Volume 259,
Issue 5,
2016
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【10月第5土曜特集】 マクロファージのすべて
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医学のあゆみ 259巻5号, 343-344 (2016);
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基礎
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医学のあゆみ 259巻5号, 347-352 (2016);
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◎1892 年“自然免疫の父”Metchnikoff は,ヒトデの幼生やミジンコなどの無脊椎動物において,異物を食べて消化する細胞(貪食細胞)を発見し,“マクロファージ”と名づけた1).以来120 余年,マクロファージの機能は異物排除や感染防御といった古典的な免疫学の枠を超え,組織形成・再生などの組織恒常性維持,がん組織形成やメタボリックシンドロームなどの疾患病態への関与といった広範な生命現象に及ぶことが明らかになりつつある.1968 年,van Furth,Cohn により単核球系貪食細胞システム(MPS)が提唱され2),さらに1973 年Steinman,Cohn によって,マウス脾で樹状細胞(DC)が同定されたことに伴い3),単球・マクロファージに加えて,DC も単核球系貪食細胞に分類され,現在に至っている.
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医学のあゆみ 259巻5号, 353-358 (2016);
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◎炎症部位へのマクロファージの集積は,急性および慢性炎症性疾患に普遍的な病像である.非炎症状態の末梢組織に分布するマクロファージは,多くが組織内でのターンオーバーにより維持されているが,生体侵襲に応じて組織に炎症が惹起されると,速やかに末梢血を循環する炎症性単球が組織へ浸潤し,炎症応答を制御する機能的なマクロファージへと分化する.1980 年代後半から,白血球の特異的な炎症部位への浸潤を制御するケモカインや接着分子などの分子群が同定され,今日では炎症性単球の生体内移動制御の分子基盤が確立しつつある.本稿では,骨髄で分化・成熟する単球が骨髄から末梢血,末梢血から末梢組織へと移行する過程の分子基盤について最新の知見も交えながら概説する.
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医学のあゆみ 259巻5号, 359-364 (2016);
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◎最近の免疫学のトピックのひとつとして,M1・M2 マクロファージの研究があげられる.これらの細胞が感染症,癌や動脈硬化,アレルギー応答,創傷治癒,メタボリックシンドロームといった疾患において,重要な役割を果たしていると考えられている.著者らは,このM2 マクロファージがさらにサブタイプに分けられると考え,研究を行ったところ,アレルギーにかかわるM2 マクロファージサブタイプはJmjd3 の作用により分化すること,またメタボリックシンドロームに関与するM2 マクロファージサブタイプはTrib1 の影響を受けて分化することをつきとめた.これらの研究やそのほかの研究データから,現在著者らは病気には病気ごとの疾患特異的M2 マクロファージが存在していると考えている.
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医学のあゆみ 259巻5号, 365-370 (2016);
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◎微生物感染や損傷などの種々の炎症性刺激時に,マクロファージは大量のインターロイキン(IL)-1,腫瘍壊死因子α(TNF-α)を産生する.これらのサイトカインは,ほかのサイトカインとは異なる機構で産生・放出される.IL-1 ファミリーサイトカインからは細胞死などによって全長型蛋白質が直接,あるいは限定分解されて生じる成熟型蛋白質が放出される.TNF-αは三量体蛋白質として細胞膜上に発現後に限定分解され,細胞外に放出される.IL-1 ファミリーサイトカインに対するレセプターとTNF-αレセプターの構造は異なるにもかかわらず,NF-κB やAP-1 などの共通の転写因子を活性化することで炎症・免疫反応時において共通の生物活性を示す.さらにIL-1 ファミリーサイトカインは,種々のT 細胞からの特定のサイトカイン産生を誘導することで,自然免疫反応,獲得免疫反応の両局面に深く関与している.
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医学のあゆみ 259巻5号, 371-376 (2016);
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◎インターロイキン6(IL-6)はTNF やIL-1 と並び,マクロファージから産生される主要な炎症性サイトカインである.IL-6 は非常に多彩な生物学的活性を有しており,自然免疫系および獲得免疫系を制御して生体防御を担う.その一方,IL-6 はさまざまな疾患において過剰に産生されているため,IL-6 の発現調節機構の解明は重要な研究課題である.近年,IL-6 の発現調節には転写やエピジェネティック制御に加え,転写後調節を担う分子(miRNA,RNA 結合蛋白質Regnase-1,Roquin など)が広く関与していることが明らかとなってきた.これらはIL-6 mRNA の3′非翻訳領域にある特定の配列を認識することでIL-6 mRNA の安定化あるいは不安定化を引き起こす.これらの分子は単に冗長的に存在するのではなく,異なる分子機構を介して作用し,IL-6 の精緻な発現調節を行っている.
