医学のあゆみ
Volume 259, Issue 14, 2016
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【12月第5土曜特集】 循環器薬物療法UPDATE
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- 循環器疾患の最新薬物療法
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虚血性心疾患に対する薬物療法
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎虚血性心疾患に対する薬物加療の目的は,①狭心症状改善,②冠動脈硬化病変の進行・不安定化予防,③心筋保護,の3 つである.狭心症状改善のためには心筋への酸素供給量と需要量のアンバランスの改善,冠動脈硬化病変の進行・不安定化予防のためには抗血小板,抗脂質異常症治療,心筋保護のためには交感神経活性抑制,レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系活性阻害をターゲットとしたさまざまな薬物加療の方法がある. -
急性心不全の最新薬物治療
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎急性心不全患者数は世界的に増加傾向にあり,すでにパンデミックといってもよいぐらいの状況にある.しかもその予後はきわめて不良で癌に匹敵する.このような社会的背景があるにもかかわらず,急性心不全治療はいまだに予後改善に向けての方向性が定まらずにいた.そうしたなか,やっと近年,急性期治療において“時間軸”を念頭においた治療戦略が注目され,それを支持するエビデンスが構築されてきている.今後,このような観点からの急性期治療の標準化とその啓発・実践を促進することが重要である.さらに,この啓発・実践は循環器内科のみでなく,急性期治療に携わるすべての医師に施される必要がある.このようなアプローチを促進しつつ,一方で心不全病態に関するあらたな病態解明とその改善に向けての薬剤開発が必要であり,その基礎研究を土台に予後改善に向けての新規薬剤の開発がより促進されることが望まれる. -
慢性心不全の薬物療法
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎最近30 年の歴史のなかで慢性心不全の薬物療法は大きな変貌を遂げている.心不全患者に対する大規模臨床試験で,ACE 阻害薬やβ遮断薬,アルドステロン拮抗薬は予後のエビデンスが得られ,ガイドラインにも記載される標準治療となった.一方でガイドラインが遵守されず,これらの薬剤が十分処方されていなかったり,処方されても患者の服薬アドヒアランスの問題で内服されていなかったりと,十分な効果が発揮できていない可能性もある.また,エビデンスの乏しい,左室収縮率の保たれた心不全や終末期心不全に対する薬物療法はいぜんとして確固たるエビデンスに乏しく,今後の課題である. -
心筋症(二次性心筋症を含む)
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎心筋症は“心機能障害を伴う心筋疾患”と定義され,①拡張型心筋症,②肥大型心筋症,③拘束型心筋症,④不整脈源性右室心筋症,⑤その他どの型にも分類しえない分類不能の心筋症,に分類される.“原因または全身疾患との関連が明らかな心筋疾患”は,特定(二次性)心筋症として心筋症から区別されている.拡張型心筋症,肥大型心筋症,拘束型心筋症,不整脈源性右室心筋症は成因が不明であるが,遺伝子変異に起因する機能異常について研究が進められている.また,二次性心筋症に分類される心Fabry 病,心アミロイドーシス,心サルコイドーシスでは新しい薬物治療が行えるようになり,その予後改善効果が期待されている. -
不整脈(心房細動,発作性上室頻拍)
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎現在の不整脈治療は,薬物治療に加えてカテーテルやデバイスを用いた治療もあるため,個々の患者において総合的な判断により治療法を決定する.頻度の多い心房細動に対しては,まずは抗凝固療法の必要性を吟味しなければならない.近年,使い勝手のよい直接作用型抗凝固薬が主流になりつつある.リズムコントロール療法を行う場合は,Na チャネル遮断薬(Ⅰ群薬)が第一選択薬となる.ただし,心機能が低下した患者ではさまざまな作用を併せもつⅢ群薬のアミオダロンが選択される.レートコントロール療法を行う場合は,β遮断薬,(非ジヒドロピリジン系)カルシウム(Ca)拮抗薬,あるいはジギタリス製剤が選択されるが,エビデンスをもとにβ遮断薬がもっとも推奨されている.心房粗動の薬物治療については心房細動の治療方針でほぼ問題ない.発作性上室頻拍で停止を目的とした場合,第一選択薬はアデノシン三リン酸の静注である.予防にはCa 拮抗薬あるいは(K チャネル遮断作用を併せもつ)Na チャネル遮断薬が使用される. -
心室性期外収縮,心室頻拍に対しての薬物療法
