医学のあゆみ
Volume 261, Issue 10, 2017
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【6月第1土曜特集】 統合失調症UPDATE─脳・生活・人生の統合的理解にもとづく“価値医学”の最前線
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- 序論
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統合失調症について一般医・研究医に知ってほしいこと
261巻10号(2017);View Description Hide Description統合失調症の特徴的な症状は,①自分を悪く評価し言動に命令する幻声や,何者かから注目を浴び迫害を受けるという被害妄想(幻覚妄想),②行動や思考における主体感の喪失(自我障害),③それら症状についての自己認識の困難(病識障害),④目標に向け行動や思考を組織する障害(不統合),⑤意欲や自発性の低下,である.これらの症状は対人関係,自我機能,表象機能という,人でとくに発達した脳機能が思春期に障害をきたすことを反映すると想定でき,それに対応する脳構造や脳機能に変化が認められる.陽性症状が強まる急性期を繰り返す慢性の経過をたどり,日常生活や対人関係や職業生活に困難を経験することが多い.回復をはかる基盤として,生活の破綻,症状の意味,人生学を考え,能動的な主体として当事者が中心となることが重要であり,それを専門職との共同創造として進めていくリカバリーがこれからの課題である. -
こころと身体の健康はひとつながり―価値に基づく統合的支援
261巻10号(2017);View Description Hide Description統合失調症をもつ人は,一般人口と比較して15 年~20 年ほど短命であることが報告されており,健康の社会的決定要因を念頭においた包括的な健康格差対策が必要である.健康やヘルスケアをめぐる価値観や死生観は人によってさまざまであり,とくにこころと身体の健康を統合的に考える際には,それぞれのニーズや価値に合わせた患者中心のケア(patient-centered care),価値に基づく診療(value-basedpractice)が求められている.当事者にとっての価値を中心としつつ,公平にヘルスケアを提供するためには,当事者と専門家の共同意思決定(shared decision making)や共同創造(co-production)などの,水平な関係性を基本とした実践へと,精神保健サービスを組織変革していくことが望まれる.本特集の序論として,続くいくつかの重要なテーマの意義にも触れながら,統合失調症をもつ人の心身の統合的支援について概観する. - 価値医学―基本姿勢と行動指針
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支援の原点―家族の視点から,家族として人として
261巻10号(2017);View Description Hide Description人間は周りと関わりながら有形無形の支えを受け成長を重ね,さらに多様な場面で人々とふれあい,信頼関係のもと支援を交換し合いながら人生の旅を続けているのだと思う.そうでなかったら誕生した命が持てる力を発揮し,その人らしく人生を歩んでいくのは不可能ではないだろうか.一方で病は避けられないもの.医療に頼り一日も早い回復を願うのが当然である.しかし統合失調症の若者たちは発症年齢の影響や,この病特有の症状や苦い思い出を伴う入院体験なども相まって不安が強く,人との関わりが苦手で,生きていくうえで困難を抱える.そこで,治療にあたる医療者にも家族や地域支援者にも,一般の病の看護・見守りとは違った角度から支えうる知識や経験が必要とされる.同じく,いやそれ以上に大事なことは,当事者の声をじっくり聴き拾い上げ安心のなかで本人の主体性が動くことを待つ知恵と勇気ある心ではないだろうか.この過程で逆に支える側も同時に貴重なことを学び取っているはずである. -
統合失調症患者における共同意思決定―新しいアプローチとシステム