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医学のあゆみ 259巻5号, 377-382 (2016);
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◎マクロファージは,生体内で発生した死細胞を速やかに貪食し,恒常性の維持に寄与している.発生の過程や外界からのさまざまなストレスなどにより,つねに死細胞は生成されるが,マクロファージによる死細胞の認識・貪食および,その後の炎症誘導・抑制の反応のメカニズムがつぎつぎに明らかとなってきている.マクロファージが初期アポトーシス細胞を認識・貪食すると抗炎症性サイトカインが産生され,炎症抑制に働く.一方で,ネクローシス細胞から放出されるdamage-associated molecular patterns(DAMPs)を認識すると,炎症性サイトカイン・ケモカインの産生が誘導され,炎症反応が惹起される.死細胞が認識される際の受容体やリガンドにより貪食,炎症誘導または抑制などの反応が異なることが明らかとなってきている.本稿では,死細胞の貪食にかかわる受容体およびDAMPs 受容体について概説する.
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医学のあゆみ 259巻5号, 383-388 (2016);
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◎ヒトの病気の原因となる生物を総称して“病原体”とよぶ.一言で病原体と表しても,その病原体を構成する物質は数え切れない.そして,ヒトの体もまた無数の細胞で構成されているが,その細胞一つひとつが病原体の構成成分を認識する多くの非自己感知センサーを有している.哺乳類の非自己監視機構の解明は,病原体の毒素やゲノム核酸,糖鎖などの高分子についてさきに進められたが,現在では分子量1,000 に満たない低分子までがその監視機構の標的となり,特異的な受容体(センサー)と下流のシグナル伝達経路が知られるようになった.センサー分子のなかには種差があるものも存在し,細胞内DNA センサーであるSTING の活性はヒトとマウスで異なる.本稿では,最近の知見から代表的な非自己感知センサーをファミリーごとに概説し,注目されている非自己標的分子と臨床応用の可能性について概説する.
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医学のあゆみ 259巻5号, 389-396 (2016);
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◎細胞内代謝は,エネルギーの供給や生体の構成分子となるさまざまなバイオマスを産生する重要な役割を担う.つまり,これまで生化学で学んできた細胞内代謝の役割は,ほぼすべての細胞で共通してみられる細胞の維持・管理(ハウスキーピング)にかかわる裏方としての働きをもつ程度の理解にとどまっている.しかし近年,さまざまな細胞種で特定の代謝経路が活性化あるいは不活性化する,代謝様式の改変(代謝リプログラミング)が見出されている.さらに細胞の機能や分化が,この特定の代謝経路によって産生される代謝物を介して巧みに制御される実体が明らかとなってきた.そこで本稿では,免疫細胞のなかで代謝研究がかなり進んでいるマクロファージ系列の細胞を取りあげ,代謝リプログラミングの実体について解説する.そして,細胞内代謝が細胞内のシグナル伝達経路や遺伝子発現制御と密接にかかわることで,マクロファージの運命決定や機能を支配する重要な基盤制御となることを示したい.
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医学のあゆみ 259巻5号, 397-401 (2016);
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◎活性酸素(ROS)は,生体内のエネルギー代謝や感染防御過程において発生する一連の反応性分子種(O2-やH2O2など)である.これまでROS はその反応性の高さから,細胞内の生体分子(核酸や蛋白質,脂質など)を酸化して傷害し,感染・炎症などさまざまな疾病の病因となる毒性分子であると考えられてきた.しかし近年,われわれの体はROS を生理的シグナルとして巧妙に利用しており,ROS あるいはROS シグナルの下流で二次的に生成される親電子物質による生体分子の化学修飾は単なる病態の増悪因子ではなく,酸化ストレス応答などの生体反応をつかさどるシグナル(レドックスシグナル)として,生理機能を発揮することがわかってきた.著者らは感染・炎症,酸化ストレスにおけるシグナル伝達機構について解析を進めるなかで,ROS と一酸化窒素(NO)の下流シグナル分子である8-ニトログアノシン3´,5´ -環状1 リン酸(8-ニトロ-cGMP)を介した新規のシグナル伝達機構を見出した.さらに近年,システインパースルフィドなどの活性イオウ分子種がROS,NO のシグナルを制御する新規抗酸化因子として生体内で機能していることが明らかとなり,感染,炎症をはじめ酸化ストレスがかかわる病態の解明に向けてその役割が注目されている.
