医学のあゆみ
Volume 259, Issue 2, 2016
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あゆみ Pathogenic T cells―病原性T 細胞
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病原性記憶Th2 細胞による慢性気道炎症の誘導および維持機構
259巻2号(2016);View Description Hide Description◎慢性アレルギー性疾患や自己免疫疾患において,病原性の記憶ヘルパーT(Th)細胞が長期にわたり生体内で維持されることが病態の根幹となっている.著者らはマウス慢性気道炎症モデルを用いて,肺組織中に異所性のリンパ様組織である誘導性気管支関連リンパ組織(iBALT)が形成されることを見出した.このiBALT 中には,IL-5 を多量に産生する病原性記憶Th2 細胞が集積・維持されており,iBALT が形成されたマウスでは抗原の再感作によりアレルギー性気道炎症を増悪することが明らかとなった.また,iBALT 中における病原性記憶Th2 細胞の維持にはIL-7 を産生するリンパ管内皮細胞が必須であり,これらの細胞が慢性炎症を遷延化する“炎症ニッシェ”として機能していることが明らかとなった.本稿では,病原性記憶Th2 細胞の誘導および維持機構に関する最新の知見と,慢性アレルギー疾患との関係性について解説する. -
慢性副鼻腔炎の病態とPathogenic Th2 細胞
259巻2号(2016);View Description Hide Description◎慢性副鼻腔炎は比較的頻度の高い疾患であるが,好中球浸潤を主とする従来の慢性副鼻腔炎に加えて,好酸球浸潤がめだつ好酸球性副鼻腔炎の罹患増加がみられている.好酸球性副鼻腔炎は多発性の鼻ポリープ,高度の嗅覚障害,高い喘息合併率,薬剤抵抗性,手術後易再発といった特徴を有する.鼻ポリープ中のサイトカインや浸潤T 細胞を検討したところ,好酸球性副鼻腔炎の鼻ポリープにはTh2 サイトカインの高い発現がみられ,同時にIL-25 の受容体であるIL-17RB,あるいはIL-33 の受容体であるST2 陽性の浸潤CD4 陽性T 細胞がみられた.興味深いことに,T 細胞の活性化と同時にIL-25 あるいはIL-33 の共刺激をすることで,大量のIL-5 やIL-33 といったTh2 サイトカインの産生が確認された.メモリーTh2 細胞のなかでこのような特徴を有するTh2 細胞のsubpopulation(病原性Th2 細胞)が,好酸球性副鼻腔炎の病態の形成・維持に大きな関与をすると考えられた. -
神経炎症疾患と病原性T 細胞
259巻2号(2016);View Description Hide Description◎病原性T 細胞が関与する代表的な神経炎症疾患は,多発性硬化症(MS)と慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)である.MS は中枢神経髄鞘に対する,そしてCIDP は末梢神経髄鞘に対する自己免疫疾患であり,いずれもヘルパーT 細胞(Th 細胞)が病態にかかわり,Th1 とTh17 が中心的な役割を果たしている.しかし,B 細胞を抑制する治療法や血液浄化療法が有効であることから,液性免疫の病態への関与も確実であり,MSとCIDP はともに細胞性免疫と液性免疫の両者が関与した複雑な病態であると推定される. -
天疱瘡におけるデスモグレイン3 特異的T 細胞の臓器を越えた病原的役割
259巻2号(2016);View Description Hide Description◎尋常性天疱瘡(PV)は,デスモグレイン(Dsg)3 に対する自己抗体により生じる自己免疫性水疱症のひとつである.著者らはモデルマウスを用いて,B 細胞による自己抗体産生を誘導するDsg3 特異的CD4+T 細胞を解析してきた.近年,樹立したDsg3 特異的T 細胞クローン(Dsg3H1 T 細胞)を利用して,Dsg3 特異的T 細胞受容体トランスジェニックマウスを作成した.Dsg3H1 T 細胞はB 細胞による自己抗体産生を介して水疱形成を誘導するのみならず,表皮に直接浸潤し皮膚炎(interface dermatitis)を誘導することが明らかとなった.天疱瘡の亜型である腫瘍随伴性天疱瘡(PNP)においては水疱と皮膚炎がともに認められるが,その複雑な病態がDsg3 特異的T 細胞により誘導されることが考えられた.さらに,PNP に認められる致死的な肺障害は,肺に生じた異所性扁平上皮化生に対して表皮抗原に反応するT 細胞により誘導されることが示唆された. -
関節炎誘導性の病原性Th17 細胞
259巻2号(2016);View Description Hide Description◎Treg/Th17 バランスの不均衡は自己免疫疾患の要因となりうるが,関節炎誘導性のTh17 細胞の起源や特色は不明な点が多い.Treg 細胞はFoxp3 発現により抑制機能を発揮するが,炎症環境下におけるFoxp3+Treg細胞の分化可塑性は不明な点が多い.著者らは,関節炎環境下でCD25lowFoxp3+T 細胞がFoxp3 を消失してTh17 細胞(exFoxp3 Th17 細胞と命名)へ分化転換し,炎症滑膜に集積することを見出した.exFoxp3 Th17細胞は最強の破骨細胞誘導能をもち,Sox4,CCR6,CCL20,RANKL を高発現する新規Th17 細胞であった.自己抗原を認識する細胞を多く含むCD25lowFoxp3+T 細胞はマウス関節炎を増悪化し,疾患活動性の高いRA 炎症滑膜ではFoxp3+IL-17+T 細胞が多く検出され,ヒトおよびマウスにおいて分化可塑性をもつFoxp3+T 細胞が関節炎の病態形成に寄与することが示唆された.exFoxp3 Th17 細胞の病原性をつかさどる分子基盤の解明により,新規治療薬の開発につながることが期待される. -
病原性メモリーTh17 細胞による急性組織傷害
259巻2号(2016);View Description Hide Description◎IL-17 やIL-22 は細胞外細菌や真菌の排除に重要な役割を果たすとともに,さまざまな組織傷害や慢性の自己免疫疾患に深く関与する.IL-17 とIL-22 はおもにヘルパーT 細胞サブセットTh17 とγδ T 細胞から産生される.これらの細胞はTCR の刺激を受けてサイトカインを産生するが,メモリーTh17 やγδ T 細胞は自然免疫的な機能があり,感染や組織傷害早期にTCR の刺激なしに,マクロファージからのIL-1βやIL-23 の作用でIL-17,IL-22 を産生する.著者らは,脳梗塞後の炎症や網膜の急性傷害モデルではγδ T 細胞からのIL-17 が神経細胞死や血管新生に関与すること,LPS による肺炎症モデルではメモリーTh17 がIL-22 を産生して好中球浸潤を促すことを見出した. -
