Volume 261,
Issue 2,
2017
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特集 悪性中皮腫UPDATE
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医学のあゆみ 261巻2号, 127-127 (2017);
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医学のあゆみ 261巻2号, 129-134 (2017);
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人口動態統計で明らかになった中皮腫(全部位)死亡数は,1995 年の500 人(男356,女144)から2015年の1,504 人(男1,237,女267)に増加している.なかでも男性の胸膜中皮腫は201 人から981 人と4.9倍の増加である.しかし,中皮腫に関しては死亡統計の診断精度に疑義が残る.日本に居住している中皮腫患者は原則として,全員労災補償または“石綿救済”の対象となる.直近の5 年間(2011~2015 年度)の年間労災認定患者は500 台前半で推移している.石綿救済で認定された中皮腫患者は2006 年3 月27 日の法施行後2016 年11 月末までに6,484 人に達しており,最近では1 年間に600 人前後が認定されている.胸膜中皮腫の80%以上はアスベスト曝露が原因であることから,30~50 年以上前に仕事でアスベストを吸入したことによる影響が近年現れていると考えられる.曝露の機会は広範囲にわたっており,女性の胸膜中皮腫患者の10%は家庭内曝露によるものと推測される.
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医学のあゆみ 261巻2号, 135-139 (2017);
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悪性中皮腫における遺伝子異常の本態は,がん抑制遺伝子(CDKN2A,p53,NF2,BAP1)の不活化変異,染色体の広範な欠失およびエピゲノム異常である.これらの異常は細胞周期,アポトーシス,細胞内シグナル伝達系(Hippo,mTOR),ヒストン修飾,RNA プロセッシングなどの制御異常を引き起こす.ゲノム上に起こった体細胞突然変異の数はほかのタイプのがんと比べると低頻度であり,治療標的になりやすい活性型のがん遺伝子の異常はまれである.上皮型と肉腫型といった組織型によって遺伝子発現プロファイルは大きく異なるが,個別の遺伝子異常のタイプや頻度の点では特徴的な差は少ない.一方,BAP1 遺伝子の生殖細胞系列遺伝子変異を有する家系も報告され,悪性中皮腫はアスベスト曝露を主体とする環境要因が優位の腫瘍であるばかりではなく,体質的な要因も重要であることが明らかになってきた.
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医学のあゆみ 261巻2号, 140-144 (2017);
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悪性中皮腫には特徴的な遺伝子変異があり,それはp53 経路の上流に位置する遺伝子の欠損によるp53 経路の不活化であり,Hippo 経路に関与する遺伝子群の変異と,がん抑制機能を有するBAP-1 遺伝子の機能消失である.これらのなかで,p53 分子より下流の経路は正常であることが多いため,p53 分子を標的化し同蛋白の安定化をはかることによって,細胞死の誘導が可能になる.この方向性による薬剤開発は進んでおり,悪性中皮腫にも応用可能と考えられる.一方Hippo 経路,BAP-1 分子を標的化することは,これらの生物学的機能が多様であるため十分な解析ができておらず,引き続き同方面での進展が期待される.免疫応答を人為的に作用できる手法が急速に進歩してきており,遺伝子改変型T 細胞や腫瘍溶解性ウイルスなどの有用性が実証されつつある.これらの手法は,腫瘍細胞死に引き続いてほかの腫瘍抗原分子に対しても当該反応を惹起できる可能性があり,免疫チェックポイント阻害薬とならんで今後の応用が期待される.
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医学のあゆみ 261巻2号, 145-149 (2017);
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悪性胸膜中皮腫はきわめて難治な希少がんである.自覚症状に乏しいことから早期発見は難しい.また,病期の進行した症例に対する有効な治療法なく,予後はきわめて不良である.死亡者数は年々増加しているが,アスベストへの曝露との因果関係以外に予防の手がかりとなる知見はない.プロテオーム解析は,発現している蛋白質をできるだけ広く調べることで全体像を俯瞰し,全体像をとらえることでしかわからなかった知見を得ようとする解析である.バイオマーカーや治療標的の同定を目的として,臨床検体を用いたプロテオーム解析が行われてきた.質量分析や特殊な素材を用いた実験で,悪性胸膜中皮腫の症例の血液や胸水に特徴的な蛋白質が同定されている.臨床応用へはまだ多くの課題が残されているものの,一連の知見を積み重ねることで,悪性胸膜中皮腫の治療成績の向上へと一歩一歩近づこうとしている.
