Volume 259,
Issue 6,
2016
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【11月第1土曜特集】 虚血性心疾患UPDATE
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医学のあゆみ 259巻6号, 575-575 (2016);
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冠動脈疾患基礎研究の進歩
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医学のあゆみ 259巻6号, 579-589 (2016);
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◎冠動脈硬化性プラークは,内膜内の脂質沈着と泡沫化マクロファージの浸潤,そして壊死性コアの形成という過程を経て進行する.線維性被膜の破綻によって生じるプラーク破裂は冠動脈血栓症のもっとも頻度の高い成因であるが,プラークびらんやcalcified nodule によっても血栓症は起こりうる.血栓症は無症候性に生じる場合もあり,器質化過程を経て狭窄度の進行したプラークが形成される.第1 世代薬剤溶出性ステント(DES)の登場後に問題となった遅発性ステント血栓症の背景には,ストラットの被覆遅延,過敏反応に代表される炎症,そしてフィブリンの過剰な沈着といった血管反応の問題が存在した.第2 世代DES ではこれらの問題の改善が得られ,ステント血栓症の減少がもたらされていると考えられるが,ステント内新生動脈硬化の問題も含めて,残された課題はゼロではない.生体吸収性スキャフォールド(BRS)は,メタルステントにはないユニークな血管反応を示すことから,長期的なベネフィットが期待されるが,早期・晩期の血栓症の問題など,克服していかなければならない課題も存在する.
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医学のあゆみ 259巻6号, 590-596 (2016);
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◎動脈硬化(atherosclerosis)を基盤とする虚血性冠動脈疾患は世界の三大死因のひとつである.冠動脈硬化は例外なく,いわゆる冠動脈内皮細胞,炎症細胞(白血球とマクロファージ),血管平滑筋細胞,リンパ球(おもにT 細胞)といったさまざまな細胞と種々のプロテアーゼならびにサイトカインが関与する複雑な慢性炎症・免疫反応により発症・進行し,結果として冠動脈の機能不全や内腔の狭窄をきたす病変である.近年の分子生物学的研究により集積された組織・分子細胞レベルでの時・空間的な相互作用を基盤とする生体反応の仕組みに関する知識をもとに,動脈硬化症の成り立ちへの炎症・免疫反応に関するあらたな研究展開をもたらしている.しかし,動脈硬化発症の機序はいまだ十分に解明されていないのが現状である.本稿では,炎症・免疫反応とそれに関連するストレス性造血幹細胞活性化,プロテアーゼ・カテプシン活性化ならびに細胞死と増殖のクローストークを含む7 つの方面から,本研究グループの研究成果を交えて冠動脈硬化の分子機構に関する最近の知見について概説する.
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医学のあゆみ 259巻6号, 597-603 (2016);
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◎動脈硬化は慢性の炎症性疾患であると認識されるようになり,抗炎症免疫療法によるあらたな動脈硬化予防法の開発研究が行われている.著者らは最大の免疫臓器である“腸”に注目し,腸管免疫寛容に類似した免疫反応を誘導することでマウスの動脈硬化が予防できることを証明し,腸からの免疫修飾によって動脈硬化が予防できる可能性を示した.さらに,腸管免疫に強く影響する腸内細菌に注目した研究を進めており,心血管イベント発生の予測因子としての意義や,疾患予防の治療標的としての可能性を探索している.腸内細菌は代謝にも大きな影響を与え,代謝異常は動脈硬化の基盤にもなりうる.その意味で,腸内細菌叢と動脈硬化性疾患との関連を考えるときに代謝と免疫の2 つの機序からの考察が必要と考えている.本稿では,世界で行われている腸内細菌と動脈硬化性疾患との関連研究の現状を紹介し,この分野の将来展望を述べたい.
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医学のあゆみ 259巻6号, 605-612 (2016);
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◎近年,心血管疾患の発症および進展に他臓器が深くかかわっていることが明らかとなってきている.このような臓器間相互作用はいわゆる多臓器連関として注目されている.多臓器間を結びつける病態として,ホルモンを介して遠隔臓器の機能を制御する内分泌系,炎症細胞や免疫細胞によって制御される免疫炎症系,交感神経や副交感神経といった自律神経によって制御される神経系などがあげられる.本来,このような多臓器ネットワークは生体に重要な恒常性維持機構と考えられるが,病的状態下では多臓器が相互に影響を及ぼすことで臓器障害が進行するということが徐々に明らかになっている.しかし,臓器ごとに専門分野が細分化されている昨今,臨床現場において多臓器連関を認識することは困難である.多臓器連関の観点から真に病態を理解することはあらたな治療への一歩となると考えられる.本稿では臓器連関のなかでも最近とくに注目されている脳心連関および心腎連関について,新しい知見を交えて概説する.