261巻10号(2017);View Description Hide Description日本の精神科医療においても,エビデンスに基づく治療や患者の価値を中心におく治療,パーソナルリカバリーの概念についての理解が徐々に広まるなかで,統合失調症患者の主体的な人生や生活のゴールを達成するために,患者と医師による治療内容についての共同意思決定(SDM)が関心を高めている.本稿では,精神科におけるSDM の背景や必要な要素,エビデンス,課題を議論し,そのうえで日本における2 つのSDM モデル(①ピアスタッフと協働した包括的なSDM システム,②質問促進パンフレット)を紹介する.統合失調症患者のSDM には,治療情報の共有だけでなく,とくに患者と医師が患者の主体的かつ社会的な治療ゴールを共有することや,診察で相談したいことを明確にする必要がある.他方,精神科のSDM に関するこれまでの研究は,SDM の明らかな効果は示せていない.ここにはSDM の実装やアウトカムの問題があると推測される.日本における2 つのSDM モデルから,効果検証や実現可能性の検討,医療体制の整備などが今後の課題としてあげられた. -
市民・医療従事者のアンチスティグマ
261巻10号(2017);View Description Hide Description統合失調症に対するスティグマをもつ人はいぜんとして多く,患者の多くは日常生活の場面で差別体験を受けた経験をもつ.差別体験を受ける不安から,統合失調症患者が就労や就学,人間関係などを自ら制限することも多い.また,一般市民だけでなく,医療従事者のなかにも統合失調症に対するスティグマをもつ人はおり,健康サービス受療率の低下や平均寿命の短縮など深刻な結果と関係している可能性が指摘されている.統合失調症に対するアンチスティグマをすすめるさいには,パブリックリレーションの視点を持ち,当事者・家族・支援者・医療従事者などが一体となって戦略を練るという共創の視点が必要不可欠である.そのうえで,名称変更,学校精神保健教育などの広く市民に行き渡る手段や,メディア支援や医学教育などの特定の人を対象とした手段を両輪ですすめることが必要である. -
ガイダンス・ガイドライン―診療・支援の基本姿勢をガイダンスから学ぶ
261巻10号(2017);View Description Hide Description精神医療において,社会からの精神医療への信頼や,患者と医療者の信頼関係の形成は,患者の受診行動・治療効果・長期予後に影響することが示されている.とくに思春期に好発する統合失調症では,主観的体験に対する精神科医の基本姿勢こそが,本人の自尊心や他者との信頼関係の形成に影響を及ぼし,治療効果を左右する.EPA ガイダンスでは,精神科医の役割として一般市民への教育・啓発にも尽力すべきであるとし,基本的態度として,患者に共感的にかかわり,生物心理社会モデルに従い全人的にアプローチをしていくべきだとしている.日本でもこれらの基本姿勢について,ガイドラインや評価制度が開発されることなどにより,診療の質の底上げが期待される. -
統合失調症の薬物療法
261巻10号(2017);View Description Hide Description統合失調症薬物治療ガイドライン1)が2015 年に公開された.診療ガイドラインは科学的根拠に基づいて,系統的な手法により作成された推奨を含む文書である.患者と医療者を支援する目的で作成されており,臨床現場における共同意思決定の際に,判断材料のひとつとして利用することができる2).そこでは「何をするか」と同様に「何をしないか」が重要となる.また,診療ガイドラインの精神科医への教育効果を検証する「精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの効果に関する研究(EGUIDE プロジェクト)」が2016 年より開始され,全国への普及活動が活発化している.本稿ではこのガイドラインの概要について紹介する. - 脳―研究最前線
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生前登録システムに基づく精神疾患ブレインバンクの取組み
261巻10号(2017);View Description Hide Description精神疾患の病態解明のためには死後脳研究が不可欠であり,それには質の高いリソースを提供できるブレインバンクの存在が欠かせない.しかし日本においてはさまざまな困難のため,精神疾患ブレインバンクは未整備な状態が続いている.著者らは全国に先がけ精神疾患ブレインバンクを構築し,20 年にわたって活動してきた.当バンクは,①当事者・家族の積極的参加による運営,②任意団体(つばめ会)による支援,③インフォームドコンセントによる当事者・健常人の生前登録,④開かれた研究活動,を基本理念としている.本稿では世界と日本のブレインバンクの現状について概括したうえで,福島精神疾患ブレインバンクの概要について紹介する.また,生前登録をされた当事者の声を交えながら,当事者と研究者がつくる双方向性の精神疾患研究体制のあり方について報告するとともに,ブレインバンクの全国ネットワーク化の動きを中心に今後の展望を述べる. -
