医学のあゆみ
Volume 254, Issue 11, 2015
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あゆみ 難治性心不全に対するチーム医療―末期状態から終末期まで
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多職種チームによる包括的介入としての心臓リハビリテーション―運動耐容能・QOL・予後の改善をめざして
254巻11号(2015);View Description Hide Description◎心臓リハビリテーション(以下,リハビリ)とは“理学療法士が実施する単なる理学療法”ではなく,“医師,看護師,理学療法士,栄養士,薬剤師,臨床心理士,健康運動指導士などの多職種がチームとして,運動療法・患者教育・カウンセリングなどの多面的介入を実施する包括的介入プログラム”であり,その目標は“単なる体力増強”ではなく,“運動耐容能増加,quality of life(QOL)向上,長期予後改善”である.1980年代までは,心不全患者における運動は心拍数や血圧を上昇させ,心臓に対する負荷を増大させるため好ましくないと考えられ,心不全患者に対する運動療法は禁忌とされていたが,現在ではNYHA Ⅱ~Ⅲ度の慢性心不全に対する心臓リハビリ・運動療法により運動耐容能・QOL が改善し,再入院率や心事故率が低下するとのエビデンスが確立されており,日米欧の慢性心不全診療ガイドラインでも実施が推奨されている1-4).しかし,本特集のテーマである“難治性心不全”,すなわち“NYHA Ⅲ~Ⅳ度あるいはStage D の重症心不全”に対する心臓リハビリは,有効性と安全性に関するエビデンスが十分確立されておらず,ガイドラインにもほとんど記載がない.一方で,難治性心不全患者は増加しており,臨床現場で運動耐容能やQOL 低下に対してどう対応するかは,患者・家族にとっても医療者にとっても切実な問題である.本稿では,難治性心不全に対する心臓リハビリの意義・効果と実際の適用について,過去の知見と著者の施設での経験に基づいて概説する. -
難治性心不全に対する診療アプローチ
254巻11号(2015);View Description Hide Description◎近年,心不全患者は高齢化し入退院を繰り返すことが多くなった.このような社会的状況のなか,多職種の視点でなければ気が付かない介入点を検討し,多職種ならではの介入法を検討するのが心不全チーム医療である.この点で,従来の医師主導カンファレンスに多職種が参加する形体とは一線を画している.ガイドライン的には,患者教育,ガイドライン推奨治療の徹底がチーム医療の基本とされているが,それだけでは対応不可能な症例も多い.多職種カンファレンスを行いながらそれぞれの地域特性,患者特性,施設特性に応じて,入院回避の工夫,栄養状態の把握,緩和ケアなどを検討する必要がある.今後,末期心不全の在宅医療も視野に入れ,入院から外来,在宅まで一貫したシステム構築が必要である. -
難治性心不全に対する補助循環―急性期からdestination まで
254巻11号(2015);View Description Hide Description◎心臓ポンプ機能を機械的に補助する補助循環は,難治性心不全に対して適応が検討される.この補助循環の目的は全身循環の改善・維持をはかるとともに,自己心機能の回復(BTR),他の補助循環へのつなぎ(BTB)あるいは心臓移植までのつなぎ(BTT)をめざすことである.また心不全が急激に進行する急性心不全においては,補助循環を行うことで今後の治療方針を検討・決定するまで全身循環を維持することが可能となる(BTD).補助循環を適応することにより時間的猶予を得ることができる(“Earn the time”).今後,欧米で行われている心臓移植の適応のない患者に対する長期在宅治療(DT)についても,わが国への導入が検討されている.補助循環を行うことにより,全身循環が良好に維持された状況において,心臓以外の脳を含む諸臓器機能不全などでその治療目的が達成できないと考えられる場合(終末期)には,補助循環の継続について検討することが重要である. -
難治性心不全の緩和ケア―多職種チームによる取組み
254巻11号(2015);View Description Hide Description◎緩和ケア(palliative care)という言葉から循環器診療に携わる多くの医療者は,がんの終末期における麻薬使用を中心とする症状緩和を想像するであろう.しかし,緩和ケアは終末期ケアと異なり,全人的苦痛に対処しquality of life(QOL)を改善する多面的アプローチと定義されており,診断時から介入すべきものである.全人的苦痛への対処は医者,看護師だけでは困難であり,早期から多職種により意思決定を支援するチームアプローチが必要となる.本稿では前半で緩和ケアを概説し,後半で当院での取組みから,主治医団や,病棟看護師などの現場を支援し患者にとって適切な結果を得ることを目的とした緩和ケアチームのあり方について述べる. -
難治性心不全に対する病診連携―在宅医療の取組み
