医学のあゆみ
Volume 251, Issue 8, 2014
Volumes & issues:
-
あゆみ 全身性強皮症の臨床と研究Up to date
-
-
-
全身性強皮症の新規動物モデル
251巻8号(2014);View Description Hide Description◎全身性強皮症は血管障害と皮膚および内臓諸臓器の線維化を特徴とする全身性の自己免疫疾患である.その病因はいまだ不明であるが,本症は多因子疾患であり,その発症には遺伝因子と環境因子がともに深く関与している.強皮症皮膚線維芽細胞では転写因子Fli1の発現がエピジェネティック制御により抑制されており,この異常は環境要因の影響を反映した疾病因子のひとつと考えられている.一方,転写因子KLF5はさまざまな臓器の線維化に関与しているが,著者らはあらたに強皮症皮膚線維芽細胞において同転写因子がエピジェネティック制御により抑制されていることを見出した.さらに,興味深いことに,Klf5+/-;Fli1+/-マウスを作成したところ,強皮症にきわめて類似した炎症・免疫異常,血管障害,線維化が自然発症することが明らかとなった.同マウスは強皮症の主要3 病態を自然発症する世界初の遺伝子改変マウスであり,その病態解析は強皮症の病態理解の一助となることが期待される. -
全身性強皮症と抗核抗体
251巻8号(2014);View Description Hide Description◎全身性強皮症(Systemic sclerosis:SSc)は,皮膚および内臓諸臓器の線維化,血管障害,自己抗体の3つを特徴とする.自己抗体がどのようにSScの病態形成に関与しているかは不明であるが,SScでみられる自己抗体は特徴的な臨床像と密接に結びついているため,自己抗体を同定することはSScの診療において重要である.SScでみられる代表的な自己抗体は,抗トポイソメラーゼⅠ抗体,抗セントロメア抗体,抗RNA ポリメラーゼⅢ抗体の3 つであるが,それ以外にも頻度は低いながら抗U3RNP抗体,抗Th/To抗体,抗Ku 抗体,抗hUBF抗体などが検出される.また最近,新規SSc特異的自己抗体として抗RuvBL1/2 抗体が報告された.SSc特異的自己抗体の同定には免疫沈降法などの煩雑な手技を要するものも多く,簡便に測定できる検査法の確立が望まれる. -
全身性強皮症とB細胞
251巻8号(2014);View Description Hide Description◎全身性強皮症(SSc)は抗核抗体に代表される自己免疫現象を背景に,皮膚や肺などの内臓諸臓器の線維化,血管病変によって特徴づけられる膠原病である.これまでにSSc患者の病態にはB細胞の活性化や分化の異常が示されている.また,B細胞の強力な活性化因子である血清BAFF濃度がSSc患者において上昇しており,皮膚硬化の重症度と相関していることが示されている.さらに,SScの動物モデルマウスであるTightskin(Tsk)マウスの皮膚硬化の進展にはB 細胞の異常活性化が重要であり,抗CD20抗体による発症早期からのB細胞除去療法がTskマウスの皮膚硬化を有意に抑制することが示されている.このように,SSc患者ならびにSScモデルマウスの病態および線維化において,B細胞が重要な役割を果たしていることが明らかとなっている.近年,SSc患者に対する抗CD20抗体を使用したB細胞除去療法の臨床試験が行われ良好な結果が示されていることより,あらたな治療法として期待される. -
全身性強皮症と線維化機構
251巻8号(2014);View Description Hide Description◎全身性強皮症皮膚における線維化の本態は,真皮での細胞外マトリックスの過剰沈着であると考えられている.その細胞外マトリックスの主成分はコラーゲン,とくに哺乳類の真皮においてもっとも豊富に存在するⅠ型コラーゲンである.強皮症患者病変部皮膚由来の線維芽細胞は何らかの内在性のⅠ型コラーゲン産生活性化機構をもっていることが示唆されているが,その機序はいまだ明らかになっていない.本稿では,強皮症における線維化のメカニズムとして,とくにⅠ型コラーゲンの内因性の過剰産生に注目し,それにかかわるsmad などの転写因子,さらにはDNA メチル化・ヒストン修飾そしてmiR-29を含むmicroRNA などのepigenetics制御にみられる異常について最新の知見を交えて概説した. -
全身性強皮症の疾患感受性遺伝子解析