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医学のあゆみ 259巻5号, 403-406 (2016);
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◎古くからマクロファージは炎症部位に集積し,炎症プロセスの主役を担う免疫細胞のひとつであると考えられてきた.炎症部位は低酸素環境にあることが多く,そこで機能を発揮するためには細胞の低酸素応答が円滑に行われる必要がある.低酸素誘導型転写因子HIF-αはこの低酸素応答に必要な標的遺伝子制御を行う重要な転写因子であり,マクロファージの機能や極性獲得に重要な役割をもつ.近年,肥満脂肪組織が低酸素状態にさらされており,そこに浸潤するマクロファージの炎症促進にHIF-1αが関与すること,さらに脂肪組織マクロファージのHIF-1αが脂肪組織の血管新生を抑制し肥満時の低酸素環境を助長させることもわかってきた.本稿では,HIF を介したマクロファージの低酸素応答マクロファージ極性の制御,脂肪組織マクロファージにおけるHIF の役割について概説する.
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組織マクロファージ
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医学のあゆみ 259巻5号, 409-412 (2016);
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◎組織マクロファージは全身に分布し,免疫監視を行う自然免疫系のキーとなる造血系の細胞であり,臓器によってフェノタイプや機能が異なる.起源に関しては,Van Furth らが唱えた単核食細胞系(MPS)の学説のなかで,骨髄でつくられた単球由来であると信じられてきたが,最近fate mapping 法などにより,ほとんどが卵黄囊などの原始マクロファージに由来することがわかってきた.これは,単球がすべてのマクロファージの前駆体であるというパラダイムがシフトしつつあることを示し,Takahashi らが主張してきた卵黄囊由来という学説が再評価されたことになる.細胞数の維持に関しても,骨髄から供給されるわけではなく,組織内で増殖により自己新生すると考えられている.基本的機能は臓器の発達や恒常性維持に関与しており,M2 型マクロファージに近いと考えられる.臓器特異的な機能の獲得は,局所の環境因子(サイトカインや代謝産物など)が特異的な転写因子を誘導して起こるものと考えられている.
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医学のあゆみ 259巻5号, 413-418 (2016);
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◎骨髄造血由来の末梢血の単球が前駆細胞として各臓器に供給することによって,組織マクロファージ(tissue-resident macrophage)が維持されているというmononuclear phagocyte system(MPS)説が40 年以上唱えられてきた.しかし最近の研究から,胎生期につくられた前駆細胞が生前に各組織に移行して,その微小環境においてそれぞれの組織マクロファージを維持していることが明らかになってきた.それぞれの組織マクロファージでは細胞ごとに特異的な遺伝子発現がみられ,組織特異的な機能があることが知られている.本稿では肺胞マクロファージについて,その起源と機能,とくに肺サーファクタント恒常性維持機能とその異常によって生じる疾患である肺胞蛋白症(PAP)の病態と治療について概説する.
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医学のあゆみ 259巻5号, 419-424 (2016);
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◎Kupffer 細胞は肝に存在する生体内最大の組織マクロファージであり,内皮細胞や脂肪摂取細胞とともに肝類洞という特異な構造的ならびに機能的単位の重要な一員である.Kupffer 細胞は流血中の物質を種々の受容体を介して活発に取り込んで処理し,代謝過程に参画すると同時に免疫機構にも多面的に関与する.Kupffer細胞は胎生期の卵黄囊マクロファージに由来し,その分化にはマクロファージ・コロニー刺激因子(M-CSF)が重要である.
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医学のあゆみ 259巻5号, 425-429 (2016);
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◎哺乳動物の身体でもっとも大きな体腔である腹腔にはマクロファージが常在する.近年の研究により,これら腹腔常在性マクロファージの生体内での役割が明らかにされたことに加え,腹腔マクロファージがほかの組織マクロファージとは異なる特有の性質を示すことが報告された.これらの成果は単に一組織のマクロファージの解析にとどまらず,マクロファージの組織固有性の制御機構や,末梢組織における自己複製機構といったマクロファージ細胞生物学における基本的理解に貢献するものであった.本稿では,腹腔マクロファージ研究のここ数年の進歩を紹介する.
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医学のあゆみ 259巻5号, 431-435 (2016);
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◎ミクログリアは中枢神経系の防御機構に中心的な役割を担うグリア細胞であり,細胞表面抗原の発現や炎症性サイトカインなどの放出能,貪食能など,その機能的共通性から組織マクロファージに類似した細胞であると,これまで考えられてきた.ところが,その起源は異なることが最近判明し,それぞれに特徴的な発現分子プロファイルや,生理機能や病態における役割について多くの知見が集積している.神経疾患の病巣におけるミクログリアの活性化は,病態機序において脇役として考えられてきたが,モデル動物を用いた最近の研究により,病態を積極的に修飾しうる細胞であることが明らかとなり,ミクログリアに着目した病態解明や,治療法開発へ向けての研究が進捗している.
