について議論する. -
Mst1下流分子Rab13による細胞遊走,増殖の制御
251巻5号(2014);View Description Hide Description◎Mst1は,Hippo 経路において中心的な役割を担うセリンスレオニンキナーゼとして,細胞分裂の制御や臓器のサイズの決定に関与していることが知られている.一方,著者らはケモカイン受容体や抗原受容体の下流で,Mst1 を介したシグナルがインテグリンLFA-1 の活性化や小胞輸送を介してリンパ球の接着や動態を制御していることを明らかにしてきた.双方のシグナル経路はこれまで別々に論じられてきたが,著者らがMst1と相互作用する低分子量G 蛋白質として同定したRab13 が,リンパ球におけるLFA-1 の小胞輸送と小腸上皮組織の増殖と維持の両方に関与していることが示された.本稿では,それぞれのシグナル伝達経路におけるMst1 ならびにRab13 の役割について解説するとともに,Mst1-Rab13 という経路が双方のシグナル伝達系で共通の因子として機能している可能性について論じる. - 疾病:癌以外
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心臓とHippo pathway
251巻5号(2014);View Description Hide Description◎Hippo 情報伝達経路は,アポトーシスの促進や,細胞増殖の抑制を介して臓器のサイズを制御する重要なメカニズムである.Hippo 情報伝達経路の中心的な分子で,セリン/スレオニンキナーゼであるMst1 やLats2 は虚血再灌流や血行動態の悪化によって活性化し,心筋障害や心不全の進行に重要な役割を果たす.Hippo 情報伝達経路の下流に位置し核内転写補助因子であるYAP はTEAD やFOXO などの転写因子に結合し,安静時ならびにストレス存在下で心筋細胞の生存を促進し,分裂や肥大などの細胞成長作用を促進する.Mst1 やLats2はYAP の機能を抑制することで,心筋障害や心不全を促進する.心臓は生後すぐに細胞分裂能が顕著に低下するため,障害を受けても再生が起こりにくい.恒常活性化型のYAP は梗塞後の心筋で心筋細胞の分裂を促進し,心筋再生を促進する可能性がある.本稿では心臓におけるYAP の制御と機能について概説する. -
神経変性疾患の細胞死とHippo pathway―神経変性はHippo pathwayで制御されるか
251巻5号(2014);View Description Hide Description◎Hippo pathway は“細胞増殖”と“細胞死”の両者を制御するシグナルである.著者らは神経変性疾患における細胞死のモデルとして,転写制御によって生じる神経細胞死を研究してきた.その結果,Hippo pathwayが関係していることが示唆されている.転写抑制性細胞死(TRIAD)として命名したこのプロトタイプは神経変性疾患の細胞死を説明しうる特徴をもっているのではないかと考えている1).TRIAD はクロマチン凝集やミトコンドリア膨化を伴わず,アポトーシスやオートファジー性の細胞死とは形態的に異なっており,さらに非常に緩慢に進行する細胞死であった.マイクロアレイ解析の結果,TRIAD においてYAP の神経細胞特異的な新規バリアントであるYAPΔC の関与が考えられた.YAPΔC の過剰発現は初代培養神経細胞におけるTRIAD を抑制し,さらに変異型Huntingtin により誘導される細胞死も抑制した.YAP はHippo pathway の最下流に位置する転写因子である.Hippo signaling はYAP をリン酸化し核移行を阻害するが,YAPΔC についてはよくわかっていない.また,核内での転写活性化作用についても同様である.本稿ではTRIAD を中心に,Hippo pathway と神経変性の関連を考察する. -
免疫細胞とHippo pathway
