医学のあゆみ
Volume 261, Issue 12, 2017
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特集 免疫チェックポイント阻害療法の副作用と対策マネジメント
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- 【まれであるが,非常に注意をすべき重篤な副作用】
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1 型糖尿病(劇症1 型糖尿病を含む)
261巻12号(2017);View Description Hide Description免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1 抗体)による免疫関連副作用として,まれではあるが1 型糖尿病がある.劇症1 型糖尿病および急性発症1 型糖尿病の両者が報告されているが,どちらも膵島β細胞の破壊によるインスリン分泌の低下が関与している.劇症1 型糖尿病は治療の遅れにより致死的な転帰をたどる恐れがある.著明な高血糖やケトアシドーシスを認める場合はもちろん,自覚症状がなく,空腹時や随時血糖の軽微な異常だけであっても,劇症1 型糖尿病の発症経過をみている可能性があるため,見逃さずに適切な対処が必要である.診断を疑った時点で,速やかに糖尿病専門医・内分泌代謝科専門医にコンサルトし,インスリン治療を考慮する.早期発見には,ルーチンに血糖測定と尿一般検査を行うとともに,患者には劇症1 型糖尿病を含む1 型糖尿病の可能性や症状についてあらかじめ十分に説明し,普段と違う症状を自覚したら受診またはただちに連絡するよう指導することが重要である. -
抗CTLA-4 抗体療法による下垂体障害
261巻12号(2017);View Description Hide Description免疫チェックポイント阻害薬を用いたがん免疫療法は,種々の進行・再発悪性腫瘍で有効性が示されてきた.一方,本薬剤では,免疫機序を介すると考えられる免疫関連有害事象(irAEs)の発生が問題となっている.内分泌障害は比較的頻度が高く,細胞傷害性T 細胞抗原(CTLA)-4 に対するモノクローナル抗体であるイピリムマブによる治療を受けている患者の5~10%程度で下垂体障害が発生することが報告されている.これらの症例は下垂体前葉機能障害および下垂体腫大を呈することから,臨床的には下垂体炎と考えられる.抗CTLA-4 抗体による下垂体炎は,副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌障害が多く認められるため,診断が遅れると副腎クリーゼとなりうる重篤な副作用である.本稿では,抗CTLA-4 抗体による重篤な副作用で,比較的頻度が高い下垂体炎について臨床的特徴および対処法を解説し,その病態について考察する. -
どのように“irAE”重症筋無力症を管理するか?
261巻12号(2017);View Description Hide Description免疫チェックポイント阻害薬(ICIs)に関連した自己免疫有害事象(irAE)として重症筋無力症(MG)がある.わが国の市販後調査によると,ニボルマブ単独投与後に発症する頻度は0.12%である.発症時期についてはICIs 導入早期,多くが2 回目の投与後までに発症する.臨床像については,一般的なMG と比べ,症状は急速に進行し球症状やクリーゼを伴う重症例が多い.また血清クレアチニンキナーゼが高値であり,筋炎・心筋炎を合併する場合がある.原因となる薬剤の中止とともにステロイドなど免疫治療が必要となる.一般的に免疫療法が有効であり,ICIs の再開が可能となった症例もある.一方,死亡例も報告されており,癌専門医とコンサルテーションを受ける神経内科医にとってつねに注意が必要なirAE である. -
免疫チェックポイント阻害薬による肺臓炎/間質性肺炎―新しいタイプの肺臓炎
261巻12号(2017);View Description Hide Description免疫チェックポイント阻害薬であるPD-L1 抗体による重篤な免疫関連有害事象のうち,もっとも多いものが肺臓炎(間質性肺炎)である.発現割合は約5%,死亡リスクは約0.5%と推定される.組織学的にはリンパ球の浸潤がみられる器質化肺炎(OP)を呈するものがもっとも多い.副腎皮質ホルモン(ステロイド)治療への反応性は良好であるが,ステロイド剤の減量に伴い再燃を繰り返すことがあり,減量には注意が必要である.急性間質性肺炎(acute interstitial pneumonia)類似の病態を呈した場合はステロイド治療によっても回復が難しく,インフリキシマブなどの免疫抑制剤でも寛解が難しいケースが報告されている.