価値の神経回路・シナプスからみた統合失調症
261巻10号(2017);View Description Hide Description精神疾患の背景には脳と社会の複雑な相互作用がある.このため“主体価値”仮説のようなあらたな視点が精神疾患の脳神経基盤を理解するためにも有用であろう.そこで本稿では,環境からの感覚入力に対して,注意,価値づけ,意欲や行動選択を行う神経基盤をシナプスとモノアミンの相互作用として理解するモデルについて検討する.新皮質シナプス回路にはサリエンシー検出機構が存在し,環境からの感覚入力の特徴を常時検出している.情動価に関する信号はモノアミンによりコードされ,感覚入力とモノアミン信号が連合するとあらたに脳内で価値が割り当てられるものと考えられる.このような価値経験の記憶は前頭葉や辺縁系に貯蔵され,その後,協調したり,拮抗したりしながら意欲行動の制御をしていると考えられる.このような価値シナプス神経回路は,統合失調症などの精神疾患の神経基盤候補と符号する.遺伝子操作,シナプスの形態観察,細胞内シグナル観察,神経活動操作などさまざまな実験技術が進歩しているので,価値シナプス神経回路に基いて病態モデルの解析が進むと期待される. -
22q11.2 欠失症候群―精神・身体・知的の3 障害の統合的支援
261巻10号(2017);View Description Hide Description周産期・小児期医療の発展による生命予後の改善により,CSHCN,すなわち慢性疾患により医療サービスをより多く必要とする小児が,思春期・成人期を迎えることが可能になった.22q11.2 欠失症候群(国の指定難病203)はDiGeorge 症候群(DGS),口蓋心臓顔面症候群(VCFS),円錐動脈幹異常顔貌(CTAF)症候群を含み,心奇形,顔面異常,胸腺低形成,口蓋裂,低カルシウム(Ca)血症などを併存する遺伝的症候群である.先天性の身体障害・知的障害の併存に加え,思春期以降に高率に統合失調様症状を体験する.精神・身体・知的の3 障害が,それぞれ軽重の個人差を持って重複することから,当事者や家族が抱える生活上の困難は多様で変化に富む.複合的な困難に対して,個別の障害を念頭においた既存の定型的な支援はしばしば不十分である.CSHCN のトランジションをめぐる課題や,重複障害を抱える人に必要な生活や人生の包括的な支援体制についての課題を整理し,研究や実践の向かうべき方向性を構想するうえで,22q11.2 欠失症候群はひとつのモデルと位置づけることができる. -
生活をめざす脳・行動計測
261巻10号(2017);View Description Hide Description近年,統合失調症をもつ人があたり前に地域で暮らすことが治療目標となっており,社会生活機能の評価および改善は重要な項目である.社会生活機能は認知機能障害に強く影響を受けることが知られており,検査バッテリーの開発や背景の脳機能に関する脳画像研究が行われてきた.しかし,従来の研究では因子の統制のために,現実の生活場面とはかけ離れた実験室的な環境で計測が行われてきた.これにより多くの知見が得られたが,統合失調症の当事者が実生活で抱えている困難を十分適切にとらえてきたとはいいがたい.そのギャップを埋めるひとつの戦略として,実際の生活(リアルワールド)に近い環境や対人関係のなかでの精神機能・脳機能の評価を行い,“現場”で生じている問題を“現場”から迫っていくというものがある.本稿では,臺式簡易客観的精神指標(UBOM-4)と近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)の応用により,リアルワールドにおいて経験する困難や,困難から回復する道筋に迫ることができる可能性について述べる. -
協同創造(co-production)としての当事者研究の可能性
261巻10号(2017);View Description Hide Description当事者研究は,統合失調症などをもつ人たちが自分の“研究者・援助者・仲間になる”ことを重視し,生活に根ざした研究テーマを掲げながらすすめる,仲間や関係者との協同による自助の研究実践である.特徴は,それまでの治療や援助の対象者であった立場から,“自分を助ける主体”として病気や障害の体験も含めて研究的に対話を重ね,結果を仲間や関係者と共有し,さらに意義ある成果は“臨床知”(当事者研究から生まれた自助のアイデア)として社会に発信する広がりにあり,“陽性症状の認知行動療法”として治療的な可能性も期待されている.このような特徴をもつ当事者研究は,精神障害リハビリテーションの共通概念ともなっているリカバリーとも思想的な類似性がある.さらにあらたな試みとして,当事者研究から生まれた“臨床知”を,精神科治療の現場に活用する試みをしているが,前向きな手ごたえを感じている. - 生活―保健・医療・福祉・教育の統合