251巻5号(2014);View Description Hide Description◎リンパ球の移動や抗原認識にはLFA-1 などのインテグリンが重要な働きをしている.LFA-1 を介する接着はケモカインや抗原刺激よって誘導され,血管内皮への接着や免疫シナプス形成に必要である.LFA-1 の接着性亢進には低分子量G 蛋白質Rap1 を介したシグナル伝達が重要な役割を果たしている.Rap1 シグナルの下流の探索からRAPL(Rassf 5c)とMst1 が同定され,Rap1・RAPL によるMst1 の活性化はLFA-1 を介する接着の誘導や細胞形態の変化に必要であることが明らかになった.また,Mst1 欠損T 細胞は血管内皮への接着やリンパ節,胸腺組織内の動態低下が顕著である.さらに,胸腺における自己反応性の胸腺細胞が除去される負の選択,制御性T 細胞による抑制異常,リンパ球の多臓器への浸潤,自己抗体陽性による自己免疫様病態を呈する.また,Mst1 は制御性T 細胞の抗原特異的抑制機能にも必要であることから,細胞接着の制御だけでなく,自己免疫発症の抑制因子としても重要であることが判明した. -
Hippo pathwayと不妊治療
251巻5号(2014);View Description Hide Description◎卵巣における卵胞発育には下垂体由来のゴナドトロピンによる内分泌的な調節が重要である.しかし,胞状卵胞期以前の未熟な卵胞の発育に関してはいまだ不明の部分が多い.著者らは卵巣の断片化により二次卵胞の発育が促進されることを見出し,その分子メカニズムとしてHippo pathway が関与していることを明らかにした.卵巣の断片化は卵胞発育の主体となる卵巣顆粒膜細胞のアクチン重合化を引き起こし,その結果,Hippo シグナルが抑制され,YAP の核内移行と引き続くCyr/CTGF/Nov(CCN)成長因子の産生が起こり,二次卵胞の発育が促進されることを明らかにした.著者らは,この卵巣断片化と卵巣組織培養下での薬剤を用いたAkt シグナル活性化による休眠原始卵胞の活性化法を組み合わせることで,早発卵巣不全(POI)患者に対するあらたな不妊治療法を開発し,長期間卵胞発育を認めず無月経であった早発卵巣不全患者の妊娠・分娩に成功している. -
脂肪細胞分化とHippo pathway
251巻5号(2014);View Description Hide Description◎脂肪細胞は皮下や内臓周囲を中心にして全身に分布し,過剰なエネルギーを脂質として蓄える内分泌器官である.その異常は,肥満,インスリン抵抗性,2 型糖尿病,リポジストロフィーなどの代謝性疾患の病態形成に関与している.脂肪細胞増殖・分化のメカニズムが解明されれば多くの代謝性疾患治療に応用できると考えられる.本稿では脂肪細胞分化におけるHippo pathway,とくにkey mediator であるTAZ に着目して概説する.脂肪細胞分化においてPPARγとC/EBPαが重要な転写因子である.Hippo pathway が活性化すると脂肪細胞増殖は抑制され,PPARγ活性化などを介して脂肪細胞分化が促進される.TAZ がHippo pathway とWnt pathway をつなぐメディエータとなっている点が興味深く,Hippo pathway と他のpathway のcrosstalkについての研究が今後期待される. -
低分子化合物によるHippo pathwayの機能解明と応用展開
251巻5号(2014);View Description Hide Description◎腫瘍抑制シグナルとして研究が進められてきたHippo pathway は,腫瘍の形成や予後の悪化における重要性が明らかになるとともに,あらたな抗癌剤開発の標的として注目され,Hippo pathway を構成する分子に対する分子標的薬の開発が世界中で進められている.一方,研究が進むにつれて,Hippo pathway の標的であるYAP やTAZ が組織幹細胞の維持や細胞分化の制御にかかわり,傷ついた組織の修復,再生において重要であることも判明し,腫瘍以外での疾患においてもHippo pathway に作用する化合物が有用である可能性が示されつつある.骨粗鬆症や筋萎縮などの高齢者の生活の質の低下を招く疾患に関して,TAZ を分子標的とする創薬研究の取組みがはじまっており,Hippo pathway は高齢社会における創薬ターゲットとなる可能性がある.また,Hippo pathway を制御する化合物探索は哺乳動物のHippo pathway の制御メカニズムの解明にもつながっている.Hippo pathway を標的とする化合物の開発,またHippo pathway に作用する化合物から逆に明らかになったHippo pathway の制御に関して概説する.
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