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医学のあゆみ 259巻5号, 436-440 (2016);
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◎ランゲルハンス細胞(LCs)は,長年にわたりその免疫学的機能や表現型から樹状細胞の一亜群と考えられてきた.しかし,近年の同細胞の起源に関する研究の進歩に伴ってその概念も大きく変遷し,最近では樹状細胞群とは一線を画する細胞としてとらえられつつある.近年LCs は,①マクロファージ(Mφ)と同様に胚起源であること,②胎児期に末梢組織に分布し,その後は生涯にわたって骨髄から供給されないこと,③その分化・生存がM-CSF レセプターに依存することなどがわかり,2014 年にLCs をその発生学的特性から組織Mφに分類すべきであるとの説が提唱された.また炎症に伴って出現する新しいLC サブセットが発見され,元来1 つの細胞集団としてとらえられてきたLCs の多様性も明らかになってきた.はたしてLCs は本当にMφなのであろうか.本稿では,LCs∈Mφ説の背景となった知見を紹介しつつ,LCs の発生・分化などについて概説する.
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医学のあゆみ 259巻5号, 441-445 (2016);
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◎自然免疫細胞であるマクロファージは,①炎症に伴い誘導される“炎症性マクロファージ”と,②恒常的に組織に存在する“組織常在マクロファージ”に大別される.組織常在マクロファージは各組織に特化した機能を有し,自然免疫応答のみならず,組織の発達・再生・恒常性維持に寄与している.近年,さまざまな組織常在マクロファージの起源および分化誘導機構が明らかになるとともに,組織常在マクロファージの恒常性維持と疾患の関係についても明らかになってきている.ヒト腸管組織においても,単球由来の常在マクロファージが多様な分子機構により腸管恒常性維持に寄与すること,その活性異常が潰瘍性大腸炎やCrohn 病といった炎症性腸疾患(IBD)の発症に深く関与することが明らかとなっている.腸管マクロファージの恒常性維持に関与するシグナルのさらなる解明が,IBD の発症・病態解明および新規治療法確立につながることが期待される.
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医学のあゆみ 259巻5号, 446-452 (2016);
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◎破骨細胞は,単球・マクロファージ系細胞から分化・成熟する多核巨細胞である.破骨前駆細胞は血中から骨表面へと遊走し,成熟破骨細胞へと分化して骨吸収を行っている.著者らは最近,螢光イメージング技術を用いて生体骨組織内における破骨細胞およびその前駆細胞の動態を可視化することに成功し,破骨細胞による骨吸収制御メカニズムを解明するとともに,生体内において各種骨粗鬆症治療薬が破骨細胞に及ぼす効果を明らかにした.本稿では,破骨細胞研究の最前線について概説する.
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医学のあゆみ 259巻5号, 453-458 (2016);
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◎生体防御を担う免疫組織マクロファージの役割は,われわれ多細胞生物にとって生命線となる血液,リンパの品質管理であり,これらに混在する異物を迅速に排除する.その実態はマクロファージによる標的の認識と貪食であり,脾マクロファージは血液の,リンパ節マクロファージはリンパの流れに接した形で存在する.また,からだを守るべく日々新陳代謝される血液細胞の分化・成熟を支持し,それらのメンテナンスや死細胞のクリアランスも行う(骨髄,胸腺).1 つのリンパ臓器に,異なった表面分子マーカーをもつ複数のマクロファージが存在することはこれまでも知られてきたが,最近の詳細な研究でそれらの組織内局在と役割分担,さらに発生・分化過程はたがいに異なることがわかってきた.本稿ではそれらを概説し,おおまかな分布をまとめたい.
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マクロファージのかかわる臨床疾患
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医学のあゆみ 259巻5号, 463-467 (2016);
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◎内臓脂肪型肥満を背景として発症するメタボリックシンドローム(MS)は糖尿病,高血圧,脂質代謝異常,非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)などが集積する代謝性疾患のみならず,慢性炎症性疾患ともとらえられている.実際,肥満の脂肪組織では浸潤マクロファージの増加や質的変化が認められ,慢性炎症から組織リモデリングに至る.すなわち,MS は脂肪組織炎症を起点として,アディポサイトカインや遊離脂肪酸を重要なメディエーターとする複雑な臓器間ネットワークを介して,慢性炎症が全身に拡大・波及する病態と考えられる.本稿では,脂肪組織炎症の分子機構について実質細胞である脂肪細胞と間質細胞であるマクロファージの相互作用を中心に,代謝臓器における慢性炎症と臓器機能障害について最近の知見を概説する.
