医学のあゆみ
Volume 261, Issue 6, 2017
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【5月第1土曜特集】 アンチエイジング研究─世界の趨勢と日本
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- 総論
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アンチエイジング研究―世界の流れ
261巻6号(2017);View Description Hide Descriptionアンチエイジング研究は世界的にどのような流れにあるのか.日本で老人福祉法が制定された1963 年に153 人だった100 歳以上の人口は,2016 年には65,692 人になり,65 歳以上の人口も25%を超えている(厚生労働省発表).平均寿命は医療の進歩によって世界的な伸びを見せるが,増え続ける高齢者にどのようにして医療・行政として対応できるのであろうか.アンチエイジングの研究は近年,生産性と幸福の延長を目的とし,海外で盛んに行われている.老化はゲノムの不安定性,ミトコンドリア異常,メタボリズム変化,エピゲノム脱制御,細胞老化など非常に多くの現象が複雑に絡み合っているが,これまでは長寿遺伝子の発見のみに重点がおかれていた.しかし近年海外において,これら遺伝子が明らかになるにつれて,複雑に絡み合った生命現象をもう一度解きほぐし,マウスモデルやヒトで効果を実証する動きが活発化している.ミトコンドリア,NAD+,細胞老化,エピゲノムなどを制御することで健康寿命を制御する複合的な老化関連疾患へのアプローチを紹介する. - 各領域におけるアンチエイジング研究
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【脳・心血管系のアンチエイジング研究】 認知症と脳血管老化
261巻6号(2017);View Description Hide Description脳血管の加齢と認知症には密接な関連性があり,加齢に伴う毛細血管の希薄化などの構造変化や,血管内皮障害,周皮細胞の障害による血液脳関門の透過性亢進に伴う neurovascular uni(t NVU)の機能低下が,認知機能を低下させる原因となりうることが報告されている.また,加齢により増加する糖尿病の状態では脳血管障害に加え,脳内でのインスリンシグナルの低下に起因する脳内の糖代謝低下やリン酸化タウ蛋白の蓄積が促進され,認知症の病態がさらに進行する可能性が報告されている.このような加齢により進行するさまざまな病態メカニズムのさらなる解明が,今後の認知症の予防,治療法の開発にとって重要であると考えられる. -
【脳・心血管系のアンチエイジング研究】 心血管系のアンチエイジング
261巻6号(2017);View Description Hide Descriptionわれわれの細胞は一定の分裂増殖の後,不可逆的に分裂を停止する状態となり,この現象を細胞老化とよぶ.近年,細胞老化がさまざまな老化疾患の発症や進展に関与していることが明らかとなってきた.急性冠症候群症例の動脈硬化巣においても老化細胞が多く認められることが報告されている.細胞老化シグナルの鍵分子であるp53 を抑制すると,動脈硬化や肥満,糖尿病といった加齢関連疾患の発症や進展が抑制されることも明らかとなっている.さらに近年,老化細胞を選択的に除去したマウスにおいて,個体の老化形質が抑制され,寿命が延長するという驚くべき研究結果が報告された.老化細胞除去により,老化に伴う心肥大や動脈硬化の進展が抑制されることも明らかとなった.老化細胞を選択的に除去する薬剤も見つかっており,今後の心血管疾患治療において老化細胞の選択的除去は重要な概念となると考えられる. -
【感覚器のアンチエイジング研究】 眼科領域の食品因子研究の現状
261巻6号(2017);View Description Hide Description眼科領域のアンチエイジング研究は,食品因子の効果が臨床試験で科学的に検証されていることが大きな特色のひとつである.加齢黄斑変性に対するビタミンやルテイン,調節性眼精疲労に対する抗酸化物質,アスタキサンチンやアントシアニンなどが代表的である.海外での大規模臨床試験だけでなく,日本でも疫学調査や臨床試験での好成績が報告されている. -
【感覚器のアンチエイジング研究】 耳鼻咽喉科領域
