医学のあゆみ

Volume 253, Issue 2, 2015
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あゆみ 現代社会と眼―視覚情報社会,超高齢社会の与える眼への影響
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ブルーライトによる眼,全身への影響
253巻2号(2015);View Description
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◎可視光のなかでも短波長の光はブルーライトといわれ,過剰暴露は生体にさまざまな影響をきたしうる.その影響は網膜色素変性症,加齢黄斑変性,体内時計の変調,ドライアイや眼精疲労と多岐にわたる.従来とは異なり,ブルーライトを多く含むLED が汎用され,さらにパソコンのディスプレイを長時間見ることでブルーライトの暴露時間が延長したことを受けて,健康長寿をめざすいま,医療従事者のみならず一般国民にもブルーライトの科学的意義が注目される.本稿では,ブルーライトの生体への影響について,これまでに実証されていることと今後の課題をまとめ,いまある情報をいかに受け止めるべきかを考える. -
急増するドライアイ
253巻2号(2015);View Description
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◎わが国において,ドライアイは「さまざまな要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり,眼不快感や視機能異常を伴う」と定義される疾患である.近年,高齢化やIT 化,生活環境やライフスタイルの変化により,ドライアイのリスクファクターが増加していることや,新しいドライアイのサブタイプ(BUT 短縮型ドライアイ)の概念が確立されたことに伴って,ドライアイ患者数は急激に増加しており,その診断と治療の重要性が高まっている.また最新の研究では,ドライアイは眼の健康だけでなく,労働生産性や幸福度,睡眠の質にまで影響を及ぼす可能性が示唆されており,ドライアイが社会に与える影響は決して少なくないと考えられ,社会全体でドライアイを積極的にマネージメントしてゆく必要性があると考えられる. -
増加する近視・強度近視
253巻2号(2015);View Description
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◎ 2007 年の時点で,日本における視覚障害者は164 万人,そのうち18 万人が失明状態にあると推定されている.多治見研究では近視性黄斑変性が失明原因の3 位であり,片眼性失明の原因疾患としては第一位であった.文部科学省学校保健統計調査報告書は学校検診における“裸眼視力1.0 未満のもの”の割合を報告しているが,その頻度が年々増加している.ここで,裸眼視力1.0 未満の原因となる屈折異常の内訳に占める“近視”および“近視性乱視”の割合は,小学生で約46%,中学生で約73%,高等学校生で約91%であり,年々増加する“裸眼視力1.0 未満のもの”の増加の大部分が“近視”の増加により説明されるといえる.強度近視の有病率についても,各国の一般住民を対象とした成人の疫学研究における強度近視の有病率の報告をみると,近視と同様に非アジアに比べてアジアで有病率が高く,とくにそのなかでも日本人における有病率が高いことが示唆されている.わが国の重要な失明原因である強度近視を防ぐために,近視に対する国家的対策が望まれる. -
現代社会の環境因子からとらえた加齢黄斑変性
253巻2号(2015);View Description
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◎わが国はかつてない高齢化社会を迎えており,健康長寿という言葉に代表されるように,いかにQOL(qualityof life)を低下させずに寿命を全うするかは大きな関心となっている.このような状況のなかで,QOL に大きな影響をもつ感覚器の健康を維持するために眼科学のもつ役割は大きいと考えられる.加齢黄斑変性(agerelatedmacular degeneration:AMD)は,欧米では失明原因の主因となる疾患であり,わが国でも高齢化社会・食生活の欧米化に伴い失明原因として増加中の眼底疾患である.本稿では,AMD を理解するための基礎知識をオーバービューするとともに,近年の分子遺伝学的研究や臨床疫学的研究により,AMD は単なる老年病ではなく,生活習慣病として介入可能な疾患概念へと変遷してきた流れを概説する. -
失明率第一位の緑内障
253巻2号(2015);View Description
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◎緑内障は,視神経と視野に特徴的変化を有し,通常,眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善,あるいは抑制しうる眼の機能的・構造的異常を特徴とする疾患であり,わが国における中途失明原因の第一位に位置する.エビデンスのある唯一の治療は,現在のところ眼圧下降治療のみであるため,副作用に注意しながらプロスタグランジン関連薬,β遮断薬,炭酸脱水素酵素阻害薬,α2 刺激薬など作用機序の異なる点眼降圧薬剤を組み合わせて治療する.薬物治療が奏効しない場合には手術加療が検討され,線維柱体切除術は緑内障手術としてもっとも普及しており,効果的である.一方,正常眼圧緑内障では,眼圧コントロール良好例でも進行してしまう症例も存在するため,眼圧以外のさまざまな因子によって生じる網膜神経節細胞死を,薬剤などにより抑制しようとする神経保護治療も最近注目されている. -