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医学のあゆみ 259巻6号, 613-616 (2016);
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◎日常診療において急性冠症候群に対する治療は冠動脈の閉塞または高度狭窄に対して冠動脈形成術などにより早期の再灌流を得ることが最重要である.なぜなら再灌流療法によって心筋の梗塞範囲・領域の縮小や左室リモデリング抑制効果がみられ,結果として予後の改善が期待されるからである.日常診療においては,梗塞血管や再灌流までの時間が似たような症例であっても再灌流療法の効果が異なることが知られていたが,とくに有名なものとして,心筋梗塞前に狭心症があった患者の予後がよいという現象がある.この現象は虚血プレコンディショニング(ischemic preconditioning)として知られている.また,再灌流直後に虚血と再灌流を短時間に複数回繰り返すことにより梗塞範囲縮小効果など有用な効果が現れることは,ポストコンディショニング(post conditioning)現象として知られている.また,遠隔臓器に虚血を負荷することで,心臓など標的臓器の虚血耐性を獲得できる現象は,リモートコンディショニング(remote conditioning)として知られるようになった.これらを総称し近年,虚血コンディショニング(ischemic conditioning)という言葉が使われることがある.
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医学のあゆみ 259巻6号, 617-622 (2016);
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◎冠動脈攣縮(冠攣縮;coronary spasm)とは,心筋表面を走行する冠動脈が異常に収縮して一過性の心筋虚血をきたす病態であり,冠攣縮が原因で胸部絞厄感などの自覚症状を呈するのが冠攣縮性狭心症(CSA)である.冠動脈は加齢,酸化ストレス,慢性炎症などにより内皮が傷害されると,易収縮性,易血栓形成性,炎症ならびに平滑筋増殖(内膜肥厚)をきたし,機能的・構造的に形質変換(リモデリング)をきたす.冠攣縮はこのリモデリングをきたした冠動脈の機能的変化(異常)の劇的な一表現であり,東洋人において多く認められる.冠攣縮の発生には年齢,男性,喫煙,慢性炎症などが関与するが,遺伝的素因も深くかかわっている.とくにアルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)の異形遺伝子ALDH2*2は酵素活性が著しく低下しており,東洋人においてのみ40%近く発現し,冠攣縮のみならず急性心筋梗塞との関連が深いことが明らかにされた.
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虚血性心疾患の診断の進歩
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医学のあゆみ 259巻6号, 625-630 (2016);
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◎冠動脈病変を病理学的にとらえると,結果としての不安定狭心症,急性心筋梗塞,心臓突然死が血管内皮の破綻と血栓形成という同じメカニズムで発症することが明らかになり,急性冠症候群という概念でまとめられた.大きな脂質プールと薄い線維性被膜からなる不安定プラークを検出することができれば急性冠症候群発症の予測と予防の可能性が高まることから,血管内超音波(IVUS)による冠動脈プラークの組織性状診断法の開発に期待が高まった.本稿では冠動脈プラーク組織性状診断として,臨床での使用が可能なIVUS 装置であるintegrated backscatter IVUS(IB-IVUS),Virtual Histology(VH-IVUS)について概説する.
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医学のあゆみ 259巻6号, 631-637 (2016);
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◎光干渉断層法(OCT)は近赤外線を利用した血管内画像診断法である.血管内超音波法(IVUS)と比較し約10倍の画像分解能を有し,生体表層の微細な構造を顕微鏡画像に近い精度で描出することが可能である.OCTは急性冠症候群(ACS)における責任プラークおよび血栓,また,その前駆病変であるthin-cap fibroatheroma(TCFA)を同定することができる.また,ステントストラットを覆う薄い新生内膜や病的な新規動脈硬化病変を観察可能であり,ステント留置後の組織修復過程の評価に重要な情報を与えてくれる.さらに,ステントの3 D 解析機能が刷新され,ステントストラットの自動検出機能なども加わり,経皮的冠動脈形成術(PCI)のガイドとして,IVUS と双璧をなすイメージングモダリティに進化している.本稿では最新の知見を交えながら,OCT の現状および進歩について概説する.