251巻8号(2014);View Description Hide Description◎全身性強皮症(SSc)の本質的病因を探索し,分子標的や有用なバイオマーカーを見出すうえで,ゲノム解析研究に大きな期待が寄せられている.これまで,欧米を中心に複数のゲノムワイド関連研究(GWAS)が報告され,MHC領域にもっとも強い関連が認められる.HLA の関連は臨床病型・自己抗体プロファイルによって異なり,おおむね,抗topoisomerase I 抗体(ATA)陽性群・びまん皮膚硬化型全身性強皮症(dcSSc)ではDRB1*11:04 ハプロタイプ,DRB1*15:02ハプロタイプ,抗セントロメア抗体(ACA)陽性群ではDRB1*01:01ハプロタイプの関連の報告が多い.また,これらとは独立に,DPB1*13:01,DPB1*09:01 の関連も報告されている.アミノ酸配列レベルでの検討もなされている.一方,GWASおよび候補遺伝子解析により20前後の領域の関連が示唆されている.これらのなかには,IRF5,STAT4,CD247など,ほかの膠原病と共通の疾患感受性遺伝子が多数含まれている.今後,サンプルサイズの増加により,さらに多数の疾患感受性遺伝子の同定が期待される.HLA以外の遺伝子においても臨床病型・自己抗体プロファイルによって疾患感受性遺伝子が異なり,これらのサブセットにおける遺伝的背景の違いが強く示唆される.今後,強皮症特異的な遺伝因子の探索,これまでに見出された疾患感受性遺伝子の分子機構の解明,臨床への橋渡しが重要な課題である. -
全身性強皮症におけるエビデンスに基づいた実験的治療の進歩
251巻8号(2014);View Description Hide Description◎全身性強皮症(SSc)は,線維化,血管障害,免疫異常から病態が形成されている.皮膚,肺,心,腎,消化管などの諸臓器が侵される疾患であり,予後不良例も多く,患者により侵される臓器や程度が異なるため,個々の症例に対応した治療アプローチが必要である.SScの病態および分子生物学的機序の解明の進歩により,それぞれの臓器別にターゲットを絞った治療の開発が進んでいる.とくにSScにおける血管障害においては,血管内皮の機能障害やアポトーシス,数多くのサイトカイン,成長因子,接着分子の過剰発現,転写因子の発現低下などが関与していると考えられており,これらの治療ターゲットの開発や早期介入が重要である.SScにおける皮膚硬化,末梢循環障害,間質性肺疾患,肺動脈性肺高血圧症に絞り最初に質の高い治療エビデンスを概説し,その後に現在治験が進行中,または検討中でこれから期待される治療について順に解説する. -
全身性強皮症における皮膚潰瘍治療
251巻8号(2014);View Description Hide Description◎全身性強皮症では,血管平滑筋の増殖や細胞外基質の線維化による血管内腔の狭小化や骨髄由来の血管内皮前駆細胞の減少・機能異常による血管新生能低下などの血管機能異常が知られており,これらの原因による末梢循環障害のため指趾に皮膚潰瘍が生じやすい.さらに,Raynaud現象による虚血再灌流障害も加わるため難治であり,治療の際はその病態に応じた適切な治療法の選択が必要となる.また,局所病変だけでなく,全身病変を含めた評価を行うことが治療の選択のうえで重要となる.本稿では,全身性強皮症診療ガイドライ詳細な機序は十分に解明されていない.今後,病態の解明が進み,あらたな治療薬の開発につながることが期待される. -
全身性強皮症における肺高血圧症の診断と治療の進歩
251巻8号(2014);View Description Hide Description◎全身性強皮症(SSc)に伴う肺高血圧症(PH)は肺動脈性肺高血圧症(SSc-PAH)のみならず,間質性肺疾患に伴うPH,左心疾患に伴うPH など,さまざまな原因のPHをきたしうる.さらに近年,SSc-PAHの患者には肺静脈閉塞症の合併頻度も高いことが報告され,SSc 患者に合併するPHの病態をさらに複雑にしている.また,PAHの動脈病変自体も特発性PAHのそれとは異なり内膜の線維化が主体であり,このことが近年飛躍的な進歩を遂げている肺血管拡張薬への反応性の違いにつながっているものと考えられている.SSc-PAH は現代においてもきわめて予後不良な疾患であるが,一方でスクリーニングが可能な疾患でもあるため,早期発見早期治療に努めることが重要である.また,SSc-PAHに対する肺移植の成績もけっして悪くはないことも明らかとなってきているため,治療抵抗性の重症例に対しては早めの肺移植登録も考慮するべきである.