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎心室性不整脈は,治療が不要なものから緊急治療が必要なものまで多様である.薬物治療の選択は心機能により異なってくる.期外収縮,非持続性心室頻拍は,症状がない場合でも頻回となると心機能が徐々に低下することもあり,注意を要する.心機能が低下傾向にあったりBNP が高値になる場合には薬物またはカテーテル治療が必要である.持続性心室頻拍の急性期,血行動態が不安定な場合は直流通電を行う.再発する場合はアミオダロンまたはリドカインを静注後に再度直流通電を行う.通常,器質的心疾患を伴う場合はアミオダロンなどのⅢ群薬,器質的心疾患のない場合にはβ遮断薬,Na チャネル遮断薬,Ca チャネル遮断薬を使用するが,心室頻拍の波形が治療を選択するうえで非常に重要である.典型的な波形を記憶しておくとよい.また,抗不整脈薬を継続する場合は定期的に副作用をチェックする必要がある.アミオダロンでは定期的に肝機能,甲状腺機能,呼吸機能,眼科チェックを行う必要がある. -
徐脈性不整脈の薬物治療
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎不整脈の薬物治療といえば,いわゆる抗不整脈薬を使用する状況を想像するが,抗不整脈薬とは頻脈性不整脈を抑止する目的で使用される薬剤であり,限定された状況を除き徐脈性不整脈には使用しない.徐脈性不整脈は心臓刺激伝導系の線維化などによる変性,あるいは薬剤による過剰な伝導抑制に起因すると考えられ,薬剤によるものを除くと可逆的な状況はけっして多くない.そのため,長期予後を見据えた対応が求められる.徐脈性不整脈で治療を要する症例の多くはペースメーカー植込みの適応となる.本稿で取り上げる薬物治療は,基本的にはペースメーカー植込み待機期間の維持療法的な対応や,比較的長期使用が可能であっても植込み時期を延期させるための薬物治療,と位置づけされる. -
高血圧の薬物療法
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎現在おもに用いられる降圧薬としては降圧利尿薬,アンジオテンシンⅡタイプ1 受容体拮抗薬(ARB),カルシウム拮抗薬があり,それぞれに豊富なエビデンスがある.これらの降圧薬を組み合わせた配合剤の種類も多くなっており,ごく最近ではこれら3 剤の配合剤も登場した.また,新規の降圧薬であるアンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬(ARNi)やアルドステロン拮抗薬の研究も進んでいる.今後の降圧療法は個別の生活習慣や嗜好も踏まえたうえで,良好なアドヒアランスを保ち続けることで,長期的に心血管疾患をはじめとした高血圧合併症を防ぐことにあると考えられる.そのためには個別にきめ細かく治療目標を設定し,画一的ではなく,個人に合わせた降圧薬を単剤あるいは併用で使用していくことが望まれる. -
脂質異常症の最新薬物治療
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎HMG-CoA 還元酵素阻害薬(スタチン)はわが国の遠藤 章博士によって開発され,現在では世界中の高LDL コレステロール(LDL-C)血症の患者に使用されている.従来の数多くの大規模臨床試験によって,心血管疾患発症の一次予防・二次予防におけるスタチン投与の有効性が示されてきた.高LDL-C 血症に対しては小腸コレステロールトランスポーター阻害薬(エゼチミブ),陰イオン交換樹脂(レジン),プロブコールなども使用されており,高トリグリセリド(TG)血症に対してはフィブラートを中心にニコチン酸誘導体,イコサペント酸エチル(EPA)・ω-3 脂肪酸製剤(EPA/DHA)などが用いられている.最近,LDL 受容体の分解にかかわるproprotein convertase subtilisin/kexin type 9(PCSK9)に対するヒト型阻害モノクローナル抗体の注射薬を用いたLDL-C 低下療法が可能となり,従来の薬剤とはおおいに異なる著明なLDL-C 低下効果が報告されており,本薬にはLp(a)低下作用も認められる.最近,家族性高コレステロール血症ホモ接合体に対しては,ミクロソームトリグリセリド転送蛋白質(MTP)阻害薬のひとつであるロミタピドがわが国でも承認された.一方,高TG 血症に対しては従来フィブラート系薬剤が主として使用されてきたが,PPARαに対する選択性をより改善したselective PPAR-α modulato(r SPPARMα)が開発中である.本稿では,これらの脂質異常症の薬物療法とその臨床効果,さらには現在開発中の薬剤についても紹介する. -
肺高血圧症治療薬
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎肺動脈性肺高血圧症(PAH)の病態生理にかかわる重要な経路として,プロスタサイクリン(PGI2)経路,エンドセリン経路,一酸化窒素(NO)経路が知られている.PAH 治療薬はこの10 年の間に大きく進歩し,現在ではPGI2経路の薬剤5 種,エンドセリン受容体拮抗薬3 種,さらにはNO 経路に作用する薬剤としてホスフォジエステラーゼ-5 阻害薬2 種,および可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬1 種の合計11 種の薬剤が使用可能となっている.また,肺高血圧症の原因疾患としてPAH と並んで重要な慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)については,最近まで保険適用のある薬剤は存在しなかったが,sGC 刺激薬であるリオシグアトが世界ではじめてCTEPH に対して適用のある薬剤として承認された.使用可能な薬剤が増えて治療選択の幅が広がった現代においては,これらの薬剤を適切に使い分けるための高い専門的な知識・経験が求められる.本稿では,各薬剤の特性や至適な使用法について解説する. -
静脈血栓塞栓症の新しい薬物療法