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医学のあゆみ 259巻6号, 639-645 (2016);
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◎近年の循環器領域の非侵襲画像診断の発展は著しい.今日の非侵襲的画像診断の虚血性心疾患に関する役割は,冠動脈狭窄の診断のみならず,不安定プラークの指摘,予後予測,虚血・梗塞の評価など多岐にわたっている.CT による冠動脈の画像診断は近年急速に進歩し,すでに循環器日常診療に欠かせないものとなっている.その有効性に関しては大規模試験の結果で報告されている.さらに,負荷心筋血流CT による心筋虚血診断や遅延造影CT による組織性状診断などの進歩により,虚血性心疾患におけるCT の応用範囲は冠動脈の形態だけでなく機能的評価の領域へ拡大されつつある.一方,MRI は放射線被曝がなく,一度の検査で心機能評価,心筋虚血評価,心筋梗塞後の組織性状診断,冠動脈狭窄の診断など総合的に評価することができる.心筋血流MRI は負荷心筋SPECT と比較して心筋虚血診断における優位性がほぼ確立されており,遅延造影MRIは現時点ではすべての非侵襲的検査のなかで,梗塞心筋や線維化をもっとも正確に検出する検査であるといえる.また,非造影T1 強調画像による不安定プラーク評価も期待される.
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医学のあゆみ 259巻6号, 646-653 (2016);
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◎心筋虚血とは,心筋酸素消費と心筋酸素供給の不均等が生じる状態と定義できる.カテーテル検査室内で得られる冠動脈の心筋酸素供給能力を評価する指標として冠血流予備能(CFR),部分冠血流予備量比(FFR),instantaneous wave free ratio(iFR)を計測することができる.CFR は安静時に比較し最大冠拡張時に何倍まで血流を増加することが可能かを示す指標である.FFR は最大冠拡張時冠血流供給能力が仮想正常血管と比較し何%であるかを示す指標である.iFR は安静時wave free period の圧較差から狭窄重症度を評価する指標であり,CFR と強い関連をもっている.FFR に基づいた治療方針決定は,冠動脈造影上の狭窄度に基づく治療方針決定に比較して明らかに患者予後を改善することが示されている.これらの指標の虚血診断一致率は,CFR とFFR は60%,FFR とiFR は80%と不一致症例も多い.いずれの指標が臨床現場で今後多く用いられるかは,現在行われているいくつかの臨床試験の結果によって判断されるであろう.
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医学のあゆみ 259巻6号, 655-663 (2016);
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◎心筋虚血の存在を診断する負荷心筋シンチグラフィ検査は半世紀以上の歴史を有する非侵襲的検査である.負荷法として当初は運動負荷が用いられていたが,運動負荷不可能な症例に対し薬物負荷が代用されるようになった.当初は負荷薬剤として血管拡張剤であるdipyridamole やdobutamine が用いられ,いまではadenosineが一般的となり,将来はより副作用の少ないregadenoson が用いられることが想定される.また,撮影に用いられるガンマカメラやコリメータの改良および画像解析ソフトの進歩により,従来の負荷心筋シンチグラフィが有したいくつかの問題点を改善し,冠動脈疾患を同定する診断精度が向上した.負荷心筋血流シンチグラフィ検査といえば,SPECT 検査が一般的である.現在は,従来は動く臓器心臓に対しては不向きと考えられてきたCT やMRI の検査数が伸びつつある.最近,多列化CT を用いた冠動脈CT の検査数は飛躍的に増加した.これらは心筋ならびに冠動脈の解剖学的評価を行うモダリティではあるが,これらのモダリティを用いて心筋血流を評価する試みも増えてきている.しかし,造影剤を必要とする問題点や精度の高い定量データを出すには相当な熟練を要するため,まだ汎用的とはいえない.