-
-
連載
-
- iPS細胞研究最前線-疾患モデルから臓器再生まで 8
-
iPS細胞を用いた免疫細胞のinvitro再生
251巻8号(2014);View Description Hide Description◎免疫細胞が関連する疾患の範囲は感染,腫瘍,移植,自己免疫疾患,アレルギー疾患などきわめて広い.ヒトiPS細胞の発見に造血幹細胞からのinvivo血液細胞分化に関するこれまでの知見が融合して,患者自身の各種免疫細胞をinvitroで再生することが可能となり,ヒト免疫細胞の再生研究が急速に進んでいる.著者らはiPS細胞技術を,いわゆる臓器再生医療のみならず,がんや感染症の医療に応用するという独自の視点から研究を進め,“若返った”抗原特異的T細胞を大量に産生する技術を開発した.本稿では,この新しい技術と意義について解説するとともに,各種免疫細胞の再生研究の現状について紹介する.
-
フォーラム
-
- 続・逆システム学の窓 4
-
“普通のヒト”に起こるがんの起源―細胞分裂1回ごとに1.1塩基に変異が入る
251巻8号(2014);View Description Hide Description・がんはどうして起こるのであろうか.わが国では胃がんが減って膵がんが増え,乳がん,子宮がんや甲状腺がんが急増している.肝炎ウイルスやタバコなどの既知のリスク因子のない“普通のヒト”で,食事や環境変化ががんになる率を高める場合がある.ところが,がんのリスク評価は難しく,原発事故による低線量の被曝でみてわかるように,意見がいろいろに分かれてしまう.疫学調査をやっても発症率が変化しているとメカニズムがわからないかぎり正確な予測は非常に難しい.・21 世紀に入り,次世代シークエンサーという高速でゲノムを読む機械やアルゴリズム解析の手法が進歩して,手軽にがん細胞の遺伝子の変異を全部みられるようになり,考え方が一変してきた.たとえば,肺がんの3%にみられるALK遺伝子の転座による融合変異は,その阻害剤で治療ができ,原因であるドライバー変異であることが明らかになった.・次世代シークエンサーでの国際的ながんゲノムプロジェクトにより,ドライバー変異の候補がさまざまながんでわかってきて,まれな大きな染色体の転座より頻度がずっと多い1 塩基のドライバー変異が明らかになってきた.甲状腺がんやメラノーマでは6 割を超えるがんが,BRAF 遺伝子の1,799 番目の1 塩基の変異で活性化していた.膵がんで6 割,大腸がんで5 割がKRAS 遺伝子の活性化変異をもつ.がん化のドライバーとなる変異(種)は細胞の種類(畑)で異なることがわかってきた.・そこで,普通の細胞にどうして最初の変異が起こるのかが問題となる.正常マウスで変異の起源を検討する研究がイギリスで行われた1).それによると,小腸では1 回の正常な細胞分裂で1.1 塩基に変異が入ると推計された.小さなリスクが積み重なって普通のがんの発症につながるとすれば,どの細胞(畑)にどのような変異(種)が蒔かれるかがリスク評価の鍵になる.低線量の放射線のリスク評価も精度を高めるには,これまでの目にみえやすいDNA 切断と転座から,頻度の多い点変異の誘導に焦点を移していく必要がある.がんのリスクの考え方には大きな変化が起こりつつある. -
-
-
TOPICS
-
- 細胞生物学
-
- 生化学・分子生物学
-
- 消化器内科学
-