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医学のあゆみ 259巻5号, 468-474 (2016);
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◎心臓は多種の細胞から構成されている.心筋細胞や心臓線維芽細胞などの主要な細胞に加えて,心臓マクロファージは生理学的条件下に1%程度のみ心臓内に存在している.最近,臓器内に存在しているマクロファージは,それぞれの組織において臓器特異的な作用を有し,臓器の恒常性の維持に重要な機能を有すると考えられている.心臓傷害後に壊死した心筋細胞の除去は,炎症促進型のM1 マクロファージとよばれる心臓マクロファージが行う.一方で,いわゆるM2 型のマクロファージは,細胞傷害性CD4 T 細胞の阻害またはインターロイキン12,インターロイキン13,VEGF-A,TGF-β1 の分泌を介して抗炎症および組織修復などの機能を行う.M1 マクロファージとM2 マクロファージの両者が心臓保護的に働くが,そのバランスの乱れが疾患の発症に関与する.本稿では,心臓マクロファージの病的な心臓における心臓保護的な作用に焦点を当てて解説する.
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医学のあゆみ 259巻5号, 475-479 (2016);
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◎マクロファージは粥状動脈硬化症の発症・進展や脆弱化,さらには退縮といった動脈硬化のすべてのステージで主要な働きをする.マクロファージは環境に応じてその機能をダイナミックに変化させることが知られており,動脈硬化巣の場所と時間によって,その機能も多様である.最近,動脈硬化巣においても複数のマクロファージサブタイプが同定されただけでなく,一部のマクロファージは動脈硬化巣のなかで増殖することも明らかとなった.また,あらたな細胞系譜研究により,従来の手法で同定されたマクロファージと平滑筋細胞の境界も曖昧になっている.さらに,動脈硬化の進展において,単球やマクロファージが臓器連関を仲介することもわかってきた.このように,動脈硬化巣に存在する細胞の由来と機能についての考え方が大きく変わろうとしている.
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医学のあゆみ 259巻5号, 480-485 (2016);
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◎腫瘍微小環境においてマクロファージはもっとも多く存在する細胞のひとつであり,ほとんどのがんにおいては腫瘍関連マクロファージ(TAM)の浸潤密度が高いほど予後が不良となる.TAM は血液中から動員された炎症性単球に由来し,腫瘍微小環境に存在するシグナルによってがん促進性の表現型に分化する.そこで増殖因子やサイトカイン,免疫抑制因子などを分泌することで,TAM は腫瘍の増殖や血管新生,侵襲そして転移を促進するようになる.このためTAM はがん治療の魅力的な標的となっている.近年,動物実験および臨床試験において,TAM の免疫抑制作用を減少または消失させることで免疫反応のバランスを変化させる,有望な治療戦略がつぎつぎと提案されている.本稿では,TAM の浸潤と生命予後の相関性,TAM の起源,がんの進行に伴う造血系の変化,TAM と腫瘍微小環境の相互作用,TAM を標的とした治療戦略について概説する.
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医学のあゆみ 259巻5号, 486-491 (2016);
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◎老化に伴う多くの疾患では,さまざまな臓器・組織で引き起こされる慢性炎症が関連することが疑われている.正常細胞では加齢とともに“細胞老化”とよばれる細胞周期の停止が引き起こされ,アポトーシスをはじめとするプログラム細胞死と同様に,異常をもつ細胞の増殖を抑制する重要な抑制機構として機能しているものと考えられている.一方,老化を起こした細胞の多くは生体から排除されずに生き残るために,老化細胞は加齢に伴って体内に蓄積していくと考えられる.老化と慢性炎症を結びつけるひとつの要因として,細胞老化に伴う炎症性メディエーターの産生,いわゆるsenescence-associated secretory phenotype(SASP)が非常に注目されている.SASP の特徴として認められる炎症性メディエーターの産生増加は,動脈硬化や糖尿病,がんのみならず,認知症やうつ,さらには生命予後ともかかわりがあることが報告されている.