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎静脈血栓塞栓症(VTE)の治療の第一選択は抗凝固療法であり,従来日本では用量調節が必要な未分画ヘパリンとワルファリンが使用されてきた.いずれも調節に難渋するためVTE 再発が少なくなく,また出血性合併症も高率であった.近年,非経口Xa 阻害薬フォンダパリヌクス,ならびに非ビタミンK 阻害型経口抗凝固薬(NOAC)/直接経口抗凝固薬(DOAC)のエドキサバン,リバーロキサバン,アピキサバンが,日本でもVTEに対して使用できるようになった.従来治療よりも安定した効果を発揮し,その結果,有効性や安全性でより有用性が高いと考えられる.NOAC/DOAC はunprovoked VTE などでより長期間の再発予防を可能にする.また,発症初期からのNOAC/DOAC のみによる治療,ならびに入院期間の短縮や外来治療を可能とする.さらに,がん患者に対するより安全な抗凝固療法など多くの可能性があり,たいへん期待される治療薬である.一方で,脆弱性が高い患者に対する投与法や長期投薬期間など,今後エビデンスを構築しなければならない部分も少なくない. -
末梢閉塞性動脈疾患
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎超高齢社会の到来や疾病構造の変化に伴い,閉塞性動脈硬化症(ASO)が増加している.ASO 患者は全身の動脈硬化症を伴うため,冠動脈疾患,脳血管疾患といった動脈硬化性疾患を合併する頻度が高く,間歇性跛行,安静時痛,潰瘍・壊死といった下肢虚血によるさまざまな障害に加え,健康寿命が短く生命予後も悪いという深刻な問題を抱えている.したがって,ASO の治療目標は下肢虚血を克服してquality of life(QOL)を改善することと,生命予後を改善することである.生命予後改善のためには動脈硬化のリスクファクター改善が必要であり,禁煙,高血圧管理,糖尿病管理,脂質異常症管理,抗血小板薬投与の検討が推奨されている.下肢虚血に対する薬物療法は血流改善のための補助治療である.無症状および間歇性跛行患者の下肢予後は良好であり,血行再建を含め救肢のための予防的治療の適応はない.ASO の治療体系全体を理解しつつ,薬物療法を実践することが大切である. -
大型血管炎に対する薬物療法
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎血管炎の分類で用いられるChapel Hill 分類で,その1 カテゴリーを構成する“大型血管炎(LVV)”は高安動脈炎(TAK)と巨細胞性動脈炎(GCA)の2 疾患からなる(図1)1).TAK とGCA の治療の第一選択薬はステロイドであるが,多くの症例でいったんは寛解に至るものの,再燃がしばしばみられることが治療上の問題となっている.再燃の際には,TAK ではステロイドに加えてさまざまな免疫抑制療法を併用することが勧められているが,確実に効果のある治療法はいまだないのが現状である.そうしたなかで近年,難治性経過をとるTAK やGCA の症例において,生物学的製剤のinterleukin-6(IL-6)受容体抗体トシリズマブ(TCZ)の有効性が報告されている.TAK に対する治験はわが国で,GCA に対する治験は欧米で現在進行中であり,今後新しい治療として期待されている.本稿では,最近のLVV に対する薬物療法の知見を述べる. -
感染性心内膜炎―最近の話題
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎感染性心内膜炎(IE)はさまざまな症状で現れる.最近はデバイスに関連したIE も問題となり,従来の診断基準だけでは十分診断できないこともある.一方,CT,MRI,核医学などの進歩した画像診断技術もIE の診断に用いられてきている.IE の起炎菌も従来から変化してきている.起炎菌の抗生剤に対する感受性と抗生剤の副作用の比較から推奨される抗生剤の組合せも変化してきている.抗生剤治療が終了する前の早期手術の有用性とその適応についてもデータが蓄積してきた.脳合併症後の手術のタイミングについても従前と変化してきている.多様な診断技法,治療が必要となるIE の診療にはチームアプローチが必要とされてきている.以上のような変化が,次回の日本循環器学会のガイドラインにも反映されるよう検討が行われている. - 注意すべき患者背景と合併症
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慢性腎臓病(CKD)と急性腎障害(AKI)―循環器薬物療法を行う際の投薬計画
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎生活習慣変化と高齢化を背景に,慢性腎臓病(CKD)該当者が増加している.虚血性疾患や心不全などの循環器疾患を有する患者では,CKD の有病率がさらに高くなる.CKD は末期腎不全のみならず,脳卒中,虚血性心疾患・心不全,認知機能障害とも関連する.一方,ごく軽微な腎機能低下の予後が想定以上に不良であることが明らかとなり,急性腎障害(AKI)の概念が確立された.わが国では循環器疾患の診療現場においても高齢者が著しく増加している.加齢は,CKD,AKI 両者の発症リスクであり,高齢者はCKD,AKI の高リスク者とみなして診療にあたる必要がある.多くの薬剤は腎排泄性あるいは腎障害性であり,循環器診療においても腎機能に応じた投与量や投与間隔の調節,ときには中止が必要である. -
高齢者に対する薬物療法