261巻6号(2017);View Description Hide Description耳鼻咽喉科領域では聴覚,平衡覚,嗅覚,味覚などの感覚機能と発声などの運動機能を取り扱うが,いずれも加齢に伴い機能が低下する.老人性難聴の発症には遺伝要因,騒音曝露歴,喫煙,糖尿病などの合併などが関与し,酸化ストレスに伴うミトコンドリア遺伝子の損傷集積がアポトーシスを誘導することが発症機序と考えられている.強大音曝露を避け,動脈硬化を予防し,健康的な食事を摂取することなどが予防法として勧められる.難聴には補聴器が勧められ,うつや認知症に予防効果がある.加齢性平衡機能低下に対する予防法はなく,前庭動眼反射,体性感覚,下肢筋力などを鍛える訓練が行われる.カロリー制限は通常老化予防に効果的であるが,嗅覚では逆に嗅上皮の変性が悪化することから,異なるメカニズムが示唆される.高齢者では味覚の認知閾値が上昇するが,塩味には亜鉛が有効である.加齢性音声障害には音声治療が行われるが,近年,basic fibroblast growth facto(r bFGF)などの声帯内注入に効果があると報告されており,ラットではアスタキサンチン投与に予防効果があると報告されている. -
【見た目のアンチエイジング研究】 皮膚科領域
261巻6号(2017);View Description Hide Description抗加齢医学は,ごきげん(happiness)で健康寿命を送る実践的な領域である.このため,“見た目”という従来にない切り口でアンチエイジングを進めている.見た目は,①皮膚,②容貌,③体形の形質,と分けて考えるとわかりやすい.内定因子(genome)が反映する状態と,環境因子(exposome)が反映する状態がある.腸脳皮膚相関やダーマトポローシス(皮膚粗鬆症)の概念も見た目の重要な関連因子であり,これらの因子と脳や腸内フローラや免疫との関連が明らかになり,脳機能や動物行動学にまで影響している.内的老化の反映としての見た目があるが,一方,環境因子(紫外線から皮膚・腸内フローラまで)が,外的老化に関連して,見た目をつくっている.そこで,身体診断学にも使われる“見た目”からどの程度まで,表現形を理解できているのか,ホリスティックな立場からまとめてみた. -
【見た目のアンチエイジング研究】 形成外科領域
261巻6号(2017);View Description Hide Descriptionアンチエイジングへの意識は“見た目”の領域にも及んでおり,若返り市場は年々拡大傾向で,外見の若返り医療への需要も増加している.国民可処分所得は横ばいのなか1),自費診療となることも多い外見の若返り医療への投資は増加している.古来よりわが国では“外見よりも内面”という観念が根付いていたが,外見の衰えを「老化だから仕方ない」とはならないのが,現代日本の潮流である.こうした現況の背景には,インターネットやSNS の普及に伴い,「内面はもちろんだが外見も大事」という考え方が普及しつつあるのはいうまでもない.本稿では,世界とわが国における外見の若返りへの医学的介入の現況について述べる. -
【運動器のアンチエイジング研究】 運動のアンチエイジング効果
261巻6号(2017);View Description Hide Description運動療法はアンチエイジングに適した介入法である.運動には大きく分けて抵抗運動(レジスタンスエクササイズ)と有酸素運動(エアロビックエクササイズ)があり,前者は筋力増強を目的とし,後者は脂肪を燃焼することにより,生活習慣病に有効である.さらに,ロコモティブシンドローム予防,変形性膝関節症や腰痛治療のための体操がある.レジスタンストレーニングは50~80%の力で主要筋肉の繰返し運動を週8~10 セット行うことが推奨されている.エアロビックエクササイズは強度50~60%の有酸素運動を30 分以上,週5 回以上行うことが推奨されている.わが国の身体活動指針では,生活習慣病,がん,ロコモティブシンドローム,認知症の発症を抑制し,死亡率を減らすためには,1 日1 万歩の歩行が推奨されている.エクササイズの効果発現機序には抗炎症作用,抗酸化作用,オートファジー増強作用があり,細胞レベルでのアンチエイジング効果が証明されている. -
【臓器の疾患予防・老化研究】 口腔から考える全身の抗加齢医学