また,従来の薬剤による肺臓炎ではみられなかった特徴として,原発・肺転移病巣の周囲や放射線照射領域の近傍にすりガラス影や浸潤影,あるいは胸水貯留を呈する一群があり.免疫チェックポイント阻害薬により再活性化されたリンパ球の集簇を画像的にとらえている可能性がある.免疫チェックポイント阻害薬治療中に咳や息切れ症状の出現,悪化があればすぐに胸部画像検査ならびに血液検査を行い,経過やCT 画像で本事象の特徴を有していれば,他の検体採取をしたうえで速やかにステロイド投与を開始することが望ましい.ステロイドにより陰影が寛解した後に免疫チェックポイント阻害薬を再投与することが可能かどうかについては現在もまだ明確な指針がなく,再投与後に再燃し重篤な転帰となった報告もあることから,慎重な対応が必要と考える.肺という臓器でみられる新しいタイプの免疫チェックポイント阻害薬の反応と考えられ,薬物そのものによる組織障害ではなく,自己免疫ネットワークを介した事象である可能性が高い.抗腫瘍効果との関連を指摘する報告もある.今後,症例報告や発症や重篤化の予測因子に関するデータの集積により,より適正な薬剤の使用方法などが確立されることが望まれる. -
大腸炎
261巻12号(2017);View Description Hide Description免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象(irAE)にはさまざまなものがあり,疾患ならびに薬剤(ニボルマブ,ペンブロリズマブ,イピリムマブ)により出現する副作用・時期が異なる傾向にある.また投与量による発現頻度にも差が生じている.これらの薬剤を使用する際には,副作用をいかに早期に発見し,マネジメントを行うかが抗腫瘍効果へ影響を及ぼす可能性がある.今回,大腸炎について,その症状,診断法およびマネジメントを検討したが,早期発見については患者教育が必要であると思われる. -
血球減少―血小板減少性紫斑病の症例提示
261巻12号(2017);View Description Hide Description免疫チェックポイント阻害薬は,従来の化学療法と比較し副作用が少なく,とりわけ血液関連の有害事象は,細胞傷害性の抗癌剤と比較すると圧倒的に少ない.しかし,免疫関連有害事象(irAE)としての血球減少が報告され,適応拡大による使用経験の増加に伴い,重篤な血球減少をきたす症例が増加している.著者らは,悪性黒色腫に対してニボルマブを投与中の患者に生じた血小板減少性紫斑病を経験した.連日の血小板輸血を要したが,既知の特発性血小板減少性紫斑病に準じて治療を行い,状態の改善を得た.本症例も含め,irAEとして起こる重篤な血球減少をきたした症例では,2 回目の投与以降に出現していること,また,ステロイドの全身投与への反応は比較的良好であることが特徴である.予期せぬ重篤なirAE が生じた場合は,ほかのirAE と同様にステロイドの全身投与を軸とし,その疾患の基本治療指針に準ずるのが得策と考える. - 【頻度の高い副作用】
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外来治療におけるinfusion reaction の管理とマニュアルの活用
261巻12号(2017);View Description Hide Description近年多くの化学療法が外来で実施されており,導入時からの外来での施行が増加してきた.外来で安全に化学療法を実施するためには,投与管理を担う看護師の知識や実践力の向上が不可欠となる.Infusion reactionは,重篤化で生命に直接影響を及ぼす有害反応であり,看護師による観察と早期の適切な対処が求められる.また,患者に対するセルフケア支援も重要であり,そのためには,看護師がinfusion reaction に関する十分な知識と技術を備えていなければならない.本稿では,外来化学療法における安全管理体制とinfusionreaction に対するマニュアルの準備,看護師教育体制について,当院の実際を踏まえて解説する. -
免疫チェックポイント阻害薬と甲状腺機能障害
261巻12号(2017);View Description Hide Description免疫チェックポイント分子として代表的なものにCTLA-4,PD-1,PD-L1 などがあり,これらに対するモノクローナル抗体は免疫チェックポイント阻害薬とよばれる.免疫チェックポイント阻害薬は悪性腫瘍に対する画期的な治療薬であり,その使用頻度は劇的に増加している.一方で,同薬剤は従来の抗癌剤と比較して特徴的な副作用(irAEs)を生じる.IrAEs は,高頻度に内分泌障害(甲状腺機能障害,下垂体機能障害,副腎不全,1 型糖尿病)を認めることが明らかとなっている.本稿においては,免疫チェックポイント阻害薬による甲状腺機能障害の成因について考察を行い,診断および治療指針を概説するとともに,今後の課題について述べる. -