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎高齢者は薬物有害事象が出やすいが,その二大要因は薬物動態の加齢変化と多剤服用である.薬物動態上の対応は少量で開始する原則と長期処方中の投与量見直しであり,多剤服用に対しては『特に慎重な投与を要する薬物のリスト』も参照しつつ,優先順位を考慮した処方薬の絞り込みを心がける.また,一般成人では有用性が高くても,高齢者にふさわしくない薬物があることを理解する.さらに,高齢者では認知機能や視力・聴力の低下などコミュニケーション能力の低下を認める場合も多く,個々の患者の服薬管理能力を把握し,アドヒアランスを維持するための手法を実践することが重要である. -
小児循環器領域における薬物療法―特殊性と治療の実際
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎小児に循環器薬物治療を行う際の特殊性として,①新生児からの成長発達過程では薬剤の吸収,代謝酵素活性,排泄機能などに質的・量的な発達変化が生じること,②心血管構造異常を伴う先天性心疾患が対象となり,多様な血行動態に対応が必要なこと,③小児領域での未承認薬,適応外薬が多いことや,大規模な研究に基づくエビデンスに乏しいこと,があげられる.このような背景で,抗心不全薬,抗不整脈薬,肺高血圧治療薬,抗血栓凝固療法などが,先天性心疾患や川崎病などの小児に対しても適用されている.多くの治療は,通常循環を対象とした成人領域の研究に基づいて導入されたが,左右短絡,単心室循環,体循環を担う右室,術後病変による右心不全など,小児期特有の病態における治療効果も報告されている.未承認薬,適応外薬についても,厚生労働省や関連学会による取組みがなされ,小児への適応拡大に一定の成果をあげている. -
妊娠・授乳期における薬物療法
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎循環器疾患合併妊娠は,一部では母体死亡にもつながる高危険性妊娠である.循環器医療や新生児医療の発展に伴い,複雑心奇形を含む先天性心疾患をもつ女性の多くが生殖年齢に達し,妊娠を希望するようになったことや,Marfan 症候群や遺伝性不整脈などの疾患では比較的若年で診断されるようになったことなどから,その数は増加傾向にある.また,女性を取り巻くライフスタイルの変化から,妊婦の高齢化,高血圧を含めた生活習慣病の合併など,心疾患以外の合併症にもより多くの配慮が必要となってきている.妊娠分娩時にはダイナミックに循環動態が変化するため,これらを理解し,個々の症例に応じた診療を行う.妊娠中・授乳期の薬剤治療を一律に禁止するのではなく,母児の有益性と有害性を鑑み,有益性が上まわると考えられる際は,適切な薬物療法を行うことが大切である. -
周術期における薬物療法―麻酔科医・循環器内科医の融合的視点から
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎循環器疾患患者が手術を受ける場合,内服または静注されている多数の薬剤(β遮断薬,ACE 阻害薬,抗血小板薬,抗凝固薬,スタチンなど)を術前に中止すべきか,術中に代替すべきか,術後いつ開始すべきかなどを考える必要がある.また,術中管理のために追加での薬物療法(硝酸薬など)が必要となる場合があり,いつまで継続するべきかも考えなければならない.また,術後の循環器合併症の予防のために考慮される薬物療法(抗凝固薬など)も存在する.これらの評価とマネジメントを行う医療者は,術直前・術中・術直後はおもに麻酔科医師であるが,術前と術後については循環器内科医師がオーバーラップする場合があり,周術期の包括的管理という観点では循環器内科医師・外科医師・麻酔科医師がこれらの薬物療法の位置づけについて明確に理解しておくことが望ましい. -
循環器薬の薬物血中濃度モニタリング
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎循環器病薬は強力な薬理作用を有している反面,重篤な副作用もあり,安全域が狭い.とくにジゴキシンや抗不整脈薬については,古くから薬物動態とその効果に関する検討が行われ,薬物血中濃度モニタリングを臨床に応用してきた歴史がある.ジゴキシンの血中濃度測定はジギタリス中毒を大幅に減らし,臨床上大きな貢献を果たした.一方,抗不整脈薬の血中濃度-薬物反応関係を検討するうえで難しいのが効果の判断である.しかし,標的とした臨床効果は異なっても,血中濃度依存性の副作用については同じ指標で評価することが可能となる.そこに安全性の面での役割がある.『循環器病薬の血中濃度モニタリングに関するガイドライン』では安全性に主眼をおいてその臨床応用を示した. - 主要な薬物の特徴とエビデンス
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カテコールアミンとPDEⅢ阻害薬
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎カテコールアミンやPDEⅢ阻害薬などの強心薬は,心筋細胞内カルシウム(Ca)濃度を上昇させ,収縮蛋白質の活性化により心筋収縮を増加させる.臨床的にもっともよい適応は低心拍出を伴う心不全であり,血行動態の安定化と症状の改善が期待される.しかし,いずれの薬剤にも長期予後を改善するというエビデンスは認められず,むしろ増悪させるとの報告が多数存在する.これには,これらの薬剤が心筋酸素消費量を増大させ,致死性不整脈を引き起こし,死亡リスクを増加させることが関係していると考えられている.したがって,これらの薬剤は漫然と長期間にわたって投与することなく,リスクベネフィットを踏まえ,必要性を検討しながら投与することが肝要である. -