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学校精神保健・予防
261巻10号(2017);View Description Hide Description学校精神保健は,就学後期に好発期を迎える統合失調症,ひいては精神疾患一般の早期発見,早期支援,回復(復学・進学など)の促進のために重要な意味を持つ.しかし,生徒の抱える問題を発見し解決するという実践において,学校現場には課題が山積している.①生徒やそのまわりがメンタルヘルスの問題に気づく能力を高め,②生徒が精神的な問題を学校現場で相談しやすい環境を整え,③相談を受けた側が適切なアドバイスや支援が行えることが必要となる.そして,学校内での解決だけではなく,学校外とも適切に連携し,生徒の精神保健に取り組める体制が求められている.今後,学校精神保健実践を標準化するための,包括的なガイドラインの策定が望まれる. -
早期支援:精神病における早期発見と早期介入
261巻10号(2017);View Description Hide Description統合失調症の臨床において,早期から支援を行うことは,予防と予後の観点からきわめて重要な意味をもつ.そのため,精神病状態の発症が切迫した臨床的ハイリスク(CHR)群を早期発見し,早期介入することによって精神病移行を予防・遅延するための研究が多く行われてきた.近年,海外ではこのようなエビデンスを集約したガイドラインの整備が行われてきた.このなかではとくに,心理療法や本人のニーズに即した介入が第一に推奨されていた.一方で,薬物療法は状態に応じて選択される付加的な位置づけであった.日本では,まだCHR の概念や薬物療法以外の介入が十分に普及しているとはいい難い.今後,まずは教育やスティグマに対する介入から提供し,日本でもニーズに即した介入が少しずつ提供可能になることが期待される. -
リカバリー―変革と実践のために
261巻10号(2017);View Description Hide Descriptionリカバリーは,疾患や症状がなくなることや機能が戻ることだけではなく,本人の暮らしの回復,本人の主体性の回復が含まれ,元の地点に戻るというよりは,自分の送りたい人生やありたい姿へと近づくことをさす.リカバリーへ進むために医療ができることに,①疾患の影響の最小化,②環境や生活構築の支援,があり,これらは,③医療提供側の当事者主体の考え方への意識変革,が行われてはじめてリカバリー促進実践となりうるものである.医療提供側の意識変革のために組織が取り組めることとして,利用者・患者とのCo-production(共同創造)がある.ピアサポート職員を雇用することも組織の意識変革に有用である.リカバリー促進実践のひとつに,リカバリーカレッジがある.リカバリーカレッジの特徴は,①治療的アプローチではなく,教育学的アプローチで主体的に学ぶ場であること,②精神健康の困難を生きてきた経験を有する者と専門職としての経験を有する者が,それぞれの経験を専門性として共同創造を行っていること,である. -
これからの生活臨床
261巻10号(2017);View Description Hide Description生活臨床とは,精神障害者の地域生活を支えるために構築されてきた支援技法であり,その人の生活上のイベントに着目し,当人がどう生きていきたいかを目標にして,目の前の課題にどう向き合うかを支援者とともに考えていく.これは,近年注目されているリカバリーと重なる部分も多い.生活臨床では自分の特徴を,生活特徴および生活類型として把握することができる.東大病院では若者へのリカバリー支援(就労・就学支援)を行ううえで,生活臨床を基礎に他の技法と組み合わせた複合的な支援を実践している.この実践を通して,生活臨床のなかに判断における価値基準(社会の受け止め方)の概念が導入され,より支援効果を促進できている.現在,これらをまとめることで,あらたに基底生活態度としての理論化をめざしている.理論化により,統合失調症の当事者のみならず,思春期課題を抱える健常人にも共通する普遍的な生活・人生に対する指向性として捉え直せると考えられる. -
コミュニティ支援のフロンティア