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医学のあゆみ 259巻6号, 665-672 (2016);
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◎動脈硬化を基盤とする脳血管疾患や冠動脈疾患の死亡率は,悪性新生物と並んでわが国の死因の上位を占めている.動脈硬化病変の組織学的解析から,破綻しやすい不安定プラークは脂質が豊富で周囲を覆う線維性被膜が薄く,マクロファージなどの炎症細胞が浸潤していることが明らかにされ,動脈硬化は慢性の炎症性疾患と認識されている.動脈硬化プラークの不安定性を正確に評価し,その合併症である脳梗塞や急性冠症候群を予防・治療していくことはきわめて重要な臨床課題と考えられる.Multidetector computed tomography(MDCT),magnetic resonance imaging(MRI),血管内超音波(IVUS),血管内視鏡,光干渉断層法(OCT)などを用いて被膜厚,脂質・出血成分,血管新生などの動脈硬化プラークの性状評価がなされているが,病変局所が実際に炎症性変化を伴った病変であるかについての評価は困難である.近年,18F-fluorodeoxyglucose(FDG)を用いたポジトロン断層撮影(positron emission tomography:PET)が不安定プラークを描出する画像診断法として臨床応用されている.本稿では,FDG-PET を用いて動脈硬化病変の炎症活動性を評価する試みについて解説する.
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医学のあゆみ 259巻6号, 673-681 (2016);
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◎血管内視鏡はわが国が世界をリードしている分野のひとつである.血管内視鏡がわれわれにもたらす情報としては冠動脈プラークの性状,ステント留置後の評価,薬物療法後の評価など多岐にわたる.わが国において虚血性心疾患は増加傾向であり,多種多様な病変形態を呈している.また,経皮的冠動脈形成術の主役が薬剤溶出性ステントとなり,その反面ステント血栓症の問題が表面化した.この課題を解決すべく,生体適合性の高いステントの開発が行われ,抗血小板剤2 剤併用療法の至適期間についての議論が過熱した.とくに日本人は出血性合併症が多いことが知られており,差し迫った課題といえる.この課題の解決に血管内イメージングから得られる情報が寄与することは大きく,血管内視鏡はその一端を担うと考える.経皮的冠動脈形成術は冠動脈バイパス術と比較し低侵襲であり,患者の負担が少ない治療であるが,生命予後改善効果は示せていない.患者背景を考慮した薬物療法に加え,個々に応じた至適な血行再建を行うことで,虚血性心疾患の患者の生命予後改善が期待できる可能性がある.
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医学のあゆみ 259巻6号, 682-686 (2016);
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◎近年,虚血性心疾患に関連したバイオマーカーの報告が多く散見され,虚血性心疾患の病態解明,早期診断,そして予後推定に役立つ情報が得られている.急性冠症候群(ACS)におけるバイオマーカー,とくに心筋トロポニンは心筋特異性に優れ,最初の臨床経験から20 年以上経過した現在でも心筋トロポニンのバイオマーカーとしての意義はさらに拡大しつづけている.近年導入されている心筋トロポニンの高感度アッセイは心筋傷害の早期検出において有用であり,低濃度の心筋トロポニンの臨床的意義を確認する研究が進み,ACS の早期診断(生化学診断)には不可欠なバイオマーカーとなっている.
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虚血性心疾患の治療の進歩
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医学のあゆみ 259巻6号, 689-694 (2016);
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◎虚血性心疾患の予防において,禁煙とともにとくに重要な脂質異常症治療はあらたなステージを迎えている.LDL 受容体の分解を促進するPCSK9 に対するモノクローナル抗体医薬の登場により,従来の薬剤ではLDL コレステロール(LDL-C)管理目標値に到達できなかった,家族性高コレステロール血症患者をはじめとする患者のLDL-C 値を理論的には十分に低下させることができるようになった.しかし,本薬剤の使用が虚血性心疾患リスクを低減させるかという前向き介入試験の結果はこれからである.また,たとえばLDL-C 値が50 mg/dL 未満まで到達できた場合のHDL をはじめとする残余リスクの位置づけも今後の課題である.HDL に対する介入については単なるHDL-C 量増加戦略の臨床的なベネフィットはまだ得られておらず,HDL-C 濃度,すなわち量よりもその抗動脈硬化作用,すなわち質を問うパラダイムシフトが起こっている.コレステロール引き抜き能などのHDL 機能測定の意義は明らかになりつつあるが,その規定因子の探索など課題はまだ多い.