硝酸薬とニコランジル
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎硝酸薬は,虚血性心疾患から心不全まで幅広く用いられている心疾患治療に重要な薬剤である.しかし近年の臨床試験では,エビデンスの構築されたほかの薬剤と比べ,慢性投与における予後改善効果はかならずしも明らかではない.硝酸薬は虚血性心疾患である急性冠症候群,心筋梗塞後の二次予防目的,安定狭心症の抗狭心症目的や冠攣縮性狭心症治療に用いられている.一方では急性心不全に対する急性期の治療として,とくにうっ血症状に対する症状の寛解が速やかに得られるため,用いられる場面が非常に多い.慢性心不全に対する役割としては,古典的には血管拡張薬としての硝酸薬の予後改善効果が示されてはいるが,現在ではACE 阻害薬やβ遮断薬に取って代わられており,その役割は限られている. -
ナトリウム利尿ペプチド製剤
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎ナトリウム(Na)利尿ペプチドではおもに3 種のペプチドの存在が知られている.すなわちA 型(心房性)Na利尿ペプチド(ANP),B 型(脳性)Na 利尿ペプチド(BNP),およびC 型Na 利尿ペプチド(CNP)であるが,このうちANP(carperitide)についてはわが国で単離・精製されて以来,臨床応用に至るまで,わが国で数多くの基礎・臨床研究がなされてきた.また,BNP(nesiritide)についてはアメリカで臨床応用され,近年,複数の大規模臨床研究の結果が報告されている.本稿ではおもにNa 利尿ペプチド全般の生理活性や代謝などの基礎的事項から,近年報告された臨床試験の概要,また臨床現場でのANP 製剤の使用実例などについて概説する. -
カルシウム(Ca)拮抗薬のエビデンス
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎カルシウム(Ca)拮抗薬(CCB)はその確実な降圧作用に加え,抗炎症作用,抗酸化作用などの多面的作用を有し,各種疾患の予防に有用であることが示されている.日本高血圧学会ガイドライン(JSH2014)ではとくに左室肥大,狭心症,脳血管障害慢性期,蛋白尿を伴わない慢性腎臓病に対する第一選択薬として推奨されている.CCB の一部にはL 型チャネル阻害作用に加えて,T 型,N 型チャネル抑制作用を有する薬剤も存在し,腎保護作用,交感神経抑制作用などを呈する.強力な降圧作用と心血管病予防効果が期待できる本剤は,日本人における降圧治療の第一選択薬としてもっともふさわしい薬剤のひとつであり,また,冠攣縮性狭心症の多いわが国において,狭心症治療薬としての意義も大きい.本稿ではCCB のエビデンスについて概説する. -
レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系阻害薬
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の活性化は,末梢血管の収縮や,ナトリウム(Na)や水の貯留などの機序によって血圧を上昇させるとともに,心血管系細胞の増殖や肥大,線維化を促進するなど,心血管リモデリングの病態に深く関与している.アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬とアンジオテンシンⅡ受容体ブロッカー(ARB)は優れた降圧作用と臓器保護作用を発揮し,左室肥大や心不全,心筋梗塞後,慢性腎臓病(CKD),脳血管障害後,糖尿病・メタボリックシンドロームの合併症例では降圧治療の第一選択薬として推奨されている.アルドステロン拮抗薬は治療抵抗性高血圧にも有用であり,心不全や心筋梗塞後の予後改善効果も示されている.直接的レニン阻害薬,ACE 阻害薬,ARB,アルドステロン拮抗薬はレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の活性化を抑制して降圧作用を発揮するが,それぞれに特徴的な薬理作用を有する. -
β遮断薬,α遮断薬
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎α遮断薬,β遮断薬はカテコールアミン受容体を遮断し,血圧を低下させる薬剤である.しかしα遮断薬,β遮断薬は合併症のない本態性高血圧に対して第一選択とはならない薬剤であり,積極的適応や副作用を把握して使用することが重要である.β遮断薬には心筋梗塞後や慢性心不全の管理として確立したエビデンスがある.処方に際しては忍容性の確認が重要である.また,急性期・慢性期の大動脈解離の血圧・脈拍コントロールとして用いられる.その他の適応として,本態性振戦や偏頭痛予防に対してプロプラノロールが,妊娠高血圧に対してラベタロールが使用可能である.しかし,高度の徐脈や糖尿病性ケトアシドーシス,肺高血圧による右心不全,忍容性のない心不全,重度の末梢循環障害や冠攣縮性狭心症,褐色細胞腫,気管支喘息には原則的に禁忌である.また,β遮断薬は糖代謝を増悪させることが知られており,糖代謝異常を有する症例には積極的適応がなければ慎重に投与する.突然中止すると離脱症候群として狭心症や高血圧発作を生じることがあるため,徐々に減量して中止する.α遮断薬は前立腺肥大の内科的コントロールや褐色細胞腫の血圧コントロールとして用いられる.また,治療抵抗性高血圧や夜間高血圧,早朝高血圧のコントロールとしても有効である.脂質代謝や糖代謝を改善させるが,臨床的意義は不明である.有害事象としてとくに投与初期に過降圧や起立性低血圧をきたしやすいこと,および心不全を増加させる可能性が示唆されており,少量からの開始や体液貯留傾向に注意が必要である. -