261巻6号(2017);View Description Hide Description人はどこで老いを感じるのか? もちろん個人差もあるが,多くの人に共通しているのは目と口であり,義歯,歯周病,口臭,味覚障害,口腔乾燥症で老化を自覚する人が多いことから(図1),歯科医療は抗加齢医学の最前線にいるといってよい.口腔は生物としての生命維持に必要な咀嚼や摂食・嚥下という基本的機能を担うとともに,ヒトとしての根源的欲求である会話や味覚などの高次機能にも関与する.このような口腔顎顔面領域における加齢に伴う心身の病的変化はさまざまであり,心的障害や摂食・嚥下にかかわる硬組織や筋組織や外分泌腺の加齢変化は老化関連疾患(ARD)として位置づけられている.とくに加齢に伴い口腔と全身との双方向的な病態の成立機序が近年示されており,糖尿病や誤嚥性肺炎,動脈硬化,心筋梗塞だけでなく,最近では関節リウマチやAlzheimer 型認知症の成立機序のひとつに歯周病との関連が報告されており(図2),加齢に伴う口腔の病態が全身疾患に影響を与えることが明らかとなってきた.このことから口腔の病態制御による健康長寿が求められており,本稿では口腔から考える全身の抗加齢医学の動向について概説する. -
【臓器の疾患予防・老化研究】 消化器臓器の疾患動向と21 世紀の課題
261巻6号(2017);View Description Hide Descriptionわが国における消化器臓器の癌の頻度は高く,その対策は重要な臨床的課題である.機能性消化管障害,炎症性腸疾患も増加している.本稿では,消化管の疾病や不健康状態の原因に対する最新の情報を解説する.消化管は全身の司令塔とも考えられ,消化管の健康を取り戻すことが,全身の疾病予防,健康長寿につながる可能性も高い. -
【臓器の疾患予防・老化研究】 腎・内分泌
261巻6号(2017);View Description Hide Description腎・内分泌領域においてアンチエイジングは重要な意義をもっている.なぜなら慢性の腎臓の障害である慢性腎臓病(CKD)および内分泌・代謝障害である2 型糖尿病は,年齢とともに罹患率が上昇する加齢性疾患であり,加齢自体が病態形成に重要な意義を有しているからである.加齢には大きく,①代謝異常からのメタボエイジングと,②微小炎症からのインフラマエイジング,の2 つのメカニズムがあげられる.前者にかかわる分子・シグナルとしてsirtuin,mTOR 経路,インスリンシグナル,Klotho 遺伝子などがあげられる.後者にかかわるものとしてはミトコンドリア機能,腸内細菌,レニン-アンジオテンシン経路,虚血経路などがあげられる.この2 つのシステムを担当する細胞は臓器内に共存し,系統進化的にもたがいに相互作用しあっている.これらの経路の活性化は加齢性疾患のみならず,加齢性変化の促進に寄与する. -
【臓器の疾患予防・老化研究】 肺における細胞傷害と老化の関連性
261巻6号(2017);View Description Hide Description全世界における高齢化が着実に進んでいる現代において,老化を理解することは今後の医療の進歩において不可欠である.近年の技術の進歩により,肺の細胞傷害に関する研究が進んでいる.肺における老化に伴う細胞傷害を評価するうえでは,肺を構成する個々の細胞の老化(細胞自体に内因する老化因子)と,細胞どうしの関連およびその足場となっている細胞外基質の老化(細胞の外的要因に由来する老化因子)を考える必要がある.また,これらの加齢性変化によって引き起こされる疾患には,細胞に一様に分散する持続する内的あるいは外的傷害の結果として,①確率的影響として発生する疾患(肺癌)と,②確定的・蓄積的影響として発生する疾患(慢性閉塞性肺疾患,特発性肺線維症)がある.喫煙は細胞全体に影響する外的因子の蓄積量を増加させることにより,これらの疾患でいずれも発症リスクを上げる.老化に関連した呼吸器疾患の特性と細胞傷害の仕組みを理解することは,寿命延長につながるような新しい治療法への発展に寄与するであろう.ヘテロな細胞集団である肺における老化・喫煙に起因する細胞傷害の過程を追及する手法として,3D Organoid Culture System は,異常な増殖能を持たない(染色体異常のない)肺由来の幹細胞をin vivo の微小環境を模倣することによって細胞自体の生存応答を観察できるという点において,非常に有用である. -
【臓器の疾患予防・老化研究】 キスペプチンと男性のアンチエイジング
261巻6号(2017);View Description Hide Description思春期にはじまる生殖活動を導いているのが,視床下部に発現するキスペプチンとその受容体である.キスペプチンは多くの臓器にubiquitous に発現し,卵巣機能,胚の着床,胎盤形成,血管新生,インスリン分泌,腎の発生などの生理機能を担っているが,中枢では性腺刺激ホルモンの放出を制御し,テストステロンを精巣から産生する.さらにキスペプチンは大脳辺縁系に働き,愛情描出とパートナー形成に関与することが最近の研究で明らかになった.男性機能におけるアンチエイジングにおいて今後,キスペプチンが生殖機能の限界年齢を延長させる可能性がある.また,うつ病,認知症,低テストステロン血症などに対するキスペプチンの治療効果も期待されている. -