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医学のあゆみ 259巻6号, 695-699 (2016);
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◎2009年以後,血糖効果ホルモン,インクレチンを作用標的としたあらたな糖尿病治療薬,DPP4 阻害剤ならびにGLP-1 製剤が承認発売された.新しい作用機序をもつ糖尿病治療薬の登場は約10 年ぶりであり高い関心が寄せられてきたが,最近ではさらに,もうひとつの異なる機序を介する糖尿病治療薬SGLT2 阻害剤が使用可能となった.さらに興味深いのが,これら薬剤についてその心血管安全性を評価するために実施された大規模臨床試験の結果である.各種パイロット試験,メタ解析,前臨床研究の結果からDPP4 阻害薬の心血管保護作用に対して大きな期待が集まっていたが,2013 年夏に同時公表された2 つの無作為大規模臨床試験(SAVOR-TIMI53 試験およびEXAMINE 試験)では,約2 年という短期間の試験期間において心血管イベントに対する安全性は担保されたものの,SAVOR-TIMI53 試験では予期せぬ心不全発症リスク増加という重要なイベント増加が認められた.2015 年,あらたに発表となったEMPA-REG 試験ではSGLT2 阻害剤が心不全発症を投与早期から有意に抑制し,同時に生命予後を改善することが示され,大きな衝撃を与えた.これらの結果はあくまで,予期せぬ“副産物”ではあるが,選択肢の増えた糖尿病治療薬のなかから患者の生命予後改善への指標として有用であることはいうまでもない.糖尿病が心血管イベントリスクであることを考慮し,本稿ではあらたな糖尿病治療薬のインクレチン関連薬とSGLT2 阻害剤について,心血管イベントリスクコントロールの観点から概説していく.
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医学のあゆみ 259巻6号, 701-706 (2016);
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◎虚血性心疾患のリスクコントロールとして降圧治療の重要性はいうまでもないが,降圧目標値をどこまで下げるべきかという点に関し,近年発表されたSPRINT 試験は非常にインパクトのある結果であった.収縮期血圧120 mmHg 未満の厳格降圧治療群は140 mmHg 未満の標準降圧治療群に比べ,心血管イベントの発生を有意に低下させた.また,わが国で行われたHONEST 試験においては,早朝家庭収縮期血圧が125 mmHg未満の群は145~155 mmHg および155 mmHg 以上の群よりも冠動脈疾患イベントの発生が有意に低率であった.これらより,これまで懸念されていたJ カーブ現象に関しては払拭され,早朝家庭血圧を用いた厳格な降圧の重要性が再認識された.降圧薬としては確実な降圧効果が期待できるカルシウム(Ca)拮抗薬の有用性を示すエビデンスが多く第一選択薬となる.高齢者に対しても十分な降圧治療が望まれるが,有害事象の出現に注意を払い,忍容性をみながら慎重に目標値まで降圧をはかることが肝要といえる.
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医学のあゆみ 259巻6号, 707-714 (2016);
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◎1970年代よりはじまった虚血性心疾患に対する経皮的冠動脈形成術(PCI)はバルーン拡張(POBA)のみであった.しかし,1980 年代より冠動脈ステント(BMS)が登場し,さらに1990 年代には薬剤溶出性ステント(DES)が登場したことで治療成績が劇的に向上し,現在,DES を使用したPCI は虚血性心疾患の確立された治療選択肢となり,安定した成績を収めている.しかし,DES の登場によってPCI のアキレス腱と呼ばれる再狭窄は大幅に改善されたものの,ステント留置に伴う種々の問題を含め,現行のDES をもってしても未だ完全な解決に至っていない問題もある.最近では血管内に異物を残さない治療法が考慮され,薬剤溶出性バルーン(DCB)や生体吸収性スキャフォールド(BRS)が登場した.PCI はいま大きな転換期を迎えようとしているが,引き続きDES がPCI の中心を担っていくものと考える.