利尿薬,バゾプレシンV2 受容体拮抗薬
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎利尿薬は,体液貯留(volume overload)による呼吸困難,下腿浮腫・腸管浮腫など臓器浮腫の改善に有用である.なかでもループ利尿薬はジギタリスとともに非常に古くから使用されており,β遮断薬やレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)阻害薬による心不全治療のパラダイムシフトが起こった現在においても,臓器浮腫の改善のために使われつづけている.しかし,心不全の標準治療薬としてβ遮断薬,RAAS 阻害薬に豊富なエビデンスがある一方で,ループ利尿薬には心不全患者の予後改善を示した臨床試験はほとんど報告されていない.むしろ予後を悪化させている可能性を示唆する知見すら散見されている.しかし,現時点でループ利尿薬が本当に予後を悪化させているのか否かは明らかになっていない.また,ループ利尿薬にはループ利尿薬抵抗性や低ナトリウム(Na)血症という問題もある.このような状況で,バゾプレシンV2 受容体拮抗薬であるトルバプタンは,①ループ利尿薬の使用量を減らしうる,②ループ利尿薬抵抗性の状態でも利尿をはかれる,③低Na 血症を是正する,という視点で評価されている.本稿では,そもそもなぜループ利尿薬が心不全患者の予後悪化をきたしうるのかを概説し,心不全診療における利尿薬の問題点について考えたい. -
不整脈薬物療法の現状と展望
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎抗不整脈薬とは,一般にその短期作用をもって不整脈の発生や持続を抑制する薬剤を意味し,不整脈の発症基盤を改善して長期的に不整脈の発症頻度を減らす薬剤はこれに含まれない.今日では20 種あまりの薬剤が抗不整脈薬として使用されている.現在,抗不整脈薬と認識されている薬剤はすべて,イオンチャネルまたは受容体(レセプター)を遮断することで作用を発揮する.抗不整脈薬はこれまで不整脈治療の第一手段として長年にわたり主要な役割を果たしてきた.しかし,昨今の臨床研究の結果からは,抗不整脈薬の服用はかならずしも生命予後を改善せず,むしろ有害事象を招来するなどの負の側面が見出されている.したがって,抗不整脈薬の使用は以前に比べると軽減されており,非薬物治療の補助療法として使用されることも増えている.しかし,抗不整脈薬の作用を十分に理解することは適切な不整脈治療に直結するばかりでなく,薬剤による有害事象の回避のためにも必要であり,不整脈診療に大きく寄与するものである.本稿では抗不整脈薬の作用を新しい知見を加味して概説し,さらにもっとも頻繁に遭遇する不整脈である心房細動に対する抗不整脈薬の位置づけ,さらに今後わが国でも用いられる可能性のある新規抗不整脈の展望について述べる. -
ジギタリス製剤(ジゴキシン)
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎心不全例へのジギタリスの治療効果に関し,確固としたエビデンスを供する大規模臨床試験はDIG 試験のみである.洞調律の収縮障害患者に対し,ジゴキシンは総死亡には影響を与えなかったものの,心不全入院を有意に減らした.この試験結果をもって,内外のガイドラインでは至適薬物療法によっても症状が残る心不全患者への追加あるいは代替治療として,ジゴキシンは位置づけられる.しかし最近になり,さまざまな相反する臨床研究の結果が発表されたことで,ジギタリスをいかに使うべきか,臨床家たちを悩ませている. -
冠動脈疾患における抗血小板療法
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎冠動脈疾患における経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後の抗血小板療法は,冠動脈内血栓予防における標準的治療である.わが国ではアスピリン,クロピドグレルなどを用いた抗血小板併用療法が主流であるが,肝における薬物代謝酵素CYP2C19 の遺伝子多型の影響でクロピドグレルの低反応性が多くみられることより,薬物代謝酵素の影響を受けにくく,より抗血小板効果の高いプラスグレルがわが国でも承認された.また今後は,薬剤自体が活性を有しており,薬物代謝を受けずに血小板凝集抑制効果を発揮することができるチカグレロルの使用がまたれるところである.しかし,有効性に優れる反面,安全性指標の中心である出血性合併症が懸念されており,有効性と安全性のバランスのとれた抗血小板薬の選択,あるいはその投与量,投与期間などに関して検討していく必要がある. -
経口抗凝固薬―心房細動症例における抗凝固薬の使い分け