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医学のあゆみ 261巻2号, 150-156 (2017);
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上皮型中皮腫の診断では,中皮のマーカーと癌腫のマーカーを検討する.Claudin 4 は大半の癌腫で陽性で,中皮腫は陰性であることから,鑑別診断のよいマーカーである.腫瘍細胞が紡錐形細胞からなる場合は肉腫型中皮腫,肉腫様癌,肉腫などが鑑別にあがる.肉腫型中皮腫と肺の肉腫様癌の鑑別は免疫染色で行うことはできず,腫瘍の存在部位が診断に役立つ.肉腫型中皮腫と肉腫の鑑別では,免疫染色でcytokeratin を検討する.肉腫型中皮腫ではcytokeratin が陽性で,肉腫では陰性である.その他,孤在性線維性腫瘍,滑膜肉腫,デスモイド型線維腫症などを鑑別する.反応性中皮と上皮型中皮腫,線維性胸膜炎と線維形成型中皮腫を免疫染色では鑑別できない.どこかに浸潤所見があれば中皮腫と診断できる.FISH によるp16 の欠失の解析,免疫染色によるBAP1 蛋白の解析がその診断に役立つ.上皮型中皮腫の間質に出現する紡錐形細胞が異型性を示すと,二相型中皮腫との鑑別が難しい.この鑑別にも,FISH によるp16 の欠失の解析,免疫染色によるBAP1 蛋白の解析が役立つ.
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医学のあゆみ 261巻2号, 157-162 (2017);
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中皮腫の画像診断において中心的役割を果たすのはCT である.中皮腫のCT 所見は胸膜,心膜,腹膜などの漿膜腔の液体貯留,漿膜の肥厚,漿膜沿いに進展する腫瘤性病変などである.MR やFDG-PET は,これにいくつかの情報を付け加えることが期待される.中皮腫の診療における画像診断の役割は,病変の確認,炎症性胸膜肥厚との鑑別,中皮腫に類似する他の腫瘍性病変との鑑別,外科的治療のプランニング,治療効果の判定や病変の経時的進行の有無,治療効果の判定などにある.中皮腫の確定診断には,適切な免疫染色を加えた病理組織学的な診断が必須であるが,画像所見も病理所見や臨床経過を補うことができる.中皮腫の画像診断にあっては,その病理学的形態あるいは進展の特性をよく理解し,また画像診断の限界も十分にわきまえて診断する必要がある.
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医学のあゆみ 261巻2号, 163-167 (2017);
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中皮腫の85%を占める悪性胸膜中皮腫は,壁側胸膜に初発し,すべての胸膜を腫瘍化するように発育する.病初期は無症状であるが,胸水の増加に伴って胸部圧迫感を自覚するようになり,胸壁浸潤がはじまると疼痛が出現する.進行すると腫瘍性胸膜肥厚が強くなり,患側胸郭は狭小化する.細胞診での診断には限界があり,確実な腫瘍組織の採取のために胸腔鏡検査を行う.胸膜腔が穿刺されると,穿刺路に沿って中皮腫細胞が高率に播種される.多くの中皮腫細胞はインターロイキン-6 を産生し,血小板やCRP などの急性期炎症蛋白が増加する.標準的初回化学療法はシスプラチンとペメトレキセドの併用療法であるが,これにベバシズマブを加えた第Ⅲ相比較試験(MAPS 試験)において,生存期間の延長が示され,あらたな標準的治療法となった.腫瘍組織にPD-L1 を発現する中皮腫の予後が悪いことが示され,免疫チェックポイント阻害薬の治療応用に向けた臨床試験がはじまっている.
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医学のあゆみ 261巻2号, 168-172 (2017);
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悪性胸膜中皮腫(MPM)においては,術式にかかわらず真の根治術(R0 切除)が原理的に不可能であるため,手術は集学的治療の一環であると認識されている.治療目的手術には胸膜肺全摘術(EPP)と胸膜切除/肺剝皮術(P/D)の2 つがあり,いずれも大侵襲・ハイリスク手術である.2 つの術式の優劣や選択基準についての論争が過去10 年以上にわたり行われたが,近年,ほぼすべてのMPM 手術は胸膜切除/肺剝皮術で行われるべきとのコンセンサスが成立しつつある.MPM の治療成績は現在も満足できるものではないが,2016 年末にわが国のガイドラインが改定されたこと,2017 年から国際中皮腫研究会による病期分類がVer. 8 に改訂されたこと,従来禁忌とされていた細胞診による確定診断が条件つきで承認されたこと,きわめて信頼性が低いとされてきたT 因子に腫瘍厚や腫瘍体積など新しい概念が導入されつつあることなど,状況が大きな変動を迎えつつある.
