医学のあゆみ
Volume 261, Issue 7, 2017
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特集 Critical Care Nephrology―集中治療における腎疾患の重要性
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Critical Care Nephrology とは
261巻7号(2017);View Description Hide DescriptionCritical care nephrology とは,イタリア腎臓内科医Claudio Ronco およびオーストラリア集中治療医Rinaldo Bellomo が提唱した概念であり,腎疾患を合併したICU 症例に対して集学的なアプローチの必要性を強調したものである.おもに急性腎障害(AKI)と急性血液浄化療法を意識したものであるが,心腎連関症候群とも認識される循環器疾患に合併するAKI や末期腎不全症例のICU 全身管理も対象となる.Critical carevnephrology においては,多臓器が障害されているなかでのAKI あるいは腎疾患のマネージメントを行うことが目的であるが,2016 年に発行された5 学会合同(日本腎臓学会,日本集中治療医学会,日本透析医学会,日本急性血液浄化学会,日本小児腎臓病学会「)AK(I 急性腎障害)診療ガイドライン 2016」は,異なる領域をつなぐあらたな共通言語として機能することが期待されている. -
AKIに対するあらたな診断アプローチ:新規AKI 診断バイオマーカー
261巻7号(2017);View Description Hide Description近年,血清クレアチニン(SCr)のわずかな上昇が重大な予後予測因子であることが報告され,急性腎障害(AKI)として疾患概念と診断基準が提唱されている.しかし,これまでSCr 基準によるAKI 診断をしてからの治療介入研究では有意な結果を出せていない.このことはSCr 基準の診断では,すでに治療介入するには診断時期が遅い可能性が推測されてきた.このため,より早期に診断を可能とする精度の高い新規バイオマーカーの開発が精力的に進められ,そのうちNGAL,L-FABP はすでにわが国でも実臨床で利用可能となっている.新規バイオマーカーそれぞれには,生理的な特性や発現時期の特徴があり,それらを理解し有効に活用することで,AKI の早期診断や病態把握の精度の向上が期待される. -
急性腎傷害に対する腎代替療法開始時期に関するあらたな知見と問題点
261巻7号(2017);View Description Hide Description急性腎傷害(AKI)を呈した患者に腎代替療法(RRT)をいつ開始すべきか,という問題に対する答えはいまだでていない.この問題に対して,あらたな2 つのランダム化比較試験(AKIKI trial,ELAIN trial)が,2016 年に報告された.前者はRRT 早期導入の有効性を証明できなかったが,後者ではRRT 早期導入群で転帰良好であった.これら2 つの研究を加えたメタ解析でもRRT 早期導入の有用性は証明されなかったが,“早期”の定義や,RRT のモダリティ,施行方法が研究ごとに異なっており,メタ解析の結果をもって早期導入に意味がないと判断することは時期早尚である.RRT 早期開始に関するさらなる知見の蓄積が求められており,現在,STARRT-AKI trial,IDEAL-ICU trial という2 つのランダム化比較試験が進行中である.しかし,これら2つの研究をみても“早期”の定義は異なっており,この問題を解決するにはかなりの時間を要すると思われる. -
集中治療における血液浄化のあらたな知見―AN69ST,あらたな血液浄化療法戦略
261巻7号(2017);View Description Hide Description敗血症の本態は,サイトカインを含む過剰なメディエータ産生である.過剰にメディエータが産生されると,血管透過性亢進やショックにより腎をはじめとする各臓器が傷害される.SepXiris(R)(以下,AN69ST)は,高いメディエータ吸着特性を有し,重症敗血症および敗血症性ショックに対し保険適応が認められたわが国ではじめてのヘモフィルターである.AN69ST の特徴は,high mobility group box 1(HMGB1)をはじめとするメディエータの高い吸着特性である.その特徴を生かし,AN69ST を組み入れた免疫制御血液浄化システムを著者らは考案し報告している.本稿では,AN69ST の素材,高いメディエータ吸着特性,ならびに臨床使用経験について自験例を交え述べる.さらに著者らが取り組んでいる新しい免疫制御血液浄化システムについても述べる. -
小児の血液浄化療法―現状と今後の方向性
261巻7号(2017);View Description Hide Description小児の急性血液浄化療法の原因疾患は,腎外疾患が多い.わが国での全国調査でも,急性腎障害を適応として急性血液浄化療法を施行した小児患者で,腎疾患は33.6%であった.小児は体格が小さいため,バスキュラーアクセスが困難であること,カテーテルが細いためアクセストラブルが起こりやすいこと,しばしば鎮静のため人工呼吸管理が必要とすること,低体温や開始時低血圧のリスクが高いことなどが問題となるため,それらに対する工夫が必要である.新生児などでは,急性血液浄化療法として腹膜透析を選択することもある.わが国の全国調査では,急性血液浄化療法を施行した小児患者の生存率は54.9%であった.腎原性AKI 患者は,生命予後は良好だが腎予後は不良であり,逆に二次性AKI 患者は,腎予後は良好だが生命予後が不良である.小児の急性血液浄化療法の医療はエビデンスの高い報告がきわめて少なく,今後できるだけ多くのデータや情報を収集する必要がある. -
集中治療における末期腎不全の管理―維持透析患者管理のTips
261巻7号(2017);View Description Hide Description末期腎不全患者が集中治療室に入室した場合,循環動態を維持するためには一定の輸液量が必要になることがあり,また非透析患者と同様に循環作動薬を必要に応じて投与する.バスキュラーアクセスは,内頸静脈または大腿静脈でのカテーテル挿入を提案している.透析に関しては,持続的腎代替療法であれば,1 時間あたりの処理量800~1,200 mL,1 日あたり16~24 L で行うことが多い.また,腎代替療法中は一定量の蛋白が喪失するため,相当量の蛋白質が栄養療法として投与されるべきであり,エネルギー投与量は腎代替療法を必要とする急性腎障害の患者と同様に投与することが考慮される.抗菌薬の投与量は,持続的腎代替療法を施行しているさいには,廃液流量からクリアランスをある程度予想することができる. -