【臓器の疾患予防・老化研究】 閉経期ホルモン療法―エストロゲンによるアンチエイジングの現在
261巻6号(2017);View Description Hide Description更年期症状を緩和する治療法として開始された閉経期ホルモン療法(MHT)は,冠動脈疾患(CAD)をはじめとする多様な加齢性疾患を予防するためにあらゆる年代の女性にとって利用可能だと単純に信じられた時代を経て,「症状緩和のために正しい時期に開始すれば,余得としてCAD などのリスクをも下げることができる」と軌道修正されて現在に至っている.もちろんエストロゲンの作用は冠動脈にとどまるものではなく,対象者のリスクプロファイルと求める効果とのバランスを個別に検討したうえでMHT を開始すれば,多様なアンチエイジング効果が得られることが期待される. -
【心のアンチエイジング研究】 老いと闘うか? 老いと共生するか?―こころのアンチエイジングはありうるのか
261巻6号(2017);View Description Hide Descriptionエイジング心理学の領域において,アンチエイジングに関する研究はほとんど行われていない.本稿では,こころのアンチエイジングを,①加齢によって生じる生物学的なネガティブな変化の抑制を試みる過程と,②加齢によって生じたネガティブな変化の影響を軽減する補償的な過程に分けて概観した.前者は医学生物学的なアンチエイジングモデルに相当する.具体的な研究として,高齢期に対するステレオタイプが寿命や健康と関連することを紹介する.高齢期に対してポジティブイメージを持ち,加齢をコントロールする意欲を持つことがアンチエイジングの機能を持つと考えられた.後者はこれまで心理学が検証してきた加齢に対する心理的適応モデルに相当する.具体的なモデルとしてレジリエンス(Resilience),選択,最適化,補償理論(Selection,optimization,compensation:SOC),老年的超越(Gerotranscendence),Valuation of life(VOL)を紹介する.加齢によって生じる喪失のネガティブな影響を軽減する補償プロセスがアンチエイジングの機能を持つと考えられた. -
【がん予防】 がん予防と健康寿命の延伸
261巻6号(2017);View Description Hide Descriptionがんは加齢とともに罹患・死亡確率が高くなり中高年の最大の死因であるが,超高齢者における死因や要介護の原因としては相対的に寄与が小さくなる.健康寿命延伸の観点からは,がん予防により,がんになる年齢を先送りすることが重要である.①喫煙・受動喫煙,②過剰飲酒,③偏った食習慣(とくに塩蔵食品摂取,野菜・果物不足,熱いままの飲食物摂取),④身体活動量不足,⑤やせ・肥満の5 つの要因はがんのリスクを高めるという日本人のエビデンスが蓄積されている.したがって,その要因を保有する場合には,その改善が推奨され,着実な実践により,がんにかかるリスクが低下することが期待できる.同時に,これらの生活習慣・生活環境は心疾患,肺炎,脳血管疾患などのリスク要因とも共通するために,その着実な実践による健康寿命延伸効果は計り知れないほど大きい.また,日本においては肝炎ウイルスやヘリコバクター・ピロリ菌などの感染に起因するがんの割合が大きく,感染対策もがん予防においては重要である. - 実践と問題点
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カロリー制限
261巻6号(2017);View Description Hide Descriptionカロリー制限(CR;栄養不良を伴わない)は,酵母から霊長類における実験動物までにおいて寿命延長,老化関連疾患(糖尿病を含む代謝異常,心血管疾患,悪性腫瘍,認知症など)の発症抑制,つまり“抗老化効果”を示す.ヒトにおけるCR もまたインスリン抵抗性・高血圧・脂質異常・心臓病・動脈硬化症を含む老化関連疾患の発症を抑制しうることが報告されている.CR の抗老化効果には“栄養応答シグナルの制御”が重要な役割を果たしているが,栄養過剰摂取に伴う栄養応答シグナルの変異(mTORC1 の活性化,SIRT1 およびAMPK の活性低下)のCR による是正が寿命延長,老化関連疾患の発症の抑制に関与している.CR の実践の際,とくに高齢者では低栄養,サルコペニア,フレイルを惹起する可能性もあるため,個々の年齢,栄養状態,体重(肥満)・併存する疾病などを考慮する必要がある.また,主要栄養素の全体的な制限によるCR よりもむしろ,蛋白質の制限が寿命の延長あるいは健康維持には重要であるとの報告もあるため,食事介入と寿命延長効果において栄養素バランスの観点からの検証も必要である. -