免疫チェックポイント阻害薬による肝障害マネジメント
261巻12号(2017);View Description Hide Description免疫チェックポイント阻害薬の免疫関連有害事象(irAEs)として起こりうる肝障害の頻度はニボルマブ,イピリムマブともに約5%と報告されており,比較的頻度の高い副作用として考える必要がある.本稿では,irAE としての肝障害出現時に注意すべきこと,治療におけるポイントについて,症例の報告を交えて検討する.今後,複合がん免疫療法の時代が到来し,免疫チェックポイント阻害薬と多様な薬剤との併用が行われると予見される.免疫チェックポイント阻害薬と抗がん剤や分子標的薬の併用,免疫チェックポイント阻害薬2剤の併用および順次投与のリスクについても加えて考察する.
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連載
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- 性差医学・医療の進歩と臨床展開 17
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自然災害による健康被害における性差―東日本大震災の検証から
261巻12号(2017);View Description Hide Description◎震災と関連した心血管病については肺塞栓やたこつぼ型心筋症が有名であるが,自然災害と種々の心血管疾患の関連性について網羅的に調査した研究はこれまでほとんどなかった.2011 年3 月11 日に発生した東日本大震災の後,急性期から慢性期にかけて震災が心血管疾患に与えた影響についてさまざまな報告がなされている.救急車の出動記録をもとにした調査では,震災直後から心不全,急性冠症候群,脳卒中,院外心停止などが増加したことが明らかとなった.一方で,Miyagai AMI registry study のデータからは,震災直後も救急医療体制が維持され,急性心筋梗塞の院内死亡率は前年よりもむしろ低下していたことが示された.震災の慢性期に目を向けると,post-traumatic stress disorde(r PTSD)がとくに女性で増加し,結果として心不全患者の予後に悪影響を及ぼしていることが判明し,メンタルケアの重要性が示唆される結果となった.さらに,生活習慣病の悪化も報告されており,とくに男性で顕著であることがわかった. - 臓器移植の現状と課題 2
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臓器移植における免疫抑制薬と免疫抑制法
261巻12号(2017);View Description Hide Description◎臓器移植には,免疫抑制薬による免疫抑制が必須である.近年の移植成績はいずれの臓器においても向上している.これは強力な免疫抑制薬が上市され,多剤併用による免疫抑制法が発展してきたことによる.免疫抑制薬と免疫抑制法はT 細胞を抑制することが主目的であった.しかし近年,ドナーHLA に対する抗HLA抗体,ドナー特異抗体(DSA)による抗体関連型拒絶が注目されている.これは,DSA 検出法が発達し,従来の検査法では検出できなかった抗体が,高感度に検出されるようになったことによる.移植前に存在する既存DSA の検出は,移植の可否,ドナーの選択,移植前脱感作療法の施行など,現在の移植医療では不可欠な検査となっている.これに伴い,免疫抑制法も進歩発展している.
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TOPICS
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- 消化器内科学
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- 生化学・分子生物学
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- 免疫学
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FORUM
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- 研究医育成の現状と課題 6
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