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医学のあゆみ 259巻5号, 492-497 (2016);
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◎最近,臨床の場面で“マクロファージ活性化症候群(MAS)”の理解が進んでいる1,2).MAS は疾患名ではなく,“過剰な炎症状態”をさす病態名である.炎症は外因子(ウイルス,細菌,真菌などの感染因子や薬剤)や内因子(自己細胞のapoptosis/necrosis により生じる破砕物など)により活性化された樹状細胞,マクロファージから産出される炎症性サイトカインにより生じる病態であるが3),この炎症性サイトカインの過剰状態(cytokine storm)による致死的な病態がMAS である.MAS にかかわる炎症性サイトカインはinterferon(IFN)-γ,interleukin(IL)-1β,IL-6,IL-18,TNF-αなどである.MAS は基盤となる疾患からの進展病態であり,本来は全身型の若年性特発性関節炎(JIA)や成人発症Still 病などの自己免疫・炎症疾患を基盤とすると考えられてきたが,一次性(遺伝性)および二次性(感染症,腫瘍性疾患,自己免疫・自己炎症疾患など)血球貪食リンパ組織球症(HLH)と多くの点で類似性がある4).最近では,急性リンパ性白血病の治療薬として開発された生物学的製剤のひとつであるblinatumomab の治療中に生じる“cytokine release syndrome”もMAS とする考え方が提案されている5).本稿では,MAS の臨床症候について検討し,臨床症候を炎症性サイトカインの過剰状態とする考え方の根拠を示し,炎症性サイトカインの恒常性を回復することが治療そのものであることを報告したい.
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医学のあゆみ 259巻5号, 498-502 (2016);
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◎自己炎症性症候群とは,自己免疫応答や感染を伴わないにもかかわらず,マクロファージなど自然免疫系を構成する細胞集団が過剰に活性化することに起因する疾患群として定義される.また,自己炎症性症候群は狭義には遺伝性の疾患をさす.家族性自己炎症性症候群の原因遺伝子群は数多く同定されてきたが,そのなかでもNLRP3 に代表されるインフラマソーム系活性化に起因する自己炎症性疾患についての研究の進展はめざましい.NLRP3 の活性化はインターロイキン1β(IL-1β)の発現上昇を促すことから,IL-1βの阻害がNLRP3インフラマソームの過剰活性化に起因する自己炎症性症候群の病態を劇的に改善させることも明らかになっている.一方で,いまだ原因が未解明の自己炎症性症候群が存在する.著者らは,そのような原因が未知の自己炎症性症候群の原因を同定する研究から,非常に多岐にわたるシグナル系の破綻が自己炎症性症候群を引き起こすことを明らかにしてきた.本稿では,自己炎症性症候群の概要と,著者らが新しく見出した自己炎症性症候群の原因遺伝子について概説したい.
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医学のあゆみ 259巻5号, 503-510 (2016);
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◎血球貪食症候群(HPS)は自己の血液細胞を貪食する病態の総称である.このHPS は,①先天的な遺伝子異常によって発症する一次性と,②疾患に伴って発症する二次性,に分類される.著者らは,マウスにリンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスを感染させると血球貪食が誘導されることを見出した.この感染モデルでは赤血球系細胞にアポトーシスが誘導され,活性化した単球由来樹状細胞(moDC)が貪食し,抑制性サイトカインIL-10を産生していた.ウイルス感染マウスにおいてmoDC による血球貪食を抑制したり,同細胞からIL-10 を産生できないコンディショナルノックアウトマウスにウイルスを感染させたりすると,過剰な免疫反応が誘導された結果,肝障害が引き起こされ,約60%のマウスが2 週間以内に死亡した.これらの結果は,血球貪食を行うmoDC が過剰な免疫応答を抑制するあらたな免疫制御機構であることが示唆された.
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医学のあゆみ 259巻5号, 511-517 (2016);
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◎肺線維症とは,肺における過剰な細胞外マトリックス(ECM)の蓄積により,肺胞構造の破壊・肺胞壁の肥厚が引き起こされ,呼吸不全に至る病態である.慢性の肺線維症は,シリカやアスベストなど微粒子の吸入によるもの,関節リウマチに伴うもの,原因不明の特発性のものなど,さまざま存在するが,多くが有効な治療法に乏しく予後不良であり,その機序解明,新規治療法の開発が望まれている.肺のマクロファージは肺線維症において重要な機能を有し,炎症制御,ECM 分解,死細胞の貪食などにおいて中心的な役割を果たす細胞のひとつである.そのため,マクロファージによる肺線維症病態制御機序は注目を集め,盛んに研究が進められている.本稿では,マウスモデルを中心として現在得られているマクロファージの肺線維症における役割についての知見を概説した後,新規治療提案に向けた今後の研究の方向性について議論する.