自己免疫性関節炎と病原性T 細胞
259巻2号(2016);View Description Hide Description◎関節リウマチ(RA)をはじめとする自己免疫性関節炎は,関節病変を主徴とする慢性炎症と骨破壊を特徴とする自己免疫疾患である.RA 患者の関節滑膜にCD4+T 細胞が多く浸潤していることや,多くの関節炎モデルマウスにおいて,CD4+T 細胞を抗体やノックアウト(KO)マウスによって欠損させると病態形成が抑制されることから,CD4+T 細胞の重要性が明らかとなっている.それぞれの関節炎モデルマウスでのCD4+T細胞の病態形成における役割は異なっているものの,CD4+T 細胞はおもに関節局所での炎症性サイトカイン産生による炎症誘導,または自己抗体の産生誘導による病態形成に寄与している.近年,マウスモデルを用いた解析により,CD4+T 細胞が産生するサイトカインのなかでもIL-17 が重要な役割を果たしていることがわかってきた.また,IL-17 を産生するCD4+T 細胞以外のT 細胞の重要性も明らかとなってきている.本稿では,関節炎発症における自己反応性T 細胞の生成と活性化,およびIL-17 産生性T 細胞について,関節炎モデルマウスの発症メカニズムを紹介しつつ概説する. -
病原性T 細胞の中枢神経系への侵入調節機構
259巻2号(2016);View Description Hide Description◎炎症は本来,病原体などから体を守るための宿主防御反応や創傷治癒に必須の反応である.しかし,それが不必要に持続する慢性炎症は多発性硬化症(MS)などの自己免疫疾患をはじめ,Alzheimer 病,メタボリック症候群といったさまざまな病気と関連する1).炎症反応は,標的臓器への多くの免疫細胞の集積によって引き起こされるので,正常時に血液中を循環している免疫細胞が炎症局所の組織や臓器にどのように侵入していくかを解明することにより効果的な炎症制御法を開発できると考えられる.MS の標的臓器である中枢神経系(CNS)には血液脳関門(BBB)が存在するため,他の臓器よりも厳密に細胞の出入りが制限されている.CNS炎症の際にどのように免疫細胞が侵入するのかは謎であった.本稿では,MS の病態に必須と考えられている自己反応性の病原性T 細胞のCNS への侵入メカニズムについて,著者らが発見した神経刺激による侵入口(ゲート)制御機構および炎症誘導機構の知見を含めて解説する. -
シェーグレン症候群と病原性CD4+T 細胞
259巻2号(2016);View Description Hide Description◎シェーグレン症候群(SS)の発症機構において,CD4+T 細胞は重要な役割を果たしている.臓器に浸潤したT 細胞の性状を明らかにするために,T 細胞抗原受容体(TCR)やその対応抗原の解析が分子免疫学的手法を用いて進められてきた.その結果,T 細胞の一部がクローナルに増殖し,IL-2 やIL-6 などを介してポリクローナルなT 細胞やB 細胞を集積している可能性が示唆された.T 細胞の対応自己抗原のひとつはムスカリン作動性アセチルコリン受容体3(M3R)であり,IFN-γやIL-17 を産生することにより炎症を増幅し,最終的には細胞傷害性T 細胞により唾液腺細胞や腺房細胞をアポトーシスに陥らせている.SS における病因T 細胞と対応抗原を明らかにすることにより抗原特異的な治療戦略が可能となろう.
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連載
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- グローバル感染症最前線―NTDs の先へ 8
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マラリアワクチン開発―BK‒SE36 マラリアワクチンの臨床開発
259巻2号(2016);View Description Hide Description◎ハマダラカによって媒介されるマラリアは,貧困病のひとつであり,アフリカ諸国の幼児を中心に年間40万人の犠牲者をもたらしている.薬剤耐性株の感染拡大が懸念されるなか,マラリアワクチンの開発は急務である.一方,30 年以上に及ぶワクチン開発研究にもかかわらず,有効なマラリアワクチンは開発されていない.そのもっとも大きな原因は抗原遺伝子に顕著にみられる遺伝子多型である.大阪大学において開発されてきたBK-SE36 マラリアワクチンの基本となるSERA5 抗原の遺伝子には,多型がほとんどみられず,ウガンダにおいて72%の発症防御効果が観察された.本稿では,日本における第Ⅰa 相臨床試験,ウガンダにおける第Ⅰb 相臨床試験,さらには現在実施中のブルキナファソにおける1~5 歳児を対象とした第Ⅰb 相臨床試験について紹介するとともに,今後の開発計画についても述べる.
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フォーラム
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- パリから見えるこの世界 49
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- 医療機関のダイバーシティ 6
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TOPICS
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- 細菌学・ウイルス学
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- 麻酔科学
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- 薬剤学
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