254巻11号(2015);View Description Hide Description◎急増する難治性心不全患者をどのように迎えるかは,これからの社会全体の問題となる.生活環境をみながらCURE からCARE まで行う在宅医療は,心不全患者を長期入院から在宅へ,再入院予防,急性増悪の治療,自宅看取りまで行うことができる新しいかたちの心不全医療と考える.病状が多種多様に変化しながら徐々に病状が進行する心不全の在宅医療の継続には,生活歴,家族,経済的問題,意思決定支援など個別性に沿った支援が重要であり,地域と病院の“連携体制構築”が必要となる. -
難治性心不全診療における意思決定支援―アドバンスケアプランニングの実践と課題
254巻11号(2015);View Description Hide Description◎ 2012 年,アメリカ心臓協会(AHA)は末期心不全患者の意思決定支援において,積極的なアドバンスケアプランニング(ACP)を推奨した.ACP は望む治療と生き方について事前に対話するプロセスであり,終末期の判断が困難な末期心不全において,患者の自律を尊重した終末期医療の実現に寄与する意思決定の概念である.ACP のアプローチは患者・家族,医療者を含めた共同意思決定(shared decision making)が望ましく,慢性心不全の治療選択肢は病期に応じて多様であるという特徴から,病状の変化のたびに経過を見直し,患者の意向や治療目標を継続して見直すプロセスをたどる必要がある.しかし,わが国では死をタブー視する文化があり,終末期医療について家族と話し合ったことがない患者が多い.死はだれにでも訪れるものであり特別なものではない.日常から家族や医療者とい後について考える機会をもち,生と死に対する考えを共有することが,その人たちしい終末期医療の実現において重要である. -
難治性心不全診療における臨床倫理的アプローチ―“循環器疾患における末期医療の提言”から“救急・集中治療における終末期ガイドライン”まで
254巻11号(2015);View Description Hide Description◎日本循環器学会は循環器疾患における末期医療の提言を基本として,末期の時期(end-stage)に,アドバンスケアプランニング(ACP)や緩和ケアを含めた包括的ケアを実施することを提唱した.その後,日本集中治療医学会と日本救急医学会と合同で,集中・救急医療における終末期医療ガイドラインを作成した.急性期疾患の終末期(end-of-life)において,最善の治療を実施し,治療の限界に達した場合には本人の意思を尊重し家族と多職種の医療チームによる話し合いにより,治療の終了や差し控えについて対応しうることを示した.これらの提言を活用し,治療抵抗性循環器疾患の末期状態に対する補助循環や,人工心臓などの適用を検討する場合に,治療の中断やデバイス停止などの終末期の対応を盛り込む必要がある.
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連載
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- 補完代替医療とエビデンス 12
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医薬品と健康食品・サプリメントの相互作用
254巻11号(2015);View Description Hide Description◎医薬品と健康食品やサプリメントの相互作用とは,健康食品・サプリメントによって医薬品の効力や副作用が増強したり減弱したりする現象をいう.相互作用は,作用機序の違いから,①薬の吸収・分布・代謝・排泄の過程で影響する薬物動態学的相互作用,②医薬品の効果に対し協力的または拮抗的に影響する薬力学(薬理学)的相互作用,の2 つに分けられる.“食品”を標榜しながら医薬品を含有する製品が少なからずあり,有害事象の発生につながっている.腸内環境などホストの状況も医薬品や健康食品・サプリメントの影響下にあり,薬物体内動態や薬理学的反応への影響については未知のことが多い.平成27 年(2015)より新しい“機能性表示食品”の制度がはじまり,医薬品と同等の効果を期待させるような製品も今後は出現の可能性がある.消費者の健康食品リテラシー教育が必要であるが,治療の場では相互作用の危険性やチャンスを減らす意味で,処方薬の種類を必要最小限にすることが重要と考えられる.
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フォーラム
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TOPICS
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- 免疫学
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- 循環器内科学
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- 内分泌・代謝学
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