抗加齢医学における糖質制限食の位置づけ
261巻6号(2017);View Description Hide Description抗加齢医学は,これまでの基礎研究の結果を実臨床にどのように生かすかの時代になった.イタリアのエリスで2013 年に開催された抗加齢介入法についてのワークショップでは,①フレイル指標,②糖代謝指標,③脂質や血圧の指標,④炎症反応指標,⑤認知機能,⑥リンパ球数,⑦IGF-Ⅰや甲状腺ホルモン(T3),⑧エピゲノム作用,⑨腎濾過能が抗加齢にかかわるバイオマーカーとしてリストアップされた.肥満や糖尿病,脂質代謝に対する糖質制限食の有効性は無作為比較試験(バイアスや交絡因子を除外)のメタ解析(偶然や検出力不足を除外)において確認されており,がんや認知症に対する効果は現在進行中の臨床試験の結果を待たねばならないが,理論的には有効性が期待される.ワークショップ最終日の投票において糖質制限食は採用されなかったが,抗加齢療法としての糖質制限食の可能性は高いものと考えられる.今後の研究の進展が待たれる. -
エイジングと腸内細菌
261巻6号(2017);View Description Hide Description次世代シークエンス技術の革新により腸内細菌叢の研究が飛躍的に進歩した.その結果,多様な疾患において腸内細菌叢の構成の変化や偏り,多様性の低下といったdysbiosis が生じていることが明らかとなった.腸内細菌はその代謝産物や構成の変化,lipopolysaccharide(LPS)などのpathogen associatedmolecular patterns(PAMPs)を介した炎症惹起機構などから慢性炎症を引き起こし,加齢を促進させている.さまざまな加齢性疾患は,腸内細菌のdysbiosis に関連して発症している可能性が示唆されている.腸内細菌をターゲットとした治療法や,疾患の活動性や診断に用いるバイオマーカーとしての研究も進んでおり,今後,腸内細菌のコントロールによってアンチエイジングにつながることが期待される. -
アンチエイジングドック
261巻6号(2017);View Description Hide Description身体はさまざまな組織・臓器・器官より構成される.30 代後半から身体の一部に加齢による病的退行変化が生じ老化の弱点となり,さらに他の健常部に悪影響を及ぼす.全身が均一にバランスよく老化することが健康長寿への王道である.アンチエイジングドック・健診では,老化度を①機能年齢(筋年齢,血管年齢,神経年齢,ホルモン年齢,骨年齢)と,②老化危険因子(免疫ストレス,酸化ストレス,心身ストレス,糖化ストレス,生活習慣)に分けて評価する.個々の評価結果に基づいて治療計画がなされ,食育・知育・体育といった生活習慣の改善を基本とする医療を実践する.機能年齢が老化したもっとも衰えた部位を最重点治療対象として,もっとも大きな危険因子から順に是正することで,全体のバランスをはかる.これにより健康寿命を延伸させ,平均寿命との差を縮小することができる.労働衛生・高齢者医療におけるアンチエイジングドック・健診の導入例・実践例を紹介する. -
一般診療クリニックでのアンチエイジング医療の実践―明日から実践しようアンチエイジング
261巻6号(2017);View Description Hide Description田中消化器科クリニックは静岡市住宅地で開業している保険診療を主体とする消化器科クリニックである.当院では,約10 年前よりアンチエイジング・スタンダードドックを年間30~40 件,個別のオプションドックを同50~100 件実施している.ドックの内容も医学の進歩ともに変化し,最近では先制医療を考慮した項目,軽度認知障害(MCI)検査やμRNA を測定するミルテル検査が加えられている.今後のドックメニューもゲノムを中心とした内容に大きく変遷することが予想される.一方,ドック実施後の生活指導は栄養療法が主体となる.とくに患者の嗜好や生活状態を評価し,本人の生活に寄り添ったきめ細やかな食事指導や生活・運動指導が望まれる.当院でも,試行錯誤を繰り返しながらこのような個別化栄養療法を行っている.
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