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎心房細動に対する抗凝固療法は,唯一の経口抗凝固薬であったワルファリン時代から直接型経口抗凝固薬(DOAC)の登場により2011 年以降,大きく様変わりした.DOAC は,①効果発現までの時間が速く半減期が短いこと,②細かな用量調整が不要であること,③食事の影響を受けにくく,薬物相互作用が少ないことなど,ワルファリンが有していた問題点を克服した薬剤であるといえよう.さらに大規模臨床試験におけるワルファリンとの比較で,その有効性・安全性が確認され,現在では抗凝固療法の主流となったが,われわれはワルファリンと4 種類のDOAC をどのように使用するか考えなければならない.ワルファリンのメリットはモニタリングと用量調整が可能なこと,および安価であること,中和薬が存在することであり,人工弁症例や高度腎機能症例などワルファリンのみが使用な症例も存在している.またDOAC を使い分けるうえでは,投与回数や腎機能,年齢などの因子が選択のうえでのキーポイントとなる.心房細動症例は多様であり,個々の症例にみあった抗凝固療法が行われることが望まれる. -
血栓溶解薬
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎血栓溶解薬は,血栓の構成成分であるフィブリンを分解するプラスミンの産生を促し,早期に血栓を溶解することにより血管の血栓性閉塞による臓器障害や血行動態悪化を迅速に改善する効果を有した薬剤である.循環器領域ではおもに急性心筋梗塞,急性肺血栓塞栓症,深部静脈血栓症,急性末梢動脈閉塞,虚血性脳血管障害などに用いられている.ただし,抗凝固療法に比較し,出血性合併症の発生頻度も増加するため,出血のリスクを考慮して適応を判断することが求められる. -
プロスタグランジン誘導体
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎循環器領域で使用されるプロスタグランジン誘導体には,指定難病疾患である肺動脈性肺高血圧症(PAH)に対する治療薬として内服剤,静注剤,皮下注剤,吸入剤が存在する.プロスタグランジン誘導体製剤を,ホスフォジエステラーゼ5 型阻害剤(またはsGC 刺激薬),エンドセリン受容体拮抗薬と組み合わせて治療を行うupfront therapy が提唱されてから,PAH 患者の予後は飛躍的に改善している.PAH 患者治療には,プロスタグランジン誘導体製剤の理解が必須である.本稿では,PAH 治療におけるプロスタグランジン誘導体製剤使用上のポイントをわかりやすく整理するように努めた. -
エンドセリン受容体拮抗薬のエビデンスと今後の可能性
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎エンドセリンは1988 年に強力な血管収縮性物質として報告された.その後ETAとETBの2 種類の受容体が単離・同定され,それらの受容体を介して多彩な生理活性を示すことが明らかにされた.エンドセリン受容体拮抗薬は今日まで本態性高血圧症,慢性左心不全,肺動脈性肺高血圧症,全身性強皮症に伴う手指潰瘍および慢性腎臓病など,多くの疾患を対象として臨床試験が行われた.これらの疾患のうち,有効性および安全性が証明され現在適応承認を受けているのは,肺動脈性肺高血圧症と全身性強皮症に伴う手指潰瘍のみである.本稿では,まずエンドセリン系の生理学的機序について概説する.その後,エンドセリン受容体拮抗薬の効果を検討したさまざまな疾患に対する臨床研究を振り返り,エンドセリン受容体拮抗薬の有用性と残された問題点について述べる. -
PDE5 阻害薬,sGC 刺激薬の心血管病変適応への展望
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎循環器領域における肺高血圧症,心不全はいまだ罹患数が多く,現在も新規の治療法が模索されている疾患である.そのなかで,cGMP 経路を介して心保護,肺高血圧の症状緩和の効果をもたらす薬が近年注目され,臨床応用される段階にきている.PDE5 阻害薬はcGMP の分解を抑制することで,sGC 刺激薬,sGC 活性化薬はcGMP の産生を促すことで,cGMP 量を増加させ,心血管系への保護作用を発揮する.これらの薬は,現在は肺高血圧症へ適応が認められているほか,両者ともbasic research の分野で心不全への効果が証明されており,新規の臨床応用のための治験が走っている.本稿では,それぞれの薬の作用機序,PDE5 阻害薬,sGC 刺激薬,活性化薬の特徴,および現在までに行われてきた臨床試験の成績,さらにこれからの展望について紹介する. -
循環器疾患における主要な免疫抑制療法の機序とエビデンス
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎近年の免疫抑制剤の発展はめざましく,古典的な免疫抑制療法として用いられてきたステロイド(糖質コルチコイド)に加えて,T 細胞特異的転写因子(NFAT)活性化を抑制するカルシニューリン阻害薬,細胞増殖制御にかかわるmTOR 阻害薬,さまざまなサイトカイン,転写因子に対するモノクローナル抗体などが開発されている.これらの新規の免疫抑制剤は循環器領域においてはとくに心筋炎,心サルコイドーシス,心臓移植後などで用いられ,とくに移植領域においてはその有用性により,グラフト生着,生命予後の改善に大きな寄与を果たしている.しかし,その他の領域においてはその効果に関して不明な部分も多く,今後の知見の蓄積が期待される.本稿では,循環器領域における主要な免疫抑制剤の特徴およびエビデンスに関して概説する. - 期待される新薬
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アンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害薬(LCZ696)
