医学のあゆみ
Volume 254, Issue 3, 2015
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あゆみ 脳深部刺激療法(Deep brain stimulation)−総括と将来への応用に向けて
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運動障害疾患に対する機能的脳外科治療の変遷
254巻3号(2015);View Description Hide Description◎運動障害疾患に対する機能的脳外科治療の歴史は長く,先達らの試行錯誤を経て現在に至っている.当初は大脳皮質や基底核,脊髄に対する直達手術が行われた.1950年代に低侵襲で正確な基底核手術のための定位脳手術装置が開発されると,パーキンソン病(PD)などに対して淡蒼球破壊術や視床破壊術などの手術法が確立された.わが国でも楢林が独自の方法で淡蒼球破壊術を行った.1980年代には,破壊術に比べて安全性が高く調節性がある脳深部刺激療法(DBS)が導入された.PDの動物モデルが確立されると動物実験により視床下核(STN)手術の有効性が示され,PDに対するSTN DBSが普及した.さらにDBSは,難治性振戦や全身性ジストニアの治療にも用いられるようになった.手術法としては微小電極記録や画像誘導手術が導入され,容易で精度の高い手術が可能となった.さらに刺激装置の進歩も加わり,運動障害疾患に対する機能的脳外科治療は今後さらに発展することが期待される. -
不随意運動と脳深部刺激療法(DBS)のメカニズム
254巻3号(2015);View Description Hide Description◎不随意運動や無動は,随意運動を調節する神経ネットワークのシステム障害によって生じてくる.大脳皮質,大脳基底核,視床,小脳の神経細胞は,運動の抑制,開始,遂行に応じて特定の周波数に同期するが,不随意運動や無動が生じている患者の大脳基底核では正常と異なる同期的活動が増加している.大脳基底核や視床の破壊や高頻度刺激は,異常な同期的活動の伝達をブロックすることで不随意運動や無動を改善させているのではないかと考えられている. -
これまでのDBSの適応とその効果−パーキンソン病
254巻3号(2015);View Description Hide Description◎パーキンソン病(PD)の治療のゴールドスタンダードはレボドパ治療であるが,進行期にはウェアリング・オフやジスキネジアといった運動合併症が問題となる.薬剤コントロールが困難となった運動合併症に対しては,脳深部刺激療法(DBS)が広く行われている.PDにおけるDBSのターゲットには視床下核(STN)と淡蒼球内節(GPi)があり,いずれも運動合併症の改善効果がある.STN の場合は薬剤減量効果が高いのに対して,GPi の場合はジスキネジアに対する直接抑制効果があり,認知機能への影響が少ない.PDにおけるDBS治療の成否は,適応患者の選択,刺激ターゲットの選択,導入時期のタイミングの選択が重要である.DBSの適応については,どのような症例に,どのような症状を改善する目的で行うかについて十分に検討する必要がある. -
これまでのDBSの適応とその効果−パーキンソン病以外の疾患
254巻3号(2015);View Description Hide Description◎脳深部刺激療法(DBS)が不随意運動症の治療法として認識されるようになって久しい.そのおもな適応範囲はParkinson病(PD),振戦,ジストニアであるが,後者2 つはどちらも単一疾患ではなく症候であり,これらを呈する疾患は多岐にわたる.DBSが著効する振戦の代表例は本態性振戦で,視床腹中間核(Vim)を刺激部位とするが,近年,posterior subthalamic area(PSA)に対するDBSも同等の効果があることが報告されている.その他,多発性硬化症,頭部外傷などによって小脳や中脳が障害された場合に生じる振戦に対してもVim-DBSが行われるが,その有効性は病変部位や広がりに依存するところが大きい.一方,ジストニアに対してはおもに淡蒼球内節(GPi)のDBSが行われるが,一次性ジストニアに比べて器質的脳障害よる二次性ジストニアではその効果にばらつきが大きい.ただし,向精神薬などによる遅発性ジストニアに関しては近年,GPi-DBSの有効性が実証されている.また,局所性ジストニアの痙性斜頸と書痙もDBS が著効する. -
北米最先端のNeuromodulation Centerの診療体制−フロリダ大学におけるNeuromodulation Centerの診療体制を例に
254巻3号(2015);View Description Hide Description◎近年,専門分野の多様化とそれぞれの分野における情報の複雑化により,かつてのようにひとりの専門家がひとつの疾患のすべてをみることが困難になってきている.たとえば,パーキンソン病(PD)は無動・固縮・振戦といった運動症状だけではなく,幻覚やうつ状態,そして認知機能低下といった精神症状を起こすことがよく知られているが,これらすべてをひとりの専門家が治療することには限界がある.そのため,先進的な北米のセンターでは神経内科医を中心に,脳神経外科医,精神科医,神経心理学者,そしてリハビリスタッフがひとつのチームを形成して一人ひとりの患者を包括的に診療する体制(interdisciplinary team approach)がとられている.本稿では,著者が診療スタッフとして在籍していたフロリダ大学Center for Movement Disordersand Neurorestorationを例に,アメリカ最先端のセンターにおける診療体制について説明する. -
ニューロモデュレーション治療の新規対象疾患と可能性
254巻3号(2015);View Description Hide Description◎1980年代後半にはじまった脳深部刺激療法(DBS)の運動障害への臨床応用は,神経外科が対象とする疾患の領域を劇的に変化させた.運動障害に対する臨床ならびに基礎研究による知見の集積により,DBSは脳局所の機能制御にとどまらず,刺激とは遠隔の回路のネットワークを含む広範な脳機能の異常を是正しうることが明らかとなってきた.このDBSのもつポテンシャルを基礎に,2000年代に入りその臨床トライアルはさまざまな精神疾患やてんかんにまで広がった.すでに,強迫性障害やてんかんに対してはヨーロッパ諸国(CE Mark)および北アメリカ(FDA またはHealth Canada)において医療機器の認証がなされている.難治性のうつ病や神経性やせ症などの精神疾患においては,複数の臨床トライアルが現在も進行中である.
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連載
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- 補完代替医療とエビデンス 8
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補完代替医療のエビデンス:どう伝え,どう活用するか?
254巻3号(2015);View Description Hide Description◎科学的根拠に基づく医療(EBM)では,その名のとおりエビデンスの重要性が明記されている.しかし,エビデンスとしての信頼性が高いランダム化比較試験の結果が得られさえすれば意思決定が行えるというものではない.意思決定を行うためには,EBM の定義にあるとおり患者の意向・行動などについても考慮しなければならない.そして重要なのは,患者と医療者が補完代替療法に関して適切な話し合い(コミュニケーション)の時間をとることである.本稿では,エビデンスを“どう伝えるか?”“どう活用するか?”に焦点をあて,コミュニケーションの重要性について概説する.また,厚生労働省“「統合医療」に係る情報発信等推進事業”で作成された“「統合医療」情報発信サイト”に掲載されているコミュニケーションのコツについても紹介する.
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輝く 日本人による発見と新規開発 18
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フォーラム
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- 近代医学を築いた人々 42
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TOPICS
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- 神経内科学
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- 消化器内科学
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- 耳鼻咽喉科学
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