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医学のあゆみ 259巻5号, 518-523 (2016);
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◎慢性腎臓病(CKD)から腎不全へと進展し,慢性透析療法を必要とする患者は約32 万人にのぼり,その数はいまだ減少をみない.そのため,腎臓病の発症・進展阻止は医学的・医療経済学的にも喫緊の課題である.多くの進行性腎障害の進展において,炎症・免疫学的機序がその病態にかかわっており,マクロファージの重要性も報告されている.近年,マクロファージは疾患の進展にかかわるのみならず,疾患の制御,さらには腎組織の修復にも関与することが明らかとなってきた.本稿では,最近の知見を中心に,これら腎疾患におけるマクロファージの意義について概説する.
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医学のあゆみ 259巻5号, 524-528 (2016);
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◎肝線維症は,種々の原因によってもたらされる慢性炎症の結果として,組織中にコラーゲンをはじめとする細胞外マトリックスが過剰沈着した病態である.その終末像である肝硬変では,肝細胞機能不全や肝細胞癌の合併が問題となる.マクロファージは多数の炎症性サイトカインやケモカインの産生を通じて炎症を惹起・慢性化させ,主要なコラーゲン産生細胞である星細胞を活性化させることで肝線維化進展に深くかかわる.一方で,近年の研究により,マクロファージのある分画はコラーゲン分解酵素であるマトリックスメタロプロテアーゼを産生し,肝線維症の改善過程においても重要な役割を演じることが明らかになってきた.肝線維症の病態形成においてマクロファージが有する多彩な作用を理解するには,M1/M2 polarity の概念に加えて,肝固有の内在性マクロファージとされるKupffer 細胞を含めた統合的な解析と,星細胞をはじめとするほかの細胞との相互作用の解明が重要である.
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医学のあゆみ 259巻5号, 529-533 (2016);
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◎皮膚は生体を外界と隔てる最大の臓器であり,病原微生物や抗原などにつねにさらされている.そのため,皮膚にはさまざまな免疫細胞が存在しており,それぞれの細胞が相互作用することで,外来抗原に対応した皮膚炎反応を誘導する.マクロファージは死細胞やその破片,体内に生じた変性物質や侵入した細菌などの異物を捕食して消化し,清掃屋の役割を果たす.また,捕食した抗原を主要組織適合遺伝子複合体(MHC)上に提示する抗原提示細胞でもある.皮膚疾患においては各種皮膚感染症,異物の侵入による肉芽腫形成において重要な役割を担うが,近年,炎症性疾患の病態形成において重要な役割を果たすことが明らかになった.本稿では,感染症,創傷治癒に加え,古典的な皮膚炎である接触皮膚炎に対するマクロファージの働きについて記載する.
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医学のあゆみ 259巻5号, 534-538 (2016);
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◎関節リウマチ(RA)の治療においては,病態形成過程に中心的に関与する腫瘍壊死因子(TNF)などのサイトカインやCD28 などの共刺激分子を標的とする生物学的製剤の導入により,高率な臨床的寛解導入が可能となり,関節の構造的破壊や機能障害の進行が抑止できるようになった.このような治療変革は,RA の病態におけるTNF やその主要なソースであるマクロファージの重要性をさらにクローズアップすることになった.マクロファージは疾患活動性に応じてRA 滑膜炎組織に集積してTNF やIL-6 などの炎症性サイトカインなどを産生し,また共刺激分子を高発現してT 細胞やB 細胞に活性化を誘導する.RA の滑膜表層下ではM1 マクロファージが主体であるが,TNF 阻害薬などで治療するとM2 マクロファージが誘導される.また,表層下のマクロファージはM-CSF などの刺激を受けて破骨細胞前駆細胞へ分化し,RANKL による刺激を受けて多核破骨細胞へ成熟し,骨基質を吸収する.実際,マクロファージの集積の程度は関節破壊の程度や進行度と相関し,TNF 阻害薬による治療効果はマクロファージからの産生抑制と関連する.本稿では,RA の病態形成におけるマクロファージなどの役割と治療標的としての有用性について概説する.
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医学のあゆみ 259巻5号, 539-542 (2016);
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◎全身性エリテマトーデス(SLE)は,抗核抗体をはじめとする自己抗体の出現が特徴的な自己免疫疾患である.マクロファージによるアポトーシス細胞のクリアランスの低下の結果,自己抗原が蓄積され,自己免疫寛容が破綻すると考えられている.また一方で,マクロファージはループス腎炎や血球貪食症候群などSLE 重症病態におけるエフェクター細胞としても機能している.SLE のリスク遺伝子解析においてもマクロファージで発現するTREX1 をはじめとした複数の遺伝子が同定されている.またSLE のリスク遺伝子はおもに単球系細胞でexpression quantitative trait locus(eQTL)効果を有することが報告されている.このようにマクロファージはSLE 病態の各段階で重要な役割を果たしており,その制御による治療法開発が試みられている.