ICU における腎不全合併時の薬物投与戦略
261巻7号(2017);View Description Hide Description集中治療の領域では,投与初期から薬物の血中濃度を適正に維持することが治療の成否にかかわるため,腎機能低下時の薬物動態に基づいた投与設計が重要となる.そのため,患者の腎機能低下の程度を把握するとともに,薬物の体内からの消失における腎臓の寄与率(RR)を評価することで,患者の腎機能に応じた投与量や投与間隔の調整が可能となる.また,急性期病棟で行われる持続的腎代替療法(CRRT)や血液透析(HD)では,薬物の除去を考慮した投与設計が必要となるが,CRRT やHD による薬物クリアランスは,薬物の血漿中蛋白非結合型分率と透析実施条件により予測可能である.また,このほかにも薬剤による腎障害に関しても触れ,臨床上の問題点や対策について解説する. -
AKI における栄養・代謝管理
261巻7号(2017);View Description Hide Description多臓器不全の一症状として発症するAKI では,高血糖と蛋白分解が栄養代謝面の特徴となる.消化管が正常に機能していれば,可能なかぎり経腸栄養を行う.もともと栄養障害がない場合には,初期は腸管機能が保持される程度の投与量(500kcal/day,目標量の1/4)で開始し,最終的には20~30kcal/kg/day を目標とする.蛋白質投与量は,異化状態および透析や持続的腎代替療法(CRRT)の有無で決める.CRRT を行い,かつ異化が亢進している場合は,最大で1.7 g/kg 現体重/day の蛋白質投与を検討する.しかし,ICU 入室48 時間以内に経腸栄養と高カロリー輸液を併用すると,CRRT からの回復が遅れる可能性がある.CRRT 施行中の低リン血症は,AKI の進展,合併症,生命予後に悪影響するため,補正が必要である.連続して180 mg/dL以上の血糖がみられる場合は,血糖値110~180 mg/dL を目標としたインスリン治療を行う. -
循環器疾患のあらたなデバイスと腎不全
261巻7号(2017);View Description Hide Description循環器疾患の領域ではカテーテル治療のデバイスは日進月歩に開発が進んでいる.冠動脈インターベンションでは薬剤溶出性ステントに加え,ステントそのものが生体内分解される薬剤溶出性スキャフォールドが日常臨床で使用できるようになった.また,冠動脈インターベンション以外にstructure heart disease に対するカテーテル的インターベンションも注目を集めている.大動脈弁狭窄症に対する経カテーテル的大動脈弁置換術も日常臨床で施行されるようになった.さらに,僧帽弁閉鎖不全症に対する経カテーテル的僧帽弁形成術や左心耳閉塞デバイスも海外では使用されており日本でも治験が進んでいる.一度は停滞した高血圧に対するrenal denervation のデバイスも再開発され,臨床治験が再度行われている.本稿では,これらの新規デバイスと腎不全についての現状と,今後の期待についてまとめる.
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連載
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- 性差医学・医療の進歩と臨床展開 13
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呼吸器疾患における性差―COPDと肺癌を中心に
261巻7号(2017);View Description Hide Description◎呼吸器疾患は原因も病態も多岐にわたるが,多くの疾患で性差があることが知られている.なかでも肺癌・慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの喫煙関連疾患は,男性の高い喫煙率を背景に男性に多くみられる疾患と従来認識されてきたが,喫煙習慣の変化に伴い女性の有病率が増加しており,その特徴と性差が明らかにされつつある.たとえば,女性のCOPD は男性に比べ少ない喫煙量で発症し,末梢気道病変優位,呼吸機能の経年低下が大きい,息切れが強い,増悪頻度が高いなどの特徴を有する.一方,肺癌においては男性に比べ同じ喫煙量での罹患リスクが高く,非喫煙者でも肺癌リスクが高いという報告と,肺癌発生率に男女差が認められなかったという報告があり,一致した見解が得られていない.しかし,ゲフィチニブなどの分子標的薬のターゲット遺伝子変異は明らかに非喫煙者・腺癌の女性に多いことが知られている.そのほか睡眠時無呼吸症候群(SAS)は男性に多い疾患であるが,閉経とともに増加することが知られており,また肺高血圧症は明らかに女性に多いといった特徴が知られている.なぜ呼吸器疾患にこのような性差があるのかいまだ不明な点も多いが,近年の研究では性に関連した遺伝的素因,性ホルモンの影響など呼吸器疾患発症に関する性差の機序がすこしずつ明らかにされている.
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TOPICS
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- 脳神経外科学
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- 免疫学
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FORUM
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- ゲノム医療時代の遺伝子関連検査の現状と展望 13
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- 研究医育成の現状と課題 3
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- パリから見えるこの世界 56
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