アンチエイジング白内障手術―眼のカメラ機能も時計機能も治す
253巻2号(2015);View Description
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◎白内障手術の近年の着実な進歩と新しい網膜機能の発見によって,白内障手術のアンチエイジング効果がいっそう発揮されるようになってきた.第1 に,手術手技の進歩によって2~3 mm 切開の低侵襲手術,点眼麻酔が可能になり,高齢者の眼や全身への負担が最小限になった.さらに,眼内レンズの進歩によって乱視や老眼も治療可能になった.第2 に,網膜神経節細胞が体内時計に直接関係していることがわかり,光を取り戻す白内障手術としてあらたな意義が加わってきた.第3 に,白内障患者の運動機能を評価することで,視覚機能が運動や姿勢制御で果たす役割が明らかになってきた.以上のように,濁った水晶体を眼内レンズに交換する白内障手術は,眼への効果にとどまらず,精神機能,脳機能,運動機能への寄与も大きい.白内障は高齢者には必発の病気であり,早期に適切に診断されアンチエイジング白内障手術を受ければ,健康長寿につながる. -
メガネ,コンタクトレンズから解放するLASIK
253巻2号(2015);View Description
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◎日本人の約40%が近視などの屈折異常をもっており,コンタクトレンズユーザーは約1,400 万人いるといわれている.メガネ・コンタクトに続く第3 の方法として手術療法が登場し,その普及とともに徐々に一般化し,わが国での屈折矯正手術件数は毎年10 万例以上となった.その代表がLASIK である.その技術は日々進歩を遂げており,とても安全で高い効果を示すものとなり,裸眼視力1.0 以上は当たり前になってきた.そして,その矯正精度だけではなく,見え方の質,いわゆる視機能の向上も得られるようになった.ただし,健康な目に対するプラスの医療であり,また医療保険の対象外である自費診療のため,医療者側の説明不足や患者の理解不足による術後のトラブルは絶対に避けなければならない.そのため,インフォームドコンセントとガイドラインの遵守が大切であると考える.安全性とともに術後満足度のさらなる向上をめざし,屈折矯正手術の技術はめざましく進歩している.今後の発展が楽しみである. -
老眼が治る時代に
253巻2号(2015);View Description
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◎老眼に対する外科的治療が可能になってきており,注目されている.現在はモノビジョンLASIK,角膜インレイ,多焦点眼内レンズなどの方法があり,それぞれに見え方の特性が異なる.治療後の見え方に対する希望や,ライフスタイルに合わせて,適切な術式を選択することが大切である.裸眼での生活を望む傾向は確実に増加しており,今後も持続的に拡大すると思われる.老眼治療はquality of life(QOL)の向上に大きく寄与する画期的な医療技術である.
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連載
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- iPS 細胞研究最前線――疾患モデルから臓器再生まで 20
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発生機構の解析から挑むiPS 細胞からの腎臓三次元再構築
253巻2号(2015);View Description
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◎腎臓の臓器全体の再生を実現するためには腎臓の成り立ち,すなわち発生過程の理解が欠かせない.近年その初期発生過程の解析により,腎臓が時空間的に異なる起源の細胞が後に出会い,相互作用することによって形成されることがわかってきた.これにより,ようやく腎臓を構成する細胞の一部はiPS/ES 細胞などの多能性幹細胞から作製できるようになりつつある.今後さらに,機能的な腎臓を再構築するためには腎臓の後期発生過程の再現が求められる.すなわち,これらの腎臓構成細胞を,適切に組み合わせて空間配置し,細胞自身の内在性プログラムを惹起して三次元構造を構築させること,さらに血管血流系を確保して大きく組織を育てるということが課題となっている.
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フォーラム
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TOPICS
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- 血液内科学
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- 膠原病・リウマチ学
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- 腎臓内科学
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