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎慢性心不全においてはレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)が過剰亢進していることが明らかになり,RAAS 抑制薬は心不全治療においては欠かせない薬剤になった.1987 年CONSENSUS 試験による予後改善効果が明らかにされて以来,RAAS 系阻害薬はβ遮断薬,抗アルドステロン拮抗薬とともに心不全治療薬の主役を担ってきたが,すでに同試験が発表されてからおよそ30 年が経過しようとしている.よりよい予後改善効果を求め,懸命に薬剤の開発が行われてきたが,期待された効果が伴わず,また,望ましくない副作用によりいくつもの薬剤が開発断念となった.今回,RAAS 阻害薬とネプリライシン阻害薬の組合せが,心不全治療の主役であるアンジオテンシン阻害薬の予後効果を凌駕する結果を示した.待ち望んでいたエビデンスを有する薬剤に対しヨーロッパ心臓病学会もガイドラインを改定し,その立ち位置を明確にした. -
心拍数を低下させる治療―Ifチャネル阻害薬(イバブラジン)
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎虚血性心疾患や心不全においては,心拍数(HR)は予後規定因子である.心拍数を減少させることは予後を改善させる可能性がある.イバブラジンは基本的には心筋には作用せず,洞結節のみに作用しHR を低下させる薬剤である.これまでの臨床試験では,抗狭心症薬としての働きをもつことが示されている.もうひとつは,内科的治療が十分に施され,かつHR>75 bpm の慢性心不全患者において,心不全入院を減少させている.心房細動のレートコントロールやheart failure with preserved ejection fraction に対する効果は今後の研究をまたなければならない. -
心不全患者におけるリラキシン
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎リラキシンの研究の歴史は古い.1926 年にHisaw は妊娠ブタ黄体の水溶性抽出物をエストロゲンで前処置したモルモットに投与すると恥骨靱帯が形成されることを発見した.受容体は生殖器以外に血管,心臓,腎,肝,血球に存在し,心筋では心筋細胞,血管壁に分布する.リラキシンには生殖器系への作用以外にも血管拡張作用,抗線維化,抗サイトカイン作用などがある.心不全患者では男性,女性ともリラキシンは心筋細胞,間質細胞での遺伝子発現が生じ,血中濃度は代償性に増加する.またSwan-Ganz カテーテルを用いて検討した結果では,リラキシンは肺動脈楔入圧,全身血管抵抗を低下させ,心拍出量を増加させた.多施設研究であるPre-RELAX-AHF,RELAX-AHF では,急性心不全患者におけるリラキシンの短期効果として,収縮期血圧の低下とともに労作時呼吸困難,起座呼吸,浮腫,肺ラ音,頸静脈の改善を認め,長期効果として180 日後の心血管死の抑制を認めた.また,リラキシンの投与が種々の臓器特異的なバイオマーカーを改善したことを報告している.現在,わが国では治験が進行中であり,その臨床応用が期待される. -
選択的PPARαモジュレーター(SPPARMα),K-877
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎高トリグリセリド(TG)血症・低HDL コレステロール(HDL-C)血症は,動脈硬化性疾患のリスクファクターである.PPARαアゴニスト(フィブラート薬)はこのタイプの血清脂質改善作用を有するが,心血管イベント抑制効果は十分には証明されていない.フィブラート薬には血清クレアチニン値やホモシステイン値の増加作用などの安全性の問題があり,血清脂質改善作用の有効性を相殺してしまった可能性もその原因として推測されている.このような従来のPPARαアゴニストの欠点を克服し,リスクベネフィットのバランスを高めた薬剤が選択的PPARαモジュレーター(SPPARMα)である.SPPARMαとして期待されるK-877 は国内臨床試験にて,フェノフィブラートに比べ,少ない副作用で優れた血清脂質改善作用を示した.また,スタチンとの併用試験においても非併用時と同様の有効性と安全性が確認されている.K-877 は残存リスク改善のあらたな選択肢として期待される. -
循環器領域におけるSGLT2 阻害薬
259巻14号(2016);View Description Hide Description◎糖尿病治療の最大の目標は,合併症の発症・進展を抑制し,健康寿命を延伸することである.しかしその目標は,血糖コントロールの是正のみで達成することはできない.つまり,低血糖を回避し血糖コントロールの是正をはかると同時に,肥満や高血圧,脂質異常症など関連する因子を包括的にコントロールしていく必要があり,薬物治療の概念もあらたに確立されたエビデンスにより変遷を遂げてきた.近年欧米では,新規の糖尿病治療薬の承認には心血管アウトカム試験の実施が義務づけられている.その一連の試験においては,従来治療に対する非劣性・安全性の証明が最大の目的である.SGLT2 阻害薬(Empagliflozin)はそのアウトカム試験において,はじめて従来治療に対する優越性が証明された糖尿病治療薬として大きな注目を集めている.その薬理学的作用はglycosuria とnatriuresis の二軸を中心とした心血管および腎への保護作用と考えられている.しかし,その詳細なメカニズムやクラスエフェクトの有無など,いまだ未解明な点も多く,今後のさらなるエビデンスの蓄積が期待されている.
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