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医学のあゆみ 259巻6号, 715-721 (2016);
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◎生体吸収性スキャフォールド(BRS)は,一定期間のみステントと同様の血管支持能力を発揮し,その後生体内で吸収されるようにプログラムされた新しい冠動脈治療テクノロジーである.BRS の概念は1980 年代に提唱されたが,その開発は困難をきわめた.1996 年にオランダ・Thoraxcenter のvan der Giessen らは5 種類の生体吸収性ポリマーの生体適合性をブタ冠動脈で評価したが,炎症性変化に伴う内膜増殖反応が著しく,ヒト冠動脈への応用は困難と思われた.しかし,わが国において故・玉井秀男先生(草津ハートセンター)や伊垣敬二氏(京都医療設計)らの不屈の開発努力により,1990 年代後半には“Igaki-Tamai ステント”がはじめてヒト冠動脈で使用された.現在では欧州を中心にポリマー(PLA)やマグネシウム合金で構成されるBRS が実臨床で使用されており,わが国でもその導入が期待されている.とくに第一世代の薬剤溶出性PolymericScaffold(Absorb BVS®)は,2006 年よりFirst-in-man study がThoraxcenter を中心に行われ,その長期安全性を証明した.その後,薬剤溶出性金属ステント(DES)との無作為化比較試験が欧州に続いて日本,中国,アメリカでほぼ同時期に行われ,いずれもBVS はDES と遜色ない1 年成績を証明した.しかし,第一世代のBVS はストラットが約150μm と厚く,デリバリー性能や拡張限界,デバイス血栓症への懸念などまだ改善すべき課題は多い.BRS では,構成する素材やポリマーの配合などによって機械的特性や生体吸収過程が異なるため,現在もさまざまなBRS が開発されている.
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医学のあゆみ 259巻6号, 723-728 (2016);
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◎わが国では循環器内科医が行う冠動脈インターベンション(PCI)が冠動脈治療の主体であり,治療成績も日々向上している.しかし,近年の大規模臨床研究の結果はいまだにPCI との比較では冠動脈バイパス術(CABG)が治療成績で優位であり,重要な役割をもつことが示された.わが国におけるCABG の治療戦略は,①人工心肺を使用しないオフポンプ冠動脈バイパス術(OPCAB)による周術期合併症の軽減,②動脈グラフトを多用して血行再建を行うmultiple arterial graft による長期成績の向上,の2 つが特筆すべき構成要素である.PCI におけるデバイスの進歩と比べるとめだたないが,今日の冠動脈バイパス術の優れた治療成績は外科医の努力と技術の研鑽により遂げられた進歩の結果である.本稿ではCABG の最新の知見について述べる.
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医学のあゆみ 259巻6号, 729-735 (2016);
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◎冠動脈硬化に基づく虚血性心疾患における薬物治療の主体は抗血小板剤である.1990 年代にはじまった金属ステント(BMS)による冠動脈形成術(PCI)の成功を支えたのは,アスピリンとチエノピリジンの2 剤併用療法(DAPT)の確立であった.今世紀になり,薬剤溶出性ステント(DES)が普及する過程で,その関係はさらに強固なものとなる.ステント血栓症(ST)の防止には,より長期間のDAPT が必要と考えられたからである.しかし,ステントの改良によって血栓形成性が低減されると,強力な抗血小板剤による出血リスクが注目されるようになり,最近ではDAPT 期間の短縮を支持する臨床研究が多く報告されている.心房細動(AF)や機械弁など抗凝固治療の必要がある患者のPCI では,出血リスクと脳卒中リスクおよびST を含む冠イベント再発リスクとのバランスを取った抗血栓治療が重要となるが,経口抗凝固薬(OAC)とDAPT の同時投与,すなわち3 剤併用は可及的短期間にすべきである.
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医学のあゆみ 259巻6号, 737-741 (2016);
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◎近年,重症拡張型心筋症に対し心臓移植や人工心臓など,いわゆる置換型治療が積極的に行われてきたが,ドナー不足や合併症など課題も多い.一方,最近,心機能回復戦略として再生型治療の研究が盛んに行われ,自己細胞による臨床応用が開始されている.著者らは温度感応性培養皿を用いた細胞シート工学の技術により,細胞間接合を保持した細胞シート作製技術を開発し,心筋再生治療の臨床研究を開始した.さらに,iPS細胞を用いた心血管再生治療も期待され,iPS 細胞の樹立をきっかけとして世界中で幹細胞研究が活性化され,iPS 細胞を用いた心血管再生医療が現実的なものとなると思われる.さらに,疾患別iPS 細胞の樹立も盛んに行われるに至っており,近い将来,自己細胞移植や組織工学的技術を駆使することにより,心臓移植や人工心臓治療とともに再生治療によって重症心不全治療体系が確立されるであろう.