261巻10号(2017);View Description Hide Description統合失調症は,疾病と障害が共存して生活のしづらさに結びつくため,医療と福祉の統合的な支援が必要となる.支援開始の遅れや中断からの救急事例化や地域生活の断絶を防ぐため,普段から利用しやすい幅広い精神保健サービスの存在と,訪問対応(アウトリーチ)を含む24 時間体制の危機介入機能が地域に存在する必要がある.わが国でも多職種の支援チームが患者の生活する場に出向き,必要とされるサービスを包括的に提供する精神科アウトリーチの実践が各地で行われるようになってきている.さらに当事者の社会参加や地域住民が精神疾患への理解を深めることが重要であり,スポーツなどの地域のさまざまなコミュニティが当事者のリカバリーを促進する場となっている.ストレングスモデルや生活臨床を基盤とした適切な医療・福祉の包括的支援と,リカバリーを促進する地域住民を巻き込んだコミュニティづくりが,これからの精神科医療が取り組むべき課題である. - 人生―ライフステージに沿った支援
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女性当事者の人生―恋愛・結婚・子育てを中心に
261巻10号(2017);View Description Hide Description統合失調症当事者の恋愛・結婚・子育てについて,精神科医は再発のリスクや薬の調節を考え“慎重”という立場が多く,積極的に支援する医師はまだ少ない.一般医では症状の理解が困難なため,さらに抵抗感やとまどいが強いのではないであろうか.著者は,統合失調症の母親の元で生育した精神科医である.母親を,私の子育ても含めて受け入れ尊敬できるようになったのは私が50 歳を過ぎてからであった.私は当事者が恋愛や結婚・子育てをすることに反対ではない.長い時間と葛藤を経たが,症状を持ちながらも私を世に送り出してくれた母に今は感謝している.結婚や出産を考えている女性当事者が,病気ゆえに夢をあきらめなくてすむようになるには,パートナーや配偶者への説明,服薬調整・家事援助などの生活支援,遺伝カウンセリング,子育て相談など,精神科領域を越えた多方面にわたる支えが必要である.しかし,多くのエネルギーを投じるだけの価値があると考える.それだけのものを,私は母からもらったと思っているからだ.当事者に育てられた子の思いを伝えることで,支援者のためらいや不安が軽減し支援の意義を認識されることを願う.当事者は“再発しないために生きる”のではなく,“病気も含めてその人の人生を生きる”ことを希望している.専門家こそが理解すべきであり,専門家の姿勢が社会の認識も変えていく. -
統合失調症を持つ当事者への就労支援
261巻10号(2017);View Description Hide Description10代20代の若年期に発症する統合失調症当事者が自らのリカバリーを描くとき,単に症状や病気のコントロールだけでなく社会参加も大きな要因となる.自立した社会参加を成し遂げるために,就労の手段を選ぶ当事者が多い.2014 年の障害者権利条約批准に前後し,障害者総合支援法の施行,障害者雇用促進法の改正,障害者差別解消法の施行などさまざまな国内法が整備されてきた.結果として精神障害当事者の就労が急激に増加しており,あわせて当事者の就労を支援する体制を組む際に利用可能な社会資源についても拡充がはかられている.本稿では,とくに若年統合失調症当事者が就労する場合に活用できる社会資源を概説し,一般的な就労支援の流れを説明する.さらに東京大学医学部附属病院精神科デイホスピタルで行っている就労支援の実際を事例を交えて説明する. -
高齢者のサイコーシス症候群
261巻10号(2017);View Description Hide DescriptionDSM-5 における精神病性障害の重要な特徴,妄想,幻覚,解体した思考(言語),ひどく解体したあるいは異常な運動行動(緊張病を含む),陰性症状(感情表出減退,無為,発話減退,アンヘドニア,社会に対する関心の喪失)が横断面の病像に観察されるものを,サイコーシス症候群(psychosis syndrome)とよぶ.高齢者のサイコーシス症候群については,精神病理学的視点から定義された“老年期非器質性幻覚妄想状態”がここに含まれる.遅発パラフレニー,遅発性統合失調症,接触欠損パラノイド,遅発緊張病,退行期メランコリーを紹介する.これらは今日でも,患者の状態を説明し情報共有するのに役に立つ概念である.最先端の生物学的・精神医学的知見からは,前頭側頭型認知症(FTD)とサイコーシス症候群との関連が注目されている.異常蛋白や遺伝子異常が見つかってきているが,これらとサイコーシス症候群との関連にはまだ確実なエビデンスがないのが現状である.
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