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医学のあゆみ 261巻2号, 173-179 (2017);
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悪性胸膜中皮腫に対する放射線治療は化学療法,胸膜肺全摘(EPP)との集学的治療の一環として位置づけられている.強度変調放射線治療(IMRT)の出現により,複雑な形状の片側胸郭に対して十分な線量を集中的に照射することが可能となり,局所再発の低減に貢献すると報告されている.一方で,健常肺への低線量域拡大による放射線肺臓炎が問題であり,健常肺をはじめとしたリスク臓器への線量制約を遵守することが重要である.また,近年のEPP から胸膜切除・肺剝皮術(P/D)への術式の変遷に伴い,P/D 後の肺が残存する状況での片側胸郭照射はわが国では省略されることが多くなっている.海外ではP/D 後のIMRT による片側胸郭照射の報告がいくつかなされているが,毒性の観点からその意義については議論のある状況である.
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医学のあゆみ 261巻2号, 181-184 (2017);
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悪性胸膜中皮腫の現在の治療選択肢は手術,化学療法,放射線の三本柱であるが,これらを併用してもなお根治症例は少ない.再発後に有効な二次治療以降の化学療法レジメンは確立しておらず,また保険適応もない.一方で悪性胸膜中皮腫は胸腔内での進展が主体であるため,局所治療の果たす意義が大きく,遺伝子治療も例外ではない.試験結果は未公表だが,わが国でもいくつかの施設で,胸腔内にウイルスベクターを注入する遺伝子治療の臨床試験が進行中である.本稿では,過去に海外で施行された悪性中皮腫の遺伝子治療の結果を簡潔にまとめ,現在千葉大学で施行中のNK4 遺伝子発現ベクターを用いた臨床研究を紹介する.
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医学のあゆみ 261巻2号, 185-189 (2017);
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悪性胸膜中皮腫は治療不応性で予後不良の悪性腫瘍である.ペメトレキセドを含む化学療法が実施されているが,その成績は満足できるものではない.Reduced Expression in Immortalized Cells/Dickkopf-3(REIC/Dkk-3,REIC)は腫瘍抑制遺伝子であり,悪性胸膜中皮腫を含む種々の悪性腫瘍でその発現が低下している.REIC を強制発現させることにより,癌細胞選択的に小胞体ストレスを介してアポトーシスを誘導する直接効果と,分泌されたREIC 蛋白が単球を樹状細胞様に分化誘導することにより抗腫瘍免疫能が活性化される間接効果が,抗腫瘍効果として考えられている.前立腺癌におけるREIC の抗腫瘍効果はすでに報告され,REIC による遺伝子治療が実施されている.著者らは基礎的実験により,悪性胸膜中皮腫に対するREIC の抗腫瘍効果を確認した.現在,多施設共同で悪性胸膜中皮腫に対するREIC 遺伝子治療の企業治験が実施中である.
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連載
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性差医学・医療の進歩と臨床展開 10
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医学のあゆみ 261巻2号, 196-200 (2017);
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動脈硬化に性差と加齢変化が明らかなことから,性ホルモンと動脈硬化との関係に着目した研究が行われてきた.とくに,エストロゲンには動脈硬化予防効果が期待されたが,閉経後女性に対するホルモン補充治療(HRT)の効果を検討する大規模試験の結果は否定的であった.一方,最近では,すくなくとも内因性テストステロンは男性の動脈硬化に保護的に作用するとの研究報告があいついでいる.しかし,おもに観察研究をもとに行われた解析報告は,中高年男性の動脈硬化性疾患に対するテストステロン補充療法の有効性について,むしろ悪いとするものを含めてさまざまで,結論は出ていない.
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TOPICS
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癌・腫瘍学
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医学のあゆみ 261巻2号, 191-192 (2017);
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医動物学・寄生虫学
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医学のあゆみ 261巻2号, 192-193 (2017);
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脳神経外科学
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医学のあゆみ 261巻2号, 194-195 (2017);
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FORUM
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ゲノム医療時代の遺伝子関連検査の現状と展望 10
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医学のあゆみ 261巻2号, 201-203 (2017);
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パリから見えるこの世界 55
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医学のあゆみ 261巻2号, 204-208 (2017);
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