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医学のあゆみ 259巻5号, 543-547 (2016);
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◎中枢神経系に存在するマクロファージ系の細胞には,ミクログリア,血管周囲マクロファージ,髄膜マクロファージ,脈絡叢マクロファージ,がある.近年それらの細胞は,胎生期に中枢神経系に迷入し独自に分化自己複製しているということが明らかにされてきた.一方,多発性硬化症は中枢神経系の自己免疫疾患であり,自己免疫性T 細胞を中心に病気が惹起される.しかしその病変にはT 細胞以上にマクロファージが集積しており,その病態に大きく関与していると考えられている.病変部のマクロファージにはミクログリア由来のもの,末梢血由来のものが混在しており,その役割に違いがあることが報告されてきている.
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医学のあゆみ 259巻5号, 548-554 (2016);
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◎HIV 感染症は抗HIV 薬によるカクテル療法(cART)の普及により,感染制御が可能な疾患となった.つぎに求められる治療はHIV 保有細胞(reservoir)の根絶(eradication),あるいはHIV 感染を制御する免疫の誘導による,cART 依存からの脱却である.HIV によるマクロファージ感染は,この治癒をめざす治療において最大の課題のひとつになっている.本稿では,マクロファージ感染の機序,感染における役割,マクロファージ感染関連疾患,AIDS ウイルス病原性に関するあらたな発見,および治癒をめざす治療研究について概説する.
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医学のあゆみ 259巻5号, 555-559 (2016);
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◎寄生虫は,原虫から大型の蠕虫(ぜんちゅう)まで幅広い生物種を含み,その豊富なゲノム情報を利用して,宿主内での多種多様な免疫回避ツールにより,感染を成立させる.マクロファージは.寄生虫感染に対して強い傷害作用をもつ急性期生体防御の要となる細胞である.一方,多くの細胞内寄生原虫にとってマクロファージは寄生標的であり,原虫は細胞内に取り込まれた後,殺菌機構をすり抜けて自己増殖を行いつつ,ほかの免疫機構から回避し,マクロファージを持続感染の拠点として病原性を発揮する.これらがワクチンや治療薬開発の障害となっている.本稿では,この寄生虫-マクロファージ相互関係の二面性と病態との関連について,最近の分子細胞学的知見に基づいて解説する.
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医学のあゆみ 259巻5号, 560-565 (2016);
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◎生体防御に果たすマクロファージの最重要機能は,外部から侵入する病原体の貪食と細胞内殺菌である.そのような専門職的食細胞としての役割を可能にするさまざまな細胞内殺菌機構がマクロファージには存在するが,病原細菌のなかには細胞内殺菌を免れる実に巧妙なメカニズムを獲得したものがあり,それらを総称して“細胞内寄生菌”とよぶ.本稿では,臨床的にも重要性が高く,加えて細菌学・分子遺伝学の分野で精力的な研究の対象となっている4 種の細菌を取りあげ,それぞれのマクロファージ内殺菌からのエスケープ機序について概説する.
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医学のあゆみ 259巻5号, 566-573 (2016);
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◎マクロファージ,樹状細胞,組織球の腫瘍および増殖症は非常に多岐にわたり,表11)のように多彩である.これらのなかには良性,悪性,またLangerhans 細胞組織球症のような境界病変も含まれている.また,腫瘍としての理解を困難にしていることとしては,以前より悪性組織球症(組織球性髄様細網症)という概念があったが,これは組織球の出現に伴う致死的経過をたどる疾患の総称として使われており,①反応性の組織球の出現をみる血球貪食症候群などの組織球増殖疾患,②腫瘍性の組織球増殖疾患,が含まれており,後者の多くは形態診断を主体にしていたため,未分化大細胞型リンパ腫,びまん性大細胞型B 細胞性リンパ腫などのリンパ腫が多く含まれていた.免疫染色の進歩により,マクロファージ,組織球や樹状細胞のマーカーが明らかになり,2008 年のWHO 分類(第4 版)2)では,厳密にリンパ腫を除外した組織球および樹状細胞腫瘍の項目があげられている.しかし,リンパ腫と異なり疾患特異的な治療法が確立されていないのが現状である.